灘和真の恋愛事情【↑100/7,900文字/灘×齋藤/ほのぼの】
Added 2020-04-29 04:42:57 +0000 UTC某日、生徒会室にて。 「和真って全くって言う程浮いた話がないんだよなー。なあ、和真、好きな子とか気になる子とかいねーの?」 「何なら俺が和真に合いそうな子連れて来てくるけど?」と思い付いたように灘に絡み始める十勝に俺は苦笑する。 確かに灘はそういうタイプではないよな、恋に浮かれる灘はまるで想像つかないし。 俺と十勝の視線に気付いたようだ、自分の席に座りデスク周りの清掃をしていた灘はこちらを見る。そして。 「……好きな子、とは」 「そこからかよ!……ほら、付き合いたいとか。あるじゃん、もっと仲良くなりたいとかさぁ!」 「付き合いたい?……婚前交渉ということですか?」 「な、灘君……」 そもそもそこからなのか。手を止め、何やら考え込む灘に俺と十勝は顔を見合わせた。 こいつマジだ……と視線送ってくる十勝に俺もなんてフォローすべきか。天然というよりか、本当に興味がないのだろう。 だってまともに恋愛というものをしたことない俺でも流石にピンとくるというか、イメージくらいはあるのだが……。 「ま……まあそういうの抜きにして、ないのか?もっとこうさあ……フランクに。もっと仲良くなりたいなーって子とか」 「仲良くなりたい?」 「そ、そうだね……ほら、もっと知りたいとか……色んな話したいとか……!」 「………………」 無、無だ……。 そのまま黙りこくってしまう灘に俺と十勝は『そんなに悩むことなのか』と戦慄する。 「あの、な、灘君……?」 そう、恐る恐る声を掛けた時だった。ふいに、灘の視線がこちらを向いた。何を考えてるのかわからないその目に自分の顔が反射して映ったとき。 「……齋藤君でしょうか」 今度こそ俺と十勝は言葉を失った。予想していないところから突如バッドで殴られたかのような衝撃に俺と十勝は固まった。 聞き間違いでは……ない? 「お、っ俺……?」 石みたいに固まったままの十勝の横、念の為再確認すれば灘は「はい」と小さく頷く。 「十勝君や栫井君とは仲良くさせていただいているので」 「あ、そ、そういう意味か……」 驚いた……いや、普通に驚いた。 灘のストイックな性分を知っているだけに下手な嘘は吐かないと思っていたが、だからこそ余計驚いた。まだドキドキしてる心臓を抑えてると、ようやく息を吹き返したらしい。はっとした十勝は呆れていた。 「か、和真……お前天然ってか、まじか……あとお前栫井とは仲良くしてるつもりだったんだな……」 ……それは確かに俺もちょっと気になったが。 「って、じゃーなーくーてー!恋ってことだよ、恋!ラブ!和真全然そういう話ないじゃん、せっかくの限られた学園生活ってのに生徒会の仕事ばっかしてさぁ、俺すげー悲しいの。もっと和真には学園生活を謳歌してほしい!」 「自分は充分謳歌してるつもりですが」 「和真ぁ……」 「と、十勝君……そこはまあ、人それぞれだし……」 というか、灘が一般の高校生のように学園生活を謳歌してる図が浮かばない。 十勝の気持ちも分かる。確かに生徒会のことばかりして十勝なりに心配してるのだろう。 ……まあ、灘の場合自分から好んでそうやってるようにも思えるが。 「でもさでもさ、佑樹だって俺の言ってることわかるだろ?制服デートや放課後デートは今だけの特権だって!佑樹だって会長と付き合ってんだから俺の味方だよなあ!」 敵味方あるのかこれ。 そもそも俺の場合は会長とは付き合ってるフリなのでそういったものはないのだが……ここは否定すると余計面倒になりそうだ。すみません会長、と心の中でこの場にはいない会長に謝罪しつつ「う、うん……」と頷く。灘がこちらを見たが、何も言わない。 そして俺からの同意を得た十勝は灘の背中をべしっと叩いた。 「ってことだ、和真!たまには生徒会の仕事以外のことしようぜ!お前の分の仕事は俺が代わりにやっておいてやるから!」 「……不要です。それと、俺の仕事するなら自分の溜まっている仕事をすべきかと」 「う……そ、そんなこと言うなよ和真ぁ……」 「……………………」 あ……あれ?灘君怒ってる……? 表情は相変わらず無なので感情は読みにくいが、明らかに灘にあしらわれてる十勝を見てなんとなく違和感を覚えた。そして。 「……この後会長と会う約束をしてるので、これで失礼します」 そうゴミを捨て、灘はそのまま十勝を避けるようにさっさと生徒会室を出ていった。 