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田原摩耶
田原摩耶

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アイドルパロ政岡×尾張の後日談【↑100/6,200文字/政岡×尾張】

 芸能界デビューを果たして早数年。今ではテレビを付ければ自分が視界に入る。気付けば自分の声が聞こえてくる。それらを恥ずかしく思うような時期はとっくに過ぎてしまったけどつい先日収録を行った音楽番組の録画を見返す度に落ち着かない気持ちになる。  初めて憧れの人と同じ舞台に立ったあの番組。  俺が芸能界入りを決めたあの男と出会ったときのことを今でも思い出す。第一印象は最悪だった。けれど、人気アイドルユニット《fool》の政岡零児と初めて挨拶した日……と思っていたのだが、俺達の出会いは既に終わっていたのだった。  今でもまだ信じられない。まさか、そんな憧れの相手が俺のファンで、おまけにちゃんとファンクラブにも入ってくれてて、そして政岡は変装して握手会にも来てくれていたんだと。……平静でいられる人間がいるのだろうか。  いつ「実は全部ドッキリでした」って言われても納得できる。それでも、夢ではないのだからおかしな話だ。  しかも、とちらりと横を見た。 「……おい、まだ見てるのかよこれ」  俺は、そんな憧れの政岡の自宅に遊びに来ていた。  ひょんなことから俺は過労で倒れたところを政岡に助けてもらった。  そのときに俺のファンだと知ったのだが、勿論そのときは信じられなかったけどそのことをきっかけで何度か連絡を取り合うようになり、たまに近場で仕事してるときとか食事に連れて行ってもらったり、仮にも芸能界の先輩である政岡に色々話とか聞いてもらったり……まあ、なんだ……恥ずかしい話、俺は舞い上がっていた。  それで、酒の席で政岡の自宅はここからそう遠くないっていうのでワガママ言って押しかけてしまったのだけれど、正直、酔いが冷めてきて自分がとんでもないことしてしまったという後悔はあった。  テレビに映るのは政岡初主演のドラマだ。本人は見たくないというのだが、律儀にちゃんと持ってたらしい政岡に感動して見ていたのだ。  世間の一般評価では政岡の演技は棒読みが酷いとかチンピラ感が抜けきれてないだとか殴るときの演技だけ上手いとかボロクソ言われてるけど、俺は好きだった。というか、普通に脚本が面白いというのもあるが、政岡は主人公が泣くシーンで主人公に感情移入してガチ泣きしてしまうところが好きだった。等身大、なんて言えば岩片は鼻で笑うだろうが、演技臭くない素の政岡が好きなのかもしれない。  なんて考えて、自分で恥ずかしくなる。 「だーっ!もういいだろ、いい加減他の観ようぜ」 「なんでだよ、今いいところだったのに」 「じゃあ、俺も観てえの観るぞ。お前の最新のマキシCD初回限定A盤の特典映像のMV制作の裏側を……」 「か、買ったのかよ……!そんなの俺に言ってくれればあげるのに……」 「良いんだよ、俺は予約特典のポスターも欲しかったから」 「ま、政岡……」  しかも今気付いたがよく見ると政岡の着ているTシャツ俺の夏季ツアーTシャツじゃねえか。  政岡が俺のファンだって分かってから、ずっと隠していたらしい政岡も吹っ切れたらしい。二回目会った時は「さ、サイン……零児へって、胸のところに書いてくれ」ってめっちゃ照れながら言われたときはどうしようかと思ったが、こうして隠さないで接してくれるようになったあたり少しは打ち解けられているのだろうか?なんて思ったりした。  が、親しくなればなるほど問題点は多くなるのが現状だった。 「尾張、お前明日休みか?」 「ん?休みだけど」 「……な、らさ、……今日は泊まっていけよ」 「でも、政岡は明日……」 「休みになった」 「……えっ?だってお前さっき昼から取材がどうとか言って……まさか、わざわざ休みとったのか……?」 「良いんだよ、どうせ能義のやつから『貴方は口を開けば余計なことしか言わないので黙っててくださいね』って言われてるし」 「……そ、そうなのか……?」  これだ。政岡は元々俺のファンだと言うこともあってか俺が来るとなると全部の予定潰して俺のことを優先してくれるのだ。  何かしら理由はつけてくるが、絶対他のfoolのメンバーは怒るだろうし……けど、もしかしてもともと緩いのだろうか。俺がそんなことすればマネージャーも兼ねてる岩片はブチ切れるだろう。 「……なあ、いいだろ、夜も遅えし泊まれよ」  政岡も政岡で酔いが回ってるのだろう、普段ならもう少しまだ分別つくやつなのに、こんな風に迫ってくる政岡に俺は言葉に詰まる。俺の愛読雑誌の表紙を飾る男の顔だ、不可抗力だ。つか、断れねえ。 「わ、かった、けど……迷惑掛けないように朝にはタクシー拾って帰るから」 「んなの要らねえよ、そんなこと今気にすんじゃねえ。