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田原摩耶
田原摩耶

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【総集編版】推しの家でサシ宅飲みすべからず:後編※【↑100/12,000文字/マネージャー岩片+先輩アイドル政岡×尾張前提尾張総受け後日談】

「…………」 「…………」 「…………」  気まずいどころではない。  最悪の三者面談が現在進行形で俺の部屋で行われていた。 「そんで?うちの可愛い可愛いハジメに手を出したってわけか?」 「い……岩片、これは誤解でだな……」 「ハジメ、お前は黙ってろよ。俺はそいつに聞いてんだ」  ……な、なんでこんなに怒ってるんだ。  いつも掴みどころなく飄々とした岩片なのにまるで別人みたいだ。黙れと言われた俺は思わず口を閉じた。  政岡か暴れだすのではないかとヒヤヒヤしていたのだが、意外なことに政岡は真面目に受け答えをする。 「……俺はこいつとは真面目に交際してる。そりゃ今回は酔って服は脱いだけどなんもしてねえよ」 「そうなのか、ハジメ」とこちらを振り返った岩片に尋ねられ、昨夜のあれやこれが頭を過る。  やめろ、よりによって今このタイミングで思い出すな俺。 「あ、ああ」と慌てて頷いたが、迂闊だった。あまりの動揺に声が裏返ってしまう俺に岩片も政岡も察したらしい。 「し……したのか?!俺お前になんかしたのか?!」 「いや、違う。違うんだ、これはその……」  やべえ、普段ならもっと上手く誤魔化せるのになんでだ。政岡の顔が直視できない。  取り繕おうとすればするほどボロが出てしまい、そんな俺を無言で見ていた岩片だったがやがて足を組み直す。そして、分厚いレンズ越し政岡を見た。 「お前んとこのマネージャー呼べよ」 「お、おい岩片……」 「ああ?!なんで……」 「こいつが誰か分かってんのか?うちの宝物だ。……なんなら、事務所に殴り込みに行ったっていいんだぜ」 「岩片」やめろ、と嗜めるが止まらない。  舌打ちした政岡は立ち上がる、そして部屋から出た。恐らくマネージャーに連絡しにいったのだろう。  マネージャーって確か、あの男か。陰湿そうな政岡のグループのメンバーを思い出す。  何やら大事になってしまった。  政岡のマネージャーでもある能義有人を待つ間、俺は生きた心地がしなかった。  そして数十分後。 「おや、これはこれは皆さん勢揃いではありませんか」  部屋にやってきたのは能義有人だ。変装しているが絡みつくような声も仕草もまんまだ。  予め政岡から説明は受けていたのだろう、静まり返った重苦しいに怯むどころかあくまで態度を崩さない能義はそのまま政岡の横に座る。 「それでうちの零児が何かしでかしたのですか?」 「ああ、うちの可愛いハジメに手を出しやがった」 「おや……手、ですか。それは穏やかではありませんね。どういうことか説明していただけますか?零児」 「どうもこうもねえよ、ただ一緒に飲んだだけっつーの。確かに関わるなって言われたが、これは俺達の問題だろ。仕事は関係ねえし支障は出してねーはずだ」 「酔っ払った勢いでセックスしといて『ただ一緒に飲んだぁけ』なあ?流石だな」 「だからしつけえな……ッ!」 「記憶飛ばしてんなら尚更だろ。なんなら、今から身体チェックさせてもいいんだぞ」 「おいハジメ、それ全部脱げよ」なんて、いきなりそんなことを言い出す岩片に俺は凍り付いた。  冗談だろ、と岩片を見るがやつはいつものような軽薄な笑みもなくただ俺を見ていた。  マジのやつだ。冷たい汗が流れる。 「っ、……そ、れは……」 「恥ずかしくねえだろ、いつも脱いでんだから。それともなんだ?脱げねえ訳があるのか?」  寧ろ、脱げない理由しかない。押し黙る俺に政岡は「いい加減にしろ」と立ち上がる。  政岡が岩片に掴みかかるよりも先に能義が政岡の肩を掴み、止めた。そして。 「なるほど、酔った零児が尾張さんに無体を働いたということでよろしいですか?」 