天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第十話【人狼パート3】
Added 2019-09-22 10:13:23 +0000 UTCまたこの時間がやってきた。 三度目だというのに、何度やっても慣れそうにはない。 最後に遅れてやってきた阿賀松は、すでに脱落したメンバー以外全員が揃ってるのを確認し、目を細める。 「何匹か濡れネズミがいんな。……まあいい、始めるか」 ……いいのか。 「なあ、伊織。質問なんだけど」 阿賀松が自分用のソファーチェアに腰を下ろした時、裕斗は手を声げた。 「ああ?なんだよ」と、少しだけ鬱陶しそうに眉を潜める阿賀松。そんな阿賀松に構わず、裕斗は変わらない調子で続ける。 「亮太……つーか、負けたやつらってまだこの船いんのか?全然見かけねえんだけど」 「取り敢えず『いる』とだけ言っといてやるよ。なんなら、ゲームのときは別室からも見れるようにしといてやってる」 「別室から……」 「下手なこと言うと終わったに響くかもしんねーから、聞かれてるってのは覚えとけよ。追々響くかもしんねえしな」 「ま、吊るされたやつの自業自得だけどな」くく、と喉を鳴らして笑う阿賀松は愉しそうだ。 どんな状況なんだ……。想像してみたらそれはそれで面白そうだが、メンツがメンツなだけに本当に大丈夫なのかという別の心配を覚える。 「なるほどな、伊織がそういうなら大丈夫そうだな」 ……何一つ安心する要素はないと思うが、裕斗は納得したらしい。満足そうに笑ってる。 「他になんかあるやつはいねえか?いねえならさっさと始めるぞ」 「お互い言いたいこと色々あるだろうしな」という阿賀松の言葉は俺に向けられてるような気がしてならない。 ここが正念場だ。 ――三日目の夜が始まる。 ◆ ◆ ◆ 「今朝噛まれたのは江古田君か。彼もだが、前回のことから話し合う必要がありそうだな」 第一声は芳川会長だった。 江古田が襲撃によって殺されたことによって俺たちの不利は色濃くなるのは確実だ。 「あと、志摩亮太が壱畝遥香を道連れにした件だな。あれってどういうことだ?」 「志摩亮太はハンターだった……ってことだよ。処刑時に道連れにできる役職はもう一つ、埋毒者がいるがこの場合は指名することはできない。それに、埋毒者は既に名乗り出てるからな」 安久の疑問に対し答える仁科は、『理毒者』という言葉を口にしたときちらりと阿佐美の方を見た。 良くない流れだというのはわかった。 人数が多いときは有耶無耶にして標的を擦り付けることは可能だったが、大分、それも役職持ちが死亡してる現状どうやっても綻びが浮き上がってくる。 冷や汗が滲む。阿佐美が人狼だと知ってる身としては、存在するはずの本物の埋毒者が音沙汰ないのが余計気味悪かった。 本物の理毒者が出てくれば阿佐美の黒は確定になる。理毒者がわかったとして、襲撃してもこちらも一人道連れが出るためどうやっても理毒者に勝ち目はない。 なのに、何故姿を現さない。 誰だ、あいつか、この人か。全員が全員怪しく見えて仕方ない。 「けど、待ってよ。それじゃああいつは……志摩亮太は村人側のくせに白確定の壱畝遥香を道連れにしたってこと?」 「ハンターのくせに占い師を名乗ってんだ、あいつの考えてることなんて理解できねーだろ。けど、確実なことがあるだろ?」 「江古田は殺された。灘、阿佐美、そんで十勝、齋藤。コイツラは明らかに黒だ」疑心暗鬼に支配され、会話の内容が頭に入ってきてなかった俺は突然八木に名前を出され、飛び上がりそうになった。 「もう投票行っていいんじゃねえか?こいつらのうちの誰かに入れれば確実だろ」 「っ、ま、待ってください……そんな……」 この流れはまずい、とにかく流れを止めなければ。 そう口を開いたときだった。「待て」と、静かな声が辺りに響く。 「八木、お前の意見には一理ある。しかしそうなると次の問題が出てくるわけだ」 「次の問題?」 「……狐だ。人狼を全滅させたところで、狐が生きているのなら勝利とは言えないだろう?」 あ、と息を飲む。 