【先読み】魔王様の戦利品紹介コース
Added 2025-02-19 13:24:58 +0000 UTC王国が始めた戦争は、だんだんと劣勢になってきていました。 それを疑う余地はもはやないでしょう。鳴り物入りで出立した勇者たちは、やがて魔帝国が流布した映像の中で尊厳の欠片もない姿に貶められ……必死ささえ感じられた街での戦果喧伝は、やがてめっきりなくなりました。もはや伝える戦果すらないのでしょう。被害のほうは全く伝わってきませんが、どれだけ減っているのやら。 これを受けて、当初は起こらなかったことが発生し始めました。……国境を接する辺境都市の、投降です。受け入れない者を王国側へ追い出して、街ごと前線の補給基地として明け渡して、民の生活を守ろうと。 中央では信じられないようですが、辺境に行けば行くほど人間至上主義は薄れ、胡散臭いものとして扱われています。理由は単純、魔族が別に凶暴でないことを知っているから。魔族の存在そのものを穢れ扱いして前線の雑務を現地に丸投げしているので、捕虜交換にすら関わらない中央はそんなことすら知らないのです。 ですが、その投降で守られるのは、あくまで民の命と生活。普段民の上に立っている貴族はそこに含まれません。このようなときに責任を取るのが、貴族というものの役目だと。私は辺境では珍しくないまっとうな貴族である父から教わって育ちました。 ですので、投降地域の未婚の貴族令嬢である私は、人質として真っ先に魔帝国へ身柄を送られることとなりました。私もずっと覚悟していたことですから、こうして素直に魔王城まで護送されてきたのです。 ───ですが。 「なるほどのぅ。となれば余計に、人王国と十把一絡げにするわけにはいかぬの」 「ご配慮、痛み入ります。我々も事ここに至っては、王国中央を同胞とは考えておりません」 「うむうむ、ようわかった。なに、心配いらぬぞ。魔族はそもそも人族を敵視などしておらぬ、占領下でも危害は加えぬと約束しよう。仮に殺しでもやらかすような輩がおれば、一発で床の下行きじゃ」 この身の全てを民の安寧のため売り渡そうと魔王城へ入った私を待っていたのは、上機嫌な魔王様による歓待のお茶会でした。 魔族が人族よりも性に奔放であることは、捕虜と関わっていた辺境の民は知っていました。ですので裸同然で拘束され職業として街を行き交うポニーガールも、幸せそうに四つん這いでショーケースに入ったヒトイヌも、今こうして腰を浮かせると寂しそうに呻く欲と願望に満ちた家具たちも、いざ目にしても受け入れることができました。 その一方、中庭やこの部屋に飾られた、映像通りの勇者一行だったモノも、罪状とともに廊下の床に飾られたまま取り出される気配もなさそうな元魔族たちも、そういうものだと受け止めるに至りました。特に床のほうを見てからは、この魔王様は本当に種族にかかわらずこうした処置をするのだと納得がいったほど。 ですが、だからこそ。年単位で続く戦争の責を負う貴族として、私も戦利品となり償わねばならないと思っていたのですが。 「寛大なご差配に感謝を。あなた様のもとであれば、私も敗戦の証となることに不満もございません」 「じゃから、そうはせぬと言うておるじゃろうが」 「どうしてでしょうか? 私は投降した街の人質の身、生殺与奪の権利は魔王様にございます」 「どうしてはこちらのセリフじゃ。こうして心地よく話もでき、妾の知らぬ話もしてくれる聡明な娘を、あんな愚物共と同じようにする理由がわからぬ」 「魔帝国へ楯突いた罪は貴族が被るものです」 「辺境と中央は同胞ではないと言うたではないか。妾に言わせれば、おぬしの街は既に分け隔てのない魔帝国の仲間じゃ」 どうやら魔王様、私を所有し緒戦の勝利と併合を大々的に誇示するおつもりがないようなのです。私を客間に置いてもてなし、友人として扱うとしか宣告されていません。 それでは魔帝国やその民は溜飲が下がらないのではないかと問いますが、そうした落とし前は王国中央につけさせるとのこと。遠からず王都も落ちるだろうとは私も思いますが、私の一世一代の覚悟は透かされる形となりました。 「では、あのドアベルと時計は先に降った領地の令嬢ではないのですか?」 「そう思っておったのか? あれは自ら望んでモノになるためわざわざ亡命してきおった、ただの飛び抜けたマゾじゃ。むしろあやつらが満足するような仕打ちが城になかったせいで苦労させられたほどなのじゃぞ」 こうは言いつつも私も扉の横に突き出たドアベル代わりの尻や、その裏側にあたる室内に飛び出た時計代わりの下半身のようにされるのだと思っていたのに。