天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第九話
Added 2019-07-20 08:10:31 +0000 UTC更衣室から出ると、そこには先に着替えを済ませていた芳川会長がいた。 薄手のシャツを羽織った会長は、俺の姿を見るなり「ようやく出てきたか」とホッとしたように笑う。 「あ、あの……会長……眼鏡……」 「ん、あぁ……ここのプールは眼鏡禁止らしくてな。裸眼だ」 「……そう、なんですか」 眼鏡の芳川会長を見慣れてるせいか、なんだか落ち着かない。なんだか別人みたいなのに、でも、仕草も声も芳川会長なのだ。無意識のうちに緊張してしまう。 「どうだ、サイズは大丈夫か?」 「あ、は……はい……」 正直、締め付けに慣れないが、きっと時間が経てば慣れていく……はずだろう。それがいいことかはわからないが、なんとなく恥ずかしくなって顔が上げられない。 というか、芳川会長の視線が。 「よく似合ってるじゃないか。有名なスポーツブランドのものだから機能性は間違いないだろうな」 「そ、そうなんですか……」 うんうん、と満足そうに頷く芳川会長。会長に他意がないと分かっていても、やはり、恥ずかしいものは恥ずかしい。芳川会長の言葉半分に聞いてると、「おい、嫌なら嫌って言った方がいいぞ」と通り掛かった八木が野次を飛ばしてくる。 ビギ、と芳川会長の眉間に皺が深く刻まれるのを見て、冷や汗が流れる。 「……なんだと?」 「だってそんなピチピチの海パンなんてAV男優ぐらいしか履かねえだろ」 八木の茶化すような言葉に、顔から火でも出てるのではないか?と思うほど熱くなる。 AV男優、本物のAVを見たことない俺だが、八木の言ってる意味を理解した瞬間居た堪れなくなった。 「八木、お前齋藤君に対してなんということを……」 「まあ、芳川が履くよりかは齋藤の方がマシだな」 「……その発言は聞き捨てならんな」 「お、おい、落ち着けって。なに齋藤挟んでしょうもねえことで喧嘩してんだよ」 なかなか更衣室の前から動かない俺たちを心配したのか、プールの方から戻ってきた五味が慌てて仲裁に入ってくれる。 わいのわいのと揉める八木と芳川会長を慌てて引き離してくれる五味。その騒ぎに乗じて、俺は恐る恐るその場を離れた。 ◆ ◆ ◆ 屋内プールに続く通路。 シャワーも完備してあるそこには休憩用のちょっとしたラウンジなどもある。自販機に、貸出用の用具が置かれている。そしてベンチには。 「……っ、栫井……」 「……結局履かされたのかよ」 会長たちが来るのを待ってたのだろうか、相変わらず長袖の栫井だが一応はちゃんと水着に着替えてるようだ。というかそんな水着があるのか、と驚いた。 対する栫井も、人の下腹部見て鼻で笑う。そこで自分の格好思い出して思わず裾を掴んだ。 「な……だ、だって……会長がせっかく用意してくれたから……そんなの……」 「上、脱がねえの?」 「……ぅ……流石に……これ一枚だけは……」 「お前にも恥じらいがあるんだな」 揶揄するような言葉に顔がますます熱くなる。 というか、普段は笑わないくせにこういうときばかり笑うのってどうかと思うんだが。 「か、栫井……」 「……冗談だろ。あと、それ履いて勃起すんなよ。モロバレだから」 「……ッし、しないよ……そんなの……」 完全に誂われてる。 思わず語尾が萎んでしまう俺に、栫井は「どうだか」と目を細めるのだ。 ここにいたら栫井の玩具にされる。それだけは避けたくて、人が来るまで俺は一旦トイレへと逃げ込んだ。 ◆ ◆ ◆ プール、本当だったら志摩と入ることになってたのだろうか。 あれほど楽しみにしてた志摩のことを考えるとなんだか申し訳なくなる。 ……今頃どうしてるんだろうか、志摩は。阿賀松は人権はないだとか脅すようなことを言っていたが、ご飯くらいは食べさせてもらえてるはずだ……そう思いたい。 トイレから出れば、ラウンジには会長たちもやってきていた。 「へえ、浮き輪の貸出までしてんのか」 「おい、バナナボートもあるぞ」 「ビーチボールこれいるだろ」 はしゃぐ三年生を遠巻きに見守る栫井。 すごい楽しそうだ……。