「そうだな」 「しかしながらここは尾張さんの自宅。尾張さんは自ら零児を招き入れた。つまり合意ということになり得ますよね」 「お前ら自分の立場わかってんのか?相手は先輩グループ、おまけに本人もこんな見てくれだ。強引に迫られて断れなかったとは考えねえのか」 「岩片、それは誤解だ。それに、いくらなんでも失礼だろ」  逆効果だとわかっててもあんまりな言い草にかちんときて岩片を責める。けれど、岩片本人はというとどこ吹く風だ。 「金輪際共演NG、イベントにも立ち入り禁止、こいつ自身にも接触禁止にさせてもらう」 「政岡零児、この契約書にサインしろ」そう、一枚の紙切れを用意する岩片。それを政岡の目の前に叩きつけるのだ。それを見た政岡の表情が変わる。やばい、あの顔はブチ切れてる。 「巫山戯んなよこの眼鏡野郎……ッ!」 「零児。ここは大人しくサインしてください」  そんな政岡に対し、意外なことに能義は岩片に同調するのだ。これには流石の政岡も呆れているようだ。 「有人、まさかお前までこいつの言うことを信じるのかよ……!」 「私は以前から忠告していたはずです、尾張さんには深入りするなと。……それを先に破ったのは貴方ですよ、零児」 「っ、政岡……」  俺のファンだと言ってくれた政岡。最初こそは驚いたけれど、それでも口だけではなく最前線で俺を応援してくれていた政岡。その事実を知ったのは最近だったが、それでも俺はそんな政岡に助けられたことも事実だ。  そんなものにサインすれば今度こそまともに会えることもないかもしれない。最悪、政岡にも迷惑がかかってしまう。どうすれば、そう思案したとき。  契約書を手にした政岡はあろうことかそれをビリビリと破き出したのだ。 「くっだらねえ。俺は絶対認めねえからな」 「っ、政岡……」 「尾張、俺はお前の一番のファンだ。それを辞めるつもりも諦めるつもりもねえよ」  言いたいことだけを吐き捨て、政岡零児はそのまま立ち上がり、部屋を出ていく。「零児」と能義が呼びかけるも政岡は無視だ。 「……すみません、契約書はまた私の方で用意させておきますので」 「ああ、くれぐれも頼んだぞ」 「ええ、貴方には手を煩わせませんよ。――岩片さん」  そうにこりと微笑む能義。なんで岩片の名前を知ってるのか引っかかったが、声を掛ける暇もなかった。  二人が出ていったあと、扉を施錠した俺は改めて部屋のソファーにふんぞり返るマネージャー様に詰め寄った。 「岩片っ、いくらなんでもこんなことはないだろ」  やりすぎだ、と言葉を続けるよりも先に岩片に胸ぐらを掴まれる。そしてぐっと近付く距離に思わず息を飲んだ。 「ハジメ、この業界に入る前に俺との間に隠し事はなしだって言ったよな」 「っ、それは……」 「裏切ったのはお前だ、ハジメ」  息が詰まりそうだった。  確かに、岩片には忠告された。俺だって岩片の言いつけは守ってきたし、そのおかげでここまでこれたというのもわかってる。けれど、いくらなんでも恩人でもある政岡にあんな態度はないだろう。 「……っ、でも、政岡はいいやつだ。確かに隠してた俺も悪いけど、あいつは何一つ……」  悪くない、と言いかけたときだった。  伸びてきた手にスウェットパンツの腰を掴まれる。そしてそのままずるりと脱がされ、ぎょっとした。 「っ、ちょ、おッ」 「へえ、 こんなところに跡つけんのがいいやつか?」 「昨日の撮影時はなかったよな、ここに指の跡なんて」そう、岩片は俺の腰を撫でる。  明らかにそこには掴まれたような指の跡が残っていた。記憶ではあやふやだが、明らかに昨夜できたもので間違いないだろう。 「い、岩片……っ」 「ハジメ、俺はガッカリしてんだぞ。お前に裏切られてな」 「待て、岩片……っこれは……」 「いいか?ハジメ、さっきも言ったが金輪際あいつと関わるな。お前はもうお前だけのものじゃねーんだよ。それが出来ないというなら俺にも考えがある」 「考えって……」 「お前は常に俺の監視下に置く。私生活から何まで俺が面倒見てやる」 「どうだ?一人じゃ何もできねえ甘ったれなお前には十分な好条件だろうがな」皮肉混じりのその笑みに思わず全身に力が入る。