天国地獄人狼『豪華客船七日間の旅』第四話
Added 2019-04-04 15:09:56 +0000 UTC「どういうことですか、これ」 部屋を出て、阿賀松の元へ向かおうとしたとき。 デッキ5、レストランへ繋がる通路で聞き覚えのある声が聞こえてきた。何事だと物陰に隠れれば、どうやら志摩と阿賀松がなにやら揉めているようだ。 「参加取り消せないっておかしいでしょ」 「なんにせよ、そのタブレット調べたってことは参加するつもりたったんだろ。そりゃ触った時点で参加になるに決まってんだろ」 「無茶苦茶だろ……とにかく、こんな面倒な遊び俺は参加するつもりありませんから」 そう手にしたタブレットを突き返そうとする志摩だが、阿賀松はそれを受け取ろうとするどころか無視して物陰から覗いていたこちらに目を向ける。 そして、口元には厭な笑み。まさか、気付いたのかこの距離で。 「お前は参加す観念る。……せざるを得ない。そうだろ?ユウキ君」 名前を呼ばれ、全身が硬直する。 「齋藤?」と驚いた顔をした志摩がこちらを見た。……これ以上隠れることはできないだろう。 観念してその場から俺は姿を表すことにした。 「……すみません、盗み聞きするつもりじゃ……」 「んなこといいんだよ。んで、お前も俺に用事かァ?まさかコイツと同じこと言わねえだろうな」 「ち、がいます……その、けど聞きたいことがあって……」 「なんだ?」 志摩の目が突き刺さる。 志摩がいると正直阿賀松と話しにくくて仕方ないが、だからといって二人きりになりたいなんて言ってみろ。志摩が怒るのは目に見えている。 「す……すみません、なんでもないです……」 「なんでもないって、なにそれ。俺がいるから?俺が邪魔だから言えないの?」 「ああ、そうだろうよ。こんなにピーピーうるせえのがいたらおちおち話しちゃいられねえしな」 なぁ?とこちらに話を振ってくる阿賀松に、志摩の周囲の空気が一気に淀むのを感じた。 ああ、まずい、不機嫌まっしぐらだ。 このまま否定しないわけにもいかず、慌てて俺は阿賀松に首を横に振る。 「あの、俺が聞きたかったのは本当、ゲームのことで……志摩と同じだったので……」 「やっぱり参加を取り消したいですぅって?」 こくりと頷けば、阿賀松は喉を鳴らして笑った。 そして。 「嘘だな」 「……っ!」 「お前には参加取り消す理由がねえだろ。……ここで参加しなかったとして状況は何も変わんねえ。それなら全員負かして俺に命令してみろよ」 「その方が燃えんだろうがよ、お前の場合は」伸びてきた手に横髪を掬い上げられる。目を真正面から覗き込まれ、胸の奥から何かが這い上がるような厭な感覚に思わず目を逸した時。 「齋藤に触らないで」 志摩に腕を掴まれ、強引に阿賀松から引き離される。 食い込む指。阿賀松は怒るどころかおかしそうに喉を鳴らして笑った。 「何言ってんだ、お前が大切にしてるそれはとっくに俺の指紋でベタベタだっての」 「……っ」 「じゃあ、また明日の夜な」 「っ、おい、まだ話は終わって……」 ないだろ、と志摩が続けるが阿賀松はそれを無視し、ひらひらと手を振りながらその場を後にする。「おい、待てよ」とそれを追い掛ける志摩。 残された俺は、志摩に掴まれた感触の残る腕を擦った。 ◆ ◆ ◆ ――翌朝。 フカフカのベッドのお陰で初日はぐっすりと眠ることができた。けれどやはり旅とは言えど習慣はなくならない、登校時間が近付くと体は勝手に目を覚ますようになってるようだ。 伸びをしながらベッドを降りる。 阿賀松が俺の荷物を手配してくれるというのは本気だったようだ。タブレットの他に、クローゼットを覗けば俺のサイズにぴったしの服がぎっしりと詰まってた。 