と、俺も栫井の横で見守っていたときだ、「あーっ!!」と、通路の奥から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 何事かと振り返れば、そこには見覚えのある二人組がいた。 「ちょっと会長たちなに俺達ハブって勝手に楽しそうなことしてんすか!!」 「おはようございます」 十勝と灘は、騒ぎを聞きつけたのだろうか。 貸出用具に群がってる会長たちを見つけ、声を張り上げる十勝に三年生たちはぴたりと動きを停めた。 そして。 「ゲッ、あのクソガキ……!!」 「おい、八木!ゲームはゲームだっつったばかりだろ!」 あ、まずい。そうだ十勝はゲームで八木に喧嘩を売るような真似をしていたのだった。 ヒヤヒヤしたが、対する十勝は変わらない態度で。 「あ、八木先輩ちーっす!」 寧ろにこやかに挨拶する十勝に、目を釣り上げた八木は持っていたビーチボールを掴み直し……。 「こんの……喰らえっ!」 「うおっ!!ちょ、なんすか!!危ねえって!」 「うるせえ、お前の顔見たら一発ボールぶつけなきゃ許せねえんだよ!」 「まーまーそんなこと言わずに仲良くしましょうよ!俺、委員長のこと尊敬してるんで!!」 「こいつ喧嘩売ってんのか……ッ?!」 「落ち着け八木、コイツはこれが普通だから!」 どうどう、と八木を羽交い締めにする五味。 思ったよりも険悪なことにならずに済んだ……のかわからないが、大丈夫そうだ。ホッとする俺の横。 「つか、結局来たのかよ」 「こういうのは人多い方が絶対楽しそーじゃん!一応連理先輩も誘ったんだけどなー、メイク崩れるの嫌だからって断われたんだよな」 「……それでそいつを連れてくるかよ普通」 そう、ちらりと灘に視線を向ける栫井。 灘は特に反応しなかったが、その言葉の意味が引っかかった。 「まーまー、和真だってプールは嫌いじゃないんだしいいだろ、最悪俺もいるし!」 「……よく言葉の意味がわかりません。自分は別に十勝君がいなくても問題はありませんが」 「しかもこいつ自覚ないのかよ」 「和真はそのままの和真でいいよ!」 なんだか不穏な気配を感知したが……どういうことなのだろうか。あまりいい予感はしないな。 と、そこで、十勝は俺の方に目を向ける。 ……心なしか、憐れむような目を。 「つかさっきから気になってたんだけど佑樹、その水着…………」 「あ、えと……会長に借りたんだ……」 「は、履かされたのか……可哀想に……」 同情する十勝に、地獄耳の会長は「十勝、貴様」と遠くから睨んでいるではないか。まさか聞こえてるとは思わなかったらしい。 「ま、まあまあ、泳ぎやすそうではあるしな!」 慌てて、そう十勝は俺の肩を叩いてくる。 フォローされてしまった……。 余計悲しくなってくるが、水に入れば気にならなくなるだろう。……そう思いたい。 ◆ ◆ ◆ 「よっしゃー!一番乗りもーらい!」 「おい、プールサイドは走るな!小等部で習わなかったのか!」 「飛び込むな、ちゃんと足から水をかけていけと言っているだろう……!」 プールを見るなりバタバタと駆けていく十勝と、その後追いかける八木と芳川会長。すごい図だ……。 飛び込む直前に二人に捕まった十勝はちゃんとプールサイドに座らせられていた。 そんな光景を横目に、俺もプールサイドに座り込み、恐る恐るつま先から水へと付けていく。 「う……っ冷た……」 「おいおい、ちゃんとさっきのシャワー掛からなかったのか?」 「す、すみません……」 五味に心配されつつ、ゆっくりとプールに浸かっていく。 でも、水に浸かりきってしまえば気持ちいい……かもしれない。なんて思いながら足を沈めていこうとしたとき、いきなりなにかにガシッと足を掴まれる。 「わ、わわっ!」 「齋藤?!大丈夫か!」 引きずり込まれそうになり、咄嗟に手を伸ばしてくれた五味にしがみつけば、足元からブクブクと泡が吹き出し……そしてザバッ!と黒い影が飛び出した。 「おいおい、何やってんだよ佑樹、早く入ろーぜ!」 「と、とと十勝君……?!」 「おいバカ十勝、危ねーだろ!溺れたらどうすんだ!」 「あで!ってて、五味さんもいたんすか……っ!