XaiJu
田原摩耶
田原摩耶

fanbox


尾張元の夏休み③【↑100/8,400文字/尾張総受け/オールキャラドタバタギャグ】

 祭りも終盤、夜も深くなっていき、来たばかりに比べるとだいぶ人気は引いていった。  そんな中、ドリンクを売ってる屋台の前。見覚えのある背格好の男を見つけた。茶髪頭に着崩した柄シャツ。そしてその手にはアルコール度数高めの缶ビール。男、基担任教師の宮藤雅己はこちらに気付くと少しだけぎょっとして、そして笑った。 「よお、お前らも来てたのか」 「マサミちゃん」 「宮藤先生」 「岩片と尾張、岡部はともかく……馬喰も一緒とは珍しい組み合せだな」 「俺がいちゃそんなにおかしいか?」 「いや、寧ろ俺としては安心したけどな。お前にも友達ができて」  そんな宮藤の言葉に、誂われた馬喰は「大きなお世話だ」とそっぽ向く。けど、本気で怒ってるわけではないようだ。構われて嫌がる馬喰がちょっと新鮮で笑ってしまう。 「マサミちゃんもここにいるってことは……デートか?」 「……岩片、お前わざとだろ?仕事だよ、仕事。仕事で来てんだよ、今日は。……しかも無給」 「だと思った。マサミちゃんはデート中、缶ビール飲まなそうだもんな」 「当たり前だろ?」 「勤務中だけどな」 「……ボランティアだよ、ボランティア。……あー、言ってて悲しくなってきたな」  言いながらぐびぐびビールを飲む宮藤。そしてそれを「先生、元気出してください」と慰める受け持ちの生徒……なんて悲しい図だ。 「生徒会の連中とはもう会ったか?あいつらがまた余計な騒ぎを起こさないか見てこいって校長に言われてな」 「うわ、可哀想なマサミちゃん。……それでキンキンに冷えたビール持ってんのか」 「飲まねえとやってられるかよ!俺今日はオフの予定だったのにあのハゲ……!!」 「せ、先生……」  酒を飲んで切り替わったらしい、先ほどで愚痴ってた宮藤はどこにいったのか、気恥ずかしそうに咳払いをした宮藤はいつも教壇で見る教師の顔に戻っていた。 「……つーわけだ、俺のこと可哀想だと思うんならあんま人様に迷惑かけるようなことすんなよ?」  宮藤の言葉に、「はーい」と無邪気に返す岩片。  俺は知っている、こいつ、返事だけはいいときは絶対聞いてないということを。  しかしそんな岩片の性質のことまでは気付いていない宮藤はよしよしと満足そうに頷くのだ。 「あ、そうだ。言い忘れてた。……神社裏にも行くなよ。あそこ、毎年祭りのとき悪さいるやついるからな」  そして、ふと思い出したように続ける宮藤。  神社……ってここの会場のことだよな、当たり前だけど。 「なに、神社裏になんかあんのか?」 「なんかってか、あれだ。あの辺りだけ灯りがねーから肝試しだなんだって勝手に入るやついんだよ。……あ、おい、岩片お前今なんか閃いた顔しなかったか?」 「……んー?気のせいだろ?俺はいつも通りだって」 「おいおい、お前ら頼むぞ」 「俺はちゃんと忠告したからな」と、念を押す宮藤に、岩片は「はーい」と元気のいい挨拶。  それから、もう一度見回りに行くという宮藤と別れた俺達。  ニコニコしながらそれを見送っていた岩片は、宮藤の後ろ姿が見えなくなるのを確認するとすっ……と表情を消した。そして。 「それじゃ、行くか」 「……行くって?」 「そりゃ肝試しだろ」  ニヤリと口元に嫌な笑みを浮かべる岩片。言わんこっちゃない、どうせそんなことだろうと薄々勘付いてはいたが……こいつマジだ。 「お前な……マサミちゃんが泣くぞ?」 「良いんだよ、アレはフリだろ。フリ。俺らのためにわざわざマサミちゃんが教えてくれたんだよ、ならその情報を有意義に使ってやらねえと悪いだろ」  悪い意味で期待を裏切らないやつだ。悪気どころか『このまま言うこと聞いてたらマサミちゃんに悪いだろ』と開き直るスタンスを取る岩片に、岡部は困惑する。 「肝試しって、まさか僕たちもですか?」 「え?丁度四人だし二人二人で行けるじゃん」 「四人って……まさか俺もかっ?」  ぎょっとする馬喰に、岩片は「何言ってんだ?