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田原摩耶
田原摩耶

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四川と原田が喧嘩するSSS【↑100/4,800文字/四川×原田/わちゃ】

 元々四川とはウマが合わねーと思っていた。自分勝手で自己中でおまけに上から目線で人のことをボロクソ言いやがる。  けれど今日という今日こそはいくら寛大寛容菩薩のような心の広さをもった俺でも許せなかったのだ。 「おい、四川。お前いつも自分がしたくねーからって人に便所掃除押し付けんのやめろ!」  スタッフ用通路。「んじゃよろしく」と例のごとく人に雑用押し付けてさっさと帰ろうとする四川を引き止め文句を言ってやれば、やつは「はあ?」と眉を釣り上げる。そして。 「お前便所大好きだろ」 「一言もんなこと言ったことねーし!」 「便所は便所が居場所だろ、肉便器ちゃん」  こいつ、この野郎。  言っていいことと悪いことがあるだろう。今のは明らかに言ってはいけないことだ。俺は激怒する。 「ぐ、ぐぅ……!!さ、笹山ー!!」 「あっ、おいコラてめ!」と四川が止めてくるが関係ねえ、俺は近くでバックヤードの整理してた笹山に泣きついた。やれやれと言わんばかりに俺と四川の間に入ってくる笹山。四川は「げっ」と面倒臭そうな顔をするがもう遅い。  俺は知ってる、笹山に四川が口喧嘩で買ったところを見たことないことを! 「阿奈……いくらなんでも人を便器扱いは最低だよ。あと掃除当番くらい自分でやれよ」 「テメェはこいつのオカンか!」 「人としての問題だよ、阿奈」 「テメェみたいなサイコ野郎が人間力語ってんじゃねーよ!」 「ばーーかざまあみろ怒られてやんの〜〜!あうっ」  こ、こいつ、殴りやがった!おまけに人のデコを! 「あ、阿奈!お前……!って、あ、原田さん!」 「こ、こんにゃろー!!」 「やんのか畜生、お前なんて小指で勝てるわ!」 「ちょ、ふ、二人とも……!」  ……数分後。 「……君たちね、仲良いのは結構だと思うんだよ俺は。寧ろどんどん仲良くすりゃいいと思うけどね、まさか店の備品壊すなんてね?」 「「すみませんでした……」」  四川との死闘の末、笹山に掴まえられ、そのときにぶつかってしまった棚が壊れ、騒ぎを聞きつけてやってきた紀平さんに怒られること数分。  俺と四川は床の上に正座させられていた。  そして、俺達の前に屈んだ紀平さんはにっこりと笑う。 「罰として一週間阿奈は便所当番。かなたんも一緒にね」  笑顔を崩さぬままそんなことを言う紀平さんに俺は固まった。待ってほしい。四川は当たり前だが、ただでさえ俺はやらなくてもいい便所掃除を任されているのだ。不当ではないかこんなの。 「おい、お前のせいだぞ!」 「あ゛ぁ?!テメェが短い手足ばたつかせて暴れたせいだろうが当たり前だろ!」 「んだとこの……!」 「二人とも、今話してんの俺なんだけど」 「「すみませんでした……」」  ……というわけで、完全にとばっちりで最悪な一週間が幕を開くわけだった。  ◆ ◆ ◆  罰の便所掃除当番、一日目。  出勤の都合上かぶらないときは出勤してる者が掃除。そして一緒のときは一緒に掃除。  単純明快、猿でもわかるような簡単なルールだ。  それなのにだ。 「くっそ……やってらんねー!」  今日は二人揃ってるのでさっさと終わらせてさっさと仕事に戻るぞ、とさっき言ったばかりにも関わらずこの四川阿奈とか言う男の病気が出た。 「おい、飽きるのが早すぎんだろ」 「なんで俺が一週間もんな臭えところ掃除しなきゃなんねーんだよ」 「お前のせいでもあるだろ、紀平さん怒らせやがって……」 「それを言ったら……チッ、クソ!」  言い掛けて、これみよがしにクソでかい舌打ちをしやがる四川は「あーもうやめだやめ」と乱暴に手にしていたモップをバケツに突っ込む。 