そんな浅くないし大丈夫だと思ったんすよ……あれ、もしかして佑樹も泳ぐの苦手な人?」 「い、いや……えと……普通だと思うけど……びっくりして……」 「ならいーじゃん、ほれほれ、早くこっち来いよ〜〜!」 「わ、わかったから……ちょっと待っててね……わぷ……っ!」 ばしゃ、と手で作った水鉄砲の水が顔にかかる。 「十勝君」と嗜めるように名前を呼べば、「へへー」といたずらっぽく十勝は笑う。 「コイツは本当に……そんなことしたら会長が飛んで……」 「十勝貴様……齋藤君を溺れさせて泣かせただと……?」 「か、会長……?!」 「ほら来た」と、五味が口にすると同時に、現れた会長に青褪めた十勝は「うわ!泣かしてねえっすから!」と慌てて首を横に振る。 「本当か?十勝に何かされてないだろうな、齋藤君」 「だ、大丈夫です!大丈夫ですから……!」 「そうか……ならいいが……」 「た、助かった……」 「だから言っただろ、コイツにちょっかいかけるなって」 言わんこっちゃないという顔をした五味。 会長に釘を刺されてシュン……としていた十勝だったが、不意に遠くで面白いものを見つけたらしい。 「佑樹、バナナボートだ!見てみて!巨こ……」 「十勝貴様人の話を聞いていなかったようだな。ちょっとこっちに来い」 「えっ?!これも駄目なんすか?!待ってタンマタンマ猶予下さい猶予!!」 「と、十勝君……」 「懲りないやつだな、あいつも……」 そしてバナナボートに乗せられたまま会長に引っ張られ連れて行かれる十勝を俺と五味は見送っていた。 貸し切り状態の温水プールというのはやはり贅沢だ。 大人でも広々と泳げるほどのプールにウォータースライダーや子供用の遊び場まである。 これが船の中にあるプールだというから驚きだ。 プールサイドには休憩できるようにビーチチェアに、ドリンクや軽食を販売する出店もあるではないか。 贅の限りを尽くすとはこのことなのかもしれない。 ◆ ◆ ◆ 「……あれ、そういや灘は?さっきいたよな」 借りてきたビート板を手に一人波間で漂っていると、不意に五味がそんなことを聞いてきた。 そういえば、シャワーにかかるときは見かけた気がするのだそれ以降姿を見ていない。気配を消すのが得意な灘のことだ、どこかにいるのではないか……?と思ったとき。やや離れたところで不自然な気泡を見つけた。 ぶく……ぶく……と徐々に勢いを失っていくそれに気付いた俺と五味は、その水底に何かが沈んでるのを見て青ざめる。 「な、灘君?!灘君大丈夫……?!」 「お、おい!しっかりしろ!」 慌てて引き上げればそこにはびっしょり濡れた灘がやはり無表情で現れた。 けれどその唇は見るからに血色が悪い。紫色になってる。 「……すみません、思いの外深くてつい」 「つい……?!」 「な、灘君……俺のビート板使って……!」 「ですが……」 「い、いいから、ね……っ!」 なるほど、十勝と灘が言ってたことはこういうことだったのか。まさか灘がカナヅチとは思わなかった。というか溺れていたというのになんで涼しい顔をしてるんだ。 「わかりました」とビート板を受け取ってくれた灘はそのままふよふよとどこかへ行く。大丈夫なのか……とハラハラして俺と五味はその後ろ姿を見送っていたとき。 「っひゃっほ〜〜!!」 ドボンッ!!と凄まじい水飛沫を上げ、飛んでくる何かに思わず俺は飛び退いた。が、水飛沫からは逃れられなかった。勢いよく水から顔を出した十勝は、ニコッと笑う。 「わ……!!と、十勝君、すごい飛んだね……」 「佑樹もやろうぜ、ウォータースライダー!まじ楽しいから!」 「そうなんだ……じゃあ……」 正直、小さい頃は途中でコースアウトして飛んでいくんじゃないかとかそんなことばっか気にしては乗るのを嫌がっていたが、今はもうこの年だ。 十勝に背中を押され、俺と十勝はウォータースライダーへと上がる。 そして上がって見るとわかるのだが、結構高い。全貌を見渡せるくらいだ。 離れたところで八木と芳川会長がビーチバレーをしているのが見えた。五味は灘が溺れないように見張ってるようだ。ウォータースライダーの上にいる俺たちに気付いたらしい、五味は「あんま勢い付けすぎんなよ!」と遠くから声かけてくる。 「うーっす!