※夏なので少しだけホラー調です
セミがうるさく鳴く中、夏の湿気が顔にまとわりつく。
母親の実家のある田舎へと向かう電車の中で、俺は窓の外を流れる緑の風景をぼんやりと眺めていた。
都会の喧騒から離れて、初めて祖父母の家で過ごす夏休み。
ただただやることのない退屈な日々が待っているだろうと、その時は思っていた。
祖父母の家は、田舎でも集落から少し離れた山際にある、古びた木造の家だった。
到着してすぐに、じいちゃんは「この辺りは昔から変なのが出るから、あまり一人で出歩くな」と釘を刺してきた。
ばあちゃんはじいちゃんをたしなめるように笑っていたけれど、その目はどこか真剣だった。
都会でも変質者の話はたまに聞くし、こんな田舎にもいるんだなぁ程度にしか思わなかったけど。
その日の午後、俺は持ってきたゲームにも早々に飽きて散歩に出ることにした。
これでもかと虫の声が降り注ぎ、肌にまとわりつくような暑さが更に辛く感じる。
初めての道を辿っていくのはそれなりに楽しくてずんずんと進んでいくと、木の生い茂る人気のない山道に出た。
木々が陽光を遮ってくれるお陰でひんやりとした空気が漂っていて、そこで俺は持ってきた水筒からお茶を出して少し休憩することにした。
冷たいお茶で一息つくと、なんだか妙な気配と共に不意に視界の先に異質なものが現れた。
真っ黒な服を着た男が、道の真ん中に立っていたのだ。
こんな田舎では見ることのない都会的な装いに、なぜかこんなに暑いのにその両手には真っ白な手袋が嵌められている。
遠目に見ても男の顔立ちは整っていたが、表情までは読み取ることはできない。
ただ、その男はその俳優のような端正な顔立ちで俺の方をじっと見つめていた。
明らかに変な状況だと言うのに、なぜか俺はその男から目を逸らすことができなかった。
異様さを感じつつも、爽やかさすら感じる男の見た目に興味が湧いたのだ。
『おいで』
すると、男はそう言ってゆっくりと右手を上げて俺を呼ぶように、その白い手袋を嵌めた手で手招きをしてくる。
『いっちゃダメだ』
俺の本能がそう警告したが、なぜか俺はその手に吸い寄せられるように、一歩、また一歩と男に近づいていってしまう。
そして男との距離が数メートルになったその瞬間、男は静止した状態から一瞬で距離を詰め、俺に覆いかぶさるように俺を捕らえた。
「っっっっっっ!?!?!?!?!?」
咄嗟に叫ぼうとしたが、男はその白い手袋をはめた手で俺の口を塞ぎ、それを許してはくれなかった。
恐怖で身体が硬直する中なんとか逃れようともがくが、男の力は異常な程強くて全く歯が立たない。
その時、信じられないことが起こった。
俺を抱くように捕まえている男の黒い衣服の奥から、まるで生き物のように蠢く無数の白い手袋をはめた手が、ゾロゾロと現れ始めたのだ。
それらの手は一つ一つが意思を持っているかのように俺の身体を絡め取り、全身を覆うように這い寄ってくる。
ナイロンの手袋の冷たいような感触が絡みつくように全身を這い回り、恐怖で体がガタガタと震え始めた。
しかしそんな俺のことなど構うことなく男は俺の口を塞いだまま、その無数の手を俺の衣服の中にまで這わせ始めた。
シャツの裾、ズボンの隙間、衣服の至る箇所からまるで生き物のように滑り込む手袋の手達。
その感触に背筋に悪寒が走るが、男の手達は俺の身体の様々な場所を確かめるように触っていく。
恐怖で震えが止まらず、目を閉じたいのになぜか男の整った顔から目を離せない。
殺されると思ったその時、俺は予想しなかった感覚に襲われた。
白い手袋達が、首筋や腕、乳首や腹、太腿を這う、ゾワっと鳥肌が立つような、なんだかくすぐったいような、それでいてじんわりと身体が熱を帯びる甘い快感が全身に広がっていったのだ。
怖い!!!!!
