政岡が禁尾張を試みるSSS【↑100/5,500文字/政岡×尾張+生徒会/わちゃ/政岡視点】
Added 2019-11-17 06:46:19 +0000 UTC「なあ、政岡。知ってるか?好きな人とするキスって甘いらしいぞ」 そう、笑みを浮かべる唇から視線を外すことはできなかった。どうしてこんなことになってるのか自分でもわからない。けれど、俺の上に跨る尾張は薄く微笑んだまま、固まる俺を見下ろして笑うのだ。近付いてくる顔に、甘すぎないいい匂いに、頭がクラクラした。 「……だった、お前とキスしたら何味なんだろうな」 吐息が吹きかかるほど近い距離、耳朶に押し付けられる唇から発されるその甘い声に、全身が甘く痺れる。バクバクと脈打つ心臓は口から飛び出そうな勢いだった。 尾張は、こんなこと言わない。夢だ。そうわかっているのに、伸し掛かってくる重さはあまりにも生々しく、伝わってくる熱も本物によく似てて――。 「っお、わり……」 駄目だ、これ以上は……! そう、必死に自分を抑えるため尾張の肩に触れたとき、そっと重ねられる手のひらに息を飲んだ。 「試してみないか、政岡」 「っ、尾張、お前……」 「俺は、アンタとなら……」 真正面、真っ直ぐにこちらを覗き込んでくる尾張は微笑む。いい匂いがする。頭に血が登って、何も考えられなかった。絡められる指に、近付く唇。 好きなやつにここまで迫られて我慢できる野郎がいるのか。ここまでされて反応しねえやつなんか野郎じゃねえ、ええい!この際夢でもいい!ありがとうこんな最高の夢を、俺の脳みそありがとう!と尾張を抱き締めキスしようとした矢先だった。 「ッ、うわ……!っ、ん、ぅ……ッ!」 唇に柔らかい感触が触れたと思った次の瞬間、パンッ!と破裂音とともに頬に痛みが走った。 「い゛ッ!」 いってぇ、と目を開いたとき、目の前には唇を抑える尾張がいて。そして俺の部屋のベッドだと思っていたそこは生徒会室のソファーで、寝ていた俺を囲むように見下ろしていた生徒会の連中の冷たい目に、賢い俺の脳みそは寝起きながらも瞬時に理解した。やらかしたと。 「……っ、ぉ、尾張……まさか俺……」 「会長ってばサイテー、ケダモノー、不潔ー!」 「……一体どんな夢を見てたらそんなことになるんでしょうか。きっとふしだらな夢でも見てたのでしょうね、ああ、恐ろしや恐ろしや」 「待て、誤解だっ!その、えーと……えーと……っ、お、尾張……っ」 お前にこんなことするつもりはなかった?いやあるわ、こいつ以外にそんな気起きねえ。何を言っても自分の首を締める気しかしねえ。こんな時ばかり手のひら返してここぞとばかりに責めてくる裏切り者連中、そんな中、『お前ならわかってくれるよな……?』と尾張に助けを求めようとすれば、目があった尾張は苦笑する。 「……俺でよかったな。他のやつらだったら大変なことになってたぞ」 ゴーンと頭ん中でデケェ鐘が響く。撃ち抜かれた。何かに心臓を撃ち抜かれた。多分一回ここでまじ俺死んだ。好きだという気持ちが溢れ、愛しさでどうにかなる。頭が真っ白になって、気付いたら勝手に体が動いていた。 「んぅ……?!」 気付けば顎の付け根を掴んで目の前の柔らかい唇を貪っていた。すげえいい匂い、美味い。つか、ずっとこうしててぇ、って思った次の瞬間今度は握り拳が思いっきり頬にめり込む。顎ずれたんじゃねえかってほどのいいパンチにハッとしたときには遅かった。 「……ッ調子に乗んじゃねえよ……!」 先程の笑みなどない。こちらを睨んだ尾張はそのまま生徒会室を出ていってしまった。 俺は暫く動けなかった。 そして、ピシャリと閉まる扉にようやく自分のしでかしたことに気付く。 ――ああ、やってしまった。 何やってんだ俺の馬鹿野郎少しは自制しろ。ああ、俺の馬鹿馬鹿。でも仕方なかったんだ、あいつがあまりにも可愛いから歯止めが利かなかったんだ。 「お、尾張ぃ……」 「あーあ、キレイに決まったねえかいちょー」 「許してもらって即行動に出る貴方の行動力には本当に素晴らしいですね、ふふ、しかし尾張さんもあんな顔をするとは……」 「……こりゃ嫌われても無理ねえな」 「ぐ……う゛……ッ!!」 こいつら、他人事だと思って完全に楽しんでやがる。 自慢じゃねえが小さい頃から我慢だとかそういうのが苦手だった。それでも、尾張に出会ってから今までは慣れない我慢をしてきた。あいつのためだ、あいつのことは大切にこう……大事に大事に愛を育みたかったのに。 