「お前といるとムカついてしゃあねえわ」 「そ、そんなのこっちのセリフだ!俺だってお前の顔なんて見たくねえし!」 「はぁ?!んだとテメェ!」 「な……なんでそこでキレるんだよ、お前が先に言い出したんだろうが!」  むむむ、と俺達は啀み合っていたが、やがて四川は今度はクソでかい溜息を吐き、俺から手を離す。そして。 「……っもーいい、知るか。勝手にしろ」 「あ、こんにゃろ……!」  待てよ、と言うよりも先にさっさと便所から出ていく四川。  あともう少しで終わるってのに、ガマンできないガキかよ!  懲りずに逃げやがったあいつに俺はムカついたが、俺まで帰ってしまってはまた怒られ兼ねない。  四川の野郎覚えとけよ。俺はやつへの怒りのすべてをモップに込めて床を磨いた。すげーピカピカになっていた。  ◆ ◆ ◆  紀平さんに怒られてから数日経った。  そして二回目の出勤被り。今日こそはあいつにも掃除を手伝ってもらうぞ。そう便所を確認しようとしたときだ。 「おい、四川、便所掃除……」  するぞ!と声をかけようとした俺はそのまま固まった。  なんということだろうか。既に便所掃除は終わったあとだった。担当者確認すれば四川の名前が書かれてる。  嘘だ、お、終わってるだと……?!  するならするで声をかけろって言ってるのに、なんでだ。サボられるよりかは全然ましだが、俺にとっては喜びよりも困惑の方が強かった。  便所から出たとき、丁度更衣室から出てきた四川と鉢合わせになる。どうやらもう帰る準備を済ませたようだ。 「四川」と声をかけようとしたとき、やつはこちらをちらりともせずツーンとそっぽ向いたまま通り過ぎて行きやがった。そのまますたすたと立ち去る四川。  お礼の一つや二つ言おうとしていた俺だったが完全にタイミングを失っていた。というか、なんだあの態度。せめてこっちくらい見ろよ。  怒り心頭のままタイムカードを切り、休憩室へと向かえばそこには休憩中らしい笹山がいた。  笹山は俺を見るなり心配そうに駆け寄ってくる。 「原田さん、阿奈と喧嘩したんですか?」 「う……殴ってはない」  唇を尖らせれば、「ああ、やっぱりそういうことでしたか」と納得したように笹山は頷いた。 「あいつになにか言ったんですか?……すごい落ち込んでましたけど」 「落ち……?!う……嘘だ、あいつの方から俺のこと無視したんだぞ?!俺のことムカつくとか言うから、こっちだってって言い返しただけだし……」  ゴニョゴニョと口ごもる俺に、笹山は「ああ……」と力なく笑った。そして生暖かい目。 「原田さん、あまりこういうことは言いたくないんですが、阿奈はほら……性格がよくないじゃないですか。意地っ張りというか、そのくせ構ってもらえないと拗ねるんですよ」 「く、クソガキかよ……!!」 「ええ、だからあいつの言ってることは三割本音とは逆と思った方がいいですよ」 「もう七割は……?」 「本音です」  やっぱクソガキじゃねえか。喉まで出かかって突っ込む気すらも失せてしまう俺に、笹山は「そういうことですから、多目に見てあげてくださいね」と笑った。  オカンか。という四川と同じツッコミをしそうになる。  それから数日後。  また例のごとく四川のやつは一人で便所掃除してやがった。完全出遅れてしまった俺だったが、今日は四川のやつはまだ退勤していないようだ。  休憩室。  ソファーの上にふんぞり返りながら携帯いじってる四川わ見つける。扉開いて俺が入ってきたことも気付いてるくせにちらりともしねえ。こいつ、また無視する気だな。  こいつがその気なら……と、俺は予め用意していたブツを隠しながらやつの隣に座る。  微かに沈むクッション。そして、沈黙。  相変わらずガン無視である。  ムカついたが、我慢だ。……四川、俺はお前よりも歳上なんだからな。だから、大人になってやる。  そう、深呼吸を一つ。そして、意を決した俺は、やつの肩をちょいちょいと引っ張った。 「……」 「……おい、おい……四川、四川っ」 「……、……」 「む、無視するなよ……っ!」  