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田原摩耶
田原摩耶

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天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第七話【人狼パート2】

 二日目のゲームが始まる。  正直、生きた心地がしなかった。間違いなく今夜、標的にされるはずだ。 「それじゃあ、二日目の夜だな。まずはもう知ってるだろうが今朝方、櫻田洋介が狼の襲撃によって死亡した」  薄暗い店内、明らかに空いた席は昨日縁と櫻田が座っていたはずの場所だ。わざとなのか、椅子を片付ければいいというものを見せしめのように敢えて空席を残す阿賀松は相変わらず趣味の悪い男だと思った。 「あとは……わざわざ言うこともねえな。じゃ、あとは好きにしろ」  そう、阿賀松は照明を消した。卓上の蝋燭の火だけが照らす中、全員が全員それぞれ何かを考えてるらしい。  発言権をもらっても、誰もすぐに口を開くことはなかった。 「……好きにしろと言われてもな」 「しかしまあ、話すことは決まってるじゃありませんか。昨日縁先輩が言っていたゆう君――齋藤佑樹の黒疑惑についてとか」  蝋燭の火に照らされたやつの顔は余計恐ろしく見えた。こちらを見据える壱畝遥香に、俺は、固唾を飲む。  予想していたことだが、それでもこの男に掘り返されると思うと正直、到底いい気分ではない。 「それで、ゆう君。言いたいことは?」  けれど、ここで証言から逃げたところで周りの人たちの心象を悪くするだけだ。 「……お、俺は……縁先輩に入れたのは、縁先輩が怪しいと思ったからで……人狼ではありません」  緊張に声が震えてしまう。注目されることだって好きではないのに、壱畝の視線が余計不愉快で、酷く落ち着かない気分になる。 「そういえばゆう君の役職はなんだっけ?」 「……村人、だけど」 「村人って確か人数が明らかに多かったところだよね。今回はゆう君を吊ってグレー消していくのがいいんじゃないですか?」  この男、自分が白確定だからといってこの話し合いをリードしようとするつもりか。  ただ俺を吊し上げたいだけのくせに、もっともらしい理由を引っ提げてくるのがただただ厄介で、「他に言いたいことある人いますか?」なんて議長さながら仕切ろうとする壱畝に手が上げられる。  そして、意外な人物がそこにはいた。 「……あの、良いですか……」  江古田だ。薄暗い部屋の中、ただでさえどんよりとした江古田の周囲の影は更に湿り気を帯びてどんよりしてるように見えた。 「どうぞ」と微笑む壱畝に、江古田は目線を手元のクマに落としたまま続ける。 「……僕は霊能者なんですけど、その……昨日あの青い髪の人を見てみました……」  ぼそぼそと紡がれる言葉に、空気が一瞬ざわつく。というかさらっと言ってるけど……江古田が霊能者ってことは。 「……あの人の役職は、占い師です……占いこそはしませんでしたけど、少なくともあの人の言うことは間違っていないと思います……」  大きな、黒く淀んだその目が俺の方を見ていた。  血の気が引いた。そうだ、わかっていたことなのに。江古田と俺の陣営は違う。それなのに俺は勝手に味方してくれるものばかりだと勘違いしていた。  縁が白。そうなると、必然的に俺の黒が色濃くなってしまうわけで。壱畝が笑うのが見えて、言葉に詰まる。  汗が滲む。何か言わないと、そう思うのに頭が真っ白になってしまうのだ。  そんなときだった。 「……少し、よろしいでしょうか」  ざわついた空気の中、静かな声が響いた。水を売ったように静まり返った室内に、「どうした、今度は」と会長が灘に発言を促した。