天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第十二話【人狼パート4】
Added 2020-04-12 16:52:23 +0000 UTC相も変わらず悪趣味なインテリアで統一されたレストラン内部、俺達は今晩も集められていた。 初日に比べると過半数が減ったテーブルはあまりにも寂しく感じる。その誕生席にどかりと腰を下ろした阿賀松はその持て余した足を組み、笑う。 「んじゃ、伊織さんがおさらいしてやろうか」 そんなこと前もしていたか。 まるで恒例の、とでも言うかのように口を開く阿賀松に今はもう突っ込む人間はいない。 「可哀想に、狼に噛まれて死んじまったのは哀れな仁科だったとさ。裕斗と連理、三人もいなくなって寂しいことありゃしねえな」 「どの口で言ってんだか」と、十勝が野次飛ばすのを無視して阿賀松は続ける。 「お前らわかってるか?まだこのゲームが続いてるってことは人狼も生きてるってことだぞ。下手すりゃ今夜終わるかも知んねえ」 「それって……」 「人狼陣営は四人、現状で一人も吊るせていないまま万が一今回誤って村人を吊るしてしまえば当たり前だが人狼は村人を襲撃する」 「……そうなれば人狼四人と村人四人だ、その場合明日の朝にはゲーム終了になるということか」そう、困惑する仁科に対して答えたのは芳川会長だった。その言葉にハッとした。そうだ、灘も俺たちの陣営扱いされるのか。 だとしたら、とあたりを見渡した。 残っているのは俺、阿佐美、十勝、灘。 そして芳川会長、志木村、栫井、五味、安久、八木。少なくともこの中に四人の村人がいて、狐もいるわけだ。 仁科を襲撃しても道連れが出なかったことからすると仁科は本当に白か、背徳者の可能性がある。 言葉を取られて少しだけむっとする阿賀松だったが、否定しないということはそういうことなのだろう。 「ま、けどまだ明日も残ってたら人狼は少なからず減ってるってことだな」 「……どちらにせよ、今夜ばかりはクロを狙うのが懸命ということですね」 志木村の言葉が重くのしかかる。 逆に俺たちからしてみれば今夜狐を殺さなければ村人を減らしたところで負けてしまうということだ。 「おう、好きなだけ悩め悩め。時間は有限だ。大切にしろ? ――……それじゃ鬼門の四日目だ」 気張ってけよ、と他人事のように阿賀松の声が部屋の中に木霊する。 本来ならば心落ち着かせるためのクラシックのBGMに、今だけは余計不安を掻き立てられた。 ◆ ◆ ◆ 「話し合う必要なんかないだろ、投票先なんてもう決まってる」 第一声、蓋を切ったのは安久だった。 何を言い出すつもりだ、こいつは。 「あ、あぐ……?」と恐る恐る呼びかけようとした時、ばん!と大きな音を立てて立ち上がった安久はびしっと人差し指を突き付ける。そしてその指の先には……。 「十勝直秀、お前が一番怪しいだろ!」 「まーだ言ってんのかよ、それを言うなら俺は八木先輩だな」 「ああ?お前江古田のやつ殺しておいてよく言ってられんな!」 「俺は殺してねえよ、二分の一の確率で江古田を狙った人狼さんが襲撃したんですって!」 ……デジャヴ。 何を言い出すのかと思えば散々揉めていた狼憑き騙り問題を指摘する安久に内心ほっとする。……が、笑い事ではないのだ。相手も本気で狼を狩りに来てるということだ。 八木まで加わり、更にわーわーぎゃーぎゃーと言い争う安久たち。痺れを切らしたように、芳川会長は「おい、いい加減にしろ」と声を上げた。 「その話し合いこそ無駄だろう。……それについては前回も阿佐美君たちが言っただろう。それよりもだ、他に話し合わなければならないことがあるんじゃないか?」 「話し合わないといけないこと……?」 「前回、志摩裕斗がした悪あがきについてだ」 「……っ!」 芳川会長の一言に室内の空気が変わる。 できることなら掘り返したくなかった。……昨夜阿佐美が言っていた、俺が最も危惧していた展開だ。 「あの男は自らを理毒者と名乗った。そして、実際に連理が道連れにされたわけだが……だとすれば明らかに矛盾しているやつがいるだろう、そこに」 レンズ越し、芳川会長の鋭いその目は向かい側の席に座る阿佐美に向けられていた。指摘されることもなにもかも予測していたのだろう、阿佐美は取り乱すことなくただその視線を受け止める。 