なんでだよ、こいつ!全然近づけねえんだけれど。
武虎は息を切らしながらも、すでに体に浴びた無数の打撃を、さも効いていないようにふるまった。
最初の不意打ちで使ったタックルも、今は狼に動きがばれているため余裕でかわされる。その上、狼の反撃を喰らうおまけもついてくる。
かといって、攻撃するために不用意に近づけば、攻撃をかわされた瞬間パンチやキックを連続で浴びることになる。
そのため、武虎から狼へ近づくことはできないのに、逆に狼は好き放題に武虎に攻撃ができる状況となっていた。
狼は、前後のステップで自由に武虎との距離を詰めたり離れたりしながら、パンチやキックで攻撃部位を上下、左右に散らし、しなやかな動きで武虎を翻弄する。
だから、上なのか、下なのか、どこから攻撃がやってくるのかわからず、狼の攻撃を警戒する武虎は、自分の攻撃するタイミングがつかめず焦りを覚える。
「なんだよこれ、全然手も足も出ねえじゃん」
イライラしながら、武虎は小さな声でつぶやいた。
なんでだよ!オレの方が強いのに、なんでオレの方が弱いみたいになってんだよ。
武虎はガードを固め、狼の攻撃を見極めようとする。
くそっ、まるでオレがあんな弱そうなやつにおびえて、守りに入っているみてーじゃん。
「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ!」
狼の声が聞こえたのと同時に、一瞬で武虎の眼前に狼のパンチが飛んでくる。
武虎は息をのみ、狼のパンチを何とかガードをするが、圧に押されて後ろにさがってしまい、そのままの勢いで撃ち込まれるパンチの連打に、リングサイドまで追い詰められる。
ドスッ!
「うっ!」
武虎は、顔のガードで腹にパンチを喰らい、
ガッ!
「ぐあっ!」
腹を守ったら、顔にパンチが当たる。
ズドッ!
「ぐおおっ!!」
しかも、その一つ一つの打撃は、体の奥まで貫かれるような強烈な威力。
ダスッ、ダスッ、ゴッ、ダダッ!!!
「ぐっ、ぐおっ、うっぐっ、…うぐあああああっ!!」
腹、顔、腹、顎、と、テンポよく武虎に打撃が決まる。
武虎は眼を見開き、狼の攻撃を見定めようとするが、全く予想がつかない。
なんだよこれ、なんだよ、ふざけんなよ!!
明らかに一方的な試合展開となり、すでに何十発と狼の攻撃を浴び続けた武虎。
だが、武虎は反撃のチャンスを狙い、大振りのフックや雑なストレートを打ち込み続ける。
「オラッ!喰らえよ、オラッ!!」
しかし狼は、武虎の攻撃を余裕でよける。
そして、大振りの強烈なフックを、武虎の頬に打ち込んだ。
「ご、あっ…」
視界が揺らぎ、そのままリングの上に崩れ落ちる武虎。
しかし、すぐに立ち上がり「今の、すぐに立ったからノーカウントな」と言った。
「いい加減にしろよ。何回目のノーカウントだって」と、あきれたように狼は答える。
そう、すでに武虎は3回以上のダウンをしていたのだが、すぐに立ち上がることで、ダウンをなかったことにしてしまう。
狼は、うんざりした表情で「力の差は歴然だ。もう、オレの勝ちで納得しろよ」と言った。
「うるせえよ!ぜんぜんオレの方が勝てる流れだぜ」と言いながら、武虎はまだあきらめてはいないようだった。
なんだこいつと、狼は困惑した。
ダウンを3回以上立て続けに奪われたら、自分だったら、完全に心が折れているだろう。
そもそも、向かい合って相手のパンチを一度受けた瞬間に、相手の強さは大体想像がつくものだ。
こんな、自分の負けが決まっている闘いなんて、絶対にオレはしない。
そんなのは無様で格好悪いし、すぐに負けを認めたほうが潔いと思う。
だから、オレだったらこの後一度も当らないパンチやキックを振い続けることなんてできるわけがない。
それなのに、こいつ…。
ただのバカなんかじゃなく、計り知れないレベルの大バカなんじゃないのか。
何回ダウンを奪っても、立ち上がってなかったことにされてしまうのなら、もう、完膚なきまでに叩きのめして、ノックアウトさせるしかないのだろうかと、狼は思った。
見ず知らずの相手だと多少手加減していたけれど、いい加減終わりにしてやろう。
そう思って武虎の顔を見ると、口元に笑みが浮かんでいることに気が付いた。
狼は一瞬驚き、目を見開く。
「なんで、笑ってんだよ、金髪」と狼は言った。
武虎は「は?や、なんでだろう」とつぶやき、それから「楽しい、から?」と疑問形で答える。
「は?」
何言ってんだ、こいつ、と狼は思った。
さっきまでイラついてオレにぶち切れて、反則しまくって、そのあとは散々オレから打撃を喰らいまくったのに、何が楽しいだよ。
「そっか、そうだよ。オレをここまで追い詰めるなんて、お前は、すげえよ」と、武虎は言った。
「そうだよ、オレが弱いんじゃなくて、お前強いってことなんじゃん!なんだ、そういうことかよ。じゃあ、しょうがねえよな」と言いながら、武虎はどこか悟ったような表情を見せる。
しかし武虎は「でも、結局勝つのはオレだぜ!オラ、喰らいな!」と言って、ダッシュ、そしてジャンプし、狼に向かってとび蹴りを決めようとする。
しかし、狼は軽く横に体をそらすだけで武虎の蹴りははずれ、そのままバランスを崩し床に倒れる。
「だっ、いってー!」と言って、武虎は床で目を回しているので、呆れた顔で武虎を見下ろす狼。
しかし、この流れは武虎の想定内の行動だった。
よし、こいつに攻撃できる射程範囲に入ったぜ、チャンスは今だ!
