黒羽の留守中黒羽分身と留守番する伊波SSS【↑100/4,900文字/黒羽×伊波/いちゃ】
Added 2020-01-03 11:54:35 +0000 UTC「伊波様、自分がいない間は見知らぬ者についていかないこと、それといくら知人であろうが二人きりにならないこと、人気のない場所には近づかないように。……約束できるか」 「く、黒羽さん……わかったってば、何回目だよ……」 「そう言って何度危険な目にあったか……私は貴方がただ心配で、本来ならば自分が側にいて御守するのが役目だというのに」 「和光さんから呼び出されたんだから仕方ないよ。ほら、早く行かないと怒られるよ」 「い、伊波様……しかし……むう……」 余程俺を一人にすることが気掛かりのようだ。 部屋から出る用事もないので黒羽が帰ってくるまで大人しくしてるといってるのに、この調子だ。 最初、黒羽が帰ってくるまで部屋ごと結界で封印して誰も入れないようにすると言い出したときに比べてはまだ譲歩してくれた方だ。 けれど黒羽的にはやはり心配なのだろう。険しい顔して考え込んでいた黒羽だったが、不意に何かを思い付いたようだ。「わかりました」と静かに頷いたときだ。俺は黒羽の影が蠢いたのを見た。 「え?」と顔を上げたときには黒羽の隣には黒羽と同じくらいの大きさの黒い人影が立体になって現れる。それもつかの間、その中から現れたのはもう一人の黒羽だった! 「く、黒羽さんがもう一人……?!」 「自分がいない間、貴方の身を守るだろう」 そう、顔の傷まで瓜二つの自分の分身に触れた黒羽。影黒羽はまるで生きてるみたいに俺を見下ろし、そして視線を合わせてくるのだ。「よろしくお願いします」と俺に大して腰を低くする黒羽はまるで初めて会った時と同じだ。 「す、すごい……黒羽さんだ……っ」 「伊波様……触りすぎだ」 「あっ、ご、ごめん……もしかして本物の黒羽もくすぐったくなるの?」 「いや、感覚回路は切り離してるが……」 「あ、そうなんだ……でも暖かいね」 「寒がりな貴方の暖房代わりになるように体温調整はしております」 そう答えたのは影黒羽だ。 本物の黒羽は少しだけバツが悪そうな顔をした。というか、照れているような……。 「とにかく、すぐに戻ってくる。……それまで伊波様のことを頼んだぞ」 「御意」 「あ、黒羽さんっ、行ってらっしゃい……!気をつけてね」 「……ああ」 そう、俺の部屋を後にした黒羽。 一人ぽつんと取り残された俺は、まず黒羽に言われたように戸締まりをすることにした。 普段一緒にいる黒羽と離れ離れになるのが心細くないといえば嘘になる。けど、それでもそこまで寂しくなかったのはきっと黒羽が用意してくれた分身のお陰だろう。 「伊波様、戸締まりは自分に任せてください。貴方はゆっくりと寛いでいるといい」 「あ……黒羽さん、じゃなくて……分身さん……?」 「黒羽で構わない。呼び分けるのは手間だろう。……それに、私も黒羽で相違ない」 ……すごい、本物の黒羽さんみたいだ。 喋り方も、眉の動きも、なにもかもが瓜二つだ。影黒羽の言う通り本人の一部なのだから当たり前だけど、なんか変な感じだ。 黒羽に違いないのに、知らない人みたいな。 「黒羽……さん」 「ああ」 「黒羽さんは、黒羽さんの一部なんだよね?……じゃあ、今話してるのも本物の黒羽さん?」 「本物、というのとは違うだろうが、あくまで今話しているのは個体としての自分だ。……本体の黒羽とは関係ない」 「……なんかすごいな……」 「あまり深く考える必要はない。……それよりも、喉は乾いていないか?飲み物を用意しよう」 俺を長椅子へと座らせた黒羽はそう言って慣れた動きで飲み物を用意するのだ。 手際がいい、おまけに俺の好きな茶菓子までちゃっかり用意してくれてるし。 「熱いかもしれない。少し冷ますといい」 「あ……ありがとうございます……」 これは疑いようもなく黒羽だ。 なんとなく緊張しながら机の上、置かれた湯呑を受け取る。