二章後ユアン×伊波のバレンタインSSS【↑100/2,300文字/キス】
Added 2020-02-10 10:41:01 +0000 UTC「ヴァレンタインだと?馬鹿馬鹿しい、低俗な人間らしい浅ましく俗物的な儀式だな。感謝の心だと?貴様が感謝すべきは貴様のような無価値な人間をこうして生かしてやっている俺ただ一人だろう」 ――なあ、曜。 そう、血の気のない唇を歪め、凶悪な笑みを浮かべる獄長――いや、元獄長現拷問科教師ユアンを見上げたまま俺は固まっていた。 何故こんなことになったかといえば、元はといえば俺は黒羽や巳亦、テミッドなど世話になった人に個人的にチョコや甘いものをプレゼントしていっていた。その途中、この男に出会ってしまったのだ。そして抱えていた袋いっぱいの菓子たちごと奪われる。回想終わり。 「か、返せよ!」 「返してほしければもっとその短い足をばたつかせて飛んでみればいい。ああ、愚鈍で醜い人間は跳躍することも羽も生えないのか。ここまで来ると一層哀れだな。おまけに媚びることしか能がない」 言いながら袋の中から菓子袋を取り出すユアンはそれに鼻を近付け、訝しげそうに眉を潜めた。 「……なんだこの嗅いだだけで鼻腔の粘膜から焼け爛れてしまいそうなほどの甘ったるい匂いは」 「そ、それは……グレア先生への……」 「グレアだと?何故あの男にまで貢ぐ必要がある。理解できんな。…………それで?俺への貢物はどれだ、貰ってやらんこともないぞ」 「あ、あるわけないだろ!なんでお前なんかに用意すると思ってんだ!」 「……なに?」 なんだ、こいつ本気で自分がもらえると思っていたのか?どんだけ自意識過剰だ、呆れて何も言えなくなる俺に、ユアンの表情から笑みが消えた。 「貴様、あの低レベルな魔道士には用意しておいて俺にはないだと?不敬な……いま直ぐその認識を叩き直してやらねばならんようだな、俺への敬意が足りんぞ糞餓鬼……!」 「あっ、ちょ、おい、何勝手に食ってんだよ!」 「ぐ……なんだこの甘ったるさは、吐き気がする……まさかこれでグレアの奴を謀殺するつもりだったのか?」 「な、わけないだろ……!まずいなら食うなよ!か、返せって!」 せっかく甘党なグレアのためにとびっきり甘いお菓子の専門店を探しにわざわざグリッター通りまで足をはこんだというのに!この男はまずいまずいとボロクソ言っておまけにぽいっと捨てやがった。俺の怒りは有頂天だ。 「……実に不愉快だ。貴様、わざとやっているだろう。契約さえなければ貴様みたいな下等生物、ボロ雑巾のように刻んでやるところだ」 「そ、そうやってまた俺に手を出してみろ!和光さんに言いつけてやるからな……!」 「止めろ、貴様あの男の名前を出すな!」 どうやら和光たちに能力を奪われたときのことを思い出したのか過剰反応を示すユアンに俺は今だ!と飛び掛かった。そしてその手から菓子たちを奪い返したとき、そのまま俺はユアンから逃げ出そうとし――呆気なく首根っこを掴まれる。 「……愚かな、恨むならその短い手足を恨むことだな」 「う、は、離せ……っ」 「元はといえば全部貴様のせいだ。……口直しまでが貴様の役目だろう?」 いきなり体が浮いたと思えば猫かなにかのように首根っこ掴まれたまま掴み上げられる。苦しさよりも足が地につかない方が怖かった。くそ、手を離せばお菓子をまた取られる。これだけは死守しないと!せっかく皆の好みを調べてわざわざ選んできたんだ。そう、ぎゅっと目を瞑って身構えたときだった。 ふわりと甘ったる匂いが広がった。 え、と思った次の瞬間、唇に冷たい感触が触れる。この感触には身に覚えがあった。 これは、これは……まさか……。 「っ、ん、ぅ……っ、や、っ、はな、……っ、む、ぅ、……ッ!」 キスされてる。ユアンに。 冷たく、蛇のように長い舌に唇を無理矢理開かされ、口内をグチャグチャに表されるのだ。 足をバタつかせるが、くそ、ユアンの言うとおり俺がもう少し足が長ければ……! 「っ、や、ぁ……ッ、ん、……ッ、ふ……ッ!」 「……っ、は、菓子など下らんな。……最初から……っ、貴様の身を差し出しておけばいいものを」 「っ、ん、や、めろ……っ!ゃ、……っこの……ッ!」 必死にやつの腕から逃げようとばたつかせていた体を捕まえられ、抱き締められるように更に深く唇を絡め取られる。気持ちよくない、気持ちよくない、そう言い聞かせながらもユアンの胸をバシバシ叩くがこの男、顔色一つ変えやしない!化物か。化物だ。 「っ、ふ、……っん……ッ、ぅ……ッ」 「声が甘くなってきたな。貴様は随分と咥内が弱いようだ。犬のように唾液を垂らして、浅ましい貴様らしい表情になってきたな」 「っ、ふ、ざけるな……エロ、教師……」 「ッは、ほざいていろ。こんな菓子よりは貴様が一番『マシ』だと言う話だ。……よもやそれを理解して俺への貢物を用意しなかったのか?」 「んな、わけ……っ、ぇ、……ッ」 「まあどちらでも良い。……これだけでは全然足らんな」 言いながら、人を抱きかかえたまま歩き出すユアンに血の気が引いた。 「お、おい!どこに……っ!」 「口直しだ。不味い貴様の肉でも多少は役に立つだろう。精々、俺を愉しませることだな」 「な……――ッ」 「そうすれば、今日のところはこの菓子も返してやろう」 この男、あんだけ厳重に注意されても全く変わらない!寧ろ反省するどころか余計開き直ってないか?! したり顔のユアンに俺は気が遠くなるのを感じた。 そして数時間後、動けなくなる代わりに無事俺は開放されたのだった。ぺいっと投げられる菓子袋、大事なものを取り戻した代わりにまた大事なものを失ってしまった――。 おしまい