とある都市の繁華街。 雑居ビルが立ち並び大通りに面したこの場所はパトカーや機動隊の大バスが出動して慌ただしい雰囲気になっており。雑居ビルの正面入口を機動隊員が大勢囲んでいる。 「はっはっはっは!!俺は無敵だぜ!!」 正面入口から大声で笑って出てくる一人の男。 その男の姿は全身に血管のような筋が浮かび、全身から黒い針のようなものが飛び出している。 男の皮膚から直接生えているようなその棘は伸縮自在に伸びて機動隊が装備する盾も簡単に貫通していた。 「マッポ共、この薬師組若頭の雲仙仁に手も足も出ねーみたいだな。全く俺をパクリに来たのに返り討ちにされてちゃ意味ねーだろw」 この薬師組は違法な薬物売買の元締めの暴力団である。 警察はその若頭である雲仙仁を逮捕しようと令状を手に組の事務所まで来たのだが…… そこにいたのは、捜査員たちが知っている雲仙仁の姿ではなかった。 身体中から黒い棘が生えた雲仙はその棘を自由自在に操り、事務所に入って来た捜査員たちに重傷を負わせた。 緊急事態のために拳銃を発砲する捜査員もいたが、彼の身体に銃弾がまるで効かない。 そのまま、事務所の床で蹲る捜査員たちにとどめを刺しながら今度は、外にいる機動隊員も攻撃を加えていた。 「それにしても便利な身体だぜ!少し前にシノギの関係で海にいったらウニに刺されて死にかけたけどよ。それからこんな便利な身体になったからな。サツには俺を止められねーだろ!!?」 盾を貫通した棘が機動隊員の身体を負傷させ、次々と防護壁が突破されていく。 警察としてもこの男が外に出て逃げるのは何としても阻止したいようだが、有効な手段がないようだ。 「雲仙仁!馬鹿な真似はやめて、投降しろ!」 現場の警察は一般の制服警官達の拳銃だけでなく、特殊部隊の狙撃銃やサブマシンガンを向けながらも、説得を行う。 しかし…… 「はっはー!!税金泥棒共があ!!雁首揃えて俺を止められねーのかよ!!おら、お前ら出てこい!」 「へい!!」 雲仙が叫ぶと、後ろから組の子分とも思われる男達が姿を現す。 その中に混じる一つの小さい女性の影。 そこには中学生くらいのセーラー服を着た少女が後ろ手に縛られた状態で連れられていた。 「あれは…人質か…!?」 「んんー-っ!!」 上半身を縄で雁字搦めに縛られた少女は涙を流しながら首を振っている。 口にべったりと貼り付けられたガムテープのせいで思うように喋れないようだ。 「お前ら、逃走用の車を用意しろよ!!俺に勝てねえのはわかってるんだ!!さっさとずらかりてえんだよ、こっちは!!」 「兄貴の言うことを聞かねえならこのガキをぶっ殺すからな!!」 子分に銃を突き付けられて恐怖のあまり顔をくしゃくしゃにして泣きはらす少女。 実は数時間前、この近所で中学生の少女が誘拐されたとの情報があった。 現場の警察官達はあの少女こそが誘拐された少女だと確信した。 「くそお……どうすれば……」 現場の警察官達は歯がゆい思いで雲仙を睨みつける。 しかし、銃が効かない相手に警官達は手も足も出ない。 どうやって立ち向かえばいいのだろうか…… それに人質もとられている以上、下手に動くことは出来ない。 人質の人命が第一優先である警察官としては、人質が殺されることだけは避けなければならない。 「要求を呑むしかないか…」 警察官が犯罪者に屈するのは耐えられないが、それ以上に選択肢がないのだ。 (やむを得ない…) 現場にいる警察官全員がそう思った時のことだった。 シューン!! 「!!?」 何かが警察官達の包囲網の隙間を通り抜けた感じがした。 その何かというのはあまりにも速すぎて、よくわからなかったという状態だ。 「早くしねえとこのガキをぶっ殺……」 ドサッ!! いきなり銃を少女に突きつけていた男が糸を切らした操り人形のように地面に倒れる。 「おい!!てめえ、何してやがん…」 ドサッ!! 話しかけたもう一人の子分も倒れる。 ドサッ!!ドサッ!!ドサッ!!ドサッ!! 次々と近くにいた子分達が倒れ、立っているのは雲仙だけになった。 「なんだてめえら!!なにしてんだ!!」 雲仙が檄を飛ばすも子分達はピクリとも動かない。 その様子を警察官達も驚いた様子で見ている。 「そうか…てめえら何かしやがったな!!俺を怒らせたらどうなるかわかってんだろうな!!」 そう言うと雲仙は右手をかざして手のひらから黒い棘を伸ばす。 その先には縛られた少女がいる。 「んうううっ!!!」 「余計なことをした罰だ!!恨むならサツの野郎どもを恨みな!!」 そう言って棘を伸ばす雲仙。 (少女が刺し貫かれてしまう!!!) 現場にいる誰もがそう思っていたが…… バキンッ!! 「ぐあっ!!」 鈍い何かが折れる音とともに雲仙が右手を押さえる。 その手の平から伸びていたはずの棘は根元からパッキリと折れていた。 「そんな物騒なことしちゃあ駄目だよ……この娘はあんたより長生きする資格があるんだから…」 雲仙が聞いたのは若い女性の声。 