どれも派手だがいいものばかりだ、絶対に阿賀松の趣味だろう。比較的シンプルな服に着替え、準備をする。 今夜、ゲームが始まる。そう思うとのんびり部屋で過ごす気になれなかった。 寝癖を直し、部屋を出る。 丁度学園最寄りの港に戻ってきているようだ。着陸した船から、ぞろぞろと数人の生徒が降りていくのを俺は甲板から眺めていた。 そんな中、タラップを使って船に乗り込む影を見つけた。キャリーバッグ一個だけを手にしたそいつを見た瞬間、心臓が停まりそうになる。 ――壱畝遥香。 なんであいつが。 「っ……」 咄嗟にその場から離れ、船内へと身を隠す。 まさか、そんなわけがない。 思いながら恐る恐るもう一度タラップの方を見るが、見失ったようだ。壱畝らしき姿はなかった。 まさかな……。そう思いたいが、見間違いだとも考えられない。 俺は、客室から逃げるように他のデッキへと移動した。 ◆ ◆ ◆ デッキ4、レストラン。 昨日まで賑わっていたそこも大分客が降りたお陰で空いている。 人の目が苦手な俺にとっては有り難いことこの上ないが、この広い船だからこそ少し寂しさを覚えるのかもしれない。 サラダにスープ、焼き立てのパンを注文し、テーブルで先に届いた飲み物を飲んでいるときだ。 「おっはよー佑樹!」 「お……おはよう、十勝君」 「良かった〜全員帰ってたらどうしようかと思った、あ、ここ座っていい?」 いいよ、と答えるよりも先に十勝は椅子に腰を下ろす。 そして、慣れた手付きで適当に注文する十勝は俺の方へと向き直り、そして声を潜めた。 「なあ、やっぱり佑樹も見た?あのタブレット」 「……う、うん。“も”ってことは……十勝君も?」 「そーそー!気になっちゃってさ。あいつの考えることは理解したくねえけど楽しそうじゃん、ゲーム」 「でも、あれって……見たら参加扱いになるんじゃ……」 「そうそう、らしいな。俺それ知らなかったからさ、ま、俺はよかったんだけどそれで今朝から会長たちが……なぁ?」 そう苦笑する十勝に俺はすべてを察する。 なるほど、志摩と同じパターンか。 まあ、でも閲覧したら参加扱いにするという狡猾さとそれを黙っていた強引さは阿賀松らしい。 でなければ、芳川会長たちは参加しないだろうし。 「そうなんだ……志摩もだよ、志摩も……昨日阿賀松先輩のところに言ってたみたいで……」 「あーやっぱりそうか。あいつノリ悪いもんなぁ〜。本当俺思うんだけどそう難しく考えなくてもさー、普通に船乗りながらパーティーゲームするって思えばぜってー楽しいのに。損だよなぁ、皆」 「十勝君は……阿賀松先輩のこと嫌いじゃないの?」 「確かにいけ好かないけど、この船のことは理事長も知ってるんだぜ?それに阿賀松の息がかかってるとはいえ クルーもいる、何かあればすぐ問題沙汰になるし……あの男が人権剥離云々言ったのはちょっとした悪い癖だろ。盛り上げようとしてんだと思うよ、俺は」 「……そうだよね」 十勝の言葉を聞いて、ほっとする。 楽観的なのかもしれないが、俺も十勝と同意見だった。 それに阿賀松ならばこんなまどろっこしい真似せずとも蹴落とす相手は直接蹴落とすはずだ。 本当に、ただの気まぐれ。 「それに、こんなうめえ飯一週間も食い放題とか最高じゃね?クルーのお姉さんもまじ美人ばっかだし!」 「ガードは流石に固ぇけどな」と、料理を運んできたウエイトレスの女の人に微笑みかける十勝。 ウエイトレスはにっこりと笑い返し、そして何事もなかったようにその場を離れる。 十勝はこの旅に不満はないらしい、相変わらずの十勝につい俺は笑ってしまう。 「そういえば、十勝君……壱畝……」 「ん?……んぉ?!これソースクッソうめぇ!」 「や、なんでもない……」 ……壱畝の事を聞こうと思ったが、十勝は何も知らなさそうだな。