【先読み】駅前のオブジェは秘密の舞台
Added 2024-12-23 13:02:48 +0000 UTCこの街には、一部の人間しか知らない秘密が存在する。……なんて言ってしまうと胡散臭いものだけど、これは嘘ではない。本当にそう言えるものはあるし、私もそれを知っている。 だけど、噂としてとはいえ普通の女子大生でしかない私でも知っているようなものだ。何も陰謀だとか闇だとか、そんなものではない。秘密の組織、ならさして間違っていないかもしれないけど。 その現場は、市街地の中心にある末糸駅の駅前広場。待ち合わせ用に噴水だとかモニュメントが置かれているような場所なんだけど、ここは少し特殊だ。というのも、ここに置かれているオブジェは屋根とガラスケースに守られているばかりか、よく入れ替わるのだ。 しかもローテーションしているというわけでもなく、中には一度見たきり何年も再び見ることができないものもある。素材もデザインも一度に置かれる数もまちまちで、共通項はせいぜい体の形を隠さない格好の女性型の等身像であることくらい。わかっていることも、作者が「栃谷円玖」という地元出身のそこそこ有名な芸術家であることと、彼の大型立体作品はここ以外では陸路で運べる範囲の展覧会に不定期でしかお目にかかれないことだけだ。 趣味で作り続けているものを市が飾らせてもらっているのだろう、とくらいしか言われていないし、その酔狂さを含めて底空市七不思議に数えられたりもする。とにかくかの地元の星が習作でも出し続けているのだろう、くらいにしか思われていない。 裸像ではあるから思春期の男子あたりはちょっと目を逸らしたり、それを茶化したりなんてものは日常風景だ。だけどそういう芸術は昔からあるし、別に下品なわけでもないそれにケチをつけて「お前がそういう目で見ているだけだろう」と言い返されているのもごく一部のつまらない活動家くらいのものである。 そんな駅前のオブジェこそが、秘密そのもの。この街でちょっと性嗜好を拗らせた人が生まれやすい理由のひとつでもあり、私のように一部の物好きが引っかかる誘蛾灯だった。 ある日の夜半過ぎ。この日私は、終電から30分ほど経っていよいよ通行人は一人もいない駅前広場に足を運んでいた。 早く来すぎるなと厳命されて指定された時間範囲ほぼぴったりに到着した私の前に姿を見せていたのは、オブジェの近くに停まって荷台の扉を開けたトラックだった。それに乗ってきたのだろう数人の作業員は、ちょうどオブジェを囲むガラスケースの一面を扉のように開いたところ。 「すみません、“次”で来た“A”なんですけど……」 「Aさんですね。現在取り外し作業中ですので、しばらくお待ちください。台座の外でしたら、ケースの中から見ていただいても構いませんよ」 「ありがとうございます。邪魔にはなりませんので」 作業員が許可してくれたから、お言葉に甘えてガラスケースの中へ。その中には直径がケースの一辺の半分ほどだろうか、オブジェを載せる円形の台座がある。それに乗らないようにしながら、オブジェとその取り外し作業を見学することにした。 今回そこにあったのは三体の、いずれも石像。モチーフはゴルゴーン姉妹のようで、うちひとつは蛇の髪をしっかり強調していた。残る二つも一つほどではないものの半異形の美しい女のデザインで、二対一で向き合う配置になっている。 「……あの、Aさん、ですよね?」 「はい。あなたは」 「Bです。その、よろしくお願いします」 そんな石像たちは、かなりしっかり台座に固定されている。石の重みを支えるためか少し特殊な形をしている留め具を一つずつ取り外していく様子を見ていると、それが二体目に差し掛かったあたりで入ってきた女性に声をかけられた。これの参加者は名前は出さず、こうしてアルファベットを振られて呼ばれることになっている。 …………いつだったかは覚えていないものの、どこかで見たことがあるような気がする。学校の先輩か後輩かもしれないし、前に足を運んだ展覧会や博物館にでもいたのかもしれない。ここに来る人はその多くが私と同じ趣味を持つ近い世代だろうから、そのどちらかの可能性は高い。 なんであれ、仲良くしておかないと困る間柄となる存在であり……仲が悪くなることはそうそうないだろう相手だ。