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202303_ItsukiNakano (JapaneseShortStory)

大学2年、夏。

空から容赦なく降る熱線と、舗装されたアスファルトに反射して俺の下に向かってくる熱波がとにかく鬱陶しい。

都内で普段生活をしているといつの間にか忘れてしまっていたが、俺の生まれ育ったこの街は広い海に近く、夏はひたすら汗をかかせにくる。

「よりにもよって、猛暑日に帰る必要はなかったな…」

高校最後の文化祭で記念に、とあいつらと買ったタオルで額の汗を拭う。それなりの吸水性があるため、瞼に差し掛かった汗の粒をしっかり吸い取ってくれる。毎年この時期の愛用品だ。

とはいえ、かれこれ高校卒業以来の一年強ぶりに帰省して思ったことだが、やはりこの夏を乗り切るには体力が必要らしい。

懐かしの通学路を辿ってらいはに会いに…否、実家に向かっていたはずが、気づけばフラフラと大きな公園に足を踏み入れていた。

無理は良くない。勉強ばかりしていたのもあるが、まさかたった数年でここまで体力が落ちていたとは…。俺がこれなら三玖のやつなんて家から出られないんじゃないか?

そう思いつつ、朧気な足取りで園内のベンチに向かう。

大きな木の影になっていてここなら十分に休めそうだ。そうして俺はベンチの上で横になる。

休日や早朝ならばランニングに励む者や通勤通学途中の人で賑わっていただろう。だが、平日の昼間ならば観光地でも関東近郊でもないこの地域で公園にある人は健康志向な高齢者くらいだ。

「はぁ…日陰最高…」

無印のTシャツに浮かんだ汗が乾くくらいは休もう。目を閉じる。そして深く深呼吸。

なんとなく眠気も顔を覗かせる。

すぅ…はぁ……すぅ…

どすっ、ふぅふぅ…どしっ、ふはぁ…!

「んっ…なんだ…?」

ウトウトと夢見心地でいたところに、遠くから次第に大きくなってくる息苦しそうな音で目が醒める。

重い足音。頬から顎、喉にかけて肉がついているようで籠っている吐息。

聴覚情報から察せられる雰囲気からして女性のようだが、随分と大柄らしい。

一番日が昇って暑い時間帯にランニングとは、ダイエットにも本気なようだ。あまり見るのも悪いしここは寝ているフリで…。

どすっ、んふぅ…はぁ…ぜぇ…

どしっ、ふはぁ…んぬぅ…

「はぁはぁ…え…?ど、どうして……!?」

なんだ?ベンチで横になっている俺の隣で急に足音が止まる。早く行って欲しいのだが。

止まった足音の代わりに、激しい吐息と動揺しているような声が聞こえる。

「…う、上杉君…?」

ん、妙だ。今俺の事を呼ばなかったか?

「…な、なんで」

どこか聞き馴染みのあるような…声と…

「ん…五月……え、お、お前五月なのか…!?」

なんとなくで目を開くと、まるで鏡餅のような大層な二段腹がまず視界に入る。だが視線を上げていくと特徴的な星型の髪止めと赤みかかった髪。

容姿こそはとてつもなく膨らんでいるが、間違いなく五月だった。

「あ、え…いやぁ…勘違いですぅ…イツキ?さんなんて…私知りませんよぉ…?」

俺と目が合うや否や、向こうはすぐに目を反らす。間違いない、かなり太ってはいるがコイツは五月だ。

「そうか…。おっ、あんなところにクレープの屋台が!」

「ク、クレープですか!?どこです?上杉君、教えて…あっ」

「五月だな」

「う、うぅ…だ、騙しましたね!!…私が食べ物に目がないからって…」

土壇場の罠に見事に引っ掛かり、見違えるほどの巨体となった五月は、ただでさえ脂肪で丸くなった頬をよりぷっくりと膨らませる。パンパンに膨れた顔でこちらを睨んでくるがその様子は昔から変わらない。

「ど、どうしてあなたがここにいるのですか!上京して東京の大学に…」

「ああ、だが今は夏休みだ。お前もそうだろ?」

俺よりも一回りデカい図体で詰め寄ってきた五月に事実を伝える。コイツも同じ大学生という身分なのだから、夏休みが学生皆平等にあることは分かるだろう。

「ところで、お前の方こそどうしたんだよ、その身体…」

詰め寄ってきた彼女に今度は俺の方から疑問をぶつける。顔に向けていた視線を下へ移し足の先まで一瞥する。

明らかにサイズの小さいスポーツウェアに胸と腹の一部を隠しているが、肝心の二段腹や胸の谷間は晒されている。

ブヨっと締まりのない二の腕から伸びた手を見ると、片方には食べかけのハンバーガー、もう片手にはいかにも甘そうな飲み物が握られている。

(まさか、こんなものを食べながらランニングしていたのか…?)

そう思わざるを得ないが、更に下半身に目をやると、隙間など全くないほど贅肉で分厚くパンパンに膨れ上がった太ももが存在を訴えてくる。

見る人が見ればまるで痴女…そう思っていると五月はかおを真っ赤に染めて反論してくる。

「ど、どうもしませんよ!?私は気分転換に散歩を……決してハンバーガーが目当てだったのではなく!!」

苦し紛れの言い訳にしか聞こえないが、俺が聞いているのはそういうことではない。

「ハンバーガーが食べたかったのは分かったが、俺が聞いてるのはその腹だ」

ぎくっ…!