そうもりもりとハンバーガーを食す十勝を眺めながら俺も自分の料理に口を付ける。 ◆ ◆ ◆ ――二日目、午前11時。 デッキ5、ラウンジ。俺は、志摩に呼び出されて昨日出来なかった買い物の続きをすることになっていた。けれど。 「本当最悪。あいつ、全然聞く耳持たないし」 「でもまぁ、ちょっとしたお遊びだと思えば……」 「あの男が子供のお遊びみたいな真似すると思う?あれ絶対本気だよ、そんで後になって『忠告はしたはずだ、合意の上だよなぁ?』とか言い出すんだよ。本当最悪」 先程から志摩はこの調子だ。余程頭に来てるようだ、ドリンクサーバーから貰ってきた炭酸飲料を流し込む志摩の目は据わってる。 見事に十勝と正反対の意見だ。慎重と言うか、疑り深い志摩らしい考えだが……そう言われるとそんな気もしてくる。 なんて思ってると。 「齋藤、もしかしてちょっと楽しそうだなとか思ってないよね」 じろりとこちらを見る志摩の目に、つい俺はぎくりとした。 その反応で志摩は察したらしい。 「はぁ……危機感がないとは思ってたけどここまで脳天気だと逆に安心するよ」 「だ、だって……勝ったらお願い聞いてもらえるんだよ?」 「……そうだけど、そもそも齋藤は人狼ゲームって知ってるの?」 「ぅ……い、一応ルールは読んだけど……」 「ならわかるでしょ?齋藤が勝てるとは思えない。もし勝てたとしても運がよっぽど良いか……」 「う、そ、そうだよね……」 もし勝ったら阿賀松に何をお願いしよう、なんて考えていたが……志摩の言う通りかもしれない。 そもそも、今のやり取りだけで志摩には俺の思考も全部見抜かれてしまってるのも事実だ。……というよりも、志摩は特別疑り深いだけかもしれないけども、それでもこれしきのことを上手く誤魔化せないとなると先が思いやられる。 そう落ち込んでたら、空になった紙コップを折り紙かなにかのように折畳んだ志摩は笑いかけてきた。 「ねえ、齋藤。……協力しない?俺たち」 「え?」 「陣営確認したんでしょ、どっちだった?」 「……そ、れは」 そんなことを聞かれるとは思ってなくて、というか言っていいのか。そう狼狽える俺に、志摩は笑った。 「……齋藤、やっぱわかりやすすぎて駄目だね。そこは村人って即答しないと」 「本当、嘘つけないんだから」そう楽しそうに笑う志摩に、汗がどっと溢れ出す。 「っ、志摩……っあの……」 「大丈夫、誰にも言わないよ。……それに、人狼って仲間がわかるんでしょ?」 「え、そ、そうなの……?」 素直に驚いて聞き返したあと、俺は慌てて口を抑えた。 これでは『はい自分は人狼です』と認めたようなものだ。 青褪める俺に、志摩は「いいから、そういうの」とおかしそうに目を細める。 「……なら、そっちの仲間を教えてくれたらうまい具合に村人減らしてできるだけ長く俺たちが生き残れるようにしたらいいんだよ」 「志摩、こんなズルみたいなこと……」 「齋藤は分かってないね。なんのために阿賀松が毎晩19時に指定してると思う?素直なゲームだけしたいなら今すぐにでも集めて今日中に勝敗を決めればいいんだ」 「つまり、これもゲームの内なんだよ。あいつにとってはね」そう、耳打ちする志摩の言葉に思わずハッとする。 「まあ、こっちもこっちで色々調べてみるよ。齋藤は自分の仲間を確認してみるといいよ。……また、後で情報交換しようね」 そして、志摩は俺の肩に軽く触れ、そして歩きだした。 まるで目的を見つけたように、先程よりかは活き活きしてるその志摩の後ろ姿を呆然と見つめたまま俺は動けないでいた。 ……ど、どうしよう……。 いくら相手が志摩だとはいえ、俺はとんでもないミスをしでかしたのではないか。 ◆ ◆ ◆ ――午後2時、三等客室《自室》。 