新卒社員が入社し、1週間の研修後本配属となって1か月が経った。
今年の新入社員はグループ会社合わせて約300人。
営業であるうちの部署に配属となったのは、男女合わせて6人だった。
社会人が初めてで最初は緊張気味だった新卒達だが、部署に入って1か月経ったら周りに少し慣れ、最初よりは部屋に入ってくる姿から力が抜けているのが分かる。
俺は、そんな新卒達の部署内での教育担当だった。
毎年のことだが、教育担当は皆絶対にやりたがらない。
全体研修は受けているとは言え新社会人を教育するのは大変で、教えるだけでなく新卒のメンタルケアやミスのフォローなど、普段の仕事に追加で行わないといけないことが増えるのだ。
しかし皆がやりたがらない理由は別だった。
『新入社員1か月検査』
それは、入社して1か月後に行われる、新入社員の身体とメンタル部分に不調が無いかをチェックする検査だ。
アンケートや各担当との面談、簡易的な健康診断を行い、その結果によって新卒社員を辞めさせないようにするためのケアをするのが目的だった。
その1か月検査は、アンケートや面談は本社の担当が行うのだが、簡易的な健康診断の中の一部項目を、俺のような現場の教育担当が行う必要があった。
それは『足の匂いによる疲労とストレスのチェック』だ。
それは現場の仕事を1日終えた後の足の匂いをチェックし、疲労度とストレス度を測るチェックだった。
その項目はこの会社独自の指標であり医療施設では行われないため、現場の社員達が行う必要がある。
つまり、仕事終わりの新卒達の臭い足を、現場で教育担当に任命された者は嗅がなくてはいけないのだ。
嫌過ぎる…
うちの部署に配属になった6人の内、3人が男。
女性社員の足を男の俺が嗅ぐ訳にはいかないため、俺はその5人の足の匂いを嗅ぐ必要があるのだ。
女の足だって嗅ぐのは嫌なのに、なんで男の足の匂いなんて嗅がなければならないのか…
皆同じ考えのため教育担当にはなりたがらないし、敢えて出張を入れて逃げたりする。
そんな俺も絶対に嫌だと言ったのだが、候補者の中でのジャンケンに負けて俺が任命されてしまった。
そして今日が、その足の匂いをチェックする日だった。
足の匂いのチェックは、1日の仕事を終えた後に行う。
会議室に一人ずつ呼び、靴を脱いですぐの靴下を履いた状態の足を嗅ぎ、その臭さと匂いの種類をチェックリストに記入していくのだ。
しかもどのようにどのぐらい嗅ぐかまで細かく決まっていたりする。
鼻をしっかり足裏へと押し付け、3回深呼吸をするように嗅ぐ。
深呼吸の感覚はゆっくりとラジオ体操の時と同じように、そして押し付ける場所は足で一番強い匂いを発する、足指の付け根部分と決まっていた。
「はぁ…」
チェック項目を見ながら、嫌で自然とため息が出てしまう。
俺がチェックをしなくてはいけないのは3人だから他の部署と比べると多い訳ではないのだが、営業と言う仕事上他よりも歩くことが多いせいで足が臭くなりやすく、それを知っているからこそ嫌で仕方なかった。
しかしこれも仕事だし、教育担当に任命されるのは評価にも良い方向に響くため、やるしかないと心の中で気合を入れる。
「よし」
そう声に出すと、俺は最初の対象者の名前を呼んだ。
【佐伯鉄平】
最初の対象者は佐伯だ。
学生の頃はラグビーをやっていたらしく、黒髪短髪の男らしい見た目な上に身長も高く、ガタイも良いせいでいつもスーツがピチピチになっていた。
体育会系らしく先輩には従順だし、見た目通り声もデカくて度胸もある。
商品の詳細を覚えたり、メールのやり取りをするのは凄く苦手のようだが、元気でハキハキと話す姿は凄く営業向きで相手先からの受けも良い。
今日も一日先輩社員について回り、取引先へ挨拶回りに行っていたはず。
「取り敢えずイスに座ってくれるか」
「うす!」
俺の指示通りそのデカい身体を動かして俺の前に用意された椅子へと座ると、背筋を伸ばして俺の方を見てくる。
「今日やることは分かってるよな?」
「説明は受けてます!先輩に俺の足を嗅がせるなんてちょっと申し訳ないすけど…俺凄い足臭いんすよね」
頭を掻きながら申し訳なさそうにする佐伯。
内心『まじかよ』と引きながらも、新卒に気を遣わせるのは検診として良くないから、決してそれを表に出すことはしない。
「大丈夫だよ。これも仕事だし、佐伯は気にしないで足を出してくれれば良いからさ」
そう言って俺は、椅子に座った佐伯の方へと移動して足元にしゃがんだ。
佐伯の身体同様デカい足は、まだ新しいが手入れをしていないからか既に皺が沢山ある黒の革靴が履かれており、そこからストライプの黒いビジソに包まれた足が伸びていた。
今日一日社内にいなかった佐伯の足は、ずっと歩いていたせいできっとこの革靴の中で蒸れているだろう。
それを今から嗅ぐと考えただけで気分が悪くなりそうだった。
「じゃあ脱がせるから足を上げてくれ」
「うす!」
上げられた足の踵を左手で支えると、そのまま脱がせるために右手で革靴を掴んで引っ張った。
カポっと言う革靴から空気が抜ける音と共に、そこから生暖かい湿り気のある空気が俺の顔の方へと広がっていく。
めちゃくちゃ蒸れてる…
嗅ぐ前からそれが臭いであろうことが分かり、思わず顔が歪みそうになるのを必死に抑える。
足裏は革靴の中で擦れて足型にテカっており、足汗の染みで漆黒になった箇所とのコントラストでその巨大な足が浮き上がっていた。
「じゃあチェックするから、佐伯はリラックスしてて良いぞ」
「分かりました!」
佐伯のその返事を聞くと、俺はその黒のビジソに包まれた佐伯の足裏へと鼻を押し付けた。
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