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田原摩耶
田原摩耶

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終電逃してラブホに行く√α栫井×齋藤※【↑100/5,300文字】

 傷付いた野良猫のようだと思った。酷く人間を警戒して爪を尖らせて構えてる、その体はボロボロで、餌を差し出しても食べようとしない野良猫。  そんな野良猫が、俺の手から餌を食べてくれるようになった。そんな風に考える度にこれはすごい進歩なのではないかと思うのだ。  隣で眠る栫井の体重を肩で感じながら俺は動けないでいた。空いた電車の中、とっくに目的の駅は過ぎてしまっている。それでも俺は眠る栫井を起こすことも出来ないままここまで来てしまったのだ。  本当、何やってるんだろう。俺。  とっくに外は真っ暗で、終点の駅まで来てしまった俺はそれでもまだ栫井を起こせずにいた。けれどそれもすぐに終わる。駅員さんに声をかけられ、俺はそこでようやく栫井の肩をそっと揺するのだ。 「栫井、起きて、もう終点だって」  何度かそう声をかければ、ぴくりとその薄い瞼が反応した。そして、ゆっくりと開かれる目は恨めしそうにこちらを睨むのだ。 「終点……?」 「ご、ごめん……寝過ごしてたみたいで……」 「…………」  嘘だ。本当はずっと起きてた。肩に感じる栫井の重みのせいで眠るフリすらできなかった。  それでもまだ覚醒しきっていない栫井は辺り、俺たち以外乗客のいない車内を見て理解したらしい。舌打ちをし、のそりと立ち上がるのだ。 「これ、最後だよな」 「う、うん……ごめん」 「……最悪」  軽くなった肩に少しだけ寂しく感じるなんて、もっぱらおかしな話だ。ずるずると足を引きずるように電車を降りる栫井に続いて俺は無人のホームに出た。  最終列車を乗り過ごした俺達はそのまま知らない街の知らない駅から出たのだ。 「……栫井、あの、本当にごめん……」 「しつけえんだよ、つうか、お前どこまで着いてくんの」 「え?」 「学園、帰るんだろ。……タクシー呼べばいいだろ」 「……そ、れは……」  確かにそうだ。俺は学園に帰る、けれど栫井は学園に戻れない身だ、行ける場所も限られてる。 「か、栫井は……どうするの?」 「別に、どうだっていいだろ」 「っ、……俺も……」 「は?」 「俺も、栫井といる……」  このまま栫井を一人にするのが心配だった……というのは口実だ。本当はもう少しだけ栫井といたかった。栫井は咥えようとしていた煙草を箱に戻すのだ。  そして、呆れたように溜息を吐く。 「……お前、馬鹿だろ」 「う……」 「つか……意味わかんねえし、志摩亮太がまたギャーギャー騒ぐぞ」 「それは……」  確かに。一応電車に間に合わないかもしれないとは伝えていたけれど志摩のことだ、今更携帯を見るのが怖くなって口籠る俺に、栫井は面倒臭そうに頭を掻いた。そして。 「っ、ぁ……」  手首を掴まれる。冷たい指先の感触に驚いて顔を上げれば視線がぶつかった。 「もっとましな誘い方しろよ」 「っ、さ、さそ……っ」 「行くぞ」 「ぁっ、ちょ……待って……栫井……っ!」  誤解されてる気がする。とてつもなく。けれど、握り締められた手を振り払うことができなかった。それでもいいや、一緒にいられるなら。そんな風に思ってしまっている自分の思考も相当毒されてるのだろう。 「っ、は、……っ、か、栫井……待って……ッ! ここって……っ」  無人のロビーでチェックインを済ませ、当たり前のようにエレベーターに乗り込む栫井にぎょっとする。というか外に休憩3時間なんたらという文字が見えたがまさかここは。 「ラ……ラ、ラブ……」 「誰かさんのせいで終電逃したんだから仕方ねえだろ」 「う、で、でも……」 「じゃ今から帰れよ」  なんで、なんでこういう言い方しかできないのだろうか。そのくせ俺の手を離そうとしないし。冷たい栫井の目に俺は何も言えなくなる。 「か…………帰らない」 「…………あ、そ」  エレベーターが着く。エレベーターから降りた栫井はそのままさっさと歩いていくのだ。  慣れているのか、この街にきたことあるのか、慣れた足取りで部屋へと入る栫井に俺は『まさか何度か来たことあるのか』と余計な勘繰りまでしてしまう。