日用品など必要になるものだけを現金で買い付けたあと、俺は軽く昼食を摂っては部屋に戻ってきていた。 自室の鍵を施錠し、タブレットを確認する。 どうやら日毎に新しい情報が入ってくるとステータスバーに通知が入るようになってるようだ。 そこをタップすると、画面には各陣営と役職の人数、そしてその簡易的な説明、参加メンバーの名前が表示されてる。 阿佐美に志摩、生徒会に、親衛隊の三人。 それから安久に仁科、八木と縁と……裕斗と志木村の名前もあることに気付いた。 そして最後。 「……壱畝遥香」 やっぱり、見間違いじゃなかったんだ。 本当ならば棄権したいところだが、逆に考える。 俺が人狼ならば、壱畝を早々に殺して人権剥奪させることだって可能なわけだ。 自分の厭な感情が込み上げてくるのを必死に蓋しながら、俺は新しく追加された役職欄に目を向ける。 その前に。 志摩は人狼は人狼の仲間がわかると言ってたが、どこから確認することができるのだろうか。 そう一度TOPページに戻れば、そこに人狼二名の名前が表示されていた。 阿佐美詩織、十勝直秀。 「……っ!」 嘘だろ……。 予想外だったが、正直、心強いというのが本音だ。 だってそうだ、もし八木や志木村、栫井などが仲間だったと考えるときよりもまだ意思の疎通もできるし俺に友好的な二人だ。ホッとする。 そして、一旦ひと呼吸置いて俺は役職一覧を開いた。 陣営は大きく分けて三つ。 一つは一番人数が多い村人陣営。 村人陣営の勝利条件は人狼の全滅だ。 逆に、村人陣営の数が人狼陣営と同等、それ以下になったら敗北となる。 特に能力を持たない村人4人の他に特殊な役職持ちが8人存在するらしい。 占い師……一晩に一人『人』か『人狼』かを占うことができる。 埋毒者……襲撃された場合、人狼を道連れにする。噛まれる以外で死亡した場合は陣営問わずランダムで一人道連れにする。 狼憑き……占いされた場合狼と判定されてしまう。村人陣営。 共有者……村人陣営に二人存在し、お互いが村人だと確認することができる。 騎士……一晩で一人人狼の襲撃から守ることができる。自分自身は守ることができない。 霊能者……死亡した人を『人』か『人狼』か調べることができる。 ハンター……死亡時に指名した一人道連れにすることざできる。 そして二つ目は人狼陣営。 勝利条件は他陣営が自分たちと同等、それ以下の人数になったとき。敗北条件は人狼が全滅した場合。 人狼……一晩に一人襲撃することができる。 そして人狼陣営は人狼三人の他にもう一人。 狂信者……占い判定は人、人狼が誰か分かるが人狼からは特定は不可という。 味方扱いになるらしいが、どういう役回りになるのか俺にはよくわからない。 そして第三勢力である狐陣営。ここは村人や人狼と比べて人数も少なく、その勝利条件も特殊のようだ。 狐……ゲーム終了時に生き残ることができれば勝利。その場合、勝利した他陣営は敗北扱いになる。占われたら死亡する。 背徳者……狐が誰か判別できる。狐が死亡時後追いで自殺する。狐から背徳者を特定することは不可能。 ……一度にいろいろな情報が入ってきて頭が混乱しそうだ。人数まで暗記するのは難しそうだが、重要そうな役職だけは頭に入れておこう。 そう、タブレットとにらめっこしていたときだ。 部屋の扉を数回ノックされる。俺は慌ててタブレットを隠した。 そして、恐る恐る扉を開ければ、そこには。 「……ゆうき君、ごめん、今大丈夫……?」 「し、詩織……!」 相変わらずのスウェット姿だが、寝起きというわけではなさそうだ。 大丈夫だよ、と頷けば、阿佐美はほっとしたように胸をなでおろす。そして。 「あの……タブレット、確認した?」 その言葉で、阿佐美が何しに来たかすぐに理解した。 