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田原摩耶
田原摩耶

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志摩とショタ化齋藤とアンチの話[↑100/11,000文字/志摩視点/ショタ化齋藤/アンチ×齋藤/ほのぼの]

 おかしいなと思ったのは、朝迎えに行ったときからだ。  ノックして、声はするのに「ちょっと待って」としか言わず一向に出てこない齋藤に痺れを切らし、以前作っておいた合鍵で部屋の扉を開く。  そして、目の前の光景に息を飲んだ。  否、そこにいる生物に。 「え……」  短い手足にぷりぷりとした尻、そして、Tシャツを被るように包まったその生物には見覚えがあった。明るい茶髪に、困ったように垂れ下がった八の字眉。  もしかして、こいつは。いや、そんなことはないと思ったが、それでも、恐る恐るその名前を口にした。 「さ、齋藤……?」 「し、志摩……どうしよう……」  舌足らずな幼い声、けれど、その仕草、怯え方といい見間違えるはずがない。  齋藤が、小さくなった。  ◆ ◆ ◆ 「こんなことって……あるの?おかしいでしょ。なに、俺もしかしてまだ夢見てる?」 「い、痛いよ……っ俺のほっぺたじゃなくて自分のほっぺたで試してよ……」 「……しかももちもちだし」 「う、うう……俺も、何がなんだかわからなくて……朝起きたら小さくなってるし、服も……ないから……」 「ああ、だからそんなターザンみたいなことになってるわけね」  俄信じられるようなことではないが、現実に起きてるということはこれが夢でも何でもないということだ。  人の膝の上からよじよじと降りようとする齋藤をもう一度抱え、膝に乗せる。そして、逃げないように上半身を掴めば「志摩」と齋藤が泣きそうな顔してこちらを見上げてきた。 「あの、こ、この体勢……ちょっと……恥ずかしいというか……」 「何言ってるの?齋藤小さいんだから落ちたら大変でしょ」 「い、いや、赤ちゃんじゃないんだからそれは……」  確かに何歳くらいだろうか。小学生低学年くらいか。小さい頃の齋藤もこんな感じだったのだろうか。じっと覗き込んでると、じわじわと赤くなった齋藤が「志摩」と手を離そうとしてきた。 「わかったよ、はいはい、これでいいの?……というか、本当に中身は変わらないんだね。なんか変な感じだ」 「う、うん……」 「とにかく、大抵こういうのは原因ってものがあるでしょ。齋藤、心当たりないの?」 「心当たり……ううん……そういえば、昨日縁先輩に外国のお土産っていうお菓子貰ったくらいかな……」  絶対それじゃねえか。 「……齋藤、まさか食べたの?それ」 「う……だ、だって賞味期限そんなに長くないかもって縁先輩が……」 「……」 「ご、ごめん……美味しそうで、つい……詩織と一緒に……」 「え?阿佐美も食べたの?……それで、阿佐美は大丈夫だったわけ?」 「詩織、昨日の夜出掛けてからそのまま戻ってきてないんだ。もしかしたらどこかで……」 「……取り敢えず、方人さんと阿佐美に話聞いたほうが早そうだね」  ソファーから立ち上がり、そのまま部屋から出ようとすれば後方からぼとっとなにかが落ちるような音が聞こえてくる。  何事かと振り返れば、どうやらソファーから落ちたらしい齋藤が床の上で立ち上がろうとしていた。 「お、俺も……一緒に行く……」 「ダメ」 「で、でも……」 「危ないからダメ、絶対ダメ。死んでもダメだから」 「ぅ、うぅ……」 「そんな顔をしてもダメだよ。……ただでさえ小さくなって、もし阿賀松や会長さんに見つかったらどうするの?あの人たちの性癖の歪み方わかってるでしょ?」 