確かに前々から偉そうなやつだというのは分かっていた、けれどこんな風に面と面向かって挑発されるようなことはなかった――はずだ。俺の意識だけの問題ではない。 「っ、ふざけるなよ……」 「巫山戯てんのはどっちだ?ハジメ。あんな馬鹿そうなやつに絆されてんじゃねえよ」 「あいつのことをそんな風に言うなよ。……お前には感謝してる、けど。いくらなんでも、お前らしくないぞ」 「……俺らしく、ね」  ほんの一瞬、岩片が言葉に詰まったように見えた。そう思った矢先だった。 「岩か――……」  岩片、とその名前を呼ぼうとした次の瞬間だった。視界が遮られる。目の前に岩片の顔があったと気付いたときには遅かった。逃げることも、抵抗することも忘れていた。あまりにも当たり前のように、息をするように唇を塞がれたから。  小さな音を立てて唇が離れた。目の前には笑っていない岩片の顔があった。 「っ、な、……んで」 「お前はお前だけのものじゃねえって言っただろ」 「お前をあいつに渡す気はねえよ」俺の聞き間違えでも、気のせいでもない。あいつはそう言って二度目のキスをしたのだ。 「っ、な……ぉ……ッ」  なんで、お前。という言葉すらならない。  いつものように「全部冗談に決まってんだろ」と人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべてくれた方がまだましだ。  けれど、あいつは笑わない。 「アイツにくれてやるくらいなら俺が――……」  そう、やつが言いかけたときだった。電話の着信音が部屋に響き渡った。現実に引き戻される。岩片は舌打ちをし、携帯片手に部屋から出ていくのだ。  ぱたんと閉まる扉。俺は未だに状況が飲み込めずにいた。アイツにくれてやるくらないなら、ってなんだ。俺がって、なんだ。  まだ寝惚けてるのか俺は、そう思いたいのに唇の感触も何もかもが現実だったのだ。  ……落ち着け、取り敢えず落ち着くのだ。  何故キスされたのかそんなことはさておきだ。……いやさておけるか。  一人困惑してると岩片が戻ってくる。  ぎくりと顔を上げれば、やつはいつもと変わらない態度で俺を見るのだ。 「何ボサっとしてんだ、準備しろハジメ」 「行くぞって……まさか……」 「飯に決まってんだろ。わざわざ予約取ったんだ、さっさと行くぞ」 「あ……っ!おい、ちょ……っ!」  この流れでかよ、つかさっきのキスについてはなんもねえのかよ。  言いたいことは色々あったのに岩片に引っ張られ結局あれよあれよと車に乗せられた。  そして、現在に至るわけだが。  隠れ家的人気店の個室、俺は岩片が用意してくれたコース料理を食べていたが正直味がしない。向かい側に座る岩片は「案外悪くねえな」とか偉そうなこと言ってはもりもり食ってるし、つーかよく対面で座れるな。車の中でも政岡のことにも、キスのことにも触れるわけでもなく、まるで俺一人わけわからない状態になっていた。 「おいハジメ、全然箸が進んでねえじゃん」 「……まあ」 「口に合わなかったのか?」 「んや、すげー美味い……と思う」 「なんだよ、思うって」  こいつはわざと聞いてるのだろうか、それとも本当に忘れてしまっているのか。どちらにせよ質が悪い。 「……あんなことあったあとで飯の味するわけねーだろ」  そう、ぽつりと口すれば岩片はほんの一瞬だけ手を止めた。そして、分厚いレンズ越しその下の眼が俺の方を向いたことに気づく。 「なるほど、お前は俺にキスされたせいで俺のことが気になって気になって飯どころじゃねえと」 「……っ、普通誰でもそうだろ、つか……お前、お……俺のことが好きなの……?」  口にして後悔した。こんな、こんなこと聞いたってどうしようもないってわかってるのに、つか俺もなんでこんなに動揺してんだ。 「好きだ」 「……まあ、じゃねえとここまで俺の面倒見てくれないだろうしな」  おまけに岩片も岩片で仕事はともかくプライベートではなかなか偏りがある変人だというのは知っていたし、そんなやつがここまで手をかけてくれてるのだからそりゃ他のやつらよりかは一目置かれてるとは思っていたが……。