ぱたん、と静かに閉まる扉。 十勝と二人きりになった生徒会室。 「と、十勝君……」と振り払われたままの体勢で固まってる十勝に声をかければ、わなわなと震え始める。 「か、和真が怒った……あんな怒った和真初めて見た……どうしよ……やっぱり俺が仕事溜めてたのが悪かったのかな……」 まあ、それもあるだろうが……それだけが原因ではないように思えた。取り敢えず怯える十勝を宥め、この場を収めることになった。 ◆ ◆ ◆ また別の日。放課後のチャイムが響く校舎内。 帰宅準備を済ませ、そろそろ俺も戻るかと学生寮へと向かおうとしていたときだ。ふと、校門前に見覚えある背中を見つけた。 あれは……灘だ。 灘君、と声を掛けようとして、灘の向かい側に別の人影を見つけた。 灘君と……他校の女子? 見慣れない制服だが間違いない、女の子だ。 ……他校との合同行事でもあるのだろうか、何やら話し込んでいるがよく聞こえない。 盗み聞きみたいな真似はよくないな、そう踵を返そうとしたとき。その女子生徒は何かを灘に半ば強引に渡していた。そして、そのまま頭を下げると逃げるように校門から出ていくのだ。 こ……これはもしや。 灘が持っていたのは何やらメモ用紙のようだ。それを手にしたまま灘はこちらへと向かってくる。やばい、隠れないと。何故だが慌ててしまったときだった。 「そこで何をしてるんですか、齋藤君」 いつの間にかに背後までやってきていた灘に「ひっ!」と飛び上がりそうになる。 ……ば、バレてた……。 「な、灘君……ごめん、盗み見るつもりなかったんだけど……」 「別に見られて困るものでもありませんのでお気になさらず結構です」 「で、でも今の子……その……」 何か貰ったんじゃないのか、と灘の手元。そのメモに視線が向いてしまう。それに気付いた灘は俺が言わんとしていることに気付いたようだ。 「いつでもいいから空いてる日に連絡してほしいと」 やっぱり、そういうことだったのか。なんとなくあの女の子の様子や表情からただならぬものを感じたが、そうか。 先日の十勝とのやり取りを思い出す。灘にも春が来たのだと思うと喜ばしいはずなのに、なんだろうか、なんか……どんな顔をしたらいいのかわからない。 「す……」 とにかく祝わないと。そう「すごいね」と言いかけたときだった。制服のポケットからシュレッダーハサミを取り出した灘はその場でメモを切り始めた。 「な……っ!ちょ、ちょっと灘君?!」 「……はい?」 「な、何してるの……?!」 「自分には不必要ですし、このままでは彼女の個人情報漏洩になりかねない。ですので早急に処分が必要かと」 「え……あ……」 か、可哀想に……。 ひらひらと風に吹かれて飛んでいくメモだったそれを見送ることしかできなかった。 「か……彼女、きっと待ってるかもしれないよ。灘君が返事くれるの」 「仕事以外で連絡するつもりはないと口頭で伝えてます。そしたら、好きにしていいと」 「……ああ」 灘らしい。それならいいのか……?俺はよくわからないが、見知らぬ彼女に同情する反面ほっとする自分もいた。 残りを更に細かく切ってゴミ箱に捨てた灘は、俺の方を見る。 「君も、自分の行動は非常識だと思いますか」 問い掛けられたそれは純粋な疑問だった。 ……灘は最初から付き合う気なんてないのだ。 「……そうは思わないよ。確かに女の子は少し可哀想だけど、灘君は変に期待させて彼女を傷つけないようにしてるんだと思うし……」 どうせ振られるのなら傷は浅い方がいい。 俺はそれを知っている。そう考えれば一切そういった期待を切り捨てる灘の言動行動は相手のためでもあるとわかった。 灘は何も言わない。その代わり、刃に挟まった紙を取り除き、再度制服に戻すのだ。 「……十勝君はいい人ですが、異性に対する姿勢については理解し兼ねます」 灘からこんなこと言うなんて思わなかった。 確かに十勝の場合は極端だが……その正反対に位置するのが灘なのだろう。 「どちらにせよ、将来的には決められた相手と結婚せざるを得なくなるというのに」 灘君、と名前を呼びかけ、飲み込んだ。 婚約者か……。別に珍しい話ではない。隣のクラスには既に卒業したら籍を入れるつもりだと豪語するやつもいる。 俺の家はそれほど煩くないし自由だが、由緒ある名の家系や名を大切にしてる家系は幼少期から既に定められていると聞いたことがある。 「灘君には、その……婚約者がいるの?」 