武虎は、油断している狼へ、起き上がりと同時に足を延ばした。
ドスッ!!
起き上がりと同時に蹴りあげられた武虎の足は、狼の顎へとクリーンヒット。
大きく頭をのけぞらせた狼は「くっ…」と声を漏らし、そして、頭や足元をふらつかせる。
「よっしゃ!決まったぜ!」と叫び、武虎は狼に向かって追撃をしかけようと近づく。
「かかったな…」
武虎の雑な大振りストレートを、狼は軽く屈んで避ける。
そして、そのまま武虎へボディアッパーを打ち込んだので、油断していた武虎は「ぶぶっ!」と唾を飛ばしながら声を漏らし、膝をつく。
武虎の完全に力の抜けていた腹に、重いボディアッパーが撃ち込まれたため、武虎の臓器がもろに打撃を受け、強烈な痛みに心臓がバクバクと拍動し、呼吸も荒くなる。
「お前のやり口、まねさせてもらった」と言って、狼の口元に笑みが浮かぶ。
なんだよ、こいつ、オレをハメやがったのか!?
そういえばさっき、オレの蹴りを喰らったふりして、体をそらしてダメージをうまく逃がしていっぽくね!?きったねー!!
焦った武虎の脇に身をかがめた狼は、軽く早いジャブを武虎の顔に打ち込む。
「ぶっ!」
さらに素早く淡々と、右のジャブを何度も何度も武虎の顔に打ち込む。
「ぐっ、ぶっ、うっ、ぶっ!や、ちょ、止めっ、うっ、うっ!」
淡々とパンチをうつ狼の顔は少しだけ楽しそうで、武虎はイラつきながらもパンチで狼のジャブをたたき落とし、そのままミドルキックを放つ。
しかし狼は、武虎の足を自分の体と腕で挟み込み、そのまま武虎を奥へと押し込んだ。
「おっ、おっ、わっ!」と、武虎は足をつかまれたままステップを踏むように後ろに下がり、背中はリングサイドに押し付けられる。
そして「そろそろ、決めさせてもらう」と、狼は小さくつぶやくと、武虎の顔面に狼の容赦のない重いパンチの連打が始まった。
「うっ!ぐっ、ぐあっ!うっ、あっ、ぐあっ…!」
背中はロープ、目の前は身を乗り出してパンチを放つ狼。
しかも、狼の表情は真剣で、目を見開きながら連続でパンチを打ち込んでくる目が、武虎には、獲物に止めをさそう襲い掛かってくる凶暴な狼のように見えた。
先ほどとは比べ物にならないパンチの威力に、武虎はおもわず「うっ、おっ…」と声を漏らし、意識を飛ばしそうになりながらも、後ろ手にロープに腕を引っかけることで、ダウンを免れようとする。
「これだけ連続でパンチを喰らって倒れないなんて、見上げた根性だ」と狼はいいながら、武虎の両肩を掴む。
反射的に武虎は狼の肩を掴むが、その瞬間に狼は武虎の腹にむかって、躊躇なく強烈な膝を撃ち込む。
「ごっ…あっ…!」
強烈な痛みに思わず口から唾液を散らし、目を見開く武虎。
さすがにこれは、効いたぜ…。
てか、こいつのキックボクシング、マジですげえ…。
武虎の視界がゆれ、体中が痛みでさすがに限界を感じ始めていた。
しかし、まだあきらめたくないとも思った。
必死でロープに寄りかかりながら、武虎はダウンを避けようとする。
なんだこいつ…。
これだけ攻撃を受けても、倒れないなんて、なんてスタミナだ。
そう、狼は驚きながらも、もう一度武虎の腹に追撃の膝を打ち込むことで、とどめを刺そうとした。
「うおおおおおおおお!」
そこで突然、雄たけびを上げながら武虎は狼にしがみついた。
またクリンチ!?
そう思い狼は、ロープの方へ武虎を押し返す。
すると、武虎の力の抜けた上半身は、簡単に仰け反った。
「なんだよもう、闘う力は残っていないじゃないか」と、狼が気を抜くが、その瞬間武虎の体の筋肉がぴくっと動いたことに気が付いた。
そして一瞬で、武虎の仰け反った頭が勢いよく降り下ろされ、狼の顔面に向かって飛んできた。
第3話は狼の反撃と、武虎の根性が見どころになるように描きました。
悪役武虎はルール無用で狼を追い込むけれど、練習をしっかりとこなす狼の前に、実力差が出て手も足も出ませんでした。
そんな二人の闘いも、次回で決着です!
闘いの末、どちらが勝つのか。
ショウ
2021-04-22 14:32:12 +0000 UTCdaipin
2021-04-21 13:00:44 +0000 UTCショウ
2021-04-18 13:20:22 +0000 UTCミケ空
2021-04-18 08:57:17 +0000 UTC