そう一人納得しようとしたとき、テーブルの下、こつんと脚を蹴られた。 「おい、行儀……」 「言っておくが俺の好きってのは俺は別にお前とならキスでもセックスでもできるって方の好きだからな」 「………………………………………………は?」 「じゃねえとキスしねえだろ普通、ハジメお前は本当おめでたい頭してんな」  ………………いや、いやいやいや。さらっととんでもないこと言ってないかこの人。  飯どころじゃない、思考停止、言葉も出ねえ。どんなバラエティの無茶振りトークよりも高威力の爆弾告白に俺はもうなにも考えられなかった。 「っ、待て、お前……今まで一度もそんなこと……っ!」 「だから今言った」 「……いや、それは、そうだけどな……」 「なんだよ」 「…………い、いつから……」 「あ?」 「い、いつから……俺のこと、その……」 「初めて見たときクソ生意気そうだって思った。そん次、思いの外努力家で俺の言うこともちゃんと聞いてくれてすげー犬みたいで可愛いと思った」 「っ、……岩片……」 「俺は公私混同したくねえからずっと言わなかったけど、お前のことは目に入れても痛くもねえよ。……けど、あんたわけわかんねえやつに奪われるくらいなら……」  言い掛けて、岩片は言葉を飲む。  俺は、もう完全に手が止まってた。どんな顔してるのか、取り繕う余裕もない。 「……奪われるくらいなら、俺のものにした方がましだって思ったんだよ」  こんな岩片見たことない。不遜で偉そうでいっつも余裕ぶってて、それで常に近くにいてくれた。  言葉を探してる。吐き出すようなその言葉に胸の奥が再びじわじわと熱を持ち始めるのだ。  告白と言うにはあまりにも不純だし、横暴も甚だしいが、それでも岩片の本音を聞いたのは初めてな気がする。  けど、けれどだ。待ってほしい。大事なことを忘れている。 「……っ、ま、待てよ、なら政岡は……あいつは本当にただのその、友達っていうか……本当になんもねえから!」  ……そう、そこなのだ。岩片の気持ちを知れたのも嬉しいが、それとこれとはまた別だ。いや、同じなのかもしれないがあいつにしてきた無礼とこれは別問題になる。 「……友達な、だとしても俺はあんなやつがお前の部屋に行ったこと自体が許せねえんだわ」  あんな告白を聞いたあとでこんなことを言われてみろ。嫉妬、なわけないよな。と言い切れない現状、俺が女ならまだしも野郎だ。なんだこの展開は、なんだ、明らかに俺のポジショニングおかしくねえか。 「いや、それはだな」と必死に言葉を探していたとき、伸びてきた岩片の手に固めていた拳を握られてぎょっとする。 「い、岩片……っ」 「呆れるか?公私混同しないとかほざいたくせにって」 「そ、そーだぞお前……っ!いくらなんでも勝手が……っぅ……」 「言っておくが先に俺に嘘を吐いたのはお前だ、ハジメ。……こんなことが二度とないようにお前にも然るべきペナルティを与える」 「は、な……」 「暫くは俺の監視下にいてもらうからな」 「か、監視下って……」 「俺の部屋とお前の部屋、どっちがいい?好きな方選べよ」 「いや待て話が見えねえし……」 「お前の周りに悪い虫が寄らないようプライベートも共に行動させてもらうぞ」 「猿でもわかるように言ったんだ、これならわかるだろ?ハジメ」離れる手のひら、そこにいるのは先程までの岩片ではなく完全にマネージャーの顔した岩片がいた。  いや、岩片と一緒に生活するってことか?あんな告白聞いた上で?……いやいや、いやいやいやいや。 「……因みに拒否権は?」 「あるぞ。けどその場合は……」 「その場合は……?」 「お前の部屋と携帯に監視カメラと盗聴器、GPS、を仕込ませる。それと政岡零児の方にもな」 「んな……ッ!」 「さあどうする?好きな方を選べ」  にやりと笑う岩片。  こいつ、俺がどちらを選ぶかわかった上でこんな二択を用意したんだ。元々性根が腐った男だと思っていたがまさかここまでとは思わなかった。 「……っ、お前……大人げないぞ」 「ハジメのためを思って言ってんだ。