「ううっ…ここは……?」 私の名前は法条未来(ほうじょう みらい) 高校2年生だ。 なんだかずっと眠っていた気がする。 だけどその眠る前の記憶が思い出せない。 まだ眠りから完全に覚めていないのか、頭の後ろがズキズキする。 とりあえずここがどこか確認しなきゃ…… そう思って目を開いたはずだった。 えっ……!? おかしい…… 目を開けているはずなのに、真っ暗闇がいつまでも晴れない。 どんなに目を凝らしても何も見ることができない真っ暗闇が広がっている。 そして、埃っぽさと湿っぽさが混じった臭いが鼻をつく。 (なんで…!?どうなってるの……?) きっとまだ意識が朦朧としているせいだ。 そう自分に言い聞かせて身の周りの状況を把握しようと、まずは行動しようと身体を起き上がらせようとした。 キリリッ…… (えっ!?腕が……う、動かないっ!?) 私の腕に痛みが走り、それと同時に窮屈な圧迫感が伝わってくる。 冷たい無機質な感触も伝わっている。 この時初めて、私は腕の自由が全くきかない事に気付いた。 ギリイイッ……カチャカチャ…… 手首に力を込めるたびに背後から聞こえてくる金属が擦れるような音。 それと同時に、両手首から伝わってくるヒンヤリとした冷たい感触。 「もしかして……私……縛られているの?」 痛みと圧迫感で意識が徐々にがはっきりしてくる。 そして、私は自分がどんな状況に置かれているのか理解し始める。 何も見えない暗闇の中に一人取り残され、身動きが取れないように厳重に縛られている自分の姿が想像できた。 「だ……誰か!!いないの!!?誰かー--っ!!!」 自分が何処にいるかもしれないし、助けが呼べるかどうかわからないけれど、このまま何もしないよりは状況を打破できるかもしれない。 怖い部分もあったけど、まずは助けを呼ぼう。 私はそう思って声を上げた。 「んむうっ……んふうっ……」 「っ!?誰かいるの?」 私の近くで声が聞こえる。 ちょっとくぐもっているし、顔がわからないから何とも言えないけれど、どうやら女の人みたいだ。 弱弱しい小さな声だったが確かに私の声に反応してくれたようで、私は若干ホッとした。 「ああ、よかった……貴女ももしかして縛られているの?私は法条未来って言うんだけど気が付いたらこんなことになっていたの。」 「んむうぐうっ……んぶうっ……」 顔も知らないが、同じ境遇であろう女の人になんとかコミュニケーションを取ろうとする私。 「んむう……んううっ……んっ……!」 しかし、いくら話しかけていても彼女が返してくるのはくぐもった声のみ。 まるで、言葉が喋れずにいるようだ。 それにこの声はどこかで聞いたことがある。 「貴女、口を塞がれていて喋れないの!?そうなのね!?」 「んむうううううっ…!!!」 彼女の声が今までとは比べ物にならないほど大きくなった。 まるで私に「そうだよ。」と言わんばかりに…… それにこの声の感じ…… 大きくはっきりした声を聞いて確信したことがある。 それはこの目隠しの向こうで口を塞がれている女の人の正体…… 私はその確信を持って彼女に声を掛ける。 「お姉ちゃんっ?……お姉ちゃんなの!?」 「んむううっ……!!ううっ……!!!」 言葉にはならなかったけれど、かなり大きい声で応じてくれた。 間違いない。 監禁されているのは私のお姉ちゃん、法条希(ほうじょうのぞみ)だ。 「やっぱりお姉ちゃんだ!お姉ちゃん……なんで……どうして…!?」 「んんっ……むむうっ……」 どうやら私達姉妹はそろって何者かに誘拐されてしまったようだ。 でもどうして……… 誰がこんなことを…… 私はただの女子高生だし、お姉ちゃんは駆け出しの弁護士だ。 お父さんもお母さんも警察官でいつも帰りは遅いし、自宅に帰ってこないこともある。 お姉ちゃんはそんな私のために色々と世話を焼いてくれて、その傍らで猛勉強をして弁護士の資格をとった。 私にとっては尊敬している大好きなお姉ちゃんだ。 そんなお姉ちゃんが縛られて、喋れないようにされている。 何とか助けなきゃ…… そう思ってどこにいるかわからないお姉ちゃんの下に行こうと立ち上がる。 後ろ手に縛られているせいで上手く立ちにくかったけれど、何とか立ち上がることが出来た。 「お姉ちゃん……今そっちに行くから……何処にいるか教えて!!」 幸い足は縛られていないようだ。 一歩を踏み出そうとしたその時…… ザッ……ザザッ……ザザッ…… 不気味なノイズ音が聞こえて来る。 「ようこそ……法条希さんに未来ちゃん……ご機嫌いかがかな?」 ボイスチェンジャーで変えられた不気味な機械音声のような声が聞こえて来た。 