天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第十三話
Added 2020-05-31 14:13:21 +0000 UTC芳川会長のカマ掛けによって灘が吊られてしまった現状。 その直前、阿佐美に対して掛けた揺さぶりも恐らく明日の話し合いに大きく影響してくるだろう。 そして阿佐美自身もそう言っていた。 「次の投票は確実に俺に向くだろうね。だから二人は俺を切り捨てて」 俺も十勝も何も言えなかった。 他に策はないかとも考えたが、これ以上では共倒れになりかねない。 残っているのは俺、阿佐美、十勝。 そして芳川会長、志木村、栫井、五味、安久、八木。 灘が吊られてしまった現状、阿佐美まで吊られることが確定してるとなると俺と十勝だけになる。 そして人狼側の勝利条件は村人側と同じ人数まで減らすことになる。 そうなると二人まで減らすとしても今夜で一人襲撃し、そして明日の夜一人襲撃、次の投票と襲撃で二人確実に村人側を消す必要がある。 そしてこの中にいる狐も吊る必要があるということか。 『……今夜の襲撃先だけど、俺が決めていいかな』 「俺は構わないけど……」 『俺も詩織に任せるぞ!何かいい案あるのか?』 『いい案というわけじゃないけど……俺は芳川会長に襲撃した方が良いと思う。……正直、昨夜の見てて思ったのはあの強引な誘導の仕方……狐の可能性もある』 阿佐美の言わんとしていることは俺にもわかった。 確かに、今まで大人しかったがここにきて露骨に人狼側を狩ろうとしている。 それに、会長とまともに口論しても上手く言い包められてしまいそうで怖い。 『あー確かにあの人敵に回すとおっかないもんなー。俺はいいと思うぞ!』 「俺も……詩織に任せるよ」 『ありがとう、二人とも』 襲撃先はすぐに決まった。襲撃先に芳川会長を設定し、その日は解散した。 そして落ち着かない気持ちのまま風呂に入り、眠りにつくことになる。 ――翌朝。 【芳川知憲 死亡】 【十勝直秀 死亡】 タブレットに表示された文字を見て俺は飛び起きた。 何が起きたのかわからなかった。 顔を洗ってもう一度確認したが間違いではない。 死亡者は二人。 それも、人狼側の十勝が死ぬということはだ。 人狼側が襲撃した場合道連れにされる役職は一つしか存在しない。 いやでもしかし、そんなまさか。 「――ッ、理毒者……?」 じゃあ、裕斗たちはなんなのだ。 まさか、本当に……。 混乱していると、部屋の扉が叩かれた。 ドアスコープで来訪者を確認するよりも先に俺は扉を開いた。 「し、おり……」 「ゆうき君、おはよう。……ちょっといいかな」 部屋に上がっても、と聞かれ、俺は慌てて扉を開いて阿佐美を招き入れる。 ――自室。 俺はベッド、阿佐美はソファーに腰を掛けていた。 テーブルの上に置きっぱなしだったタブレットを見て阿佐美は「ゆうき君も見たんだね」と小さく口にした。 「詩織、これって……」 「……やられたよ。芳川会長は理毒者だったんだ。それで、ランダムで人狼側から一人道連れにされた」 「で、でもそれじゃあ裕斗先輩は……?本当に……」 あのとき阿佐美が提示した可能性を思い出し、背筋が凍りつくようだった。 もしそうだとしたら、理毒者である芳川会長は最初から気付いていたのだ。 志摩の嘘にも、裕斗の誤魔化しにも、そして阿佐美の思惑にも。 裕斗と阿佐美を泳がせていたのは狂信者を炙り出すためか、それでも村人である味方たちすら欺いた芳川会長に心の奥から底冷えしていくようだった。 「狐で間違いないだろうね。……よりによって十勝君がこのタイミングで死ぬなんて」 そう口にする阿佐美は悔しそうだ。 全体数が減ってきた今、身内票はでかい。 十勝がいなくなり、そして今晩阿佐美が吊られるとなってしまうと残されるのは……。 