安心しろ、俺は紳士だから泥酔したところを襲うような真似はしねえよ」 「このやろ……」 「で?どうすんだ?」  わかっててわざわざ念を押して聞いてくるこの男に俺は内心舌打ちをした。 「……因みに期限は」 「まあ、ちゃんと大人しくするんなら一週間で許してやる」 「わかったよ、やりゃいいんだろ、やりゃ」 「……一週間、お前んちに行く。その代わりにもう政岡にちょっかいかけるようなことすんなよ」そう睨めば、岩片は「お前次第だな」と目を伏せて笑うのだ。   ああ、なんでこんなことになってしまったのか。  何もかもが悪い方向に行ってる気がするが一週間の辛抱だ。岩片の束縛から逃げれた暁にはこっそり政岡に謝りに行こう。  ……というか向こうも向こうも面倒そうだしな、あの能義とかいうやつ。どうしたものかと俺は一人溜息を吐いた。  ◆ ◆ ◆  初めて訪れた岩片の自宅は予想の斜め上だった。  所謂富裕層の閑静な住宅街、そして更にその中心部、一人暮らしにはあまりにも贅沢すぎるその一軒家の門を開き、車庫へと入車させる岩片に俺は終始言葉を失っていた。 「降りろ、着いたぞ」 「こ、ここ……まじでお前んちかよ……」 「他人の家に連れてくるわけねえだろ。普段は遠いから基本空けてんだけどな、いくらなんでもお前までホテル借りさせるわけにはいかないだろ」 「いいから降りろ」と呆然としてるところを半ば強引に引き摺り出された。  何者なんだ、こいつ。普段事務所のベンチでうたた寝してるかビジネスホテルとってるってのは聞いていたが、こんな良いところに住んでるなんて聞いたことないぞ。狼狽えながらも家の中まで通される。俺の家の実家の何個分だ、つか庭広。 「天井たっけえ……」 「お前の住んでるところも高いだろうが」 「や、でも、それでもここ……え、まじで一人暮らしなわけ?しかも不便だからってホテル生活?……も、勿体ねえ……俺ならずっとここ住めるぞ」 「じゃあ住むか?」  なんて、さらりと問い掛けられ俺は口を閉じた。そんな俺を見て岩片は笑う。 「ほら、上がれよ。一応ハウスクリーニング依頼しといたから綺麗にはなってるはずだぞ」  何を言うわけでもなく歩いていく岩片。俺は少しだけ待って、その後を追いかけた。  これから一週間岩片とずっと一緒なのか。  あまりにも広く綺麗な内装にはしゃいでいたが、そうだ。俺は今日からこの男と一つ屋根の下なわけだ。  ……それも、俺のことを好きだとか抜かすこの男とだ。  取り敢えずペナルティという理由で深く考えずにここまで来てしまったが、今になって軽率なことしてしまった気がしてならない。 「取り敢えず全部好きに使っていいから、お前の部屋は二階の上がってすぐの部屋な。欲しいもんあるなら言えよ」 「おう……」 「おい、なにびびってんだよ」 「……ビビってなんか……っ…………いや、お前はさ……平気なわけ?」 「なに?寝込み襲われないか心配?」 「そ、そこまで言ってねえだろ!」 「お前の部屋内側から鍵かけれるようになってるから寝るときはちゃんと掛けろよ、そうすりゃ余計な心配せずに済むだろ」 「……っ、岩片……」 「監視下に置くとは言ったが常に俺といても休まんねえだろうし、この家にいる間は好きにしろ。……別荘に遊びに来たと思えばまだ楽だろ」 「……わかったよ」  なんだよ、こいつ。まじで何考えてんのかわかんねえのな。……俺のことを好きとか言っては政岡のこと怒るし、そのくせ自分のことを信用するなみたいにも言う。わけわかんねーけど、ペナルティの意味あんのか自分でも最早わからない。  そもそも岩片のことを嫌いになれない俺も俺なのだろう。考えるのをやめ、俺は休暇に専念することにする。  ◆ ◆ ◆  岩片は約束を守った。  あのときのキスも告白も嘘みたいに今まで通り、それでも家を出たときは常に俺の隣にいて政岡が接触してこないかを見張っているかのようだったが、それくらいだ。  仕事が詰まってるときは動きやすいように仕事場の近くのホテルを取り、そうでなければ岩片の自宅へ帰る。  案外心地良いのが余計もやもやした。