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田原摩耶
田原摩耶

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馬鹿エイプリールフールネタアイドルパロ【↑100/12,000文字/隠れ尾張限界オタク先輩アイドル政岡→→→元モデル新人アイドル尾張/政岡視点】

 アイドルなんて興味ねえ。  ただ金になるし、簡単にテレビに出るような有名女優や可愛いアイドルを抱けるって聞いたから軽い気持ちでスカウトを受けた。  けど現実はどうだ。山ほどの女からモテるが自分の時間はすげー減ったし休みの日も次のスケジュール見ただけで休んだ気になんねえしおまけに同じグループの連中は癖の強いばっか。女よりもコイツラの顔見てる方が多いんじゃねえのかってレベルでそろそろ見飽きてきた頃。  今度のコンサートのリハーサルを終えて動く気力もねえからソファーで仮眠取ろうとしてたら「ねえねえ」と雑誌手にしたメンバーの一人・神楽に思いっきり揺すられ睡眠妨害される。 「んだよ、こっちは寝ようとしてんだろうが!」 「ねえねえこれさぁ、零児君がモデルやってたやつ?」 「あ?……そうだけど、なんだよ」 「あ、やっぱりそうなんだ〜。あ、それ聞きたかっただけだからもう寝ていいよぉ」 「んだよそれ……!!」  くっそ、腹立つな……。  スタッフからもらったのかどっかから奪ってきた雑誌を読み始める神楽にイラッとして蹴りを入れつつ、俺は再度眠りの体制へと入ろうとした。すると、丁度楽屋へ戻ってきたやつが一人。能義だ。 「おや、神楽。珍しいものを読んでますね。前零児が表紙やってたやつじゃありませんか」 「……覚えてたのかよ」 「ええ、貴方が嬉しそうに報告してきてましたからね誰も教えてくれと言ってないのに。ストリート系は趣味ではないのですが……どれどれ」  鬱陶しいやつがまた増えた。  寝てる人を押し退けるように無理矢理ソファーに座ってくる能義の野郎を蹴落とそうとするがこいつめちゃくちゃしぶといぞ! 「おい!人の足に座んじゃねえ!」 「丁度いいクッションかと思ったんですが、違ったんですね。……おや、この子、結構いいじゃないんですか?零児とタイプが違って」 「…………」 「へーー元君って言うんだ、どの角度からもすげー顔いいじゃん」 「…………ケッ、顔がよくてタッパありゃ誰だって見栄え良く見えるんだよ」 「あ、待ってねえこの子尊敬する人零児君って書いてあるじゃん!へえ〜可愛い……ってちょっと零児君!俺が読んでんだから横から取らないでよ!」  能義を押し退けて飛び起きた俺は、神楽から奪い取った雑誌のページを見た。  見開きで特集組まれたそのモデルは確かに俺のは全然違う、なんつーか女にモテそうないかにも爽やか〜なイケメンですって顔でむかついたけど、言われたとおりそいつのプロフィールに目を向ければ尊敬する人のところに俺の名前が書かれてる!つーか、よく聞く音楽もfoolって書かれてんじゃねえか! 「ケッ……現役高校生のくせにまあ、なかなかいい趣味してるじゃねえか……」 「分かりやすい方ですね本当……」  能義や神楽にはわかんねえ。  男が嫌いな芸能人に毎回名前出てんのも、三流糞雑誌に元セフレどもが勝手なことを垂れ込んで金もらってるせいでいつの間にかネット上では俺が赤ちゃんプレイ大好きで女にオムツつけてもらうド変態だとか好き勝手言われてることを。それを、それをこんな公の場で俺の名前を出すやつなんて早々いねーぞ?!  ……なんか、ぱっと見気に食わなかった爽やかな笑顔も段々可愛く見えてきたじゃねえか……。  それからだ。また、件のストリート系雑誌をこっそり購読するようになった。前は贔屓してるブランドの記事しか見なかったが、今度は例のモデルを探すようにページを読むようになった。  それから暫く経ったとき。あいつもそろそろ高校卒業か、なんて新しく買ってきた雑誌を楽屋で読んでいた俺はページを捲る手を止めた。  