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「オラァッ!!」
ドゴォッ!!
「がっ……っ!!」
攻防の果てに、アラトのミドルキックが命中する。カイチはすかさず反撃に出るものの……、アラトはすぐに身を引いてしまう。
試合の始まりから、アラトはなかなかカイチの懐に入ろうとはしなかった。細かく距離を稼ぎ、かと思えば大きな動きで迫って攻撃を当ててくる。
勢い任せの殴り合いに挑むファイトスタイルを好むアラトにしては珍しくも、ボクサーであるカイチにとっては非常にペースを崩される流れとなっていた。
(ちくしょう……、アラトの野郎……! ガチで勝ちにきてやがる……!)
アラトの拳には勢いはなくとも、ここまで流れを握られていてはさすがに疲労を覚え始める。
……つまり、ボクサーである自分の対策を徹底しているということか。ここにきて、アラトが始終浮かべている不敵な笑みの意味が分かった気がした。
「へっ! もう何度もテメェと殴り合ってんだ。お前の得意な距離感はもうわかってんだよ!」
「はぁ……はぁ……、アラト、テメェ……っ!!」
術中にはまったライバルの姿をしり目に、すでに勝ちを確信しているのだろう、アラトが指を振って挑発する。実際、ほとんど自分の戦いに持ち込めていないカイチは口元をくすり、苛立たしそうに舌打ちした。
「距離さえ詰めちまえば、ボクサーなんざ怖くねぇんだよ!」
グボオオオォォォッ!!
「がぁぁっ!!」
ステップを刻み、煽り文句を吐きながらアラトが飛び蹴りを繰り出す。反応が遅れ、見事に顎を突き上げられたカイチは、その大胆な威力に後ずさりし、ついにキャンバスに崩れてしまう。
これまでの喧嘩や試合でここまでカイチを翻弄できたことはないアラトは、大きく息を乱すカイチを見下ろし、さぞ満足そうににやついた。
「……はぁ……はぁ……、へっ、んなこといって。俺と殴り合うのが怖ぇだけだろ? 腰抜け」
背後のロープを掴み、足を震わせながらもカイチが立ち上がる。
「はっ、煽っても意味ねぇんだよ。今のうちに俺に抱かれる覚悟しとけよな♪」
(ぐっ……、さすがのアラトも乗ってこねぇ、か)
普段のアラトなら、勝負の最中に挑発など受けようものなら、激高して飛び込んできてもおかしくはない……、が、向こうから徹底すべき策を持ち込んだせいなのか、アラトはいつもより冷静なようだ。
ボクサーである自分は、中距離や、はたまた規格外の大きな動きにはいまだ慣れていない。不規則な攻められ方こそわかりやすい弱点であり、それは自分がボクシングの道にこだわり、歩み続ける限りは永遠に付きまとうだろう。
(だがよぉ……。こっちももう何度もお前とやりあってんだ。完封した気になってんのも、今のうちだぜ……!!)
……だが。こんな程度で終わってたまるか。まだまだ試合は始まったばかり。アラトがここまで対策を持ち出したのは間違いなく、ボクサーの得意な距離感で戦うのが嫌になってしまったからだろう。
実際に自分は、この拳で何度もアラトをボコボコにのしているのだから……。
そして、それはアラトも本調子を出せないことを意味している。なにせこいつは、相手によって自分のスタイルを180度変えられるような器用な奴じゃない。
大して技巧派でもないくせに……、案の定調子に乗り始めているアラトを、カイチはひそやかに影で嘲っていた。
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yukibou
2021-06-02 03:44:38 +0000 UTCミケ空
2021-06-02 03:19:19 +0000 UTC