撮影の合間に
Added 2024-06-22 01:52:34 +0000 UTC
青い空に、初夏の日差しが心地よい温かさと、風に運ばれる潮の香りを添える。
「いいロケーションね……」
潮風に靡く長く赤みがかった金色の髪を片手で押さえながら、その美しい女性は一言呟いた。
背は高く、スレンダーで完璧なプロポーションを誇る女性。モデルでもこのレベルはそうはいないだろう。身長は一七〇センチ後半ほどだろうか……それでいて、出ている所はこれでもかというくらい出ていて、女性特有の美しい曲線を描いている。
そして、海辺に相応しく明るい青と白を基調にしたビキニを見事に着こなし、色気を漂わせている。
スタイルだけではない。
その顔つきも整っており、赤い瞳は吸い込まれる様に澄んでいて、自信に満ちた表情は見るものを魅了する。
「でも、話には聞いていたけど、ここまで小さい場所は、初めてね」
女性はその赤い瞳で、眼下に広がる景色を見下して呟いた。
南国を感じさせる様な透き通ったエメラルドグリーンの海に、白い砂浜、そして石灰岩をそのまま切り出したのではと思いたくなるような、真っ白な建物が砂浜沿いに延々と続いていて、それは陸地の奥まで広がっている。
まるで何処かのリゾート地を空から撮影して、そのままズームアウトしたかのような錯覚を覚えてしまう。
だが、そう見えるのも仕方ない。なぜなら、今彼女が見ている景色は、上空17,500メートルもの空の上から見ているのだから……。
しかも、飛んでいるのではない。しっかりと足はついている。
そう、彼女は1万分の1しかない、極小世界の海に立っているのだ。それも浅瀬の波打ち際ではない。海岸から10キロ程も遠く離れた沖合の海に立っているのだ。水深も500メートルはあるだろうか。その水深500メートルの海底に足をつけ、彼女は立っていた。
だが、海水は白のミュールサンダルを履いた彼女の足指を濡らすほどしか無く、彼女はその海の中に、まるでガラス張りの床に立っているかの様に、平然とした様子で立っているのだ。
背の高い彼女も、この世界では体長17,300メートルの超大巨人に変わる。
「それにしても、まだなのかしら?」
不満げに女性が呟くと、それに応えるように耳に付けていたインカムから、男性の声が流れる
『すみません、マリーさん。あと、数十分はかかる見込みです』
「まったく……、人を呼びつけといて遅れるなんて……」
マリーと呼ばれた女性はその赤い瞳を細めながら、インカムの声の主に言う。
そのインカムからの声は、申し訳無さそうな声色で大巨人のマリーに説明する。
『すみません、マリーさんが現れてから、街の中は予想以上に混乱しておりまして、いくつかのカメラ班が、まだ撮影場所にたどり着いていないようなんです』
「もう……。仕方ないわ、なるべく早くしてちょうだい。」
『はい、善処します』
マリーがインカムの声の主にそう伝えると、そのインカムからの声は申し訳なさそうに答えた。そしてマリーは、ふと空を見上げる。
南国の眩しい太陽に肌がジリジリと焼かれ、額から汗が滲み出る。
もう少し深い海ならば、体を沈めて彼女の火照った体を心地よく冷やしてくれただろうが、残念な事にここは水深500メートル程の海の中。
海といっても1万倍の彼女からしたら水溜りのような物で、足を海水に浸すのが精一杯だ。
「早く始まらないかしら……」
マリーはそう言いながら、この星での目的を再確認するように思い出してみた。
グラビアアイドルでもあるマリーは、イメージビデオや写真集などを多数リリースしている。
だが、ライバルがあまりにも多いこの業界では、スタイルとルックスの良さだけでは、生き残ることは厳しい。
そこで、今回の撮影ではシチュエーションを大きく変えて、小人の星で撮影をすることになっているのだ。
なぜ、小人の星なのかはマリーも理由を知らないが、厳しい業界の中で生き残る為ならば仕方ない所もある。
しかし、今まで様々な惑星にロケに行った事がある彼女だが、今回は一味違う。
何せ大きさが一万分の一の世界だ。今まで撮影してきた惑星の中で最も小さな物になるだろう。
マリーは、そのあまりの小ささに少し不安を覚えながらも、そのシチュエーションの特殊さに惹かれて二つ返事で引き受けたのだった。
「それにしても、遅いわね……」
『すみません……。今ようやく、一団が到着するようです』
インカムから聞こえる声にも、焦りと疲れが見える。どうやら、本当に切羽詰まっているらしい。
今回の撮影では、超巨大な異星人との遭遇がテーマらしく、撮影は小人目線で見る事をコンセプトとして作られている。
その為、現地人サイズになったカメラマンたちが様々な角度から見れるようカメラを街の至る所で撮影するため、複数の撮影班が街の撮影ポイントで撮影を行うようになっていた。
「まぁいいわ……。とにかく早くしてちょうだい」
『はい、わかりました』
マリーがそうインカムに告げると、その通信は切れた。そして、彼女はもう一度辺りを見回す。
「それにしても……」
この星には本当に人が住んでいるのだろうか? 彼女の目に映るのは、真っ白な建物が延々と続く街だ。
いや、街というにはあまりに小さく、言われなければ地面の模様だと思ってしまう程に、この星の建物と街は小さい。
そんな街が、見渡せる程の小さな世界の中に所狭しと並んでいるのだ。
「あら……?」
マリーはふと足元に目をやると、足元でゆらゆらと揺れて浮かんでいる小さな小さな船を見つけた。