小さく頭を下げた灘は、江古田の方へと視線を向けた。 「おかしいですね。自分も霊能者なのですが、縁方人、彼は人狼と出ていましたよ」  今度こそ、空気が大きくざわついた。「またこのパターンかよ」と頭を抑える五味と、戦慄く江古田。対する灘はあくまでいつも通りだった。  霊能者が二人。  それも、縁を占って意見が割れている。 「……そんな、わけ……っ」 「待て、待て待て……どういうことだよこれは……っ!」 「霊能者が二人って……どっちかが嘘吐いてるに決まってるだろ!」  狼狽える外野、その中でも最も驚いてるのは間違いなく江古田だろう。ただでさえ白い顔が、更に血の気が引いているようだ。  けど、俺は灘が助け舟を出してくれたことに心底安堵した。それと同時に確信する。  阿佐美の言っていた通り、灘は狂人だ。そして、本物の霊能者は間違いなく江古田だろう。 「なあ、昨日の夜の投票のやつ。覚えてるやついるか?」  落ち着きのない空気の中、発言したのは裕斗だった。  いきなり何を言い出すのかと思ったが、裕斗の意図はすぐに理解する。別の方面から矛盾を炙り出すつもりか。 「ええと、確かあの票の移動を〜ってやつね」 「あれ覚えてるやついるか?あれで票動いたところ、齋藤以外にもいくつかあっただろ」 「あの時の票が増減したグループは五味先輩、芳川会長、阿佐美君、そして齋藤君です。江古田君が投票予定だった会長のグループに関しては櫻田君が移動したと公言していたため実質±0ですね」  正確には――志摩、櫻田、十勝、そして俺の四票分だろう。  そして、その中でも明らかになってるのは死亡した櫻田の票と……俺だ。周りの視線を向けられる中、テーブルの端、退屈そうに頬杖をついていた十勝は「あーあ」と大きく伸びをした。 「……もう面倒臭えから先に言っちゃうわ」 「と、十勝君……?!」 「俺が投票したのは縁方人。理由はあいつが人狼だと思ったから」  悪びれた様子もなく、仕方なくといった調子で続ける十勝。流石にそれは危険な橋ではないか、と思ったが止める暇もなかった。矛先を俺から自分へと向けるためなのか、十勝の真意はわからなかったが十勝の問題発言により俺に向けられていた目は一斉に十勝に向くのだ。  そして、その中には勿論……。 「おい聞いたかこいつ、人狼のこいつが方人さんに投票したってんなら間違いなく方人さんは本物の占い師だよ。だから、十勝と灘、お前らが人狼だ!」  十勝に役職を被せられていた八木はここぞとばかりに指摘する。無理もない。白である八木からしてみれば十勝は確定黒なのだ。 「……僕も、八木先輩と同意見です……灘先輩は嘘を吐いてます……人狼で間違いないです……」 「ふむ……」 「つまり方人が占い師派の八木君と江古田君、方人が人狼派の十勝君と灘君派で分かれるってことだな。票を動かしたってところなら十勝君も大概が怪しいけどな」  二人の言い分を聞いた上で、会長と裕斗はなにかを考えているようだ。 「正直、アタシたちからしてみるとどっちもどっちなのよね〜〜。反応からして八木ちゃんの反応は本当みたいだけど」 「八木ちゃんはやめろッ!」 「なによぉー。そんなに怒ったらせっかくの男前が台無しになっちゃうわよ」 「この……ッ勝手に言ってろ!」  なんか喧嘩してるし……。  しかし、この流れはまずい。裕斗も連理も十勝を疑っているということか。  どうにかしてこの流れを変えなければ。  そう思うが、疑われている俺が十勝や灘を庇っては益々疑われてしまうだろう。助けたい気持ちをぐっと堪え、俺はその場を静観していた。  そこへ、助け舟がやってきた。 「このまま続けても不毛だと思うので一旦ここは保留にしておいて、別のところから潰していくのはどうでしょうか」  そう、静かに提案するのは志木村だ。にこやか笑みを携え、人差し指を立てる仕草はどこか演技かかっている。  