「さ、流石にそれは……でも、ここで一人でいるのは……」 「……」  確かに、もし俺がいない間誰か入ってきたときのことを考えると少し……ゾッとしないな。 「……わかった。けれど、俺の側から絶対離れちゃダメだからね」  仕方なく承諾すらば、こちらを見上げた齋藤は目をキラキラさせるのだ。……ああ、クソ、このアングル調子狂うな。  とにかく、この格好で外に出るわけにはいかない。  取り敢えずなにか着れるものがないか探すわけになるのだが、そんなものあるわけない。取り敢えずお腹が冷えないようにパーカーだけ着せて、下半身にはタオル巻いてそのまま担ぐことにしたのだが……やばいな、こんなところ誰かに見られたら絶対なにか言われる。  というか、中身は齋藤のままなので大分この格好が堪えてるらしい。そりゃそうだ。下着もサイズが合うものないからほぼ裸だ。  仕方ないと己に言い聞かせてるらしいが、タコみたいに真っ赤になっていた。  そして、そんな齋藤をだっこするような形で抱えながら部屋を出る。  とにかく、一階に行けば衣類を調達できるだろう。幸いこの学園は人が多い分取り扱ってるサイズも多種多様だ。小さいサイズを選べば、ぴったりとは行かずともずるずる引きずることもないはずだ。  というわけで俺は齋藤と一緒に一階へ向かう。  もし何か言われても言い訳は考えていた、あくまで齋藤は齋藤の親戚という体で一日だけ面倒を見ることになったと白を切ればいい。なのでコソコソする必要もないだろうとあくまで依然とした態度で行ったつもりだったが。  ――学生寮一階。 「……亮太、お前、その子……もしかしてとうとう犯罪に手を染めたのか?!」  面倒なやつに見つかった。  兄貴もとい裕斗は丁度志木村先輩と食事の帰りだったらしい。最悪だ。声でけーわなんだよこいつは。 「なんだその子は!どこの子だ?!ま、まさか……お兄ちゃんに内緒で隠し子を……?!」 「違うし、声でかいし、やめてよ。……齋藤の親戚の子だから」 「へえ、齋藤君の?どれどれ」 「って、ちょっと!」  言うな否や人の腕から齋藤を取り上げようとする裕斗に血の気が引く。おい、と止めるがこの馬鹿力びくともしないし。 「わ、ぅわわ……っ」と情けない声を出して狼狽える齋藤を抱き抱え、正面から覗き込むクソ兄貴に志木村さんも難色を示している。 「裕斗さん、そんないきなり……」 「おおーっ!確かに齋藤君によく似てるじゃないか!ボク、名前は?」  無視だ、この男。目の前のことにしか興味なくなると周りの声一切シャットダウンするのも間違いなく悪癖だろう。  いきなり抱っこされた齋藤はわかりやすいくらい狼狽えていて。 「な、まえ……っ?」 「ちょっと、やめてよ!ただでさえ怖がりなんだからいきなり抱っことか非常識すぎでしょ!」 「ええ?亮太は好きだったろ?」 「俺は関係な……って、さり気なく記憶捏造するなよ……っ!」  そう、抱きかかえられた齋藤をやつの腕から奪い取り救出する。よほど焦ったらしい。「大丈夫だった?齋藤」と問いかければ、ぷるぷる震えていた齋藤は「うん」と小さく俺の服にしがみついてくる。  その重みに、いつの日か弟がほしいと駄々捏ねていた時期を思い出し、なんとも言えない気分になった。 「それにしても、その洋服……随分とサイズ合っていないようですけど……というか下、もしかして履かせてないんですか?」 「実はさっき汚して換えがないから一階で調達しようと思ったんですよ」 「ああ、なるほど。そういうことですか」  それは災難でしたね、と俺の胸に蹲る齋藤の頭を撫でる志木村さん。子供の扱いに慣れてる……のだろうか。齋藤も撫でられて安堵したような顔をしている。薄々思ったが子供の演技してるだけだよね、まさか絆されかけていないだろうな。  そしてその隣で。 「なんだ?ボクお漏らしでもしたのか?」  