まさにそんな擬音が聞こえてきそうなほど痛いところを指摘されたようにしている五月。少し間があいて口を開く。

「…ふ、太ったんですぅ!かなり……なので、運動で少しでもダイエットをしようと……」

大きな身体でモジモジとしだした五月に、俺の中の意地悪な部分が追求する。

「ほう?それでハンバーガーと甘いものを…?」

「うっ…も、もう見ないでください…!」

バチンッ!!

やけになって慌てた五月に思った以上の力で身体を押される。高校生だった頃は体格差もあって俺の方が重かったため何ともなかったが、今の五月に押されるとただでさえ暑さで弱った自身の身体がぐわんと揺らぐ。

「うおっ!?」

「う、上杉君!?」

ドシンッ!

一瞬の事だったが、まさか俺が倒れそうになるとは思いもよらなかった五月が、俺を庇うように前のめりになっていた。

そこまでは良かった。だが今の激太りした彼女が自らの体重を前方に片寄った重心のまま支えられるはずもなく。

「うっ…いったぁ…すみません、力の加減ができず…。大丈夫ですか上杉く…あれ?上杉君?どこに……」

真っ暗な視界と塞がれた耳で視覚と聴覚を奪われつつある上、呼吸もできない。

「ぶふぅ…お、おまえの、した…!つぶ、れる…!」

ぶにゅん!!ブヨっ!

突然の圧迫に身体がぺしゃんこになりそうな中で、何とか自身の存在をアピールする。

鼻から息を吸おうとすると絶妙に汗臭い。

女性のがっつりかいた汗の匂いに耐えながら、なんとか手で五月の身体をどかそうとするが、手のひらにあるのは果てしない肉の弾力だった。

「きゃ…!やめっ…あっ…!」

自身の数倍の体重になった五月に、真夏の公園で押し倒された上、下敷きにされたことを、恐らく俺は生涯忘れないだろう…。

§§§

「で、結局何があったんだ?確かに五月、お前は昔から食べ物の事しか考えていなかった。俺たちが初めて会った時からな。だが!そこまでふとっ…成長しなくても…」

地面に横たわった際に付いた服の汚れを手で払い、ベンチに再度腰を下ろす。どこにでもある木製のベンチ。普段生活する分には壊れる可能性なんて全く考えもしないのだが、横に今の五月が座ると心底怖い。

何せアイツの尻が着いて重さがのし掛かった途端にメキメキバキバキとベンチが悲鳴をあげ始めるのだから。

「し、失礼な!私だって食べ物以外の事も考えます…!大学の勉強や皆の事…それに、ダイエットの事も…」

もにゅ、ぶよっ…

俺の冗談に言い返すだけの元気はあるようだが、とはいえ体型の事はちゃんと気にしているらしい。

スラッと細かった指が今やむちむちと肉厚な状態になっていても、決して痩せないという選択肢はないようだ。

クリームパンのような手で、大きく二段に重なった腹の肉を掴む。にしても、出会った頃は一般的な女子高校生と言って間違いない体型だった五月が、1年と少しでこんなに変わっていたとは…。

「受験勉強って、人生を左右するものだと私は思うのですが、上杉君はどう考えますか?」

「まぁ、そうだろうな。俺たちは特にその意味がよく分かっているはずだ」

大きくせり出した自身の腹肉に目を落としながら、神妙な面持ちで五月が語り始める。確かに、俺たちは、俺とお前ら五つ子は…出会った頃にしてみては今頃こんな風にそれぞれ自分の道を進んでいるとは思ってもみなかっただろう。

「そうですね…上杉君はもう知ってるとは思いますが、私、結構当時は夜更かしして勉強していて…ですね」

「あの頃のお前は俺以上に勉強熱心だったかもな」

「それで…」

「ん、それで?」

「夜食にハマってしまって…気づけば私だけブクブクとふ、太ってしまったんです!」

「は?はぁぁぁ!?やっぱり食べ物の事しか考えてないなお前は!」

いやまぁ、頭を使えば身体が糖分を欲するのは分かるが!分かるんだが!

物事には限度ってものが…。

「“しか”ではないです!…とはいえ、こんな身体では説得力がありませんね…」

大きく身体を動かす度に波打つ贅肉が、五月の身体の異端さを表している。息を吸えば大きく膨らみ、吐けば少しだけ凹む。まるで腹が別の生き物かのようにブヨブヨと波打つのだ。

「大学に入学したての頃はすぐに痩せると予想してたんですよ!私以外の姉妹は誰も太る気配もありませんでしたし…。ですが、だんだん痩せるどころか余計に太っていって…」

料理の道に進んだ次女と三女は置いておくとして、女優の長女とスポーツ万能な四女を鑑みれば、太るとしたら五月しかいないだろう。そもそも、たった一年で桁が変わるほど太る人間なんてそういないのだが。

と、それ以上に原因として気になることが…。

「ちなみに聞くが、学食のオススメメニューは?」

「それはもちろん豚骨ラーメン大盛アブラ多めと、唐揚げカレー特盛ですね!オーソドックスですが安定の美味しさで…!」

ギュルッ、ギュルルルルルゥ!!!