けれど、志木村の提案はこの流れを変えたかった俺にしてみれば思いもよらないもので。 「別のところ?」 「そう、例えば……櫻田洋介、彼が襲撃先に選ばれた理由についてとか」  内心ギクリとした。  一先ず十勝たちから矛先を反らせたかもしれないが、当たり前だが人狼である俺からしてみれば生きた心地がしないものだ。なるべくなら触れたくなかった。無理な話だとはわかっていてもだ。 「あーそれな、俺も気になってた」 「櫻田君の役職は結局なんだったんですかね」 「……さぁな。村人ではないことは間違いないだろうが、そこを狙って役職持ちを潰してきたということだろう」 「……だとすると、まだ誰も名乗り出てない役職となると騎士、ハンター……それと第三陣営になるのか」  志木村の問いかけに、裕斗と会長は神妙な顔をしてみせる。その言葉にハッとした。そういえば、この二人も役職を口にしていないのだと。 「第三陣営って……狐だっけ?」 「狼側も区別つかないんだよな、それって。それなら、連中知らずに噛んでてもおかしくはないな」 「少なくとも、狐ではないことは間違いないだろ。狐が噛まれた場合背徳者も死ぬ。死体が二つ上がることになるだろう」 「それを言うならハンターも違いないな。ハンターは自分が死ぬとき指定した人間を道連れにすることが出来る。でも、誰も道連れにしなかったってことは……」 「まさか、洋介ちゃん、騎士だったってこと……?!」  連理の言葉に、数人が渋い顔をする。騎士が序盤で殺すことができるなら、人狼側としては大きい。  だとしたら、阿佐美と十勝の読みは正しかったのだと胸が躍った。  けれど、村人側からしてみればそれはとてもいい状況とは言えないだろう。  「……最悪ですね、仕事もせずに死ぬなんて……」 「ははっ、まあ、人狼からしてみたら大当たりなんじゃねーの」 「裕斗さん、笑い事ではないでしょう」 「おいおい気楽に行こうぜ、ゲームなんだし。けどこれで次の標的は決まったようなものだろ」  裕斗の言葉に、江古田の表情が一層陰気なものになる。  ……確かに、役職持ちでほぼ確定の江古田を狙うべきだろう。 「もし灘君の言う通り縁先輩が占い師騙った人狼だとすれば本物の占い師はまだ生きてるってことですよね。……一応なんですけど、この中で占い師カミングアウトする人います?」 「馬鹿なの?こんな状況でCOしたら即噛まれるでしょ」 「もしくはもう死んでるか……。うーんやっぱりいないみたいですね」  志摩の煽りも気にすることなく、名乗り上げるものがいないのを確認する壱畝。その隣、八木は険しい表情のまま江古田に目を向ける。 「なら、今日の霊媒は櫻田か?けど、あいつの役職がわかったところでどうしようもないと思うがな。どちらにせよあいつは騎士か占い師の可能性が高い。……これでもし騎士が潜んでるってなら、恐らく今夜は江古田は死なねえ。つまり……」 「……もし僕が死んだら……灘先輩の人狼と櫻田君の騎士、そして青い髪の人の占い師説が確定するってことですね……」  背筋に冷たい汗が流れる。  この二人は誰が狼陣営なのかわかってる、そしてそれを立証するつもりなのだと。 「それか、もしも今晩同じように灘が死んだら、櫻田は騎士で江古田が人狼……そして縁方人も人狼だということになる。そうなれば少なくとも人狼一匹は確実に仕留めれたということになるということか」  芳川会長はあくまで中立派なのだろう。  江古田と八木が面白くなさそうだが、証拠がない今言葉だけで否定したところで不信感を煽るだけだと判断したようだ。けれど、やはりその表情は不満がありありと現れている。 「それじゃあ肝心の今日はどうするのよ、今晩の投票」 「連理先輩。そのことについてなんですけど、僕に提案があるんですけどいいですか?」 「あらァ?