「祖父が勝手に決めた相手なら居ます」 「……そっか」 灘が恋愛や色恋に意義を見出さない理由がわかったような気がする。いざこうして本人の口から聞くと思った以上にショックを受けている俺もいた。 「貴方は会長と結婚するつもりですか?」 「い、いや……それは……きっと、無理だと思う」 そもそも俺と会長の契約は会長が卒業した時点で終了だろう。その後会えたとしてもそれは恋人ではなく、本来の関係である先輩と後輩――のはずだが、結婚か。考えてもなかったな。 「でも……灘君の言いたいのも、わかるよ。……好きな人作ったら余計、後が辛くなるんじゃないかって……」 「そうですね」 「けど、それでもいいから……一緒にいたくなるもんじゃないのかな」 口してから顔がじわじわ熱くなっていくのがわかった。 何言ってるんだろ、俺。ちゃんと恋もしたことないくせに、こんなこと言うなんて。まともに灘の顔も見れなくなって慌てて俺は顔を覆い隠した。 「……ご、ごめん……偉そうなこと言って、俺……」 「いえ、勉強になりました。そういった考えもあるのだと」 灘の声は変わらない。ほんの少し、理解しました。そう続ける灘に顔を上げれば、まともに目が合ってしまう。 「非合理なのが恋愛というものなのですね。賢いとは思えませんが、貴方の感性は好ましく思います」 これは、褒められているのか……? それでも幾分柔らかくなった(……ような気がする)灘の表情に俺は内心どきりとした。 「な、……灘君と恋愛について話してるの……なんだか不思議だな」 「そうですか?」 「うん……」 そんなことを話しながら俺は灘と一緒に学生寮に戻ることにした。 ◆ ◆ ◆ 恋だとか、愛だとか。 灘に問い掛けられずっと考えていた。 もし俺が灘と同じようにいずれ決められた人と結婚しないといけないとして、他に好きな人ができてしまったらどうするのだろうか。 ……なんか思春期みたいなこと考えてしまっている。そんなことだから夜ちゃんと眠れなかった俺は寝不足のまま目を覚ました。 ……わかんないな、こればかりは。 制服に着替え、登校の準備を済ませた俺はそのまま部屋を出た。そして。 「おはようございます」 「わっ!」 扉の真横、そこにいた灘に飛び上がりそうになる。 「……って、な、灘君、おはよう……どうしたの?こんな早くに……」 「本日は会長は外出するため、念の為様子を見ようと」 「か、会長……また……」 デジャヴ。会長も会長だ、心配してくれるのは有り難いが少しはこう……やはり過保護すぎる気がするのだ。それよりも、灘の時間を拘束することになってしまうのが申し訳なくなる。 「あの灘君、会長に言われたのかもしれないけど……俺のことは別にそこまで気にしなくていいからね、自分の身くらいは自分で守れるし」 「そうは思えませんが」 「う。……ま、まあ確かに頼りないかもしれないけど……」 「それに、会長からの命令ではありません」 「――……え?」 思わず聞き返す。いや、まさかな。そう思ったが、じっとこちらを見る灘の目に思考停止する。 「な、灘君……」 「……今日すべきことは全て済ませてます。……そのあとは好きにしていいと。……なので、貴方の様子を見に来た次第です」 ……これは、どういうことなのか。 頭の中灘の言葉がぐるぐると回る。これでまるで俺に会いに来たと言ってるようなものだ。 ――いや、まさか、そう言ってるのか? 「な、な、灘君……その言い方は、その……ちょっと……」 「何か問題でも?」 「い、いや……ないけど……うん、俺が悪いんだけどね……」 灘は真面目なのだ。灘の義務感は並大抵ではない、職業病のようなものなのだ。これは。 そう己に言い聞かせるように頭の中繰り返す。 期待してはいけない。わかってるはずなのに。 「いいけど……いつでも帰って大丈夫だからね」 「気遣いは不要です。それよりも朝食は済ませましたか?」 「ま、まだ……」 「でしたら食堂へ向かいましょう。……この時間、丁度パンが焼き上がる時間です」 詳しいな……と思いつつ俺は灘に連れられるまま食堂へと向かうことになる。 灘が自主的に俺に会いに来てくれて、そして自主的に俺を食堂に連れて行ってくれてる。 どういう風の吹き回しかはわからないが、それでも悪い気はしない。 ◆ ◆ ◆ 灘と一緒に焼きたてパンを食堂で貰い、それをテラス席で座って食すことになったのだが……。 「…………」 「…………」 やっぱり無言だ。 灘と二人きりで盛り上がるとは思っていないが……楽しいのかな、俺といて。