そんなこと言いながら齋藤にちょっかいかけてくる懲りない男が一人。齋藤が違う違うと首を横に振るよりも先に、志木村さんが裕斗の頭を思いっきり叩いた。 「お、おい、志木村お前まじで殴っただろ今!」 「裕斗さん、いくら子供相手とはいえ彼も一人の男児です。デリカシーがなさすぎますよ」 「なんだよ、お前らは子供の遊び方ってなんたるかを理解してねえなぁ」なあ?と齋藤に話しかけようとして、びくっとした齋藤はその視線から逃げるように俺にしがみついてくる。 「え、ええ〜嘘だろ小さい齋藤君!」 「裕斗さんが怖がらせるからでしょう。自業自得です。ほら、齋藤君。僕がいいものあげますよ」  そう、人良さそうに笑いながら志木村さんは制服のポケットから何かを取り出した。どうやらそれは小包に入ったキャンディーのようだ。  恐る恐る顔を上げた齋藤の目の前にそっと差し出せば、最初怯えていた齋藤も目を輝かせる。 「っわぁ……」 「あとでそこのお兄ちゃんと一緒におやつで食べてくださいね」 「あっ、餌付けだ!ずるいぞ志木村!」 「八木君から貰った飴が貯まって消化できない分あげただけです。一石二鳥じゃないですか。……というかずるいって」  志木村さんからキャンディーを受け取った齋藤は、もじもじしながら「あ、あの」と舌足らずな小さな声で志木村さんを呼び止める。そして。 「ぁ、ありがとう……ございました……」 「おおっ、偉いですねえちゃんとお礼も言えるなんて」 「流石齋藤君の親戚だなぁ〜!どれ、俺も何か買ってやろうか!なにがいい?ケーキワンホールくらいまでなら今買えるぞ?」 「いらないから、ってか虫歯になるし。というか太らせるつもり?やめてよ」 「はーあ、亮太は細かいな。……齋藤君、またあとで亮太がいないときいっぱい食べさせてやるからな。お兄ちゃんに会いに来いよ」  こいつ……懲りないどころか厚かましさが増してる……。  小さい頃から鬱陶しかったが、年々厚かましさが増してないか。ニコニコする裕斗に、齋藤は困惑してた。そんな二人を見て、志木村さんはやれやれと肩を竦め……そして大きな咳払いをした。 「裕斗さん、この小さな齋藤君を構い倒したくなる気持ちもわからなくはないですが……そろそろ次の時間の準備をした方がいいかもしれませんね」 「うわ!もうこんな時間か……またな、齋藤君!」  どうやら予定があったようだ。大きく手を振り、颯爽と立ち去ろうとする二人に齋藤がおずおずバイバイをしようとしていたが「しなくていいよ」と手を下げさせる。 「全く、本当勝手なんだから……それにしても危なかった……よくわかったね。これが齋藤だって」 「……こ、これって……」 「あいつが馬鹿で助かったけど……でもまあやっぱりそっくりだもんね。普通、本物の齋藤とは思わないだろうけど」  改めて齋藤を覗き込む。志木村さんから貰ったキャンディーをしっかりと握り締めた齋藤は、「志摩」と気恥ずかしそうに顔を逸した。  いいからさっさと行こう、そう言いたいのだろう。 「そうだね。ずっとこんな格好してたら風邪引いちゃうしね。さっさと用事片付けて部屋に戻ろう」  それにしても齋藤、子供の演技上手いね。  ◆ ◆ ◆  それから、齋藤と一緒に一階のショッピングモールへとやってきた。流石に子供がいると悪目立ちするようだが直接何かを言われるまでもない、堂々としてりゃ誰も何も言わなかった。  そして、服が並ぶ店頭に入った俺は一番小さなサイズを探した。  すると、見つけた。  齋藤サイズにはぴったしまでとはいかずとも、今よりかはまだましそうなものを。 「あ、これとかいいんじゃ……」  ないの、と手を伸ばしたとき。  不意に、横から伸びてきた手とぶつかった。 「え」  と、振り返ればそこには、仁科がいた。  