当たり前だろ」と逆に驚いたようなオーバーリアクションをしてみせる。巻き込む気でいやがる、こいつ。  つか、だとしてもだ。 「別に分かれる必要ないだろ、全員で行けばいいじゃん」 「なんだ?ビビってんのか?ハジメ」 「ど、どうしてそうなるんだよ。別にそういうわけじゃねーけど……」 「なら問題ねーだろ。ほら、こんなこともあろうかとくじ用意してっから」  言いながらどこから取り出したのか割り箸くじ一式を取り出す岩片。待て、こいつ持ち歩いてたのか。つーか最初からやる気満々かよ。そう、ツッコミが追いつかないでいると……。 「待ちやがれこのモジャクソ野郎!!!!!」  そう、屋台と屋台の隙間から飛び出してきたのは見覚えのある赤髪の男・政岡零児だ。無事景品回収できたのか、綿菓子とりんご飴を片手に夏祭り満喫してやがるやつに、岩片は口元に笑みを浮かべた。 「来たか、ハジメの専属ストーカー」 「って誰がストーカーだ!……肝試しやるんだってな、俺も混ぜろよ!」  どこから聞きつけたのか、こいつの地獄耳っぷりには最早恐怖しか感じない。  政岡の登場に露骨に嫌そうな顔をする馬喰とあわわわと震える岡部の隣、岩片は悩んでねえくせに悩むような仕草をしてみせる。 「んー、でもなぁ。人数偏るだろ?」 「その心配はありませんよ、こんなこともあろうかとちゃんと偶数になるように人数用意しましたので」  その時だった。聞こえてきたねっとりと絡みつくようなその声のする方を恐る恐る振り返り、硬直する。  そこには、見たくねー顔が勢揃いしてるではないか。 「元くーん!また会ったねえ!再会のちゅ~しよ、ちゅ~っ!」 「ふええ~~!!副会長様せっかく風紀委員長様たちから助けてくれたと思ったらいつになったらこの縄外してくれるんですか~~?!」 「…………おい、俺をこいつらと一緒にするな」  上から神楽、五条、そして不機嫌の極み五十嵐。 「最低最悪のメンツじゃねえか」と呟く馬喰。同意せざるを得ない。  つか待てよ。俺、岩片、岡部、馬喰、政岡、能義、神楽、五十嵐、五条……。 「……いや一人多くね?」 「ご安心下さい、一人カメラマン混ざってるだけですので」  言いながら五条の縄を外す能義はその手にカメラを渡す。 「えっ?!ちょ、俺撮影係っすか?!それでも全然ありっちゃあり、でもでも!普通に参加したい、いやでも本能に従うなら他CPの様子も合法的に見れるこのポジション神では……?!」 「ご覧の通りやる気満々ですね」 「冴えてんな有人」  岩片に褒められてウインクしながら親指を立てる能義。いや何も冴えてねえよ。人数増えたところで余計面倒な予感しかねえんだけど。 「っつーわけでくじ引きやんだろ?さっさと用意しやがれこの黒マリモ!」 「……おい、なんで俺まで参加することになってるんだ」 「どうせ暇でしょう、貴方」 「だからとはいえ、こいつらと組むのは勘弁だな」 「あ?それはこっちのセリフだ」  馬喰は生徒会と相性悪いだろと思った矢先だ、五十嵐と馬喰の間に妙にピリピリとした空気が流れ出す。  やっぱ人選おかしいだろ、つーか強制参加なのかよ。イベントごとは好きな俺だが、あくまで楽しいイベントだ。このメンツではろくなことにならないだろう。  せめて穏便に済ませるためにはこのくじで岡部か馬喰、岩片を引き当てることしかない。 「元君、俺と一緒がいいよね~?」 「ああ、そうだな」 「社交辞令テンプレートスマイルやめて~~!!」 「う、うぅ……なんでこんなことに……」  ……岡部に関してはまじでとばっちりだ。頑張れ岡部。念を送っていると岩片の方も準備が出来たようだ。 「それじゃやるぞ、同じマークがついてる奴らがコンビだからな」 「古典的だがこれなら不正もねえか……オッシャいくぞオラッ!!」  政岡に急かされ、ええい、ヤケクソだ!と一番近くのくじを手にしたとき。 「王様だーれだ!!」  いやそれ別のゲームだ。  一斉にクジを引き、俺はそれをひっくり返して先を見る。そこには黒い丸が書かれていた。  そんな俺の隣、そっと政岡が近付いてきた。 「お、尾張なんだった?」 