その船は、水面に浮かぶ小枝のように、プカプカとマリーの巨脚の側で揺れている。
どうやら、この船はマリーが海で歩いて出来た波に翻弄され身動きが取れないでいるようだ。
マリーは上体を倒しながら、手を伸ばしてその船を掬い上げてみる。2、3センチしかない船体は掌に収まるほどの大きさで、簡単に掬う事ができた。マリーは船を眼の前まで持ち上げると、覗き込む様に船内を見てみる。
船はカーフェリーかと思われるような、大きな船だった。だが、その大きさはマリーの小指の先ほどの大きさしかない。
そして、この船の中に人の姿が辛うじて見つけられた……。
「これが、人……?」
船の中を除いてみると、数ミリも無いような点がチロチロと動き回っている。まるでミジンコみたいな大きさだが、これでも一応はこの星の人間なのだろう。
「あのスタッフたちも、こんな大きさになってるのかしら?こんなに小さかったら、ちょっとした事でも大事故になりそう……」
マリーはそんな心配をしつつ、その船から意識を離した瞬間……。
「あ……」
マリーの指にほんの少しだけ力が入った。ただそれだけで、その船はまるでシャボン玉が弾けるように、クシャッと潰れてしまった。
この星では、マリーの巨大な指は大災害を引き起こす程のパワーがあるらしい。
「あら、ごめんなさい。でも、この星では私が大きすぎるのがいけないのよね……」
マリーはそう言いながらも、反省する様子もなく、塵となった船の残骸に向け、口をすぼめて息を吹きかける。
すると、その息は突風となり、船の残骸をいとも簡単に吹き飛ばした。
この星ではすべてのものが小さすぎるため、マリーが少し動いただけでも大災害となる。
故にマリーが引き起こした被害は、宇宙法では"軽微な"損害として処理され、マリー個人が賠償を払う事もなければ、報告すらされずに無かったことにされてしまう事にだって出来てしまう。
小人の惑星というものは、その小ささゆえに、巨人による災害はすべて無かった事にされてしまうのだ。
それはまるで、近所にできた蟻の巣がいつの間にか消えてなくなっていても、誰も気にしないのと同じ事だ。
マリーがこの星の事について、そんな事を考えていると、突然インカムから、男性の声が聞こえた。
『すみません!遅くなりました!準備完了です』
「あら……。やっとね」
マリーはそう言いながら、その声の方に視線を送る。極小サイズの街並みが、まるでジオラマのように小さく見えている。彼女の目には小さすぎてわからないが、きっとあの街の何処かに撮影班がいるのだろう。
『本当に申し訳ありません』
「いいのよ、別に怒ってないわ」
『はい……』
マリーはそう答えたが、炎天下の中、長い時間待たされたのだ。落ち着いた声の中にも、少し怒りが混じっていたのは確かだった。
その気配を察知した撮影班のインカムからの声は、申し訳なさそうに答えている。
「それよりも早く始めましょう」
『はい、準備はできています。いつでも大丈夫です』
マリーの言葉に、インカムの声は直ぐに答えた。
『では、10秒後にカメラを回します』
(最初は海から上陸するシーンの撮影ね)
撮影班からの最後の指示はこうだ。マリーは陸に向かって優雅に歩きながら、撮影班の指示した箇所に上陸して、地上から空一面を覆う巨大な足の裏を撮影する……。
その指示は至ってシンプルだが、マリーの身長が17,300メートルもあるため、歩くだけでも大災害となってしまう事は避けられない。
ただ、撮影時に引き起こした被害は気にしなくても良いとの話なので、マリーは気にしないでいる。
「それじゃあ、行くわよ」
カウントダウンが10秒を切った頃、そう告げると彼女はゆっくりと片足を上げる。そして、そのまま海に向かって足を下ろした。
ズウゥゥン!! 彼女の巨大なサンダルが海に沈むと、大きな水柱が立ち上り海面に波紋が広がっていく。
「これで……いいのかしら?」
マリーはそう言いながらも、その巨体を止めたまま撮影班の指示を待つ……。しかし、インカムに聞こえてくるのは、混乱した街の喧騒と地震で建物が倒壊する音。
どうやら、街では彼女の起こす地震と津波で混乱しているらしい。
マリーが一歩踏み出した事により、海面には巨大な波紋が広がり、やがてそれは津波となり巨大な津波は陸地へと押し寄せる。
そして、マリーの出現に恐怖して逃げようとしていた人々と街を飲みこんでしまう。
いくら彼女が想像を絶する巨人とはいえ、たった片足を降ろしただけでここまでの影響があるという事は、彼女の重さが尋常では無いという証拠でもある。
「何も言って来ないけど、このままでいいのかしら?それとも、まだ何か指示があるのかしら……」
マリーがそう呟いても返事はない……。どうやらインカムからは先ほどの混乱を伝える音しか聞こえてこない。おそらく、撮影どころではないのだろう。
『すみません!マリーさん、一度立ち止まって頂けますか?今、街は混乱しておりまして……、撮影どころではなくなってしまいました』
「またなの?もう、仕方ないわね……」
インカムから聞こえる男性の声にも、動揺が感じられる。どうやら本当に大災害になってしまったようだ。しかしそれは無理もない事だろう。
何しろ、1万分の1の極小サイズの星で、その星の最高峰よりも巨大な大きさを持つ巨人が現れたのだ。
しかもその巨人が一歩歩くだけで街を壊滅させていくのだからたまったものではない。
(でも、歩いただけで街が壊滅するなんて、撮影なんて出来るのかしら……?)