「お前、毎日食ってるだろそれ」

「はい……/////」

「そりゃ太って当然だ!というかそんなに普通食うか!確かにそれはお前の才能だし良いところではあるがだなぁ…!」

紅潮した顔を俺に見られないよう伏せながら、食べ物を求める巨大な胃袋を黙らせるように、五月は自身の大きな身体を丸く抱える。

「仕方ないんです…!受験以来胃袋が大きくなってしまったみたいで、コルセットが弾けても講堂の座席に座れなくなっても、お腹だけは空いてしまって…つい…」

止まったら死ぬマグロのように、コイツは人の倍以上食べないと生きていけないのか…?

「おい、コルセットとか座席に云々ってのは…」

「あっ…コ、コルセットはですね…まだ80kg台だった時にお腹周りが気になって着けてたんですが、通学途中の電車内で弾けてしまって…」

苦笑いを浮かべながら当時の事を語る五月を見て、コイツのコルセットの弾ける様子が目に浮かぶ。大方、小さいサイズのものをずっと着け続けていて「これが大丈夫なら私は太ってない!」とでも自己暗示でもかけていたのだろう。

「で、ストレス発散に爆食いしたと?」

「は、はい…運動はしたんですが、動けば動くほどお腹は空く上に未開拓のお店ばかり見つけてしまって、気づけば食べ歩きを…」

ギュルルルルルゥ!!!

再度訴えてくる胃袋と共に五月自身もまたどこかの店の味を思い出しているのか、口内に涎が貯まっているような表情になっている。

これでは痩せられるはずもない。

「んで、そのままひたすら太って講堂の座席に座れなくなったと」

「ぐぬぬぅ…否定、できません…。お、お尻が一人分の座席では入りきらなくなってしまって…無理やり座るとお腹も苦しかったので…」

そんなことあり得るのかと疑いたくもなるが、眼前の事実がその話を裏付ける。目測でもダイエット番組などに出演しているモデルケースよりも一回り大きい、いわば日本では規格外な大きさの五月を見れば、彼女の周りのものが彼女の身体に対応していないことで生じる不都合は容易に想像可能だ。

「…なるほど、そうか。ん…なら仕方ないな、行くぞ」

「えっ…行く、とは何処に…」

思い切って膝に手をつき立ち上がった俺に、五月はなんとも腑抜けた眼差しを向ける。

「どこって、お前の家に決まってるだろ!ダイエットも勉強と同じだ!できるだけ無理のない計画とその実行、それさえできれば五月、お前も痩せて元に戻れる!それとも、お前はこのままブクブクと太り続けたいか?」

俺の熱弁を耳にして漸くやる気になったのか、重い身体をベンチから立ち上がらせ、彼女は息も絶え絶えに口にする。

「…や、痩せたいです…!この身体じゃ人前に出るのも恥ずかしいですし…。何より!教師になる上でこれでは示しがつきません!」

頬肉をプルプルと揺らしながら必死に決意表明をする五月を見て、どこか懐かしい気さえする。見た目は大分変わったが、何年経っても五月は五月のままだ。

「よし!…ところでなんだが、お前、今何kgなんだ?」

「な!?そんなこと、女の子に聞くなんて…!」

「いやそれが分からなきゃ計画も何も立てようがないだろ」

「確かに…そう、ですね…」

いつの間にか話し込んでいて時刻は午後4時。だんだんと気温が下がり始める頃合いだが、まだ暑い空気に晒され、日陰から出ると俺も彼女も汗が吹き出る。

体重を聞いてから約1分。黙り込んでは、自身の肥えに肥えた堕落の象徴である体重を打ち明けるのに躊躇っていたようだが、暫くして小さな声で告げられた。

「…ろくじゅ、はち…」

「は?流石の俺でもお前がその…68kgには見えな…」

「168kgですぅ!!…もう、やはりあなたにはデリカシーがありません…!こんな、自分の体重を男性に打ち明けるなんて…」

168kgという今まで見たことも聞いたこともないような特大サイズに、一瞬それが身長の間違いではないかと思いかける。だが目の前で全身の肉を揺らしながら吐息混じりに歩く五月を見ると、その重量も現実的だ。

ハンバーガーと甘い飲み物が消化されているであろう腹は、二段腹だからこそそれが分厚い脂肪で形成されているのだと分かるが、もし段がなくただ膨らんでいただけだったとしたら、「五つ子でも身籠った大柄な女性」と間違われることもあり得る。

そのくらい、今の五月は見事なまでの巨体と化していた。

「そう気にするな、俺がお前を痩せさせてやる!そうだな…今月いっぱいは夏休みで俺もこっちにいるから、家庭教師ならぬ専属トレーナーとしてな!その後はお前の力で痩せてみろ、1年後までに…体重が100kgを切ってなかったらお互いに罰ゲーム、ってのはどうだ!」

