XaiJu
Mibusaki
Mibusaki

fanbox


デスゲーム管理バイト(前) 約9800字

「ん…………ここ、は……」


目を覚ますと見知らぬ部屋の中にいた。いや、部屋というには広すぎる。ホールと言うべきだろうか。壁も天井も6面白1色で、なんだか気味が悪い。窓やドアのようなものも無いし、ここは一体どこなんだ?


周囲には沢山の人。何故か全員男だ。しかも、皆体力に自身のありそうな屈強な若者ばかり。そういう俺も、ガタイには結構自信がある。身長187センチ、体重82キロ。趣味は筋トレ。生半可なやつには負けない身体をしていると思うが、周りにいる奴らも俺と同じくらいありそうだ。もしかしたら俺以上かもしれない、そんな感じのやつらがざっと見ただけで数百人、いや千人近くいるかもしれない。俺と同じ状況なのか、皆不安そうな様子でそれぞれ過ごしている。


「なに……してたんだっ、け……」


まだ覚醒していない頭を動かし、記憶を辿る。……そうだ。ここに来る前、俺は家で普通に過ごしていた。そうしたら、急に大きな揺れに襲われて、それで……。


頭を打ったのか、そこから先が思い出せない。確か……


ドズウウゥウウゥゥン……


ドズウウゥウウゥゥン!


……と、そうだ。丁度こんな感じに地面が揺れて……って、……え?


ドズウウゥウウゥゥンッ!!!


ドッズウウゥウウウゥウゥウゥンッ!!!!!


突然の凄まじい衝撃。周りの騒ぎ声が一気に大きくなる。部屋全体がガタガタと揺れる。一体、何が起きているんだ。外の様子を確認しようときょろきょろと辺りを見回すが、壁に阻まれて何も分からない。ラグビー経験者らしき数人が体当たりで無理やり突き破ろうとしているが、まるで壊れる様子がない。そうしている内にもどんどん揺れが大きくなっていく。


ドオッズウウゥウウウゥウゥウゥンッ!!!!!!!


ドオオッズウウゥウウウゥウゥウゥンッッ!!!!!!!


身体が宙に浮き、地面に打ち付けられる。悲鳴をあげながら、玩具のようにゴロゴロと転がっていく人々。まるで部屋自体が下からものすごい力で突き上げられているようだ。というか、本当に部屋がガタガタと飛び跳ねているような……。とてつもない大きさの揺れの前に、せっかく鍛え上げたガタイも何の役にも立たない。屈強な若い男たちが、情けなく悲鳴を上げながら縮こまっている。とにかく必死に地面に這いつくばって、揺れが収まるのを待つことしかできない。


「おさまっ、た……?」


恐る恐る顔を上げる。どうやら、揺れが収まったようだ。一際大きく揺れたのを最後に、ピタリと揺れが止んだ。……一体何だったんだ?とりあえず、一安心して胸を撫で下ろす。しかし、ホッとしたのもつかの間。また、別の問題が起きていることが分かった。


「なんだ、これ……。臭い……」


辺りに充満する異臭。必死に口元を手で覆うが、臭いが強すぎるのかまるで意味が無い。目もなんだか充血してきた気がする。吐き気を催している人もいるみたいだ。決して嗅ぎたいとは思わない、ツンと鼻をつく不快な臭い。しかし、どこか嗅ぎなれた馴染みのある……酸っぱい臭い。そう、例えるなら汗をたっぷりかいた後に蒸れた靴下を脱いだときのような……。


何かに気づきかけたその時、全身がビリビリと震えた。


「あー、おい。聞こえてるよな?えーっと……君たちにはこれからあるゲームに参加してもらう」


真上から降り注ぐ轟音に耳がつんざかれる。音量がバカデカいせいで最初は気づかなかったが、これは、声だ。まだ若そうな男の声。この部屋にスピーカーはどこにも見当たらないのに、凄まじい音量だ。あと、後半は台本を読んでいるのか、少し棒読み臭い。突然鳴り響いた大音量のアナウンスを、みんな耳を押えながら顔を上げて聞いている。