なにかしら、お姉さんに教えて♡」  壱畝に名前を呼ばれたのが嬉しかったらしい、ハートを飛ばす連理に壱畝はにこにこと笑いながら「ありがとうございます」と恭しく頭を下げ、そして、辺りを見渡した。 「一先ず、現時点で一番怪しくて役職を持っていない人間を吊るすのが安牌だと思うんですけど……どうでしょうか」  そして、一人一人の表情を確認していた壱畝の視線は俺のところで止まった。  視線がぶつかり合う。  こいつ、と息を飲む。瞬間、壱畝の口元に厭な笑みが浮かんだ。三日月型に歪む唇。 「人数が明らかに偏ってる村人であり、その上前回の投票でも不透明な理由で票を動かした人間。……一人だけ居ますよね」 「……っ、そ、れは……」 「ゆう君を吊るせば村人は少なくなるでしょう。もし本当に村人だったとしても、グレーを潰せることになりますし」  ……っ、こいつ。  せっかく流れを変えたのに、これではふりだしではないか。向けられた無数の目に、汗が滲んだ。  反論したいのに、言葉が出ない。白ならばその身を以て証明しろ――暗にそう言われてるようだった。誰も、止めない。  どうすれば、と、必死にこの最悪の状況から抜け出すための策を思案したときだった。 「よっぽど齋藤を吊るしたいらしいね、お前」  静まり返った室内に響くのは聞き慣れた声だった。  驚いて顔を上げれば、そこには呆れたように笑う志摩がいた。そして、その目は笑っていない。 「今まで様子見てたけどさ、そろそろ目に余るんだよね」 「いきなり何を言い出すのかと思いきや……本当に何が言いたいんだよ、志摩君は」 「俺が言いたいのはそもそも、壱畝と栫井、あんたらこそ共有者名乗ってる人狼じゃないかって話」 「……は?」  そう、凍り付くのは壱畝、そして今まで静観していた栫井だった。そして、俺も、いきなりとんでもないことを言い出す志摩にその場にいた全員が呆気にとられる。 「齋藤は白だよ。占い師の俺が証明するよ」  そんな中、志摩は真剣な声でそんなことを言い出した。  正直、心臓が停まるかと思った。志摩は、俺を人狼と知っていて助けるとは言っていたが、この助け方はあまりにも危険な気がする。いや、そもそも志摩は本物の占い師なのか。だとすれば、どこからが事実と変わってくるのか。  けれど、江古田が本物だとすればやはり志摩は嘘を吐いてることになるわけで……。 「待て、待て待て……おい、どういうことだ?……志摩が占い師って……」 「COしたら殺されそうだからずっと黙ってるつもりだったんだけど。俺が方人さんに投票したのはあの人が占い師を騙ったから」 「ちょっと待て、それじゃあ……」 「齋藤は占いの結果白。村人だよ」 「……ッ」 「ね、そうだよね、齋藤」と目を向けてくる志摩、その笑顔に思わず自分が何者であるかを忘れかけ、そして慌てて頷き返した。  けれど、俺はその瞬間数人の志摩の見る目が変わるのに気付いてしまった。恨めしそうに志摩を上目で睨む江古田、このままでは江古田の黒疑惑が増すのは確実だ。そして俺自身も、きっと江古田に黒確定認定されてるだろう。あくまでゲームとはいえ、心苦しさがないといえば嘘になる。 「なら、占い師騙った縁が人狼だってことは……」 「りゅうちゃんも霊能騙ってるってことになるじゃないの」 「そうですね。俺からしてみたら方人さんを黒判定した灘和真が本物の霊能者ってところでしょうか」  先輩相手だからか、珍しく敬語の志摩だがあくまで不敵な態度は崩さない。 「無茶苦茶言うなよ、志摩君、君、嘘を吐いてるだろう?ゆう君を庇ってるつもりかは知らないけど……おかしいだろ、なんで今……っ」 「庇うも何も……白確定してる人間を吊るして村人減らすのは馬鹿のすることだと思ったんだよ。それに、俺がわざわざここまで言ってやってるんだよ。騎士もいない中、このまま壱畝の口車に乗せられて誘導されるくらいなら俺が証明してやるって……それがどういうことか余程の馬鹿じゃないならわかるよね?」  