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田原摩耶
田原摩耶

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岩片が男遊びを辞めた理由SSS【↑100/4,100文字/岩片×尾張】

 岩片のどこがいいんだか。  顔もよくわかんねえし、芋っぽいボサボサ頭と瓶底眼鏡じゃ容姿で釣られるやつもいねえだろう。口を開けば自己中を体現したようなやつだし、まあ下世話な話そっちが上手いから相手に困らないのだろう。  今日も朝っぱらからどこで知り合ったんだっていう美少年をせっせと抱き込んでるあいつを待ちながら、ぼんやりと考えていた。俺なら絶対勘弁だな、いややめよう、気持ち悪いことを考えるのは。  岩片凪沙は知れば知るほど変なやつだ。  そもそも親衛隊に俺を選ぶほどだ、確かに人望なさそうだし、それに付き合ってる俺も相当なのだろうけどやはりあいつには負けるだろうが。 「お、まだいたのか」  ようやく出てきたあいつはやけに上機嫌だった。  あいつの表情で唯一露出した口元は緩み、馴れ馴れしく俺の肩を叩いてくる。 「お前な……お前が待ってろって言ったんだろ」 「ああそうだな、流石忠犬ハジメだ。よしよししてやろうか」 「いらねえよ。それより、いいのか?先に出てきて」 「何が?」 「何って、まだ居るんだろ。さっきの子」 「ああ、けどそろそろ昼飯の時間だろ」  言われて腕時計を確認する。確かに小腹は空いてきたところだが、と視線を向ければやつはニッと笑うのだ。 「飯、食いに行こうぜ」 「性欲満たしたら次は食欲か、お前は忙しいな」 「ハジメだって腹減ってんだろ、ほら、さっさと行くぞ」  なんか強引に会話を逸らされてる気がしたが、悪い気はしない。最初はなんだこいつと思ったけれども、慣れてきたらこの気安さが接しやすくなるのだ。  それにしてもあまりにも自由すぎる気もするが。思いながら、ぐいぐいと引っ張ってくる岩片に「わかったから引っ張るな」と声をかけた。  日常茶飯事だった。  なんの魔法を使ってるのか相手に困らないこいつを見てきていたから、誰といようが気にすることもない。けれど、いつからだろうか。病気みたいに取っ替え引っ替えしていたこいつの隣に誰もいなくなったのは。  まず違和感に気付いたのは、あの異様な学園から離れてからだ。 「岡部、これこの前借りたやつ返すわ。すげえ面白かった」 「それなら良かったです、あのゲームアクションが本当爽快で絶対岩片君好きだと思ったんですよ!来月シリーズの新作来るので是非一緒にやりましょうよ」 「おう」  教室の隅っこでオタクみたいな格好でオタクみたいな会話してる岩片、とその隣、ワクワクした顔の岡部の様子をなんとなく観察していた。  よく岩片と岡部が一緒にいるのは知っていたが、どうもゲームばかりをしてるらしい。惚れた腫れたの色恋沙汰どころか聞こえてくるのは色気のない会話ばかりだし、奴らに肉体関係がないのは一目瞭然だ。というか友達のそういうの想像したくないが、相手は岩片だとクラスメート全員穴兄弟ならぬ棒姉妹みたいなことも経験した俺からしてみれば異様だった。  ……セックスすること以外の人との過ごし方も知ってたんだな、こいつ。そんな妙な驚きを覚えつつ。  なんてぼんやりと考えてると、ふとこちらを振り返った岩片はそのまま俺のところまでやってくる。 「なんだよ、見過ぎだっての」 「……バレた?」 「分かりやすすぎんだよ、妬いてんのか?」 「いや、誰が誰にだよ」 「お前が、岡部に。俺を取られんじゃないかって」 「はは、寧ろクーリングオフ利かねえから気をつけろよって教えてやりてーくらいだわ」  可愛くねえな、と言いながらも岩片は楽しそうだ。「帰んぞ」と背中を叩かれ、はいよ、と俺も立ち上がった。  岩片の守備範囲は広すぎて、こいつのストライクゾーンはどうなってんだと辟易してきた俺だが、もしかしたらこの学園には岩片のお眼鏡に適うやつがいないということなのだろうか。なんて考えたけども、だとしても岩片は岡部みたいな地味なやつもいけるんだよな。それを言えば能義だってそうだ、寧ろいけないやつの方が少ないんじゃないかと思うほどだしな……。  だとしたらやはりこの野蛮人だらけの無秩序な学園の生徒じゃ岩片の手に負えなかったのか。でも、政岡口説こうとしてたくらいだからな……。  ちらりと、横を歩く岩片を見たとき、多分だけど目があった。 「なんだよさっきから、随分と物欲し気な顔するな」 「お前……大丈夫か?その、色々」 「は?何が?」 「だって……ここに来てから誰も抱いてないんじゃないのか?」  ここまでくれば心配になってきて、小声で尋ねれば岩片は固まった。そして、ぶは、と吹き出す。 「ハジメ、お前……ずっと考え事してんなって思ったらそんなこと考えてたのかよ」 「だって……あんだけ遊んでたお前がここ最近そんな相手もいないだろ」 「……まあ、そうだな」  そう答える岩片はなんだか妙な顔をしていた。この反応、なにか隠してるな。と直感する。  