……そんじゃ佑樹、行こうぜ」 「待って、と、十勝君、結構これ高くない……?!」 「大丈夫大丈夫、俺が後ろからついてくから!」 その言葉を聞いて余計不安になるのは俺だけなのか。 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、スタート位置に座らせた十勝はそのまま俺の後ろに腰を殺してくるわけで。 「近くないか?!」って振り返ろうとした瞬間、背中に十勝の手が触れた。 そして、 「ほら、行くぞー!そりゃっ!」 「わ、わ、うわぁーーっ!!」 勢いよく斜面を滑り降下していく体。 そのあまりの勢いに思わず口から情けない声が漏れてしまう。多分そんなに長い間ではなかったはずだ、それなのに体感十分くらいはぐるぐる回転させられたりした気はする。目まぐるしく変わる景色に慣れるよりも先に、今度はプールへと投げ出されるのだ。 次の瞬間、凄まじい音ともに全身が心地よい冷たさに包み込まれる。 ようやく、地に足がつける安堵。慌てて顔を出せば、目の前にはニコニコした十勝がいた。 「な?楽しかったろ?」 「寿命が縮んだかと思った……」 「はは、すげー声出てたぞ佑樹!」 「う、うぅ……」 なんか変なところに水入った気がする……。 けど、怖かったけど一回やってみると思ったよりも楽しいのかもしれない。けど、お陰で全身びしょ濡れだ。 元より濡れるつもりで薄いものを選んだのだがやはりここまで水を吸うと気持ち悪い。 でも脱ぐのも嫌だし……なんて思ってると。 「大丈夫か、齋藤君!」 何事かと芳川会長が駆け付けてくる。 「あ、す、すみません……大丈夫です……!泣いてないです……!」 「む、そうか……?」 「ほ、本当っすよ、まだ何もしてないっすって!」 「まだだと……?」 「あ……」 十勝の失言に、芳川会長の眼鏡が光る。 そして、会長に肩を掴まれた。 「十勝、お前は灘や五味と遊んでろ。危なっかしくて齋藤君を任せておけん」 「ええっ、なんすかそれ!」 「ったくよー、素直にビーチバレー勝てねえからやめますって言えよ」 一部始終見ていたらしい八木がニヤニヤ笑いながら野次を飛ばせば、「齋藤君が気になって集中出来なかっただけだ」と芳川会長が睨み返す。 「行くぞ、齋藤君」 「あ、あの……?」 「喉は乾いていないか?……朝もあまり食べていなかったようだし、少し休憩しよう」 優しい、いつもの会長だ。 気使ってくれてるのだろう、恥ずかしいような嬉しいような……けど断るわけにもいかなくて、俺は「はい」と会長と一緒にプールから上がり、プールサイドの屋台へと移動する。 ◆ ◆ ◆ 「やはり水中よりも陸の方が動きやすいな」 「……そうですね」 プールサイドの屋台横、俺と芳川会長は屋台で注文したドリンクを手にチェアに腰を下ろす。 ……会長、あんなに食べたのにまだ飲むのか。それなのに全然お腹は出てないのだから人間の体というものは不思議だ、なんてぼんやり会長眺めてると、「齋藤君?」と名前を呼ばれ、ギクリとした。 「あ、は、はい……!」 「どうした、具合が悪いのか?」 「い、いえ……あの、会長の水着姿って初めて見るなと思って……」 って、俺。何言ってんだ。普通に引かれるだろう。 言ってから気付いた俺は、慌てて「変な意味じゃなくて」と付け足すが、芳川会長は少しだけ驚いたように瞬きをして……そして笑ってくれる。 「確かに、そうだな。授業でも一緒になることは早々ないからな」 「……会長は泳ぐの得意なんですか?」 「人並みだとは思うがな。まあ、灘に比べると泳げるだろうな」 「あはは……」 それなら確かに俺も灘よりは泳げるかもしれない。 他愛ない会話をしながら、プールでワイワイと騒ぐ生徒会を見ながらドリンクのストローを咥える。……ああ、なんかようやくバカンスって感じだ。トロピカルフルーツのジュースがやけに酸っぱくて、泳ぎ疲れた体にはよく染み渡った。 ……と、不意に会長の視線に気付く。じっとこちらを見ていたらしい会長に気付いてしまった俺は、思わず噎せそうになった。 「っ、か、会長……?」 「ん、ああ……俺も、君の水着姿を焼き付けておこうかと思ってな」 「な、な……」 何を言ってるんですか、という言葉は口から出なかった。 