マリーはそんな事を考えながらも、インカムからの指示を待つことにしたのだった。
『では、カメラ班を別のエリアに向かわせますので少しお待ち下さい……』
「ええ、わかったわ」
撮影班から安全な場所での撮影に変更するとの連絡があり、マリーはその場で立ち止まったまま撮影班の到着を待つ事にした。
夏の日差しがジリジリと彼女の巨体を照りつけ、その巨大な体の表面には汗が滴り落ちて、きめ細かい彼女の白い肌を濡らしていく。
だが、そんな汗も、この星では家屋どころか、ちょっとしたビルよりも巨大な粒となる。全身から出る汗を合わせたら、人の住む街の一つや二つは押し流してしまいそうな程の水量だ。
(多めに水分を摂っておいて良かったわね……)
この星で山よりも大きな巨人の水分を確保するのは至難の業だ。なのでマリーは小人の星に到着する前に、十分すぎる程の水分を摂取してからこの星にやってきた。
彼女の胃袋の中に溜まった水は、それだけで小さな都市一個分……いや、それ以上の量があるかもしれない。それほどまでに巨大なのだ。
(もし、このまま撮影が長引いたらトイレは大丈夫かしら?)
マリーは撮影が終わって帰るまでなら、トイレは我慢できると踏んでいたが、ここまで大規模な撮影となると話は別だ。
なんせこの星の陸地はすべてが極小サイズで、人は微生物サイズで、都市だって寝室程度の広さしかない。そんな場所で、マリーが用を足そうものならどうなるか……。想像に難くないだろう。
(まぁでも、そこまで長引くことなんて無いわよね……)
マリーがそんな事を考えていると、インカムから声が聴こえてきた。
『お待たせしました!カメラ班が到着しましたので、これから撮影を再開します』
「わかったわ」
マリーはそう返事をすると、再び歩きはじめ撮影を再開する。
空を覆い尽くせるほどの巨大なサンダルが海水を巻き上げながら、ゆっくりと海の中から持ち上がり、陸地に近づいていく。
先ほどまで見晴らしのよかった景色が、今は影で覆われて薄暗くなっている。そして……。
ズウゥゥゥゥン!
全長2,700メートルのサンダルが踏み下ろされた時、そこに存在していた街や人間は地響きと共に消し飛んでしまった。彼女のサンダルはその小人の星を踏み抜いてしまうのでは潰してしまうのではないかと思われるほどまでに、大地に沈み込み、それだけでもとんでもない質量を支えているのだという事がわかる。
『凄いです!マリーさん!』
「そうかしら?」
インカムからは先ほどの男性の声が聴こえてくる。興奮して上ずった声をしているが、無理もない。この街にいる人間たちが上を見上げると、空一面が肌色と白色のツートンカラーに覆われているのだ。
そんな光景は、もう二度と見る事はできないだろう。
最も、この未曾有の大災害から生き残る事ができなければ、これが最後に目にする光景になるだけだが……。
***
俺は撮影場所のビルの上で、この仕事に飛びついたことを後悔していた。
ある程度の話は聞いていたが、とにかく目が飛び出るほどの高額報酬ばかりに目がくらみ、細かい所までチェックしていなかったのが、運の尽きだ。
まさか、撮影対象が山よりずっと巨大な大女だなんて知っていたら、こんな仕事は受けなかった。
しかもあの大女、海にいるのにサンダルの靴底くらいしか海水に沈んでいないし、あのヒールなんて、この街のどのビルよりもずっと巨大じゃないか……。
あんな巨大な足で踏みしめられたら、今の自分の小さな体なんてひとたまりもない。
(冗談じゃない……!)
あの巨人は歩く度に山のような大きさの足を信じられない歩幅で陸地に向かって上陸しようとしている。
あれを撮影しろだなんて、気が狂ってるとしか思えない。
あの巨大サンダルが陸地にたどり着いた時がこの街の最後だ。この街も人々も彼女の体重で押し潰されてしまうだろう……。
「おい、新人ボケっとしてないでさっさとカメラ回せ!あの巨人を撮らないと撮影班の俺たちの命も危ないんだ!早くしろ!!」
大パニックを起こして思考が停止しそうだったが、後ろから先輩カメラマンに怒鳴られ思考を無理やり稼働させる。
(そうだ……撮影出来なかったらただじゃ済まない……!こんな事でビビっている場合じゃないだろ!)
自分の頬を思い切り叩き、喝を入れると再びカメラを覗き込む。空は大女の肌色と少しばかりの水着の白色のツートンカラーに覆われていて、まるで火山の山肌を撮影しているのではないかと思うほどの迫力だ。
その大女がいよいよ上陸すると、巨大なサンダルが陸地に踏み降ろされた瞬間、ズウゥゥンという地響きと共に街の大部分が踏みつぶされていく衝撃的な光景を目の当たりにする。
だが、そんな大きな地響きが聴こえる中で、撮影班のメンバーはしっかりとビデオカメラを構えている。なんて精神力だろう……と感心しながらも俺はファインダーを覗き込む。
(クソ……、でかすぎるだろ……!)