「今、お前らがなんか言ってても俺には聞き取れねえから大人しく黙ってろよー。……君たちは急に見知らぬ場所に連れてこられてさぞ困惑していることだろう。だが、安心したまえ、このゲームに勝ち残ったものは元の場所に返してやろう」


いきなりなんなんだ。ここに俺たちを連れてきたのはこいつなのか?しかも、あるゲームに参加してもらうって……まるでデスゲームみたいだ。……いや、まさかな。…………さすがに、ないよな。チラリと横目で周りの奴らを見渡してみる。話し手に聞こえないことが分かっているためか、ぶつくさと小声で文句を言っている。


「最後まで勝ち残った者には全員に1人10億円ずつ差し上げよう。では、健闘を祈る。……あ、各自好きに口調を変えて読んでくださいって書いてあんじゃん、なんだよ」


なんだかお粗末な司会だな…………とそんなことはどうでもよくて。今すごい金額が聞こえた気がする。10億円、だと?そう言ったのか?嘘だろ、そんな大金を勝ち残った者全員にって……。周りの奴らも半信半疑そうではあるが、さっきまでの暗い雰囲気はどこへやら。あっさりと大金に釣られて、軽くお祭り騒ぎになっていた。


「おい、マジかよ!10億ってやばくね!?」


「いや、そんな訳ねぇだろ。釣りだろ、釣り」


「それよりも、早く家に返してください!ここは一体どこなんですか!?」


「いいから、早くそのゲームってのやらせろよ!絶対勝つ……!」


さっきまで揺れに怯えて縮こまっていたとは思えないほどの大騒ぎ。周りにいた奴らが10億円に釣られて次々と壁に群がっていく。早く出せ、と力任せにバンバン叩いているが、やはりビクともしない。

……にわかには信じ難いが、俺も10億円と言われて黙っていられる人間では無い。近くの壁を探ってみようと歩き出したそのとき。


「ったく、早くここから出せよな……ッ!?……ッぎゃァアアあッ!!!」


響き渡る悲鳴。

突然、壁に群がっていた人の群れが吹き飛んだ。

何が起きたんだ。

見ると、先程までビクともしなかった壁に穴が空いている。

外側から何かが勢いよく壁を突き破ってきたのだろう。

その直撃を受けて突き飛ばされた人は、30メートル近く吹き飛び地面に力なく横たわっている。気の毒だが、恐らくもう助からない。

壁を突破ってきた何かをまじまじと見る。

肌色の、何か、見覚えのある、もの。

巨大な、足の、指……?


「なっ、なんだよ、これ!デケェ足……まって、潰される……!っぐぁああああ!!!いだいいだいいだいぃいい!!!!」


巨大な足指は今もぐにぐにと動いて壁に空いた穴を広げている。指の下敷きになった人たちがブチュリと嫌な音をたてて潰れたのが見えた。


「あー、忘れてた。透過してないな。よっ、と」


再び、アナウンスが聞こえた。壁に穴が空いたためか先程よりもクリアに聞こえる。しかし、この巨大な足に、真上から聞こえる爆音の声。この部屋の外にいるのは……まさか……。


それまで白かった壁が透明になり、外の世界が見えた。

見えたのは2つ。

1つは天井が空ほども高い巨大な部屋。そして、もう1つは


しゃがみこんでこちらをニヤニヤと見下ろす、巨人だった。


「よっ、お前ら。これから俺と遊んでもらうから。せいぜい頑張って生き残れよな〜」


こちらを見下ろしながら、ニカッと爽やかに笑う巨人。色素の抜けた茶色の短髪が似合う、シュッとしたイケメンフェイスが眩しい。格好はグレーのボクサーパンツ一丁で、筋骨隆々の肉体を惜しげも無く晒している。ボコリと盛り上がった脹脛に、飛行船のようなサイズのぶっとい太腿。その間に鎮座する巨大なもっこりを、俺たちに見せつけるように二三度揉みしだいた。恐らく通常時でありながら、巨大な手から溢れんばかりのサイズを誇っている。その足元では指先をぐりぐりと地面に擦り付けて、人間をペースト状にすり潰していた。