……さてはお前、酔い冷めてきたろ。待ってろ、冷蔵庫にマイナス二十度でキンキンに冷やした酒あるから持ってきてやる」  言いながら嬉しそうに鼻歌歌いながら政岡は歩いていく。上機嫌だ……つか大丈夫なのかあの人、だいぶ店でも飲んでたけど。  転ばないかハラハラしながら見守っていた俺は、なんだか自分の選択肢を間違った気がしてならなかった。  悩みはいくつかある。  私情を混合させまくる政岡のこともだが、それ同様……寧ろそれ以上だろうか、こうして一緒にいることが多くなると政岡に幻滅されてしまわないか不安になるのだ。  そもそも、岩片には政岡と関わるなとあれほど口酸っぱく言われていたのだ。それを無視して俺は隠れて政岡と密会をしてる。  勿論、岩片やfoolの他メンバーにもそのことは秘密だ。  ……なので、こうしていることがバレたら面倒だというのもあった。  今まで岩片の言いつけを破ったことなんてなかったけど、相手は男だ。それに、ただ友人の家で呑んでるだけだと思えばいいだろう。けれど、居心地の良さの裏側、岩片に対する罪悪感のようなものがチクチクと胸を苛むのだ。  なんてぼんやりエンディングが流れるスクリーンを眺めていたときだ、政岡がどすんとソファーに埋まるように座る。そして、「ほら」と冷えた缶ビールを渡してくれる。 「まだまだあるからな、お代わりは自由だ」  政岡が笑う。カメラの前ではあまりこういう風に笑わない政岡だ、政岡のファンは政岡が酒が入ると陽気になることも、大きく口を開けて笑うとき覗く牙のような八重歯も知らないのだと思うとなんだか誇らしげな気分になるのだ。 「あざっす」とそれを受け取る。今の俺はプライベートだ、ここにいるのはただの俺だ。隣の男も同業者ではなく、年上の友人だ。……そう思わないと気持ちよく酔えないのだ。  ◆ ◆ ◆  それから酔った政岡が潰れるまで、自慢のサラウンドスピーカーで俺の新曲をBGM代わりにガンガン鳴らしながら俺の写真集のよかったところを延々と聞かされたり、たまにfoolの他のメンバーの愚痴を挟みつつ後半泣きながら俺がめちゃくちゃ成長したことについて語られたりと……まあいつもの流れだ。静かになったと思ったらゴーゴーとイビキ掻いて眠りコケる政岡のでけー体を抱えて俺はやつの寝室まで運ぶ。そして慄いた。  壁から天井にかけてびっしりとなにかで埋め尽くされると思えばよく見ればそれは俺のモデル時代の写真だったり本来ならば売ってない宣伝用のポスターだったり、勿論市販のものは全部網羅してるのではないかというレベルで俺がいっぱいいた。 「すっげえ……」  おまけに被りなしだ。  俺の顔を隠さないように切り抜きも貼り方に工夫をこらしている。酔っていた俺はここまでくると芸術の域だと感動していたのを覚えてる。そしてベッドには自作したのか公式では販売されてないはずの俺の抱き枕が置かれてて、ベッドに落とした政岡は「うーん」とうなりながら抱き枕にしがみついていた。  そんなに、俺のことが好きなのか。  胸がじんわりと熱くなる。嬉しくないはずがない。……というか、ここまでくると本当何者なんだという疑問の方が先にくるが、こういうファンがいるから成り立ってるんだな俺は……としみじみしながら俺はそのまま政岡を寝かせ、そのままベッドに横になる。それからは記憶がない。  ただ、久し振りに熟睡しか気がするのは確かだ。  そして翌朝。 「お゛あ゛ッ?!」  俺は、隣から響く声と何かが落ちるような音で目を覚ました。そして、持ち上げた瞼の向こう、まず視界に入ったのは……俺だった。 「……んぁ?」  ……なんだこれ、俺がいっぱい……。  ぼんやりと靄がかった頭は次第に晴れていく。そして、鮮明になっていく映像に、全身が冷たくなるのがわかった。  狂気の沙汰でしかない俺で埋め尽くされた寝室の中、何事かと飛び起きた俺は見渡す限りの自分の顔に息を飲んだ。  そして。 「お、尾張……な、なんでここに……」 「し、知らねえ……つかなんだよこの部屋……ってかなんだその抱き枕……?!」 「ち、ちが、断じてコレは等身大の尾張を感じたいから尾張が使ってる香水買ってそっと匂い染み込ませて嗅ぎながら眠ってるわけじゃなくてだな……!」 「例えが素人の発想じゃねえんだよ……!!」    あわあわする政岡は、「ひ、引かないでくれ……」と怒られた犬みたいな顔をするのだ。俺よりもでけーくせに、年上のくせに、尻尾を丸めて落ち込む政岡に俺はなんだか頭がガンガン痛んだ。 「ずるいな、アンタ……」 「お、尾張……どこに……」 「悪い……ちょっと洗面台借りるわ」  情報過多で頭がパンクしそうだった。それに、政岡だって見られたくないだろう。つか、俺、政岡と一緒に寝てたのか……?くそ、全然記憶ねえ……。  ヨタヨタとした足取りで洗面台に向かい、取り敢えず目を覚ますことにする。  