XaiJu
お豆
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「じゃ、じゃあ……するぞ?」 「は、はい……」  凜は、視線を下げたままリトと言葉を交わした。  恥ずかしくて、目を合わせることは出来ない。 (なぜ、こんな状況に……)  正座をしたまま、固まったように動けなくなってしまった二人。  ただ抱き合うだけなんて、手早く済ませてしまえばいいのだが、相手があの結城リトではそういう訳にもいかなかった。  以前からの幾度から逢瀬を経て、完全に意識してしまっている後輩の男子。  その男子と抱き合えなどと、凜からしてみれば嬉し恥ずかし……どちらかと言えば、恥ずかしいが大分勝るのだ。  いっそ、あの校長相手の方が気は楽だったかもしれな……いや、流石にそれは無いが、やはり自分から抱きつくというのは憚られた。 (こ、こういう時は男子から先に動くものだろう、結城リト……! ……いや、私の方が年上なのだから、私から行くべきなのか?)  凜が内心思考をぐるぐるさせていると、視線の先でリトがぎゅっと手に力を込めたのが見えた。 「九条先輩……っ! い、いいですか……?」 「あ、ああっ……!」  意を決したリトの言葉に、凜はやや声を裏返らせて答えた。  すると、リトは凜の肩に手を置き、そっと身体を寄せてくる。  凜はビクッと肩を震わせたが、すぐに覚悟を決め、こちらからもリトの背中に手を回した。 「…………え、えーっと」 「う……うぅ……」  互いの体温が触れ合い、息の掛かる距離にまで顔が近づく。  凜は緊張に顔を強張らせ、リトもまた緊張したように生唾を飲み込む。 「こ、これでいいんですかね……」 「たぶんな……。このまま、あと10分か?」  戸惑いながらも、座ったまま抱き合う体勢になる二人。  すると、先程から映像を投影している壁から、また音が鳴って映像が切り替わった。  そこには、9分50秒、9分49秒……と残り時間を示すタイマーが表示されていた。 「なるほど、やはりこれでいいようだな」 「みたいですね」  二人は頷き、再度しっかりと身体を抱きしめ合う。  そのまま1秒2秒と、いつもより遅い時間が流れていく。  凜もリトもこの状態で何を言えばいいのか分からず、無言のまま時間が進む。 (……暖かい)  こんな風に、誰かと抱き合うなんていうのは初めてかもしれないな、と凜は思う。  子供の頃、親に抱き締められたことくらいはある気がするが、これはそれとは違う。  近い年頃の男子と身体を密着させ、抱き合うという行為は、間違いなく人生で初めての経験だ。 (……いや、違うか)  肌に感じる、少年の体温で思い出す。  以前もこうして、結城リトに抱き締められたことはあった。  主である天条院沙姫の屋敷で、凜が魔剣に意識を乗っ取られそうになるという事件があった時、身を挺して助けてくれたのが結城リトだった。  その時、リトは凜に力強く声を掛け、意識を引き戻してくれた。  思えばそれがきっかけだったか。凜が結城リトのことを強く男性として意識するようになったのは。 「せ、先輩……?」 「ん……?」  抱き合った状態で、呆けてしまっていたのだろうか。リトが不思議そうに凜の顔を覗いてくる。 「どうかしました? ……やっぱり、男とくっついてるのなんて、嫌ですよね?」  不安げに言うリトに、凜はふっと口元を綻ばせた。 「……いいや。ただ、なんというか……こうして間近で見ると、思いの外キミは可愛らしい顔をしているんだな、と思ってな」 「えっ!?」  突然可愛いなどと言われ、リトは一瞬吹き出しそうになる。  まぁ童顔とはいえ男子高校生なのだし、あまりそんな風には言われ慣れていないのだろう。 「どうした、照れなくてもいいんだぞ」 「いや、べ、別に照れては……」  リトは慌てて取り繕い、顔をかぁっと赤らめる。  そんな所も可愛いと思ってしまう。  あまりリトのことを年下だとは意識していなかったが、こうして見ると確かにまだ子供らしさが残る、年下の少年だ。 「せ、先輩こそ……その、前も言いましたけど……キレイだし、可愛いと思いますよ……?」 「ヌ……」  同じ風に言い返され、凜もまた言葉を詰まらせる。  よく考えれば、自分もあまり褒められ慣れてはいなかったことを思い出す。  二人して照れてしまい、気恥ずかしい空気が流れる。 「お、おい黙るなっ。逆に恥ずかしいだろう……!」 「いや、九条先輩こそ……! 先輩なんだから、照れないでドンと構えててくださいよ!」 