いつも何かしら阿賀松にいいように扱き使われてる仁科がどうして、と思ったとき、不意にその後ろに隠れる影を見つけた。 「仁科先輩……って、その子……」  無造作に伸びた黒髪にぶかぶかのシャツ。けれど、齋藤ほど幼くはない。見覚えのあるそのだらしない服の着方をした小学生低学年くらいのその子供に、まさか、と息を飲む。 「し、志摩……違う、これは俺の隠し子とかじゃなくてだな……」  と、慌てる仁科だが俺が抱きかかえてる子供にようやく気付いたらしい。仁科は「え、まさかお前も」と目を丸くする。そして。 「ゆ、ゆうき君……?」 「し、おり……?」  案の定だった。子供の姿になった阿佐美に気付いたらしい、齋藤も驚いたように固まる。  ……ああ、なるほど。と思った。どうやら俺が思っていたよりも面倒なことになってるらしい。  ◆ ◆ ◆  場所は代わって、仁科の部屋。  どうやら先輩が言うには昨夜阿賀松の元に訪れていた阿佐美が気付いたら子供の姿になっていたとかで阿賀松に預かっていてくれと押し付けられたらしい。  それで、取り敢えずいつまでもヨレヨレの服のままでいるわけにも行かないので服を着替えさせようとしたところ、俺と鉢合わせになったという。  阿佐美もこうなってるというと、やはり齋藤の言うとおり方人さんの用意した土産が十中八九怪しいことになる。 「やっぱり方人さんのせいかよ」 「う、疑いたくはないんだがな……というか、そもそも子供化ってなんだよ……医学的におかしいだろ……俺たちでコソコソするんじゃなくて然るべきところで研究してもらうべきじゃないのか……?」  頭を抱える仁科。どうやら馬鹿真面目な部分が出てるようだが……そんなことさせるわけにはいかない。面倒くさそうなので俺は「そ  れで、肝心の本人は?」と強引に話題を変えることにした。 「今朝から見当たらなくて今、安久が探し回ってるところだな……」 「阿賀松はなんて言ってるんですか?」 「伊織さんはその……用事が出来たって言って出ていってまだ帰ってきてないな……」  用事だって?なにを企んでるんだあの男、と舌打ちしたときだった。ノックされる扉。  どうしたのだろうかと不安そうな顔をしたまま立ち上がった仁科はそのまま扉を開き、そしてぎょっとした 「ちょっ、あの、これは……」 「阿賀松伊織さんからこの部屋に届けるようにと言われたんですが」 「えっ?!あ、あの、待っ……」  仁科の声は突然の訪問者によって掻き消される。そして、業者らしき男たちは次々に仁科の部屋に箱の山を運び入れていくのだ。  何事かと驚く暇もなかった。あっという間にダンボールの箱で埋め尽くされた部屋の中、何気なく近くの箱を開けることにした。 「げ、これって……」 「………………あっちゃん」  中に入ってたのは男児向けの玩具だ。別の箱を開ければ男児用の服(しかも贅沢なことに見たことあるブランドものばかりだ)が入っているではないか。  業者の対応を終えた仁科も、箱の中を見て「なんだこれ」と顔を引き攣らせていた。 「も、もしかして伊織さんの用事って……」 「あっちゃん、俺のことをなんだと思ってるんだ……」 「阿賀松のやつ、まさか中身も子供になったと思ってんじゃないのか?」 「違うってあれほど言ったのに……」 「しゅ、しゅごい……」 「…………ゆうき君、遊んでいいよ?」 「い、いい……大丈夫……!」  ……とかいいつつ興味津々なのが顔に出てるのはきっと齋藤自身は気付いてないのだろう。 「とにかく、服だけでも何着かありがたくもらおうか。齋藤も着れそうなのあるみたいだし。……って、本当にどれだけ用意してんだよ……」  というかあの男が子供服選んでる姿自体不気味なんだけど。なんかキグルミみたいなのもあるし……少し齋藤に着せてみたいけど。 「齋藤、これ着てみない?」 「え、ええ?