言葉の端々にたっぷりと込められた皮肉、そして挑発的な笑み。志摩がしようとしてるのは危険なことだとわかっていた。壱畝だけではない、多数へ向けたヘイトアピール。それは村人ならいざ知らず、少なくとも江古田派の人間のヘイトが志摩に集まった瞬間だった。 「栫井君、君も、言いたいことあるのなら良いなよ」 「……別に、勝手に言わせておけばいいだろ。どうせ、あいつ死ぬだろうし」 「……っは、そうだな。確かに、ここで占い師って言っちゃったら狼さんにもバレてしまうもんな」  笑う壱畝に、志摩は「それはお互い様だけどね」と皮肉げに笑った。壱畝は志摩を睨むだけで何も答えなかった。  栫井の言う通りだった。人狼に襲われずとも、今のこの流れはあまりにも島にとって分が悪い。  ギスギスとした空気の中、空気を逸らすように五味は咳払いをし、まとめに入る。 「つまり、必然的に灘派は十勝、志摩、齋藤の四人になるってことか……」 「なーんか、面倒臭いことになってきたなあ」 「……っ、あいつら全員グルだよ。違いねえだろ、全員殺せば確実に人狼潰せるぞ!」 「私はりゅうちゃんたちを信じてあげたいんだけど……」  憤る八木の横、んーと唇に人差し指を当て考え込んでいた連理は何か違和感に気付いたようだ。「ん?」と不思議そうに小首を傾げる。 「あれ、ちょっと待って……縁方人が黒だと言うなら多くても人狼サイドは三人しかいないんだから……だったらカズ君含めて四人いるのはどういうことなのかしら?誰か白陣営がいるってことになるんじゃないの?」  クエスチョンマークを頭上に浮かべる連理に答えたのは芳川会長だ。 「もしかしたら狐の可能性もある。……人狼と組んで村人を削って人数が少なくなってきたところを漁夫の利で掻っ攫うつもりなのかもしれんな」 「あくまで灘が黒の場合だが」と言い足す芳川会長。  そうだ……狐。度々忘れそうになってしまうが、この狐陣営は生き残ってる時点で勝ちになる。村人を減らしていくだけではなく、狐陣営もシラミ潰しにする必要があるのか。  これはあくまでも個人的な偏見ではあるが、今このタイミングでそのことを教えてくれる芳川会長は狐ではないような気がした。……だとすれば、ハンターか、或いは……。 「でさ、これって結局誰を吊るせばいいの?齋藤佑樹が村人確定って言ってるのは自称占い師の志摩亮太だけなんでしょ?」  そんな中、面倒臭くなったのか苛ついた様子で尋ねてくるのは安久だ。跳ねた毛先を指先でいじり、つまらなさそうに尋ねてくるやつに志摩が若干イラッとしてるのを感じ、内心ひやりとした。  身も蓋もないが、要するにそうなのだ。志摩を占い師だと裏付けるものはない。俺がそうだと言い張ることはできても、疑われてる現状、どうしても白にはなりきれない。 「……ここは、もうそれぞれが怪しいと思った人間に入れるのが一番ベターじゃないかな」  そう、提案するのは今まで黙ってやり取りを聞いていた阿佐美だ。長い前髪の下、ただでさえ感情が読みにくい阿佐美だが今日は一段とわかり辛い。阿佐美は言いながらも考えているようだ。 「もうあの面倒な投票はやめるのか?」 「票が動くのは目に見えてますからね」  芳川会長の問に、阿佐美は江古田と灘の方をちらりと見た。お互い誰が白で誰が黒だとわかってる現状、わざわざ言いつけを守って投票するとは考えにくい。……特に八木や江古田はこの流れを危惧してるはずだ。票を動かして灘派の人間を殺すことが先決だと判断するだろう。 「……そうですね、僕もそれでいいと思います……どちらにせよ、明日になればいろいろわかると思いますし……」 「……俺も異論はねえ。さっさと投票に移ろうぜ」 「同じく!シンプルに多数決が分かりやすいだろうし」 「お前が言ってんじゃねえよ十勝」 「うわ、ちょっと八木先輩ゲームでガチギレはないっしょ〜!