「ゆうき君、この先ゆうき君が一人になる可能性が大きい。というより、確定だろうね」 「……詩織、俺、どうしたら……っ」 「今夜の襲撃は八木先輩を狙うんだ」 「八木先輩を?」 「あの人は確実にゆうき君を疑って投票してくるだろうし、少しでも票は分散させる方がいい。それと……スケープゴートを作り上げるんだ」 今夜の内に阿佐美と八木がいなくなるとして、明日に残るのは俺、志木村、五味、安久――そして確定白は栫井なので必然的に俺と志木村、五味、安久の中から吊られる人間が選ばれることになるだろう。 その中の誰かに人狼という濡れ衣を着せるということか。 「で、でも……そんなことどうやって」 「難しく考えなくていいよ。……自分が村人だとして、この中一人人狼がいるとなると誰を疑う?」 「え?えと……」 「……言い方を変えようか、どういう人が怪しくないと思う?」 阿佐美の質問に思わず言葉に詰まる。 自分が黒側だからだろうか、視点を変えてみると何もかもが怪しくて何が怪しくないのかがまるで思い浮かばない。 そんな俺を見て、阿佐美は小さく苦笑する。 「……そうだね。俺の個人的な意見を言わせてもらうと、ゆうき君は結構いい線いってるんだよ」 「……え?」 「役職がいない今、身の潔白を証明するのが大事になる。その点、前にゆうき君は言ったよね。自分に投票してくれって。……あれは大きかったよ」 褒められてるのか、どんな顔をしていいのかわからなかった。 「今人数が人数だ。相手側も残り一人だと目星付けられてるとしても一人でも減ることを恐れるはずだ。……逆にそこを利用するといい」 「た、とえば……」 「……あの中で一番そういう揺さぶりに弱そうなのは安久だろうね。安久に身の潔白を証明させるのが一番覿面だろうし、ごねるもう一人の人間と同票ランダム処刑狙いでもありだと思う」 なるほど、と頷く。 確かにあのメンツの中で扱いやすそうなのは安久だ。 「とにかく、俺と十勝君を庇う必要はないから。村人になりきることと……そうすればきっとゆうき君は生き残れるよ」 そう、阿佐美はようやく緊張した頬を緩ませる。 その一言に僅かに体は軽くなるが、それでも気を引き締めなければならないというのはわかっていた。 最初こそはゲームに勝つためだったが、十勝や阿佐美の意思も引き続いでいる。そんな気持ちも大きかった。 ――生き残る。 その意思を固め、俺は「わかった」と頷いた。 ずっと一緒にいると怪しまれるかもしれない、と阿佐美は簡潔に話を済ませると廊下に人がいないのを確認して部屋を出ようとする。 そして出ていく直前、阿佐美はこちらを振り返った。 「ああ、そうだゆうき君」 「ん?どうしたの?」 「これはメタ的な話になるんだけど、余裕があればゲーム外でも他の皆と話してみるといいかもしれないよ」 「情報収集、というわけじゃないけど、それぞれに誰が怪しいか聞いてみたり……ルール違反にならないはずだしね。それに、味方だと印象づけることもできるだろうから」そう阿佐美は言い残し、返事を待たずにそのまま部屋を出た。 ◆ ◆ ◆ 阿佐美と別れたあと、俺は阿佐美の言葉を思い出していた。 自由行動の間に皆の話を聞く、か。 確かにこれからはそういったことも必要になってくるのか。 けれど俺の態度次第では怪しまれる可能性もあるわけだ。 そう考えるとやはり緊張する。 部屋を出た俺は取り敢えずレストランで朝食を済ませ、そしてデッキ5にあるショッピングエリアへと移動する。買い物がしたいわけではない。 強いて言うなら誰かしら居そうだからというのが理由だった。 そして、案の定そこには人がいた。 ショッピングエリアの途中にあるラウンジ、買い物袋を抱えた安久と八木がベンチで休憩していた。 