いろいろと共有しておくことに否やはない。 「すごい、ですね……」 「はい。知ってはいても、こうして見ると魅入るというか、言葉がなくなるというか」 「これから私たちも、こうなるんですね」 ……そう。私たちは今、これからこの石像たちのようになるためにここに来ている。そしてそれは、多くの市民が意識しないようにしている、性的な意味を持った目的においてだ。 秘密の内容。この駅前のオブジェは、本物の人間が入っているのだ。それも、特殊な興奮を得るために。 この街にはアダルトグッズメーカーであるミスト・スランバーの本社がある。詳細こそ伏せられているものの商品表示には確かに底空市の名前があるし、繁華街には直営店だって構えられている。開催期間が後半に入ったところの『SM博物館』だって、少なくとも初回はこの街で開かれているのだ。 応募がミスト・スランバーの会員サイトからだったから、これに関わっていることは間違いない。そうでなくとも確信しているところだ、オブジェ化によるポゼッションプレイなんてものを大々的にやるのはあの会社くらいのものなのだから。 「えっと、前の人はどれでしょう?」 「最近人気が増してるとは聞いてたけど……三体ともですね。ほら、目のところを見たら」 「ああ、そこで見分けるんですね。……でも、そっか。例の博物館とかも、ありましたもんね」 その拘束博物館はもともと好事家や元々興味があった人向けに開催されたものだったんだけど、段々口コミが進んで偏見がない人や興味を持った人の入場も増えているらしい。会員サイトにある会員数カウンターも増え続けているのは、『ヒューマンファーム』の影響もあるのだろうか。 それもあって、以前は数体あるうちの一体だけであることが当たり前だった“中身入り”が、最近は全てになっているのが当たり前なのだ。像の瞳の部分がガラスレンズになっているのが中身入りの証で、今回も三つの像全てがそうなっている。 そうして話しているうちに、全ての石像がトラックに積み込まれた。これからあの三体は中身を取り出されるか、あるいは展覧会に持ち込まれて展示される。 そして私たちは……一緒に工房へ向かって、そこで代わりに駅前に飾られるオブジェへ姿を変えることになる。私も、隣のこの子も、それで興奮することができるだけの興味を深く奪われてしまっているのだ。オブジェに閉じ込められて数日間も展示されることを、自分たちから強く望んで応募したほどに。 別で送迎の車を呼ぶことはできたとのことだけど、私たちは自分たちから望んでトラックの荷台に乗り込んだ。今はとにかくこの石像たちが気になって仕方ないし、言ってしまえば焦がれているのだ。 しばらく前に体のサイズを隅々まで測ったのはミスト・スランバー直営店のバックヤードだったから、工房に行くのは初めてだ。それに私たちが何になるのかはまだ知らない。ときにかっこいいヒーロー、ときに敗れたヴィランになるところだけど、少なくとも駅前で芸術作品として見られるようなものであることに違いはないから心配はしていない。 「到着しました」 トラックが止まって荷台が開いたところで降りる。その先は広い工房に直接繋がっていて、作品をそのままトラックへ載せられるようになっている形だった。 私たちは中でもロッカールームのような小部屋へ促されて向かうと、持ってきた私物を全て預けて……言われるがまま、服も全て脱いだ。それも当然だ、オブジェの中には服を着ては入らない。それに私たちはそもそも、えっちなことをするためにここに来ている。 完全に何一つ持たず身につけていない生まれたままの姿で工房に戻ってくると、石像は三つとも工房に下ろされた上で作業員さんは女性しか残っていなかった。力仕事でもあるから男性作業員に運ばれることくらいは覚悟していたけれど、素肌が隠れるまでは場を外してくれるらしい。 裸でも過ごしやすい室温の工房では、石像が開かれているところ。外からはとてもではないけれど見抜くことなどできないほど違和感なく消された継ぎ目が専用の工具で開かれていくと……中からは肌色、ではなくラバースーツのようなものが出てきた。 「ん、ぅぅ、っ……!」 「…………すごい」 「あんなふうになってるんだ……何日もあのままなら、そりゃそうだけど……」 ……少し開いたところで止まって、ラフな装いの女性が隙間に手を突っ込む。