「ヒッ……」


「「「ぎゃぁああああぁあああああ!!!!!!!」」」


響き渡る絶叫。皆、バタバタと転がるように走りながら、巨人の足から必死に遠ざかる。部屋の中にいる全員が、巨人が突き破った壁とは反対側に固まった。


「っはは……おもしれー。本当にピーピー泣いてやがる。あ、おい。そっち行くな。ほら、部屋に穴開けてやっただろ。こっから外に出ろ」


巨人が部屋を突き破った足をどける。人間の力ではビクともしなかった頑丈な壁に、ぽっかりと大きな穴が空いていた。穴付近の床には赤黒い血肉がべっとりと塗り広げられている。巨人はここだ、と示すように開かれた出口の床をドンドンと足の親指で叩く。その指だけで、ワゴン車すら簡単に押し潰せそうなくらいデカい。


「おい、どうした」


確かに部屋から出られる状態にはなった。しかし、巨人の言うことを聞いて、外に出ようとする者は誰一人としていなかった。当然だ。指先だけで簡単に人間をすり潰せる巨人が外にいる。恐ろしくて、部屋の外に出ることなんてできない。


「ふーん、出ないのか。……ちょっとからかってやるか。あのなぁ……あんまり俺の言うことに逆らわない方がいいぞ?」


そう言うと、巨人は俺たちのいる部屋を両手で掴んで軽々と持ち上げた。部屋全体が不安定にグラグラと揺れ、巨人のさじ加減でコロコロと転がされる。


「この箱の中にいれば安心だと思ってんのか?……そんな訳ねぇだろ。俺がその気になればこんなの足だけで簡単に潰せんだよ。てか、このまま持ち上げて落としたらそれでお前ら終わりだからな。お前ら、200メートルのとこから落ちたくらいで死ぬんだろ?マジで弱ぇよな〜」


俺たちのいる部屋を持ったまま巨人がスっと立ち上がり、グングンと地面が遠ざかっていく。体感したことの無いGがかかり、床に身体が押さえつけられる。上昇が止まると、目の前にはパンパンに盛り上がった大胸筋が鎮座していた。下は……もう見たくない。チラリと視線を向けたが、目も眩むような高さだった。


「ここで180メートルくらいだな。デケェだろ〜?俺。身長、220メートルあるからさぁ」


220メートルって……この巨人は俺たちの100倍以上デカいってことか……。体積になると差がありすぎて、もう考えたくもない数字だ。恐らく、さっきの揺れもこの巨人がただ歩いただけで引き起こされたものなんだろう。規模があまりにも規格外すぎる。俺たちを一体どうするつもりなんだ。いきなりこんな訳の分からないところに連れてこられて、ゲームとか、巨人とか……どうなってるんだ。


「このまま抱き潰してやってもいいけどな。なんかさ、チョコのお菓子を箱ごと振ったら全部合体してひとつの玉になるみたいなのあったよな。あれ、俺やってみたいんだよな〜」


わざとらしく言い放ったあと、巨人がこちらを見下ろしてニヤリと笑った。


……嘘だろ?

もしかしなくても、そのお菓子って……

今の俺たちのこと、か……?


巨大な手で先程空いた穴を塞ぎ、もう片方の手は反対側の壁を抑えるように持ち替えた。そのままゆっくりと部屋が縦に傾いていく。


「人間って結構いけんだよな。特に筋肉のついた男。お前ら全員、肉団子にして食ったら美味そうじゃね?」


どんどん傾いていく床に必死に縋り付くもズルズルと下に滑り落ちていく。ころころ転がされて、もみくちゃになり、もう上も下も分からない。樹齢千年越えの大木のような、巨人の腕がボコリと盛り上がったのが見えた。この部屋の天井の5倍近い厚みがある。巨人の手が掴んでいる部分の壁面がミシミシと軋む。