正直人の事を言えたものではないくらい、体力には自信がないのだが、なぜか胸が高鳴る。久しぶりの感覚だ。

「あなたがトレーナー?……ふふっ、そうですね、ではよろしくお願いしますね、上杉君」

一瞬怪訝な表情を浮かべたものの、五月もまたどこか現状を打開することに希望を見いだしたようで、こちらに微笑みかけてくる。そうと決まればあとは行動に起こすしかない。

「じゃあまずは競歩だ!いきなり走るのは足腰に負担がかかるだろ?俺とお前、どっちが速いか勝負!」

「そ、そんな!私とあなたではハンデが…!」

「お、不戦敗でもいいのか?あの負けず嫌いな末っ子のお前が?」

「な…!いいでしょう…!その代わり、今の私が勝ったらラーメン、奢ってもらいますからね!」

俺の煽りに上手いこと乗った彼女とどんぐりの背比べのような競歩での競り合いが始まる。ラーメンを奢ってしまってはダイエットどころではないのでは、と疑問が沸いたが今は置いておこう。

ジメジメとした夏の猛暑が、なぜか数時間前とは違って少しだけ和らいで感じられる。

一年強ぶりに偶然再開した俺と彼女の1か月は、168kgにまで激太りした彼女のダイエット成功に向けてこうして始まった。

――――――――――

中野五月

Height:159.4cm

Weight:168.4kg

B:155.9

W:173.3

H:171.5

――――――――――

§§§

大学2年生もそろそろ終わり、いよいよ大学生活も後半に差し掛かろうとしている3月。寒かった冬も終わり、日によっては蒸し暑さも感じられるようになった。

特に今日は家に籠っているだけなのに、暑くて汗が垂れてくる。

「あむっ、パリッ…ふふっ、おいひぃ…」

モナカ型のアイスを自室の小型冷蔵庫から取り出して、封を開けるとすぐさま一口。

口の中いっぱいに広がるバニラの風味とチョコレートのインパクトが、この上ない幸福感をもたらしてくる。

午前中からアイスを食べるなんて、昔の私だったら罪悪感に苛まれていたのだろう。

だが一度ダイエットに成功している身としては、食べたらまた運動すればいいだけの話。

少しばかり怠惰だけれど、たまの息抜きは大切だ。

「んぐっ…ごくんっ、はむっ、パリッ…むふぅ…」

袋から出したばかりのアイスがたった2口でほとんど胃袋に収められる。美味しいのだから当然だ。

頬張った際にポロポロとこぼれたモナカの粉が、たわわに実った胸や腹に落ちる。ベッドの上に落ちなかっただけまだマシだ。

指で粉をつまみ、アイスの入っていた袋に入れゴミ箱に捨てる。もうゴミ箱もお菓子やらデリバリーで頼んだ料理の空き容器でいっぱいだ。今度改めて捨てておこう。

「ふぅ…ティッシュ替えないと…げぷっ」

小さなげっぷを漏らしながら、ベッド横に転がったティッシュ箱に手を伸ばす。重い身体をずりずりと動かして、ようやく手に取れる距離に転がっていた。

「んっ、よいしょ…ふぅ…おもっ…」

すっかり二段腹に戻った自分の腹肉を持ち上げる。去年の夏より若干重くて詰まっている気がする。きっと気のせいだ。

腹肉を持ち上げると胸も一緒に持ち上げられて息苦しい。一度痩せて分かったがやはり太っていると色々と不便である。

そう思いながら、腹肉の下、陰部にかけて腹肉で挟み込んでいたティッシュペーパーを取り除く。汗が溜まってしまいがちな腹肉の下に、こうしてティッシュを挟み込むことで汗を吸い取っているのだ。

むわっと立ち込める自分の汗の匂いに少しだけドキッとする。だらしない行為を積み重ねているという背徳感がなんとも堪らない。

一時期は凹んだ腹も、今年に入って少しだけダイエットをサボり始めた途端にまたでっぷりと迫り出し、元通りの大きな二段腹に戻ってしまった。

だが、彼と約束した夏までの減量にはまだ時間がある。一度痩せているのだから、こうしてまた太ったところで次痩せるのも簡単なはず。だから明日からまた頑張ればいい。

「んはぁ…暑…」

下着姿のまま再びベッドに横たわる。ミシミシという音。そんなには重くないはずなのに大げさなベッドだ。

とはいえ、本当に明日からまた運動しよう。お正月から餅やおせち料理、2月にはチョコレートと、随分と太るには十分なほどのものを食べてきたのだからそろそろダイエット再開の時だ。

体重計に乗っていないから定かではないが、前ほどじゃないにしてもまたこの身に付いた贅肉を燃焼させなくては。

そう自分の腹肉を揉んだりペチペチと叩いたりしながら思う。

そういえばスポーツウェアはどこに仕舞ったっけ。

コン、コンッ

「五月ちゃん、入るよ?」

久しぶりに自室のドアがノックされる。

ドラマの撮影が終わって休みを貰ったばかりの一花が昨日から家に帰ってたんだ。

そう思うと、今日は珍しく姉妹全員が家に揃っているらしい。皆それぞれの道を進んでいるけど、私みたいに太ってはいない。

思い返せば高校時代から、姉妹の中で私だけ、やけに身体に肉が付きやすかったように感じるし、二乃に肉まんお化けと煽られた事も今となってはあながち間違いではなかった。きっと私は姉妹の中でも特段太りやすい体質なのだ。

「んふぅ…んっ、一花?…どうぞ?」

ミシミシッ!!

