天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第八話
Added 2019-07-14 14:12:47 +0000 UTC志摩が処刑され、壱畝がその道連れになった晩。 重たい空気の中、俺たちは各自部屋に戻ることになった。 言いたいことは色々あったし、何も思わないはずがない。けれど言葉にできなかった。 それはきっと俺だけではないはずだ。 『面倒なことになっちゃったね』 自室のソファーの上。 人狼通話もやっぱり今日の志摩のことで持ちきりだった。 『あれって、やっぱり亮太がハンターだってことだよな』 『……俺、志摩は埋毒者だと思ってたんだ。だから、佑樹君が人狼側だとわかってても自信たっぷりだと思ったんだけど……もし志摩がハンターなら少し面倒だな』 阿佐美が悩んでるのは通話越しでもわかった。唸るように息を吐く阿佐美。 阿佐美が心配してることは恐らく、 「……本物の埋毒者がいるってこと?」 『そうだね。そして、その人間は俺が狼だとわかってるはずだ。それでも名乗り出ないってことは……』 『何考えてんのかわっかんねーってことだな』 『……まあ、そういうことだね』 うーん、と俺達は同時に唸った。 どちらにせよ、本物の埋毒者の動きが不気味だった。誰かわからない以上、襲撃したこちら側が痛手を追うハメになるだけ余計。 そして何よりも、阿佐美がもし吊られたらと思うと生きた心地がしなかった。十勝も十勝でかなり危ういところにいるし……志摩のお陰で今夜の議論はかなり撹乱されたが、それでも長くは保たないはずだ。 「……今夜、どうしたらいいんだろう」 『一番の安全牌は職業確定してる栫井君か江古田君か八木さん辺りかな。……けれど、江古田君と八木さんを噛んだら確実に俺たち側が疑われるだろうけど』 『でも、絶対あいつ今晩亮太のこと霊媒するはずだろ?そうなると詩織が黒確定になるだろ』 『……そういうことだね』 「じゃ、じゃあ……やっぱり江古田君にするしかない……のかな」 『そうだな。本物の埋毒者が何を考えてるのかわかんねーけど、これから先江古田残してても得はねえだろ』 「う……そ、そうだよね……」 『最悪狂人のフリ……も考えてたけど、俺と十勝君両方疑われるのは危険だしね』 「うん……」 ……江古田、絶対怒るだろうな。 ゲームだと分かっててもやはり心が痛むものだ。 俺達は満場一致で江古田を襲撃することにした。 そして翌日、江古田の部屋は空になっていた。 ◆ ◆ ◆ 朝、落ち着かない気持ちで起床する。 大分ふかふかすぎるベッドには慣れてきた。身支度を整えていたとき、扉をノックされる。 内心また阿賀松が来たのかとぎくりとしたが、あの男ならノックなんてせずに部屋に乗り込んでくるはずだ。恐る恐る扉を開けば、そこには意外な人物がいた。 「……おはよう、ゆうき君」 「詩織……っ?」 扉の前に立っていた阿佐美詩織は、驚く俺を見て照れたように笑ってみせる。 「……ごめん、朝から。あの、ご飯まだだったら……一緒にその、ど……どうかなって思って……」 大きな肩をしゅんと縮こませながら、阿佐美はそう恐る恐る訪ねてくる。こんな朝から、しかも阿佐美の方から誘ってくれるなんて思ってもいなかった。 もしかして志摩がいなくなって俺のことを心配してくれたのだろうか。 「……うん。丁度俺も食べようと思ってたんだ」 ありがとう、詩織。という言葉は照れが勝ってしまい口にすることはできなかったが、阿佐美は察してくれたのだろう、嬉しそうに微笑んだ。 「よかった、じゃあ、人が増える前に行こっか」 そして、俺と阿佐美は一緒にテラスへと向かうことになる。 ◆ ◆ ◆ 青い海、晴れ渡る空とはまさにこのことだろう。照り付く日差しと伸び伸びと羽ばたく海鳥たちの中、俺と阿佐美はテラス席にありつくことができた。 