ファインダーを覗くと、そこには巨人の肌色と水着の白色ばかりが広がる。
その大きさは、まるで大空を覆い尽くす雲のようで、うまくフレームに大女の姿を捉える事ができなくて、四苦八苦する。
ただ、そんな大きな存在に恐怖を感じずにはいられない。
(あれが本当に人間なのか?)
そう思わずにはいられないほど彼女は巨大だ。
身長17,300メートルという途方もない巨体を持つ彼女は一体どれほどの質量になるのだろう?
小さな町、いや国なんかよりも何十倍も何千倍も巨大な質量になるかもしれない。
そんな存在を今から記録しようとしているのかと思うとゾッとするが、しかしやらないわけにもいかない。
俺は覚悟を決めてカメラの録画ボタンを押したのだった……。
***
ズウゥゥン! ズウゥゥン!! マリーは、まるで砂山を踏みつけるかのように、小人の町をサンダルで蹂躙していく……。
その一歩が踏み下ろされる度に、小さな家々やビルは地響きと共に土煙に混じって吹き飛び、彼女の巨大な足跡がくっきりと残るのみだ。
(歩いているだけで、いいのかしら?)
マリーはそろそろ次のシーンの撮影に移りたいと考えていた頃、ちょうど撮影班から連絡が入った。
『マリーさん、次のシーンの撮影に移りたいのですが、よろしいですか?』
「ええ、良いわよ」
マリーはインカムの声にそう答えながら頷くと、歩みを止め、カメラに向かって語りかけた。
「じゃあ、次のシーンは……そうね、あの山に腰掛けて街を見下ろす感じでいいかしら?」
マリーが指差した先には、標高6,000メートル程の山があった。
その山はこの大陸で最も高い山なのだが、そんな世界最高峰の山でも彼女の目の高さからすれば、腰下程度の大きさにしか見えず、腰を掛けるのに丁度いいくらいだ。
「ちょっと待っててね……んっ」
マリーはそう言うと、山に背を向けて、両手を膝の上につき、前傾姿勢をとった。そしてそのままゆっくりと腰を降ろし始める……。
ズウゥゥン……! 9,100メートルの巨大なヒップが山にのしかかり、その質量に耐えきれず山の標高をグングン下げていった……。やがて山はその頂を失い、彼女の大きなお尻の下敷きになって標高は半分程にまで下がってしまった。
「あら、ごめんなさい……。ちょっとお尻が大きかったかしら……?」
マリーはそう呟きながらも、山の上に座り込んだまま、長い脚を組んでカメラを覗き込む。
「どうかしら?」
マリーは得意げな表情でそう言うと、撮影班の男性が答えてきた。
『すばらしいです!その巨体でこの山に腰掛けるなんて……』
「そう?じゃあ次はどうしようかしら……」
そう言いながらも彼女は次のポーズを思案する。
「そうね……、今度は街の上に座って見ても面白いかもね?どうかしら?」
『それ、名案です!』
「そう?じゃあやってみるわね」
彼女はそう言うと、そのままゆっくりと立ち上がり、目の前に広がる市街地に目を向ける。そこは高層ビルが立ち並ぶ都心であり、小人からすれば天にも届くようなビルが立ち並ぶ摩天楼であった。
「それじゃあ、行くわよ……」
マリーはゆっくりと立ち上がると、そのまま右足を一歩踏み出した。そして左足も踏み出すと、彼女の巨大な足がビル街を踏みしめていく……。
その一歩が地響きとなりビル街を襲い、建ち並ぶ高層ビルを簡単になぎ倒した。そしてまた一歩。
ズウゥゥン……!! 彼女の巨大な足が市街地を踏み潰し、砂埃が舞う……。彼女は文字通り歩いただけでビル街を蹂躙してしまったのだ……。
「どうかしら?私の脚は」
『素晴らしいです!』
マリーの問い掛けに、撮影班の男性が興奮気味に答えた。その反応を見て満足したのか、マリーは再びカメラに向かって語り始める。
「それじゃあ座るわよ?お尻の下敷きにならないよう気をつけてね?」
マリーはそう言うと、ゆっくりと腰を落としていく……。その動作に合わせて彼女の巨大なヒップが市街地に迫り、そのまま押しつぶしていく。そして、ついに彼女は地面に座り込んだのだ。
***
耳を劈く轟音と地震で、俺の体は文字通り宙を舞った。そしてそのまま尻もちをついてようやく止まる事ができた。
どうやらあの大女が街のど真ん中に座ったらしい。
凄まじい衝撃と地響きで、耳鳴りが止まらないし、視界もグラグラ揺れている。周りを見ると俺だけでなく、怒鳴られた先輩カメラマンや撮影班も同じ様子で、皆地面に倒れて目を回していた。
それでも、なんとかして立ち直った撮影クルーたちはビデオカメラを回し続けた。その根性に感心すると同時に、俺は諦めに近い絶望を感じていた……。
あの大女をこのまま撮影し続けていたら、俺もあの巨体に押し潰される可能性は否定できない。
しかし、だからと言ってどこに逃げれば良いのだろうか?この大陸で一番標高の高い山を椅子代わりにする巨人の足は、それだけで街一つを踏み潰してしまうし、そこらの山なら難なく跨げるほどの歩幅は、どんな乗り物を使ったって逃げ切る事は不可能だ。
どこに逃げても無駄だろう……。
俺はそう思いつつも、せめてもの抵抗にとカメラを構え続けた。そして他の撮影班もスタンバイを終えたのだろう。ついに次のシーンの撮影が始まったようだ。
大女は立ち上がると姿勢を変えて、四つん這いになり、両手を無傷な街のエリアに置きながら、カメラに向かって笑顔を振り向いている。
彼女が姿勢を変えている間、山のような巨体を支える巨大な素足が伸びていく。その長く美しい脚線美は見る者を魅了し、まるで女神のような神々しさすら感じさせるほどだった。