たまにちょっと変なこと言い出す会長のことだ、深い意味はない……そう思いたいが、そう言われてしまうと会長の視線を意識せざる得なくて。 というか、俺、水かぶったせいで髪の毛ビチャビチャになってないだろうか、とか、服が透けてないだろうか、とか、そんなこと気にし始めておちおちジュースを飲んでられなかった。 「ぁ、あ……あの……っ」 「ん?どうした?」 「あんまり、見ないで……下さい……」 恥ずかしくて、やはり居た堪れなさの方が勝った。 眼鏡がないだけ余計見られてるような気がしてならないのだ。声が震えてしまう。 俺の言葉を聞いた芳川会長は、ふむ、と少しだけ考えたように顎を擦る。そして。 「……やはり、あまりその水着気に入らなかったのか?」 そう、少し残念そうな顔をせる会長に「へ?」と間抜けな声が出てしまう。 「……確かに通常の水着より布面積は狭いからな、君には些か露出が過ぎたかもしれない。……配慮が足りず、すまなかった」 「そ、そんなこと……」 「だが、なんだかずっと上の空で落ち着かない様子ではないか」 「それは……その……」 どうしよう、なんて言えば良いんだ。 会長はできる限り傷つけたくないが、正直その通りだ。プール泳いでるときはましだったが、陸地で、おまけに会長の隣となると意識せざる得なくなるのだ。 「ぁ、あの……その、俺……人前で、こういう恰好すること……なくて……その、恥ずかしいっていうのは、この水着だからとかじゃなくて……会長たちみたいに鍛えてないし……それで恥ずかしくて……」 とにかく、水着のせいではない。そう言いたいのに、自分で言っててますます恥ずかしくなってくる。 ああ、穴があったら入りたいとはまさにこのことかもしれない。恥ずかしさと情けなさで語尾は萎んでいき、俺は言い終わるよりも先に俯いた。そのとき、会長に手を取られた。 「何を恥ずかしがることがあるか。……君は充分綺麗な体をしているだろう」 何事かと顔を上げれば、バカ真面目な顔をしてそんなことを言い出す会長に思わず俺は停止した。 「ただ病的に細いだけではなく君の身長からして健康的かつ理想的な肉付きだ。やや色白すぎるのが気になるが、君は自分を恥じることなどないだろう。寧ろもっと背筋を伸ばして誇るべきだ」 真正面から見つめられる、鼻先がぶつかりそうなほどの近距離。眼鏡ないからこんなに近いのか、わからないが、会長の髪の毛の先からぽたりと落ちる雫まで見えるくらいの距離でそんな風に言われ、目が反らせなかった。 俺のことをフォローしてくれてるのだろう。けれども、あまりにも、あまりにもだ。 恥ずかしくて、不意に会長から視線を外したとき……俺は凍り付いた。 「か、会長……あの……っ」 「……ん?」 「う、後ろ……」 そう、恐る恐るプールへと指させば、プールの方からこっちを見ていた一部除く生徒会役員たちは一斉に水面に潜った。 そして、気付く。めちゃくちゃ目立っていると。悪い意味で。 会長も外野に気付いたようだ。 「あいつら……わかりやすい真似を……」 そう、会長の額に青筋が浮かぶ。ドリンクをテーブルに置いた会長は「お前ら、見せもんじゃないぞ!」とプールへ飛び込んだ。 ……やっぱり、仲いいな。 思いながら、俺はほっと安堵する。けれど、まだ胸の鼓動は収まらなかった。 それから、各々軽食を取りながら何戦目かのビーチバレー対決があり、途中灘がまた静かに沈んだり嫌がる栫井が十勝に無理矢理ウォータースライダーに乗せられたりと色々やっている内にあっという間に時計は十九時に迫っていた。 昼間からずっと泳いでいたのか。時間を忘れていた俺たちは慌ててプールを出たが、髪を乾かす時間まではなく、全員濡れネズミのような状態で会場入りすることになった。 プールで遊んでいた間すっかりゲームのことを忘れていたが、改めて自分の状況を考えると最悪の事態は変わらないわけで。さっきまでワイワイ遊んでいた人たちが敵になると思うと心臓も痛いが、ゲームはゲームだ。 ……とにかく、やれることをやろう。 「キャー!ちょっとビショビショじゃないのあなた達!」という連理の悲鳴を聞きながら、俺は自分の席についた。 【日常編四日目午後◆完】