その方向を見ると縛られた少女が女性に抱きかかえられていた。 身体や髪型から女性だということはわかる。 しかし、オレンジと黒色を基調とした鎧のようなものを着込み、顔の下半分もマスクで覆われているため正体はわからない。 それに左腕には細い剣のようなものを持っていた。 「てめえは!!?一体何者だ!!?」 「本当に悪役らしいことしか言わないのね!」 そう言うとあろうことかその女性はブーンという音とともに10mほど飛び上がった。 「何だ!!?」 「飛んだぞ!!誰だ、あいつは!!?」 現場の警察官達も口々にその女性を見て叫んでいる。 「おっと、あなたを助けてあげなきゃね。」 そう言うと女性は飛んだ状態のままで素早く動いて少女を機動隊員が防護壁を作っている箇所に優しく下ろした。 「おい、お前!!部外者は立ち入り禁止だ!!危ないから下がれ!!」 機動隊員も若干、驚きつつも女性に対して忠告する。 「ちょっと!!人質助けたのにその言い草なくない!!マジあり得ないんですけど!!」 「いいから下がって!!」 「わかったわよ!!アイツ倒してくる!!」 「ちょっ……!!」 止めようとする機動隊員の制止も聞かず、再び飛び上がる女性。 「てめえ、俺をおちょくるような真似しやがって…ぶっ殺してやるよ!!」 自分の計画が上手くいかなかったことが気に食わなかった雲仙はかなり激高している。 計画を狂わされて、逃走できなくなったので当然であるが…… 雲仙が両手をかざす。 そこからは今までに見たことのないほど無数の棘が生えてくる。 「穴だらけになりやがれー!!!」 無数の棘が一気に女性目掛けて伸びていく。 それは今までにないほどの数の棘だ。 (これはもう駄目だ!!) 現場にいる警察官は無数の棘の多さから女性が刺し貫かれるのが火を見るよりも明らかだと思い、絶望していた。 「遅いっ…」 その一言が雲仙の近くで響いた。 自分が刺し貫けると思った女性がすぐ目の前にいる。 左手の剣のようなものを構えて…… 「何…っ!!?まっ…!!」 何かを言いかけた雲仙だったが、腹部を刺し貫かれる焼けたような強力な痛みが駆け上って来た。 「あがあっ!!」 シュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ!!! さらにその剣のようなもので目にも止まらぬ速さで身体を貫かれる。 自分の身体に次々と穴が穿たれる感覚を感じる。 「がああっ!!!!!」 穴が開くと同時に頭が焼ききれそうになるくらい鋭い痛みを感じる。 その痛みの中、自分の身体の中が破壊されていく感覚も感じる。 自分の身体が燃えるような熱さの中で溶けていくようだ。 (くそぉ……何だよ……こいつは……強…) そこまで考えた時、雲仙の意識は無くなった。 「アイツ、倒れたのか……」 警察官達は穴だらけの身体になり、道路に横たわる雲仙を見つめていた。 そして、女性は動かなくなった雲仙の子分を前に道路に仁王立ちしている。 「何をしてるんだ!!その女性を逮捕しろ!!」 現場指揮官がそう言うものの、警察官達は茫然と立ち尽くすだけで動こうとしない。 彼らは目の前で起きていることが信じられない。 まるで夢でも見ている……そんな感じだ。 「あっ…やば……ここにいたらマズい感じだよね…!じゃっ!!」 そう言うと女性は再び立ち上がり、目にも止まらぬ速さでその場からいなくなった。 「なんだったんだ、あれは……」 さっきまで自分達を蹂躙していた雲仙を簡単に倒したあの女性。 彼女は一体…… 現場に残された警察官達は安堵した半面、首を傾げる者もいた。 「んんっ…ぷはぁっ!!」 縛られていた少女は警官たちの手により縄を解かれ、口のガムテープを剝がしてもらった。 人質が無事なことに安堵した警官たち。 「いやー、よかった…」 「何はともあれ…解決したみたいだ!!」 「早く救急車を呼べ!!負傷者の救護を急げ!!」 負傷した警察官達の救護で女性が去ってから一気に慌ただしくなった現場。 薬師組の人間は雲仙も含めて助かりそうにないが、それ以上に事態が収拾したことが大きいだろう。 機動隊員が現場処理をしながら話している。 「それにしてもさっきの女性カッコよかったよな?まるでスズメバチみてーだった。」 「でもよ。殺人の現行犯だぜ?とはいえ彼女のおかげで俺達が助かったのもあるけどな…」 「スズメバチ女に助けられたわけか…」 「おいおい、それじゃあなんかカッコ悪くないか?アメコミ風に『ホーネットレデイ』だろ?」 ホーネットレディ 事件現場にいた警察官達の間でこの名前は語り草になった。 挿絵提供 bb-182様 Twitter(https://twitter.com/bb182bd?t=mhdjmqf4Ez-GsCI2Vrb9MA&s=09) pixiv(https://www.pixiv.net/users/17641857)