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田原摩耶
田原摩耶

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阿賀松が急に優しくなって怯える齋藤SSS【↑100/4,200文字/阿賀松×齋藤/平和いちゃ】

 阿賀松伊織とは一生をかけても相容れる気がしれない。  第一印象も最悪であれば、それ以降上がるどころかこの男のことを知れば知るほど見た目と違わぬ男だと分かる。  なのに、何故だか慕われてるし、周りからも一目置かれている。それは勿論やつの実家の力というか七光的な部分もあるのだろうが、俺からしてみればなるたけ関わらずに済む方法を探すくらいなのに一部の人間は進んでやつの犬になろうとするのだ。  勿論やつを目障りに思う人間も、恐れてる人間も多いだろう。それでも、俺には理解し難い感覚である。  せめて、せめてもう少し優しくなってくれたら。  というか、優しくしてくれとは贅沢言わないから機嫌をよくしてくれ……。そんなことを考えては眠る日々だ。  夢の中でもいい、阿賀松が優しくなればまだ学園生活は改善の兆しが見えたのだろう。  枕で涙を濡らしながら布団を被る。  明日は久しぶりの休日だ。阿賀松に会いませんように。ほんなことを祈りながら俺は眠りについた。  …………。  ………………。  …………………………。 「……おい」 「……ん、んんぅ……」 「おい、いつまで寝てんだよ」  耳元すぐ側、聞き覚えのある声が聞こえてきて全身が飛び上がりそうになる。まさか、この声は。耳に残るような低い声は。 「ユウキ君、お前……いっちょ前に狸寝入りか?」 「っ、せ、先輩……どうしてここに……ッ!」 「恋人が部屋にいちゃなにか都合が悪いのかよ」  その恋人が不法侵入していることが問題なのだがこの男に常識を説いても意味がない。それは何故添い寝をしているということをツッコんでもだ。 「い、いえ、その……悪くない、です……」 「だよなぁ?寧ろ嬉しいだろ?」 「……は、はい……」  何を言わされてるのだろうか……。寝起きで混乱しながらも頷く俺に阿賀松はご満悦のようだ。ニヤニヤと笑ったまま、伸ばされる手にびくりと体が強張った。あの、と口を開くよりも先に抱き締められる。近い、というか、なんで、なに、何をされてるのだ俺は。 「あ、阿賀松先輩……っ」 「ユウキ君が恋しくなったから」 「っ、へ……?」 「……会いに来たんだよ、お前に」  耳朶を撫でられ、直接囁かれれば耳がどうにかなりそうだった。言葉を言葉だと理解することもできなかった。  阿賀松が俺のことを恋しい?そんなわけがない、精々肉布団とくらいしか思ってないのだろう。或いはその意か。はたまた俺はまだ夢を見ていて、都合の良いように現実をひん曲げている可能性もある。 「っ……ぉ、れに……って……」 「それにしても、ひでえ寝癖だな。耳みたいになってんぞ」 「……っ、ご、ごめんなさ……っ」 「オラ、いつまで寝てんだ。さっさと顔洗ってこい。俺が寝癖直してやる」 「え……」 「さっさとしろ、それとも目覚めのキスがねえと起きねえのか?」 「おっ、起きます……っ!すぐに起きます……!」  冗談か本気かわからないが、次第に鮮明になっていく頭の中。現実味がなかったが、これが俺の夢ではないことは間違いないらしい。だとしたら、悪夢だ。朝一から阿賀松と一緒なんて……。  ◆ ◆ ◆  なんでこんなことになってるのか。  背後に座る阿賀松に耳元で「美味いか?」と囁かれれば、料理の味すらもわからなかった俺はただ頷くことしかできなかった。 「お……美味しい……です……」  しどろもどろ答える俺に、阿賀松はニィ、と笑う。どうやご満悦のようだ。 「じゃあもっと食えよ。ほら」  そして、目の前のパンケーキをフォークで切り分けた阿賀松は俺にその一欠片を突きつけるのだ。それを拒めば口に捩じ込まれ兼ねない。体の震えを抑え、俺は目の前のそれに齧り付いた。 「っ、ん……ぐ……」 「お前……こんなのも一口で食えねえのかよ。まじで口小せえな」 「っ、ぅ……ん……すみま、へ……」 「ほら、さっさと食え」 「ま、待っへくらは……んぐ!」  あーんにも飽きてきたのか次々に食わされ本当に死ぬかと思った。気まぐれな阿賀松に振り回されるのは今に始まったことではないが、この男。と、思わずにはいられない。  それから朝食のパンケーキを食べ(無理矢理口に捩じ込まれ)、これで満足したかと思いきや阿賀松はまだ帰る気はないらしい。 「ユウキ君、口の周り汚れてんだろ。赤ちゃんかよ」 「ご、ごめんなさ……ぅ、あ」  阿賀松の手によりナプキンで口元をがしがしと拭かれる。痛いというか、雑だ。というか、なんなんださっきから。普段ならば「見てて不快だから自分でなんとかしろ」と言いそうなものなのに。雑だが。  これは、なんというか。本当に子供扱いされてるみたいで恥ずかしい。視線を上げれば、こちらを覗き込んでいた阿賀松と視線がぶつかる。やつは「どうした?」と妙に優しい声で笑うのだ。それがただ恐ろしくて、見たことのない顔、聞いたことのない声にゾクゾクと背筋が震えた。 