そして二人は俺を見るなり「あ」と声を上げるのだ。 「お、おはようございます……」 「おはよう、じゃないよ。もう昼なんだけど。あんたずっと寝てたわけ?」 もしかしたらお前が人狼だろと掴みかかられるのではないかとヒヤヒヤしていたが、流石にそんなことはなかった。 呆れたような顔をする安久だったが、向かい側のベンチをサンダルのつま先で小突く。 「座りなよ、どうせ暇なんだろ?」 「え……」 「別に取って食いやしねえよ、それに俺は今すこぶる機嫌がいいからな」 ニヤリと笑う八木に俺はすぐに十勝が死亡したことを知ったのだと察する。 ここで逃げるわけにはいかないだろう。 それに、さっきの阿佐美の話のこともある。 俺は「失礼します」と二人と相席することにした。 「お前も知ってるか?やっぱり十勝のやつ人狼だったんだよ、おまけに芳川と共倒れなんてな」 「どっちも目障りだったし一気に消えてくれて本当清々しますよね」 「せ、清々するって……」 仮にも芳川会長は村人なのに。 思わず口にすれば、どこの売店で買ってきたのかジェラートを飲みながら安久はじとりと俺を見るのだ。 「なに?もしかしてやっぱり齋藤佑樹お前人狼なわけ?」 「ち、違うよ!……でも、芳川会長は仮にも味方なのに……」 「ここまできたら敵も味方もないでしょ。ねえ八木先輩」 「まあな。……というか、俺はまだお前のこと信用してないんだからな、齋藤」 「え……」 まさか面と面向かってそんなことを言われるとは思わなかった。 「でも今のところ確定はあいつですよ、八木先輩。阿佐美詩織!あいつは間違いないでしょうね」 ……嫌な緊張だ。それでも素知らぬ顔しなければならない。そして避けられないのだ。 「確かに、会長が理毒者ってことは詩織は嘘吐いてたんだし……それで十勝君も黒確定」 「狂信者の灘も死んだ。……もしかしたら今夜全部終わるんじゃないか?」 はは、と楽しげに笑う八木にああ、と思った。 そうか、村人側からしてみたら生き残りが阿佐美だけと勘違いしてる可能性もあるのか……? 考えればこんがらがりそうだが、ここは八木に同意しておくか。 「そうですね。それに……裕斗先輩と貴音先輩も処刑されたから狐もいないわけですよね」 「そうか、やっぱ志摩裕斗が狐と背信者の連理貴音が道連れになったってことで確定になるのか」 「じゃあもう勝ち確定じゃん。はあ……どうしよう、先輩僕伊織さんになんのお願いするかまだ決まってないんですよ」 「それは気が早いんじゃないか?……まあ、でもようやくゆっくり出来るからな。そうだ、安久このあとカジノ行かないか?」 「あ、行きたいです!でもその前に荷物置かせて……」 「…………」 この二人はなんというか、呑気というかマイペースというか。やはりゲーム感覚なのだろう。 それとも村人サイドってこんな感じなのか。 俺がいつバレるかわからないこの立場だから四六時中緊張解けないのかもしれない。 早速近くのスタッフに声を掛け買い物袋を部屋まで持って行かせる安久を横目に、俺はなんだかほっとした。 次俺が吊る相手として予定してると知らずにバカンスを満喫してる二人に罪悪感が沸かないわけではない。 「そうだ、齋藤佑樹!お前も来たいなら来てもいいんだぞ。一度お前を素寒貧にしてやりたいと思ってたところだ」 「い、いや……俺は通りかかっただけだし……二人で楽しんできたらいいと思うよ」 「そうだな、負ける賭けには参加しないってのも手だしな。安久、今度こそお前に負けないからな」 「はい、望むところですよ!」 機嫌悪くなるかと思ったが八木のお陰で安久に絡まれることはなかった。 そのままきゃっきゃとはしゃぎながら後にする二人を見送り、俺はその場を移動することにした。 まだ時間はある。次は誰に会いに行こうか。 【To Be continues】