や、やだよ……普通のがいい……」 「じゃあこれは?」 「なんでそんなにもこもこしたのばかり選ぶの……?趣味なの……?」  と、そんなやり取りしながらもなんとか齋藤の服をゲットする。ようやくタオル生活から抜け出して安堵したのか、先程よりもチョロチョロしてる齋藤は仁科の部屋の片付けの手伝いをしようとして断られているようだ。 「それにしても、なんで齋藤はあんなにちっちゃくなってるのにお前は普通なわけ?」 「……そんなこと俺に言われても困るけど、恐らく方人さんのお菓子を摂取した量が関係してるんじゃないかな」 「どちらにせよ、方人さんに直接聞くのが早そうだね」 「……だろうね」  なんて阿佐美と話してると、いきなり部屋の扉が開く。  また業者か?と顔を上げれば、そこにはあの赤髪ニヤケ面の男がいた。 「よう詩織ちゃん、俺からのプレゼントは受け取ったかぁ?……って、あ?」  部屋の奥、仁科の側でちょろちょろしていた齋藤を見つけた奴にぎょっとする。齋藤、と慌てて隠そうとするが遅かった。 「お前、その辛気臭いツラ……まさかユウキ君かぁ?!」  よくわかったな、と思ったと同時に逃げ遅れた齋藤を抱き上げる阿賀松に仁科も俺も阿佐美もぎょっとした。 「っはは!詩織より小さくなってんじゃねえかユウキ君!」 「あっ、あっちゃん……!」 「ちょっと、齋藤を降ろしてよ!」 「…………あ〜〜?なんだ、亮太お前もいたのか。んだよ、お前は小さくなってねえのか、裕斗が喜んだだろうに」 「放っておいてよ、それよりも齋藤降ろしてよ!危ないでしょ……!」 「ピーピーピーピーうるせえな。俺が高い高いしてやってんだろうが、楽しいだろ?ユウキ君」 「は、はひ……」 「ほら」 「どこがだよ」と言ってやりたかったがこの男には一般常識など通用するわけがない。クソ、頭が痛くなってきた。  けれどバイブかってほどブルブル震えてる齋藤を見兼ねたのか、それでも上機嫌な阿賀松は「仕方ねえな」と齋藤を降ろす。ようやく地に足をつけ安堵した齋藤は俺のところまで逃げ帰ってきた。 「ふん、それにしても……適当なサイズ用意させたんだがユウキ君も似合ってんじゃねえか」 「やっぱり全部これあっちゃんの趣味なんだ……」 「ガキの服って本当小せえのな。なんだこれ、お人形サン用か?」  言いながら、ダンボールを漁る阿賀松はリボンのカチューシャを取り出してはニヤニヤ笑いながら「ユウキ君、これ付けてみろよ」と無理矢理齋藤の頭にハメた。  クソ、勝手に齋藤に触るなと思うのにリボンハメられた齋藤がなかなか似合ってて助けるのを忘れてしまう。 「……というかあっちゃん、こんなに玩具いらないって。そもそも中身は俺たちそのままだからね」 「あー?いいんだろそんなのは、ガキはガキらしくガキの玩具で遊んでへーこらしてりゃいいんだよ」 「……あっちゃん……」 「んだよ、詩織。ほら、飯とガキ用の菓子も今用意させてるから少し待てよ。ユウキ君もいるならちょうどいいじゃねえか」 「仁科先輩……薄々思ったんだけど阿賀松って……」 「……子煩悩だな」 「あぁ?なんだって?」 「な、なんでもないです!!!」  お陰で齋藤の衣類は助かったが……金持ちってやっぱりどこかおかしいのか。この男の場合は極端すぎるのだろうが。  ◆ ◆ ◆   阿賀松のやつに無理矢理知育玩具で遊ばされている齋藤に付き合ってたら、不意に仁科に着信があった。 「も、もしもし?どうだ、方人さん見つかったか?」  どうやら携帯から漏れて聞こえてくる声量からして安久だろう。内容まではわからないが、それでもなんとなくただ事ではないのは伝わってくる。 「え?本当か?……わ、わかった!すぐそっちに向かうから……それまで待ってろ」  狼狽える仁科はそれだけを言って通話を切る。  