入室時に叩かれ情けなく鳴いたそれのようなモノが、私の末路で責任の取り方だと思っていたのに。いざ種明かしされてみれば、それらはただの変態の願いを手ずから叶えた優しい魔王様の証でしかなかった、という落ちです。 本当に、私の覚悟はなんだったのでしょう。……とはいえ、これでそのまま引き下がることはしづらい理由もありました。 「ですが、私が無事に街に戻ってしまえば、突き返されたのだと民が不安になってしまいます。この身は街を認めていただく担保のようなもの、どうかお納めくださいませ」 「……やはり辺境の民はできておるのぅ。全く同じ食い下がり方をしたのが、お主で三人目じゃ」 「でしたら」 「安心せよ、城内に居場所を作ってやる。帰れぬなら住まうとよい」 なんだか、本当に敵わないのだと痛感させられる結果に落ち着きました。これでは新たに迎えた街のため、魔王様が一肌脱ぐ形となっています。恩を返すはずが、さらなる恩をいただいてしまっていました。 なのに、それを返すことはやはりできないのです。もどかしい一方、他ならぬ魔王様がそれを最善としていることも確か。であれば捧げる身の私は、それが私にとって楽すぎようとも、魔王様がお望みのものを捧げるほかありませんでした。前の二人というのもきっと、同じように言いくるめられたのでしょう。 いわば私は魔王様の息抜きや楽しみの助けとなる役割を求められることになったことになりますが、そうなれば自然と魔王様の本当に好きなものをお見せいただきお付き合いすることになります。 これほど温厚で寛大な方ですから、接待と思えば中央の貴族よりよほど楽というもの。いわんや開口一番に褥を要求し断れば露骨に態度が悪くなった勇者をや、というものです。 あくまで見せるついでにご自身が鑑賞するほうが本題ですから、私は露悪的な反応さえしなければ問題ないほどです。「興味がなくとも構わぬ、気が休まらないというなら付き合ってはくれぬか」だなんて、投降勢力からの人質には優しすぎる気がしてなりません。接待において何も知らず興味もないものを見せられるなど当たり前そのものだというのに。 ただ……いざ向かおうというところで、魔王様の表情が少しだけ硬くなった気がしました。直後、控えていたメイドの一人が手招かれます。 「あまり大所帯で動いても落ち着かなかろう。シィというのじゃが、ここからはこやつだけを連れていく」 「…………シィ、と申します」 その理由はすぐにわかりました。呼ばれたメイドは狼人のようでしたが、明らかに私に対して態度が硬い。というより、怯えています。そういうこと、なのでしょう。 私は両手を後ろに回しました。 「シィさん、ですね。私はフェリシアと申します」 「フェリシア、さま」 「どうか敬称は抜きで。魔王様お付きのメイドにへりくだられるような身分を、今の私は持っていませんから」 「わかりました、フェリシアさん…………ぇと、な、なんですか」 「気が収まらなければ、この頬をお打ちになってくださいませ」 「はい!?」 彼女はおそらく王国出身、それも亜人としてひどく扱われた経歴なのでしょう。魔王城には人間も所属しているようですが、それでも初対面の人間には怯えてしまうほどに。 ならばとまずはその怯えの分を、叩いて解消していただこうと思ったのですが……うまくいきません。 「どうして!」 「民の行いの責は貴族にございます」 「その話はもうよい、シィはそれで叩くような性格もしておらん。……シィ、妾はこやつを客人と遇するが、とはいえ身分はお主ら直属とほぼ変わらぬ。シィが虐められれば妾が守るが、それでもまだ怖いか?」 「……いえ。変な人だけど、悪い人ではない、と今わかりました」 「ならよい。……フェリシア、お主もあまりその奇行はするな。見上げた態度じゃが、少なからず異様じゃ」 「は、はい。……異様、でしたか」 気味悪がられてしまったようです。ノブレス・オブリージュ、という、中央では廃れて久しいと聞く貴族の務めを果たすなら今、と思っていたのですが……。 ともかく、警戒は解いていただけたようです。仲良く、とまでは望まずとも、私が近くにいても余計な警戒をしていただかずに済むところまで信用いただけるといいのですが。 「まずは軽いものにしようかの」 執務室にもなかなかの……面食らってしまった反応を伏せるのに苦労したものがいくつも存在していましたが、どうやらそれらは後回し。