退魔の領域~一之瀬栞梨の場合~第1話 潜入任務①
Added 2020-10-28 17:59:44 +0000 UTC「あれが今回の潜入対象ですか…」 日付が変わる間際、一日の中で最も暗いその時刻。 75階建てのビルの屋上、地上100メートル近いそこに黒い影が立っていた。 影は160センチを超えるか超えないか程度、足首までのコートを羽織り、フードを被っているためそのその表情はうかがえない。 「本部、現場に到着しました」 影は隣のさらに高いガラス張りのビルを見上げながら、通信機に向けて落ち着いたウィスパーヴォイスでそういうと、自信を黒い闇に溶け込ませていた外套に手をかけた。 ぴったりと閉じあわされていたコートの前が開き、フードが取り払われその中で蒸れていた空気が解き放たれる。 「…っうぁ…」 退魔師・一之瀬栞梨は、火照った身体が、ビル風にさらわれ冷やされていく解放感に思わず細く熱い吐息を漏らした。 はだけた外套から鍛え上げられた美少女退魔師の身体と容貌がさらけ出される。 現れたのは、美しい少女だった。 均整の取れた抜群のプロポーションに、妖精のような透明感のある容姿。 左側が目元を隠すアシンメトリーなショートヘアー、その髪は霊力の発露で金色に輝いている。 妖精のような透明感のある真っ白な肌、小顔に細い卵のようなすっきりとした輪郭。 涼し気な切れ長の目元は少女を大人びて見せているが、その横顔には成人前の少女の無垢さが危ういバランスで同居している。 だが、弱弱しさは感じられず、髪と同様に霊力によって金色に変化している瞳には意志の強さが宿っていた。 彼女が身に着けているのは、退散魔協会が支給する戦闘衣装、極薄の黒布で折られた、ハイネックレオタード、サイハイニーソックス、ロンググローブのインナーからなる狩衣だ。 栞梨の伸びやかな肢体には、極薄のハイネックレオタード上の戦闘スーツ、狩衣がぴったりと張り付き、鍛え上げられた美少女退魔師のボディラインをくっきりと浮かび上がらせている。 首元しか隠していないハイネックレオタードから、さえぎるものなく丸見えになっている細い肩から脇のライン。 重力に屈せず、密着した極薄スーツの極薄生地を押し上げるFカップのたわわなバスト。 臍のすっと通った縦長なラインに、削いだように縊れた細いウェスト。 力を籠めれば折れてしまいそうなそこから続く腰と腿尻は、柔らかく脂肪をつけむっちりと存在感を放ち、腿尻のヒップラインは黒衣のTバック同然のクロッチを食い込ませて自己主張している。 股間にも同様に極薄の布地が食い込み必要最低限の部位しか隠しておらず、その形を浮かび上がらせている。 切れ上がったハイレグからは伸びやかな美脚が鼠径部までもを惜しげもなくさらけ出す。 淫魔と戦うために鍛え上げられた太腿は、同年代の平均よりも太いように見える。 だが、その豊満な太腿にサイハイニーソックス食い込み肉感を強調された太腿は、彼女の全体的な引き締まった理知的な印象に柔らかなアクセントを添えていた。 外套からロンググローブに包まれた細腕を引き抜くと、首元に右手を添えて操作し、狩衣に収納されている霊力で編まれたケープを実体化させ、肩にかけた。 同様に霊力で編まれている装甲ヒールブーツでビル屋上のコンクリートをコツコツと音を立てて踏みながら、ビル風の吹きあがる淵まで歩を進める。そこに用意されていた70センチ程度の金属製のケースから、中ほどで折りたたまれた黒い弓と矢筒を取り出し、豊満な胸の真ん中にストラップを通して背負った。 「ううっ…!?」 栞梨は身体の芯を妖しく揺らす感覚に、思わず両腕で身体を抱き、内股になりながら腰を落とす。 ヒールブーツを履いた脚が絡み、もつれ、ココッ!っとコンクリートを叩く音が響いた。 (この感覚…霊力を使うのとリンクしているのは本当に悪質っ…ですねっ…) 明らかな快感でわずかに赤く染まった頬を震わせる。 栞梨の身体をよく見れば、じっとりと汗が浮かび密着スーツがしっとりと身体に張り付き、染み一つない真っ白な肌には赤みが差している。 淫魔に淫紋を刻まれてからは、常に身体の疼きに悩まされている。 体調は悪くない。 しかし、栞梨のすっきりとした腹部に刻まれた淫紋から生じるじくじくとした疼きは少しずつ腰奥に溜まり、彼女の身体と忍耐力を苛む。 そして、淫紋の効果はそれだけではない。 霊力を使うとその発動に比例して快感を生じさせるという、退魔師にとっては恥ずかしすぎる身体改造効果を刻まれた者へ強いる。 この術は、それを刻んだ淫魔を倒さない限り解けることはない。 そのため、淫紋を刻まれた退魔師は淫紋の淫らな効果に耐えて戦いながら、それを刻んだ淫魔を追うしかない。 おまけに、淫魔に近づけば、淫紋の効果は高まり、より少女たちの身体に重くのしかかる。 淫紋を刻まれた協会の少女退魔師普段は、普段、退魔師としてのプライドと強靭な精神力でそれらを押さえつけているが、油断したふとした瞬間にその決意を揺さぶられる。その時の淫魔からの快楽責めは、淫紋を刻まれた少女退魔師がそうであるように、栞梨の中でトラウマになっている。 (…っ!い、いけない。