XaiJu
Mibusaki
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ハロウィンの後始末(前) 約5700字

とある人間の街。日頃から多くの人々が行き交う大都会が、この夜は少し変わった様相を呈していた。スクランブル交差点は仮装した若者たちで溢れ返り、いつも以上に賑わっている。今日は10月31日、ハロウィン。便利さと活気が魅力のオシャレな若者の街は、その催しを楽しむ舞台として選ばれた。しかし、お祭りごととはいっても、楽しい面だけを見てはいられない。年々増えるハロウィンの人出に伴い問題となるのは、路上に散らかる大量のゴミ。度を超えた治安の悪化。一部の暴走する若者たち相手に警察官も手を焼いている。それでも、多くの参加者たちは節度を守って浮かれ、騒ぎ、笑い合って街を練り歩く。


夜が更け、歓声と音楽の混じる喧騒がピークに達した頃、


突然、轟音が響きわたった。


ドズウゥゥウン……。


グラりと揺れる地面に人々は驚き、周囲を見渡す。


「なに?地震?」

「いや……、お、おい、あれ…………」


ざわめく人間たちの視線が、誰ともなしにある一点に釘付けになる。それ、は都会の高層ビル群を越えたはるか向こうに佇んでいた。夜闇を背景に街の灯りでライトアップされたのは、2つの巨大な人影。


雄の魅力を撒き散らす、筋骨隆々とした巨人だった。


「え、何あれ?やばくない?」

「なんかのイベント?」


喧騒が大きくなるのと同時に、辺り一帯を襲う揺れもより一層激しさを増していく。

人間たちは巨人の一挙手一投足が起こす振動に翻弄されながら、ビルの向こうにそびえ立つ巨体を見上げた。


巨人たちは若々しく、青年らしい逞しさの中にも少しあどけなさの残る爽やかな雰囲気をまとっている。大学生、もしくは高校生ほどの年齢だろうか。彼らもこの街のハロウィンイズムに則ってか、外国の警察官を模した安っぽいコスプレ衣装を着ている。ネイビーの制服は大胸筋でピチピチに張り詰め、筋肉が盛り上がった袖はほとんど余裕がない。筋肉の圧力で服全体が今にもはじけそうだ。警官にあるまじき緩さで締められたネクタイは、分厚い胸板に持ち上げられて軽く浮いている。鍛え上げられた巨大な太ももと尻は、ズボンに包まれていても周辺のビルを圧倒する質量を見せつけている。さながら巨大飛行船のような大腿部は安生地をパツパツに押し広げ、一日分の汗と臭いを吸い込んだボクサーの裾ラインを薄らと映し出している。


「筋肉やばくね?wマジでけぇw」

「『巨人出た』。ヤバ、トレンド入ってんじゃん」


そんな2人の巨大筋肉青年を見た人間たちの行動は、あまりにも楽観的なものだった。スマホを構えた人々が次々に写真や動画を撮り始め、少しでも巨人との距離を縮めようと騒ぎ始める。当然SNSでも巨人の出現は話題となり、関連内容が一瞬にしてトレンドの上位を独占。高層ビル群を長い股下に優に収めながら、人間の様子を見下ろす2人の巨人。彼らの顔には、何やら面白がっているような表情が浮かんでいる。


撮影をしている内の何人かが、カメラ越しに巨人と目が合った。その瞬間、巨人の一人がニカッと歯を見せ、爽やかに微笑む。その親しみやすささえ感じさせる仕草を、また嬉々として取り上げ投稿する若者たち。しかし、それがこの後に続く出来事の序章だとは誰も予想していなかった。


投稿を終え、もう一度カメラを向けたときに画面に映ったのは愛嬌のある笑顔ではなかった。薄汚れた白い板。表面にボコボコとした溝があり、黒や茶色のカスが挟まっている。紛れもなく、靴のソールだった。かかと部分にへばり付いていたガムのような白いゴミがべロリと剥がれて地上に落下する。ガシャン!と大きな音を立てて落ちてきたのは、ペシャンコになった自動車だった。


「え…?」


スマホ越しに、巨大な靴底が迫り来る。本能的な命の危機を察知したときには既に遅い。容赦なく全身を押し潰され、彼らは自動車と同じ運命を辿った。



ズドオオォオオオオォオンッ!!!!!!



巨大な足が勢いよく踏み下ろされ、これまでとは比べ物にならない衝撃が襲う。地面が揺れ、アスファルトが音を立てて砕け散った。一瞬前まで人々が群がりスマホを構えていた場所は、今や30メートル越えのバッシュが我が物顔で堂々と鎮座している。周辺のテナントも一緒くたに踏み潰され、軽トラのひしゃげた荷台が足の横にはみ出していた。辺りには土埃が立ち込め、目の前の光景に人々は恐怖で言葉を失う。腰を抜かして固まった人々の前で、巨人はまるで見せつけるかのように足をグリグリと動かす。運悪く足元にいた人間たちはそのまま巻き込まれるようにして、断末魔の叫びを上げながらすり潰されていった。