魔王様は比較的受け入れやすいものからお見せしてくださるようです。 城の入口にほど近い大食堂、今は落ち着いている時間帯のホールは、よく見れば給仕の多くが人間の女でした。ただし、その中で自由に動ける姿の者は少数。 「あれはごく軽い刑……もはや刑ですらないかもしれん。拘束は刑期中ずっと外れぬが、そうである以外は普通に働いておるのと変わらぬからな」 「こちらの拘束労働刑は、主に荷物持ちやほぼ何もせず投降した者などが処されます。本来は私もこの刑を受けるはずだったのですが……」 「あれにするのは、少なくとも魔帝国領へ自ら来た者だけじゃ。無理やり連れて来られただけのシィに罰を与えなどせん」 共通しているのは、素肌に直接拘束具を施されていること。ただし長い鎖枷をつけられているだけで普通の歩き方ができるものから、後ろ手で胸を張らされたまま腕を一切動かせないものまでまちまちです。 物を持てないほど縛られた者の場合、首輪などから体の前へ斜めにトレイを吊るされて、そこに置かれて運ぶようです。最低限の労働はできる範囲内で、不自由と屈辱を与えて眺めることを罰とするもの。 どうやら「無罪放免とするにも違うが、尊厳を奪うほどではない」という微妙な罪状の者が科せられるもののようです。軽い分これの有期刑で許されるのならと諦めがつくのか、全体的に従順な様子でした。軽い拘束の子が厳しく縛られた子の世話をしたりと、仲睦まじくすらあります。 「お待たせいたしました……」 「お疲れ様です。辛いかもしれませんが、頑張ってくださいね」 「いえ、こんなことと、ちょっと恥ずかしいだけで済むなら……軽すぎるくらいですから」 大きめの金具ひとつで繋がれた両脚による小刻みな歩みで、辛うじて恥部を隠しながら体に柔く食い込む全身の拘束ベルトを服代わりにした少女がこちらに。胴の前につけられたトレイに魔帝国のお菓子が置かれています。 どこか、可愛らしいと感じてしまいました。それも刑を受け入れて償っているからかもしれませんが、近付けてきた頭を気付けば撫でてしまいます。それで目を細めて、ほう、と息を吐くあたり、彼女がここでどう可愛がられているのかがわかるというものです。 「……魔王様。彼女たちは、夜もこのままなのですよね」 「うむ。むしろそれがここでの躾じゃ」 「では……たとえば大浴場で鉢合わせたりしたなら、世話をしたりは」 「好きなだけ可愛がってやるとよい。有期刑は明ければ同じ魔帝国の民じゃからの、仲良うするのが一番じゃ」 不思議なものです。そんな趣味も経験もなかったというのに、拘束されて生活にある程度の不自由を持つ彼女たちを構いたいと思ってしまいました。貴族令嬢としては、他者の体に触れること自体がはしたないはずなのですが。 今夜は目の前で目を輝かせる少女を誘って入浴を共にしよう、なんて。それを決めて楽しみにすること自体、昨日までは想像すらつかないものでした。 そのまま魔王様に連れられて次の場所へ。廊下を行き交う魔族、時折人間の方々と挨拶しながら歩いて辿り着いたのは、「一時戦利品展示場」と記された扉の前でした。 「ここに置いてあるのは、解放の予定がある戦利品じゃ。危険思想がなかったり、軽い罪状の者はこちらじゃな」 「やはり人間至上主義の有無は重要ですか」 「それ自体が罪というよりは、思想が色濃い輩を有期刑にすると考えを改めてくれぬのじゃ。後に野放しにしてから、ほとんどが再犯しおってな」 「なるほど……終わりの見えない刑で心を折らなければならないと。……我が身と同族ながら、反吐が出ます」 「対等でよいのじゃがのう」 この「対等でもいい」という発言がいかに慈悲に満ちたものであるか、わからない王国民が特に中央にはあまりに多いのです。ただ逆侵攻に乗り気でないだけで、いざやる気になればどうなるかは、辺境にいれば肌身に感じるところなのですが。 室内に入ってみると、いくつかの種類に分けられた展示になっていました。たとえば、すぐ足元には執務室前の廊下と似たような床飾りがあります。名前と罪状が表示されつつ無様な姿勢で固められているのは同じで、違うのは刑期も記されていること。隣の封入日と見比べれば、あとどのくらいで許されるのかもわかるようになっているのです。 実際には触れたりしないとはいえ足蹴にされるようで、靴裏を見る羽目になったりせっかく晒した恥を見向きもされなかったりと屈辱は相当なものでしょう。