そして。 「お、おいおいおい!神楽、見たかよ!尾張元が俳優デビューって……!!連ドラ!!主演!!おい!!」 「ええ?誰〜?それよりも零児君、また昨日みたいに歌詞飛ばないようにちゃんと覚えなよ〜」 「こ、この……うるせえ!!んなことより大ニュースだろうが!テメェ自分だって可愛いだとか言ってたくせにすぐ忘れてんじゃねえよこの薄情者が!!」  尾張元が芸能界入り。  おそらく卒業のタイミングを狙ってどこからか声が掛かったのだろうが、正直嬉しさ半分不安半分だった。  だって、そうだろう。ずっとこの雑誌一本でやってきてて密かな人気を確立してた尾張がその他大勢の前に出てしまったらどうなる?どいつもこいつも絶対尾張のこと好きになるじゃねえかよ……!!  クソ、素直に喜べねえ自分が嫌だ。  でもでもでも!もしかしたら仕事で一緒になる機会とかあったら……どうする?!「ずっと好きでした、政岡先輩って呼んでいいですか?」とか言われたらまじ俺心臓停まるかもしんねー。  しかも尾張がドラマに出ること多くなるとしたら……あわよくば共演……とか?!やべえ、夢が膨らみすぎていても立ってもいられねえ!! 「おい、能義!なんかこう……映画とかドラマとかの仕事ねえのかよ!!」 「ええ、貴方あんな大根役者のくせにまだ諦めてないんですか?」 「うるせえ!いいからもぎ取ってこい!頼みます!なあ!!」 「…………何を騒いでんだこいつは」  すると、四人目のメンバーの彩乃が呆れたような顔をしてこっちを見てくる。やめろ!そんなゴミを見るような目で見んじゃねえ! 「どうやら零児が気にかけてる後輩モデルの子がドラマデビューするらしいですよ」 「……興味ねえな」 「でしょうね」 「クソ!いいんだよテメェには一生尾張の良さはわかんなくても!!しっしっ!」 「……なんだこいつ」  というわけで、華々しく地上波デビューした尾張だったが俺の危惧していた事態が起きてしまう。 「あの演技派イケメン誰?!」と一部の女アイドルオタクが騒ぎだし、そこからまたたく間に知名度を上げていった尾張元は大ブレイク。どんどん出演作を増やしていき、本屋に行けば尾張の表紙の雑誌が並び、広告塔には尾張が映し出され、バラエティー番組でお茶の間の老若男女を虜にしていく。  正直に言おう、俺は他者の口から尾張の名前が出るたびに沸々と怒りが込み上げてくるのを感じた。  尾張のことを好きだと言うがお前ら尾張の何を知ってんだ?!俺はあいつの生年月日からスリーサイズ身長体重好きな食べ物好きなブランドまで全部把握してるぞ?!しかもあいつの推しは俺だかんな?!と言ってやりたい衝動に駆られたが、言えなかった。  尾張の主演ドラマが始まったり、バラエティのレギュラーになったりと、本格的にその名前が売れ始めた頃だった。 「零児、貴方絶対尾張元のファンだということを他者に漏らさないでくださいね」  能義の野郎が久しぶりに飯を奢ってやるというのでやってきたら、これだ。黒毛和牛だかなんだかの高級焼き肉も一気に味がなくなった瞬間だった。 「な……なんでだよ……」 「尾張元は今や男が好きな男芸能人のトップ入りですよ。そんな彼を好きだと月並みなことを言うよりは寧ろ敵対してライバル視させた方が話題性がある……ということですよ」 「だから、なんでだよ!」 「馬鹿な貴方にも分かるように言うなら貴方のイメージが崩れるからですね」 「んな……っ!!」 「貴方のファンが求めてるのは野蛮で行儀のよろしくない圧倒的クソガ……いえ、ヒール感。そんなイメージを持ってるファンがもしも貴方が尾張元の主演したドラマ映画のBlu-rayを全巻購入しては毎晩鬼リピして泣いてるような男だと思ったらどう思います?」 「ほっとけ!ってかなんで知ってんだよ!!」 「貴方の私生活など安易に想像つきますよ」  くそ、こいつエスパーか?! 「イメージとか、そんなの……」 「関係ねえ、と言うつもりでしょう。その心意気はいいですよ。けど、もっと賢くなってください。