「な、んでも……ないです、ありがとうございます……」 「テメェの恋人の世話焼くのは基本だろ」 「……ぅ……」  恋人、というよりこれは……。  いいかけて、言葉を飲み込んだ。せっかく上機嫌の阿賀松に水を差すような真似はしたくない。というか怖すぎる。  今でも十分不気味だが。それでも、綺麗になったであろう口元に這わされる阿賀松の指にそのままくにくにと唇を弄られれば、条件反射で否応なく体が反応する。 「ん、ぁ……あの……?」 「んぁ?」 「……その、どうして……」  どうして、今日は優しいんですか。  なんて言ってみろ、殺される。障らぬ神に祟りなしだ。そう思うのに、不思議で仕方ない。恐怖心もある。けれど、唇の薄皮越し、撫でるその指先が妙に優しくて、そんな血迷ったことすら口に出してしまいそうになる。 「っ、どうして……ん……っ」  言葉に詰まったとき、顎を掴まれ唇を塞がれる。ちゅぷ、と音を立て甘く吸われる唇に、濡れた舌の感触にああ、と目を細めたとき、唇はあっさりと離れた。 「随分となにか言いたげだな?」  阿賀松なのに、阿賀松じゃないみたいだ。なんて言えるわけがない。けど、濡れた唇を撫でられれば、身を預けてしまいそうになる。相手は阿賀松だ、油断をするな。自分の中の防衛本能が叫びを上げる。けれど、頭を預けさせられれば思わずそのまま凭れ掛かりそうになる。 「……先輩」 「なんだよ」  すり、と顎の下を撫でられれば、こそばゆさに体がふるりと震えた。 「……今日、具合悪いんですか?」  瞬間、ぴしりと音を立て空気が凍りつくのが分かった。  あ、と思ったときには遅かった。頬を撫でていた手にぐに、と口元を覆うように頬を鷲掴みされる。 「んぎゅ……っ!」 「どういう意味だぁ?俺のどこが具合悪そうに見えんだよ」 「ひ、ひへ、ひょっひょ、ようひゅはおはひ……もぎゅ!」 「ユウキ君……テメェ、わざとか?……わざとだよなぁ?俺のどこがおかしいって?」  しまった、フォローしようとすればするほど阿賀松の指に力がぐぐっと入っていく。頬の肉を潰され文字通り潰れたふぐ状態の俺は「ほへんははい!ほへんははい!」と慌てて謝るが阿賀松の耳に届いているかすら怪しい。それどころか。 「テメェ……人がたまには恋人らしくしてやろうと思ったらこれか?犬の分際で付け上がってんじゃねえぞ」  犬、犬って言ったぞこの人。何が恋人扱いだ、やっぱり最初から俺のことを犬としか見てないではないか。 「ほ、ほへんなひゃ……」 「テメェはやっぱ優しくすんじゃねえわ。……すぐ付け上がりやがる」 「っ、ひょんな……っ、ん、ぅ……ッ」  口から手が離れたと思いきや、思いっきり唇を塞がれる。先程の触れるだけのキスとは違う、唇を食い千切る勢いで噛みつかれ、舌を吸われ、深く舌を捩じ込まれるのだ。 「ん゛ぐ、ぅ!」離してくれ、と胸を叩くが、手首を掴まれそのままソファーに押し倒されてみろ、びくともしない。  軋むソファーに軋むスプリング、逃れる気など最早失せてるにも関わらず更に体を抑え込まれ、骨の髄までしゃぶり尽くすようなそのキスに俺は降参の意を表するように抵抗をやめた。 「っ、せ、んぱ……ご、めんなさ……怒らないで……下さい……」 「テメェだろうが、優しくしてほしいっつったのは」 「……ぅ、え」  俺、そんなこと言った記憶ない。  と、そこまで考えて、俺は夢の中、阿賀松の夢を見ていたことを思い出す。夢の中ではせめて優しくしてください、と懇願した記憶もあった。けど、まさか阿賀松にそれを聞かれていたというのか?  そう理解した瞬間、顔が焼けるように熱くなった。 「っ、す、みません……俺……っ」 「あ?思い出したのか?」 「夢、だと思って……その……っ」 「……ハァ」 「っ、ご、ごめんなさい……っ!」  そう、何度も頭を下げようとしたとき、唇を塞がれる。ちゅ、とリップ音を立て、唇はすぐに離れた。 「それで?……感想は?」 「……っ、う、そ、その……」 「いえよ、もう怒んねえから」  嘘だ。絶対怒るぞこの人……。  けど、こういうときの阿賀松には誤魔化しやおべっかは聞かないことも知ってる俺には逃げ道などない。 「……びっくりしましたけど、その……えと……いつも、それでいてくれたらな……と……」 「…………」 「んぎゅっ!」 「……やっぱ駄目だわ、お前すげー調子に乗るし」 「う、ぇっ……」  素直に、おまけにオブラートにも包んだのにこの始末か。本音を口にした分後の反応が恐ろしすぎて固まる俺に、阿賀松はそのまま俺の頬を撫でた。そして、そのまま片頬に唇を押し付けるのだ。 「――……だから、今日だけだぞ」  喜べよ、ユウキ君。と。微笑む阿賀松に一瞬心臓が止まりそうになる。いつもの恐怖で破裂しそうなものとは違う、疼くような甘さを伴ったそれに俺は自分が自分で理解できなかった。なんだ、これは。  緊張?それもあるだろう。けれど、こんな感覚、俺は知らない。  ……その正体は、 一生知らなくていいかもしれない。  おしまい

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最高です。ありがとうございます

RRR


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