お尻のあたりで何かを探り当てたようで、支えながらさらに開いていくと……くぐもった嬌声とともに、何やら弁のようなものがお尻の穴から抜けてきた。 そのまま背中からお尻、足の後ろ側までにかけてが剥がれて、中身が背面だけ露わになる。まだ腕は固まっているから動けないようで半分埋まったような状態のそれを見ていると、別のスタッフさんに声をかけられた。 「お待たせいたしました。お二人とも、まずはこちらを」 「あっちも着ているみたいですけど……これは?」 「長期拘束用のインナースーツです。肌擦れや老廃物、筋肉の維持まで全ての機能が集約されているので、ぴったりのサイズを貸し出しということにはなりますが」 「そっか、そんなのあるんだ……てっきり低周波パッドか何かでどうにかしてるのかと」 「だとすると、とんでもなく高そうですね……どっちにしろ貸し出しじゃないと無理そう」 手助けと手解きを受けながらインナースーツを身につけていく。着用感はとてもよくて、拘束博物館で試着したラバースーツに似ているようでものが違う。まだ機能は動いていないのだろうけど、それでもずっと着ていられそうだ。 口の穴を広げて入る方式で一切の継ぎ目が存在しないそれを首まで着て、全身にぴっちり張り付きながら恥ずかしいところだけ穴が空いているそれを堪能していると……あれこれと石像の内側にあったらしい管を全て外し終えた中身の一人、メドゥーサ役の人が同じ格好で頭部分だけ脱いで数日ぶりに顔を出した。 「……なんでこんなところに」 「こっちの台詞よ。まさか同じ趣味だなんて思わなかった」 「ほんとに……ま、そういうことだから……その、終わったらまた話しよ」 「ええ。これまでにも増して面白い話ができそうだし」 それが見知った顔、それどころか友人だったからもう驚きだ。向こうは石の中の時点で驚き終えていたようだったし、この場では名前を出さないルールだから最低限の会話で済ませたけれど。 残り二人は見る前にこちらが頭まで被ってしまったけれど、知らない顔だった。何事もなくスルーして、相方となるBさんと一緒に入れ替わりで工房の中央へ。そこにあるのは……二体と呼ぶには一体化していて、一体と呼ぶにはそれぞれに個性がある、躍動感のある金属像だった。 「はじめまして。栃谷円玖です」 「若い女の人、だったんですね。てっきりお年を召した方だと」 「名義での活動は20年を超えていますからね。……公表していませんが、実はこれは半ば共有された名前なんです。作品はもう一人……師匠と一緒に作っているんですよ」 さっき中身まで触って取り外しの処理をしていたのは一人だけだった。その人、思っていたよりずいぶん若い女性が栃谷円玖、正確にはその片割れであるらしい。 私としては、少しほっとしたところもあった。覚悟していたとはいえ恥ずかしいところも格好も何もかも晒す相手だ、やはり壮年の異性よりも歳の近い同性のほうがいいのは自然なことだろう。 「お二人が“なる”作品ですが……アメノウズメとアマテラス、その金属像です」 「やっぱり。……だけど、こっちはかなり大変な姿勢じゃないですか?」 「像の外身が支えてくれるので、こう見えて楽なんですよ。私も実体験しているので、ご安心を」 日本神話の有名なシーン、天岩戸に閉じこもった天照大御神を連れ出す場面だろう。あえて岩戸の前でどんちゃん騒ぎをして、踊りが得意な天鈿女命は裸踊りまでして気を引いたという。……確か覗き込んだ天照大御神を引っ張り出したのは他の力自慢の神様だった気がするけど、そこは省略されているようだ。二人が直接手を繋ぐことで当の岩戸も洞窟もオミットされている。 連れ出されたアマテラスはイメージ通りの衣服を纏ってはいるものの、前が開いている上にひどく乱れていてあちこち丸見えになっている。原典で裸ではないものを下品にしない範囲で、裏の目的を果たす過不足のない塩梅だ。 一方のアメノウズメは、ほとんど裸。それはまあ、裸踊りをしているのだから当たり前なんだけど、ストールのような形の羽衣を肩にかけているだけ。極薄の金属板がバランスを取りながらたなびいていて、体のラインも一切隠れていない。おまけにバレエのように片脚を膝の高さまで上げていて、隠すどころか見せつけるように体を開いている。 