……相手は栫井だ、正直ありそうだな……。なんかもやもやしてきた。というか、やっぱここってそういう場所なのか……。  玄関の前、一人ぐるぐる考えていると、「さっさとドア閉めろよ」と栫井に言われて慌てて扉を閉めた。ぱたん、と扉が閉まる音を最後に静まり返った部屋の中。ベッドに腰を下ろした栫井と目が合ってしまいその場に縫い付けられたように動けなくなった。 「いつまでそこにいんだよ」 「……っ、ぁ……えと……」 「期待しすぎ」 「っ、ち、が……だって、この部屋……変だよ……」  自分でも変ってなんだよ、と思ったが他に言葉が出なかったのだ。性行為をするためのホテルだとわかった途端、部屋の中にあるもの、漂う空気すべてがそういうものにしか見えなくてそんなものに囲まれてまともでいろっていう方が難しい。顔が熱くなる。栫井はなんだよそれ、と呆れたように鼻で笑い、そして煙草を咥えて火を付けるのだ。 「……で、ずっとそこにいんのか」 「っ、……」  栫井はずるい。来いよ、と言われれば従うのにそうしない。前の栫井だったら無理矢理引き摺っていただろう。それでもそうしないのはわかってるからだ。  一歩踏み出す、部屋の中に漂う煙草の煙、その甘い匂いに余計頭がクラクラするようだった。  栫井の隣に腰を下ろす。近いかな、と思って隣にずれようとしたとき、伸びてきた手に手のひらごと握り締められるのだ。  驚いて振り返れば、すぐ鼻先に栫井の顔があった。待った、この距離は、そう逃げる暇もなかった。視界が陰る。不味い煙草の味が広がる。  身構えていた俺だったが、存外優しく触れるだけのキスに拍子抜けして思わず目を丸くした次の瞬間いつの間にか後頭部に回された片方の手に髪を撫であげられる。 「か、かこ……っ、ん、ぅ……っ」  当たり前のように二度目のキスをされる。いやこれは寧ろキスというよりも……。 「っ、ん……ッ、ぅ……む……ッ」  噛み付くように唇を舐められ、思わず口を開いてしまえばそのまま舌を絡め取られるのだ。  角度を変え、長い舌で根本から先端まで深く舌を絡められれば口の中響く濡れた音、混ざる吐息にあっという間に脈は乱れる。  駄目だ、こんなこと。いや、ノコノコホテルまでついてきて駄目だというのもおかしいのか。思いながらも、髪を撫でられればその指先が心地よくて思考が乱されるのだ。 「っか、こい……」  もっと触れてほしい、優しくしてほしい。なんて、言ったら鬱陶しがられるだろう。それでも心が反応してしまうのだ。恐る恐る栫井の指に触れれば、栫井はそのまま指を絡める。 「……それ、あいつにもしてんの?」 「あ……いつ……?」 「志摩亮太」 「っ、それは……そんなこと……」 「……ふーん」  一瞬、その口元が緩んだ気がした。煙草の火を灰皿に押し付けた栫井はそのまま俺の耳朶を撫でる。耳の穴を広げるように軽く引っ張られ、擽ったさに思わず固まったとき、栫井はそのままふっと耳に息を吹き掛けるのだ。 「っ、ぁ……な、に……ッ」 「あいつとホテル行かないのかよ」 「行く、わけない……よ……普通……っ」 「……ふーーん」 「栫井……そこ、いやだ……っ擽ったい……」  耳朶の溝を這うように撫でられるだけでぞわぞわと胸の裏側までもがむず痒くなるのだ。腰を引き、逃げようとする俺を捕まえて更に栫井は耳朶に唇を押し付けるのだ。 「……あいつ、怒るんじゃねえの。こんなの知られたら」 「ッい、わないで……志摩のことは……」  栫井が笑った。悪い顔して、楽しそうに。 「なら、口封じしろよ」 「っ、……」 「始発まで時間はあるしな。……そっちのが、暇潰しにもなるだろ」  楽しそうに笑う栫井にろくな思い出はない。血の気が引いたが、ここまできたからにはもう俺も半ばヤケクソだった。そっと栫井に顔を寄せる。 「ほ……本当に、言わないでよ? 志摩、余計に心配するから……」 「ああ、知ってる。うぜーくらい」  恐る恐る触れるだけのキスをしたとき、伸びてきた腕に腰を抱かれる。  暗転。気付けばホテルの天井が視界に広がる。そして、覆い被さってくる栫井は冷たく笑う。若気の至り。惚れた弱み。後付の理由はなんでもいい。胸元を掴み上げられ、そのまま貪るようなキスをされながら俺はなけなしの理性を手放すことにした。 「っ、ぁ、あ……っ、ゃ、か、こい……ッ」 「声、うるせ……」 「ごめ、っ、んなさ……ッ、ぁ、ッ、ひ、……ッ!」  