「……阿佐美君、俺の記憶が正しければ確か君は理毒者を名乗っていたな。しかし志摩裕斗は実際に連理貴音を道連れにしていた。これはどういうことだ?」 説明してもらおうか、と静かに続ける芳川会長。 その場にいた全員の目が阿佐美に向く。渦中の阿佐美はというと相変わらずだ。 「……どうもこうも、俺は嘘を吐いたつもりはない。だとしたら可能性は一つ」 「裕斗君は狐だった。そして裕斗君が処刑されたから連理先輩も後追いしたんだよ」最後まで足掻くつもりなのだろう。真っ向から向けられる疑いの目に怯むことなく言い返す阿佐美に俺は思わず息を呑む。 流石阿佐美だ、と感心する反面相手は芳川会長だ。……まだ気は抜けない。 認める気がないのをわかったのだろう、芳川会長は矛先を変えた。 「灘、お前は霊能者だったな。昨夜の霊能結果はどうだった?」 それは不意打ちだった。まるで灘が裕斗を霊能したのを前提として尋ねる芳川会長に、突然振られた灘は目を伏せた。 「霊能結果は……黒です」 ほんの一瞬、灘の言葉が詰まった。 ざわつく室内、芳川会長と阿佐美だけは表情を変えない。俺たちは灘のことを狂信者だと少なくとも思っていた。あのとき霊能を名乗ったのは場を混乱させるための嘘だと。だとしたら勿論灘が霊能してるわけがなかった。 芳川会長は顎先を撫で、思案する。そして、 「阿賀松、一つだけ質問いいか」 「ああ?なんだよ」 「狐は霊能した場合その判定は村人になるのか?人狼になるのか?」 芳川会長がやろうとしていることに気付いてしまった。背筋が凍る。誰もが阿賀松の返答を待っていた。 「――白だな」 頭の中で鐘の音が響くようだった。 バクバクと心臓の音が脈打つ。笑う阿賀松の言葉に数名、息を吐いた。けれど灘は、焦るわけでもなくゆっくりと瞼を持ち上げ、そして芳川会長に視線を向けるのだ。 「抜かったな、灘。……阿佐美君を庇おうとしたのが裏目に出たようだ」 「…………」 「まあ無理もない、三日目にはもう自分の役割を果たすことすらも忘れていたくらいだ。それに、知らないものを騙るのには限度がある」 灘は「そのようですね」とだけ答えた。 瞬間、八木は弾かれたように立ち上がる。 「やっぱお前……っ」 「八木君、隣でガタガタしないで下さい。僕のグラスが溢れてしまうじゃないですか」 そして隣の志木村に注意される。 「う、すまねえ……」とすごすご着席する八木の代わり、志木村は再び自分のグラスに口をつけるのだ。 「もし阿佐美君の言う通り裕斗さんと連理が狐と背徳者であるならば霊能結果は白でないとならない、ということですか。……なるほど、確かにそれについて僕たちは何も聞いてませんでしたからね。もし本物の霊能者ならば知らなくとも見たまま『白』と答えればいいだけのはずですし」 「ああ、そういうことだ」 崖際あっという間に追い詰められた灘は最早抵抗する気もないようだ。そんな無防備な灘に、芳川会長は最後のトドメを刺した。 「灘、お前は狂信者だな」 ◆ ◆ ◆ 「シンプルな話し合いってのはいいもんだ。グダグダ続けるよりよっぽど効率的だしな」 「戯言はいい、さっさと投票結果を発表しろ」 「そう焦るなよ早漏野郎」 ほらよ、と目の前のモニターに表示された名前に俺は息を飲む。 『灘和真』 「こんなのいらねえだろ、わかりきったことだ。けど、二人こいつに入れなかった野郎がいるな」 八木に一票、会長に一票。 「なんで俺に入ってんだよ」と舌打ちする八木。そして、特に変わらない様子でそれを眺めていた灘だったがやがて自分から立ち上がる。 「おい和真、遺言はねえのか?」 「ありません。元より、会長に敵わないことはわかっていましたので」 失礼します、と阿賀松の手をするりと避け自分から部屋を出ていく灘に「可愛げがねえな」と阿賀松は舌打ちする。 「……まあいい、今日は少し早いが切り上げだ。あとは好きにしろ」 ……終わった。阿賀松が出ていったあとの扉を見据えたまま俺は何も考えることができなかった。 初めて味方側の人間が処刑された。本来ならばあそこにいたのは阿佐美だったのかもしれない。そう思うと最後まで灘に助けられた気がしてならない。 けれどまだ終わっていないのだ。 明日もまたある。そして、芳川会長に追い詰められるかもしれないと思うと生きた心地がしなかった。 【to be continued】