この策略はうまく行けば相手方にも意識してもらえるはずです。それにあくまでビジネス上……貴方個人がお近づきになりたいというなら裏でやってもらえれば結構。ですが、必ず他者に漏れないようにすればいいという話です」 「何もそのオタ活動をやめろとは言いませんよ」と続ける能義に誰がオタクだ!と言い返してやりたかったが、やめた。  女とホテル出たところ撮られようがどうでもよかったが、もし俺が週4で仕事帰り尾張主演の映画を観ては泣いて帰ってるのを撮られたらと思うとぞっとした。  何よりも、「政岡さんはとにかく考え方も服のセンスも一本気でかっこよくて憧れます」ってコメントしてくれた尾張がそれを知って「うわ……まじで引くんですけど……」みたいな反応されたら一生生きていけない。 「わ、分かった……気をつける」 「分かればいいんですよ。……私が言いたいのはそれだけです。あくまでイメージというものがあるのをお忘れなきよう」 「ウス……」  それから、俺は能義の言うとおりなるべく人目を気にしてファン活動を勤しむことにした。  その頃は尾張は自分の主演のドラマで歌手デビューをしていて、1stシングルのリリイベに奇跡的に当選した俺は絶対バレようにマスクにサングラス、目出し帽という完全防備で会場入りしたがすぐに警備員に止められ会場から追い出されるということにもなってしまった。  その日は悔しさのあまりに男泣きしてしまったが、次回はもっと軽装備で行こうと学習する。 「あの……お客様、同じものが十点になってますが大丈夫ですか……?」  尾張元の初の公式写真集をレジまで運べば、目の前は店員は俺と目の前の写真集の山を交互に見やがる。  わかってるからさっさと会計しろとジェスチャーでしながら予約していたものと特典数枚を受け取りつつ、帰りに並ぶ尾張元の表紙を見てから帰ろうと寄り道すればそこにはOL二人組がいた。 「最近尾張元いいよね〜どんどん色気出てるし」 「わかる〜つか今度のドラマ聞いた?元刑事役なんだって!」 「やば〜絶対似合うじゃん〜!逮捕されたい!」  うるせぇ!ポリス尾張に逮捕されて尋問されたいだと……?!尾張という神聖な存在をそんな、そんないやらしい目で見てんじゃねえ!  思わず舌打ちをすれば、びくっと震えた女どもは「うわ、なにあれ」「キモっ」とか言いながら立ち去りやがった。  クソ女ども、尾張にわかファンのくせに……!  イライラした気分のまま俺は数キロ近くある写真集の山を抱えて自宅へと車を飛ばした。写真集は最高すぎて泣けた。  ◆ ◆ ◆  それから、仕事の片手間尾張のファンを兼業する生活が始まる。仕事の都合でなくなく諦めたイベントもあったが、初めてのライブイベントはなんとしてでも行ってやると意地でも能義を説得して行った。  最前列。ステージの上の尾張、その生尾張の近さに震え、  度々こちらを見ていた気がするが俺が精一杯ペンライトと団扇を触れば尾張が笑って手を振ってくれたのだ。  能義たちは「気のせいですよ」「それか絶対変なやついたな〜って思われたんでしょ」「自意識過剰だな」とか言っていやがったが俺は信じねえ。絶対あれは100パー俺を見ていた。間違いねえ。  そんなこんな、まあ、忙しい日が続いていたわけだ。ということは必然的に尾張も忙しいに違いない。  俺はまだ夜遊びして回ってたからオールや徹夜は平気だしどこでも寝れるので睡眠不足になることはなかったが……あいつは気苦労多そうだし心配だ。  なんて思ってもやもやしてた頃。 「零児、喜んでください。尾張さんとの共演が決定しました」  能義の野郎、いや、能義有人様々がまたとんでもねえ爆弾を持ってきやがった。 「はぁ……やべえ、なあ、俺変なところねえか?」 「それを言ったら普段の貴方からして様子がおかしいのでいつも通りですよ」 「そうじゃねえんだよ!ほら、髪とか……寝癖ついてねえよな」 「はいはいかっこいいかっこいいー。あ、有人君それ俺のミルクティーじゃん!」 