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「かは……はぁ……はぁ……!!」
「大人しくユウキを差し出せよ。したら、今日のところはこれで許してやってもいいぜ?」
シドウの圧倒的なリーチ、怪力に翻弄されるがまま、カイチは膝をついていた。目の前のそびえたつ巨漢、シドウは、いくどとなく「ユウキを差し出せ」とせっついていた。
(……クソ!! ……もう、腕が重くて、顔面まで届かねぇんだよ……!! ここまで殴られるのも久しぶりだぜ、ちくしょう……!!)
ここまでの巨漢が、なぜユウキを狙うのか……。それもシドウは間違いなく格闘技未経験、よくて初心者だ。なおのことユウキが特別に相手にするとは思えない。
「はぁ……はぁ……、お前じゃ、ユウキには勝てねぇよ……」
「……あ?」
だが、それでもユウキを売り渡すなんて考えはみじんも浮かばなかった。たとえ自分がここでどうなろうとも……。
痛めつけて尚も揺るがないカイチの真っすぐな眼光に、シドウは不愉快そうに舌打ちした後、何かを納得したように失笑した。
「……ほぉ。チビのテメェには、この見事な肉体美が目に入らねぇらしいなぁ?」
「……ただのガタイ自慢が図に乗ってっと、「本物」相手に後悔すんぞ」
カイチがチビ、なんて言葉をかけられることは珍しかった。それだけ相手が規格外だということ。生徒も教師も筋肉隆々な神原学園でもこれほどのレベルはそうはいない。
吐き捨てるカイチを、シドウは乱暴に押し倒した。背後から抱きついてともに横たわり、その体に腕を回す。
「…………まだんな余裕があんのか、だりぃけど、もう少しボコる必要があるみてぇだな」
自分の胸部から腹までを覆ってくる、汗のにじんだ胸、そして腕の感覚。堅牢な筋肉の密着に、カイチは舌打ちした。
ギシッ……ミシッ……!!
「がぁ……ぁぁぁ、ぁぁぁあああああああああああっ!!!」
「はははっ!! 気味のいい鳴き声だぜぇっ!!!」
シドウが抱きつく力を強化する、それだけで、カイチの胸の筋肉がまるでないかのように変形していく。
自分が打撃重視のスタイルだからだろう、同期からは試合や喧嘩でベアハッグに類する技を食らうことは多い。が、ここまで芯に迫っての圧迫感を感じるのはいまだ未体験だった。
万力の如く怪力に挟み込まれたようなカイチは、ひたすらにシドウの腕の中で野太い悲鳴を上げる。
(やっぱこいつ……! 格闘技の経験はなくても……馬力だけは、ありやがる……!)
技や構えはめちゃくちゃで、戦うスタイルは喧嘩慣れで賄っている状態。だが、ただ自分が抱きつき、筋肉に力を籠めるだけで相手が潰れるのは知り尽くしているのだろう。
「どうだっ!? これでもユウキにゃ敵わないって? 寝言も寝ていえや!!」
「がぁ……あ、がぁぁぁぁぁっ!!!」
「ま、あのチビの厄介さは知ってるけどな。俺に考えがねぇわけねぇだろ?
いくらちょこまか動かれても、捕まえちまえば終わりだ。あんな貧相な野郎が、プロのビルダー泣かしてきた俺の腕力から逃れられるわけがねぇ」
髪や顎から汗が垂れ、カイチの背筋とシドウの胸の隙間に消えていく。熱気が満ちて、照明で艶めいた筋肉の線が明確になっていく。
足や腕を多少ばたつかせたところで、熊のようなシドウの体はびくともしなかった。寧ろ、カイチの抵抗を最後の最後まで味わいつくすよう、絶妙に力を加減している。
「そうだろ? テメェの二倍近く太い野郎どもの腰をブチ折ってきた俺のハグの味はどうだ?」
「ごぁ……か、はぁ……っ!!」
(が……、ぁ……クソ……がぁ……っ!!)
「夜は長ぇ。……俺を舐めやがった罰だ。簡単に終われると思うなよ?」
カイチの耳元で、シドウが低い声色で囁く。
大事な友の体を力ずくに蹂躙される。これが、後にユウキを追い詰めると考え、シドウは悪い笑みで舌なめずりした。
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jin
2021-02-13 09:08:30 +0000 UTC