しかしそれはあくまでも見た目だけの話であり、実際には数万人を押しつぶして余りあるほど巨大な質量で、今も罪なき人々を跡形もなく蹂躙している。
大女は四つん這いのまま、まるでグラビア撮影のように、巨大な乳房とヒップを突き出したポーズをとる。そのグラビアアイドル顔負けの極上の肢体に、カメラ班はひたすらシャッターを切りまくる。
彼女ほどの巨大な質量の持ち主はこの星には存在せず、彼女がポーズを変える度に地震が起こり、地響きと共に街を破壊していくのだ。
しかし大女はそんな事など気にする素振りもなく、カメラに向かってポーズをとり続けている。 その姿はどこか楽しげだった……。
だが、彼女は楽しそうでも、こちらの撮影班はたまったものではない。
大女が動く度に立っていられないほどの地震が襲いかかるのだから、その度に撮影を中断しなければならない。
こっちも必死でカメラの位置を直しているのに、先輩カメラマンは素知らぬ顔で「早く撮影しろ」と怒鳴り散らしてくる。この企画を考えた奴は、こうなる事を予測できなかったのか。
そして、ついに大女が次のポーズをとる時が来た。それは四つん這いから仰向けになったのだ。
つまりは、彼女の巨大な背中やデカい尻が無防備の街の上に降ろされる事になる。
その大きさたるや、まさに規格外だ。まるで山のような質量の巨体が今にも街にも覆いかぶさってきそうな迫力がある。
大女が仰向けになり、上体を持ち上げて寝そべる姿勢になると、大きな山の様な巨体で視界が一杯になる……。
その圧倒的な質量によって、自分すらも押し潰されるのではないか?という恐怖すら感じるほどだ。
こんな巨大な女を下から見上げるなんて初めてだし、今後もないだろう。
そして彼女はそのままゆっくりと上半身を倒していく……。すると当然の事ながら彼女の巨大な臀部は重力に従って落下していき……。
ドオォォン!!
凄まじい衝撃と共に、大地が大きく揺れる!街全体が地震で振動し、建物が崩壊していく。
ただ寝そべっただけでこの有り様なのだ。大地が彼女の天文学的な質量に悲鳴を上げているのも無理はない。
周りの撮影班も必死に姿勢を維持しようと必死だが、大地震で何度も転びそうになる。
飛び交う無線の声の中に、大女の下敷きになった班が出たとか、連絡がつかないとか、叫んでいる。
もう限界だ。早くここから逃げ出したい気持ちで一杯になった。
***
耳にしたインカムから本日何度目かわからない撮影中断の報告が上がる。
どうもマリーが寝そべった際に、撮影班のいくつかをお尻の下敷きにしたらしい。
(全く、のろまなんだから……)
マリーは心の中でそう呟きながらも、インカムに向かって語り続ける。
「どれくらい掛かりそう?」
『いや、ちょっと、まだ……。想定外の事態ですので……』
インカムから聞こえる声色からは焦りが感じられた。
(また待たされるの?コレで何度目かしら……)
予定では、もうとっくに撮影が終わっているはずなのに、まだこの調子だ。
何時までも進捗が進まないのでマリーは苛立ちを覚えていた。
せっかくの南国の日差しも、これでは苛立を増長させる要因にしかならない。
この星は小さいので、暇つぶしに街に出向いたりすることも出来ず、何もする事がない。
最初のうちは小さい星を歩く優越感に興奮していたが、もう飽きた。
(早く撮影終わらないかしら?)
彼女はそう思いつつも、撮影班が復帰するのを待つしかない……。
それともう一つ、彼女の小さな懸念として、さっきから我慢していたトイレへの欲求だ。
撮影はすぐに終わると見込んでいたので、開始前からずっと我慢していたのだ。
(さすがにちょっとまずいわ……)
しかし今は撮影中なので、我慢するしか無いだろう。
何よりこの星でマリーが用を足せる場所は、この周辺にはなさそうだ……。
仕方ない。彼女は、この撮影が終わったらすぐにトイレへ駆け込もうと決意した。
***
あの大女のデカケツが重量感のある地響きと共に地面に着陸した時、それだけで街全体が大きく揺れ動き、ビルや建物が次々と倒壊していった。
そして座ったまま伸ばした彼女の巨大な素足は、まるで虫を踏み潰すかのように街を蹂躙していくのだ。その圧倒的な質量の前に、小人の街は為す術なく崩壊していく……。
大地震に大地震が重なり合い、文字通り地面がトランポリンのように波打ったのだ。
こんな状況で撮影しろだなんて、無茶苦茶もいいところだ。
俺は周りの撮影班の悲鳴を聞きながら、地震で転ばないよう這いつくばることしかできなかった。
あまりにも激しい揺れにもはや立ち上がることすらできず、ひたすら地面にしがみつき、足から来る地響きと頭のてっぺんからくる轟音に耐えるので精一杯で、巨大女の撮影なんかできる状態じゃない。
「やってられるか、こんな仕事!!」
思わず口にしてしまったが、それは他の撮影班も同様であり、皆口々に文句を言い始める。
このままでは全員死んでしまうだろう……。
ちょうどそんな時、撮影班の班長から、このままだと危険だから撮影場所を変更する、との指示が飛んだ。最初から離れた場所で撮影すれば、こんな事にはならなかったのに。
しかし、移動しろと言われたところで、今いるビルのエレベーターは動かないし、地上に降りたとして、道路は地割れと瓦礫だらけの上、避難しようとする市民でごった返している。
これでは指定された撮影場所まで1時間以上はかかるだろう。
だが、指示された以上従うしかない。結局俺たちは、徒歩で撮影場所まで向かうことにした。
それにしても移動には、かなりの時間を有するが大丈夫だろうか?