ベッドから勢いを付けて重量級ボディを起き上がらせる。これだけでも少し汗をかいてしまいそうだ。

「うわぁ…私の部屋以上に散らかってるね~…」

「ちょっと、この部屋、空気が籠りすぎよ。窓くらい開けなさい」

一花だけかと思っていたら、ゾロゾロと皆揃って部屋に押し入ってくる。こうして自分の部屋に姉妹全員が集まるのは初めてだから不思議な感覚だ。

やはり皆スラッとした体型で、かつ大人びている。

「ど、どうしたの…?皆して…」

姉妹に対して敬語を使うのをやめて2年は経つが、未だに少し慣れない。そんなぎこちなさを残しながら部屋にきた理由を問う。

私自身には何も思い当たることがないのだ。この身体以外は。

「えっと…その…四葉、代わりに説明、して…」

自分の口からは言いづらそうにした三玖が目を泳がせて、四葉に匙を投げる。困った時にだいたい役割が回ってくるのは昔から決まって四葉だった。

「わ、私!?…あ、その…五月、もしかしたら余計なお世話かもしれないけど…」

「ん?なに?」

「ちょっと、心配というか、ダイエットした方が…」

「つまりこういうこと!この腹よ!」

お茶を濁すような四葉に待ちきれず、二乃が勢いよくこちらに進んできたかと思うと手を伸ばす。

ブヨッ!!

「な!?二乃、なんでお腹を…!」

細い指が肉に食い込み、手のひらでガッツリと私の腹肉を掴む。太って以降、自分以外の人に身体を触られたのは初めてでなんだか不思議な気持ちだ。

「太りすぎだってこと!アンタ、去年よりも自分がデブってるの分かってる!?このままじゃホントの肉まんお化けになるわよ!」

ぶよんっ!!ぶるぶるぶるんっ!!

鷲掴みした腹を更に上下左右に揺さぶられ、全身の肉が連動して波打つ。そんなに私は太っていたのだろうか。去年の年末には100kgを切っていたのだから、たった3か月で70kg以上リバウンドすることなんて、いくら大学の冬・春休みに食っちゃ寝の生活を存分に繰り返していたとしてもあるはずが…。