「えーと黒い丸……だな」 「あっ、尾張君僕と同じですね!」  そう、岡部が安心したように目を輝かせた矢先のことだ。 「おおっと手が滑った!!」  政岡は目にも留まらぬ速さで岡部にぶつかるフリして割り箸を取り上げていた。下手くそか。 「あ、ちょっと会長さん何するんですか!!ぼ、僕の割り箸が……!!」 「何言ってんだ岡部、お前は最初から青の丸だったろ?そうだよなぁ……?」  最早恐喝である。そうガシッと岡部の肩を掴んで凶悪な笑みを浮かべる政岡に、「ヒッ」と岡部は青褪める。  この男、目的のためなら武力行使してくるやつだというのは薄々気付いていたが仮にも先輩のくせに大人げないにも程がある。見てられなくて、「おい政岡」と止に入ろうとしたときだ。 「会長、背中になんか虫が付いてますよ」  そう、政岡の背後に立った能義はそんなことを言い出した。瞬間、「あぁ?!」と飛び退くように自分の背中を振り返ろうとする政岡。 「ま、まじかよ……!!お、おいさっさと取れよ!っておい能義テメェ返せ!!」  そして能義にクジ(岡部のもの)を能義のクジとすり替えられていた。 「何言ってるんですか?私は何もしてませんよ。最初から黒い印のくじを引いたのは私……そうですね、尾張さん」  この男、散々目の前で不正行いながら俺に同意を求めてきやがった。あとさり気なく背中を撫でるな、不快指数がやべえ。 「……お前らいい加減にしろよ、そんなことしたらくじの意味がないだろ」 「岡部、よろしくな」と、能義からクジを取り返した俺は岡部にそれを返す。すると、岡部は「お、尾張君……!よろしくお願いしますね!」と嬉しそうに俺にぺこぺこ頭を下げてくる。  後方から「んぐぅう゛うぅ!!尾張ィ……!!そういうところも好き……ッ!!」という政岡のうめき声も聞こえてきたが聞こえなかったことにする。  ◆ ◆ ◆  それから数分後。  くじの結果、俺と岡部、能義と馬喰、神楽と五十嵐。  そして……。 「いやだァ!!ぜってーやだ!!尾張じゃねーといやだァ!!しかもこん……こんなクソもじゃもじゃ野郎とだと……ッ?!ぜってーやだに決まってんだろうが……ッ!!」 「おい……誰かコイツを黙らせろよ」 「諦めろ、そいつはこうなったら眠くなるまで収まらねえ」  赤ちゃんかよ。  それにしても、政岡と岩片がペアだと?……肝試しどころじゃねえだろ、おまけに岩片が珍しくおとなしいのも余計気味悪いし。 「つーか政岡お前代われ、俺はまだ岩片のがいい」 「おやぁ?そんなに嫌わなくてもいいじゃないですか、仲良くしましょう。馬喰さん」 「吐息を吹きかけるな……!」  今考えれば本当にろくなチームねえぞ。岡部が相手でよかった、と能義と馬喰見てると、岩片のやつがにやにや笑いながら馬喰の肩を掴む。  そして。 「まあ、落ち着けよ馬喰。……俺に考えがある」  言うなり、ゴニョゴニョと何かを馬喰に耳打ちする岩片。  何かを吹き込まれた馬喰は「え゛」と露骨に嫌そうな反応を示してくれた。そんな馬喰に対し、岩片は唯一露出したその口元に歪な笑みを浮かべる。ろくなこと考えてねー悪巧みの顔だ。 「……ま、そういうわけだから」 「……どうなっても知らねーぞ」 「お、おい岩片……」  何考えてるんだよ、と呼びかけようとしたとき。  いきなりガバッと背後から抱き締められる。デジャブ。「おい」と振り返れば、案の定そこにはメソメソする神楽がいた。 「うわーん!ハジメ君と一緒じゃないなんてやだよ〜〜!」 「おっ、おい、またかよお前……」 「ねーねーやっぱり俺に乗り換えない?俺と一緒の方がいいって絶対~~!満足させてあげるからさ~~!」  言いながらドサクサに紛れてまた人の頭に顔を埋めてくる神楽に、「変わらねえから」と念を押しながら押し退けようとしたとき。今度は五十嵐によって引き剥がされる。 「喚くな、騒ぐな、大人しくしろ。蝉か?お前は」 「誰が蝉だよっ、もっと可愛い例えにしろっての!」  はぁ、とデケー溜息つく五十嵐はそのまま「うるせえ」と神楽を捨てていた。転がされた神楽はそのまま「やだやだヤダ~~!!