「人のこと勝手に撮ってんじゃねーよ。モラルがなってねーんじゃねーのか?あん?……ま、思わず撮りたくなる気持ちも分かるけどな?俺って、マジでデケェし?ほらよ」


巨人がその巨体を大きく折り曲げて人間たちの上に身をかがめる。そして、わざとらしく筋肉を見せつけ、ポーズをとった。今なら好きに撮っていいぞ、と言わんばかりに自慢げな表情を浮かべている。


しかし、人間たちはもうそれどころではない。ようやく巨人の存在に危機感を覚え、叫び声を上げながら蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げ出していく。

人間たちが必死になって走っていることは巨人にも伝わっていた。それでも、動き出しも、動き自体も巨人にとってはあまりにも遅すぎた。

既に巨人の歩みで崩壊した街並みを走るのは容易ではない。粉砕された道、倒壊したビルの瓦礫、大勢の人の波。その様子はさながら水を吹き付けられたアリの巣。大混乱のさ中、ただその場で逃げ惑っている虫けらのようだった。


まだ遠くにいたはずの巨人が一瞬にして目の前に現れた。人間がそのような認識をしてしまうのも無理はない。人間にとっては数本の通りを超えたビルの向こう側だとしても、巨人には簡単に跨ぎ越してしまえるたった一歩の距離にすぎない。あまりにもスケールが違い過ぎた。自分たちの一挙手一投足に怯える人間たちを見て、2人の巨人は今にも吹き出しそうに笑いをこらえている。


「こいつらマジでおもしれーw 俺らから逃げられるわけねーのになw つーか、マジでお前の言った通りだったな。今日は人間の街で大量にゴミが出るって」

「だろ?こんだけゴミが集まってたら、こっちとしても掃除しない訳にいかない……あ?」


巨人の足元でガラガラとビルが崩れ去る。跨ぎ越した際に後ろ足がひっかかったらしい。その街を代表するランドマークビルも、巨人にとっては膝下にも満たないオモチャのようなものでしかない。完全に無意識だったが、足が掠っただけで倒壊してしまうビルの脆弱さに2人は顔を見合せて大声で笑った。


「っははははははッ!マジかよww人間の巣ざっこw」

「いや、弱すぎんだろ!もはや砂じゃね?w」


凄まじい音圧がビリビリと街をつんざいた。周囲の建物のガラスが粉々に割れ、破片が人々の頭上に降り注ぐ。思わず身体を吹き飛ばされそうになるほどの声量。人間たちは反射で耳を塞ぐも、運動部巨人の声量にはまるで太刀打ちできない。脳が揺れる程の音圧で、簡単に鼓膜を突き破られた。


「マジでゴミだな!お前ら人間も、街そのものもゴミじゃねえかw」


一人が嘲笑するように叫ぶ。


「お前らが街を汚してんだろ?だったらゴミはきちんと潰して、キレイにしてやんないとなあ?」


もう一人の巨人がそう言い放つと、二人は一層大きな歩みを踏み出した。そのたびに足元では脆弱な建物が次々と崩れていく。取り残された人間たちは何とか巨人の足から逃れようと必死に這いずり回るが、振動に合わせて転がされるので精一杯だった。為す術なく、次々に迫りくる靴の下に消えていく。


「ほーら、ポリスメンのお通りだぞ〜。道を開けてくださ〜い!どかねぇ奴は全員踏み潰しますよ、っと!」


「ほんっと、ゴミゴミしてんなぁ。ここら一帯お前らごとまとめて更地にするんで、覚悟してくださいね〜。おら、逃げんな」


わざとらしく警察官を気取りながら、2人は上機嫌で街の上を歩いていく。足をブルドーザーのように使い、散らばった人間を1匹残らずまとめて、潰す。国内有数の大都会がまるで学祭の片付けでもするかのようなノリで、逞しい脚に片っ端から蹴散らされていく。あまりにも屈辱的で、絶望的な光景に人間たちは咽び泣いていた。その様子を見た2人は興奮し、更にテンションを上げていく。支配者としての本能的な欲望が湧き上がり、股間の膨らみも徐々に熱を持ち始めていた。


「っへへ、結構高まってきたな……っと……?」


巨人が首をもたげ始めた立派な逸物を宥めるように軽く揉みしだいていると、ふとある物が目に止まった。


目を細めて遠くの街外れに目を向ける。

視線の先には、道を外れようと必死に走る大型のバンが三台。社用車のような見た目で、何とか巨人の脅威から逃れようとしているように見えた。


「お?逃げようとしてんのか……」


彼の唇が、不敵な笑みに歪んだ。

なあ、ともう1人の巨人に声をかける。


「俺ちょっと、あれ潰しに行くわ」


「おう。早く行け、逃げられるぞ?」


もう一人の巨人がにやにやと煽る。


「アホかw 無理に決まってんだろ」


軽口を交わしつつ、バンに狙いを定めると、巨人は一瞬で距離を縮めていった。その歩幅は100メートルを優に超え、彼が数歩進むだけで街外れに迫る。先程まで街の中心にいたとは思えない、驚異的な速度だった。