実際にこの部屋の中では重い刑罰であるようで、入れられたばかりのものは魔王様に付き従っているだけの私にまで反抗的な視線を向けてきています。 「床の次に重いのは、これじゃの。好きなだけ触ってよいことになっておる」 「……これも、なかなか。一度軽く心を折っておく必要はあるもの、ということですか」 「うむ。やはり認めたがらぬものを認めさせることの労力は、受け入れておるものとは比較にならぬのでな」 次に案内していただいたのは……いやにポップな看板で「フレームバインダーコーナー」と示された区域。気軽な見世物として扱ってやることでプライドを砕く効果なのでしょうか。 専用の形状をした金属パイプフレームに全身を開いた形で固定されて、ずらりと並んでオブジェにされています。通路を挟むような形で設置されているので、全ての展示品の正面に別の展示品がある格好です。姿勢にはいくつかパターンがあるようですが、後ろ手で済まされている方が罪が軽く、降伏を示すように手を顔の横まで挙げさせられているものの方が厳しい処置のようです。 とはいえ、ここに飾られているものの罪状はほとんどがちょっとしたこそ泥程度のもので、重くても捕縛時に暴れて怪我をさせたくらい。もっと重くて反省がなければ、この程度では済まないのでしょう。 ゆっくり歩きながら近くのそれの股ぐらを気紛れに撫で上げたりしながら進む魔王様について行くと、奥の方には刑期明けの近いものが集められていました。そのほとんどが手前のものと違い、悔しげどころか飾られ固定されて見られることが嫌ですらなさそうなのは気のせいでしょうか。 「そのうち、こやつらは立派なマゾに熟成される。諦めきった心の隙間に芽生えたり、現実逃避の先がそれしかなかったり、単に良さに気付いたりと様々じゃがな」 「……このように。お楽しみいただけるかと」 「ぁっ……おねがい、さわってくださいっ……!」 「……この処置の有効性、よくわかった気がします」 「実際、ここまで育つとただの魔帝国民となる者は少なくての。大半が自らペットショップや家具店へ身を売ることとなる。……フェリシアも気に入ったのがおれば、持っていってもよいぞ?」 「い、いえ……そのあたりは、魔帝国の文化をより知ってからにしておきます」 気のせいではなかったようです。シィさんが近くの展示品の股下へ指を添えると、それは自ら擦り付けようと腰を振りはじめてしまいました。といってもフレームは体を完全に固定していますから、フレームを少し体に食い込ませてまで動こうとしても、擦ることができるのは指先にも満たないほどの距離だけ。 来室者が自由に触れるということは、裏を返せば触られなければ何も起こらないということで……なるほど、必死なのも頷けます。もう吹っ切れたものばかりなのか、このあたりは誰もがシィさんを見るだけで割れ目をひくつかせる始末でした。人間、それも貴族である私が自由の身のままついて歩いていることに疑問も向けずアピールを欠かさないあたりは、もはや滑稽ですらあります。 ……そんなモノたちのありさまを見て、初めて感じたものがないといえば嘘になります。ですが……半端な理解のまま受け取ってしまって、誤った扱いをして苦しむのは彼女たちなのです。ここの文化がわかるまで、手を出すのは悪手でしょう。 そう断った私を面白そうに見てから、魔王様はあっさり区画の外へ出てしまいました。シィさんは結局最後まで指を動かさずに当てていただけで、残念そうな吐息に振り向きもせず続いていきます。私は、ここでは触れないままでした。 最奥部には他にない独特な展示方法がいくつか。なんでもこの展示室の他のものにされかけて、それならと自分から別のものを選んだものたちだそうです。 資質あり、聞き分けありとして厚遇されているようですが……たとえばテープで全身ほぼ隙間なくぐるぐる巻きにされて転がされている物体は、今の私には手厚く遇されているようには見えません。どうやらこの方面は、私のこれまでの認識以上に奥深いものがあるようです。 それを経て……フレームバインダーとは反対側の壁際。掛けられてずらりと並んでいるのは、真っ黒な四角形から人間の体の形が浮き出たようなものでした。 立体的な絵画にも思えるようなこれはバキュームベッドというようで、やはり名前と罪状と刑期が付記されています。その表示が美術館の作品名のようになっていて、しかも額縁に入れられているのはきっと魔王様の趣味でしょう。 「これらは深く反省しておったり、危険思想は持っておらぬがそこそこ重い罪を背負っておる奴等じゃ。