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阿井上夫
阿井上夫

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ボテリリ(R-18)

「ようやく追い詰めました! もう逃げ場はありません、おとなしく投降してください!」


リリ・アーカイヴは逃亡を続けていた犯罪宇宙人を袋小路へと追い詰めると、左腕に装着したブイレスを相手に突きつけた。

ここ最近頻発している女性の失踪事件。内偵を進めていた警備隊はようやく容疑者を特定し、長い捜索の末ついに見つけ出すことに成功した。


「へへ…、どうかな……。追い詰められたのは案外そっちかもしれないぜ……?」


逃げ場のないはずの男は、しかし余裕の表情を崩すことなくリリと対峙する。

その態度からリリは相手の罠を警戒しながら、じりじりと間合いを詰めていく。


「俺様を殺せば他の女たちの居場所はわからなくなっちまうぜ……? お前さんたちもそれは困るんじゃねぇか……?」

「……命まで奪うつもりは初めからありません。あなたは捕縛して警備隊の本部へ連行します」

どうやら相手はこれまでさらった女性たちの情報を盾にするつもりらしい。

だがそれは捕縛した後に尋問して情報を吐かせればいいだけのことだ。

リリは男を拘束するため近づこうとしたが……


「……シャァッ!!」

「くっ!?」


突然男の方からリリに飛びかかってきた。

どこから取り出したのかその右手にはナイフが握られている。

しかし相手の動きを警戒していたリリは紙一重で奇襲をかわし、すれ違いざまに相手の足を払って転倒させる。

警備隊の中ではそれほど戦闘力の高い方ではないリリだが、それでもブイレスで変身した状態なら生身の相手に後れを取るほどやわではない。

男は「ぐぇ!?」と間抜けな声を上げて地面に顔から倒れ込んだ。

リリは「ちょっとやり過ぎたかな……?」とわずかに相手の心配をしながら地面に転がるナイフを遠くへ蹴り飛ばした。

そしてあらためて男に近づくが、相手はすぐに立ち上がり相変わらず余裕そうな顔をしていた。


「へへ……、やるじゃねぇか……。俺様の攻撃をかわすとは……」

「えっと……、鼻血出てますよ……」

「おっと、俺様としたことが……」


腕で鼻血を拭う宇宙人に向けてリリは再びブイレスを向ける。


「これが最後の警告です。おとなしく投降してください。さもなくば力ずくで拘束させてもらいます!」


リリは表情を険しくして最後の通告をする。

できれば手荒な真似はしたくなかったが、相手が大人しく投降しないなら実力行使に出るしかない。さらわれた女性たちを救出するためにもリリは覚悟を決めた。

そんなリリを嘲笑うかのように男は口角を上げると、おもむろに右手を上げ手のひらを上に向けた。

今度は何をするつもりなのかと警戒するリリ。

すると何も乗っていなかった手のひらの上に突然小さな小瓶が現れた。


「……っ!? 今のは……?」

「へへ、どうよ。こいつが俺様の特殊能力『物質転送』よ!」


なるほど、先程のナイフもその能力で現れたらしい。

そしてあの能力があれば女性を次々とさらうのも容易いことだろう。

やはりこの男を野放しにしておくわけにはいかない。


「驚くのはまだ早いぜ。こいつが何だかわかるか?」


そう言って男は右手の小瓶をこちらに見せつけてくる。

透明なガラスの小瓶の中には乳白色な液体が入っていた。

いや、液体というには少し粘り気があるようにも見えるが……。


「へへへ、こいつはな、ある闇ルートから仕入れた人口精液だ!!」

「せ、せい……っ!?」


突然出てきた性的な単語に、そういった方面への免疫が低いリリは顔を赤くする。

初心な反応を見せるリリに対して男は言葉を続ける。


「今まで女たちをさらってたはな、こいつを完成させるためのモルモットになってもらうためさ。実際に使ってみなきゃ効果がわからないからなぁ」

「そ、そんなことのために……! 許せないッ!!」


義憤に駆られたリリは男を力ずくで捕まえようとしたが、そこで身体に違和感を感じた。

下腹部の奥が妙に疼くような気がしたのだ。

最初は気のせいかと思ったが、その違和感は次第に大きくなり無視できないレベルになっていく。


(お、腹の奥で何かが……蠢いているような……、これは一体……?)


「おやぁ、どうしたんだ? なんだか顔色が悪いぞ?」

「な、なんでもありません! ……んッ、……うぅ……」


困惑するリリに向けて男はとんでもない爆弾を落とす。


「あぁ、そうそう。言い忘れてたけど、こいつと同じものをさっきお前さんの子宮の中に転送させてもらったぜ」

「…………え?」

リリは相手の言葉の意味が分からず呆然としてしまう。


(転送……? 私の…中に……? 何を……?)