そうだ、自分たちが生き残ることに頭を支配されていたが肝心の狐を殺さなければ人狼側の勝利にはならない。 それは、村人側も同じである。 「つまり、人狼を削る前に狐を処罰しろってことか」 「おい、そんなまどろっこしい真似してる場合かよ」 「処刑では人狼の中から一人ずつ殺す。そして、あわよくば人狼に狐を殺してもらうのが一番効率的だ、という話だ」 流石会長だ、俺はそこまで頭が回らなかった……。 今は敵だとわかってても、その冷静さに感心してしまうのはもう仕方ない。首の皮一枚ではあるが、それでも一命を取り留めてるだけましだ。 共同戦線というわけではないが、利害は一致している。それに、まだ打開策はあるはずだ。それを模索しながら、なんとか狐を見つけるしかない。 「えーと、初日、村人として名乗り出たのは確か……僕、裕斗さん、芳川君、仁科君、五味君、御手洗君、阿佐美君……そして齋藤君、でしたよね?そして現時点で村人ではないことが判明してるのは……阿佐美君。グレーゾーンの齋藤君はおいておいて、本来の村人は四人だとすると……この中に狐がいる可能性が大きい」 志木村の言葉に、それぞれの視線が交差する。 この中に狐が……。誰もが嘘を吐いてるようには思えないだけに、それが余計恐ろしくなる。 そんな中、指差ししてなにやら確認していた安久が「む?」と眉を釣り上げる。 「ちょっといいか、まだもう一人……村人どころか役職はっきりしてないやついるよな」 「へ?」と、俺と仁科の声がハモった。 そして、安久の視線の先を追った俺は息を飲む。 「おい、そこのオカマ!……あんた、役職一度も名乗ってなくないか?!」 そこにいたのは持て余したように毛先を指で弄んでいた連理貴音だった。全員の視線が連理に集まる。 そして、その渦中の人物はそこでようやく気付いたようだ。あら?と小首を傾げた。 「何、もしかしてそれ……アタシに言ってるの?」 「アンタ以外にオカマいないだろ!……というか、僕的に一番怪しいのアンタなんだけど?」 「まぁ、失礼な子ね!これ、絶対役職言わないといけないなんてルールなんてないんでしょ?不利になっちゃうじゃない」 「確かに強制ではないはずですが……今この場で怪しいのは貴方ということになりますけど、いいんです?」 「やだ、アタシのこと疑ってるわけ?アタシよりも怪しい子なんてたくさんいるでしょ」 宥めるように、けれどもやんわりと咎めるような視線を向ける志木村に連理は肩を竦めた。 ……確かに、現に俺たちは役職持ちを進んで殺していっている。そうなると連理の考え方は正しい気がするが、それはつまり連理は役職も持ちだと人狼にバレてしまうわけで。そして、何もわからない村人サイドからも不信感を買ってしまうことになるはずだ。 俺は考える。現時点で確定していない役職は狐、そして理毒者だけだ。 そしてこの自信、もしかして理毒者か? 「やっぱりそこのオカマが一番怪しいじゃん!絶対そいつ有耶無耶にしようとしてたんだろ、下手なこと言って勘繰られるのもやだったんでしょ?」 「じゃ、いいんじゃないっすか?ここはもう連理先輩が狐ってことで!」 「ちょ……ちょっとナオ君、面倒臭くなったからってアタシを吊ろうとしてるでしょ!お姉ちゃんそんなの許しませんからね!」 そうぷん!と胸を逸して怒る連理に精神ダメージを負ったようだ、「お、お姉ちゃん……?」と、ぴくぴく震える十勝はさておき。 「連理先輩は確かに怪しいですが……狂人という可能性もあるでしょう。その場合、ここで連理先輩を処刑したところで無駄なことだと思いますが」 「だからお前が狂人……っだーっ!クソ、埒が明かねえな……!」 「……そもそも本当にこの人が狐だとしたらもっと上手くやるだろ。こんな、自分から怪しいですって真似……本物の狐を庇うために引っ掛け回してるようにしか思えないな」 「平佑ちゃん、カズ君、アタシのことを信じてくれるのねっ!」 そうきゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐ連理に抱き着かれそうになった栫井は「ぐ……っ」と死にそうな顔をしていた。