ぴくりとも動けず、何も見えず外から隔絶されたまま、無様な絵画として敗北と刑罰を噛み締めておる」 「もはや完全に、人には見えませんね。呼吸音が聞こえなければわからないかもしれません」 「不思議なものでな、仕組みはフレームよりもよほど簡単なものじゃ。膜二枚から空気を抜くだけで、これほど動けなくなるらしい」 当然ながら全身は本当に一切露出しておらず、頭頂から爪先まで黒い膜に覆われています。無個性そのものに貶められモノにまでされてしまっている手酷い扱いですが、解放後に顔を知られていないという温情もあるそうです。 姿勢は直立からフレームに似たものまで様々。収まりさえすればどんな姿勢でも取れるそうで、一部にはより恥ずかしいポーズを取ることで刑期の短縮をしていたりする様子。口元からは呼吸用の短いチューブが伸びていて、これを短時間塞ぐような戯れが想定されているとのことでした。 付記を読んでみると、不意打ちや捕虜となった魔族への陵辱、単に重症を与えたなど確かにフレームよりも重い罪が並んでいます。ただ、ここにいるということは更生の余地ありと判断されたということ。犯した罪を悔いる者や魔族への蔑視はない者が、許されるまでの日々をひたすら恥を晒し尊厳を奪われながら噛み締めて過ごしているようでした。 ……目についたのは、「魔帝国市民への脅迫」という罪状。物理的な被害は一切起こしていないこれがひときわ目立たされ注目を集めるようにされているのは、やはり魔王様が民をよく大事にしていて、そこが逆鱗だからなのでしょう。 次がこの部屋の中では最後。罪状も軽く反抗の素振りもない、この部屋の中では特に平易なものが並んでいるようです。 「とはいえ、人間にとっては罰に充分なものであるようじゃがの」 「……そうでしょうね。軽いといっても、拘束給仕とは桁違いかと」 そもそも給仕をしていた子達があちらにいる理由は、「尊厳を奪うほどの罪ではないから」。いくら軽くとも、ここにいるということはそんな慈悲の対象外ということです。 あくまで尊厳の踏み躙られ方が浅いだけ。他と違ってまともな姿勢、具体的には脚を閉じることを許されているだけで、痴態を晒され飾られることにはなっています。衣服を許されず裸を強いられている、くらいは当たり前です。 その上でやはり自由を奪われているのですが……その奪い方というのがそれらのほぼ唯一の共通点でした。……露出させられた股の間に、床から垂直に伸びた棒の先端を挿入されているのです。 「……ほれ、お主。コレがどのようなものか、こちらの客人に説明せよ」 「は、はいっ。……その、爪先立ちになっているので、自力で抜くことができなくて……ここから一歩も動けません。ですので、こうしてそれ以外に何も制限されていなくても、逆らうことができないん、です……」 説明役にと魔王様が指名したのは、そんな串刺し設置刑の中でも特に軽い処置となっている少女でした。罪状表記によると、仲間を即座に制圧されて何もできずに投降した癒し手とのこと。今も隣にいる仲間の一人に「侵攻に反対していた」と庇われ給仕で許されかけたところを、自分も仲間と同じ目に遭わないと合わせる顔がないと固辞したと。 そんな彼女、経緯もあってこの部屋で最も刑が軽い一人のようですが、そうなるとラバースーツの着用を許され、そのうえ棒以外の一切の拘束をされていないという緩さでした。極薄のラバーごと挿入されているようで、接合部も露出していませんが……これはこれで艶かしいような。 それでも恥ずかしいのは無理もないことでしょう。魔族にとってはさしたる罰にもならないようですが、貞操観念には文化の違いがありますから。素肌でないだけで、体の形も挿入の様子も丸見えで晒し者にされていることには変わりありません。 言われて目を向けると確かに、台座にかかとを置く形状が用意されていました。既に伸ばした状態でしっかり挿入されている以上、掴まるものもなければこれですら抜け出せないのでしょう。 「こうして棒に穴を串刺しにされておると、棒がつっかえて動くことができん。かといって抜くこともできぬのでな、これ一本で人は無力化できるというわけじゃ」 「……そんな仕打ちを、自ら受けていると」 「自責思考はフェリシアと似ておるな。……こやつらの一味は積極性に差があってな、リーダー格ともう一人は別室じゃ。最後の一人が橋渡しをしておったようでな、そやつはバキュームベッドにおる」 「中央の冒険者は無鉄砲だと思っていましたが……こう見ると、個人差は激しいのですね」 隣にいるのが、その庇った仲間。