黒羽は俺がお茶を飲むのを見守っていた。つい何も考えずに口をつけた俺は、そのお茶の熱さに堪らず「熱っ」と舌を引っ込める。 「伊波様っ、大丈夫か!」 「あ、ご……ごめんなひゃ……」 思ったより熱くて、と注意されたくせに自分の猫舌を忘れていた自分の間抜けさが恥ずかしくなる。慌てて湯呑を机に置いて少し冷まそうとしたとき、血相を変えた黒羽に顎をそっと掴まれた。 え、と顔を上げたのも束の間、開いた口の中に氷の塊を突っ込まれ、ぎょっとする。 「んぐ!」 「これを舐めて舌を冷やすといい。足りなければいくつか用意しよう」 「あ、あひはひょうほはひまひゅ……」 び、びっくりした……。口の中、コロコロと転がる氷は熱い舌を押し当てるとあっという間に溶けていく。やっぱり黒羽さんだ。思いながら、俺は少し冷めた湯呑に口をつけた。……おいしい。ハラハラと見守っていた黒羽もほっとしたようだ、「菓子もあるぞ」とそっと団子を差し出してきた。 「黒羽さんも、食べないの?……お団子」 「いや、自分は……」 「あ……分身だと食べれないのかな」 「そういうわけではないが、食べる必要がない」 「……なんか、申し訳ないな。黒羽さんにばっかなんでもやってもらって」 「それが自分の役目だ。貴方が気負いする必要などない」 こういうことをぴしゃりと言ってのけるところが黒羽さんなんだよなぁ。なんて思う反面、分身までも、いや分身だからこそか、隙きを見せてくれない黒羽が嬉しかったり、寂しかったり。 お団子はあんこがいっぱい詰まってて美味しい。きっと、俺の好きそうなものを用意してくれたのだろう。 「……美味しい」 「そうか、口にあったのならよかった」 僅かにその顔が幾分和らぐのを見て、胸の奥がぎゅっとなる。ずるいなぁ……だって、こんなにも本物そっくりなのに、俺にはあまり見せない顔をするのだ、この分身は。 「……黒羽さん、ね、一口だけ食べてみて」 「私のことなど気遣う必要はない、貴方が全部食べればいい」 「一口だけでいいから、ほら」 「い、伊波様……」 「……嫌だ?」 「嫌ではないが……しかし……」 あまり困らせるような真似をしたくなかったが、目の前にいるのが本物の黒羽ではなく分身だからとわかってるからか、少し強気になってしまう。 本物の黒羽だったら「食べたくないのなら無理しなくてもいい」と言って捨てそうだが、目の前の黒羽は本物の黒羽よりも少し柔らかいというか、だからだろう。つい押してしまう。 困惑する影黒羽。こんなに困ってる黒羽さんもレアかもしれない。なんて思うとちょっと楽しくなってきてしまった。 「ほら、ほら、俺が食べさせてあげるね」 「い、伊波様、お戯れを……」 「もしかして、黒羽さんって甘いの苦手?」 「そういうわけではないが……貴方のために用意したものを自分で食すなどと……」 もごもごと口籠る黒羽に「あーん」と半ば強引に摘んだお団子を近付ければ、黒羽は観念したように口を開ける。そして、大きく開いた黒羽の口は一口でお団子を食べてしまった。一瞬覗いた鋭い歯にドキドキするのも束の間。 「……これで、満足されましたか」 やれやれというようなその目だが、俺は嬉しかった。黒羽が食べてくれた。それだけでも意味はあった。数回頷き返し「美味しい?」と聞けば、「甘ったるい」と黒羽は険しい顔のまま答えた。 「……しかし、貴方が美味いというだけはある」 「へへ……今度は本物の黒羽さんも一緒に食べに行こうね」 「それは、本体である自分に直接伝えてくれ」 「あ……そっか、黒羽さんと黒羽さんは同じ中身だけど別人扱いになるのか……」 言っててややこしくなってきた。 そう考えたら、なんか寂しいような、本物の黒羽が恋しくなってくる。 「伊波様……」 「本物の黒羽さん、あとどれくらいで戻ってくるかなぁ……」 「貴方のためなら急いで戻ってくる、そう言っていただろう」 「……うん、そうだけど……寂しいなぁ……」 「…………」 黒羽の前で黒羽に対する寂しさを吐き出すなんて、我ながら奇妙な図だと思う。 