……頑張れ、栫井。 ともかく、栫井の言葉はもっとものようにも聞こえる。しかしそれは理毒者にも当てはまることだ。理毒者は殺されることにより周りには大なり小なりのダメージを与えることになる。つまり、殺すだけリスキーな存在だ。 だからこそこうして奔放に振る舞うことができるのだろう。 「どこまでも幸せそうで羨ましい限りですね」 「聞こえてるわよシキ君」 「おや、失礼しました。……まあ、僕としても二人と同意見ですけどね、狂人……或いは差し詰め狐陣営――背徳者、でしたっけ?そして、理毒者のどれかでしょうか。どちらにせよ、障らぬ神に祟りなし。放置しておくのがよさそうですね」 「あら、随分と引け腰なのね」 「僕は危険な橋は渡らない主義なので。……それなら、確実に生き残れる道を探すのがこのゲームでしょう」 「となると、狐は間違いなく村人の中にいることになりますしね」と、僅かに目を開いた志木村は自称村人たちを見回した。 ……やはり、ここに戻ってくるわけだ。 「この中っつったって……俺は狐じゃないから、俺からしてみれば全員怪しいんだけど」 「……不毛だな。人狼にこの中から適当に殺してもらうのが一番手っ取り早そうだが」 そう、うんざりした様子で言葉を交わす仁科と五味。 この二人のどちらかが嘘を吐いてる可能性もある。一挙一動が疑わしく見えて仕方ない。 疑いたくない、信じたい。けれど、確かにこの中に嘘吐きがいるのだ。 「……もし、このまま狐が見つからなかったらどうする?」 そう、進行が滞りそうになった空気に一石を投じたのは阿佐美だった。誰に聞くわけでもなく、探るように周囲の反応を見ているようにみえた。 「さあ、どうするかな。ここは消去法で怪しい人物を消すしかあるまい」と、芳川会長は眼鏡を軽く上げる。 「その時は齋藤君を処刑してみましょうか。いまのとこ彼が村人の中で一番グレーなので」と、変わらない笑顔で続ける志木村。 「齋藤……齋藤はなぁ……。俺は、まあ、皆に従うよ」と仁科は言葉を濁らせる。 「いっそのことこのまま多数決でもいいんじゃないか?この前みたいに、一発勝負」と、考えることが面倒になったのか五味は投げやりに口にする。 「今この場で狐を探しても時間の無駄だろ。それよりも、これ以上村人が減って人狼を勝たせる可能性よりも江古田が死んでほぼ黒確定の十勝を吊るした方が確実じゃないか?狐捜しはそれからでも遅くないだろ」と、珍しく真面目な顔をした裕斗は足を組み直した。 「僕は齋藤佑樹に一票!だって、コイツ自分が吊られそうになっても全然反論しないんだもん」と安久は相変わらず横暴で。 「そんなこと言われても、俺はどうすることもできないし……」 本当に俺が村人だとしても、身の潔白を証明することは難しいだろう。……占い師や霊媒師がいなくなったこの場では。 だからこそ、人狼にはとっては騙りやすい状況ではあるが、だからこそ一度疑われてしまえば信頼を得ることは難しい。この状況では、間違いなく俺に投票が集まるだろう。 死にたくない、そう思うが、どちらにせよ敗北が目に見えているこの状況、俺に残された手は一つしかない。 「……っ、分かりました」 潔白を証明することはできない。けれど、信頼を得る方法は一つだけ、ある。 「じゃあ、今回は俺に投票してください。……俺は、本当に村人です。けど、それで皆が納得できるなら……今回は俺を吊ってください」 俺の言葉に、明らかに空気が変わるのを肌で感じた。 さっきまで噛み付いてきていた安久が黙ったのが大きいだろう。 「さ、齋藤、本気で言ってるのか……?」 「……はい、俺は、身の潔白を証明することはできないので……」 一か八かの賭けだった。本当は死にたくないに決まってる。けれど、生き残ることに拘るのは却って怪しまれる。俺が村人ならば、こうすることが普通だ。まだ、半分は村人は生き残ってる状況だ。他の生き残りに託してグレーを潰させた方が献身的に思われる。 三者三様、それぞれが考えてるようだ。俺を疑っていた連中が、迷い出してる。