思い出しちゃっ…) 当時の経験に飛び層になった思考を慌てて打ち消す。 大丈夫…自分は大丈夫だ…その証拠に今もこうして退魔師として戦場に立っている。 自分に淫紋を刻んだ淫魔を倒してこの忌々しい体質を治すまであきらめるわけにはいかない。 そう言い聞かせる。 そして、ルーティンとして無意識に行った、ケープを実体化させた瞬間の霊力運用で背筋を震わせてしまった自分を恥じた。 いつまでも快感に震えているわけにはいかない。 と、そこへ切ったはずの通信機が鳴り、本部からの通信が入る。 「栞梨、潜入の準備は整ったか?」 通信機から男の声。 今回の潜入任務を栞梨に要求した張本人、本部作戦立案課長の柳沢だ。 快感を噛み殺しているところにタイミング悪く入った通信に栞梨は苛立つ。 「定刻通りです。これから突入します。無線封鎖に入るので定時連絡まで通信を遮断します」 「まてっ!状況を正確にっー」 努めて冷淡な声で必要最低限の報告をすると一方的に通信終了。今度こそ電源を落とす。 (私、あの人に苦手ですね…) 栞梨は、柳沢のことを快く思っていなかった。 痩せた蛇のような男。それなのに眼だけは生生しく、狩衣に身を包んだ退魔師の少女を遠慮なくじろじろと舐めまわすように見るのだ。 柳沢は栞梨のことが特にお気に入りのようで、本部ですれ違えば声をかけてくる。 今日も狩衣を装着直後で快感に震えている姿を見られた。 今回の作戦もどうやら柳沢の発案らしい。 それに今回の通信のタイミングといい、栞梨が柳沢を快く思う理由は一切ない。 それに付け加えるなら、名前で呼んでくることも気に入らない。 (いけない、任務前です。しっかりしないと) 栞梨は、ネガティブな指向を頭から追い出し、若干乱れた呼吸を落ち着けると、潜入目標を反芻する。 今回は淫魔の討伐ではなく、淫魔に協力している可能性のある企業の秘密裏の内定だ。 通常のアプローチでは物理、情報的に強固にガードされていてなにもわからなかった。 そのため、本社ビルに直接侵入し、ネットワークから隔離されている機密エリアの調査を行う。 機密エリアは、梨梨の眼前のビル、その最上階だ。 一般の人間であれば、潜入するのは一苦労だが、退魔師の霊力で強化された身体能力があればそれも可能だ。 栞梨は、隣のビル、今立っているビルよりさらに高く三倍程度ある、を見上げた。 「目標は最上階の物理データ保管エリアですね…」 そういうと、背中から、二つ折りになった弓を取り、ガチャリと重い音を立てて展開する。 同時に霊力で編まれた青く光る弦が張られた。 栞梨は霊力が体内の経絡を流れる感覚にまた声を漏らしそうになったが、一瞬呼吸を止めそうになったが呼吸を止めるだけでなんとかそれを抑え込む。 快感を無視するように、矢筒から矢羽根まで黒一色の矢を一本引き抜き、弓につがえた。鏃は平坦な吸盤のようになっている。 栞梨はビルの上方を狙う。霊力で強化された視力は遠方の暗闇を見通し、狙いを定める。 「シッ!」 数舜の後、狙いが定まる。栞梨の色素の薄いなめらかな唇から、弓における離れの声が発され、弓から勢いよく矢が放たれた。 通常の弓の3倍近い速度で発射された矢は青い光の帯を引きながら飛ぶ。 「ひあっ!?」 身体から霊力の糸が引き出される感覚に栞梨は今度こそ肩を竦めて飛び上がり、普段の声より半トーン高い嬌声を上げてしまった。 だが、退魔師のプライドで矢の狙いは外さなかった。 矢は過たず、栞梨の立つ屋上からさらに100メートルほど上方、ビル全長の2/3ほどの地点の窓と窓の間にある数十センチのコンクリート柱に命中する。鏃はあらかじめ込められていた術式で壁にぴったりと吸盤のように張り付いていた。 「…っ…はぁっ…ううっ…これ以上上に打ち込むと、警備システムにひっかりますからね…」 栞梨は、声を上げてしまったことを内心で恥じる。 それをごまかすように、弓を持つ左手を何度か引いて、矢と弓の間に渡った霊力の糸の強度を確かめる。 本当は、最上階へ矢を打ち込み、一気に登ってしまいたいが、ビルの上1/3の外壁はあらゆる、霊的、物理的な作用も感知する警備システムが働いている。そのため、外を上るのはここまでが限界だ。あとは、ビルの内部に侵入して中から登る必要がある。 「それじゃあ、行きましょうか」 栞梨はそう独りごちると、ヒールブーツで屋上のヘリを軽く蹴り、空中に身を躍らせた。 風に髪がなびき、浮遊感が心地よい。 滞空により、一瞬だけ霊力の糸が緩むが、すぐにその緩みは落下と栞梨の手元で霊糸が巻き取られたことで、ピンと張った。 振り子のように壁面に向かって振られている動きに逆らわずに、そのまま壁面へと接近する。 ヒールブーツに包まれた美脚を伸ばし、膝を曲げて柔らかく接地。壁面と身体を水平にすると、はるか上方に突き立った霊糸でぶら下がる。 その態勢から、霊糸を巻き取り、蜘蛛のように上へと昇っていく。 放出した霊糸が再び経絡を通り、身体の中に戻っていく感覚に快感で再び声が出そうになるが、それを噛み殺す。 登り切ったら潜入が本格的にスタートだ。 だが、栞梨はこの潜入で、自分たちを狙い脅かす脅威が決して淫魔だけではないことをいやというほど思い知らされることになる。