このまま、この剛腕に思いっきりシェイクされたら……


中にいる俺たちは間違いなく一溜りもない。

誰も彼もが恥を捨て、必死に命乞いをして泣き叫んだ。巨人はそんな俺たちの様子を舐めまわすようにニヤニヤと見ている。


「おーおー、そんなに怖いか?じゃあ、俺の言うことちゃんと聞けよ?」


巨人に気づいて貰えるように全身を揺らす勢いでガクガクと首を縦に振った。巨人は泣き喚きながら必死に懇願する俺たちを見下ろしながら、満足気に悪戯そうな笑みを浮かべている。時々、脅かすようにガクンと部屋が揺すられ、その度に絶叫が響き渡った。


「っはは、マジでおもしれー……!ほんっと、弱くてなんもできねーんだな……。分かった分かった、ちゃんと下ろしてやるからな〜」


まるで小さい子に言い聞かせるような、完全にこちらを馬鹿にした態度。圧倒的な力を持つ、強者にのみ許された傍若無人な振る舞いだった。そのまま、ゆっくりと地面に降ろされた俺たちは一目散に部屋の外へ出た。そして、最後の一人が部屋から出ると巨人は満足そうに笑って言った。


「そうそう、最初からそうしときゃいーんだよ。じゃ、ゴミは処分して……っと」


ドズウゥウウゥンッ!

ドズウゥウウゥンッ!

ドズウゥウウゥンッ!


誰もいなくなった部屋の上に巨人の素足が打ち下ろされる。俺たちが必死になって縋っていた部屋は、巨人と比べるとあまりにもちっぽけだった。ゴツゴツとした肉厚な足がのしかかった瞬間、俺たちの力ではびくともしなかった頑丈な壁がまるでウエハースのような脆さであっさりと崩れ去った。間違いなく並の人間の建物よりも頑丈なはずだが、巨人の圧倒的な質量の前には紙箱も同然のようだった。

足が数発打ち下ろされると、部屋は完全に踏み潰されて板切れのようなものが積み重なるだけのゴミになっていた。


「よっし、じゃあそろそろ始めるか」


小さなスーパー程もありそうな部屋の残骸を、片足だけで容易く片づけてしまう巨人。ブルドーザーの要領で弾き飛ばされ、横になぎ払われてしまった。


これから、俺たちは一体どうなるんだ。分かるのは巨人は俺たちを簡単に潰せるし、それに全く躊躇が無いということだけだった。皆、不安そうに巨人の雄々しい肉体を見上げている。今更だが、凄まじい肉体だ。高層ビルすらも優に越すほどの巨体。大胸筋や腹筋はぼっこりと盛り上がり、逆光になって影が落ちている。そして、それは股間の膨らみも同じだ。恐らくあの中に入っているものは、バスなんか比べ物にならないくらいデカい。見た感じ勃っている様子は無いのに、ずっしりとした重量感でぶら下がっている。グレーのボクサーは汗でじっとりと変色し、その大木のような巨塔の輪郭を見せつけるように浮き立たせている。そこから連なる太腿は筋が見えるほどにパンパンに鍛え上げられており、ふくらはぎもぶりんと大きく膨らんでいる。それでも、脚が極端に太いと感じないのは、この巨人のスタイルの良さからなるものだろう。そして、俺たちの目の前で地面をどっしりと踏みしめる巨大な足からは、若い雄特有の臭いが漂っている。


改めて見上げると、こう、何とも言えない気持ちになる。圧倒的な生物としての格差。そして、同じ雄として感じざるを得ない劣等感。俺も普段の生活ではそれを周りに感じさせる側だったはずだ。鍛えた肉体をそれとなく見せつけられる服を着て、周りの背の低い男たちを見下ろしながら堂々と街を歩く。そうして得られる優越感に浸りながら日々を過ごしていた。