「誰っ!?誰なの!?」 「んうううっ……!!んぐうーっ!!」 いきなり聞こえて来た声に反応する私達。 もちろんこんなことをされて機嫌がいいはずがない。 「貴方は誰!?なんでこんなことをしたの?早く私とお姉ちゃんを家に帰してよ!!」 「んんーっ!!んぐぉっ……!!」 その声の主が私達を誘拐して監禁した犯人であると直感した私は怒りを込めてそう叫んだ。 お姉ちゃんも塞がれた口で抗議しているようだ。 「君達をここに呼んだのはゲームに参加してもらうためさ。もちろん拒否権はないし、俺は君達に用があるんだよ。」 どうやら私達の声は誘拐犯に聞こえているようだ。 しかし。私達の声を聞いているはずの誘拐犯は一方的に話を続ける。 「何それ……ゲーム?いいからさっさと私とお姉ちゃんを家に帰してよ!こんなことをして許されると思っているの?」 「んふぐぅっ……!!んうっ……!!!!」 「君達がどう思おうが、ゲームはもう始まっているよ。このゲームの成功報酬は君達の解放だ。意味がわかるな?」 「っ!?」 誘拐犯の言葉を聞いて私は驚いた。 私達を監禁しておいて解放をするような選択肢を与えている。 一体どういうことなの? 「つまりそのゲームに勝てば無事に帰れる……そういうことでしょ……?」 「正解だ。頭がよくて助かるよ。ルールを説明する。君達にはそれぞれ拘束具が着けてある。未来ちゃんには目隠しと手錠がね。」 「周りが見えないのは目隠しをされていたからか……手首のこの感じは手錠だったのね……」 「その通り。ただし、足は縛っていない。君には動いてもらわなくてはいけないからな。」 「それで何をすればいいのよ?」 「君は目隠しされた状態で監禁されている部屋にある手錠の鍵を探すんだ。その鍵を使えば手錠が外れるぞ。」 「ふざけないで!!そんなの無理に決まっているじゃない!!」 私は理不尽な状況を淡々と説明されて思わず叫んだ。 目隠しされた状態で探し物なんて出来るわけがない。 「まあ、聞くんだ。当然そのままじゃあ面白くないからヒントがあるんだ。君のお姉ちゃんは鍵の場所を知っているぞ!!」 「えっ…!?」 「そうだとも、ヒントがないゲームなんてつまらないだろ?だから君のお姉さんは鍵の場所を知っているような状態にしているんだ。だが、そんな簡単に場所がわかったらゲームにならないから、口を塞がせて足も縛って身動きできないようにさせてもらったよ。」 「この……ゲス……!!」 「なんと言われようとも構わないよ……まあ、頑張りたまえ。大好きなお姉ちゃんと協力してな。そうだ、そうそう、お姉ちゃんの拘束具を外そうとしても無駄だよ。猿轡は頑丈な革製のマスクだし、足の革ベルトもかなり太いから人力で切断するのは無理だよ。それに手錠も嵌めたから3つとも鍵がなきゃ外れないよ。」 「んぐうぅぅっ………」 悔しそうなお姉ちゃんの声が聞こえる。 比較的、拘束が少ない私とは比べ物にならないほどの窮屈さであるのだろう。 「つまりお姉ちゃんと私がそれぞれ協力して鍵を手に入れればいいわけね。」 「そうだ。君達、姉妹の絆をしっかりと見せてもらおうじゃないか。それではグッドラック。」 ブッ…… 馬鹿にしたような態度でスピーカーを切った誘拐犯に怒りを燃やしながら、私は脱出に向けて動き出す。 「んむうっ!!んんふううっ!!!んおおおっ!!!」 お姉ちゃんが必死に何かを伝えようとしている。 おそらく鍵の在処だ。 でも口を塞がれるとこんなに意思疎通がしづらいと思わなかった。 私の方も目隠しのせいで全く周囲の状況が掴めないために、うまく歩けない。 人間がいかに視覚や言葉に頼って生活を送っているのか実感させられている。 とはいえある程度、落ち着いてきた私 お姉ちゃんとなんとかして意思疎通ができればなんとか脱出できる。 そして人を弄ぶようなあの卑劣な誘拐犯を許してなるものかという怒りも湧いてきた。 (このままあんな奴の掌の中で踊らされるなんて絶対に嫌!私、諦めない!!絶対に…絶対にお姉ちゃんと一緒にこの状況を乗り切ってお父さんやお母さんの所へ帰るからね…) 私は折れかけた心を奮い立たせ、歯を食いしばった。 「んんーっ!!んむぅっ!んぐぅーっ!!」 お姉ちゃんが必死に鍵の場所を教えてくれている。 でもまずはお姉ちゃんと意思疎通する手段を探さなきゃ…… だからお姉ちゃんの声のする方へ行って接触する。 「待ってて、お姉ちゃん。すぐにそっちに行くから……」 私は大好きなお姉ちゃんと一緒に逃げることを思い描きながら、くぐもった声のする方へと歩を進めた。