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田原摩耶
田原摩耶

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Cutie.【↑100/4,200文字/テミッド×伊波/ぬいぐるみ化/キス】

 どうしてこうなったのだろうか。 「いなみ、さま……」  背後から聞こえてくるのは俺の名前を呼ぶ中性的な細い声。背中にぴったりとくっつくテミッドは、俺を抱き竦めたまま俺の肩口に顔を埋めてくるのだ。  近い、なんてものじゃない。匂いを嗅ぐように、そして体を撫で回され、名前を呼びながら、何度も可愛いとあの綺麗な顔で言われてみろ。仮死状態と言えど、心臓が停まる。  俺は、文字通り身動きが取れなかった。取れたとしても、きっといつものようにもいかないはずだ。  丸まった手足、二頭身まで縮んだ体。縫い付けられた口も動かない。そう、俺はぬいぐるみになっていた。  事の発端は数時間前に遡る。  ビザール通りで見かけた露店で売ってあった『飲んだらぬいぐるみになる薬』なるものを見つけた俺はいつの日かのふわふわもこもこの黒羽の姿を思い出し、急激にあのもふもふ黒羽が恋しくなった。  よく聞けば効能は一時間だというし、なんとか黒羽にお願いして飲んでもらえないだろうかと購入したのが数時間前。そして、黒羽を探してる最中にうっかり転んで薬をかぶってしまったのが三十分くらい前。  そして、ビザール通りの片隅。ぽつんと転がっていた俺をたまたま通りかかったテミッドが見つけてくれたのがついさっき。  ――そして、現在に至るのだけれども。 「……っ、かわいい、かわいい……いなみさま、ふわふわ……かわいい……」  俺を拾ったテミッドはまず俺の匂いを嗅ぎ、「伊波様に似てる……」と口にしたのに気付いて喜んだのも束の間。テミッドはずっとこの調子だ。こそこそと人気のないベンチに座り、膝に乗せて、抱き締めて、撫でて、なんかよくわからないお菓子を食べさせられそうになる。一通り弄んだあとはこれだ。かわいい、かわいいと、溶けたように微笑んだテミッドは俺をぎゅーっと抱き締めてくるのだ。  ただこればかりがテミッドの力の強さが仇となり、中身の綿が出るのではないかと怖くなるが流石ぬいぐるみの体。人間のときとは違い痛みはない。けれど。 「……伊波様……」  すり、と額を押し付けられる。テミッドの睫毛に、さらさらな赤い髪にこそばゆくなるも動けないので逃げることもできない。正直、お前の方が可愛いよと何度も言いたくなったが縫い付けられた口は何も発せない。 「会いたい、です……伊波様……もっと、一緒に……」  ……これほどぬいぐるみの姿がもどかしいと思えたことがあっただろうか。短い手足ではテミッドを抱きしめることも、頭を撫でてやることもできない。その思いを与えられるだけ与えられて、なにもできないのだ。  じわりと潤むその目から涙がぽろりと溢れる。布の皮膚がそれを受け、濡れるのを感じた。  俺はここにいるぞ、テミッド!そう言おうとしても、言葉が発せない。気弱で、臆病に見えて勇敢で、俺のためになんでもしてくれる優しいグール。  くそ、早く、早く人間に戻してくれ。  こんなにぬいぐるみの姿が辛いって分かっていたら悪戯に得体の知れない薬を買うんじゃなかった。そう後悔したときだった。 「……いなみ、さま」  ぴくり、と仮死状態であるはずの心臓が跳ねたのを感じた。それとほぼ同時だった、テミッドの柔らかい唇が頬に押し付けられた。  一瞬何が起きたのかわからず硬直したときだ、視界が白く光る。そして、つい先程まで金縛りに遭ったみたいに動かなかった体に感覚が戻った。  明らかに先ほどよりも広がる視界、そして、目の前には目を見開いたテミッドがいて。 「え」とテミッドが固まったのを見て、気付く。 「あ……戻った……?」  恐る恐る手を動かしてみれば、ある。さっきの布と綿でできた丸い腕とは違う、皮と肉と骨で出来た腕がちゃんとついていた。  どうやらタイムリミットがきたらしい。助かった!と安堵するのもつかの間、俺は自分の状況に気付いた。  テミッドの膝の上、テミッドと向かい合うように跨った俺。そして、みるみるうちに青褪めていくテミッド。 「……い、なみ、さま……?」  ワナワナと震える血の気の失せたその唇が俺の名前を呼ぶ。あ、と思った。そうだ、テミッドは、俺を本当にただのぬいぐるみと思っていたのか。 「えと、実はぬいぐるみになる薬を間違って被ってしまってな……でも、テミッドに見つけてもらえて本当良かった!」  ありがとな、とテミッドにお礼を口にしたとき、みるみるうちにテミッドの顔が赤くなっていく。そして、テミッドは自分の顔を手で覆い隠した。 「……あっ、て、テミッド……?」 「ぜ、ぜんぶ、見て……聞いてた……んですか……?」 「え?あ……あー、えっと……でもまあその、テミッドの素直な気持ちが聞けて俺は嬉しかったから……」 「……ッ!……ッ!」  ビクッと震えたテミッドは恐る恐る指の隙間から俺の方を伺ってくるのだ。鮮やかな緑色の瞳が、俺を捉える。いつもの暗い瞳とは違う、感情の溢れる、濡れた目。 