こちらは串刺し設置の中では拘束が厳しく、守備隊に小さくない手傷を負わせた罪を可視化されています。肘を直角に曲げた後ろ手で革拘束に固定され、脚も棒を挟む形でぴったり閉じて束ねられていました。ボールギャグで口も塞がれて涎が垂れていて、視覚を残されているのは果たして温情なのか罰なのか。 脚もかかと置き場がなく……見ればそのさらに隣には、誰も設置されていない台座がありました。爪先立ちで膣の奥ほどまである柔らかい部品が先端についていて、上から触ってみるとぐにゃりと潰れます。つまり、かかと置き場は拘束ではなく支えで、なければこうして深々と奥を圧迫されるのでしょう。 ただ、二人の解放予定は同日でした。聞けばやはり、給仕と串刺し設置刑の差額分を隣から引き受けるような形で本来の刑期より短縮されているそうです。 そして女ばかり五人組だったうち、一人がバキュームベッドに。捕縛後に反省はした上に魔族蔑視はなかったものの、守備隊の一人に重傷を負わせた罪を素直に受け入れたとのことでした。そちらを見に戻ると……感じられるらしい視線の気配に震え、びくびくと跳ねながら食い込んだ縦筋をひくつかせていました。 やはり同日予定だった解放後は、彼女を二人で慰めることになるのか、それとも三人揃って欲を発生させるのか……。 「人間はこうした仕打ちに不慣れゆえ罰は与えやすいのじゃが、更生の余地がある者ほど感受性が豊かでのう。こうした刑を与えると、大半がマゾになりおる。これからは魔帝国の仲間となるのじゃから、シィのようにサドも増えてほしいのじゃが」 「……もしかして、私をこうして服役させずに見せて回っているのは」 「期待しておるぞ」 ……つまらないプライドでこの場では言いたくありませんでしたが、目論見は見事に成功しているようでした。 「というわけでな、見せたかったのはあの部屋までじゃ。楽しみを芽生えさせる余地があるのはここまでじゃからな。……しかし、残りから目を逸らさせるのも違うからのう」 打って変わってあまり気乗りしない様子になった魔王様が次に連れてきてくださったのは、すぐ隣の「戦利品保管室」なる部屋。第一と第二があるようで、まずは第一保管室から。 想像に容易かった通り、ここは一時展示場とは違い許される予定のないモノの処分場であるようです。何かの気紛れや目掛けがなければ一生そこから出られない、事実上の極刑なのですが……それが二部屋用意されている理由を、私はすぐに理解することとなりました。 「これは……」 「第一保管室は、更生の余地が薄いもののそれだけのものたちの置き場です。非常に多く、ひとつひとつを作品にまで貶めるほどの熱量もなく……このようになっております」 「ここに収容される者は皆、悪趣味だと、我らのやり方を醜悪だと言いおるな。そうして怯えながら壁の中へ消えていくのじゃ。それを言わず留められる者も、有期刑にしてやれるほど恥やプライドを捨てて許しを乞える者も、ここにはおらぬからな」 いやに分厚い壁が扉の横にあると思えば、その先にあったのは見渡す限りの人の尻。安直に壁尻と呼ぶらしい、本当に尻だけが壁から突き出て残りを収納されてしまったモノたちが、所狭しと四方の壁を埋め尽くしていました。分厚い壁はその中に人の体が埋め込まれているせいであるようです。 私たち、魔王城に侵入者以外として入っている人間に、それを悪趣味などと罵る権利は存在しませんが、とはいえ確かに人間の感覚とはとても掛け離れた代物ではあります。一時展示場には亡命してきた人間や獣人の姿もありましたが、こちらの来客は全て魔族。それも淫魔が大半です。 「ここへ収容されたものが部屋を出る術は、ふたつしか存在しません」 「ひとつはああして、訪れた淫魔に買い上げられていくものじゃな。もっとも、質の低いものを二束三文で、ジャンクフードとして持っていくだけじゃが」 「ああして買われていったものの末路は、ろくなものではありません、詳しくはお話を避けますが、ここに収容され続ける方がましでしょうね」 どうやらそれぞれに時価がつけられるようで、半ば販売場の様相を呈しているようです。買われていくのは安いものばかり、つまり何の素質もない屈辱に震えているだけのもの。淫魔たちは「乾き物」と呼ぶようです。理由は……言うまでもないでしょう。 それを術で無理やり発情させて精気として吸うのが、淫魔にとって格安の食料であるそう。