「えっと、どっちがどっち、なんですか……?」 「アメノウズメがAさん、アマテラスがBさんです。……ご希望通りに、なっていますよね?」 「…………はい」 「わ……」 ……そう。いざ目の当たりにして、割れ目まで描いてこそいないもののこれでもかと再現されたそれを見て、私はすっかり期待している。そもそも希望を取られたとき、これでもかと恥ずかしいようなものでもいい、なんてわざわざ答えたのは私のほうなのだ。 まさかここまでしてくれるとは思っていなかった。こんな徹底的に見せつけるような姿にされて、どう感じてしまうのだろう。 「本作は二体でバランスを取るように設計されています。ですので、まずはBさんから入っていただきますが……よろしいですか?」 「は、はいっ」 なんでも私が先に入ったら少し不安定になる可能性があるとのことで、まずは比較的ちゃんとした立ち姿のアマテラスのほうから。やや前傾姿勢だけどこのくらいなら問題ないようで、分解された金属像の前半身の部分に体を嵌め込んでいる。複雑でない腕の形をしているものの場合、前後の2パーツで構成されている様子。 あえて像の前半分越しにしか見ないように向かい側にいて……それでも聞こえてしまったちょっとした水音に想像を掻き立てられながら、順番を待つ。実際に見えたのは、目の部分に存在する穴からBさんの目元が覗いただけなんだけど……その小さな穴でもわかるくらい、興奮と快楽と羞恥がごちゃ混ぜになっている。 少しして……私服に戻った前の三人が戻ってきて、どこか微笑ましげに見てくる。中でも友人は私ばかり見てくるけど、むしろ構わなかった。同じ変態嗜好の仲間だし、経験者が変な侮蔑なんて向けてくるはずもないし。 「……では、Aさんもこちらに」 「はい…………中身、こうなってるんですか」 「ええ。これは取り外しが可能ですが」 「……そ、そのままで」 「気にしないで。私たちも全員そのままだったから」 「私が言うのもだけど、それはそれでどうなの……?」 いよいよ私の番だ。繋ぐ方の親指だけ別パーツなもののアメノウズメも大きくは前後2パーツ構成のようで、後ろの部分を開くと……中身が見えて、思わず言葉を失う。 全体的に、外からは考えられないほど仕込みが多い。頭の部分には呼吸用の穴が目立たないように用意されているだけでなく、緊急用なのか口に合わせてごく短い酸素チューブもある。もうひとつあるチューブは水と流動食のもののようで、使うときだけ口を閉じて咥える仕組みだ。 股間部もいろいろ用意があって、導尿カテーテルと……膣用のバイブが仕込まれていた。これは外せるらしいけど、それが一切動けない中での気紛らわせになるのはわかる。私は恥ずかしながら一人遊びで膜を破ってしまっているから、外す理由もなくもってのほかだった。 ……けど、これをこの場にいる誰も外していないのは、さすがに爛れているような。見ればBさんも目を逸らしているし。 振り返ると後ろ側にも仕込みがあった。さっき外すのを見た弁はどうやら排泄用の機構で、これを含むいくつもの管がうまく像の中を通されているらしい。 ヒアリングのときに少し弄っていると正直に答えてしまったからか、現時点でも指二本分ほどの容赦のない太さになっている。 「ではカテーテルを挿入しますので……ここに、ほんの少しだけ隙間を作れますか?」 「はい……ん、ぅっ」 「少しそのまま……」 「ぅあ、っ、ぁ…………」 そのままにしたバイブへ自分から挿入していって、拳が滑り込める程度の隙間を作って止める。興奮はこれでもかとしていたからもう濡れていて簡単に入ったけど、それを見られるのが恥ずかしい。 念のため改めて消毒されたカテーテルが尿道に入ってくる。しっかり膀胱まで入ったようで、全く止められないまま抜けていく独特の屈辱感を感じた。これに耐えられるほどの変態が、数日おきに交代できるほどこの街にはいるらしい。 合図でそのまま隙間をなくして、深くまで挿入しながら像の裏に密着した。会陰のあたりまでぴったり嵌め込むと自覚していた以上に動きが封じられて、この時点ですらもう不思議な心地よさがある。 「では、閉じ込めていきますね。事前にお伝えした通り、解放は一週間後です」 「はい……」 「では、いってらっしゃい」 「ん……ぅ、は、ぁぁっ……!」 