笑顔笑顔!」 「チッ……!」  三者三様、思うところはあるだろうがそれでも異論を唱えるものはいない。  そして、志摩も、黙って成り行きを眺めていた。 「……志摩」  その名前を呼べば、俺の方に気付いた志摩は笑う。  いつもと変わらない笑顔。 「大丈夫だよ、齋藤は胸を張ってたらいいよ。……白なんだから」  平気な顔をして嘘吐くのだ、俺を庇うために。  だめなのに、とわかってても、止めることができない。せっかく志摩が変えてくれたこの流れを潰すような真似はできなかった。  そして、砂時計の砂が全て落ちきったとき、部屋に光が灯る。 「時間だ。どうやらいい感じにまとまったみてえだな」  暗い室内に慣れきっていた目はその眩しさにダメージを受ける。思わず目を細めたとき、阿賀松がゆっくりと立ち上がった。そして、ニヤニヤと笑いながら辺りを見渡す。 「……これのどこがまとまってるように見えるんだ?」 「少なくともどいつを殺すか、腹は決まってんだろうが」 「…………」  誰も何も言わない。厭な空気だけがその場に残っていた。  その沈黙を肯定と受け取った阿賀松は喉を鳴らして笑う。 「それじゃ、お待ちかねの投票タイムだ」  ◆ ◆ ◆  集計を終え、投票結果が表示される。  灘、江古田…各一票。  俺、壱畝、八木…各二票。  十勝…三票。  そして、志摩亮太…五票。  最悪の事態が起きてしまった。  志摩が、処刑される。誰しも予想できていたのか、志摩本人すらその結果に狼狽えることはなかった。 「……ふーん」  ただ、興味なさそうに口にする。  その口には軽薄な笑みを浮かべて。 「まあそうなるよなぁ、だって現時点で一番怪しいの君だもん。志摩君」 「俺は占い師だって言ってるのにさぁ……本当、性格捻くれたやつばっかりで困るよね」  椅子から立ち上がる志摩に、阿賀松が近づいた。別に抵抗するつもりはないと両手を上げ、笑う。 「それじゃあ死刑票ぶっちぎりの亮太君、何か言いたいことはあるか?」 「別にないっちゃないけど…………ああ、そうだ齋藤、プール泳げなくなっちゃったね」 「し、志摩……っ」 「一足先にあっち側で待ってるよ」  なんて、それだけを言い残し、どこから現れたのか黒服の男たちに連れて行かれる志摩。  最後にこちらを振り返り、小さく手を振った。残された俺は、その後を追いかけることすらできなかった。  ゲームだとわかってても、この先なにが起きるのかわからない。ずっと味方でいてくれた志摩がいなくなったという実感が、じわじわと足元から這い上がってくる。  扉が閉まり、志摩がいなくなった部屋に重苦しい空気が流れたとき。 「ああ、そうだ。あいつからのお土産だ」  阿賀松がそう思い出したように口を開いたときだった。  志摩の名前が消え、そのスクリーンに見覚えのある名前が表示された。 『死亡 壱畝遥香』 「え」  壱畝が椅子から立ち上がる。  一瞬、俺も、誰もが思考停止した。 「……待って、これっ、どういう……」 「志摩亮太君は一人で死ぬのが寂しいからって道連れ相手にお前を選んだようだ」 「道連れ……?!」  それって、つまり。  志摩はハンター、或いは埋毒者だったということか。 「待て、この……っ!離せって!」 「おい死体は喋んなよ」 「ぅ、ぐッ!」  現れた黒服たちに捕らえられそうになり、抵抗する壱畝のネクタイを掴んだ阿賀松はそのまま犬の散歩でもするかのように壱畝を引きずり、そして、振り返る。 「じゃ、今日はここまでだな」 「解散」真っ直ぐに帰れよ、なんて、呆然とした俺たちを残して阿賀松は壱畝を引きずっていった。 【三日目 議論パート終了】

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