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オメガバースでいじめっ子×いじめられっ子 大学生編(その1)

 中野聡司が屋敷昴と番ってから三年が経った。

 屋敷が東京の大学へ進学したため、二人の住まいは大学近辺の駅直通マンションへと移った。屋敷家が経営する会社は余程上手くいっているようで、彼らの住む部屋は高層階にあった。

 リビングに位置する大きな窓からは街が見下ろせる。高速道路や大通り、駅の周囲に広がる繁華街など、どれも地元では見られないほど栄え、夜になれば美しい夜景が見えるのだが、聡司にとってはどうでも良いことだった。


「……あ、牛乳買うの忘れてた」


 聡司は屋敷と同じ大学に通っている。今日はその帰りにスーパーへ寄って菓子類や飲み物を購入したのだが、キッチンで買い物袋を開けてようやく忘れ物に気づいた。

 二人の住まいには相変わらず週一、二回の頻度で家政婦が通っており、料理も掃除も洗濯もする必要はない。だから買い忘れがあったとしても生活に困ることはないのだが、その日の聡司は何となくフラリと散歩をしたい気分だった。


「コンビニで良いか」


 大学への進学は許されたがサークル活動もバイトも禁止された聡司とは違い、屋敷は複数のサークルに参加している。彼は大学に行っても人気者で、色々なサークルから引くて数多だった。今日はそのうちのひとつ、イベントサークルの飲み会があるから帰りは遅くなると聞いている。


(かわいい女の子も、きれいなΩもいるんだろうな)


 大学では幾度か、そのサークルの仲間に囲まれて談笑している屋敷の姿を見かけたことがあった。この大学にはαが多いが、βもΩも通っている。そしてそのサークルには他大学の生徒も参加しているようだった。

 聡司は高校生の頃から変わらない、貧相な自分の体を見下ろした。βの頃より痩せてしまった体は到底魅力的とは言えない。骨張ってゴツゴツとした体は触り心地が悪いだろう。

 それに、顔の造作も悪くはないが良くもない。Ωになってもβの頃と変わりなく、聡司は印象の薄い顔立ちをしていた。

 イベントサークルには、凛としたαの女性や魅力的な容姿のβの女性、そして可愛らしいΩの男女がいるのを知っている。彼女ら彼らが屋敷を熱っぽい目で見つめ、熱心に話し込んでいるのを聡司は何度も目撃していた。


(あの中に気に入ったコが出来れば、僕みたいに番にするのかな)


 番にされたことを最初は受け入れられなかった自分とは違い、彼らなら喜んで受け入れるのだろう。そうなれば、自分に従順な人間を好む屋敷の関心はそちらへ向いてしまうかもしれない。

 聡司は涙が出そうになるのを堪えながら、帰宅後にネックガードを外したばかりの首筋を指で撫でた。

 そこには無数の噛み跡が刻まれている。番契約をした際の噛み跡は一生消えることはないが、屋敷はセックスのたび、その上から何度も噛むのだ。この傷跡だらけの首筋を隠すため、聡司の外出の際にはネックガードが欠かせなかった。だからなのか、聡司は良く番を持たないΩだと誤解されることが多かった。

 聡司はテーブルの上へ置いたままだった黒いネックガードを再び首に巻いた。電子錠が音を立てて締まり、聡司はスマホに目をやる。常駐アプリが表示されている上部のステータスバーに鍵のマークが表示された。このアプリは屋敷のスマホとも連携されていて、ネックガードの施錠状態と位置情報を確認できるようになっている。


「飲み会だから、多分見てないだろうし」


 そう呟きながら聡司は財布をサコッシュに入れ替え、靴を履いた。聡司の位置情報は履歴が辿れるようになっているが、買い忘れたものを買いに行っただけだと言えば特に何も言われないだろう。これまでそんなことが無かったわけではないのだから。

 聡司は二人の部屋のドアを開け、マンションの廊下を歩き始めた。



「中野」


 コンビニで牛乳と少し気になっていた新発売のペットボトル飲料を購入した聡司は、不意にかけられた声のほうへと振り向く。夕暮れ時の歩道に立っていたのは、同じ学科の安藤という学生だった。友人とまでは言えないが、彼とはたまに話す仲だ。大学でもほとんど友人を作れなかった聡司にとって、彼は貴重な存在だった。


「安藤くん、この近くに住んでるの?」


 偶然会ってしまった知り合いに悪い印象を与えたくない、と意識的に笑顔を浮かべ、聡司は質問をする。自分のことなど話したくはないから、という理由もあった。


「ああ、ここから歩いて十五分くらいかかるんだけど。中野はこの近く?」

「う、うん」


 質問が返ってきたことに焦り、聡司は慌てて頷いた。


「え、凄いじゃん。この辺のマンションって家賃高いだろ」

「あ、えっと……うん……」


 どう返して良いのかわからず、曖昧な返事をした。屋敷の家が用意した部屋だから、と正直に話すには、自分が彼の番であることを説明しなければならない。しかし大学にて屋敷が自分と番であることを特に主張していない以上、自分がそれを他人に言っても良いものなのかどうか、聡司には判断できなかった。


「じゃ、じゃあ、また大学で……うわっ」

「中野っ」


 話を切り上げ急い元来た道を帰ろうとしたとき、聡司は自分の右足に左足を絡ませ、転びそうになった。バランスを失った聡司を安藤が片手で支える。


「大丈夫か?」

「あ、ありがとう……ごめん」


 安藤の腕を頼りにバランスを取り戻した聡司は何とか立ち上がり、彼の腕を離した。


「……中野って」

「え?」

「匂いしないよな。Ωなのに」


 安藤が近付き、首筋の匂いを嗅がれる。聡司の背筋に寒気が走った。


「……っ」


 名状し難い不快感を抱えた聡司は二、三歩後退り、安藤と距離をとった。買い物袋を両手で握りしめ、身を守るように体の前へ持ってくる。しかし、それが何の守りになるのか、といった風に安藤は笑った。


「俺、αなんだけど」

「…………」

「Ωのくせに気付かなかった? 鈍いのか、それとももう誰かと番ってるのか……ま、いいや」


 安藤の顔に笑みが戻る。しかし聡司には最早それが友好的なものだとは感じられなかった。


「じゃあ、中野。また大学で」


 安藤はそう言うと、片手を上げて去っていった。

 聡司はしばらく呆けたようにその場に止まったあと、重い足取りで家路についた。

Comments

高校生までで終わるつもりだったんですが、ちょっと続きを書いてみたくなって続けてしまいました笑 近いうちに続きをアップできるように頑張ります

煉瓦

大学生編、始まって嬉しいです😆 ライバル出現⁈聡司の魅力が漏れ出ちゃったのか🤣 続きが楽しみです❣️

ありがとうございます 続きも頑張って書き上げます😀

煉瓦

今回もすごく面白かったです💖😭次回は修羅場になりそうな予感…?続き楽しみにしてます🥳


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