腕もぴったりの形に合わせて……やや下寄りになっていたおかげで乗せやすかった片脚もしっかり添える。スーツがどんな仕組みで助けてくれているのやら、腕は心臓よりはやや上にあるのに全く疲れない。 確かに言われた通り、無理なんてしていないように楽に感じる。身を任せることも難しくなかったから委ねていたら、後ろ半分が近付いてきた。私をこれから一週間、彫像の中に閉じ込めて完全に拘束してしまう残酷な美術品だ。 栃谷さんが優しく解してくれたけど、来る前に気が逸って自分で解していたからお尻の穴はもう柔らかい。ゆっくり像ごと押し付けられた部分は強烈な異物感ごと挿入されてしまって、外側どうしが完全にくっついた。音が聞こえなくなったことでそれがわかって、試しに体を動かそうとしてみても一切手応えがない。そもそも可動域がないから、内壁を押すことすらままならないのだ。 最後に右手の親指も固められて、これでほぼ完成だ。私は自力では本当に何もできない、ただの金属像へと貶められてしまった。 ………反射的に浸ってしまったのは、ほんの数秒のこと。気付いたのは目の前、アマテラスから覗くBさんのぽうっとした視線だった。 それで自分が穴を締め付けながら楽しんでしまっていて、たぶん陶酔すらしていたのだと気付いた。直後、視界内に割り込んできた栃谷さんがアマテラスの目にガラスレンズを嵌め込んでしまって、辛うじてわかっていたBさんの表情が読み取れなくなる。 それがどういう意味か、自分も同じことをされるのだと気付いてぞくりとしているうちに、私の目元もレンズで覆われた。といってもほとんど視界に影響も度もないようで、ただ外から見えなくなるだけらしい。 もう最後まで見ていた三人がどんな反応をしているのかも、いつ帰ったのかもわからない。ただ固定された視界だけが与えられた状態で栃谷さんとスタッフさんがしばらく動いて、やがて男性作業員も入ってきた。つまり私たちはもう、外に出して見せられる状態なのだ。こんな拘束感と密着感と異物感に襲われっぱなしで、この姿を美術品として見られ扱われているとわかるだけで興奮が止まらないのに。 しかしもはや私たちはただのオブジェ、身体の自由はなく動かす権利は外の人間にある。要領よく大きな台車に乗せられて、斜めになりながらトラックに載せられて……荷台に閉じ込められると、走り出すのが体感でわかった。もう工房を出て、展示場所……あれだけの人が往来する駅前広場へと運ばれるのだ。 『設置が終わったので、説明させていただきますね』 「は、はい」 『はひっ』 『今行っているように、像の中には通話機能があります。耳の部分にスピーカーが、口のあたりにマイクが。防水仕様ですのでご安心を。……加えて、手の部分にスイッチが仕込まれておりまして、お二人の離れている方の手の親指にスピーカー、人差し指にマイクのスイッチがあります。いずれも誤操作防止のため、爪側に』 しばらくして、まだ始発には余裕がある時間。無人の広場へ設置が済んで、周囲に屋外の景色と夜空が広がったところで耳元に声がした。 肌ひとつ出せない中なのに開放感に苛まれながら、話を聞いて気付いた。私はここまでも、異物感と興奮、それから晒された実感で喉を鳴らしてしまっていた。 「……もしかして、聞こえてました?」 『は、はい……それ聞いて、私も興奮しちゃってて……』 『申し遅れましたが、デフォルトではオンになっています。……また、中指には広場の環境音スピーカーのスイッチもあります。お好きにご活用を』 「は、早く言ってください……」 『ごめんなさい、Bさんが聞いていたそうでしたので。……ただし、音声はお互いにしか、連絡中を除いて私にも聞こえませんのでご安心ください。また、小指にはこちらへの連絡ボタンがありますので、何か困ったことがあれば長押ししてください』 ……恥ずかしい。全部聞かれていたわけだ。Bさんがそれを楽しんでいたようなのが救いだけど……。 それにしても、案外いろいろ操作ができるらしい。二人で気を紛らし会話もできるのなら、孤独に心がおかしくなることもないだろう。Bさんとは、ちょっと気も合いそうだし。 『それから……水は起きている間にチューブを吸うと出ます。食餌は規定時間に用意されて通知しますので、同様に。