だが、目の前の巨人を見て思った。


こいつこそが本物の雄なのだと。


あまりにも格が違いすぎて、比べることすら馬鹿らしくなってくる。ただ、目の前にそびえ立つ神のような存在に目を奪われていた。


巨人が足にこびりついたゴミを払うようにつま先を立てて床をドンドンと叩く。その衝撃だけでぐらりと視界が揺れ、まるで立っていられない。巨人の一挙手一投足が、災害に匹敵するほどの威力を持っていることがよく分かる。


「最初のゲームは……鬼ごっこだ。俺が鬼で、お前らを追いかける。制限時間は5秒だ。その間に捕まらなかったらゲームクリアな。60秒数えるから頑張って逃げろよ〜。あ、言っとくけど俺の足裏にタッチされたらアウトな」


本当にデスゲームをやらせるつもりなのか。足裏でタッチなんて……絶対そんな生易しいものじゃないだろ。俺たちを追い立てて踏み潰すに決まってる。もし、本当に巨人にとってはタッチのつもりだったとしても、あの圧力に人間の身体が耐えられるわけが無い。建物をいとも簡単に踏み潰すレベルだぞ?無理に決まってる。……そもそも、こんなでっけえ巨人から1分程度で逃げられるわけがない。制限時間が5秒しかないのも、たった5秒で数十人、数百人を踏み潰せるのが分かっているからだ。


考えれば考えるほどあまりにも単純で、あまりにも絶望的なゲームだ。できるだけ全力で遠くまで逃げて……あとは巨人に狙われないように祈るしかない。理不尽極まりないゲームだが、さっきの脅しを食らって抗議できるようなやつはいなかった。巨人1人だけがウキウキした様子で、ぐるぐると足首を回している。


「じゃあ、数えるぞー、……あ?おい、ちょっと待て」


巨人の声色が重たいものに変わる。何事かと見ると、どうやらフライングをした奴らがいたらしい。10人くらいが既に50メートルほど遠くにいるのが見える。その中の半分ほどが止まったが、残りは制止の声も聞かずに走り続けている。


「待てって言ってんだろ」


次の瞬間、地面が大きく揺れた。


巨大な右足が持ち上がり、汗臭い爆風に身体が持っていかれそうになる。グオオオッと筋肉の塊が俺たちの遥か頭上を通過していき、あまりの迫力にヒュッと心臓が縮こまる。そして、持ち上げられた右足が、そのまま先頭を走っていた奴らの元へ下ろされていく。狙われた奴らは半狂乱になりながら必死に走っているが、巨人の脚はあまりにも長い。たった1歩でそれに追いついてしまった。しかも、まだまだ歩幅に余裕があるため、とっくに踏み潰せる範囲内にも関わらず、あえてゆっくりと足を下ろして泳がせている。

まるで、踏み潰すのをじっくりと味わって楽しむかのように。


「はぁ……おっせえなあ。こんなにゆー……っくりしてやってんのによー……。…………そんなんで俺から逃げられる訳ねえだろ?」


巨人が呆れたようにため息をつく。そして、ついに巨大な足がのしかかった。下敷きになる瞬間、必死に支えようと腕を伸ばしている奴もいたが当然耐えられる訳もなく、そのままあっさりと踏み潰された。短い叫びが一瞬聞こえたような気がしたが、それすらも分厚い足に押し潰されて聞こえなくなった。


「ちゃんと俺の言うこと聞けって言っただろ?ルール守れよ、な?」


立ち止まった方の5人ににっこりと笑いかける巨人。当の本人達は目の前に降ってきた巨大な足の迫力に、腰を抜かして動けなくなっている。踏み潰した奴らを地面に擦り付けるようにずりずりと動く巨大な足に、すっかり怯えきってか細く悲鳴を漏らしている。


「た、助け……」


「じゃあな」


そのまま足がスライドされ、土踏まずの方から巻き込まれるようにして残りの5人も引き潰されていった。上を見ると巨人が人間を踏み潰した瞬間、気持ちよさそうに顔を歪ませていた。