理解が追い付かない。

いや、頭が無意識に理解することを拒んでいるのだ。

しかしますます大きくなる下腹部の疼きは、リリに残酷な現実を突き付けていた。

相手の言葉が間違いなく事実だと。


「ピンポイントで転送するには相当近づかなきゃいけないのが難点だがな。さっきの攻防の時に送り込んでやったのよ」

「……ッ! い、今すぐ戻してください! は、早く……っ!!」

「残念ながらそいつは聞けないお願いだなぁ。……おっと、怖い顔すんなよ。俺様にももう無理なんだ」


リリは自分の胎内に転送された人口精液を再び体外に出すよう求めたが、相手は悪びれる様子もなく両手をひらひらさせながら話し出した。


「さっきも言ったが、そいつはとある闇ルートから手に入れた代物でな。普通の精液とは全くの別物なんだ」


曰く、この人口精液は繁殖力の高い怪獣や成長の早い宇宙人の遺伝子を掛け合わせて作り出されたものらしい。

具体的に誰が何のために作ったのかは目の前の男も知らない。

さらった女性を仲介人を介して送り、その見返りとして高額の報酬とこの人口精液のサンプルをもらったのだと。


流暢に話す男だったが、リリは話の内容を半分も聞いていなかった。


「くぅ……、んッ! ……ふぅ、ふぅぅ……ッ」


下腹部から感じる疼きはますます大きくなっていく。

身体が熱く、それなのに冷や汗が止まらない。

この人口精液は注がれた母胎が確実に妊娠するよう遺伝子調整を施されていた。

リリの子宮内に直接転送された人口精液の効果で、卵巣が刺激され排卵が誘発される。

一方人口精液の精子は驚異的なスピードで卵管を突き進み卵子へと殺到した。

そして一瞬で受精させられた卵子は瞬く間に着床し、子宮内で猛烈な勢いで成長し始めた。


「あ、ぁあ……ッ? な、なに、これ……? ……何が、起きてるの……っ!?」

「そいつの妊娠率は驚異の99パーセント以上だそうだ。もう俺様の能力でも取り出しはできないぜ」


感じていた疼きは次第に圧迫感へと変わっていく。

まるで腹の内側で風船でも膨らんでいるかのような感覚。

リリはわけも分からずただ戸惑うことしかできない。

「う、あぁ……! い…、いたい……、おなかが……は、はりさけそう……ッ!! く、うああぁぁあ!?」


リリの腹部はみるみるうちに膨らみ、まるで妊婦のような姿になってしまう。

いや、それは正しく妊婦だった。リリのお腹の中では遺伝子調整されたキメラ怪獣の幼体が猛烈な勢いで成長し誕生の時を今か今かと待っているのだ。

初めて経験する陣痛に立っていることすらできなくなったリリは膝をつき、お腹を押さえて蹲る。

痛みに必死に耐えるリリの股座から大量の液体が噴き出し内股を濡らしながら水たまりを作っていく。


「くぅぅッ!! っ! ……っ、ぁあ! ひぐっ!? で、でちゃう! な、なにか、でて、くるうぅぅ、あぁぁあああッ!!?」

「やれやれ、もう破水が始まったか。こんなとこで生まれても面倒だし、一緒に来てもらうぜ」

「あ」


男が蹲るリリに近づき強引に腕を引っ張ると、次の瞬間二人の姿は始めからそこにいなかったかのように消え去った。

数分後、警備隊の別動隊が現場に到着したが、そこにはリリが噴き出した羊水以外には何の痕跡も残されていなかった。




リリ・アーカイヴが失踪してから数か月の歳月が流れた。

警備隊はリリやさらわれた女性たちの行方を全力で追ったが手掛かりひとつ見つけることはできなかった。

また時同じくして正体不明の狂暴怪獣が頻繁に現れるようになり各地で騒ぎを起こすようになった。

それらが何処から来るのか、何が目的なのかはわからない。

唯一の共通点は決まって体表に青い模様が入っていること。

怪獣との戦いや恐怖に追われる日々の中で、人々の記憶からは次第にリリのことは忘れ去られていった。




「あぁッ! く、あぁん! う、うまれるぅ!! また、あ、あかちゃん、うま、ああぁぁあああ!! ひああぁぁぁあああッ!!!」

リリはもう何度目かもわからない出産の時を迎え、彼女の悲鳴とも嬌声ともつかない叫び声が地下室に響いた。

大きく開いた脚の間から異形の赤ん坊が生れ落ち産声を上げる。

生まれた怪獣の幼体は待機していたアンドロイドに回収され何処かへと持ち去られていく。

そして出産を終えたばかりのリリも別のアンドロイドに引き摺られるように連れていかれる。

そして強制妊娠装置に拘束され次の出産の準備に入る。

「……ぁ…ぅぁ…、……ぁん……」


四肢を拘束され、全身にコードを繋がれ、股間には子宮をメンテナンスするための器具が挿入される。

延々と繰り返される出産の日々にリリの精神は壊れ、今や怪獣を生み出すためだけの生きた孕み袋と化していた。




「光の因子を持った怪獣の量産は思った以上に順調に進んでいます。貴女には感謝していますよ」


モニターの中で怪獣を出産するリリを眺めながらヒュース・アーディはほくそ笑んだ。

犯罪宇宙人を利用して人口精液を開発したのも、全てはリリの持つ光の戦士の因子を持った怪獣を量産するためヒュースが仕組んだことだった。

ヒュースに囚われたリリは生かさず殺さず延々と怪獣の母胎として利用され続けることになる。

その身体が完全に壊れるその日まで……。



BAD END………

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