慌てて頷けば、阿佐美も頷き返す。 「うん……まあそういうこと。そのことで一応、話しておこうかと思ってね」 「よかった……俺も、会いに行こうかと思ってたんだ。……あ、あの……入って」 「……お邪魔します」 同室のときが長かったからか、こうして阿佐美を招き入れるのはなんだか変な感じだ。 というわけで扉を閉め、俺と阿佐美はソファーに並んで座る。 「あの詩織は、この……人狼……?……ってしたことあるの?」 「あっちゃんに付き合って昔何度かね。……けど、今回はあっちゃんはゲームマスターだから参加しないみたいだけど」 「……そうなんだ」 ゲームマスターってなんだ……と思いつつ、阿賀松が不参加なのはわかった。やっぱり、本当に参加しないらしい。……あの男がいると口で勝てる気がしないのでそれはそれでラッキーなのかもしれないが。 「先に言っておくけど、これは普通の人狼とは違うよ。だから……俺もあんまり自信はない」 「多分メタ要素……えーと、その、卓上の役職やルール以外のところも関わってくるから……予測できないんだ。例えば、裏で誰と誰が協力してるとか同じ陣営でも私怨で陥れようとしてくるやつも出るってことかな」しどろもどろ、それでも俺にわかるように教えてくれる阿佐美に俺は内心ぎくりとした。 ……私怨。逆に、私怨で相手を殺せばそこから疑われて処刑される可能性もあるということか。 「幸い十勝君だったからまだ『マシ』だけど……問題はこの人狼陣営にいるもう一人の人間……狂信者が誰かなんだよね」 村人でありながらも人狼の味方になるポジション。 村人判定を利用して場を撹乱させるという役目らしいが、阿佐美の言う通り人狼ということを一方的に知られてるという存在はなかなか不気味だ。 ……と、そこまで考えて志摩のことを思い出す。 「狂信者って、ここに書いてあったけど人狼が誰かわかるって……本当?」 「そうだね。このゲームの情報は全てそれぞれのタブレットに割り振られてるようだし……おそらくその狂信者のタブレットに俺たちの情報が載ってるはずだよ。ゆうき君のタブレットに、俺が人狼だって書かれてたようにね」 その言葉を聞いて、一抹の可能性がよぎる。 もし、志摩が狂信者だったら俺が人狼だとわかっててもおかしくない。知らされているのだから当たり前だ。 それを知った上でああやって俺にカマを掛けたとしたら? 色々な可能性が浮上し、俺は、意を決して阿佐美に件のことを伝える。 「あ、あの……詩織、実は……」 昼前の志摩のことを話す。 俺に協力しようと持ちかけてきたこと、人狼だと気付かれていたこと。あのときの俺の反応が下手すぎてバレたというのもあるかもしれないが、どちらにせよ味方である阿佐美に黙っておくわけにはいかない。 俺の話を静かに聞いていた阿佐美は、難しい顔をする。 「……そんなことがあったんだ」 「ご、ごめん……」 「いや、謝る必要はないよ。……志摩らしい姑息な手だと思う、慣れてないゆうき君をゲーム前に揺するなんて」 「それに、ゆうき君は『そう』だとは断言してないんだよね。……志摩が狂信者かどうかはさておき、万が一のときはそのことを逆手に取ることもできるはずだよ」阿佐美の言葉に、ハッとする。もし俺が人狼だと志摩がバラしたとしても、逆に志摩がわざと俺を人狼に仕立て上げようとしてる人狼だと吊るすこともできるということか。 「まあ、志摩のことはさておき。……話変わるけど、一応、念の為だけど……俺と十勝君はゆうき君みたいに接点があるわけじゃない。三人で一緒に行動してると怪しまれる可能性もある。それで、ゆうき君にお願いがあるんだけど……」 「俺に?」 「これ、俺の連絡先……十勝君に渡してくれないかな……?」 