あの大女、誰かと話していたが、あまりにもサイズが違いすぎるので、何を言っているのかはわからないものの、表情と声色でかなり苛立っているのはよく分かる。早く撮影を終わらせて帰りたいのだろう。
しかし、撮影するスタッフがこの有り様では、まだまだ時間は掛かりそうな様子だ。
俺は悪態をつく先輩カメラマンと一緒に機材を肩に掛け、非常階段を下り始めた。
***
巨大な素足が何度も組み直される度に、ズドォン!という地響きと共にビルを踏み潰し、その振動で電線がショートし、火花が飛び散りあたりで火災が発生する。
燃え盛る炎は逃げ惑う小人と街を焼き尽くしていく……。
そんな地獄絵図が繰り広げられている中、マリーはいよいよ我慢の限界に達しようとしていた。
(まずいわね……)
これほど撮影が中断するなら、断ってトイレに駆け込めば良かったのだが、今となってはもう遅い。
「ねぇ、まだ時間がかかるなら、一度トイレに行ってもいいかしら?」
マリーはインカムでスタッフに向かってそう問いかけた。
「え?あ……。すみません、もうすぐ準備が終わりますので……。もう残りの撮影も僅かですから、直ぐに残りを撮って引き上げますから」
(またそれ……?)
何度このやり取りをしたのだろう。この星で一万倍のマリーが用を足せるような場所はこの星にはないので、トイレを済ますなら一度、軌道上に待機している船まで戻るしかない。
だが、そんな事をすれば、また撮影が中断してしまうだろう。
この星は小さいといっても、軌道上から地表まで片道で1時間はかかるし、往復する時間を考えれば2時間以上もかかってしまいかねない。
トイレに行かせたくないスタッフの気持ちも分からなくもない。
だが、このままではマリーの膀胱は暴発しかねない。彼女は撮影班に再度トイレに行きたい旨を伝えることにした。
「ねぇ、もう我慢できないわ……。この星で用を足す場所なんてないでしょう?だから一旦船まで戻っても……」
『ダメです。我慢してください』
インカムからは即答で否定される。
(はあ、やっぱりダメ……)
マリーはうんざりしながら、渋々と待機を承諾する。
確かにお尻で撮影班を押しつぶしたことで、撮影が遅くなっているのは分かっている。
けれど、元はと言えば撮影班が鈍臭いがために起きた事故であり、それを棚に上げてマリーにトイレを我慢させるなんて、あまりにも身勝手だ。
これだけ体の大きさが違うのだから、こういった事故は少し予見すれば珍防げた事故でしかない。
……そうだ、悪いのはスタッフ側で私は悪くない。
お尻でスタッフを潰したのも、撮影が滞っているのも、全て相手の不手際による事故。仕方ない事なのだ……。
ならば、そんな事故のせいで、我慢を続けている自分の膀胱が限界を越えて失禁してしまうのもまた相手の責任であると言えるのではないか……?
そんな事を考えていると、マリーの膀胱はいよいよ限界に達しようとしていた……。
「んっ……♡くっ……♡」
(おしっこしたい……。早く終わって欲しい……)
マリーはカメラに映らないようお尻を地面に押し付けて、膀胱を圧迫するようにもじもじと動かしながら、必死に尿意と戦っていた。
『あの、マリーさん?大丈夫ですか……?』
「え?ええ……大丈夫よ……」
しかし大丈夫なわけがない。もう膀胱が破裂しそうなほど膨らんでいるのがわかる。
(おしっこしたい……。おしっこしたい……)
もはや彼女の頭の中は、この尿意の事しか考えられなかった……。
膀胱を圧迫するように腰を動かし、お尻に体重をかけて我慢しているものの、その行為が逆効果となりさらに尿意が増していく……。
グリグリとお尻を動かすことにより、小人の街は彼女の巨大なお尻に踏み潰され、数万の小人がお尻の下でぐしゃぐしゃに潰れてしまうが、、そんな事はどうだっていい。彼女は限界に達した膀胱の悲鳴を耳にしながら、必死に尿意に耐えていた。
(おしっこ……おしっこしたい……)
しかし、待てど待てどインカムに入ってくる話の様子は変わる様子もなく、マリーの我慢にも限界が訪れようとしていた。
膀胱からは尿意を伝える信号が脳天まで伝わり、まるで目の前がチカチカするかのような感覚に襲われる……。
(ダメっ……もう我慢できない……!おしっこ出る……!!)