だがなんとなく自分の身体がダイエット以前よりも重い気もしなくもない…。

「五月ちゃん、体重計乗ろっか?」

ベッドの下に埋もれていた体重計を一花が掘り出す。同じような散らかった部屋に住んでいると物の置き場も似てくるのだろうか。

年末に痩せて以降、乗らなくなった体重計に久々に足を付ける。正直もう結果は分かっていた。

なにせ自分の太りに太った象徴である胸と腹の膨らみで足元が全く見えないのだから。

見る以前に見えないことでもう分かってしまったのだ。

計測終了の電子音と共に一歩下がり、苦しいながらにしゃがみこむ。

「174kg…」

たった3か月で75kg近くのリバウンド…。こんなことあるのだろうか、痩せたと油断して惰性に走ったばかりに。

「ほ、ほら!早く外に歩きに行くわよ!フー君と約束したんでしょ!ただでさえリバウンド繰り返したら痩せにくくなるんだから!」

唖然としていた私に姉妹たちが手を差しのべてくれる。気づけば約束の夏休みまであと4か月しかない。

一度は自力で90kg台まで落とした体重をこんなにもまた膨らませた分、なんとか巻き返さなくては。

…あと4か月で、75kgは痩せなくては…。

――――――――――

中野五月

Height:159.4cm

Weight:168.4kg →(一時減量)→ 174.3kg

B:155.9 → 176.7

W:173.3 → 178.3

H:171.5 → 178.1

――――――――――

§§§

「それで…なんでお前は…」

「もぐっ、ふぅ…はふぅ…んぐ、ごくん、はい…」

「去年より更に太ってるんだ!?」

大学3年の夏、五月と約束した1年を経て俺はまたこの街に帰ってきていた。

ダイエットをサポートして初めの1か月は俺も毎日一緒に歩いたり、健康管理も姉妹達と協力したりで五月の体重は順調に減っていたはずなのに…。なぜだ…。

「ふぅ…げぷっ、そ、それはですね…えっと…ふぅ…」

家庭教師だった頃を思い出しながら、こいつらの家に来てみれば、他の姉妹は用事で留守な中、玄関まで出てきたのは明らかに前よりも肥えた五月の巨体だったなんて。

「それにだ!なんだこのジャンクフードの量は!欧米のホームパーティーか何かか!?」

目を疑いながらも、リビングに通されたと思えば、テーブルにはびっしりのハンバーガーやフライドポテト、チキンに…。

とりあえず事情を聞いていたというわけだが、五月は目の前のハンバーガーに手を付け、パンパンに膨らんだクリームパンのような手でその包み紙を開いてバンズにかぶりつく。

「そ、そんなつもりは……むぐっ、あむっ…ふはぁ…ちょっとお腹が、空いてしまって…げぷっ、それに上杉君も、食べるかなぁと……ぐぷっ」

脂肪で丸くなった頬にカロリーの塊を詰め込み、深く形成された二重顎をたぷたぷと波打たせながら咀嚼する。

片手で巨大な三段腹を撫でながら、もう片手で器用に食べ物を摘まんで口に向かわせる。

あの五月がここまで…。会話の途中にところどころで抑えきれなくなったげっぷが溢れては、少し恥ずかしそうにしながらもまた食べる。

もしかして、コイツは毎日こんな食生活をしていたのだろうか。

去年の夏でおよそ160kgだったのだから、それより一回りも二回りも太った今の体重は…。

「ふひゅ…むぐっ、ごくんっ。…じゅぼぼぼぼぼ」

目の前の彼女は吐息混じりにひたすら食う。

飲み込んだ食べ物が喉を通って胃袋へ落ちる度に、以前にも増して肉の蓄えられたたわわな両乳房が、ぶるんっぶるんっと揺れる。

その胸のサイズは間違いなく俺の顔よりデカいし、なんなら当の五月自身の顔より片胸の方が大きい。

見る人が見れば目が釘付けにされてしまうだろう。

それに、去年まで二段だった腹の肉が現在では更に分厚い三段の肉段になっている上、心なしか五月の食事に合わせてどんどんパンパンに膨れていっている気さえする。

そりゃ太って当たり前か…。

炭酸ジュースをストロー越しに飲み干す様子を見てより察する。

「…ん、ぷはぁ…!……げぷぅぅぅっ…!す、すみません…!」

今まで聞いた中で最も盛大で下品なげっぷが無意識に出てしまい、目の前の彼女は焦る。

不意の出来事に口を手で押さえるが間に合っていない。

だが顔を赤らめて恥じらいながら、必死に謝る彼女の様子を見ると、やはり五月らしいと俺は感じる。その辺はいくら太っても変わらない。

ピンポーン、ピンポーン

「んぐっ、はぁい…!ふぅ、よいしょっと…んふぅ…ぜぇ…」

玄関先のチャイム音に反応して、そのあまりに成長した巨躯を俊敏に立ち上がらせる。

テーブルに手を付き椅子から立ち上がる彼女の二の腕は、1年を経てまるで水風船のようにパンパンに肉がついている。一挙一動でブヨブヨと揺れる二の腕を見ると、その中身はほとんど筋肉ではなく贅肉で満たされている事は明白だ。

きっと今の五月が腕立て伏せを試みても、自重を支えられず0回のままギブアップするに違いない。

ドスンッ……ドスンッ……

それ以前に、歩く度、だぽんだぽんっと波打つ三段の巨腹や特大な胸が床についてしまって腕立て伏せの体勢にすらつけないだろうが…。

「…んふぅ…ふぅ……」

無理に着ていることでピチピチに伸ばされ身体に密着した無地のTシャツが、歩くほど揺れる腹肉によって巻き上がる。

かつて着ていたワンピースなどの洒落た服は、目測200kgを優に超えた今の五月の身体に合うはずもなく、着られる服といえば無個性な無地の服程度。

まあ身体の方が個性に溢れているのだから、服の個性など大したものにもならないのだが。

問題は服が小さいせいか五月の胸が大きすぎるせいか、服を着ているはずなのに、彼女のボディラインがくっきりと浮かんで見えてしまっている点だ。とても…その、目のやり場に困る…。

デカイ尻を揺らしながら歩くのも構わないのだが、五月のその尻に食い込んだパンツが気になって仕方がない。

もしや、胸と腹が邪魔をして自身がスボンやらスカートやらを履いていないこと気づけていないのか…?いやそんなはずは…。

ドスンッ…ドスンッ…

「…ぜぇ、ぶふぅ…んふぅ…」

玄関先から戻ってくるだけで目の前の彼女は息を切らし、全身に汗をかいている。だが表情はどこか嬉しげだ。

その理由は五月が両手で大事そうに抱える紙の箱を見れば一目瞭然だった。

「おま、まさか…」

「…んふぅ、どうしても食べたくなってしまったので頼んでしまいました…!…ピザ、上杉君も食べますか…?」

テーブルに置いたかと思えばすぐさま箱を開き、俺にその中身を見せつけてくる。

普通のサイズよりもこれまた大きいピザ。

こんなの今まで食べたこともないが、見ただけで胃もたれしそうだ。

「いや、俺は要らないというか…なんというかだな、お前を見てるだけで腹が一杯で…」

「そうですか…?では私が食べてしまいますね、いただきまぁふ…ん~!やはりピザは…んぐっ、もぐっ…さいこうでふぅ…!」

円形のピザを四等分に切り分けてそのうち一つを口に運ぶ。口回りの汚れなど気にせず豪快に齧り付き、満面の笑みで食事をする五月を見ているだけで、やはり俺は食べなくとも満腹感を得ていた。

あむっ、んふぅ…まだまだたべられまふね……ごくん、もぐっ、ふぅー…げぷっ。

…はぁ、ふぅー、ふとってしまうと、わかっているのに…むぐっ、んふぅ、あむっ…ごっくん、てが、とまらなくて……どんどんたべてしまうんですよね…/////

げぷっ、んふぅ…あむっ、ごくん……。じゅぼぼぼぼぼ…ごくん、ぷはぁ……げぷぅぅぅ……んんっ/////

………。

「ぶふぅ…も、もう食べられません……お腹いっぱいでふ……げぷっ」

背もたれに仰け反るようにして体重かけ、中身のたっぷりと詰まった三段腹を自身で撫でる。

同い年の彼女が、少なくとも3年前までは同級生からも称賛されていた容姿の彼女が、苦しそうに息を漏らしながら腹の肉を撫でる。

胃袋はこれ以上なく満ち満ちているだろうし、内臓脂肪の量も相当なものだろうが、それでもブヨブヨとした皮下脂肪が膨らみ、そして垂れているのもあって見た限りではその腹肉はひたすらに柔らかい。