一時間後。 「……」 「……」  俺と政岡は向かい合って政岡の作ってくれた朝食を食べていた。肉と卵を炒めたような一切野菜の入ってない男料理であるが、めちゃくちゃ上手い。普段俺の栄養管理もしてる岩片が知ったら怒るだろうが許してくれ、次調整するから、なんて思いながら咀嚼していた。  正直、空気は最悪だ。喧嘩したわけではないが、見られたくなかったらしい(だろうな)部屋を俺に見られ落ち込んだ政岡は一人だけお通夜みたいな顔だし、俺は俺でどうすればいいのか反応を決めあぐねていた。 「尾張、午後は用事あるのか……?」 「ん、ああ、岩片……あ、俺のマネージャーなんだけど……そいつに呼ばれてる」 「あのモジャモジャに?」 「も……」  モジャモジャ……と言われ、量の多い重たい癖毛に瓶底眼鏡の岩片を思い出し、思わず笑ってしまう。  確かにそうだ。あいつ、最初よく芸人に間違えられていたことがあった。今はもう名物マネージャー扱いされてるが、やはりよく知らない人間からしたら異質には違いないだろう。 「そうだな、あいつだよ」 「せっかくの休みくらい自由にさせてもらえねーのかよ」 「一応、プライベートで食事って感じなんだけどな」 「……どういう意味だよ」 「んー……なんつーか、まあ、俺と政岡みたいな感じ?」  友人、と呼ぶのが恥ずかしくて適当にはぐらかすが、政岡の表情は一層険しくなる。 「……へえ」  確かに政岡は岩片に対する第一印象はあまりよくないようだが、まさかまだ引きずってるのか。 「政岡、あいつは変わり者だけど悪いやつじゃないから」 「そうかよ」 「……怒ったのか?」 「お、こってねえよ……別に。けど……」 「けど?」 「……俺は、お前みたいなやつ、お前しかいねえから」 「…………へ」 「尾張は……そうじゃねえんだって思って」  そしたら、なんかムカついてきた。と、拗ねた子供みたいな顔をする政岡に心臓が跳ねる。つか、政岡俺しかいないのか。いや、そんなわけねえ。それこそ、俺よりもあらゆる人脈網羅してそうなのに。けど、やべえな……俺が女の子だったらちょっと……キュンッてなるのだろうか。よくわかんねーけど、アホみたいに顔が熱くなる。 「本当はそれまで一緒にいてえけど……」 「流石に、それは悪い」 「なら家まで送る。それならいいだろ」 「……それは、ありがてーけど……」 「じゃあ送らせろ」  どうやらもう決定事項のようだ。  政岡の車には何度か乗ったことがあるが、予想外なことに運転がめちゃくちゃ丁寧で毎回助手席で眠りこけてしまうのだ。それでもこう言ってくれるのだから政岡は面倒見がいいというか、なんというか……愛されてんな、俺って自分で思ってしまう。  ◆ ◆ ◆ 「ありがと、政岡」 「これくらいでお礼言うなよ。……つうか、尾張……お前さ……」 「んぁ?」 「……また、会ってくれるか?」 「え?」  自宅マンション、駐車場内。  政岡に送ってもらって、それじゃ、俺の部屋直通のエレベーター使って帰ろうかと思った矢先、そんなこと言い出す政岡に思考停止する。 「な、何言ってんだよ……」 「だ、だって、俺のことぜってー気持ち悪いって思ったろ、俺だったら思うし、つか、でも、俺はお前のことは誰よりも好きな自信あるからマジで……でもお前が嫌がるなら……」 「ま、待て、待てって!おい、政岡……!」  ストップ!とその両肩を掴んで揺すれば、そこでよくやく気付いたらしい。ハッとした政岡は俺の顔を見た。 「確かにあれ、寝起き一番はびっくりしたけど……フツーに引かねえってか、むしろ、すげえと思うよ」 「す、すげえ気持ち悪い……?!」 「ちげえって、すげー嬉しいって意味」 「……っ、尾張……」 「けど……香水はもっとちゃんと普通に使ってやれよ」  あんな変態みたいな使い方、香水が泣くぞ。そう言えば、先程まで見たことないくらい弱っていた政岡は「う゛」と唸り、そのまま胸を抑えたままハンドルに突っ伏して項垂れる。 「お、おい政岡……?」 「推しが……尊い……」 「…………」  …………一先ずは大丈夫そうだ。  俺は政岡を放っといてそのまま帰宅することにした。  帰宅した俺はいの一番に自室へ入る。そして、かつて集めていた政岡のモデル時代の雑誌の切り抜きを集めたスクラップブックを見つけた。めちゃくちゃ切り目荒いし、おまけに途中で照れ臭くなったため最初のページで終わったスクラップブック。誰かに見つかるのも恥ずかしくて一緒に持ってきたのだが……うーん。けど、やっぱ部屋壁天井一面ってのはすげえな……。  案外政岡、かなり器用なのかもしれない……。  思いながらスクラップブックを閉じた俺は再び引き出しの奥に再封印することにした。 【おしまい】

アイドルパロ政岡×尾張の後日談【↑100/6,200文字/政岡×尾張】

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