「名前書いてない方が悪いんですよ」  番組収録当日。  普段なら収録ギリギリにスタジオ入りしてるのだが今日は念には念を入れるために予定時間よりも早く来てしまった。  くそ、なんでこんな日に限って髪が決まってないんだ!ヘアスタイルに何度も直してもらったのにどうやってもしっくりこねえ。もうだめだ。  なんて落ち込んでると、携帯端末を取り出した能義は「お」と目を丸くした。そして。 「……ああ、零児。どうやら彼、先程この撮影スタジオに来たみたいです、衣装の子から連絡来ました」 「う、うそ……まじか……って何聞いてんだ?!」 「安心してください、挨拶したいからっていう名目で聞いてますから。……どうします?そろそろ行きますか? 」 「む、無理無理無理!今の俺絶対まともな顔できねえ!」 「そんなこと言って……尾張さんは気にしませんよ。貴方のファンだって言ってたじゃないですか」 「だ、バカ言え!だからだろ!アホか!!」  くそ、なんでアイドルの真似事やってるくせにファン心がわかんねえのかこいつは?!  取り敢えず自分を落ち着かせようと尾張が個人的に使ってる写真投稿SNSをチェックする。  数分前に楽屋についたらしい、「スタッフから貰った。美味しい。」とコメントともに差し入れの写真が投稿されてるではないか。 「やべえ……尾張が楽屋から写真あげてる……やべえ……俺と同じ空間で差し入れのお菓子食べてる……くぅ……好きだ……っクッキーで喜んでんのクソ可愛い……っ!」 「前々から思ってましたが考えてること全部口から出る癖直した方がいいですよ」  尾張。……好きだ、好きだ、大好きだ。  俺は他のファンを名乗る奴らとは違う、純粋に好きだ。あの笑顔も、夢に向かってひたむきなところも、ファンのことを考えてる姿勢も、誰にでも礼儀正しいところも、弱音を吐かず、そういった部分を見せようとしないところも。  SNSで肉の飯ばっかの画像ばっかあげて女ファンから「たまにはハジメ君の顔写真も欲しいな」って遠回しに催促されてもそれに気づかず食い物ばっか投稿してるところも。  知れば知るほど尾張元から抜け出せなくなっていた。  人生で初めてファンレター、つーか直筆の手紙も書いた。そのために頑張って字の練習もしたし、好きという気持ちも応援してるという気持ちも嗜めてきた。  このあと、尾張と共演になる。同じ空間に立つことになる。  そう考えるだけで手足が冷たくなって震えるのだ。……やべえ、アガりそうだ。生まれてこんなにビビったことなんてあっただろうか。ヤクザの女に手を出して自宅に爆弾投げ込まれたときよりもビビってんぞ俺。 「やべえ……無理……無理無理無理すぎんだろ普通に……!」 「じゃあ断りますか」 「出るに決まってんだろ!!!」 「……お前はいつも楽しそうで羨ましい限りだな」  いつの間にかに俺と並ぶ遅刻魔の五十嵐も楽屋入りしてた。こいつまじでギリギリだな。俺を見習え、俺を。 「ほら、言ったじゃありませんか。零児がハマっているアイドルの子が今日いるんですよ、この番組に」 「へえ、どれだ?」 「うおおお興味を持つな!やめろ!テメェだけには教えてやらねえ!!」 「チッ、うるせえな、聞いてやってんだよこっちは」  それっきり興味を失ったのか、五十嵐は荷物を投げるようテーブルに置いてそのままソファーに座る。  なんとか五十嵐に尾張のことを知られずに済んだが……クソ、平常心にならないといけねえ。 「お、俺……便所言ってくる」 「ええ?今から〜?もうすぐ時間くるよ〜?」 「そんなに掛かんねえよ!」  というわけで、荒れ狂う心を落ち着かせるために俺は一番近い関係者用のトイレに入り瞑想をした。  今日はあいつと初顔合わせだ、あいつに失望されねえようにしねーと。イメージを崩さない……普段通りの俺で……。 「……うっし!」  パンっと頬を叩き、気合を入れ直す。それから楽屋へと戻る道中で水を買い、俺はそのまま楽屋の扉を開けようとしたときだった。  いきなり、目の前に推しが現れた。