「本当は、ゆうき君を通して話すのも考えたけど流石にゆうき君に悪いからね」あまりにも畏まるから何事かと思ったが、そうメモ切れを渡してくる阿佐美にほっとする。 それくらいならお安い御用だ。 「うん、わかった……!」 「……ごめんね、面倒なことお願いしちゃって」 「それじゃあ、俺は一度部屋に戻るよ。……あまり長居するのも悪いし」やはり、阿佐美も慎重と言うか徹底してるというか……。そういうところは俺と違ってすごいと思うのだが、帰ろうとする阿佐美の背中を見てるとつい、俺は阿佐美を引き止めていた。 「っ、ぁ……」 「……ゆうき君?」 「あの、やっぱり、一緒にいるのって……変かな……?」 「ゲームのこと、もう少し……教えてもらいたくて」一人でいると不安になる、なんて言ったら阿佐美は呆れるかもしれない。 勝ちたい、そして多分このゲームの人狼は一人だけで勝つことは難しい。 「ゆ……ゆうき君さえよかったら、付き合うよ。うん、俺も……力になれることは協力したいし」 阿佐美は優しい。俺のわがままにも嫌な顔一つせず付き合ってくれるのだ。 それから俺達はお腹減ったという阿佐美のためにデリバリーでおやつを頼み、それを食べながら人狼ゲームについて阿佐美から聞くことになる。 とにかく初日は派手な真似はせず静観。 疑われたら下手に役職を名乗らず村人に徹する。そうやって周りの動きを見る。 「取り敢えず、先に村人陣営を疑心暗鬼にさせて同士討ちで人数を削ったあと動くのが一番ベターだよ」 「わかった。……そうする」 「まあ、あくまでゲームだからね。……そんなに気負いせず気楽にいっていいと思うよ」 そして時間を確認し、阿佐美は「じゃあ、そろそろ俺戻るよ」とソファーから立ち上がる 「それじゃあ、また後で」 「うん、じゃあね」 なんて、軽く挨拶を交わし、俺は阿佐美を見送った。 時計を確認すればもうすぐ19時だ。 ……とはいえ1時間はある。どうしよう、早めに会場に向かうか。 部屋で大人しくしてるのもあれなので、早めに俺はデッキ5へと移動することにする。 ◆ ◆ ◆ ――デッキ5、レストラン前。 やることもないので早めにレストランに来たが、案の定中へ入れないようになってるようだ。 こうなったらどこかで時間潰すか、とレストラン前から移動しようとしたときだ。 広い通路を挟んで向かい側、カジノへと繋がる豪奢な扉が開く。 そして。 「いやー本当和真がいてくれて助かった!これで一週間毎日マッサージのお姉さんに会えるな!」 「それは良かったです」 「あ!見ろよ和真、この船オリジナルTシャツだってよ!あれ和真に似合うんじゃね?」 「悪くないですね」 「え、まじ?」 なんて、聞こえてくる聞き覚えのある会話に目を向ければそこには丁度カジノから出てくる灘と十勝がいた。 「十勝君、灘君……!」 そう、つい呼び止めれば二人はこちらを振り返る。 そして。 「お!佑樹!今朝ぶりじゃん!」 そうぱっと笑顔を浮かべた十勝はパタパタと駆け寄ってくる。 なんというタイミングだろうか、相変わらずな十勝に、十勝は人狼ってわかってるのだろうかと気になった。 あまりにも変わりなさすぎるのだ。 「いやー聞いてくれよ。さっきまで和真とカジノで遊んでたんだけどさ、和真のやつすげえ強えの!見ろよこれ、ボロ勝ち!」 言いながらカードと明細を取り出す十勝。 どうやらそこにポイントが加算されてカードを紙幣代わりに船で使用できるという仕組みらしい。 「阿賀松伊織の言っていた人権剥奪のこともありますし、稼げるときに稼いでおいた方が万が一のときに有利だと話していたんです」 「あ……なるほど。ポイントがあれば、ある程度は贅沢もできるってことか……」 「救済処置のつもりかしんねーけど、やっぱあるに越したことねーじゃん?