起きているかの判別は、目が開いているかのセンサーとバイタルにて行います』 「わかりました」 『事前告知の通り、詰まり防止のため後ろの排泄は管理させていただきます。腸内洗浄を伴いますのでご了承ください』 『ぅ……はい』 『最後に、繋いでいる方の手にもボタンがあります。何が起こるかは、押してみてのお楽しみということで』 立て続けに使い方を説明されて、通信が切れた。本当に長時間こうしているために快適に作られているようで、至れり尽くせりだ。……排泄のしかたは、こうなるのも仕方ないし。 そこまでして、人を動かぬ彫像に変えてしまうことに情熱を注いでいる。そして私たちは、わざわざ本気で応募して一週間を費やしてそうなりたがった。そんな、非日常だ。それが堪らないのだ。 そうして、二人きりになった。ガラスケースも閉じてトラックが去っていき、お互いに通話を切る気もないまま。 「……えっと、その」 『た、試しに……環境音、つけてみますか?』 「! ……そう、ですね」 お互いに、ぴくりとも動けないまま見つめ合う状態。手は繋いでいるものの金属板で遮られていて触れられず、しかし温度は感じる。これから一週間も唯一の仲間である上に同じ変態趣味だとまでわかっていても、少しだけ気まずい。 ここまでは外側に気を散らすものがあったものの、今からは基本的に一切の変化がない時間がひたすら続く。今やミスト・スランバーが会員経由で募集しているものには他にもヒューマンファームやヒトペット広場、それに不定期開催の各種展覧会もあるのだから、その中でわざわざこのオブジェを選んでいる時点でいろいろと分かりきっている、というか。 だからこそ、どう話せばいいかわからない。たぶん、仲良くなれる子だとは思うんだけど……と、ついていると思っていなかった通話やいろいろな機能に翻弄されていると、Bさんから提案された。確かにそれでどうなるのか私たちはまだ知らない、試しにつけてみることに。 それが過ちだった。 「…………っ!?」 『う、ぁ………!』 「こ、これやばいかもっ」 聞こえてきたのは、それまでの閉じた空間とはまた別の静寂だった。こんな深夜の広場の中央、電車すらない時間とはいえ、無音ではないのだ。時折吹く風の強弱が、ガラスケースと金属像でそれすら味わえない私たちの現状を突きつけてくる。微かな虫の鳴き声が、人間以外は活動している屋外だと知らしめてくる。遠くに聞こえる車の音が、広場からは距離があるとはいえ活動している人もいないわけではないと気付かせてきた。 そして、自覚してしまった。私はそんな場所のど真ん中で、たった金属一枚越しに、しかもこれでもかと誇示するかのようなぴったりそのままの形で、踊る姿勢の開いた股を晒している。お尻のあたりはまだチューブのカモフラージュでマシだけど、前の方は少し視線を下げればもろだ。……いや、たぶん私が見たからバイアスがかかっただけで、実際は駅前に飾っても大丈夫な程度の表現なんだけど。 「い、いったん止めましょ」 『そ、そうですねっ……』 「……は、ふ……私たち、これから一週間、このまま……?」 慌てて環境音スピーカーを切った。けど、そうして外が思っていたより身近なことは自覚してしまったから、とてもじゃないけれど元通りの意識には戻らない。自分では確認できない後方に視線があるように思えてならないし、空気が肌を撫でているような有り得ない錯覚がある。 そして二人のスピーカーマイクはオンのままだから、一緒に同じ興奮を味わっているのもわかってしまう。目の前にある、入る前に見たときよりもだいぶ恥ずかしそうに見えるアマテラスの中にも、同じ感覚があるのだと想像がつく。 ……私たちは、そうまでわかって何もせずにいられるわけではなかった。そもそもの話、忘れられなくなるような非日常の快楽を求めてこんなふうになっているのだ。 『…………その、私……普段はなるべく、つけたままにしようかなって』 「私も。昼になったらたくさん見られるんですし、慣れなきゃいけない、ですし……こういうの、好きかも、だから」 だから私たちは、示し合わせてつけ直した。昼に向けての慣らしでもあり、……自分の欲を満たすため。 また音が聞こえて、びくりとすらできない金属固めにまた興奮が重なって……耳元にも小さく漏れた声が届いて。たぶん私も似たようなものを出していた。 