「ふぅー…げぷぅぅぅ、んっ/////

上杉君、ふぅ……撫でてください…お腹…/////」

今にも汗と体熱で蒸気が上がりそうな五月を見ているとなぜか俺までドキドキしてくる…。

痩せた彼女に会いに来たはずなのに、どうして俺は今、こんなにも太ってしまった彼女の腹に手を伸ばしているのだろう。

ブヨッ…どぷんっ…

断ることができず、指先を五月の巨腹に付けると深く沈み込むような弾力に襲われる。やはりとてつもなく柔らかい。

手のひらで掴むだけで今までに感じたことのないようなブヨブヨ…しっとりとした肉の感覚。

だんだんともっと触りたくなる。

へそ上の肉段にはどれだけの重量があるのか…試しに手づかみで五月の腹肉を掴み持ち上げると、思った以上に重たい。これが人間の腹なのか…。

持ち上げた肉から手を離すと、重力に負けて腹肉の段はどぷんっ、と落ちる。

肉と肉のぶつかる音。それに合わせて五月の腹肉が波打つ。

「うっ…!げぷぅぅぅ!!…う、上杉君!?…優しく、してください……。急にそんな……げっぷが、出てしまいます…/////」

腹肉同士のぶつかった衝撃で思わず五月の口からげっぷが溢れだす。到底女性のものとは思えないほど野太く、そしてデカい。

大きく成長しすぎた胸が遮って上手く彼女の顔が見えないが、喋る度に分厚い二重顎と頬肉がぶるぶると震えているのだろう。ここまで太ると声まで余計に太くなるのだ。

「も、もうおしまいっ…!です…

撫でてくれて…ありがとう、ございました……。その……少しだけ目を閉じていてもらえますか……?」

横に座ると余計に身体の厚みが全く違うことを思い知るが、もう腹を撫でなくてもいいらしい。元より撫でるというよりかは腹の肉を掴んで揺らしていただけのような気もするが…。

とにかく、五月の言われたようにする。

どういうわけか、さっきから心臓の音がうるさい。目の閉じると余計に、自分の鼓動が気になり出す。

それに、部屋に充満した食べ物の残り香と五月の体臭。

後者は臭いわけではないが、体育の後を思い出す。

「…んぐっ、きつい、ですね…ふぅ…んはぁ…!」

布の擦れる音が一頻りしたと思えば、今度は息苦しそうな声が微かに聞こえる。頻発する吐息に生温かみを感じながら、俺は胸のドキドキに罪悪感を覚えていた。

おそらく五月は…着替えている。

なぜだ?男の俺がいるのに…。

「んぐぅ…届いた……!ふぅ……上杉君、目を開けても、いいです…よ…」

「んっ……って、おい…!五月、お前…!」

「ど、どうでしょうか……/////

こ、こんなに太ってしまいましたが……これでも一度は痩せようと努力はしてですね……でも結局ご飯が美味しくてつい食べてしまって……/////」

視界に広がるペールオレンジの海に、局部をギリギリ隠しきれていない水着が浮く。

正直、どこを見ればいいのか分からない。

顔は直視できないし、胸は……男として見てはいけない気がする。

腹を見るとあの弾力を思い出して身体が熱くなってしまう。おかしい。

肉に食い込む水着に訳も分からないセクシーさを抱いてしまい、いてもたってもいられない。

二の腕も肉がびっしりついている上に汗の雫が滴って、しっとりとしていて揉みたくなってしまう。

下半身に目を移すと、腹以上に重なりあった肉の段が目立ち、内腿に至っては最も柔らかそうに見える。

「な、なんで水着、なんて……!」

自分はなにもしていないはずなのに、心拍が余計に激しくなる。ドキドキが止まらない。やましい気持ちとはこういう事なのか。

「う、上杉君に……こんな醜く太った私の姿を見てもらえば……食欲よりも痩せようという気力の方が勝るかなと……思いまして…。

痩せなければとは思っているのですが、食べ物を前にするとどうしても…我慢が…できなくて……食べてる時が幸せで…」

羞恥に表情を歪ませつつ、僅かな動きで全身の肉をぶりんぶりんと揺らしながら五月は胸の内を語る。

痩せなければならないという義務感。食べたいもの食べている時の幸福感。どちらも満たそうというのはかなり難しい事は、食事にそこまで関心もなくダイエットをしたことのない俺でも分かっているつもりだ。

昔は適度に肉付きがよく、健康的とも思えたし、五つ子姉妹とプールに行ったのもいい思い出だ。

五月と乗ったウォータースライダーだって忘れられない。

確かにあの頃の方が彼女は今よりも十分痩せていたし、水着だって問題なく着れていた。

大きすぎる胸がこぼれそうになっていることも見えてはいけないところがはみ出ていることもなかった。

腹の肉段に水着を食い込ませて無理に下腹部で着ることもなかった。

世間一般に考えれば、五月は…痩せるべきだ…。だが…。

「こんなに太った私を見て幻滅…しましたよね……。も、もっと頑張らなきゃ…。痩せないと…」

「お、俺は…!お前の、好きなようにすればいいと…思うがな…!」

震えながら声帯を振り絞る。自分がどんな顔をしているのかも分からない。だがこれ以上、何かを犠牲にする五月を見たくはなかった。

「あの日、ダイエットを手伝うなんて俺が言わなかったら、お前を苦しめずに済んだかもしれん…。俺はお前に幸せでいてほしい…お前の食べている時の様子は人を笑顔にするから……!」