ただし無理をさせているため壊れやすく、また高級食材であるマゾで乗り気な人間との味の差は歴然だそうです。 「もうひとつは、妾に目をつけられることじゃ。要因は……もはや言うまでもあるまい」 「マゾとなること、ですね」 「うむ。……もっとも、数は少ないがの。はじめから素質が少しでも見えれば、反抗的であっても家畜で済む。お主を乗せてきた馬車のポニーがそれじゃ」 私にも見分け方が少しずつわかってきました。ずらりと並ぶ尻のうち、女……もはやメスと呼ぶべきかもしれませんが、そちらが並ぶ方を見ます。その中にいくつか、剥き出しの秘部や尻孔をひくつかせたり、湿らせているものがあるのです。 魔王様はそれらの尻肉を順に平手打ちしていきます。声は届かないようで乾いた音が鳴るだけですが、そのうちさらに一部は確かに他と違う反応をみせました。私にさえ明らかに興奮しているとわかるそれらの肌に、魔王様は担当者にシールを貼らせます。「試験予定」というのはつまり、ただの尻ではなくマゾとして使い物になるかの試験なのでしょう。 ……魔王様の言葉の通り、私は領都からこの魔王城までを馬車で連れてこられました。それを牽いていたのは人王国でよく見かける馬ではなく、馬具を身につけ馬扱いをされているポニーガールでした。 二頭とも人間で元は冒険者だったようですが、屈辱的な身分での人王国への帰還でも興奮を隠すこともできず、走るだけで絶頂しているほどでした。最初は反抗的だったそうなので、やはり魔王様の目利きは凄まじいものがあるようです。 ここはその目に掛けられなかったものの墓場。それでも絶望的とはいかないほどの数、保管の日々の中で目覚めるとなれば……なるほど、人間の感受性というのも確かに。たとえ逃避からなる羞恥興奮の発生だったとしても、立派な生存のための適応ですから。 第一保管室は、そんなどうでもいい者たちの処分場でした。数はとても多く、一時展示場の囚人たちは恵まれた上澄みであることを教えてくれるほど。 ですが、保管室はもうひとつありました。雑多な保管でありつつ恥辱だけなら一時展示場以下だったそこでもなく、さりとて更生と解放の余地を見込まれない者の場所。それはすなわち……。 「第二保管室は、またの名を永久懲罰室とも呼ばれます。刑罰としての等級は、床飾りに次いで上から二番目」 「……勇者一行よりも厳しいのですか?」 「あやつらは、妾は一時展示場でもよいと思うておるのじゃ。むろん危険思想を捨て更生すればの話じゃが、あくまで図に乗った愚物に従って戦っただけじゃからな」 「では、特殊展示となっているのは人王国に映像を回すため」 「それと、城の配下の溜飲を下げさせるためじゃな。あやつらに負けて大怪我をしたものも多いゆえ、徹底的な尊厳破壊はどのみち必要じゃった」 永久懲罰室。また凄まじい言葉が聞こえました。解放の余地は一切なく壊れても埋められ続ける床飾り刑の次で、この名前ということはやはり、二度と出ることは叶わないのでしょう。精神的苦痛も含めて、勇者はあっさり処された死刑よりもさらに上ということになります。 その勇者は処刑済と王国に出回ったある映像で言及されていましたが、この永久懲罰室でも床飾り刑でもない辺り、やはり魔王様は特別な醜悪視はしていないようです。それどころか、現在展示場外に設置されている残り四名に至っては有期刑のつもりだと。 兼ね合いや必要で特別な扱いはしているものの、人間至上主義くらいなら慣れたもの、ということでしょう。我が同族のことながら、どこまでも救えない。 「こちらには主に、魔王様の逆鱗に触れたものが保管されております。文字通り永久に、終わることのない地獄で苛まれながら」 「たとえば……そうじゃな。これじゃが。元はただの密偵じゃ。であったがこやつは、妾の目の前でシィを罵倒しおってな」 「……獣人蔑視ですか。中央では本当に多いと聞きますが……」 「うむ。……まあ、それだけならポニー程度にしてやる手もあるのじゃが、面白くもない奴じゃったから処分した」 「……フェリシア様をお乗せした馬車のポニーは、私を奴隷として連れてきた人間でした。魔王様にマゾを見出されれば、居場所が変わるのです」 つまり、更生の余地なく、重罪を犯した上で、魔王様に悪く思われ、さらにマゾという名の面白味も見出されないことでようやく送り込まれる地獄であると。その上二度と解放も介錯もないとなれば、広い部屋にまだ少数なのも納得がいきます。第一保管室は使い潰されれば終わりであるだけ、まだマシだということでしょう。 