「俺の……馬鹿野郎……ッ!!」 「それで、なんの夢を見てたんですか?」 「……う……尾張がキスしてくれる夢だよ……」 「……貴方、本当に尾張さんのことで頭いっぱいなんですね。夢にまで見る挙げ句現実と混同するなんて危険人物以外の何者でもないじゃありませんか」 グサグサと能義の言葉が刺さる。 てめぇだって危険人物みてえなもんだろと言い返したいが、正直、実際寝起きとはいえ本物の尾張に軽々しく手を出してしまった自分への嫌悪感はちょっとそこらのもんとは比べ物にならない。 「あっ、そうだいい事思いついた~!」 ソファーから起きる気にもなれなくてそのままふて寝しようかとしたとき、神楽に「ねえねえ〜」とガシガシ肩を掴まれ揺すられる。 「……なんだよ」 「かいちょーかいちょー、暫く元君と距離置いてみたら〜?」 「は……?距離……?」 「多分今かいちょー元君への好きがいーっぱい溜まってきっと自分じゃどうしようもなくなってるんだよ~。そういうときは距離取って頭冷やすのが一番いいって〜、じゃないとその内本気で元君に嫌い~ってされちゃうよぉ?」 「き、嫌われる……?尾張に……?!」 想像する。このままじゃ確かにキス以上のこともしてしまいそうだ……。やべえ、興奮してきた……じゃねえ!駄目だ!あいつが嫌がることなんかしたくねえ。 クソ、神楽の癖に珍しくそれらしいこと言ってくるじゃねえか。 「会計の意見にしては最もですね。確かに、このままではきっと遅かれ早かれ絶対にやらかしますよ、貴方。これは友人としての私からの忠告でもあります、一週間ほどあの方を避けてみるべきでしょうね。もちろん、尾張さんのためにも。ねっ、彩乃」 「……いやもう手遅れ……もごっ!」 「冷却期間か……そうだな……」 尾張に会えねえのは精神的に辛いが、このまま嫌われるくらいならまだ一週間我慢する方がましだ。 「わかった、俺、尾張禁止する。ぜってぇあいつに二度と悲しい顔なんてさせねえ!」 そして俺はこの恋のため、生まれてこの方初めての禁欲生活を送ることになったのだ。 「それで、どれくらい保つと思います?」 「ん〜三時間」 「同じく」 「……お前ら、あんまあいつを玩具にすんなよ」 「書記はどう思う?」 「尾張に会ったら終了だな」 「「だよね(ですよね)」」 ◆ ◆ ◆ 尾張接近禁止令。 その一、尾張にみだりに近づかない。 その二、尾張に話しかけるべからず。 その三、尾張に触れない。 以上。上記を破ったらそのときは切腹。 「っしゃあ、一週間だ!一週間乗り切れば俺達の関係もまた回復してるはずだ!!」 「一週間?」 「ああ、俺はこれから一週間禁欲……っておわ゛!」 にゅっといきなり脇から現れた転校生もとい岩片もといクソモジャ眼鏡野郎に心臓が口から飛び出そうになる。 「てめぇクソモジャ眼鏡野郎いつの間に!!」 「いやクソうるせえ独り言が聞こえてきたから野次馬しにきたんだよ、構ってほしかったんだろ?」 「んなわけあるか!」 「素直じゃねえな」なんてニヤニヤ気に食わねえ笑みを浮かべるやつにせっかく気合入れてたのに気分は台無しだ。出鼻を挫かれた俺だったが、そこで気付いた。 このクソモジャ陰毛眼鏡野郎がいるということはまさか……。 「おい岩片、勝手にチョロチョロすんなってあれほど……あ」 近くに尾張もいるかもしれない。そうは思っていたがまさかこんなに早くに遭遇してしまうなんて。 奥の廊下からやってきた尾張に再び心臓が止まる。 暫く見つめ合いそうになったが、しっかりしろ零児!尾張接近禁止令を思い出せ! ハッとし、尾張が口を開くよりも先に慌てて俺はその場から逃げ出した。 これは尾張のため、尾張と俺の未来のためだ!済まねえ尾張、お前のためなんだ! そう口の中で繰り返しながら俺は全力疾走でエリアを移動する。 それからはもう尾張の気配を感じては逃げる、そんな生活が3日程経った。遠くから見守るだけなら……と思ったが、尾張は勘がいい。すぐにこちらに気付いては、「なんか用か?」と近付いてくるのだ。その都度脱兎の如く逃げていたのだが……正直な話、俺の心はもうボロボロだった。 ただでさえ尾張不足だというのに、話しかけてくれようとしていた尾張から逃げる。その後こっそり尾張の様子を見たが、心なしか落ち込んでるというかしゅんってなっているというかもしかしたら俺の願望も九割入ってるかもしんないけどそれでもあいつからしてみれば俺に無視されてるようなものだ。 