そして、ソファーでふんぞり返って齋藤見てた阿賀松は伸びをするように「安久ちゃんなんて?」と上半身を起こすのだ。 「ええと……それがその……方人さん見つけたは見つけたらしいんですけど……」  その先は言いにくそうだ。仁科は阿賀松になにかを耳打ちし、やつは不敵な笑みを浮かべる。 「……へえ、そりゃ楽しそうじゃねえか」  すぐ察した。この男がこう笑うときは大抵ろくな事ではない。 「方人が見つかった。……お前らも来るか?」  立ち上がる阿賀松に、齋藤がびくっとする。  元凶である方人さんが見つかったのなら会わないわけがない。面倒なことになってるだろうが、今更だ。「勿論」と頷きかえせばやつはその嫌な笑みを更に深めた。  ◆ ◆ ◆  学生寮、方人さんの部屋前。  留守番の阿佐美を置いて、俺と齋藤、阿賀松、そして仁科は安久と方人さんがいるという通路まで来たのだけれど……。 「あっ、齋藤君だ!やっぱり小さくなっても可愛いなぁ〜!」  いた。それも当たり前のように笑顔で手を振ってる。  そしてやつから逃げるように壁際座り込んでる人影も一つ。見覚えのあるピンクの髪だが……なにかがおかしい。 「はぁ、はぁ……っ、くそ、変態……!!」 「おーおー、安久ちゃんが手こずらされてるなんて珍しいと思いきや……なるほどなぁ、そういうことか」 「い、伊織さん!ど、どうしてここに……!」 「見物しにな」  そう言う阿賀松に、安久は嬉しいような恥ずかしいようなそんな反応をしてみせた。そして近付いてからわかる、やつがいつもよりも一回りくらい小さくなってることに。  仁科の手には謎の袋が握られていて。どうやら安久も件の怪しげなお菓子を食べたということか。 「伊織も食うか?」 「いらねえよ、つうかまた随分な真似してくれたじゃねえか。方人」 「なんだよ、伊織お兄ちゃんにとっては嬉しいことだろ?」 「まあな」  この男、どこまでも自分に正直でいやがる。 「ま、安心しろよ、効力は一日も保たないはずだから明日にはいつも通りに戻ってるはずだし」 「そんなの、証拠は……」 「大丈夫、一回八木で試したから」  この人そういうところで抜け目ないというか……八木先輩に同情せざる得ない。  全く悪びれるどころか寧ろ楽しげに目を細める方人さんだが、俺の足にくっついていた齋藤に目を向け、「それよりも……」と更に厭な笑みを浮かべた。まずい、と思ったときにはもう遅い。  齋藤に視線を合わせるように屈む方人さんは、齋藤に手を伸ばし、そして――。  ぷにっとその両頬を掴んだ! 「……あーっ、もう……可愛いなぁ……齋藤君……っ!」  もちもちっともみくみゃにされる齋藤の両頬に頬ずりしながらこの男は気持ち悪い声を出すのだ。  あまりの凶行に俺も仁科も動くのに遅れてしまう。 「方人さん……?!」 「はあ、白いお餅みたい……!可愛い!餅の妖精さんかな?はあ〜〜食べちゃいたい……っ!」  言いながら恐ろしい速さで齋藤をボールのように抱えた方人さんはそのまま俺から齋藤を奪うのだ。 「齋藤からその汚い手を離してください!」 「やーだね。ほら、代わりに安久をやるよ」 「いらないし代わりにならないし!」 「だ……いらないってなんだよ、僕だってお前なんか欲しくないぞ!!」 「安久ちゃん、あとから美味いカレー食わせてやるからな」 「い、伊織ひゃ……」 「仁科パス」 「ちょ、いや、それは流石に重……っおわわ!」  放られた安久を全身でキャッチする仁科。もはや潰れてるが今はそんなことを言ってる場合ではない。 「さ、齋藤……っ!やめろ!齋藤に手を出すな!」 「っ、くく、もう遅いよ……小さい齋藤君が手に入れば絶対一度はしてみたかったことがあったんだ」 「やってみたいこと……?」  とてつもなく嫌な予感がする。  凶悪な笑みを浮かべ、齋藤と向かい合うように掲げた方人さん。