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田原摩耶
田原摩耶

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二日酔いも悪くない。【↑100/4,300文字/井上×原田寄り原田総受け/わちゃ】

「フハハ、原田!朝から辛気臭い面だな!梅雨時期だからといって貴様までそんな顔をしてるとせっかくの除湿機も無意味だ!少しは笑ってみせろ、原田!接客の基本中の基本だぞ!」 「店長……声でかい……うぐ」 「なんだ?まさかまた二日酔いか?……どうせ昨夜紀平たちとまたハメを外したのだろう」 「……な、なんで知って……」 「今朝紀平から二日酔いで休むという連絡が来たからな」  き、紀平さん……。  確かに昨日早い段階からやばそうだった紀平さんのことを思い出す。くそ、俺も素直に休むべきだったか。 「全く……いい加減俺のように二日酔いを予防する術を身に着けろ。その調子じゃ今日は仕事にならんだろ。悪いことは言わん、大人しく家で休むことだな」 「店長……」  普段はああのくせに、今はその気遣いが二日酔いアルコール漬けの体にはよく染みた。 「どうした?まさか一人では歩けないなどと抜かすわけではあるまいな。仕方ない、ほら、この俺が直々に肩を貸してやろうではないか」 「ま、待っ……ぅぷ」 「……待て、おい原田少し待て。……わかった、すぐに袋持ってくるから耐えろよ!いいな!」  そう光の速さでその場を離れる店長は、すぐにミネラルウォーターとビニール袋を手に戻ってくる。  そして、目の前に広げられる袋の中へと頭を突っ込んだ俺はそのままエチケットタイムへと突入した。 「その調子では家に帰るまで保たんだろ。落ち着くまで休憩室で休んでいろ」 「す……すびばぜん」  休憩室。  ソファーの上に寝かされた俺に、店長はタオルケットを被せてくれる。  わざわざ用意してくれたのか。『たつお』と書かれていたのは見なかったことにする。  そんな中、休憩室の扉が開き笹山が入ってきた。  そして、寝かされている俺を見て心配そうな顔をする。 「どうしたんですか?原田さん。……顔色が優れないようですが」 「しゃしゃやま……」 「二日酔いだと。……本人は働くつもりで来たようだがこの調子でな。体調が落ち着くまでここで休ませる」 「大丈夫なんですか?」  こくこくと頷けば、その動きのせいで頭の奥が掻き混ぜられ吐き気が込み上げてくる。  うぷ、となる俺を見て店長はビニール袋を構えた。そんな俺達を見て大体は察したようだ。 「大丈夫、じゃなさそうですね」 「ああ、暫くここに寝かせておく。笹山、お前もここにいる間気にかけておいてくれ。俺は少し店内の様子を見てくる」 「はい」と出ていく店長を見送る笹山。  結局店長にまともにお礼言えなかった……。  これ以上店の中をゲロで汚すわけにもいかない。言われた通りに大人しくしてると、頭をそっと撫でられる。 「何か食べられそうでしたら言ってくださいね。……二日酔いに効きそうなご飯、用意しますので」 「しゃしゃやま……」 「それまでゆっくり寝てて大丈夫ですよ。俺も、これから休憩なので暫くいますし」  う、うう……なんでこんなに優しいんだ。  お腹減ってはいるがまだ胃が気持ち悪い現状、俺はぐっと涙を飲んで笹山に見守られながら眠りにつくことにした。 「原田さん、寝てるの……?」 「あ、駄目ですよ時川さん。原田さん体調崩されてるので休んでるんですから」 「……なんで?」 「なんでも、二日酔いだとか……」 「二日酔い……俺も一緒に飲みたかった」 「……確かに、時川さんがいたらブレーキになってたかもしれませんね」  夢うつつ、遠くから聞こえてくる笹山と司の声。その足音を聞きながらも夢の中を漂っていると次第に何かが焼けるような音といい匂いがしてきた。  笹山が何かを作ってるようだ。  腹減ったな……と思ってると、連動するかのように腹がきゅるると鳴った。 「う……んん……」  二度寝しようとしても眠りにつけず、起きようとしたときすぐ側で人の顔を覗き込んでいた司とばちりと目が合った。 「っ、うお!」 「あ、起きた。……大丈夫?二日酔いは」 「つ、司……ああ、まあ……」 「笹山。原田さんが起きた」 「原田さん……もう起きて大丈夫なんですか?」  簡易キッチンの方から声を掛けてくる笹山に、俺はまだドキドキしてる心臓を抑えながらも体を起こした。  倦怠感は抜けないが、先程よりも吐き気や頭痛は落ち着いている。 「ん、まあ……さっきよりはだいぶ楽だ」 「原田さん、紀平さんと飲んだって?……あの人飲ませたがりだから二人で飲むのは駄目だからな、今度は俺も連れてってよ」 「ご、ごめんなさい……」  ってなんで俺が司に謝ってるのだ。  しかも紀平さんのこともバレてるし。 「まあまあ。……原田さん、喉乾いていないですか?冷たい水でも大丈夫ですか?」 「悪い、助かる……」 「笹山手が塞がってるだろ。……俺が用意しとく」 「ああ、すみません時川さん」  至れり尽くせりというやつだ。  まさかここまで世話を焼かれるとなんだか幼い頃風邪を引いたときのことを思い出す。  兄や周りの大人たちが構ってくれるのが嬉しくて、本当は治ってたのに少しだけ体調悪いふりをしたものだ。 「原田さん、飲める?