「そこのバン3台、止まりなさーい。止まらねえと潰すぞ!」


腹の底から出たよく通る声が巨大な地響きのように空気を揺らがす。警告のように言ってはいるが、事実上は死刑宣告そのものだ。当然人間たちは止まるはずも無く、さらにアクセルを踏み込んで逃げようとする。先程の巨人の蛮行を見た後なのだから、無理もない。止まったところで躊躇無く潰されるだろうというのは、誰にでも想像のつくことだった。

だが、どう足掻いても彼らの小さな車で巨人の圧倒的な足の速さに敵うはずがない。数歩の距離で追いついた巨人は試しに足を一歩力強く踏み下ろしてみる。すると、バンの一台が突風に煽られるようにスリップし、ガランと溝にはまったミニカーのように横転してしまった。


「へへ、まずは一台リタイアっと」


巨人はしゃがみ込むと、転がったバンを拾い上げてパンツの中に放り込んだ。腰ゴムをひっぱると雄の酸っぱさとアンモニアの香りがむわりと広がった。汗でムンムンに蒸された天然のサウナには、既に昂っている先客がふてぶてしく中央に鎮座している。その横に押し込まれパチンとゴムが閉じられると、ボクサーの中に残された隙間は想像以上に狭い。バンの何倍もの体積と質量を誇る肉棒がビクビクと脈動し、それに押されて貧弱な鋼板の車体が悲鳴を上げる。バンよりも2回り以上太い亀頭からはドクドクとカウパーが溢れ出し、乱雑に車体へ塗りつけられていく。窓ガラスは横転した衝撃で割れてヒビだらけ。巨人に摘み上げられた指の力で車体中央は大きく凹み、下からは巨大な亀頭が今にも押し潰さんとばかりにびくんびくんと底を叩いてくる。肝心のチンコはまだ半勃ちにも至っていないのに、既にバンはボロボロだった。


残った二台のバンは巨人が横転したバンに気を取られている隙に逃げようとしたが、まるで無意味だった。巨人が立ち止まっている間に離した分の距離は再び彼が歩き出すとあっという間に縮まってしまう。

足の親指ほどにしか満たないバン2台の上を、逞しい巨体が覆い尽くす。そのまま、陣地を超えた質量の筋肉が真上を悠々と通り過ぎて追い抜いた。

まるで上空からジャンボジェット機が低空飛行で迫るかのような圧倒的な威圧感。巨足が巻き起こす暴風に煽られ、矮小な車体がガタガタと揺れる。

そしてついに、目の前に壁のような巨人の足が降り落ろされると、人間たちは避けきれずにそのまま衝突し、バンは2台とも止まった。


「マジ、いってぇ〜……」


巨人が首筋を掻きながら、わざとらしく呻いてみせる。


「お前ら、いい度胸じゃねえか?警官様に突っ込んでくるとはな。ほんっと、いってぇなぁ。そんなでっけえ車でよ、こちとら生身だぜ?生身の俺と車がぶつかったんだから、過失は10:0、当然だよなぁ?しかも速度超過に信号無視まで……これはかなりの重罪だなぁ?」


巨人は皮肉たっぷりに笑い、わざとらしく痛そうな素振りをして抗議する。当然ながら巨人には傷1つついていない。オモチャのプルバックカーにぶつかられた様なものだ。それに対して、かなりの速度でバッシュに衝突したバン2台は既に廃車寸前だ。

ふざけた声色で人間をからかう巨人だが、その目は獲物を弄ぶかのように冷酷で、じっと小さな車を見下ろしている。しかし、車側からの反応は無い。

はぁ、とため息を着くと、彼はおもむろに靴を脱ぎ捨てた。汗で湿った紺色のショートソックスがあらわになる。水気を吸って本来の色よりも濃くなっているソックスからは湯気が上がり、巨大な足裏が地面に触れると、周囲にかすかな湿り気のある雄のにおいが漂った。


「よっこらしょ」


巨人が地面に腰を下ろし、靴を脱いだ足をゆっくりと前に出して2台のバンを足の裏同士で挟むように配置する。片方のバンは彼の土踏まずにすっぽりと収まり、もう一方のバンは母指球の辺りで軽く押さえつけられている。


「じゃ、お仕置の時間だな」


巨人は笑いながら、ゆっくりと足をすり合わせていく。巨大な肉壁が左右からじわじわとバンの車体を挟み込むと、車は嫌な軋み音を立てて潰れ始めた。車体がひしゃげ、窓ガラスが割れていく。既に息絶えているのか、中の人間たちの悲鳴は聞こえない。張合いがないと感じたのか、そのままあっさりと足裏をくっつけて前後に数回擦り合わせた。シャリシャリとした感触が無くなってから足を開くと、かつてのバンの形はどこにもなく、薄汚れた金属の粉のような残骸が汗ばんだ繊維に絡め取られて残っていた。


「ほらな?俺から逃げられるわけねーだろ?ほんっと、人間って馬鹿だな」


誰に向けるでもなく、冷たく吐き捨てるように言い放つ。

一瞬の静寂が辺りを包んだが、バンの始末を終えた巨人はゆっくりと立ち上がり街の中心へと戻って行った。


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