昔から人前で話すのは好きじゃなかったし、笑顔を作るのもぎこちないし、ハキハキと話すことも苦手だった。
しかし研究職で入社したのに、入社3年目の異動で着任したのは営業の部署。
そしてこの部署は、他の部署にも噂が広まる程に悪質な部署だった。
上司からのパワハラは横行しているし、同僚も営業の成績でピリピリしているせいで協力体勢は無し、そして成績の悪い人間は社内での人権は無いに等しかった。
会社としてその部署は問題視なれていない訳ではないが、その脅迫にも近い上司からの圧力によって売り上げはかなりの額となっており、そのせいで会社としては見て見ぬ振りをしているのだ。
コミュニケーションが得意では無い俺のような人間はこの部署にはおらず、完全に体育会系の連中しかいない。
日々元気に挨拶回り、職場ではどんな部署の人間相手でも楽しそうに話し、仕事終わりには取引先の女の子達と合コン三昧。
そしてどの部署のどの子と喰っただの、笑いながら仲間内で盛り上がっている。
完全に俺とは住む世界が違う人間達だった。
なんで陰キャの俺がこんな部署に配属になったのか甚だ疑問だが、俺に異動を命じた人事担当を本当に心から恨んだ。
配属になってから最初の3か月は新人期間だったから成績云々よりも、営業のいろはを学ぶ期間になるのだが、正直元々のコミュ力あってこその手法と言う部分が大きい上に、先輩も忙しくて全く協力的ではないため、自分で見よう見まねでやっていくしかなかった。
そんなんでちゃんと仕事を学べるはずもなく、ほとんど売り上げの無いままその3か月の新人期間が過ぎていった。
そして4か月目。
俺は一人前として、社内に張り出されている売り上げ表にも自分の名前が書かれるようになった。
先輩に聞いた話によると、毎月売り上げが最下位の人間には月末の終礼後に罰ゲームがあるらしい。
その月の売り上げ1位の人間が内容を決めるため、毎回罰ゲームの内容は違うものの毎回過酷らしく、それが嫌でみんな死ぬ気で頑張っていると言っていた。
新人期間はその月末の終礼に出ることが無かったため、今までどんな罰ゲームがあったのかは分からないが、成績が悪いやつの人権がほぼ無いこの部署のことだから相当の内容なのだろう。
そして4か月目の今月。
当然ながら俺は売上が最下位となってしまった。
「今回の1位は樋山だ。3か月連続1位おめでとう」
「あざっす!」
売り上げ1~3位までの人間には会社からボーナスが与えられるため、月末の終礼は表彰式のようだった。
20人程の部署だが、皆が皆とんでもない売り上げを叩き出しているため、その中での1位は素直に凄いことだと思い、表彰されている樋山先輩には素直に拍手を送る。
端から見ただけでも出来る男オーラが凄く、いつもスーツをピッシリと着ていてかっこ良い。
そんな先輩は社内外問わず女の人からの人気が高く、仕事終わりに女の子と遊んでいると言う話を特に多く聞いていた。
今まで一言二言業務の関係で話したことはあるものの樋山先輩とはほとんど絡んだことは無いが、きっと住む次元の違うこの人とはこれからも仲良くなることはないだろう。
「今回の最下位だが…奥澤!!前へ出てこい!!」
そんなことを考えていると、前に樋山先輩が出ている中表彰をしていた部長の怒声で呼ばれた。
突然のことにビックリしながらも、最下位の俺がこのまま終われる訳もないと思っていたため、俺は覚悟を決めて前へと出て行く。
「もうお前も一人前だと言うのに、この売り上げはなんだ!!仕事をしないでサボってるんじゃないだろうな!!」
「い、いえそんなことは…」
うちの営業の基本は外回り。
いくら外の天候が悪くても、足で歩いて会社を回ってなんぼの世界だった。
今月は夏の暑さが本格的になってきたのもあり、体力の無い俺にはとてもキツいものではあったものの、それでもサボりなんかせずに必死に外回りを続けていた。
それが結果に全く結びついてはいないが…
「売り上げの無い人間はただの給与泥棒だ。他の連中が売り上げを立てているお陰で会社の利益になり、お前への給与が支払われていることを忘れるなよ!!」
「は、はい!」
自分の中で出せる最大の声で返事をし、俺は必死に頭を下げた。
「そんなお前が来月頑張れるように、今からお前に罰を与える。おい樋山。最下位への罰は決めてあるか?」
「勿論決まってるっすよ」
「よし、ではこいつに説明の上で実行しろ」
「オッケーです。えっと、奥澤だっけ?」
「は、はい!」
部長に言われてニヤニヤと笑いながら俺の前へと立ったのは、先ほど1位で表彰された樋山先輩だった。
健康的に日に焼けた肌、ワックスで整えられたツーブロックの短髪、そしていかにも高そうなスーツを着て高級そうな革靴を履いた樋山は、近くに来ると男物の香水の香りがフワッと香ってくる。
そして今日も一日仕事で外を回っていたからか、その香水の香りの中に汗の匂いも混ざっていた。
「罰ゲームのことは聞いてるか?」
「は、はい。聞いてます」
「なら話しは早いな。これから奥澤には俺の足を嗅いで貰うな」
「えっ?」
一瞬何を言われたのか理解できなくて素で返事をすると、他の営業連中が笑って野次を飛ばしてくる。
「はははっ!新人にそれは可哀想じゃね?」
「まぁ営業の基本は足だからなぁ。樋山の足を嗅げば少しはご利益あるだろ」
「ってか樋山の足の匂い嗅ぐとか嫌過ぎるわ」
口々に勝手なことを言い始める部署の先輩達。
「少しは俺の足を見習って欲しいってことで。俺のくっせぇ足嗅いで、少しは自分の努力が足りないことを自覚して欲しいんすよねぇ」
そしてそれに笑って答える樋山先輩は、俺に足を嗅がせることを罰ゲームに決めたらしい。
正直めちゃくちゃ嫌だ。
ただでさえ革靴は蒸れやすいと言うのに、営業終わりの足の匂いなんて想像しただけで吐き気がする。
「えっと、足を嗅ぐってどういう意味でしょうか…?」
「そのまんまの意味だって。じゃあ早速始めるんで、皆さん手伝ってくれます?」
俺が聞き返すも樋山先輩はそれを簡単に流し、他の先輩達になぜか声を掛けた。
「オッケーオッケー」
「こいつのこと押さえとけば良いんだろ?」
「じゃあ俺は口塞いでてやるよ」
「え?え?ちょっ、うわぁあっっ!!」
そして樋山先輩に頼まれた他の先輩達が、俺を後ろから羽交い絞めにして床に倒してくる。
「んぐっっ!!」
羽交い絞めのまま床に尻をついて座らせられると、そのまま他の先輩に足に乗られて押さえられ、口まで手で塞がれてしまった。
そしてそんな俺の近くに、ニヤッと嫌な笑みを浮かべて近づいてくる樋山先輩。
「俺の努力の証、ちゃんと堪能しろよ」
樋山先輩はそう言うと履いていた革靴を脱ぎ、その中から黒いソックスを履いた足を引き抜いた。
現れたのは足裏が摩擦で白くテカり、見るからに足汗がたっぷりと染み込んだ臭そうな黒いビジソ足。
見ただけでその臭さが伝わるその足に、思わず顔が引きつってしまう。
「じゃあ俺の頑張った証のくっせぇの、たっぷり嗅げよ」
黒いソックス越しに足指をグニグニと動かしながら、樋山は俺の顔にその足裏を押し付けた。
続きは3月9日に他プランでも公開予定
現在タバコプランにて先行公開中
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