腹の中を行ったり来たりする性器の這う感触に何も考えられなくなる。熱い。硬く勃起した性器を深く挿入されたままぐりぐりと腰を押し付けられるだけで頭の奥がビリビリと痺れ、出したくもないだらしない声が開いたままの喉奥から漏れてしまうのだ。咄嗟に枕にしがみつき声を殺そうとするが息が苦しい。栫井、栫井、と藻掻く俺の顎を掴み、無理矢理顔を上げさせた栫井はそのまま口を塞ぐように舌を挿入してくる。 「ぅ゛ッ、ふ……ッぅ、ぐぅう……ッ!」  舌で口の中を舐め回される。逃げようとする腰を捉え、更にぐりぐりと亀頭で突き当りを執拗に潰されるだけで爪先まで電流が走ったように頭が真っ白になり、獣じみた声が喉から溢れるのだ。 「……ひでぇ声」 「っ、だっ、て……っ、ん、ぅ……あっ、待っ……か、こい……っ!」  ぐちゅ、と潰れるような濡れた肉の音が響く。備え付けのローションのお陰で恨めしいほど挿入はスムーズで、腹の中抉じ開けるようなピストンに俺はベッドシーツにしがみつく。 「っ、ん、うッ! ……ふ、ぅ……ッ!」 「齋藤」 「ぁ、ッ……待っ、ぁ゛ッ! ぁ、栫井……ッ、ぃ、……そこ……っだ、め……ッ!」  栫井、と口を開いた瞬間一気に貫かれ、言葉を失った。うつ伏せに倒れようとした体を抱き起こされ、更に下から突き上げられ、女みたいな声が喉から出てしまう。 「っひ、ッ! ぁ、や、かっ、栫井……ッ! 栫井、だめ、ッ、栫井……ッ!」 「だから、声うるせ……」 「そ、んなことッ、ぉ、……ッ! んっ、ひ、ィ……ッ!」  逃げたいのに逃げられない。  激しさを増すピストンに耐え切れず逃げようとするが腰に回された腕がそれを許さない。許容オーバーの快感に耐え切れずガクガクと痙攣する下腹部は最早自分の体とは思えない。それでも脳髄を直接犯すほどの快感は確かに俺のものだから余計混乱するのだ。 「っ、ぅ゛あっ、ぁ、や、だッ栫井っ、俺、……っぉ、れ……ッ!」  イク、と声を出すよりも先に何かを察知したみたいに栫井に唇を塞がれる。唾液で濡れた唇を舐められ、舌ごと吸われながらもピストンは激しさを増していく。宙を向いた性器は揺れ、既に限界に近いと自覚していた。ゆっくり、ゆっくりしてくれ。そう訴えかけるが気付いてか栫井は更に腰を進めてくる。そしてみっちりと腹の奥まで一気に貫かれたときだ、栫井が腰を止めたと思った次の瞬間中で弾ける熱に思考が塗り潰される。  どろりとした精液が自分の性器から垂れた。僅かにできた隙間から精液混じりのローションが垂れ流れた。お互いの吐息が混ざり合う。俺達はどちらともなく舌を絡めた。  ◆ ◆ ◆  やってしまった、と後悔するのは何度目だろうか。  風呂に入るのも忘れて力尽きて目を覚ませばベッドの上。咄嗟に栫井の姿を探せば、遠くでシャワーの音が聞こえた。……どうやら風呂に入っているようだ。  不思議と以前のような不快感や恐怖よりも今は充足感に溢れていた。俺の頭と体も単純な造りなようだ。それ以上に昨夜のことを思い出してもぞ、と反応し始める自分の体に血の気が引いた。  確かに気持ちよかったけど、気持ちよかったけど……。思いながらも必死に己を鎮めていたとき、シャワーから出てきた栫井と鉢合わせになる。 「……風呂、入るなら入れよ。電車も動き出した。帰るぞ」 「う……うん、わかった……」  昨日はあんなにべたべた触れてきたくせにこれだ。今更どんな顔して栫井を見ればいいのかわからなくてこそこそと逃げるように栫井の横を通り抜けたときだった。濡れた手に腕を掴まれる。 「か、こい……っ?」 「…………延長するか?」 「っは……」  何を言い出すんだ、と固まる俺を無視して唇を重ねてくる栫井にぎょっとする。栫井、とその胸を押し返したとき、そのまま頬を触れられた。 「さっさと入ってこいよ、待ってるから」  こういうときばかりだ。俺はもうなにも言えなかった。そして、栫井から逃げるように慌てて風呂場に飛び込んだ。心臓に悪いが、あの言葉を聞いたあとこうして念入りに体を洗ってしまっている自分も恥ずかしくて、俺は暫く風呂から上がれずにいた。  そして逆上せてしまったところを遅すぎると様子を見に来た栫井に発見されることになったのはまた別の話だ。  おしまい


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