そのとき、ふわりと優しく頭を撫でられる。驚いて顔を上げれば、そこには黒羽がいた。 「黒羽さ……」 「私は、貴方の護衛をする他に寂しい思いをさせないために産み出された」 「こんなことしかできないが……付き合おう」と、ぎこちなく撫でられる頭。そして、温かい体温に堪らず俺は目の前の黒羽にしがみついた。 過保護だが、実直、頭は硬いけどなにより真面目な黒羽なりの俺への優しさだろう。普段ならこんなこと言わないのに、両腕を広げて受け入れてくれる黒羽につい俺は絆されてしまう。 暖かい、黒羽の匂いがする。けど、本物の黒羽ではないのだ。なんか、悪いことしてるみたいだな、と思ったがそれを見越して黒羽は用意してくれたのだ。 「黒羽さん、俺のこと甘やかしすぎだろ……」 「う……」 「でも、嬉しいな。……ありがとう、黒羽さん」 「……む、う」 ああ、と小さく頷いた黒羽はそのまま幼子でもあやすように俺の頭と背中を撫でてくれるのだ。ぎこちなく、割れ物に触るように、大事に大事にと。 ……落ち着く。温かいお茶飲んで、美味しいお団子食べて、黒羽に抱き締められて、つい気が緩んでいたようだ。俺は黒羽の腕の中、気付いたら意識を手放していた。これじゃ、本当に子供だ。そんなことを思いながら、俺はいつまでも黒羽の体温を感じていたのだ。 次に目を覚ましたのは、物音が聞こえたからだ。飛び起きたとき、目の前には黒羽がいた。 「……すまない、起こしてしまったか」 「黒羽さん……っ」 思わず飛び付きそうになって、堪えた。そして、俺の側にいてくれた影黒羽がいないことに気づいた。 「黒羽さん、もう一人の黒羽さんは……」 「ああ、もうあれは必要はないと思って戻した」 「ひ、……」 必要ない……。その言葉にショック受けるが、そうだ、元はと言えば黒羽がいない間その留守番代わりのための分身だ。 それでも、もう会えないと思うと寂しくなる。 「黒羽さん、もう会えないの?」 「いつでも作り出すことはできるが、そんなに気に入ったのか」 「……もう一人の黒羽さん、すごい優しかったさら、寂しい」 「貴方は私がいなくても、分身がいなくても、寂しがるのだな」 つい流しそうになって、俺は思わず顔を上げた。 なんで知ってるのだ、と言いかけて黒羽も自分の言葉に気付いたようだ。視線を外す。 「……く、黒羽さん、全部知って……」 「……あれは私だと言っただろう。それに、感覚は共有していないがそれ以外は全て共有している。……分身術の基本だ」 「お、教えてくれなかった、そんなの」 恥ずかしい。全部筒抜けだったのか。 勝手に勘違いしていたのも事実だが、そんなの本物の黒羽も影黒羽も教えてくれなかった。 顔が熱くなっていく。黒羽は「すまない」と申し訳なさそうに唸る。 「その……言い出しづらくてな」 「な、なんでちょっと笑ってるんだよ……」 「……寂しい思いをさせて悪かった」 そっと頭を撫でられ、離れていく手。やっぱり、子供扱いしてる。俺は、堪らずその腕を掴んだ。 「ゆ……許さない」 「伊波様……」 「今日はもう、出かける用事ないんだよね?」 「ああ、ずっと貴方の側にいる」 「う……じゃあ、罰に……黒羽さんが用意してくれたお団子、一緒に食べに行きたい」 「伊波様……罰の意味をご存知ですか?」 「知ってる!……だから、黒羽さんは拒否権ないんだよ……っ!」 いいよね?と顔を覗き込めば、「無論」と黒羽は頷いた。 「……どこまでもお供します、伊波様」 そう答える黒羽の目はいつもよりも優しくて、なんだからやっぱり子供扱いされてるみたいで悔しかったけど、それ以上に黒羽が帰ってきたのが嬉しくて、俺は慌てて出掛ける準備をするのであった。こんなんだから子供扱いされるのかもしれない。けど、嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。 やっぱり、黒羽さんは黒羽さんだ。俺の、大好きな黒羽さんしかいない――そう、改めて実感した日だった。 おしまい