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物言えぬ聖姫騎士

 王国暦1115年  かつて大陸最強国家だったローズナル王国は衰退し、隣国のバルティア帝国からの侵略を受けていた。  王国軍の主力軍団は壊滅し、もはや帝国軍の圧倒的な軍事力に為す術もない。 首都も含めた国土の3分の2を制圧されたローズナル王国は風前の灯火だった。  降伏を受け入れて、ローズナル人はバルティアの支配を受け入れて奴隷となる。 そして、抑圧された生活を送ることになるだろう。  ローズナル王国民のその思いは国全土に広がり、諦めと悲しみが覆っていた。  王国暦1116年  ローズナル王国国土の3分の2を制圧したバルティア帝国であったが、僅か1年で王国から徹底した。  圧倒的な軍事力を誇るバルティア帝国軍だったが圧政を敷いたため、ローズナル国民の反発を招いて各地で反乱が起きてしまったのだ。  その反乱軍の指揮官として、ローズナル王国第3王女であるアリシャ・ローズナルを立てたのだ。  大陸の妖精と謳われた美貌を持つアリシャを旗印にした反乱軍の士気は大いに上がり、帝国軍との戦いでも圧倒した。  とはいえ、強大な軍事力を持つ帝国軍を駆逐することは容易いことではない。  反乱軍は士気は高くとも農民が主体となっていたため、戦術としては御粗末なものであった。  そのためか、最初こそ帝国軍を圧倒していた反乱軍も鍛え上げられた帝国軍にじりじりと追い詰められ始めた。  王国軍が壊滅し、反乱軍も壊滅してしまえば帝国軍に対抗する戦力が失くなってしまい、王国再建の夢は潰えてしまう。 (私が国を……民を守らねば……)  アリシャはここで禁断の決断をする。  それはまだ帝国の支配が及んでいない東部のクチフサギ神殿にある呪具を身に付けること。  その呪具とは神殿に封印されていた呪われしマスクだった。  黒い顔の下半分をすっぽりと覆う形をして、不気味な装飾が飾り付けられたそのマスクは王家が代々、受け継いだ物であった。  このマスクは数百年前に王家のと王女が魔神と契約した時に魔神から王女に贈られたものである。  魔神の契約とは願いを叶える代わりに美しい歌声で有名な王女の声を自分のものにするということだった。  魔神の要求を受け入れたその王女はマスクを着けさせられて声を奪われ、死ぬまで話すことが出来なかったという。  それ以来、このマスクは身に着けると願いが叶うが自分の声を奪われてしまう呪われし物となってしまったのだ。  美貌以外にも透き通るような美声でも知られるアリシャがそのような呪具に手を出そうとしていることを知った反乱軍の上層部は躊躇したと言う。  しかし、最後にはアリシャが自ら訴えて、国を再興させる意志を強く主張した。  その姿に心打たれた反乱軍の上層部は呪いのマスクを身に着けることを承諾した。  神殿の封印を解いて、アリシャは自分の顔にマスクを着ける。 「一騎当千の圧倒的な力を……国を再興する力を……」  マスクの呪いが発揮される前に願いを呟くアリシャ。  彼女は自らの大事なものを差し出すことに同意を犠牲にして王国を、国民を守ろうとしたのである。  そして、これが彼女の最後に発した言葉だった。  アリシャがマスクを着けてからは反乱軍が優勢を維持することとなった。  アリシャ自身、1人で戦況を変えるほどの生命力や武力、そして頭脳を手に入れることができた。  元々、剣術にも長けていた彼女はマスクを着けたことにより、圧倒的な戦闘力を手に入れたことで帝国軍を尽く打ち破り、遂に王都まで奪回することに成功した。 「アリシャ様バンザーイ!!」 「聖姫騎士様!!」 「ローズナル王国バンザイ!!」  反乱軍の王都解放に沸き立つ王都の民達。  戦い抜いた鎧姿のままで街を歩き、金髪の凛々しいポニーテール姿のアリシャの凛とした美しさは際立っていた。  しかし、アリシャは王都の民の声援に応えることが出来ない。 「ううっ……むうっ……」  彼女の顔の下半分を覆う黒いマスク。  上半分だけでもアリシャの美しさは十分に伝わるが呪いのマスクは顔に貼り付いたまま外れることはない。  このまま、誰とも言葉を交わせない人生を送るしかないのだ。 「ねー、姫様。歌を歌ってよ〜!!」  事情を知らない少女が近付いてくる。 「んむうっ……んんうっ……」 「どうしたの、姫様?喋れないの?」  無邪気に聞いてくる少女。  そして、彼女の思いに応えられないことに悲しみを感じるアリシャ。  国を守るために声を売った王女  物言えぬ聖姫騎士  これらの通称で呼ばれるアリシャ  彼女の決断は歴史が評価してくれるだろう。


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