せめて可愛くて柔らかい浴衣のお姉さんなら許せたのに余計暑苦しいのヤダ~~!!」と地面の上でジタバタしてた。ひっくり返された蝉だ。 「……まじで岡部でよかった」 「ぼ、僕も同意見です……」  ◆ ◆ ◆  場所は変わって、今回の会場となる神社の前。  屋台もどんどん店じまいをしていき、まさに後の祭りという感じだ。けれど、そんなこともお構いなく今から不毛なイベントが開催されようとしていた。 「それじゃあまあルールとしてはこの神社裏にあるらしい祠にお供えすること。順番は俺たち、有人&馬喰、神楽&彩乃、そんで直人とハジメの順番な。五条、お前はまずは俺達と来い」 「ええっ?!お、王道君から命じられたら逆らえるわけないじゃない……!!」 「いいから早く来い」 「うっ、冷たい……!!すげー塩!でもそこが堪んなくゾクゾクする……!!」  まじでやるのか、この企画。  相変わらず一人楽しそうな五条が羨ましいくらいだ。携帯端末を懐中電灯代わりにする岩片は、自分のパートナーが階段の段差に座ったまま動かないのを見て僅かに眉を吊り上げた。 「おい零児、お前も来んだよ」 「……はあ、やる気でねえ。もういいわ俺ここにいる」 「ったく、しょうがねえな……」 「……っ、おい、なに、離せよっ!この……っ!」  まさか殴る気か?!と身構えたが、岩片は政岡の胸倉を掴み無理矢理引きずり起こせば、何かを耳打ちする。  そして、それまでジタバタしていた政岡はぴたりと動きを止めた。 「……まじで?」 「だから来い。いいな」  なんだ?二人の会話まで聞こえなかったが、あれほど嫌がっていた政岡は少し考えたような顔をして、そしていつもの凶悪な面に笑みを浮かべるのだ。 「仕方ねえな……今回だけだからな」 「い、岩片君が会長さんを丸め込んでる……?!」 「岡部……なあ俺すげー嫌な予感してるんだけど」 「ああ……奇遇ですね……実は僕もです」  馬喰のときも然り、まさか政岡まで大人しくさせるとは本当に何を言ったんだ。そのくせ俺には目すらくれねえ、別にほしいとは言わねえけどなんとなく除け者感というか、少しくらい教えてくれたっていいんじゃないか。そう悶々してると、不意に岩片がこちらを見た。……ような気がした。  分厚いレンズ越し、その目線がこちらを向いているかすら怪しいが、岩片は確かにほんの一瞬こちらを向いて笑んだのだ。 「そんじゃ、言ってくる。次のチームは五分後な」 「ええ、いってらっしゃいませ」 「かいちょー、漏らすなよ~~!!」 「誰が漏らすかッ!お前もなバ神楽!チビんなよ!!」  そう、政岡と岩片は微妙に離れながらも神社裏の林へと入っていく。そしてその後ろからついていく五条。  山へと繋がるそこは闇も深い、あっという間に三人の背中を飲み込んだ暗闇に俺はなんだか妙に落ち着かない気持ちになる。 「行っちゃいましたね……大丈夫でしょうか、あの二人……」 「正直政岡の心配しかねえが……まあ大丈夫だろ、五条もいるし」  自分で言ってて五条がいると何が大丈夫なのか全くわからなかったが、とにかく何事もなく済むことを祈るしかない。  そんなこんなであっという間に五分が経つ。  二番手は能義と馬喰だ。馬喰はというと岩片から何かを言われてからは渋々ながらもおとなしい。  売れ残りのブルーハワイのかき氷を食べ終え、それをゴミ箱に捨て立ち上がる馬喰。 「それではそろそろ私達も行きましょうか、馬喰さん」 「だから耳元で囁くのやめろ……っ」 「そんなことを言わずに、これはもう私のアイデンティティのようなものですし……」 「そんなアイデンティティ捨てちまえ!」  全くその通りである。  揉めながらも、岩片たちの後を追って歩いていく馬喰と能義を見送る俺達。残るメンバーが少なくなっていくごとに自分の番が近付いてくるようで嫌だった。  そう、俺と岡部は四番手。一番最後だ。  次は五十嵐と神楽が行くことになってるのだが……。 「ねえねえ、二人ともどう思う?」  ふと、神楽は小声で俺たちに声をかけてくる。 「どうって?」