皆まだ眠ってるのだろうか、この景色を貸し切るのはなかなか贅沢だ。ウエイターに運ばれてやってきた朝食。……とは言えほとんどは阿佐美が食す分だ。 「あ……相変わらずすごい量だね」 「ここのレストラン、味が美味しいからつい頼み過ぎちゃうんだ」 そう言う阿佐美はカレーナンを食べながらそんなことを言う。なんかその言葉、学園でも聞いた気がするぞ。 朝から重くないのかな、とか思ったが幸せそうな顔をして頬張る阿佐美を見ているとまあいいやという気持ちになる。 そして俺も頼んだハンバーガーにかぶりついたとき。 「おお、おはよう、齋藤君、阿佐美君」 聞こえてきた声に顔を上げ、驚いた。珍しく一人で行動してる会長にもだが、それよりもその手に持たれているものに驚いたのだ。 「か、会長……っ!おはようございます……!」 「……すごいもの、持ってますね」 そう、会長の手には巨大なカップに入った山盛りのパフェが握られていた。どっからどうみてもテイクアウトに不向きな上、アイスと生クリーム、そしてチョコにフルーツをこれでもかと持った大盛りパフェを手にした会長は「ああ、これか」と僅かに頬を緩めた。 「隠しメニューの数量限定の大盛りパフェだそうだ。昨夜この船のことについて調べてたらこの隠しメニューまでありついてな」 「そ、そうなんですか……」 「他の連中に先を越される前にとやってきたんだが、どうやらまだ誰も食べていないらしいな。このクルーズの旅では俺が一人目らしい」 「君たちも頼んできたらどうだ?」と芳川会長。 正直、見てると食欲云々よりも今にも崩れないかヒヤヒヤしてそれどころではない、そもそも食べきれないぞ普通この量は……。芳川会長が甘党なのは知っていたが、流石だ……。恐らく皆も裏メニューのことを知ってても頼まない気がするんだが。 流石の大食いの阿佐美もこれには引いて……。 「お、美味しそう……」 「…………え?」 「あ、あの、会長さん、隠しメニューというのは……なんて注文したらいいんですか?」 「簡単だ、スタッフに『ビックサンデーマウンテンスペシャルチョコレートパフェを下さい』と言えば用意してくれるはずだ」 「ありがとうございます……!」 聞くや否やダイナーへと駆け込む阿佐美の背中をただ俺は見送るしかなかった。……俺は阿佐美の大食い精神を見誤っていたようだ。というかまだ食うつもりなのか。 ◆ ◆ ◆ そして数分後。 山盛りのなんとかマウンテンパフェ二つを乗せたテーブルを三人で囲うことになったのだが、完全に俺のバーガーを食べる手は止まっていた。 見てるだけで腹いっぱいとはこのことか……。 そしてなんだか楽しそうに大盛り系の店について話してるではないか……。ゲームのことよりもパフェでいっぱいらしい、……まあ変な緊張感はないだけいいのかもしれない。 なんて、どんどんハイペースで生クリームの山を崩していく二人を見ていたときだ。 次第に甲板の上も人で賑わい始めた。 「うおっ、お前らなんかすげえの食ってんな」 「朝っぱらからよく食えんな、んなもの」 「……ぉえッ」 そして、飛んできたヤジの方に目を向ければそこには五味と八木……そして生クリームの山を見て吐きそうになってる栫井がいた。……珍しい組み合わせだ。 「お前らもどうだ。今なら待ちなしで食えるぞ」 「冗談じゃねえ、んな生クリーム食ったら体壊すわ」 「さ、齋藤の顔が死んでるんだが大丈夫か……?!」 「だ、大丈夫です……すみません……」 テーブル席の周りにやってきた五味たちも軽食を取りに来たらしい。相変わらず暑そうな長袖の栫井はともかく二人は完全に船旅を満喫してるようだ、アロハにサングラス、そしてドリンク片手にした八木と涼し気なラフな格好をした五味。 「なんだお前ら、またコートに行くつもりか?」 「いや、今日はこれからプールに行こうってなってな」 「……ふむ、プールか」 「あそこ昨日見たらスライダーもあるらしいぜ。