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阿井上夫
阿井上夫

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毒リリ(R-15)

市街地にグリーンモンスが現れた。

警備隊に出撃命令が下り、リリ・アーカイヴも現場に急行する。

他の隊員よりも一足早く現場に到着したリリが目にしたのは、街の建物を破壊する巨大な植物怪獣と逃げ惑う人々の姿だった。


「このままじゃ街の人たちが……ッ! こうなったら私ひとりだけでも!!」


リリは部隊の到着を待てるだけの猶予はないと判断し、単独で怪獣に挑むべく左腕のブイレスを掲げる。

リリの身体がブイレスから発した光に包まれ、光の巨人へと変化する。

「皆さん、あの怪獣は私が引き付けます! その間にここからできるだけ離れてください!」


グリーンモンスの巨躯にも劣らないサイズに巨大化したリリは、人々に避難を促しながら目の前の怪獣を睨みつけた。

グリーンモンスは突然現れたリリを警戒してか破壊活動を止め彼女の方に向き直る。


(人々の避難が終わって部隊の皆が来てくれるまで時間を稼がないと)


眼下の人々が離れていくのを横目で見守りながら構えるリリ。

破壊された市街地で睨み合う両者、先に動いたのはグリーンモンスだった。

花弁の中央に開いた口をリリに向けると、そこから緑色のガスを吐き出したのだ。


「ッ!? 毒ガス!?」


リリは咄嗟に身を翻しガスを回避する。

モンスガスを躱されたグリーンモンスはさらに立て続けにガスを噴射してリリを追い立てる。


「く……っ、切りがない。でもこの程度なら!」


リリは上手くガスを回避しながら敵から付かず離れずの距離を保つ。

幸いグリーンモンスのガスはリリでも躱すのが難しくないほどの速度しかなく、目立つ色のため射程や効果範囲も絞りやすかった。


(これなら部隊の応援が到着する前に私ひとりでも……!)


当初は部隊が到着するまでの時間稼ぎに徹するつもりだったが、自分ひとりでも十分対処可能と判断したリリは反撃に転ずる決意をした。

何度目かのガスをバックステップで回避し、続けざまに左腕のブイレスをグリーンモンスに突き付ける。

そして光線を発射しようとしたその時、リリの耳に予想外の声が飛び込んできた。


「や、やべぇ! こっちに来た!!」

「だ、だから早く逃げようって言ったのにぃ!!」

「うぉぉぉぉおお! すげぇ迫力!!」


思わぬ悲鳴に驚いて振り返れば、背後の建物の窓から数人の男が恐怖と興奮に満ちた顔を覗かせているのが見えた。


(そんな! まだ逃げ遅れた人たちがいたの!?)


そちらに気を取られたせいでリリは新たに放たれたガスへの対応が一瞬遅れてしまった。

「しまっ……!? うっ、ゲホッ、ゲホッ……、ッ!!」


緑色のガスを顔に浴びたリリは口元を押さえて咳き込んだ。

鼻を突くような刺激臭と喉に感じるひりひりとした痛み。

動きの止まったリリに対してグリーンモンスはさらにガスを吹きかけた。

リリは反射的にガスを避けようとして、そこで思い止まる。


(私が避けたら後ろの人たちが……!)


変身した状態の自分にもこれだけの効果を及ぼす毒ガスだ。

生身の人間が吸えばひとたまりもないだろう。

リリは背後の建物を庇うように立ちはだかりあえてガスをその身に浴びた。


「ぐぅ……っ! ゲホッ、ゲホッ、…皆さ、ゴホッ! …い、今の、うち……ゲホッ!」


リリの巨体が盾になったことで背後の建物は無事だったが、かわりにリリはガスを一身に受ける結果となってしまった。

鼻腔の奥に突き刺さるような強烈な刺激。

喉の奥が燃えるように熱く咳が止まらない。

それでも人々が避難する時間を稼ぐため身を呈して背後の建物を守るリリだったが、残念ながらその意図は相手に伝わっていなかった。


「な、何やってんだ! 警備隊ならそんなのさっさと倒しちまえよ~!!」

「ひぃぃ、もうだめだぁ~~!」

「おぉぉ! 目の前に特大サイズの尻が! くぅ、吸い尽きてぇ!!」


男たちは野次なのかセクハラなのかよく分からないことを喚くだけで全く避難する気配はない。

そんな彼らを身を呈して守ることに一抹の疑問を感じるリリだったが、それでも彼らを見捨てるほど薄情にはなれなかった。


(うぅ、好き勝手言ってくれて……。とにかく応援が来るまで持ちこたえないと……!)