と聞き返せば、神楽は更に声のトーンを落とした。 「だってさぁ、さっきの会長と黒マリモといい、絶対黒マリモのやつ何か企んでるっぽくない~~?」 「ああ、それは確かに薄々感じてましたけど……」 「大方想像つくがな」  そう答えたのは、石の上に腰を下ろしていた五十嵐だ。  こっちに目線も向けずに答える五十嵐。つか、お前聞こえていたのか。全く興味なさそうな面して当たり前のように会話に入ってくる五十嵐にツッコミそうになる。 「ええっ?なに?何企んでるのさ〜、あのもじゃもじゃ」 「お前には言わない」 「なんだとこの~~!!人を馬鹿にして~っ!」 「どうせ嫌でもわかる。……時間だ。ほらさっさと済ませるぞ。早くシャワー浴びてえんだよ」  五十嵐は携帯端末をしまい、そして神楽に声をかける。 「うー……書記とだなんて、ぜんっぜんワクワクしないなー。ハジメ君じゃあね〜!また会おうねっ、怖かったらいつでも俺のこと呼んでいいからね〜!!」 「ちゃんと前見て歩けよ、危ないぞ」  声をかければ、最後までこちらを振り返っていた神楽は「はーいっ!」と元気よく手を振り、さっさと歩いていく五十嵐についていく。  そして、再度辺りに静寂が戻る。  残されたのはとうとう俺と岡部の二人だけだ。  先程まで騒がしかったのが嘘みたいに辺りはしん、と静まり返っていた。それがなんだか余計気味悪く感じてしまう。 「い、行っちゃいましたね……」 「確か五分おき……だったな」 『ギニャーー!!!!』 「「!!」」  そのときだ、林の奥から聞こえてきたが悲鳴に俺と岡部は顔を見合わせた。バサバサと何羽かの鳥が羽ばたく。  というか、今の……。 「な、なんだ今の声……神楽か?」 「え、ええ……みたいでしたけど……」  どっから声出してんだってほどのでかい悲鳴だった。  おまけに、すぐにあたりには静寂が戻る。  まだ時間はあるというのにまるでもう既に肝を試されているかのようなじっとりとした緊張感。 「……寒気がしてきたな」 「尾張君、怖いの苦手なんですか?」 「苦手ってほどはねえし、ホラーは好きだけど……自分が体験するとなるとな」 「あ……わかります。僕もです。緊張しちゃって……」 「大丈夫か?……怖かったら抱き着いてもいいんだからな」  緊張を解すためのちょっとしたジョークだった。少しは気が紛れただろうかとちらっと岡部を見れば、口を開けたまま固まっていた岡部は俺の視線に気づき、慌てて首を横に振る。 「お、尾張君……さ、流石にそれは……!!」 「じょ、冗談だ。冗談だからな?んな岩片みてーなこと言わねえから安心しろ」 「あ、じょ……冗談……そうですよね……はは……っ」  力なく顔引きつらせて笑う岡部。空気は変えることができたが、余計ガチガチに緊張してる岡部見てまずったなと思った。そして自分で言って自分で恥ずかしくなってきた。俺の予定ではもう少し和やかな空気になるはずだってのに……。  と、そこで予めかけていたアラームが震えだす。  神楽と五十嵐が立ち去って五分経過したのか。  俺は皆が行った先を見つめる。 「……五分か。……なあ岡部、俺気になってることあるんだけどいいか?」 「ええ、実は僕も少し気になってるんですが……」 「一番最初に行った岩片たちが全く戻ってくる気配ないのおかしくないか?」 「……同意見です。流石に二十分近く経っても戻ってこないのは……そんなに広い場所ではないはずなのに……」 「…………」 「…………」 「……帰るか?」 「だ、駄目ですよ!……生徒会の人たちはさておき、岩片君を残して帰ったら絶対怒られますって……!」 「……そうだよな、確かに生徒会の連中ならまだしも岩片も馬喰もいるからな……」 「……はい」 「……行くか」 「……そうですね」  画して、俺と岡部の肝試しはスタートすることになる。  が、やはり今思い返してもこのときに全員置いて帰るのが最善策だと思えて仕方なかった。 【to be continued】

尾張元の夏休み③【↑100/8,400文字/尾張総受け/オールキャラドタバタギャグ】

More Creators