「闘うにしても、軽くスパーリングする程度にしよう。別にオレは、本気でやりあう気はないし」と狼は言った。
すると「へいへーい」と言って、武虎はグローブを付けた手を振り、適当に答える。
「あと、始める前に、一応キックボクシングのルールを確認しておこう」
「ルール?」と言い、武虎は眉間にしわを寄せる。
「そう、とりあえず反則技についてだ。まず、頭突きやローブローは反則になる。あと、投げ技や関節技ももちろんダメだし、絞め技、寝技、タックルもダメで…」
「はあ?なんだよそれ。あれもダメこれもダメって、じゃあ、なんもできねーじゃん!?」と、武虎は大げさに両手を振り回し、不満を漏らす。
「でも、ルールはルールだ。あと今回は、肘での攻撃も禁止にしよう。首相撲もなしだ」
「相撲?相撲なんてやんねーよ」
「相撲じゃない、首相撲。相手の首を、こんな感じでつかむんだ、それで…」と、狼は相手の首をつかむしぐさで説明しようとするけれど、武虎は「知らねーし、そんなのやんない。ってか、マジでルール多すぎない?キックボクシングって、つまんねーんだな!」と言って、話を聞こうとしない。
「まあ、いいよ。とりあえず軽く闘ってみて、どっちが強いかわかればいいんだろう?」
「軽く?」と武虎はつぶやき、それから「まあ、な」と言って、唇を軽くなめる。
「じゃあ、早くやろうぜ」と言った武虎の目つきは鋭くなり、「わかった」と狼が答える瞬間、隙を突くように突然武虎が狼に向かってタックルをかます。
「ぐっ…!」と、狼は声を漏らし、よけきれず弾き飛ばされるようにバランスを崩し、膝をつく。
狼はすぐに起き上がり「タックルはダメだ」と警告するが、「知らねえよ、てめえのルールなんてよ!」と言って、姿勢を低くした武虎は再び狼に向かって再び思い切りタックルを喰らわせる。
「うわっ!」
狼は姿勢を立て直すことができず、そのまま後方へふっとばされる。
そして、ロープをつかんで立ち上がり、自分がリングサイドまで追い込まれたことに気づく。
なんだよこいつ、むちゃくちゃだ!
「こんなの、キックボクシングじゃないぞ!」と狼は声を荒げる。
しかし、予想通りの反応と言わんばかりに、武虎は口元に笑みを浮かべる。
そして何も答えず、躊躇なくロープ際の狼に向かってタックルを繰り返すので、狼はガードして衝撃に備え続ける。
そんな狼の隙を突くように、武虎は突然、狼の体を両腕で抱きしめる。
狼は驚き、武虎の腕をほどこうとするが、筋肉質で力強い武虎の腕をほどくことができず、じたばたと体を動かすが、余計に体が締め上げられて、身動きが取れない。
呼吸が苦しくなった狼は「はあ、はあ」と荒い呼吸となり、顔を赤らめる。
「おいおい、もう降参モードかよ、弱すぎんだろ!」と声を荒げる武虎の顔は楽しげだった。
そして武虎は、苦しげな狼を締める腕をほどくと、ロープに狼の体を押し付け、「行くぜ!」と叫びながら思い切り頭突きを喰らわした。
「が、はっ…!」
痛みに思わず声を漏らす狼。
武虎の頭突きは鼻へ直撃し、強い熱が顔の中央に集まり、そして強烈な痛みが広がっていく。
「うあ、あぁぁぁ…」
鼻血をながしながら、狼は苦しげなうめき声をだし、体を震わせる。
狼の耳元へ「まだ、続きがあるぜ」と、武虎の低く湿った声が聞こえてくる。
次の瞬間、強い衝撃が、自分の股間へと撃ち込まれる。
「ぐおっ!ああああああぁぁぁぁ!!」
あまりに痛みに狼は叫び声をもらし、口から唾液がこぼしながら、膝から崩れ落ちていく。
蹴られた股間を両手で押さえながら苦悶の表情を浮かべる狼。
武虎の膝が、狼の股間へ思い切り打ちこまれていたのだ。
「ははっ、股間ガードすんのつけてもかなり痛てーだろ、ざまあねーぜ!」と武虎は自分の足元でうずくまる狼を見下ろして余裕の表情。
「くっ…、お前、卑怯なことしやがって…」と、痛みに股間をおさえながら、武虎を見上げる狼。
眼を見開き、興奮した表情の武虎は「卑怯だ?知らねえよ!」と言って、それから「よっこら、せっ」と、ゆっくりと狼の上に馬乗りになる。
「くそっ。それだって、反則だぞ!」と必死で狼が叫ぶが「うるせえよ、黙れ」と冷たい声をだし、狼の顔面を一発殴ってみる。
ばしっ!