ま、俺はカジノの空気味わいたかっただけだけどな!」 何も考えてないわけではないのか……と安堵したのも束の間。 まあ、十勝らしいといえば十勝らしいが。 「なー今度は佑樹も一緒に行こうぜ!」 「う、うん……楽しそうだね」 志摩に止められてるが、十勝たちが入れるということはそんなに危険な場所でもないのだろう。一度は言ってみたいが……それよりもだ。 十勝に阿佐美の連絡先を伝えたいが、俺は十勝の隣にいる灘に目を向ける。 やっぱり、一応灘も参加者なんだし灘がいないときの方がいいよな……。なんて思ったときだ。電話がかかってきたらしい、携帯端末を取り出した灘はそれに出る。 「はい。畏まりました」 短い通話だった。端末を仕舞った灘は「すみません、自分はこれで」と短く告げる。 「なんだ〜?会長からまた呼び出しか?」 「そんなところです」 「おー、じゃあな〜!また遊ぼうぜ〜!」 灘はぺこりと会釈だけし、その場を立ち去った。それに向かってブンブンと大きく手を振っていた十勝だったが、灘の背中が見えなくなるとようやく腕を降ろした。 そして、こちらへと向き直る。 「んで?俺に用あったんだろ?」 「当てようか。ゲームのことだろ」そう、十勝はニッと笑う。いたずらっ子のような屈託のない笑顔だ。 こくりと頷き返せば、「やった」と十勝は無邪気に笑った。 「まあここじゃなんだし、座ろうぜ」 そういう十勝に促され、俺達は一番近いラウンジへと移動した。幸い人影もない。 ソファーに腰を下ろす。 人通りがないとわかっていても、いつどこで誰が来るかはわからない。自室で話すのとは訳が違う、会話には気をつけなければ。 辺りを気にしながら、俺は一枚のメモ用紙を取り出した。 それを十勝に渡せば、十勝は「なにこれ」と言いながら背筋を伸ばした。 「あの、これ。……詩織が十勝君にって。表立って話すと変に怪しまれるかもしれないからこっちで連絡しようって言ってた」 「へえ〜……、流石特待生は慎重だな。でもまあ、確かにな。あ、そうだ。佑樹も連絡交換しようぜ。なんならグループ作っとくし」 「あ、う、うん……」 手慣れてる十勝に後は任せることにした。 それで、阿佐美の連絡先もグループに追加したのを確認して俺は端末を仕舞う。 そして、ちらりと十勝を見た。 「ん?どした?」とこちらを見る目はいつもと変わらない。 「あの、十勝君は……緊張しないの?」 「緊張?ないない。朝も言っただろ、どうせなら楽しもうぜって。……お、佑樹のアイコンかわいい」 「あ、ありがと……」 「ま、だからって負ける気はねーし一緒に頑張ろうな」 「う、うん……っ」 十勝のこういうところ、見習いたいな。 ニッと笑う十勝は携帯に目を向け、そして、「お」と目を開く。 「詩織からも連絡来た。……なんだこれ、猫?チンチラ?」 「猫だと思うよ、詩織、猫好きだし……」 なんて話てると、不意に一つの影が近付いてくる。 「おお、お前らこんなところにいたのか」 聞こえてきたその声にビクッと飛び上がりそうになる。 恐る恐る振り返ればそこには五味がいた。見慣れない私服姿なせいか、ぱっと見怖い人かと思った。 「ご、五味先輩……どうも」 「おいおい何畏まってんだ?……そういや、今日は初めて会ったんだっけな」 どうも、と五味は向かい側のソファーに腰を下ろす。 そんな五味の通り過ぎたあとを目で追う十勝はそのまま五味に目を向ける。 「五味さんもしかしてジム行ってたんすか?」 そんなことを言い出す十勝に、五味は少しだけ目を細めた。 「な、なんでわかった?……臭うか?」 「汗クセーっつーか逆にシャワー浴びたあとって感じじゃないっすか、分かりますよそれくらい。めっちゃいい匂いしますし」 「げ、まじか。