「…そ、そんな…でも私、このままだともっと太って…」

勢いのまま発する言葉に眼前の彼女を動揺させてしまう。だがどうしても伝えたい。

「確かに痩せた方がいいのかもしれない。だが!無理をして痩せたところで何にもならないだろ…?それに、適度に運動しながら食事も楽しめば今よりは健康的なはずだ!…今度こそお前だけに背負わせないと誓う。俺も手を貸すから……隣に居させてくれ!」

「うっ……はい…!こんな私ですが……、うぅ……ご迷惑をおかけしますが宜しくお願いします……!」

思わず差し出した手に人肌の熱が伝わる。顔を挙げるとなんとも涙ぐむ彼女の姿。

これでよかったのか、俺にはまだ分からない。

ただ五月には笑ったり、時には怒ったり、時には拗ねたりして欲しいと思っている。そんな自然体の彼女が失われてしまうのが、どうしても俺には耐えられなかったのだ。

これからはこいつの隣にもっといたい。

あの文化祭の夜、保留にしたまま出しきれなかった問題の解をようやく俺は出せた気がした。

§§§

余談だが、初めて女性の尻に手が触れた。

もちろん合意の上、あの巨体のサイズ測定をしていたら触れてしまったのだから仕方がない。それに痴漢やセクハラは倫理的にも良くない事は分かりきっている。

不可抗力、というと言い訳がましいがそう言わざるを得ない。

それに、もう一つ脳裏に焼き付いて離れないものがある。

「ふぅ…んぐぬっ…!う、上杉君、まだ…かかりそうです、か?…もう腕が限界で……!」

だらんとエプロンのように垂れた三段の腹肉を、へそ下から持ち上げている五月は自身の肉の重みになんとか耐えているが、腕の方が限界らしかった。

脂肪ばかりついて筋肉が少なくなっていたデカい二の腕は、見た目よりも全くといっていいほど腕力がなく、腹肉を持ち上げて10秒でもう悲鳴を上げる。

汗も滝のように流れ、メジャーを持って彼女の身体の間近にまで迫っている俺の嗅覚を刺激していた。

特にヒップ、下半身の測定中だったこともあり、立ち込める五月の体臭に視界がくらつく。

臭いわけではない。初めて嗅ぐ匂いに変な気が湧きそうになっていたのだ。

「…249.8cm」

バスト245.1cm、ウエスト262.3cm、ヒップ249.8cm…体重計に乗れば薄い板が断末魔を上げながら故障する始末。

「ぷはぁ…!も、もう腕が…上がりません…!筋肉痛になってしまいます…!ふひゅぅ…!」

俺が数値を確認してメジャーを巻き取ると同時に、ギブアップと言わんばかりに五月は腹肉を持ち上げていた手を放す。

ぶるんっ!!どぷっ、ぼよんッッ!!!

重力に従って下に落ちた三段の肉が、太ももに当たってバウンドした下の段から連動して大きく弾む。

肉と肉がぶつかり合い、更には彼女の体表に流れていた滝の汗が飛沫として床に滴る。

ただでさえ水着姿なのに、汗が光を反射して光沢帯びた全身の肉は揺れていて、まるでローションでも塗ったかのよう。それだけではない。

「おま…!そんな勢いよく放したら…!」

ぶるんッッ!!!

腹肉の揺れはそのままそこに乗っかった特大サイズ245cmのバストにまで波及し、ミチミチに食い込んだ水着ごと胸を揺らした。

その結局、どうなったのかというと…。

「…うっ…!!!」

「あ、あぁ…!み、見ないでください…!!」

思わず顔を伏せたが視界に僅かに移ったのは、水着からずっとはみ出ていた乳輪が更に自己主張を強めて…、有り体に言えば、片胸が水着から溢れて乳首が露になった様子だった。

懸命に腕で胸を隠して水着に戻そうとする五月を他所に、俺はひたすら胸のざわめきを抑える事に神経を注ぐのみ。

他の姉妹がその場にいなくて本当に良かったと思う。でなければどうなっていたことか…。

今思い出すだけでも心臓が騒がしくなる。

結局あの日以来、俺は2週間に1回、週末を使って帰省するようになった。五月のそばにいると誓ったから。

自然体な彼女のことが、好きなのだから。

そしてまた余談だが、五月が後から医療用の体重計を自費で買い、俺も横で見ながら体重を測ったところ、そこに表示されたのは296kgという数字。

そりゃデカいわけだ。俺の4倍以上の重さ…もしかしたら日本一重い大学生かもしれない。

とんでもないやつの面倒をみることになった。だが、彼女がこのままもし母親と同じ教師になったとして、生徒に体型をからかわれる時がきたのなら、その時は俺が慰めよう。

何せ俺は中野五月のパートナーなのだから。

一緒に美味いものでも食べればいい。五月には笑っていてほしいから。

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中野五月

Height:159.4cm → 161.2cm

Weight:168.4kg →(一時減量)→ 174.3kg → 296.3kg

B:155.9 → 176.7 → 245.1

W:173.3 → 178.3 → 262.3

H:171.5 → 178.1 → 249.8

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