「ぐっ!」
「ダセーこと言ってんなよ。結局お前、クソザコじゃん」といって、狼の顔を一発、また一発と、丁寧に殴っていく。
「弱いやつに発言権なんて、ねーんだぜ?知らねえの?ま、オレのルールだけれど」と言って、狼の顔を見つめながら何度も、何度も、殴り続ける。
「くっ、うあっ、ぐあっ…」
狼はグローブで顔をガードするが、武虎は体を前のめりに、狼のグローブの隙間を狙って、何度も顔にパンチを打ち込んでいった。
武虎を振り落とそうと、狼は下半身を持ち上げる。
しかし、武虎は下に落ちず、顔面にパンチを浴び続けた。
くそ、マウントポジションのバランスが良すぎる、こいつ、まさか、やり慣れているのか。
どうやっても逃げられず、殴られ続ける状況に、狼は絶望する。
「うあっ、あっ、くっ、んんっ、うっ…」
グローブの隙間から、殴られた肌が赤くはれ上がり、悔しげに眼を細める狼の顔や、パンチを受けた瞬間の苦しげな声をきき、武虎は妙な感覚を覚える。
え、なんだコイツ、妙に色っぽい顔しやがる…。
てか声も、なんか、すげえ、たまらねえんだけれど…。
初めて感じた自分の変な気持ちに、武虎は一瞬腕を止める。
なんだこれ?この感じ。
それから自分のグローブを見つめてから、涙目で苦しそうに武虎を睨みつける狼の瞳の色を見て、再び気持ちが高る。
コイツのきれいな顔、もっと、無茶苦茶にしてやりてえ…、という、心の内側から湧き出る衝動があふれ出す。
バシッ、 「うっ」
ガッ、 「ぐっ!」
ダスッ、 「うああっ!」
雨音しか聞こえない静かなジム内には、打撃音と、狼の悲鳴が淡々と響き続けた。
どれだけ殴っても、ガードの隙間から狼の悔しそうな目が武虎に向かい続ける。
お前、その目、なんだよ!なんだよ、それ。
「オラオラ、泣いても許さねーっていっただろ!もっと、もっとやってやんよ!」
次第に武虎のパンチの速度が上がっていく。
「うあ、ぐっ、うああっ!」
顔中にパンチを浴びながら、悲鳴を上げ続ける狼だったが、次第にガードが緩み、殴られても声が出なくなり、最後は、力なく「ぐっ…あっ…」と狼の息をもらす声が聞えたところで、武虎は「よっしゃ、オレの勝だぜ!」といって、両手を上げて立ち上がった。
そして、狼を蹴り飛ばし「オラ、ザコが!」と言って足で頭を一度踏みつける。
それから、ヤンキー座りをして「偉そうなこと言って、弱いな、お前」と、狼を見下ろす武虎。
「くそ…。反則ばかり、しやがって…、恥ずかしく、ないのか」息も絶え絶えに、狼は武虎を非難した。
「だから、反則とかルールとか、知らねえよ。ケンカにルールなんてあるかよ、バーカ」と言って、舌を出す。
悔しげに眉間にしわを寄せる狼。
武虎は再び立ち上がり、狼の頭を踏みつけようとする。
だが、目を見開き、踏みつけられた武虎の足を両手でつかむと、思い切り引っ張り、武虎を引きずり倒す。
「だっ、痛ってーな」
「まだ、オレは、負けてない」と言って、狼はゆっくりと立ち上がる。
「続きをやるぞ、金髪」
「金髪じゃねーよ、オレ武虎って言うんだって」
「反則ばかり、しやがって。タックル、頭突き、ローブロー、マウントポジション、どれも反則だ!こんな卑怯なマネされて、このままやられっぱなしで、引き下がれない」
口調は静かだったが、狼の目の奥に強い光を感じた武虎は、一瞬びくっとした。
武虎はそのびっくりした感情を隠すように「なんだよ、鼻血出してカッコつけてんじゃねーよ。ザコ君よー」と、余裕の態度を見せてみる。
実際立ち上がった狼の足元はふらついており、これ以上闘うことができるようには見えなかった。
「弱ったザコをいたぶるのは、オレの趣味じゃねーんだけれど」と言って、武虎は片手のグローブを外し、赤いタンクトップを脱いで、上半身をさらす。
「まあ、そこまでオレにボコボコにされてーなら、意識飛ぶまで、やってやるよ」と言って、脱いだタンクトップをリングの外に放った。
そして、あらわになった胸や腹筋の筋肉の隆起を見せつけるように、武虎は自分の胸や腹をなではじめる。
「黙れ、金髪反則野郎」といって、狼は両足でしっかりと床を踏みしめ直す。
そして、まだ痛む下腹部を庇うように、少しだけ体は前かがみになりながら、切れた口元の血を腕で拭った。
「もう、手加減はしない」と言って、ぎらついた眼で武虎を睨みながら、狼も片手のグローブを外すと、着ていたトレーニングウェアを脱いで、リングの外に放った。
引き締まった白い体は、激しい呼吸で胸や腹が大きく動いていた。
「これからお前を本気で倒すから、覚悟しろ」
武虎のルール無用の乱暴に、ぼろぼろにダウンする狼。
反撃を決意する狼ですが、このまま負けるのか、勝てるのか。
続きをどうぞ、ご覧ください!
ショウ
2021-04-11 01:27:06 +0000 UTCミケ空
2021-04-10 14:09:13 +0000 UTC