こんな、こんな酷いことってあるだろうか神様。  真っ白になる頭の中、ステージで見るよりも目の前の尾張の頭は俺よりも低い位置にあって、上目がちにこちらを見上げる尾張に、口から心臓が飛び出そうになる。  つか、なんで。楽屋間違ってねえよな。なんでfoolの楽屋にいるんだ、まさか、俺が便所でウンウン唸ってる間にあいつらと会ったのか。  なんてかつてないほどの速さで思考が巡る。今までに使ってこなかった脳みその部分を今酷使してるのがわかった。そして、それをフル回転させた結果。 「こんなところで油売ってる暇あんなら部屋で大人しくボイトレでもしとけよ顔だけアイドルさん」  いつもの俺、観衆が想像する俺、それらのイメージを守った結果、俺の口からは滑らかにその言葉が出ていた。  ……っっ俺の、バッッカ!!!!死ね死ねこの馬鹿野郎!!尾張になんつー事言いやがんだ!!尾張も傷ついたような顔してたじゃねえかよ〜〜俺まじ最低じゃねえかよ!!!死ね!!俺しんでくれ!!  楽屋のソファーの上、クッションに顔をうずめた俺は声にならない雄叫びを上げて泣いていた。メイクが崩れようが知ったこっちゃねえ、知らねえもうどうだっていい。 『……ご忠告どうも』  そう、立ち去り際の尾張の顔を思い出してはまた死にたさが込みあげてくる。憂いを帯びた節目がちな顔もかっこいい……じゃねえ!!俺は!!俺のせいで尾張にあんな顔をさせちまった!!  …………絶対嫌われた。 「ぐうう!!俺を殺せ!殺してくれ!!」 「なんだあいつは帰ってくるなり」 「ほら、さっき挨拶にきてくださった尾張さん。彼の大ファンなんですよ、零児。それなのに……多分また悪い癖出たんでしょうね」 「あーー後輩いびり出ちゃったんだ?」 「いびってねえ!あっ……あんなこと言うつもりは……なかったんだよまじで……っ!けど、口が勝手に……」 「ええ、何言ったの?!」 「思い出したくねえ〜〜!!!」  けど、目を閉じればあのときの尾張の顔がこびり付いて離れねえ……。無理だ、もう俺は生きていけない。 「けど、私達のステージ見に来てましたね。……それも零児、ずっとあなたの事ばっか見てたじゃありませんか。……本当に好きなんですね」  ……そう、そうなのだ。  あんな酷いこと言ったのに、それなのに、スタッフたちの後ろの方で尾張がステージを観てたのに気付いた瞬間テンションぶち上がって脳汁溢れてまじで気持ちよかった。  そのお陰で柄にもなく力入ってしまったけど……それが終われば自己嫌悪の嵐だ。  ……けど、尾張の演技力は流石だ。  きっと俺に死ぬほど腹立ってるはずだろうに、あいつはスタジオでは一切そんなことなかったみたいに振る舞って、いつも通りの笑顔と完璧な受け答えをしていた。  ……そんなところも好き……。 「……俺は……俺は……」 「ま、貴方のキャラに合ってていいと思いますよ。どうせ尾張さんもとっくに貴方の悪評のこと聞いてますよ、芸能界の歩く有害事象って」 「もっとましな呼び方をしろッ!!」  くそ!なんなんだあいつらは、慰めてんのか貶してんのかおちょくってんのかどれかにしろ!  ……もういい、そもそも俺はあいつの一ファンだ……あわよくば今回の共演をきっかけに個人的なお付き合いをしたりなんて考えていたがそれこそ夢物語だ。ファンが一線を超えるなんて烏滸がましいことは言わねえ……。  もう俺自身が嫌われてもいい、仕方ねえ。けど、それでもあの言葉は撤回したかった。  ――顔だけアイドルさん。  言ってはいけないことを俺は言ってしまった。あいつが努力家なのも知ってて、普段遅くまで練習してるのも知ってて、こんなこと言うのはファンとして失格だ。  その日は真っ直ぐ帰って、普段使わねえ机と向き合った。そしてせかせかと新曲の感想を送る。確かに、尾張は声はいいが音程に波がある。それでも、素質はあるのでトレーナーもいいやつをつければもっと伸びるはずだ。  現に、最初の頃よりも上手くなってきている。その思いを新曲の感想とともにファンレターにしたためる。  