あいつは強引だけど、その分俺が快適に過ごせるようにまさに至れり尽くせりというやつだ。  今日の仕事が終わり、さあそろそろ帰ろうかとしたときだった。 「すみません、ちょっといいですか?」 「ん?」  若手のスタッフが岩片を呼び止める。  つられて立ち止まれば、何やら深刻そうな顔をしたスタッフが「あの……」となにかを岩片に耳打ちしてる。  何かあったのだろうか、と通路の隅に行ってる二人を横目に手持ち無沙汰になっていたときだった。いきなりものすごい力で腕を掴まれた。  ぎょっと顔を上げればそこには……。 「ま……ッ!」  政岡、とその名前を口にする前に政岡に口を掌で覆われる。もが、と息苦しくなる俺に、政岡は申し訳なさそうに顔を顰めた。 「悪い尾張、少し我慢してくれ」  耳元で囁かれるその声にぎくりとするのも束の間、あっと言う間に政岡に近くの空き部屋に連れ込まれる。  そして、ようやく手が離れたかと思った次の瞬間だった。 「お……」 「っ、悪かった!」   おい、と俺が口を開くよりも先に政岡は頭を下げるのだ。俺はもう驚いた。政岡が俺に会いに来たということもだが、こんな風に謝ってきたこともだ。 「ま、政岡……」 「俺、酔ってたときお前に……その、なんかやっちまったんだろ?!……悪い、まじでごめんって謝ればいいって問題じゃねえってわかるけど……その……あの、そのだな……っ、ずっとちゃんと謝りたかったんだ」 「いや、もう終わったことは気にすんなよ、俺も別にそんなに気にしてねえから。つか、寧ろこっちこそうちのマネージャーが勝手なこと言って悪かった」 「お前が謝る必要なんてねえだろ!悪いのは俺と、あのクソモジャモジャ野郎と有人だ!」 「あの野郎、どんだけ変装してもあいつ見抜いて警備員呼んでくるし、有人の野郎もあのクソモジャと組みやがって俺とお前を意地でも接触しねえよう邪魔してきやがる」そう唸る政岡になるほど、と俺は頷いた。  岩片が目を光らせてるのは知っていたがやはりそういうことだったのか。 「もしかして、さっきのスタッフ……」 「ああ、俺が用意したんだよ。これでしばらくあいつは戻ってこれねえはずだ」  バレたらどうするかとか考えているのだろうか、あまりにも無茶をする政岡にはヒヤヒヤさせられる。ここまで俺に会いに来てくれる政岡の好意が嬉しくないわけではない。けれど、けれどもだ。 「あれからお前は大丈夫だったか?あの野郎にまたネチネチ虐められたりしてねえだろうな」 「それはない、大丈夫だ。……つか、それよりもそのだな……」 「……お?」 「暫く、お互いのためにも会わないほうがいいかもしれねえ。……俺は大丈夫だけど、あいつお前のことになると何しでかすかわかんねえし。また、迷惑掛けるかもしんねえ」  俺の方は一週間我慢すればいい問題だが、下手すれば政岡のこれからの仕事にまで影響及ぼすかもしれない。そう考えるとこれ以上政岡に迷惑掛けることはしたくなかった。 「それは、あの野郎にそう言えって言われたのか?」 「そういうわけじゃねーよ、俺が考えた結果だ。……俺もあいつらの言いなりに癪だけどほとぼりが冷めるまでの辛抱だと思えば……」 「ぜってーやだ」  即答だった。  政岡、と顔をあげようとしたときだ。肩をがしっと掴まれる。 「ま、政岡……?」 「周りの奴らが何言おうが俺らの勝手だ」 「でも、もしお前の仕事に影響出たら……」 「ああ上等だ!推しが推せずになんのための仕事だぁ?!んなもんこっちから願い下げだ!」 「ちょ、声でけ……」 「言っとくが尾張、俺はあんな生温い脅しや紙切れ一枚で屈したりしねえぞ」 「……ッ、政岡……」  一番最前列で応援してきてくれた政岡だからこそその言葉にじーんと来てしまった。  政岡はいつだって俺の支えになってくれた。確かに色々あったが、事実お陰で俺はここにいるのだ。 「あのクソダサ眼鏡野郎が怖えんなら俺が直々にお伺いを立ててやる、これ以上勝手なこと抜かすんならこっちにも考えがあるってな」 「へえ、考えってなんだ?」 「そりゃ決まってんだろ、俺が……ってテメェクソモジャださクソ眼鏡!!」 「い、岩片……!