というかここまできて無視続けるかよ!そう半ば強引にやつの腕を掴んで視界に入ろうとすれば、ようやくやつの目がこちらを向いた。そして、鬱陶しそうに舌打ちする四川。 「んだよ、さっきから。また文句言いに来たのか?あ?」 「……っ、ま、またって……」  それに文句言わせるようなことばかりしてるのはお前の方だろ、と喉元まで出かかって、言葉を飲み込む。  このままではまたいつものパターンに入ってしまう。 「今日は……ちげえよ。その、これ」  そう、己を制しつつ俺は背後に隠し持っていた袋を取り出した。そして、その袋ごと四川に押し付ける。 「これは、当番ありがとうの分だ」  四川が好きなものなんてわかんなかった。  けどたまにプリン食ってるからって理由で買ってきた人気の店のプリンを渡せば、やつはそのまま固まる。 「……それと、この前は……言い過ぎた。ごめん。……の分」 「……………………」 「お、おい……ま、また無視し……っ」  するのかよ、と言いかけたときだった。  いきなりやつに肩を掴まれ、俺達の間、落ちそうになるプリンを慌ててキャッチする。 「おい、危ないだろ!」と顔を上げたとき、鼻先がぶつかりそうになるほどの近い距離にある四川の顔に息を飲んだ。 「し、四川……?」 「お前は…………今度は何吹き込まれやがった?」 「何言って……っ、おい、肩痛ぇって……」 「…………ぞ」 「……へ?」 「……食わせろ、それ」 「……へ?!」  いや、なんでそうなる。というか、すげえ顔赤いし。言ってて自分で照れてんじゃねえ。つられてじわじわと顔が熱くなる。つか、それって、あれじゃん。あーん♥とかいうあれじゃねえか。 「な、なんでだよ、自分で食えよ!」 「うるせえ!労るんなら言うこと聞けや!」 「ぐ、くそ……やっぱクソガキじゃねえか!! 」 「誰が……ッ!」  そう睨み合う俺だったが、……落ち着け。リラックスだ、俺。相手は四川だ。俺が寛大な心を持たなければまた紀平さんに正座させられでしまう。 「…………っ、ひ、一口だけだぞ」  ああ、俺ってすげー優しい。つか、なんだこれ。なんだこの展開。促されるがまま袋からプリン取り出す。ご丁寧に瓶詰めされた可愛らしいプリンだ。容器を開け、付属のスプーンでぷるぷるのそのプリンを一掬い。 「……おい、さっさと口開け」  なんとなく恥ずかしがってると思われたくなくてぶっきらぼうな言い方になってしまうが、四川のやつは気にせず「ん」と口を開いた。つーか、開けるのかよ。素直か。こういうときだけ素直か。  ぐ……となりながらも、その口の中に恐る恐るスプーンを近付ける。初あーんがこいつかよ。つか、やべえくらい手が震えてるせいでプリンがぷるぷる揺れてんのすげえ恥ずかしいし……。  落ち着け、落ち着け俺。と繰り返しながらもそうやつの口にスプーン押し付けたときだ。 「はー、疲れた。俺のアイスアイス〜」  勢いよくガチャリと開いた休憩室の扉、そこから現れた紀平さんに俺はつい手が滑ってしまう。そして、四川の口の中、あらぬところに直撃するスプーン。「あ゛」と俺達の声が重なった瞬間、四川がその場で悶絶する。 「あれ?なんだ二人ともいたんだ」 「いやー、はは……っ!丁度休憩被って……」 「いやよかったよかった、仲直りしたんだ。やっぱり仲良くしてるのが一番だよ」  なんて、冷凍庫からアイスを取り出した紀平さんはそれを咥えながら休憩室を出ていった。そして、ばたんと閉まる扉。再び二人きりになった休憩室の中、蹲っていた四川は俺の手首を掴んだ。そして。 「テメェ、よひゅも……」 「わ、悪かった……」 「……っ、許さねえ」  ……あ、これはガチのキレ方だ。  涙目の四川に俺はケツの死を覚悟した。  そして数日後、口直しに一緒に件の店へ絶品プリンを食べに行ったのはまた別の話である。  おしまい 


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