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俺が神官少女で、神官少女が触手で(1)

「トゥクファさんの姿をしたあなたが実はジクーブさん、その触手が実はトゥクファさん、ですか」  エルフの職員は俺たちを見て、真偽を測るように目を細める。 「信じてもらえないと思うけど……」  俺は視線を落とす。着替えにと渡された質素なワンピースを内側から持ち上げる膨らみ、華奢な腕と手、何もない股間、長い金髪。体格と腕力に恵まれた戦士で男だった迷宮探索者ジクーブの姿はどこにもない。  そして俺の小さな両手の中で縮こまっているピンク色の触手生物。これがトゥクファの成れの果てだと思える者もいないだろう。『トゥクファ』の身体はこうして俺が動かしているのだし。 「いえ、魔法で探査しましたが、あなたが嘘をついていたり幻覚に惑わされたりしている様子はありません。それに、似たような事例は過去の資料に存在しています」 「え……」 「なので、もっと詳しく説明してください。三日前の第一層小規模崩落の後、あなたたち二人がどんな経緯で第五層で救助されるに至ったのか。ジクーブさんの身体はどうなったのか」 「あ、ああ」 *****  俺とトゥクファの所属するパーティは、あの日は休日だった。前日までの第六層探索で、それなりに収穫があったからだ。  でも新入りで、パーティ前衛の中で一番未熟な俺としてはみんなと同じように休む気にはなれなかった。  なので、第一層をうろついて魔物を倒したいと言ったのだ。一人で行動すると、六人パーティの時よりも経験は単純に六倍積める。第一層の魔物ではもう大した経験にならないが、六倍となればそれをある程度補えた。  リーダーには休むのも仕事のうちとたしなめられたが、第一層を回る程度ならと認めてもらえた。 「なら、わたしも行きます」  澄ました顔でトゥクファが言い出し、彼女が苦手な俺は顔をしかめた。 「ジクーブさん、迷宮を舐め過ぎでは?」  二人で第一層を歩いていると、トゥクファが後ろから静かに言った。  トゥクファはいつもこうだ。同い年だが俺より早くパーティに加入した神官で、すでに戦力として欠かせない存在になっている。 「舐めてなんかいない。自分がパーティの中でまだ足手まといだってわかってるから、こうして自主的に鍛えてるんだ」  迷宮は、この世界ですごく重要な存在だ。  迷宮の奥には俺たちの技術では作ることのできないような宝物がごろごろと転がっている。超古代文明の産物とか、異世界から流れ着いた品物とか、色々な推測はなされているが確かなことは誰にもわからない。  だがそれらが簡単に手に入るわけもなく、迷宮は魔物が常に蠢いている。ただ、その魔物もまた重要だ。倒せば俺たちの日々の生活を支えるエネルギー源である魔石を産出するし、一部の魔物の肉は食い物としてもうまい。また、魔物との戦闘経験は人類を効率よく成長させ、ずぶの素人だろうと迷宮内で一年も戦えば、迷宮経験のない二十年の熟練兵ぐらいには強くなれるという。  俺もすでに迷宮で戦って一ヶ月。成人になったばかりの世間的にはガキみたいな若さではあるが、いっぱしの戦士として身のこなしも体の切れも的確な剣技も身についてきた自覚がある。  けれど中堅パーティの中にあってはまだまだひよっこ同然だ。なので、一人で迷宮で鍛えようとしたというのに……。 「迷宮を一人でうろついて鍛えられるという発想が、舐めていると言っているんです。危機感知に長けたシノビでもあるまいし」  それを言われると、弱い。でも反論はできる。 「第一層に行動不能系の能力を使う魔物は出ないだろうが」  単独行動の何が怖いかと言えば、麻痺や石化で動きを封じられれば逃げられなくなるということに尽きる。そうなればもう、魔物の餌になる他ない。  でも第一層にそれほどの魔物は出ない。単純な殴り合いならば、俺はもうこの程度の魔物たちに負けることはあり得なかった。傷を癒すポーションはもちろんいくつも準備していて、それが切れたら引き返すつもりでいたのだ。 「宝箱の罠と、迷宮トラップがあるじゃないですか」 「それこそありえないだろ。単独行で宝箱なんか開けるかよ」  迷宮内にはところどころに部屋のようなエリア――俺たちは玄室と呼んでいる――がある。魔物が番人のように配備されているそこには宝箱が据えられていて、開ければ何らかの宝物が得られるし、探索者が立ち去って時間が経つとまた別の品が入っているのだ(そして魔物もまた出現している)。  ただ、宝箱には高確率で罠が仕掛けられていて、それを解除できるのは斥候かシノビだけ。罠の中には麻痺光線や石化ガスがあるし、パーティ全体に大ダメージを与えてくる爆弾や、パーティを同じフロアの別地点へ瞬間移動させる転移装置もある。  俺は罠の解除なんてできない一介の戦士だ。第一層の宝箱にろくな品が入っていないのは常識であり、そんなもののために危険を冒すつもりはなかった。 「それに第一層の迷宮トラップにその手の厄介なものはないだろ?」  ダメージを与えてくる落とし穴や、十字路中央で気づかぬうちに回転して進路を狂わせるターンテーブルなど、迷宮自体に仕掛けられたトラップもある。下層階へ一気に進めるスロープも、低レベルのパーティにとっては危険な仕掛けだろう(熟練パーティにとってはショートカットの手段だが)。中には、足を踏み入れると年齢の変化する水たまりだの、触ると職種が変化してしまう石像だのもあるそうだ。ただ、第一層にその手のものは存在しない。 「宝箱の件についてはあなたを見くびってました。謝ります」  トゥクファが珍しく頭を下げ、俺は少し驚いた。俺のこと見くびりすぎだろと怒ってもよかったかもしれなかったが、こいつでも謝れるんだと思ってしまった俺もいい勝負かもしれなかった。 「けど……第一層でも、まだ完全に解明されたわけではないんです」 「それは、知ってるけどよ」  迷宮の地図は探索者の間で広く流通していて、パーティの誰かは必ず持っている。第一層は丹念に踏破されていて正確さも増し、ほぼすべてが明らかになっている。それでも、まだ埋め切れていないエリアはわずかにあった。 「その辺は気をつけ……おっと、お出でなすったぜ」  通路の角を曲がると、コボルドがいた。二体。  踏み込んで剣を振るい、一体を切り捨てる。  もう一体はトゥクファに向かったが、彼女が手にしたメイスに叩き潰された。  それらの死体が魔石に変わる。回収して立ち上がる。 「さすがに、これくらいではあなたももう苦戦しませんね」 「新人の時期はとっくに過ぎたさ」  俺たちは知った風な口を利いて歩き出す。迷宮での振る舞い方を覚え始めた若手探索者を気取って。  ……その少し後、様々な意味で人生がめちゃくちゃになるのも知らずに。


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