なんでここに……!」 「そりゃあぎゃあぎゃあ廊下まで聞こえるようなクソうるせえ声で騒いでたら来んだろ普通」 「……つーか、あんな大根役者雇って俺の目を眩ませられると思ったそのめでてえ脳味噌がすげーわ」いつの間にかに部屋の中、俺達の背後にいた岩片はそう冷ややかに笑うのだ。背筋が凍る。しかしここはなんとか誤魔化さなければ。そう岩片、と呼ぼうとしたときだった。 「ああそうかよなら丁度いい、こっちもテメェに用があったんだよクソマネージャー」 「ちょっ、おい政岡……」 「テェのそれはアイドルを守るためのそれとは掛け離れてる、行き過ぎた独占欲で縛り付け挙げ句の果に意思も無視するようなやつがこいつの側に居続けるのは我慢できねえんだよな」 「……」 「おい、落ち着けって政岡。岩片も、取り敢えず場所を……」  こんな人目のつかない場所じゃ逆に不安になってくる。今にも掴みかかりそうな二人の間に入り政岡の射程圏内に入れないよう引き離そうとしたときだった。伸びてきたのは岩片の手だった。  政岡に伸ばされると思ったその手は俺の後頭部に回される。そして。 「……ッ、な、んむっ」 「お゛……ッ?!」  ちゅう、と音を立てて吸われる唇に、熱に、一瞬頭が真っ白になる。抵抗することも忘れていた俺だったが、すぐに岩片は唇を離した。  そして、政岡に向き直るのだ。 「人の恋人に手を出してるやつが俺達のことに口出すんじゃねえよ」 「お呼びじゃねえんだよ、間男野郎」と、一言。凍り付く政岡と全く表情すら変えない岩片、そして真っ白になる俺。  月九も裸足で逃げ出す最低最悪の三角関係の火蓋が今切られたのだった――。 【次回予告】 「マネージャーとアイドルが付き合うってそんなの嘘だろ、なあ、嘘って言えよ尾張……ッ!よりによってこんなクソ野郎……ッ!」 「嘘みたいなめでてえやつが何言ってんだろうな。ハジメ、酒の勢いでファンとアイドルの一線越えやがったやつ、まともに取り合う必要ねえからな」 「おい、頼むから俺を挟んで喧嘩するなよ……」  ――三角関係。 「なあ、岩片。なんであんなこと言ったんだよ、もし政岡に垂れ込まれたらお前だってやばいだろ……っ!」 「ムカついたから」 「はあ?」 「俺のアイドルを汚したやつだけは許せねえんだわ、わかるだろ?」 「……っ、わかんねえよ、そんなの……」  ――ずっと一緒にいた相手からの求愛。 「お、尾張……違うよな、あいつの言ってること……全部でたらめだよな……っ?」 「政岡……悪い」 「……ッ、尾張」 「俺のこと嫌いになってくれても構わない。……だから、これ以上俺と関わら……ッ、な……」 「……嫌いになれるわけねえだろ、お前は俺のアイドルで、俺はお前が幸せならそれでいいと思ってる。……けど、んな面してるやつが幸せには見えねえんだよ」 「政岡……ッ」 「……俺じゃ、駄目なのか」  ――アルコールなしで推しとファンの一線を越える……?! 「あの零児がここまで嵌まり込むとは、興味深いですね」 「……っ、お前……」 「これ、なんだと思います?……ええ、貴方とマネージャーさんのキスシーン。こちらとしても名誉がかかってるんですよ、この写真を流出されたくなければ相応の口止めをしていただかなければ」  ――陰険ねちねちナルシスト顔だけいい男。 「……待ってください、五条。この陰険ねちねちナルシスト顔だけいい男というのはまさか私のこと言ってるんですか?これ貴方の主観大いに入ってますよね。せめて『――迫りよる魔の手』とか他にもそれらしいものがあったでしょう、待ちなさい五条!!五条ーー!!!!」 (※続きません)

【総集編版】推しの家でサシ宅飲みすべからず:後編※【↑100/12,000文字/マネージャー岩片+先輩アイドル政岡×尾張前提尾張総受け後日談】

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馬鹿アイドルパロ好きです!どうか続きを……!!

えぬ


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