警備隊の応援が駆け付ければまだ勝機はある。

その一心でガスに耐え続けるリリだが、ガスの威力は彼女が思っていた以上に強力だった。


(ま、まずい……っ、手足に、力が入らなくなってきた……っ)

麻痺性のガスの効果でリリの身体から急速に力が失われていく。

脚がガクガクと震えて立っていることすら難しくなってきた。

それでも気力を振り絞って耐えるリリにダメ押しとばかりにグリーンモンスの巨体が強烈な体当たりをお見舞いした。


「うあぁぁぁあああ!!」


避けることも防ぐこともできずまともに体当たりをくらったリリは吹き飛ばされ、無人の建物を薙ぎ倒しながら転がり仰向けに倒れ込んだ。


「く、うぅ…ぁ…」

(うぅ、油断した……。でもおかげであの人たちのいる場所からは離れられた)


これでようやく思う存分戦える。

そう思い立ち上がろうとしたリリだったが、しかし彼女の身体は小刻みに痙攣するだけでまともに動かなかった。


(か、身体が動かない!? いや、それどころか感覚がない!?)


全身に麻痺が広がり指一本まともに動かせなくなったリリにグリーンモンスは覆いかぶさるように身を乗り出し更にガスを吹きかける。


「ぅぁあ゛……ゲホっ、…や、…らめ…ぇ…ぇえ゛……ッ」

呂律が回らずまともな言葉を発する事すらできなくなったリリは無防備に横たわったまま更にガスを浴び続ける。

全身がビクビクと痙攣し、口からは意味をなさない言葉と共に涎が垂れて顔を汚していた。

もはや完全に無力化されたリリだが、それでも不幸中の幸いだったのは意識だけははっきりしている事だった。


(身体は動かないけど意識は残ってる。変身していなければ危なかったかも……っ)


もしガスを浴びたのが普通の人間だったら呼吸まで麻痺して意識を失うか、最悪命の危険も有り得ただろう。

しかし変身したリリは空気のない水中や宇宙空間でも活動できる。

リリは無事な頭でこの事態を打破する手がないか思案するが、状況は彼女に考える時間をくれなかった。

遠巻きからこちらを見ていた先程の男達が何かに気付き喚き始めたからだ。


「お、おい!? 見ろよ、あれ!!」

「嘘だろ!? あの娘、おもらししてるのか!?」

「フォォォオオオッ!! 美少女戦士の失禁ショーとかご褒美です!!」


(え、えっ!? おもらしって……っ!? う、ウソ……っ!?)

思いもしなかった言葉にリリは驚く。

身体の感覚が失われているせいでリリは気付かなかったが、彼女の両脚の付け根からは黄色い液体がチョロチョロと流れ出ていた。

膀胱が麻痺したせいで尿が漏れ出てリリの太ももを濡らし、地面に水たまりを作っていた。


(い、いやぁッ!? お願い、とまって!!)


羞恥で顔を真っ赤にしながらリリは下腹部に力を入れなんとか放尿を止めようとするが、完全に麻痺した身体は言うことを聞かず尿を垂れ流し続ける。


「ぁあ……、いあぁぁぁ……っ」


羞恥と屈辱のあまりリリの目から涙がぽろぽろと零れる。

ほどなくして尿は止まったがリリの周りには黄色い水溜まりができ、モンスガスの悪臭に混じってアンモニア臭が漂っていた。


「おいおい、怪獣にびびって漏らすとかホントに警備隊かよ!?」

「うえっ!? こっちにまで臭いが流れてきた!」

「クンカクンカ、この芳しい香り………………ウッ!! ………ふぅ」


(いやぁぁ……、見ないで……嗅がないでぇ……っ!)


これだけの辱めを受けながら抵抗どころか批難の声を上げることすら許されない状況に絶望するリリ。

先程は意識が残っているのが不幸中の幸いなどと思ったが、こんな惨めな思いをするぐらいならいっそ気を失っていた方がマシだったかもしれない。

涙で滲んだ視界に触手状の腕を振り下ろすグリーンモンスの姿が映った。

次の瞬間に襲い来るだろう一撃に耐えるためリリは固く目をつむり歯を食いしばる。

しかし予想した痛みや衝撃は一向に来ず、代わりに感じたのは誰かに抱き上げられたような浮遊感だった。

リリはゆっくりと目を開けると、そこにいたのは彼女もよく知る人物だった。

「…ぅ、…あ……? …お、…母さ…ん……?」

「遅くなってごめんなさい。ひとりでよく頑張ったわね、リリ」


我が子を抱き上げながらアーリ・アーカイヴは優しく微笑みかけた。

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