気の利いた小噺の一つもできない自分をこのときばかりは悔やんだ。 話題を探すように向かい側の灘を見上げたとき、不意に目が合った。驚いて慌てて視線を外す。 変に意識してしまっていること、バレたかな。そう今度は恐る恐るちらりと灘を盗み見ようとして、再度視線がぶつかる。 先程からずっとガン見してくる灘に俺は驚いてパンを落としそうになった。 「な、なに……?お、俺……どっか変かな……っ?」 「いえ、特に問題箇所は見当たりません」 「じゃ、じゃあ……」 「なにがですか?」 「や、その……そんなに見るの……?」 穴でも空いてしまうのでないかというほどの視線に戸惑ってると、「何か問題でも?」と灘は小首を傾げる。悪意がないとわかってても見られることは苦手だ。しかも、こんな真っ直ぐな目で。 「え、あの問題というか……は、恥ずかしい……というか」 「……恥ずかしい?何故?」 「う、え……その……」 「貴方が恥らうべきところは見受けられません。それとも、不快でしたか」 「ふ、不快というか……その、なんでそんなに見るのかなって……気になって……」 あまりにも堂々として恥じらいもない灘に寧ろこうして意義を唱えている俺のほうが小さいやつなのかと不安になっていく。ゴニョゴニョと小さくなる語尾に、灘は押し黙る。 いやなんでここで黙るんだ。お互い言葉が見つからずに沈黙が流れる。汗が滲んだ。 あまりの居たたまれなさに「あの、灘君」と恐る恐る声を掛けようとしたとき。 「……貴方を見ていたら、何かが分かるかもしれない。そう思ったのですが……」 「何かって……?」 「俺は貴方のことを好意的に思ってます」 それはあまりにもドストレートな言葉だった。 今度こそぽとりと膝の上に落ちるパンを拾うことすら忘れた。 「な、な……灘……君……っ」 「貴方が言っていた、一緒になれなくてもそれでも少しでもその時間を好きな相手と共有したい――……一緒にいたいと」 「それが、自分が貴方に感じてるものと同じなのか確認したかった」と、灘は表情一つ変えることなく続けるのだ。俺は、言葉すら出なかった。 これは、もしかして。 「……あ、あの……それは……」 ――告白では。 「……………………」 そこで黙るのか。 「な、灘く……」 「……すみません、自分でも整理がついていないようです」 「態度が不快だったのでしたら謝ります。……申し訳ございません」戸惑う俺の態度が悪かったのだろう。謝罪してくる灘に慌てて俺は首を横に振る。 「べ、別に不快だなんて思ってないよ、その寧ろ…………う、嬉しくて……」 「そうですか」 それっきり黙ってしまう灘。なんだ、そうですかって。こういうときどんな風に話したらいいんだ、俺一人だけ慌ててるみたいで恥ずかしくなってくる。灘君、と顔を上げれば目が合った。 俺にはわかった。……優しい目だ。 温かい風が吹く。 「な……」 灘君、ともう一度名前を呼ぼうとしたときだった。 「おーい和真ぁー!!」 テラス席の外から灘を呼ぶ声が聞こえてきた。 柵越える勢いでぶんぶんと手を振ってくるのは十勝だ。なんであんなところに。というか。 「と、十勝君……?!どうしたのそんなに慌てて……?」 「か、和真お前……お前んちのおっかねえ爺ちゃん来てんだけど!!和真を今すぐ連れてこいって!大事な用事すっぽかしたんだって?職員室が地獄みてーになってんぞ!」 ――え?お爺さん? 「その件に関しては既に祖父に伝えています。先方にはもう会わない旨を告げてると」 「……え?!な、灘君……っいいの?」 「構いません。俺がいてもいなくても変わらないので」 「婚約者との食事だったんだろ?!お前主役じゃん!」 「ですからもう婚約者ではないです。EDである自分は子孫を残すことは難しいと相手方の親御さんに伝えればその場で破棄されましたので」 「な……ッ!」 なんかさらりととんでもないこと言わなかったか、今。 「そ……それだよそれ!それのせいでぜってーキレてたって!『和真を今すぐ連れてこい!』ってブチ切れてたぞ!」 「……分かりました、一度会って伝えてきます」 「また後で」とそう一言を残し、食べかけのパンを口に詰め込み飲み込んだ灘は十勝とともに職員室へと向かった。 ……な、なんだったんだ。 嵐のように連れて行かれた灘を見送り、俺はひとまず先に灘への返事を考えておかないと。いやでもそれよりも婚約破棄のことを問い質すべきなのか……そんなことばかりをぐるぐる考えながら、残っていた水を喉に流し込んだ。 おしまい