ポストに投函しながら、俺はこれを読んだときの尾張の気持ちを考えた。  俺のことは嫌いでいい。けど、本当に好きなやつもいるのだと知ってほしい。そう思うのは傲慢なのだろうか。  ……寒空の下、俺は尾張のあの顔を思い出しながらトボトボと自室へと戻る。  一生、報われなくてもいい。嫌われたままでもいい、けれど、テレビの向こう、ステージの上、輝く尾張の笑顔を見ることができればそれだけでいい。  そう思っていた、そう覚悟はずだったのに。  事件が起きたのは、最悪の顔合わせから数カ月経った頃だった。  最悪の事態が起きてしまった。  もう一生話すことがないだろうし近付かないようにしようと思っていた尾張と撮影スタジオが被った。  それだけでも俺からしたら複雑だったのに、あろうことかあいつは過労で倒れたのだ。  確かにそのことも最悪だ。けれど、丁度俺がいたお陰ですぐに気がつけ大事には至らずに済んだが、問題はここからだ。 「も、もしかして政岡…………この前、握手会来てくれた?」  墓に持っていこうと思っていたこの秘めた思いを、尾張元本人に気付かれてしまった。  迂闊だった。尾張の前でプライベートの携帯端末を使うなんて思ってなかったから尾張仕様のままの携帯を置きっぱなしにしてしまい、それをこいつに見られてしまったのだ。   それも、尾張は初めて行った握手会のことをがっつり覚えていた。変装していたので気付かれないと思っていたが、どこで気付いたんだこいつは。冷や汗が滝のように流れ、頭の中が真っ白になる。思考停止、まさにそれだ。  動きごと静止する俺に、尾張は慌てて俯いた。そして、気恥ずかしそうに笑う。 「あ……あの、悪い、やっぱ勘違いかもしれねえ……ごめん、男の人でグッズ着けてくれてる人あんまいねえから……嬉しくて。スタッフから余ったの貰ったとかだよな?」  違う。勘違いじゃねえ。  そう言えばいいだけなのに、口が動かない。foolの政岡零児としての俺と、尾張元のファンとしての俺が頭の中で死闘を繰り広げてる。  けれど、 「つか、そっか……そもそも別にこれ政岡のものなんて一言も……」  言ってないよな、と目を伏せたときの尾張があの時と同じ悲しそうな顔をしているのを見て、foolの俺もファンの俺も一気にどっかに飛んでいった。  そして、俺は考えるよりも先に尾張の肩を掴んでいた。引き締まった、程よい硬さの手応えに手汗が滲む。それでも、離すことができなかった。  二つの目が、驚いたように俺を見る。見つめ合ったまま、俺は固まってしまったが、それも一瞬、喉から声を振り絞った。 「ぉ……俺が買った」 「っえ」 「ぁ……あ、アンタは歌はまだまだだったけど……そ、それ以外のトークやパフォーマンスで楽しませようとして積極的にファンサービスしてるところがマジですげえと思ったし、その、最後までずっと笑顔を絶やさなかったのも同じアーティストとして尊敬した」 「お前のライブも、イベントも、全部最高だ」ああ、もうどうにでもなれ。引かれようがどうでもいい。こいつをまた同じように悲しませるくらいならこの思い全部ぶち撒けた方がマシだ。決壊した思いは止めどなく溢れ出す。 「っ、ま、じ……で?政岡……?」  引かれてるだろう。そりゃそうだ、何だこいつはって思われてるはずだ。声が震えるが言葉が止まらない。俺は、尾張の問いかけに頷いた。 「お前が、俺がモデルやってた雑誌にいたときから、ずっと……」  ……お前のことが。  そう、言いかけたときだ。ノックとともに扉が開く。  そして、現れたのは。 「ハジメ、具合は大丈夫か?」 「……ッ!!」  ボサボサの黒髪に瓶底眼鏡のスーツの男に、慌てて俺は尾張から手を離した。尾張の視線が俺から現れた眼鏡に向けられる。 「い、岩片……!」 「悪いな、外混んでて車全然動かねえでさ……あ?foolの政岡さんじゃないすか、まだいたんすね」  こいつが、尾張のマネージャー兼プロデューサーか。  尾張元に敏腕の変人がついているというのは聞いていたが、まさかこの男とは思わなかった。  