セックス狂いが急に遊ぶのを辞める理由となると、まさか……。 「ま、まさか……変な病気にでもかかったか……?」 「…………」 「いっ……!……おい、つまむなよ!」  むぎゅ、と頬を抓られる。地味に痛え。ぱっと手を離した岩片はやれやれと言わんばかりにクソでかい溜め息を吐いた。 「まあそうだな、お前が俺のことどう思ってんのかはよくわかったわ」 「どうって……男好きのヤリチン野郎だろ」 「お前は本当そういうところは慎まねえな……ああ、まあ否定しねえよ。けど、こう考えねえのか?寧ろ、俺が落ち着いてくれて嬉しい、とか」 「いや……まあ、それは……この状況でこれ以上面倒なこと起こされねえならそりゃあ嬉しいけど」  ただでさえ生徒会に巻き込まれてる現状だ、俺は自分のことで手一杯でこいつに付きっきりでいられるわけでもない。と、考え、もしかして俺がいない間に?と思ったが、それはないか。とすぐ思い直す。それならそうとこいつは隠すような真似はしないだろうし、聞きたくもねえ性事情を聞かせてくるやつだ。 「……ふうん、嬉しいのか」 「お前に振られた腹いせの八つ当たりで襲われることもなくなるわけだしな」 「ああ、そういうこと」 「それ以外に何があるんだよ」  やけに回りくどい言い方をする岩片にもやもやして聞き返せば、岩片はただ俺の方をじっと見てくるのだ。なんだ……この妙な圧は……。 「お前の言い方じゃ、俺に誰かを抱いてほしいみたいだな」 「それは極端すぎだろ」 「でもそういうことだよな?……俺が誰とも寝てないのを心配してくれてるらしいからな、性病にでもかかったかって」 「……わ、悪かったよそれは……」  こいつ根に持ってやがる。でもだってそれくらいしかないだろ。それか……。 「じゃあ、好きなやつでも出来たのか?」  まさかこいつに限ってそんなことないか。そんな可愛い話。「なーんてな」、なんて自分で言って寒さに思わず笑ってしまったとき。 「……そうだと言ったら?」  立ち止まった岩片が、さっきまでとは違うやけに真面目なトーンで言うから。  いきなり顔を近付けてくるから。  一瞬何を考えていたのか頭が真っ白になった。 「……え、……や、まじ……?」  さっきまで大人しかった心臓が急に煩くなって、口が回らなくなる。自分が笑えてるのかどうかもわからないけど、俺は岩片から目がそらせなくて。  いや、まさか、こいつがそんなまともな理由で、つかこいつが人を好きになるなんて。だとしたら、誰だ。  真っ白になった頭の中、急激に湧き上がってくる疑問に今度は思考回路がパンクしそうだった。固まる俺に、岩片はそのまま俺から手を離した。そして、 「お前は本当に可愛いな、ハジメ。すぐ信じるところも」 「……は……っ?」 「……あー、本当……可愛いな」  クスクスと笑いながら、そのままさっさと歩いていく岩片。そこで、ようやく自分が騙されたことに気づく。 「お、まえ……今のは質が悪いだろ……!」 「ドキッとした?」 「ああ、悪い意味でな」 「そりゃ良かった」なんて、人に背中を向けたまま岩片は手を振った。この野郎、とムカついたが、嘘でよかったと思った自分がいた。だって本当にこいつに本命ができたらと思うと、俺はどんな顔をしてそれを受け止めればいいのかまだ覚悟ができなかったから。 「ああ、お前が知りたがってた俺がなんで誰も抱かないって話だけどな。……まあ一番はセックスよりも面白いこと見つけたからだな」 「は?なんだよそれ」 「お前だよ、ハジメ」 「お前と居る方がよっぽど退屈せずにいられる」なんて、言いたいことだけ勝手に言って岩片は笑った。  ああそりゃ、なによりも健全だ。そりゃ喜ばしいな、なんて、そんなわけあるか。 「……お前な、楽しんでんだろ」 「ああ、すげえ楽しい。こんなことならもっと早くこうすりゃよかったってな」  クソ、ムカつくほどいい笑顔で言いやがって。あーそりゃよかったですね、ご主人様を楽しませれたなら僕も楽しいですワン。なんて、嫌味の一つや二つ言ってやろうかと思ったがやめた。  あまりにもこいつが楽しそうに笑うから。  だから、まあこいつがいいならそれでもいいかなんて思う俺も大分毒されているのだろう。でも、まあ、それも悪くないなんてそんな風に思う自分に笑いも出なかった。  【おしまい】 「……なあ、ハジメ。お前は信じないだろうが俺はお前に一度だって嘘を言ったことはないんだよ」  うわ言のように口にする岩片に、俺は目を閉じた。幻聴か、だとしたら随分と都合がいい。  全部嘘であってほしいと願う俺にとって、それほど残酷な言葉があるだろうか。吐かれた言葉は刃のように突き刺さる。  ……そんなこと、知りたくなかった。  聞きたくなかった。  全部壊してくれた方がまだましだった。  感覚を失いかけた体は指先一本すら動かすこともできぬまま、意識は闇の中へと落ちていった。  いっそ、全部夢だったら、目を覚ましたら全部夢だったらよかったのに。  くだらないこと言い合って笑っていた頃に戻りたいなんて思うこと自体、終わってる。


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