「ほら、お前らもこうなりたくないよな?だからちゃんとルール守れよ?……ま、ルール守ってても容赦なくお前らのこと潰すんだけどな。俺も仕事だし」


巨人はそのまま俺たちの頭上に足を持ち上げて、踏み潰された人間の残骸を見せつけてカラカラと笑った。赤黒い血肉の塊が、汗ばんだ足の裏にポツポツとこびり付いている。


「まあ、いい見せしめになったんじゃねえか?やっぱこういう奴らって毎回いるんだな〜。馬鹿だよなあ」


首をもたげ始めた巨根をボクサーの上から扱きながら、なんでもないことのように言ってのける。巨人からしたら人間を踏み潰すのなんて、虫を駆除するくらいの感覚でしかないのかもしれない。部屋に入り込んだ虫を取るときもいちいちそんなことは気にしていなかったが、まさか自分がその立場に追いやられるなんて思いもしなかった。


「さて、そろそろ本当に鬼ごっこ始めねえとな。……いくぞー。いーち、にーい」


巨人の気の抜けたカウントが始まった。向こうからすれば本当に鬼ごっこをするくらいの気楽さなのだろうが、こっちは命懸けだ。男の汗臭い足に踏み潰されて死ぬなんて絶対に嫌だ。他の奴らとまとまっていると巨人の気を引きやすくなって、まとめて踏み潰されてしまうかもしれない。だから、できるだけ他の奴らとは離れつつ、できる限り遠くへ逃げなくては。


「ごじゅうきゅー、ろくじゅう。よっし、行くぜ!」


カウントが終わり、思わず後ろを振り返る。巨人がスタート地点から動けずにいた数人を容赦なく踏み潰しているのが見えた。


「いーち」


踏み潰されたやつには申し訳ないが、実質囮になってくれたのはありがたい。1秒の差はかなり大きい。そのまま、こちらに視線を向けた巨人が左足で地面を蹴る。ただ、それだけで立ち上がれないほどの衝撃が地鳴りのように伝わってきた。もうここから動くのは無理だ。あとは巨人がこっちに来ないように祈るしかない……。


(頼む…………来るな…………!死にたくない…………!)


他の奴らと比べても、巨人からも周りのやつからもかなり距離をとったほうだし、……大丈夫だと思いたい。


「にーい。さーん。しーい」


ブチブチブチブチィッ!


3秒経たないうちに、最後尾の奴らが踏み潰された。最初に、20人近くがまとめてデカい足の下に消えた。しかし、本当の恐怖はそれからだった。最後尾が追いつかれてからの巨人の殺戮スピードは予想を遥かに超えるものだった。まるでダンスのステップでも踏むかのように、足元に散らばっている人間を器用に足の指先で踏み潰していく。完全に人間を効率的に踏み潰すための手法だ。足元に近い奴から次々と羽虫のように潰されていく。あっという間に巨人の指先は真っ赤に染まりきった。まるでトマトでも潰したみたいに。


(さすがに……もう大丈夫だよ、な……?)


制限時間まであと1秒。流石にあと1秒でここまで来れる訳が無い。巨人のいるところから俺の場所に来るまでの間に、他に何人も人間がいる。そいつらを踏み潰していたら時間が過ぎてしまうはずだ。きっと助かる。…………俺がピンポイントで狙わられるようなことがなければ。そう、頭で考えた瞬間。