でも、これはお前のためなんだ。このままだったら俺は恋の炎に自ら身を焼かれてしまう。離れなくても分かっていたが、離れてからより一層尾張に会いたいという気持ちは強くなるのだ。けれど、これを乗り越えなければ。乗り越えなければ理性を失ったケダモノになってしまう。尾張への思いを自作のポエムノートにしたため、俺は一息をついた。 ……あと四日……行けるか俺……。 正直限界が近い。というか、罪悪感に負けそうだ。 でも、これを乗り越えなければ俺は尾張に近付く資格はない。そう自身を叱咤することにより辛うじて俺はモチベーションを保っていたのだ。 けれど、それはあっさりと終わりを告げる。 朝方尾張を夢想しながらベッドに入り、日が暮れ始めた頃起き出す。今日も尾張と極力顔を合わせないように生活時間をずらして過ごすか、いや、外に逃げるのも悪くないだろう。なんて考えながら取り敢えず飯を食うかと部屋を出たときだ。 ぼりぼりと腹を掻いていた俺はそのまま凍りついた。 目の前に今最も会いたかったそいつがいたからだ。それも、怒った顔で。 「っ、お、わり……?」 「……おはよう、随分と遅起きなんだな」 夢か?夢なのか?と頬を抓る。痛い、夢ではない。ならば、まずい。と慌てて逃げようとしたときだった。行く手を伸びてきた腕により阻まれる。 そして、目の前には尾張の顔。近い、待って、待て、近い。息が。ちょ。 「……逃げんなよ、政岡」 怒ってる、違う。拗ねてるような、焦れったいような、そんな顔だった。近い。かっこいい。死ぬ、死んじゃう。 「この前は、殴ったのはその……悪かった。でもびっくりしたんだ、仕方ねえだろ」 「…………………………」 「……それで、怒ってるんだろ?……だから、ずっと俺を避けるような真似して……おい、聞いてんのか?」 「……………………き……」 「え?」 「………………好き……」 「…………は?」 「………………好きだ、尾張」 「は?!」 もう、駄目だと思った。何が駄目なのかわかんねえけど、頭尾張でいっぱいになってなんも考えらんねえけど、口にせずにはいられなかった。俺の馬鹿野郎、まじ、何やってんだ。尾張にこんなことまで言わせるほど気ィ遣わせて、寂しい思いしてくれて、つかわざわざそのためにこいつが俺を待っててくれたのかと思ったらそれだけで全部どうでもよくなって、気付けば俺は目の前の尾張を抱き締めていた。体幹のしっかりした抱きやすい体も、尾張のいい匂いも、全部が全部酷く久しぶりのようで。 「っ、お、おい……政岡……ッ!」 「やっぱ無理だ、俺……尾張のこと好きだ……」 「……何回言ってんだよ」 「やっぱりお前を禁止するなんて、俺には無理だ……!」 「禁止って何……っつか、いい加減離れ……っ、ん、ぅ……ッ!」 尾張、……尾張。尾張、ごめんな、今までずっと尾張のことを無視してごめんな。俺やっぱ馬鹿だわ、コイツを我慢すること自体最初から無理だってのに、その上コイツを悲しませるなんて……。 硬く結ばれていた唇を舌で撫でれば、僅かにだが開くその唇に興奮が一気に込み上げてくる。はあ、やべえ。やべえ。クソかわいい。かわいい。まじかよ尾張が抵抗してねえ。かわいい。嘘だろ。いつもならそろそろグーパンか金蹴り飛んでくんのに。 「っ、は……尾張……っ」 「……満足、したか?」 「っ、全ッ然足りねえ……もっと、していいか?」 珍しくしおらしい、いつも可愛いがいつもとはまた違う尾張も顔に扇情される。腰に手を回せば、そろそろ踏まれるか蹴られるかするかなと戦々恐々としていたのだが何も飛んでこない。 それどころか。 「……キス、だけだからな」 なんて、頬を赤らめて視線を落とすのだ。 瞬間、胸の内側、今までに溜まりに溜まっていた俺の中のおどろおどろしいダークマターが四散爆発した。 「ン゛ぎひ!!」 「ま、政岡?!」 「……………………」 「政岡?!……おい、政岡?!」 「…………俺が、幸せにするからな」 「なんだその遺言みたいなやつ……おい、ここで寝るなって、おい……!!って重ッ!!」 禁尾張なんてしたせいだ。久し振りの尾張の破壊力に身が保たずに自爆なんて自業自得もいいところだ。 遠くなる意識の中、俺は全身尾張に包まれながら目を閉じた。夢なんかと比べ物にならない本物の尾張の破壊力に俺が耐えられるはずがなかったのだ。 『三日は大分保った方ですね』とどこかから能義たちの声がするのを聞きながら俺は二度と禁尾張をしないと心に誓った。 おしまい