もう限界だった……。
マリーの膀胱は決壊寸前で、少しでも気を抜けばすぐにでも失禁してしまうだろう。
しかし彼女はそれでも我慢を続けようと必死だった。
ここで漏らしてしまうと街は勿論、撮影スタッフにも被害が及んでしまう。だから、何としても耐えなければ……。
だが、そんなマリーの願いも虚しく、彼女の意思とは関係なしに尿意が高まっていく……。
(ダメっ……!)
マリーは、もう我慢の限界だった……。
「ごめんなさい!もう無理!」
彼女はそう言うと、その場で姿勢を変えてしゃがみ込み、股を拡げ水着のボトムをずらす……。
『ま、待ってください……!せめてスタッフの避難を……!』
インカムからはスタッフの声が聴こえるが、もうマリーはそれどころではなかった。
そしてついに限界を迎え、彼女の股間からシャァーーーーッと滝のような勢いで聖水が噴き出した!
「ふぁ……♡」
マリーの口から思わずため息が上がる。
今までに経験した事がない程の快感が全身を走り抜けたのだ。
それはまるで電流が流れたかのような衝撃だった。
ずっと我慢していたものを吐き出す開放感。凄まじい勢いで放出される聖水は、地響きと振動と共に街の中心部に向けて落下していった。
それはまさに神話のような光景だった……。
巨大な割れ目から放たれる直径100m近いオシッコの滝は、その勢いを止めることなく地上に降り注ぎ、山を削り、深い渓谷になるまで掘り返し、流された土砂と一緒に広がる黄色い津波が街蹂躙していく。
「ああ……。気持ちいい……」
マリーが恍惚の表情を浮かべながら、うわ言のように呟く。
限界まで膨らんだ膀胱から尿道を一気に駆け抜けるオシッコの快感は、彼女の脳を焼き尽くすほどの衝撃だった。
そしてそれは小人にとってはまさに天変地異であり、ビルよりも高い津波が時速300km以上の速度で周辺の街を蹂躙し、その津波からは人類が作ったビルやシェルターはもちろん、丘や山ですら、おしっこの濁流でその身を削り取られ、泡立つ小水のゴミとなって低地へと流されていく。
そして津波が通り過ぎた後には巨大なアンモニア臭のする湖が出来上がり、そこに街があった痕跡すら残っていなかった……。
「ふぅ……」
マリーの放尿はかなり我慢していたこともあり、その勢いは凄まじく、一分間近く放水を続けた。
津波が通り過ぎた後には、かつて街の姿はどこにもなく、おしっこの大河が海に向かって水しぶきを上げながら流れ落ちていく。その流れには家や車に混じって身動きが取れず沈んでいく小人も多い。
そんな地獄の光景を見ながらもマリーは尿道に残った一滴まで搾り出すように出し切ろうとしていた……。
「あふぅ……♡」
ジョォォォーーーーーー!!
割れ目から勢いよく噴き出すアンモニア臭のする液体。その勢いはまるで火山の噴火のように凄まじく、津波が引き起こした湖はさらに泥と小人の死体を混ぜながら、その湖を黄色から茶色へ変色させていく。
「んっ……♡」
ブシュッ!!
最後に膀胱に残ったおしっこを勢い良く吐き出してマリーはようやく満足したのかゆっくりと立ち上がった。
彼女のおしっこで埋められ、海といっても差し支えない量の黄金色の湖に沈んだ街の残骸を眺めながら、マリーは大きく息を吐いた。
彼女の股下にはキラキラとした水たまりができており、ほかほかと湯気が立ち上っている。
「ちょっと出しすぎちゃったかしら?」
マリーはそう言いながらも、すっきりとした表情を浮かべている。
さっきまであれ程騒がしかったインカムの音声も、小人の喧騒やサイレンで煩かった足元の街も打って変わって、しんと静まり返っている。
「ここでの撮影はもうできないかしらね?」
マリーは自分がしでかした惨状を見つめながら呟いた。
目の前に広がる街だった場所は、彼女の尿で湖のようになっていて、先程まで小人が住んでいたとは思えないほど静まり返っている……。
恐らく、この水溜りの底に沈んだスタッフの数は少なくないだろう。
「まっ、こればっかりは仕方ないわね……」
と彼女は呟く。だって、予定では撮影は既に終わっても良い時間なのだ。
それが、手際の悪いスタッフのせいで、予定より遥かに長い間待たされたりしたのだから、我慢にも限界がある。
段取りの悪い現場スタッフには、どういう目になってしまうか、よく身に沁みたのではないだろうか。
マリーはそんな風に自分の中で今回の行為を正当化すると、そのままゆっくりとした足取りで次の撮影現場に移動するため、その場を後にしたのだった。
***
混乱する人々の波を掻き分け、何とか指定された新しい撮影ポイントに移動できた俺たちの撮影班は、小高い丘になった公園にある展望台の頂上で、カメラの三脚を立てて準備を急いでいた。
大女に近すぎるのは危険と判断して、今いる場所は彼女から数キロ離れている。
もっとも、彼女からしたら2、3歩歩けば辿り着ついてしまえる距離だが、それでもかなり離れている。
彼女との距離が離れたおかげで、あの恐ろしい迄の迫力から多少逃れて撮影出来るのは不幸中の幸いかもしれない。
「あの大女、さっきから全然動きませんが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、確かにな……」
先輩はそう言ってカメラのファインダーを覗いたまま答える。
この展望台は小高い丘になっていて、ここからなら大女の全体像と表情までしっかり見えるのだが……。
「なんか様子が変だな……」
先輩が呟いた。確かに、何か体調でも悪いのだろうか?彼女はあの姿勢のまま、何やらモジモジと腰を動かしていた。
「これはもしかして……」
先輩の言葉に俺は嫌な予感がした……。そして次の瞬間、それは現実のものとなった。
「お、おい!なんかヤバいぞ!!」
先輩が叫んだと同時に、大女が座った姿勢から立ち上がり始めたのだ。
その後は、一瞬だった。
皆が、彼女がこれから何をするつもりなのかと想像する間もなく、水着のボトムをずらしたかと思えば、何の断りもなく野ションを始めたのだ。
人類の一万倍という規格外の体格のままで。
シュゴオオオオォォーーーーー!!!!!