こんなところまで一人で来なければ良かった。
後悔の念が押し寄せてくるのに、身体は違う反応を示していた。
その手袋達に与えられる快感に抗えず、訳が分からず勃起してしまっていたのだ。
恐怖で頭が混乱しているのに身体は正直で、その初めて自分ではないものから与えられる快感に抗えず、塞がれた口からは意味不明な喘ぎ声が漏れた。
そしてその快楽の中手袋達がパンツの中へまで入り、俺のチンポへと触れそうになったその時。
遠くから「悠斗! 悠斗!」と、聞き慣れたじいちゃんの呼ぶ声がした。
その瞬間、俺を覆っていた無数の白い手袋も、目の前の黒い服の男もまるで煙のように忽然と姿を消した。
恐怖と拘束から解放された俺は息を荒くし、その場にへたり込んでしまう。
全身の皮膚には鳥肌が立っており、怖かったのにまだあの快感の余韻が残っている。
そこに、息を切らしたじいちゃんが駆け寄ってきた。
俺は震える声で、今起こったばかりの出来事を懸命に話した。
男のこと、無数の手のこと。
流石に快感まで与えられたことは恥ずかしくて言えなかったけど、殺されそうになったと必死に伝える。
俺の話を聞くとじいちゃんの顔色は見るからに真っ青になり、その目は恐怖に見開かれ、普段の穏やかさからは想像もできないほどの形相で俺の手を掴むと、「帰るぞ!早く!」と、半ば引きずるようにして俺を家へと連れ帰った。
家に着くと、じいちゃんは迷わず仏壇のある部屋へと俺を連れて行った。
部屋には線香の香りが満ち、祖先の位牌が静かに並んでいる。
じいちゃんは俺を部屋の真ん中に座らせると、鬼のような形相で言い放った。
「なんで一人であんな場所に行った!!」
部屋にはばあちゃんも母さんもいて、心配そうな顔で俺を見ている。
「暇だったからちょっと散歩に…」
「一人で出歩くなと言っただろう!!お前が会ったのは『夜訪様』だ!!」
じいちゃんがそう言った瞬間、部屋にいたばあちゃんと母さんまで顔を真っ青にして悲鳴を上げた。
じいちゃんが言った『夜訪様』はばあちゃんと母さんも知っているらしく、この村ではかなり有名な話らしい。
俺ぐらいの年頃の男が一人でいると現れ、季節に合わない真っ黒な正装に白い手袋を嵌めた端正な顔立ちの男の姿で手招きして呼んでくる。
その姿はあまりにも魅力的で、手招きをされるとその誘惑に逆らうことは困難。
近づいたところで捕まえて印を付けると、その夜にその者の生気を奪いに来ると言うのだ。
昔から『夜訪様』の獲物になった男はいたらしいが、皆命までは奪われてはいないらしい。
だけど一度襲われてしまうと、皆おかしくなったかのように『夜訪様』を求めるようになってしまい、自ら『夜訪様』のいる山へ向かって帰って来なくなってしまったとのこと。
「いいか悠斗。何があっても今日一日、この部屋から一歩たりとも出てはいかんぞ。明日の朝になったら、お前は朝一の電車で家へ帰れ。そして二度とこの村には来てはいけない」
この部屋はご先祖様が祀られているお陰で、『夜訪様』も自分から開けて入ってくることはできないらしい。
一夜耐えて都会に戻れば、『夜訪様』も流石に俺の家までは追っては来ないだろうとじいちゃんは言っていた。
家の周りはじいちゃんやばあちゃん、母さんや村の人が朝まで見回ってくれることになって、俺はその部屋で一人で寝るしかなくなってしまった。
一人で寝ること自体は家でもそうだから問題ないけど、流石にこんな状況で一人でいるのは怖い。
だけどこうなってしまった以上仕方なかった。
その夜。
俺は仏壇の部屋の布団にくるまって、ガタガタと震えていた。
じいちゃんの真剣な言葉や、ばあちゃんと母さんの怯えた目を思い出すと、『夜訪様』のことが浮かんで眠ることができなかったのだ。
『夜訪様』はあの時俺に何をするつもりだったのか。
男の生気を奪うと言っていたが、あの身体を這う手袋達による快感とどう関係があるのか。
恐怖は勿論だが、まだ身体に奇妙で甘い快感が残っているせいで、余計に俺を混乱させた。
あのままじいちゃんが来なかったら、確実にあの手袋は俺のチンポへと触れていた。
快感の中チンポまで触られていたら、俺はどうなっていただろう。
既に性の知識もあるし、日常的に一人でシることはあったが、誰かに触れられることがあんなに快感だとは知らなかった。
怖くて怖くて仕方ないのに、あの感触やその先を想像すると、無意識にチンポが熱を持ってしまう。
そんな時だ。
静まり返った部屋に『コンコン』と乾いた音が響いた。
静かだった中急に音がなり、心臓が跳ね上がる。
もしかしたらじいちゃんかもしれないと、俺は布団から顔を出して音のする方へ恐る恐る目を向けた。
そこはこの部屋で唯一外と繋がる窓のある場所。
震える足で立ち上がると窓に近づき、そっとカーテンの隙間から外を覗き込む。
「ひぃぃいいいっっっ!!!」
そこには、昼間俺を襲ったあの真っ黒な服の男、『夜訪様』が立っていたのだ。
整った男の顔と目が合ってしまい、逃げようとするがその端正な顔から再び目が離せなくなってしまう。
そしてその男の背後には、夜の闇に浮かび上がるように窓一面に昼間に俺の身体を這った無数の白い手袋の手が浮いていた。
男はガラス越しに俺の目を見つめ、静かに、しかしはっきりと唇を動かした。
『あけて』
その声は昼間と同じように低くて甘く、誘うようだった。
それに呼応するように窓一面に浮く無数の白い手袋の手が、まるで俺の身体を這い回った時のように、いやらしく指をくねらせてねっとりと動き始める。
その動きが、俺の身体に染み付いたあの初めての快感を鮮明に思い出させた。
怖い。
そう思っているはずなのに、身体はあの快感を求めるようにゾクっと震えた。
理屈では説明できない衝動に駆られ、その男の端正で男らしい顔立ちと、いやらしく誘うように蠢く手袋達に、勃起していることに気づく。
ダメだ。
理性では分かっているのに、身体はあの快感を思い出して疼き始める。
それがまるで『夜訪様』が残した印のように手袋の動きに呼応し、身体が発情したかのように熱くなってきた。
開けちゃいけない。だけどもし開けたら、あの手袋達がまた俺を気持ち良くしてくれるかもしれない。
そう思ったら、手はゆっくりとその窓の鍵の方へと伸びていた。
決して強制されている訳ではないのに、誘惑に逆らえず鍵を開けてしまう。
あ、まずい…
一瞬その後悔が頭をよぎるがもう遅い。
あの抗いがたい快感に誘われるまま、俺はゆっくりと窓を開けてしまった。
少し開いたその瞬間、男によって窓は全開にされ、その無数の白い手袋の群れと共に男が部屋へと入り込んで俺に襲いかかってきた。
続きは7月27日に他プランでも公開予定
全文約10500文字
現在タバコプランにて先行公開中