XaiJu
PKpk
PKpk

fanbox


悪夢の車内(前編)

「んうっ……」  酷い頭痛に悩まされながら進藤摩耶(しんどうまや)はゆっくりと目を開けた。  ぼやけながらもゆっくりと目の前が開けてくる。 (ここは……?)  目の前には車の運転席と助手席が見えた。 (車の中にいるの…?)  さっきまでいた場所とは全く違う場所。  車に乗った記憶もなければ、乗せられた記憶もない。  夏ということもあり、ムッとした熱気が車内に残っている。  エンジンが掛かっていないことや無人であることから、かなり温度が上がっているようだ。  とにかくここから出よう……  そう思って、身体を動かそうとする。  ギチッ… (えっ……!?)  体を起こそうとして自由が利かないことにビックリした。  思わず身体を確認すると、シートベルトが自分の身体を座席に押さえ付けて固定されていた。 (これのせいだったのね……まずはこれを外さなきゃ……)  そう思って身体を動かそうとしたが……  ガチャガチャッ… 「っ…!!?」  両手の自由が全く効かないことに気付いた。  両手を動かしているはずなのに、聞こえるのは金属が擦れ合う感じの音のみ。 (何よ……これ……どうなっているの…!?)  何度試しても両手が思い通りに動いてくれない。  落ち着いて考えてみると、自分の両手は後ろ手にされていてそこで固定されているせいで動かなくなっているようだ。  それに手首が何かで締め付けられているような感じがする。  シートベルトさえ外せればなんとかなるという状況なのに、後ろ手にされたという状況がまったく効かない状況にもどかしさを感じる摩耶。  そうこうしている間にもどんどん車内の温度は上がっていく。  摩耶の着ているセーラー服にも汗が滲んでいった。 (もう何なのよ…!?誰か…っ!?)  動けない状況を打破しようと声を上げた摩耶。  だったが…… 「ふぐううっ……」  口から発せられたのはくぐもった小さな呻き声。 (口も塞がれている…?)  口の中には何かがぎっちりと押し込まれ、所せましと舌を圧迫している。  そのせいで全く言葉が話せないようになっているのだ。  それだけではない。  息をしているはずなのに息苦しく、何かで顔の下半分を覆われているようなそんな感じだ。 (そういえばバックミラーが……)  自分がどういう姿なのか確認しようと、息苦しさと動きづらさに耐えながら身体を少しずつ動かしてバックミラーで自分の姿が確認できる位置まで身体を動かす。  (嘘……)  鏡の前で摩耶は思わず息を飲んだ。  バックミラーには青の爽やかな学校指定のセーラー服に下半身は紺色のスカートを履いた自分がそこに座っている姿が映っていた。  しかし、顔の下半分は光沢のある黒いマスクで覆われている。  革で出来ているであろうマスクは、私の目の下から顎までをすっぽりと覆っており、鼻と口の姿が若干浮き上がっていた。 「んんっ…」  摩耶は声を出してみたもののやっぱり声が出ない。  どうやら息苦しい感覚や口の圧迫感の正体はこのマスクのようだ。  こんなもの着けた覚えがないし、誰かに着けられたのは間違いない。 (もしかして……私……監禁されている……?)  自分の身に起きている非常事態。  息苦しさと動揺しているせいで混沌とした意識の下で、摩耶は必死で考える。 (そういえば……たしか……)  そんな彼女の脳裏に、ふと蘇る一つの記憶。  彼女の脳裏に鮮明に蘇ったのは、彼女が眠りに落ちる直前の記憶だった…… ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  最近巷で噂になっていた違法薬物。  性的興奮を何倍にも高める反面、依存性が極めて高く身体にも悪影響を及ぼすというそれは、自分が通う学校の近くまで広まっていたことを知った。 「そんな危ない薬を子供にまで売りつけようとする人がいるなんて許せない、これ以上被害が広がる前に何とかしないと…」  兄が刑事であるということや武道の心得もある腕っぷしの強い摩耶は、今まで何度か事件を解決してきた。  今回も何とか自分の手でその違法薬物の売人を見つけ出そうと調査をしていたのだった。  そして粘り強い張り込みの結果、薬物の売人らしき男を見つけ出した摩耶はそのまま男を尾行し、その元締めを突き止めようと考えた。  とある廃工場へと入っていった男の後を追っていく。  案の定その男は、その廃工場の中で別の男と会っていた。  売人の男はその男に金を渡し、さらに新たな薬物を受け取っていた。  その話に聞き耳を立てる摩耶。 「今回は大量だよな~」 「ありゃあその筋の奴らには高く売れるぜ」 「俺もちょっともらおうかな、げへへへ♪」 「おいおい、くすねんなよ、大事な商品だからよ……」 (あの人達が薬の売人に間違いないわね…)  そう思ってポケットからスマートフォンを取り出して撮影する準備を始めた摩耶。  だがその時、摩耶は複数の靴音が近づいて来ることに気がつく。 「はっ!?」  摩耶が顔を上げると、すでに数人の男たちに取り囲まれていた。 「いやっ……離して…やめ……むっ……!?」  悲鳴を上げる間も無く、薬品の匂いがする白い布を顔に押し当てられる。  薄れゆく意識の中で摩耶は口と鼻を押さえつけている男達の威圧的な形相を最後に意識を失った。

悪夢の車内(前編)

More Creators