けれど、なんだこいつ。尾張のことをハジメなんて馴れ馴れしく呼ぶところと言い、テメェのせいでこいつが倒れたっていうのにまるでケロッとしてるやつの顔を見てると沸々と腸が煮え繰り返りそうになった。 「……あんたがこいつのマネージャーか?」 「マネージャーっつーか……」 「ま、そんなもんだ。悪いな、こいつが迷惑かけて。天下のfool様の手間を掛けさせてしまうとはな」 「おい、岩片……そんな言い方ないだろ、政岡は……」 「お前、こいつの面倒見てんならきちっとしろよ。……無茶苦茶なスケジュール組んでるせいでこいつの心身ボロボロだぞ。給料もらってんならきっちりやれよ」 「お、おい……!」 「……へえ、そうか。ご忠告ありがとうな。こっから先はこっちの問題だ。……お言葉通りこいつにはきっちり話聞かせてもらっとくよ」  ……なんだ、こいつは。  俺が言ってんだぞ、普通ならヘコヘコ謝るのが筋だろうが。なのにこいつは、ふてぶてしく笑っては俺を部外者のように扱う。  いや実際部外者だ、それにやつは俺に対していい感情を持ってないこともわかった。けれど、こんなやつが尾張のそばにいると思うと不安で仕方なかった。 「政岡……悪いな、けど本当にありがとう。……また今度お礼をさせてくれ」  ……グッ!!お、お礼だと……?!  イライラしてたところに不意打ちで心臓どうにかなりそうだったが、なんとかポーカーフェイスで切り抜くことができた。 「……そんな事気にせず今日はゆっくり休んどけ」  ニヤけるな、ニヤけたら隣の瓶底眼鏡野郎にまたなんか言われそうだ。  バクバクと高鳴る心臓と岩片とかいう男へのヘイトでどうにかなりそうになりながら、なんとか俺は楽屋を後にすることができる。  そうか、今度があるのか。  もう尾張とは明日も希望もないと思っていたのに、一気に世界が光り輝き始めたようだった。扉を閉め、立ち去ろうとしたとき。 『おい、岩片』  尾張たちの残った楽屋から、尾張の声が聞こえてきて、不意に足を止める。 『あんな言い方よくないだろ。あいつはただ俺を助けてくれて……』 『お前はそういう純粋なところがあるから心配なんだよ。……あいつがどういう男か知ってるだろ』 『そ、れは……』  盗み聞きなんて、するつもりはなかった。しかし自分の話題、それも、尾張が俺のことを庇ってくれているのだと知っただけで胸が熱くなる。けれど。 『あいつに関わるな。……この世界で天辺取りてえなら俺の言うことを聞いておけ』  聞こえてきた岩片の言葉に、ああ、と息を飲む。  あれだけ全身を沸かしていた熱も一気に冷えていくように冷静になる。そして次に込み上げてきたのは岩片の野郎への怒りだった。  あんなやつが尾張の側にいる。その事実だけでも、俺を冷静にするには十分だった。  あの野郎……ぜってえ潰してやる。  尾張から引き離してやる。そう、殺意に近いこの気持ちを堪え、俺はその場を後にした。 【next to continue...?】 「私、あれ程言いましたよねえ?尾張元のファンだということを漏らさないようにと……この記事、どうするつもりですか?」  ――fool解散の危機?! 「尾張元か。……お前にしてはなかなかいい趣味してんな」  ――恋敵?! 「お前とうちのハジメが近いと思われちゃイメージダウンに繋がるからなぁ。悪いが、オタクの敏腕マネージャーさんと組ませてもらったよ。恨むなら事務所を恨め?」  ――ロミジュリ?! 「……なあ、政岡。今度会うときは誰にも見られないような場所で会おうぜ。……俺の部屋は岩片がチェックするから、そうだ。なあ、政岡の家は……だめか?」  ――推しとの一線を超える?!  ――人気アイドルユニット《fool》のリーダー政岡零児は味方に敵に反対されながらも無事尾張元のファンとして第一線で戦い続けれるのか?  ※続きません

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