……駄目だな、やっぱこういうイイトコのシャンプー俺にはいい匂いしすぎんだよな」 言いながら自分の匂いを嗅ぐ五味。 全然気づかなかった。 ……それにしてもよく気づいたな。いつも五味といるから余計わかるのだろうか。それとも鼻がいいのか? もしかしたらその両方なのかもしれない。 「それよりも、お前ら張り切り過ぎじゃないか?19時までまだ早いだろ」 「俺はカジノ帰りで、佑樹はー……」 「……緊張しちゃって、少し空気吸おうかと……」 「それで、気付いたら早くに着いてたってことか。……ま、俺も似たようなもんだけどな。部屋にいても落ち着かねえし」 それには同意だ。 時間が近づくに連れ一分一分が長く感じてしまう。 と、そんな他愛のない会話をしていたときだ。カツリと靴の音が響いた。 そして。 「おお?揃ってんな。45分前集合なんて優秀どころじゃねえな、早漏か?」 赤い髪を降ろした阿賀松がそこにいた。 バカンスモードからドレスコードにチェンジした阿賀松はいろんな意味で様になってるが、問題はそこではない。 阿賀松の後ろ、見覚えのあるそいつがいた。 「っ、はる、ちゃん」 名前を呼ぶと、こちらに目を向けた壱畝はニコリと笑う。 人懐っこそうな笑顔を貼りつけ、どす黒い本性を隠そうとしているが滲み出るそれは隠しきれていない。 「まあいい。今から開けるから入れよ。んなところにいても暇だろ。言っても、中でも時間になるまで別にやることねえけどな」 「っ、どうして……」 「ああ、こいつか?……暇そうだったから準備手伝わせていた。なあ、壱畝君」 「あ、ハルちゃんって呼んだ方がいいのか?」なんて揶揄するように尋ねる阿賀松に、壱畝は薄ら笑いを浮かべたまま「それは先輩の好きなようにどうぞ」と答える。 そして、そのまま真っ直ぐに俺を見て、近付いてくる。 条件反射で、俺は思わず後退る。が、壱畝は気にしない。それどころか。 「ゆう君、ようやく会えた。……部屋もわからないからウロウロしてたところを先輩に見つかってね、けど良かった。ゆう君もまだ残ってたんだね」 「大人しく帰ればよかったのに」周りには聞こえない声量で囁いてくる壱畝に、血の気が引く。 咄嗟に飛び退く俺に、壱畝はクスクスと笑った。それを見て、阿賀松は面倒臭そうに肩を竦める。 「おいハルちゃん、ユウキ君に近付くなよ。お前は俺の準備を手伝う約束だろ」 「……はい、そうでしたね。それじゃ、ゆう君。また後でね」 トン、と肩を叩き、壱畝はそのまま阿賀松の後を追ってレストランの中へと入っていった。 俺は、壱畝に触れられたそこに鉛がのしかかるような重苦しさに押し潰されそうになりながら、その手の感触を払う。 いきなり現れ、いきなり去っていくまさに嵐のような阿賀松に俺達は暫く呆気取られていた。 「つか壱畝遥香……あいつも参加すんのか?」 「みたいっすね。それにしても大変そうだよなぁ、俺あいつの手伝いとか絶対やだわ。 ……佑樹?」 「っ、え?」 「大丈夫か?顔色すげーけど……」 「うん、ごめん……大丈夫」 な、わけなんかない。 バクバクと破裂寸前の心臓を抑える。 あいつが参加してることはわかってたし嫌でも顔合わせることになるのも覚悟していた。 けれど、ここにきて緊張感は別の形となって侵食する。 あいつをなんとしてでも殺し、リタイアさせ、そして人権剥奪してやる。 あの透かした笑顔、自分は死なないという自信があるとしか思えない。それが不愉快で気持ち悪くてただ吐き気がした。 私怨は良くないと阿佐美は言っていたが、あくまでバレなければいいのだ。そういうゲームなのだと、これは。 ――約束の19時になる。 疎らに集まる参加者たちに混ざって俺は人知れず決意した。 《二日目 探索パート完》