「っ、ご、めんなさ、ぼく、き、きもち、わるい……ですよね、く、くろはさまに、謝らなきゃ……いなみさまに、なんてことを……不敬罪……」 「っ、ちょ!は、早まるなって!……だから、俺は全然気にしてないし、寧ろ嬉しかったんだって!」 「っ、で、でも、……ぼく、い、伊波様の体、いっぱい触った……です、あんなことや、こんなこと……」  言いながら恥ずかしくなっているのだろう。真っ赤になって半泣きになるテミッドに俺はどうしたものかと思考する。そして、思い付いた。  こうなったら、と思い切って俺はテミッドの頬を両手で挟んだ。 「っ、い、なみさま……?」  濡れた瞳が不安そうにこちらを見た。ごめん、テミッド。そう口の中でつぶやき、俺はそのまま顔を寄せた。ふにゅ、と柔らかいものが唇に触れる。冷たい、けれど、ずっとこうしていたい気持ちよさに包まれたが、それも一瞬。俺は、すぐにテミッドから唇を離した。 「……っ、これで、おあいこだろ」  大きく見開かれた瞳が俺を捉えたまま離れない。  ああ、俺はなんてことを。そう思っても、こうすることでしかテミッドを落ち着かせる方法など思い付かなかったのだ。  そして、更にじわじわと赤くなっていくテミッド。それは自分にまでそれが伝播したのようだ。熱くなる顔。恥ずかしい、けどテミッドも恥ずかしいのだ。俺が照れてどうする、我慢しなければ、とぐっと堪えたとき。 「ぁ、あ、あの……」  いなみさま、と震えた声でテミッドは俺を呼ぶ。  先程まで石になったみたいに固まっていたテミッドが、恐る恐る近付いてくるのだ。というか、体勢が体勢なのでまじで近い。ぬいぐるみになったときも思ったが、このサイズに戻ってよくわかった。 「どうした?」と、なるべく平静を装って答えたとき、テミッドはぴったりと俺にくっついてくるのだ。そして。 「……もう一回、して……ほしいです……いまの……」 「……っぅえ?!」 「も、もう一回……だめ、ですか?」 「ぁ、え、も……もう一回……?」  いまの、って間違いなくキス……のことだよな。  自分からしておいてなんだが、こんな風に強請られるとは思わなくて逆に後悔した。というか、すげーグイグイ来る……つか顔が近いし、吐息が、やばい。 「ぁ、あと……一回だけ、なら……」  テミッドが恥ずかしくならないようにするためだ、と言い聞かせ、必死に顔の赤みと指先の震えを殺す。そして、恐る恐るテミッドに向き直る。節目がちの二つの目が俺を期待するようにじっと見つめてくる。……顔がいい、じゃない、そんなことを言ってる場合ではない。  目を瞑ってくれと言ったらまた泣かせてしまうかもしれない、そう思うとこのまま腹を括るしかなかった。 「……っ、ん……」  不格好に突き出した唇を押し付ける。自分がいけないことをしてる自覚はあった、いくら性に疎そうなテミッドとはいえ、こんなことをするなんて。そんな罪悪感に耐えられず、慌てて顔を離そうとした時、口を薄く開いたテミッドに唇を啄まれる。ぐっと押してくるテミッドにそのまま唇を舐められ、吸い付かれ、息を飲んだ。ちゅ、ぢゅ、と凡そ可愛げのない音が響く。やばい、やばい、と、逸らされる上半身、必死にテミッドの胸にしがみつくが、俺は忘れていた。テミッドの力が俺の何億倍もあることを。 「っ、ふ、ぅ……ッ、ん、んんぅ……ッ!」  唇に夢中になるテミッドは甘いキャンディかなにかみたいに俺の唇を舐めるのだ。技巧も関係ない、ただ、触れたいという欲に突き動かされるこの行為はキスというよりも、捕食に等しい。 「っ、待っ、へ、てみ……っん、ぅ、……てみっ、ど……っ、んん……ッ!」  長い、長い!というか、舌が口の中に入ってくる。これは、これ以上は駄目なやつだ。だめだ、テミッド、そう懇願するように胸を押し返すが、がっちりと腰に回された腕は離れない。喉の奥まで入ってくる長い舌に口の中を舐め回され、唾液ごと啜られれば頭の中が真っ白になり、腰がジンジンと熱くなる。  うっとりと細められたその目に見つめられ、何も考えられなくなる。ずるりと腕から力が抜け落ち、そのままテミッドにもたれかかったとき、テミッドはようやく俺から舌を引き抜いた。  散々嬲られ、しゃぶりつくされた唇とその周辺はテミッドの唾液でぐっしょりと濡れ、閉じることも忘れた口からは唾液が溢れた。 「……いなみ さま……かわいい……」 「っ、は、……ふ、……」 「また、こうしても……いいですか……?」  痛いほど腫れた下腹部、そんな可愛い顔して聞かれてみろ。許可しちゃだめだ、そんなことしたら、歯止めが効かなくなる。そう思うのに、俺の頭は正常な状態ではなかったようだ。口が麻痺したみたいに疼く中、こくりと頷くのが精一杯だった。テミッドが、「いなみさま、だいすき」と抱きしめてくる。ああ、かわいい。やっぱり、テミッドはかわいい。なんていうか、甘やかしたくなる。朧靄がかった気になる思考の中、口を開けたテミッドが口を開き、再び口にしゃぶりついてくる。  ……テミッドが喜んでくれてるのなら、いいや。  そう思考放棄した俺は、テミッドの頭を抱きしめ、さらりとしたその髪に指を絡めるように撫でてやった。 【おしまい】

Cutie.【↑100/4,200文字/テミッド×伊波/ぬいぐるみ化/キス】

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