結構広いし、色々貸し出ししてるみたいだから遊べんじゃないかってな」 八木と五味がプール……なんかすごい圧がある絵面だが、確かにこんな天気のいい日は水浴びをしたい気分になるかもしれない。 ……というか、待てよ。もしかして。 「え、か、栫井も……?」 「俺が泳いだら悪いのかよ」 「え、いや、そうじゃないんだけど……」 栫井がプールで泳ぐイメージがまったく沸かない。 絶対だるいとかなんとか言ってプールサイドで遠巻きに見てるタイプだろう。 というか、本当に謎のメンツだ。……生徒会で面識はあるのだろうが、そんなに仲良かったのか。 正直、人狼でブチ切れてた八木が引き摺ってはいないだろうかと心配していたのだが、余計なお世話だったらしい。 ワクワクする二人に内心ほっと安堵する。 「お前らもよかったらどうだ?」 そう言って、目の前のパフェの山の存在を思い出したらしい。「って、それ食ったあとに泳ぐのは流石に……」キツイか、と五味が言い掛けたとき。 「……水泳か、悪くはないな」 いつの間にやらパフェを平らげていた芳川会長はそんなことを言い出す。てっきり断るのだと思っていただけに、俺と五味たちは「え」と声を合わせた。 「齋藤君と阿佐美君もよかったらどうだ、まあ、無理にとは言わんがせっかくだ、人数は多い方がいいだろう」 「え、えと……俺達は……」 「ゆうき君、行ってきたら?」 「え……?!」 「俺はもう少しゆっくりしていくし……泳げないから」 せっかく誘ってくれたのにすみません、と項垂れる阿佐美に気にすんな、と会長。いや俺も泳げないが……。というかそもそも俺は肝心なことを忘れていた。 「えと、気持ちは嬉しいんですけど……俺、水着、持ってきてなくて……」 本当なら志摩と買う予定だったことを思い出す。すみません、と項垂れた時「そんなことか」と会長は言い放つのだ。 「水着ならあるぞ、なあ、五味」 「あー……あれな」 「……え?」 「実はこの日のために新調した水着があったんだが……十勝に止められたな、結局別のもので代用することになったんだ。未使用だが、君さえ良ければ使うといい」 ま、まさかこんなあっさり水着問題を解決するとは……!本当はやんわり断るつもりだったのにそこまでされると断りづらい……。というかどういうことだろうか、十勝に止められたというのは……。 疑問に思ってると、五味の顔が露骨に強張る。 「お、お前……あれをこいつに履かせるつもりかよ……」 「何か問題でもあるのか?」 「い、いえ……」 そう答えるのは栫井だ。なにか知ってるのか、露骨に五味と栫井の態度がおかしい。 しかし、ここまできて断るわけにはいかない。 「えと、それじゃあ……よろしくお願いします…………?」 そう、俺は流れに流され、会長の好意に甘えることになった。 ――そして、すぐに生徒会の反応がおかしかった理由が分かることになる。 食事を終え、俺たちは一度荷物を取りに戻り、それから室内プールへと移動することになったのだが……。 「っ、こ、これは……」 会長から新品未使用の水着を借りたのだが、それを広げた俺はそのまま暫く動くことができなかった。 布だ。丈夫なその生地だが、俺の想像していたものよりも大分面積が少ない。というか、これは……。 ビキニだ。いや、競パンなのだろうが……ビキニだ。 生徒会のあの反応の理由もわかった。というか、会長はこれを履くつもりだったのか。 ……俺は会長に試されているのか。 でも、せっかく会長が用意してくれたんだ、ここまで来てやっぱ無理ですというのは会長の顔に泥を塗ることになる。 そもそも、知った人間しかいないのだ。恥ずかしがる必要なんてない、そう自分に言い聞かせながら俺はええいとヤケクソで水着を身に着けた。 ……しかしやはりこのビキニだけはあまりにも勇気が必要だったので、上からパーカーを羽織ることにした。 【日常編四日目午前◆完】