「照れてなどいない! なんだ、キミ……随分と言うじゃないか。さっきはくじ引きに勝って随分と喜んでいた癖に……」 「それは……だって、先輩をあのセクハラ親父に触らせたくなかったんですよ!」 「ほ、ほぉ……?」  リトの言葉に、凜は口元がニヤけそうになるのを堪えた。  まるで、自分の女に手を出すなと言っているような台詞だ。  普段男勝りに思われることも多い凜だが、意中の相手にこう言われては悪い気はしないのだった。 「キミは素直だな。……確かに、他の女の子達がキミに惹かれるのも分かる」 「へ?」 「ん、あ……いやっ、でも、私がどうこうっていう訳じゃないからな!?」 「別になにも言ってないですって」  取り繕うように凜が言うと、リトは苦笑して頷いた。  凜はふぅと息を吐いて、昂っていた気持ちを落ち着けた。 「……とは言っても、以前のようにキミのことを嫌っているわけではないのは確かだ。そこは、安心してくれていい」 「分かってますよ。先輩はいい人ですし、ちゃんと話せばこっちのこともちゃんと理解してくれるって分かってます」 「そうか……」  彼の言う通り、しっかりと話した後のリトの印象は随分と変わった。  以前は頻繁に女子に対して不埒なことを行う軟派者というイメージを持っていたが、本当の結城リトは、誠実で優しい少年だ。  まぁ、頻繁に女子に不埒なことを行う、というのは今も変わらない気もするが、一応本人が望んでやっているわけではないらしい。  それでも彼の存在は、凜の中で日に日に大きくなっていっている。  そして今こうして密着し、語らっていると、その想いは溢れて止まらなくなりそうだった。 「結城、リト……」 「はい……?」  凜はリトの名を呼び、その顔を正面から見据えた。  今ならば、この思いの丈を正直に伝えられそうで、凜は上気した顔を隠すこともせず、彼と視線を交えさせる。 「……もし、キミも私のことを悪く思っていないのなら……その…………」  口内に溜まった唾液を飲み込み、凜はゆっくりと口を開く。 「私と……」  そして、リトに自分の言葉を伝えようとした瞬間。 「ちょおおおおおおっと待ってくださああああああああいい!!」  突如、そんな大声が部屋中に響き渡り、凜とリトはベッドの上で飛び跳ねそうになった。  その大声を発したのは、部屋の隅でイジケていた校長だ。存在を忘れかけていたが、二人がベッドの上で抱き合っている間、ずっと近くにはいたのだ。 「な、なんだ急に……!」 「驚かせないでくれよ校長!」 「二人だけでイチャイチャしてズルいですぞ! わし一人除け者なんて、酷いじゃないですか!」 「それは、くじで決めたんだから仕方ないだろ!」 「イ、イチャイチャなどしては……。……まぁ……少しはしていたかもしれないが」 「ほらぁー!」  校長は二人を指差し、除け者にされたことへの不満を喚き散らす。  だが、言いたいことはそれだけでは無いようだった。 「それに、もう終わりの時間ですぞ! いつまでも抱き合っていてはいけません!」 「なに? もう……か?」 「……あ、ホントだ」  リトと凜は画面の方を見やると、そこに記されたタイマーの文字は0分0秒になっていた。  どうやら、いつの間にか10分は経っていたようだ。  始めは1秒1秒が長く感じられていたが、最後の方はすっかり二人で互いのことばかり考えて、時間の経過を気にしていなかった。 「だからもう終わりですぞ! 早くベッドから降りなさい二人共!」 「はいはい、分かったよ……」 「むぅ……」  リトと凛は、少々名残惜しげにベッドから降りた。  するとそのタイミングで映像画面の方からパパーンッ!と、明るいファンファーレのような音が鳴った。  そして、画面内に表示される文字が変わる。  ――『第一のお題クリアおめでとうございます』――  画面の見つめ、リトが「おっ」と声を上げた。 「これで、クリアらしいですね」 「あぁ……。でも、まだ最初の一つか………。確か、全部で5つあると書いてあったな」 「ということは、わしにもまだまだチャンスがあるということですな!!」  リトと凛はまだお題が続くことに辟易しているというのに、校長だけは興奮気味に鼻息を荒くしていた。  そこまで堂々とされると関心すらしてしまうが、言っていることは結局セクハラをしたいということであり、とても教職者の発言とは思えない。  次の命令も先程と似たような物だとしたら、次も負けられない。……そうリトは警戒心を強めるのだった。

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