「…ふぅっ……んっ………んんっ………」 倉庫のような建物の一室でセーラー服姿の少女が身を捩っていた。 彼女の名前は加賀谷愛実(かがやまなみ)。 普通の県立高校に通う普通の女子高生だ。 数時間前までは… どうしてこんなことになったのだろう…… いつものように下校して家まで歩いて帰る途中だった。 友人と別れて歩いていた詩識の側に車が近寄ってきて、道を聞かれたのだ。 「あのー、すみません。市役所までにはどうやって行けばいいのですか?カーナビの調子が悪くて……地図はあるんですが、自分の今いる場所もわからなくてね。」 声を掛けて来たのは30歳くらいのスーツを着た優しそうな男の人。 車のナンバーが県外ナンバーであることから、市役所に何らかの用事があるのであろうが、おそらく道がわからなくなったのだろう。 車内に乗ったままの男は窓を開けて、地図を取り出して詩識にどういけばいいのか尋ねてきた。 この周辺は入り組んだ細い道も多いし、それほど人通りが多いわけでもないので迷うのも無理はない。 地元民であればそんなことはないのだが…… 「あっ、市役所ですか?市役所なら車でならここからそんなにかかりませんよ。」 そう言って運転席のドアに近付く愛実。 「いきなりごめんね……。ちょっと行き方を教えてもらえるかい?」 そう言って車から降りた男は愛実に地図を見せてきた。 「今はこの通りにいるんです。だから、この道を真っすぐ抜けると右手に大きな公園が見えるので、その公園の交差点を左に行くと」 自分達のいる場所を支点にして的確に場所を説明している愛実。 その説明に力が入っていたその時だった。 「その抜けた大通りを右に…むぐうっ!?」 いきなり男性が何か白い布切れで詩識の口を塞いだ。 ツーンとした臭いが鼻の奥に広がっていく。 驚いて逃げようとした愛実だったが次第に意識が朦朧としてきて…… 気が付けば、愛実はこの部屋にいた。 愛実は目を覚ましてから体が重く、少し頭痛がして意識が朦朧としていた。 ギチギチッ……ギチギチッ…… 身体の後ろから聞こえる何かが軋んだような音と手首の圧迫感。 後ろ手に縛られて身動きが出来ないようになってた。 (私……誘拐されたんだ……) 自分の置かれた状況を理解した愛実はなんとか手首の縄が外れないか身を捩る。 「誰か…!!いないの……!?」 ドラマや映画では監禁された女性は口をガムテープで塞がれていることが多いが、愛実は口が塞がれておらず、自由に声を出せる状態だ。 「誰か!!お願い…!!私、誘拐されたの!!助けて!!」 身を捩りながら必死に叫ぶ愛実。 誰かに聞こえて助けが来てほしい。 声にそんな思いを寄せながら、愛実は叫び続けた。 ガチャン……! 扉を開ける音がする。 愛実が音のする方を見ると、人が入ってくるのが分かった。 「っ……!?」 その人物を見て愛実は凍り付いた。 その人物とは愛実が意識を失う前に道を尋ねて来たスーツ姿の男だったからだ。 状況から見て自分を誘拐、監禁した人物であることは間違いないだろう。 男はニヤニヤしたまま、愛実目掛けて近付いてくる。 カツンカツンと目の前でまで近づく靴音。 怯えつつも目を生き返らせ、見上げるとニヤニヤとしていることがわかるほど不気味にほほ笑むこの男の表情が見て取れた。 「やあ、愛実ちゃん…♪気分はどう?」 陽気な口調で話しかけて来たこの人物は 「何よっ!!いいわけないでしょ!!」 一瞬、自分を誘拐した犯人の姿を見て驚いたものの、怒りを覚えていたことを思い出して喋れない口で悪態をつく愛実。 せめてもの抵抗にキッと男を睨みつけた。 「そんな顔しないで…可愛い顔が台無しだし、せっかく君みたいな可愛い女の子とゆっくり過ごせて嬉しいよ。それにほら、乱暴なことはしてないでしょ?俺は紳士的だからさ~。」 愛実の肩に手をおいて、穏やかに語り掛ける男。 確かに乱暴なことはされていない。 とはいえ、女の子を誘拐、監禁しておいて紳士的だなんて、そんな言い草を愛実が受け入れられるわけがない。 「お願い!家に帰してください!」 「何を言っているんだ、愛実ちゃん?君との楽しい時間はまだ始まったばかりなのに……」 「…どうして……どうしてこんなことするの?……こんなこと……許されるわけないのに……!」 「それはね、君が可愛いからさ……僕は可愛い女の子を縛ってこういうことしたいと思ってたんだよ。そこにたまたま現れたのが君だっただけさ……」 「そっ…そんなっ……酷いっ…」 男のあまりにも身勝手な動機を聞かされて愛実は唖然とする。 「…くっ…けだものっ…はぁはぁ……」 愛実は男をキッっと睨みつける。 卑劣な目の前の男に憎悪の念を燃やしつつ、自由になった口で思い切り侮蔑の言葉を投げつける。 「けだもの……?そんな汚い言葉を言っていいのかい?」 「…何度だって言ってやるわ!!この…けだもの…変態…!!」 「変態は誉め言葉だと思ってたけど……けだものは酷いんじゃないのか?愛実ちゃん…」 けだものと呼ばれた男は少し不機嫌そうな声色になる。 しかし、愛実の罵倒の言葉は止まらない。 「このけだもの…!!もういい加減にして!!」 だんだん愛実の声が大きくなっていく。 「大きな声出すなって言ったのに……困った女の子だな…」 そう言うと男は愛実の口を手で塞いだ。 「いやっ!!止めて!!このけだも…んぐうっ!!」 「あんまり調子に乗っちゃだめだよ?……大人しくしてりゃ、ちょっとは優しくしてあげたのに…」 じっとしているのが耐えられないのか愛実は首をブンブンと振る。 「んんーっ!!んむうっ!!」 「騒いだ分、お仕置きしなきゃだからな。これから覚悟してもらうからね…」 口を塞ぐ男の手の力が徐々に強くなっていくことに不気味さを感じる愛実。 「痛いことはしないからね……『痛いこと』はね…♪」 男は何かを企み、ニヤニヤしながら愛実を見た。