巨人が俺を見て笑った気がした。


いや、そんなはずは無い。気のせいだ。考えすぎだ。

そう必死に言い聞かせる俺の目の前には、


巨大な素足が壁のようにそびえ立っていた。


「ごー……おぉ!」


巨人は最後の1秒でスライディングをかましてきた。飛行機が突っ込んでくるような勢いで、10万トン越えの筋肉の塊がぶつかってくる。避けられない。


なんで、なんで俺のところに。


そんなことを考える間もなく、俺の身体はゴミのように跳ね飛ばされる。やめて、いやだ――、


ブチュッ


―――


「よっし、時間終了〜。結構潰したな〜、300人くらいか?」


ま、正直潰そうと思えば全員潰せたんだけどな。それじゃゲームにならねえから仕方なく手加減してやってんのによー……。……ほんっと、逃げんのおっせえのな!1分待ってやっても3歩くらいですぐ追いつくくらいの距離にしかいねえし……マジでおせえ。結構頑張って逃げたやつもいたみたいだけど……正直、その程度の距離で逃げた気になってんのかよ?wって感じだったしな。生意気だったからスライディングで潰してやった。本当はもっと踏み潰してえけどな、我慢我慢。ちゃんとやることはやらねえといけねえし。それにしても、人間踏み潰して遊ぶだけでがっつり稼げるとか楽なバイトだよな〜。啓太にも教えてやっかな。あいつ絶対こっちの方が向いてるだろ。


「生き残ったお前ら、おめでとう。第1ゲームクリアだ」


はは、折角生き残ったのにぷるぷる震えて怯えてやがる。そんなに俺が怖いのか?…………よっ、と!……っはは!ちょっと足持ち上げただけでガキみたいに泣き叫んでんじゃねえよw マジで弱すぎだろ……ほんと。

まあ、こいつらからしたらこんなゲームに参加させられてる時点でおめでたくも何ともねえか。でも、仕方ないだろ?


お前らが人間として生まれたのが運の尽きだったんだよ。


お前ら人間はどんな風に生きたって、結局最後は俺ら巨人のオモチャになるか、腹の中行きかのほぼ2択みたいなもんだし。たまーにペットとかになる奴もいるみたいだけど……そういうのは人間の中でも特別顔が良いとか、何か惹き付けるものがある奴だけだ。そうでもなきゃオナホの中に入れて、使い潰してゴミ箱行きだ。あれ結構気持ちいいんだよな〜。鍛えてる若い男だと、もがいてる感触がいい具合の刺激になってやみつきになる。今回も余ったやつ何匹か持って帰れねーかな。やべ、余計なこと考えてたら勃ってきた。でも、まだだ。お楽しみはこれからだからな……。


「よし……じゃあ、そろそろ次のゲームに行くぞ」


あと700匹弱か。


さて……今回は何匹生き残らせてやろうかな?







Comments

この、圧倒的上位巨人が好き勝手やるのがほんっとたまんないです……!!! 割と屈強な人間を集めておきながらそれがゴミのように見える圧倒的な巨大さと肉体を持つ巨人……220mとはまたすさまじくでかいですね……!! 連れ去られて閉じ込められてデスゲーム、って流れも大変ワクワクしました……何もない部屋に突如飛び込んでくる巨大な足、透明になって見える巨大な男、いうこと聞かなきゃ部屋ごと持ち上げられて脅されて無理やりいうこと聞かされて、絶望的な条件で必死にあがかされて結局踏み潰される……もう展開もとっても好みで最高でした ラストの巨人視点がまた好きですね~本当人間を見下してるのがわかります。(そして啓太くんの名前が出てくるってことはあの世界……!)「何匹生き残るかな?」じゃなくて「何匹生き残らせてやろうかな?」ってのがもうほんと全部巨人の気分次第ってのが感じられて……続きがめっちゃ楽しみです!!!

ichiya

あぁ~、途轍もない巨大さ&パワーを持った巨人によるデスゲーム……恐ろしいですね……! 壬生咲さんの書かれる巨人らしく、 完全に人間を舐めくさってて、力を振るうことに興奮している感じが伝わってきますね……(*´Д`) 人間の力じゃびくともしない部屋の壁が、 巨人の肉厚な足の下敷きになって地響きとともに瞬く間に粉々になっていくの、すごく萌えました。 あと、踏み潰した瞬間気持ちよさそうに顔を歪ませてるところも好きです(*´Д`) 鬼ごっこという名の踏み潰し回避ゲーム、たった5秒でも 人間側は壊滅的な被害ですね……! 語り手の人間君もあっけなく潰されてしまって……ゲーム毎に次々違う人間目線になる感じですかね~。 巨人君の独白的に、この世界での人間の地位は恐ろしく低いようですね……。 このバイトがどう続いていくのか気になります!

曹達(ソーダ)


More Creators