向けられる視線からそれがわかるが、まだ安心できる状況ではない。 このままでは俺は吊るされるだろう。どうにかして脱出口を見つけなければ。そう、阿佐美に目を向けたとき。 「投票の前に……ちょっと、俺からもいいかな」 ……きた。阿佐美は、控えめに手を上げる。それを見た瞬間、安堵に力が抜けそうになった。待っていた、俺は阿佐美がこの状況を打破してくれるのを。 「なんだ、言いたいことがあるなら早めにいっておけ。そろそろ時間だ」 「そうですね。それじゃ、さっきから皆の反応見てたんですけど……今この状況で優先すべきは狐と思わしきグレーを潰すことですよね」 「……まー、これ以上人数が減る前にやらねえと確かに後々面倒くせえしな」 「普通に考えたらそうですよね」 ……何が言いたいんだ、阿佐美は。 目元が前髪で隠れてるお陰で何を考えてるのかわかりにくい阿佐美に、全員が全員当惑してるように見えた。 ――ただ一人を覗いて。 「一人だけ、狐探しに乗り気じゃない人がいるみたいなんですよね。……この中に」 「……っ、それって……」 「……ねえ、裕斗君。狐探されて都合悪い人間って、狐以外いないと思うんだけど……裕斗君はどう思う?」 全員の視線が、志摩裕斗に向けられた。 いきなり名前を呼ばれた裕斗は、「ええっ?」と驚いたような顔をした。 「なんだよ、俺はただ時間の無駄だって話しただけだろ。それに、下手したら人狼はまだ三人残ってるわけなんだからさ。それってそんなにおかしいことか?」 「ああ、おかしいよ。……村人はまだ残ってるはずだ、それなのに人狼に拘るのは……自分の正体がバレるよりも先に勝ちに行きたかったからじゃないのか?」 「……は、なるほどな、俺を嵌めようってことか、詩織。お前らしいな、流石だ」 裕斗は怒るどころか寧ろ楽しそうに笑い、手を叩いた。 「……伊織、時間切れまであと何分だ?」 「あと四十二秒」 「丁度いい。じゃ、投票前に教えてやる。俺は本物の理毒者だよ。――詩織が嘘つきだ」 ざわつく空気の中、投票タイムが始まった。 志摩裕斗が理毒者。なんで、今の今まで黙っていたんだ。いや、その理由はわかった。泳がせて仲間を探るためか。けれど、いざ自分が吊るされることになりカミングアウトしたのか。 話し合い禁止の中、投票を選ぶことになる。 ……最後の最後に投げ込まれた爆弾に、全員が全員迷ってるはずだ。どちらが本物か。 理毒者は処刑時陣営関係なく一人が巻き込まれて死亡することになる。 本物が志摩裕斗だとわかってる俺からすれば裕斗に投票するしかないのだが、それ以外からしてみれば二択だ。そして下手したら自分たちが死ぬ可能性もある。 けれど、少なからずこれで票は分散されるだろう。あくまでそれは賭けでしかなかった。少なくとも俺達の票が裕斗に集まる。このまま裕斗が処刑されることを願うしかなかった。 そして、投票結果が発表された。 十勝、1票 連理、1票。 俺、2票。 阿佐美、4票。 裕斗、5票。 「今回の処刑者は……裕斗、お前だな」 「あーあ、ついてねえな。ま、仕方ねえか。詩織にはやっぱ敵わねえよ」 志摩裕斗は椅子から立ち上がる。 そして、続いてスクリーンに表示されたのは『死亡 連理貴音』の文字。……今回の理毒者による道連れだろう。 「……はぁ、ほんっと、ツイてないわね〜。……よりによって志摩裕斗、あんたのせいでゲームオーバーなんて」 「そんなつれないこと言うなよ、なあ、いい部屋用意しといてくれよ伊織」 「うるせえ、死人はさっさと出ていけ」 二人ともあまくまでゲームとして愉しんでたようだ、本気で悔しがってる様子も怯えてる様子もない。……二人のメンタルが強いだけなのかもしれないが、謎の黒服たちに連れられるように出ていく二人を見てなんだか俺はまだもやもやが残ったままだった。 何か、大きな何かを見落としてるような……定かではない狐の存在があるからそう感じるだけなのかもしれない。 けれども、昨夜とは違いまだ穏やかな空気で終われたことが救いだった。……それに、俺も死なずに済んだ。 そのことだけが、今は嬉しかった。 【四日目 議論パート終了】