……口移しの方がいい?」 「の、飲めるからそのまま渡してくれ……」 「……強がらなくてもいいのに」  強がりとかではないが、司にいちいち突っ込んでいたらキリがない。  俺は受け取ったミネラルウォーターのボトルで喉を湿らせた。……ようやく生き返ったようだった。  そんなとき扉が開く。  店長だ。 「なんだ、原田もう起きて大丈夫なのか?」 「て、店長……。あの、さっきはすみませんでした……その」 「ん?なんのことだ?……まあいい、もう動いて大丈夫そうなのか?」 「はい、大分楽に……」  と言い掛けて、歩み寄ってきた店長の手のひらが首筋に触れる。冷たい指の感触に驚いてボトルごと落としそうになれば、それを店長は受け止めた。 「ふむ……まだ微熱はあるみたいだがさっきよりかは顔色もましになってるな」 「て、店長……」 「動いて大丈夫そうだったら言え。俺が家まで送ってやる」 「え」 「何をそんなに驚くことがある。可愛いスタッフが体調崩したとなれば送り届けるのが俺の役目だ」 「……とか言って、この前酔い潰れた紀平さんを交番の前で落として帰ったのは誰ですか?」 「アイツは可愛くないだろ」  確かに、と納得しかける。  相手はあのあくどいがめつい大人げない店長だが、正直弱りきっていた俺にとって店長の優しさはただありがたい。  何を企んでいるのか、下心なんじゃないかとも疑わないわけではないが……。 「なんだ、俺がタクシーでは不服か?」 「違います、けど……なんか店長が優しいのって……」 「何かあくどいこと企んでそう」 「時川貴様前々から思っていたがことあるごとに人の好感度を下げようとするのやめろ?」 「でも確かにこういうときの優しい店長って珍しいですからね。……いつもはあんなですけど、店長は意外と優しいですしね」 「笹山……俺のことを褒めようとしてくれているのは分かるのだがちょいちょいdisが織り交ぜられてるのはなんなのだ?わざとか?日頃の恨みなのか?」  二人に詰られてるときはいつもの店長だ。  けど……やっぱりいつもよりも頼り甲斐を感じるのは俺が弱ってるからなのかもしれない。 「じゃあ、……甘えてもいいですか」  そう、恐る恐る口を開けば店長はこちらを見た。そして「ああ、勿論だ」と俺の手を取るのだ。 「責任取ってこの俺が送り届けてやる」 「原田さん、俺も……」 「時川、お前がいなくなったら誰が休憩後のカウンターに残るんだ?」 「むう……」 「それじゃあ店長、原田さんのことよろしくお願いします」 「ああ、無論だ」 「立てるか?」と覗き込まれ、俺は頷いた。  それから俺は笹山と司と別れ、駐車場にある店長の車に乗せてもらうことになった。  車の外ではしとしとと雨が降っている。  当たり前だが、車内は店長の匂いでいっぱいだった。甘くて、優しい匂いだ。いつもはいけ好かない女受け良さそうな匂いだと思っていたが、今はなんとなく安心するのだ。  ウトウトしてしまい、慌てて起きようとすれば隣で店長が笑う。 「寝ててもいいぞ。お前の家に着いたら起こしてやろう」 「う……だ、大丈夫です、起きてます」 「無理しなくてもいい。俺は寝込みを襲うような卑怯な真似はしない主義だ」  俺が何を考えているのかもバレてるし。  というか、初対面の相手にセクハラしたくせによく言うものだ。  ……けど、恐らく本当にそうなのだろうなと思ってしまうのは店長の普段からの馬鹿正直なところを知ってるからだろう。 「じゃあ……少しだけ」 「ああ、子守唄が必要ならば言え。俺の美声をバイノーラルで囁いてやる」 「いらないです」 「即答か……」  寝返りを打ち、眠る。 「おやすみ、佳那汰」と溶ける意識の中、店長の心地よい声が頭の中に響いた。  そして次に目を覚ませば自室のベッドの上だった。  どうやら結局店長には直接翔太に引き渡されたようだ。看病してくれていたらしい翔太には起き抜けしこたま怒られ禁酒する誓約書を書かされることにはなってしまったが夜には二日酔いは抜けすっかり元気になっていた。  翔太がいない間に体調復活祝に酒を一本空けようとしたところをたまたま帰ってきた翔太に見られ、またしこたま怒られたのはまた別の話だ。  おしまい 「……それで?店長は俺が二日酔いのときは送り届けるどころかその辺のごみ捨て場や交番、ゲイバーの前で放置するくせにかなたんが二日酔いのときは車で送り届けてあげるんだ〜〜ふーーん?」 「当たり前だ、というかよく覚えているな貴様……」 「本当かなたんにはゲロ甘ですよね、店長って。あーあ、社内恋愛禁止って言い出したのは誰でしたっけね?」 「あーあー煩い煩い黙れ黙れ!昨日休んだ分まで貴様には働いてもらわなければならないからな、ほら、さっさとしろ」 「はーい。……あ、かなたんだ」 「なに?」 「噓でーす」 「………………」 「あっ!ちょっと店長!透に作ってもらった特製俺用カフェラテ勝手に飲まないでくださいよ……!」 「なんだこの一発で糖尿病になりそうな液体は……貴様こんなものを飲みながらよく仕事できるな……」 「人のもん勝手に飲んで文句言わないでくださいよ。……もー、また透に作ってもらわなきゃ」 「……フン」

二日酔いも悪くない。【↑100/4,300文字/井上×原田寄り原田総受け/わちゃ】

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