大瀑布のごとき轟音が木霊する。
彼女の聖水が何百メートルもの束になって放物線を描き、地上に降り注いだ。
その勢いは凄まじく、毎秒何百万トンもの水量がビル群も小人の群れも一瞬で砕き潰して、街の一区画を丸ごと押し流してしまう程だった。
足元では地響きのような唸りが起こる。あの大量の小水が地面を叩き付ける衝撃が数キロ離れたこの場所まで地鳴りとなって響いているのだ。
地面を叩きつけた水流が跳ねた滴でさえ、ビルよりもずっと大きな山の様なサイズになり、周囲に撒き散らしてさらなる破壊を生み出している。
なんて威力だ、あんなもの食らったら、ひとたまりもないだろう……。
巨大女の激流の匂いがこちらにまで漂ってくる。ツンとした刺激臭は体の大きさが違えども同じなのだな、と少し思ってしまった。
やがて生暖かい洪水が、こちらに押し寄せて来た。
押し寄せる洪水に高級リゾートホテルも別荘地も、ひとたまりもない。
大小様々な建築物をあっという間に濁流に飲み込まれる。
怒濤と破壊の音が耳を劈く。
濁流を見ると自動販売機と乗用車とトラックが押し流され、続いて流木が家屋に衝突する。
そこに運悪くいた人間たちは濁流に飲まれ、もみくちゃにされながら水中に押しやられていく。
巨大な滝壺と渦潮が人間を水攻めで溺死させて、何人もの人が沈んでいく……。
その光景はまるでこの世の終わりの様な光景だった。
だが、これは天災等ではなく、一人の女の生理現象が引き起こした災害なのだ。
少ししてようやく、巨人女の放尿が勢いを弱めていく。
シュゴオオオンン!!
膀胱に残った尿を絞り出しているのか、割れ目からの激流が緩急をつけて何度も噴出される。
その勢いは凄まじく、数キロ離れたここまで水しぶきが飛んでくるほどだった。
やがて放尿の勢いが弱まり、彼女の聖水の滝も小人の街を飲み込む伴流も落ち着いてきた。しかし、それでも辺り一面が彼女の出した洪水で水浸しだ……。
「ふぅー」
大女は一呼吸つくとそのまま立ち上がり、自分が吐き出したおしっこの水溜まりでグシャグシャになった街を見下ろしている。
「んっ……♡」
スッキリして気分が良くなったのか大女は何やら艶かしい声をあげながら、お尻を左右に揺らして地面を踏み鳴らし始めた。
ズシィィン!!
被害のなかった都市が一瞬で崩壊し、巨大な足跡に変わっていく。
そして彼女は自分の小水で沈めた街を振り返ることもなく、そのままゆっくりと歩き始めた。一歩また一歩と足を進める度に、地響きと共に街の残骸を巻き上げていく。
用を足した街の跡地には、まるで興味を示さないあの様子は、この天変地異の様な大災害がただの生理現象としか思っていない証左でもある。
俺はただ呆然と、地響きを立てながら去っていく巨人女の後ろ姿を見上げることしかできなかった。
「おい新人、俺たちも移動するぞ」
「えっ?この小便の海をですか……?」
俺は先輩の言葉で我に返った。
「そうだ、さっきの大女のアレを見たろ。また遅れると今度は俺達が、ああなる目に合うかもしれんぞ?」
「た、確かに……」
俺はあの大女のおしっこの威力を思い出し、ゴクリと唾を飲み込んだ……。
あんなものを直接食らったらひとたまりもないだろう……。
無線から入る情報では、あの大放水に巻き込まれた撮影班も少なくないらしい……。
しかし、スタッフの混乱をよそに彼女はもう既に次の撮影場所に向かって移動し始めているのだ。
俺たちも早く移動しなければならない。また撮影班のせいで遅れたとなれば、あの巨大女のことだ、次は何をやらかしてくるかわかったものじゃない。
先輩の言う通り早く移動しなければ……。
「ほらっ!さっさと行くぞ!」
「は、はいっ」
スタッフは皆、巨人女が立ち去った後の生暖かい黄色い湖に腰まで浸かり、遺体や建物の残骸が散らばる海をバシャバシャと歩きながら次の撮影ポイントへと急ぐ。
俺はそんな中、高額報酬目当てで仕事を選んだ己の愚かさに、今更ながら後悔しながら、先輩スタッフのあとに続く。
まだ、撮影は半分も終わっていない……。