不安と好き勝手ほっぺた揉まれたせいで赤くなった齋藤はぷるぷる震えており、短い手足でバタつくが不可抗力だと悟ったのだろう。身を守るように丸まってる。そんな齋藤に方人さんは舌なめずりをするのだ。 「いいよ、伊織、亮太……お前らにも見せてやる。そこで指を咥えて見てな」 「え、えにし先輩……なにを……!」 「方人さん、待っ……!!」 「秘技、齋藤君吸いッ!!」 「わ、ぅ、や、やめ……っぁ、あぁあ……!!」 「齋藤ーーッ!!!」 「あ、仁科、俺の部屋にカレーとメロンソーダ手配しといて」 「わ……わかりました」  俺の悲鳴が残響する中、当たり前のようにほのぼのとした会話を繰り広げる後方のアンチ二人に「少しは齋藤のことを心配しろ」と思ったがそんなことよりもだ。  まるで猫かなにかのようにその柔らかな胴体に顔を埋め方人さんに吸われた齋藤は暫く藻掻いていたがやがて力なくだらんと手足を垂れる。 「う、うう……お婿に行けない……」 「いやそんなの元より行かせる気ないから気にしなくていいよ。……じゃなくて!方人さん!幼い齋藤の体を弄ぶなんて許さない……!」 「ははは、なんだ、亮太お前まだ齋藤君を吸ってなかったのか。そりゃ可哀想に……」 「ならもっと亮太の分がなくなるまで吸っちゃおうかな〜」なんて上機嫌に微笑む方人さん。その背後にぬっと巨大な影が現れるのを俺は見た。  そして次の瞬間。 「……へえ、これが子供になる菓子か」  いつの間に方人さんから奪ったのか、例の小袋を手にした阿賀松がそこにはいた。方人さんも気づいてなかったらしい、方人さんが振り返ればそこには小さな団子みたいな塊を手にした阿賀松が立っていて、目が合うなり阿賀松は方人さんの口にその菓子を突っ込むのだ。 「んぐ」  そして、条件反射で方人さんがそれを飲み込んだときだった。  しゅるしゅるしゅるとみるみるうちに方人さんが縮んでいく。  そして、阿賀松の半分くらいの大きさになった方人さんと俺、抱っこされたままの齋藤、小袋手にした阿賀松が向かい合う。 「……」 「……」 「……」  どこから突っ込めばいいのかわからず戸惑ってると、無言で阿賀松が方人さんを担ぎ上げる。俵抱きである。 「ちょっ、伊織……降ろし、待て、わかった、俺が悪かったごめんね〜〜って、お、おい……!無言はまじでこえーから!」 「……あーもしもし?……なあ裕斗、お前確か新しい弟欲しいっつってなかった?活きがいいのが一匹いるぞ」 「ワーッ!!やめろ、やめろ伊織!!それだけはまじで許さねえぞ!!お゛い゛っ!!」  や゛め゛ろ゛ッ!!!という方人さんの悲鳴が木霊する。  そのまま方人さんをどこかへ担ぎ上げていく阿賀松の背中を俺たちは暫く見送っていた。 「……助かった……のかな……?」  ホッとしたあまり腰が抜けたらしい、ぺたりと座り込む齋藤を抱き締めれば、腕には確かな温もりと柔らかさがあった。 「……っ齋藤」 「し……」  志摩、と続けようとしたのだろう。そのまま齋藤の腹部に鼻先を押し付ければ、ミルクのような匂いと柔らかさに包まれる。これが……悪魔的所業……齋藤吸い……。 「っ、志摩、ちょ……」 「方人さんと間接吸いは癪だけど……「間接吸いってなに?!」……これも齋藤のためだから」 「し、志摩……待って、今はだ、だ……だめ……っ!!」 「少しだけ、少しだけだから、ね?」 「だ、だ…………ぁあ――ッ!!」  その日、俺は今まで聞いたことのないような齋藤の腹からの声を聞いた。めちゃくちゃいい匂いがした。  END

志摩とショタ化齋藤とアンチの話[↑100/11,000文字/志摩視点/ショタ化齋藤/アンチ×齋藤/ほのぼの]

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