魔王様が示したのは、入口付近に吊るされていた黒い板でした。どうやら額縁にも入れられずにただ置いておかれたバキュームベッドのようですが、姿勢は一時展示場のがに股よりもさらに無様な、潰れた蛙のようなもの。おまけにあちらにはあった呼吸用の短いチューブすらありません。 「これは生き物ではございませんので。生命と精神は魔法にて維持されておりますが、呼吸をするような権利もないのです」 「……なるほど」 同じ拘束と無個性具合でも、これほどの差が生まれるものなのかと、私は面食らってしまいました。見事に大事に飾り立てる額縁もなければ、ただ吊るされただけのそれはいくら惨めに揺れても止まることもできず。あちらでは作品名代わりに主張してもらえていた名前や罪状も、裏面にひっそり管理用に記されているだけ。 挙句の果てには、呼吸の権利自体がない。その分すら魔法で維持される一方、鼻も口も穴のないラバーシートで覆われたままです。一時展示場のバキュームベッドは水分と流動食をチューブから与えられるそうですが、こちらはそれももちろんなく。 ただひたすら、定期的な外刺激もなく時間感覚は失い、不定期に清掃やメンテナンスを行われるだけで立場は知らしめられ、さりとて心を壊すことすら許されない。なるほど、地獄です。とてもではありませんが、想像もつきません。 「ですので、多くの展示物は外の誰かに触れられることを好みます。それが唯一これらが感じることができる刺激であり、罪を悔い続ける永劫の屈辱の中で気分転換の余地になるものですので」 「んぁっ、んむぅぅっ!?」 「……これは処理直前に股を拷問されておりましたので、当初は股を触られると嫌がっておりましたが……もはやそれを選ぶ余地もないのでしょう」 そうなってしまえばもう、どんな外的刺激であっても欲しいのか……下品な彫像に成り果てた姿の恥部を雑に触られるだけですら、歓迎するようにびくびくと跳ねて悶えるほど。拷問のトラウマさえ保っていられないようです。 試しに他の展示物、同様に全身をラバーで覆われ、上と下を繋がれ柱になってしまったモノに触ってみると……一度驚いて体を引いたあと、すぐに掌へ擦り寄ってきました。なるほど、こうなってしまうほど刺激が欲しくなると。 「お゛っっ!?!?」 「ふむ。確かに、生き物であることすら許されない展示物にしては、少し面白いかもしれません」 「じゃろう? 妾はここを気に入っておる。玩具部屋としてじゃがな」 つい、がら空きだったそれのお尻を思い切り叩いてしまいました。突然の痛みに情けない声で鳴いて……しかし見たところ、それだけで絶頂したような。そのまま残る痛みもじっくり噛み締めて味わっているようです。そんな苦痛すら、普段は得られないものだから。 それきりで離れて、もういないとも知らずにしばらくわずかな可動域で媚びるラバー柱を見ていると、少しわかってしまいました。これは確かに、他に使い道もなければ安易な終わりを与えたくもない愚か者で作るにはちょうどいい玩具かもしれません。 「しかし、やはりフェリシアはサドに向いておると思うぞ」 「……はい。私も、もしかしたらそうかもしれないと思い始めています」 「ぅぐ、ぅっ、!?」 「……私よりずいぶん、自覚が早い」 「シィは自覚してからも意地を張っておったじゃろ」 今度は椅子があったので、それに座り背もたれに体重をかけてみました。ちょうど空気椅子の姿勢のお尻のあたりから残り二本の脚を生やして、腕を肘掛けにしたようなものです。頭は全頭マスクで覆われていて、首から下は裸のまま全ての関節を固定されています。 背中を預けるほどに苦しそうに、しかし嬉しそうに呻くそれが楽しく感じてしまいました。もはや認めないわけにもいかず、どうならサディストの楽しみ方を私はできているようだと伝えることに。 「がふっ!?!?」 「……魔王様。後日、いろいろご教授いただくことはできるでしょうか」 「うむ、いつでもよいぞ。大歓迎じゃ、いくらでも来るがよい!」 全身を透明なフィルム包まれて太いザイルで吊るされ、やはり頭は全頭マスクに剥奪されたサンドバッグを強めに殴り飛ばしながら、魔王様にお教えいただく約束をいただきました。手間でもあり、とても名誉なことだと私にもわかりますが、むしろ魔王様のほうが嬉しそうなほどです。 そうと決まれば……まずは今日の大浴場で拘束給仕の子達に触らせてもらいながら、この魔王城の文化に慣れるところから、でしょうか。