だけど、そんなものは本当に最初の戯れでしかない。私は、そしてBさんも気になっていたものがあった。 『……ところで、なんですけど。……残りのスイッチ、なんなんでしょうね……』 「さあ……押してよさそうなこと、言ってましたし……試してみます?」 『そうですね。ちょっと怖いけど……』 「じゃあ、先に押してみますね」 むしろ積極的に押してみて、といった言い草だった。それでいて作用を説明されないということは、少なくともわからずに押しても大丈夫なものだとは思うけど。少なくとも腸内洗浄の強制起動とか、外との通信とか、そういうのではないだろう。 もう片方の手もそうだけど、握る方に力を込めても大丈夫なようにボタンは爪側。実際は全く動かない右手の人差し指を、伸ばす方向に押してみると……。 『ひゃうっ!?』 「えっ?」 『ん、ぅぅ、ぁ……なんか、バイブが、震えだして……っ』 「あ……まさか、このボタンって……」 『……は、ぁ……止まった……』 「やっぱり。……せ、性格悪い」 耳元にBさんの、これまでより明らかな嬌声が聞こえた。どう聞いても喘いでいるし、ほんの僅かにだけどバイブ音もした。 本人も言った通りのことが起こったようで……もう一度押すと、止まった様子。つまりこれは、 「お互いの手に、お互いのバイブのスイッチが用意されてる」 『そ、そんな……っ』 という、ことだ。私の人差し指にBさんのバイブが繋がっているということは、きっと逆も同じだろう。それはつまり、お互いがお互いの快楽の権利を握っているということ。オナニーなんて許されていないし、一方で相手をひどい目に遭わせる権利だけがある。 発生するのは、とても理不尽な相互服従だ。欲しければ恥を忍んで頼むしかない。相手の弱みを握っているけど、同じものを握られている。私たちは今、どこまでも尊厳のないモノなのだ。 「しかも、まだスイッチはあるから……他のも、試してみます?」 『そう、ですね……小指の、押してみますよ』 「お願い……っひぁ!? ちくび、きて……っ、」 『え……仕込まれてたん、ですか』 『は、ぁっ……そう、みたい……』 Bさんが小指を動かす。動いたのは……ぴったり密着した胸の膨らみの先端だった。全く気付いていなかったけれど、どうやら仕込まれていたらしい。しかも振動はほぼそこにしか感じないから、緩衝材か何かで隔離された上で。 すぐに切ってもらえたのだけど、思っていた以上。本当に動けなくて、そのせいで全く快感を逃がすことができないのだ。振動そのものは普通のローターと同じくらいだと思うのだけれど、感じるものと快感の溜まり方はその非ではなかった。 凶悪だ。自分で玩具を使ったときにはできる心の準備もないし、意思疎通したとしてもタイミングがずれるから、無意識で減衰されずにダイレクトにくる。それに、欲しがらないともらえないだけじゃない。相手を快楽地獄に突き落とすのも簡単なのだ。 …………それで、なんだけど。Bさんは小指を押した。人差し指と小指がそうということは、たぶんその間にあるものも同系統だろう。これはもう、試してみるしかない。私の予想だと、残り二つはそれぞれ二箇所のどちらかだ。 「……中指、押しますね」 『じゃあ私は薬指を……せーの、で』 「わかりました。……せー、のっ」 「んぃっ!?」『っんぅ!?』 たぶん、深夜テンションと半端な快楽でおかしくなっているんだと思う。ひとつずつ試せばいいものを、どちらからともなく妙な一体感が生まれて一緒にやりたがってしまった。 せーの、で……お尻の穴を拡げているプラグのうち、括約筋を受け止めている柔らかい部分が震えはじめた。自分で弄ってしまって既に性感帯になっているそこをダイレクトに刺激されて、かなり情けない声が出てしまう。 聞こえたのも含めて、これで四箇所……残っているのはたぶんクリトリスまで、ひととおり判明した、はず。だけど、不思議とすぐに止める気になれなかった。目の前で視覚的にだけは変わらない様子のアマテラスを見て、このままただ聞こえるだけのBさんがめちゃくちゃになるのを聞きたくなったのだ。 向こうも同じだったようで、私のアナル責めも止まらなかったし止めてとも言われなかった。それをいいことに、私たちはそれを止めないまま……あろうことか、 『は、っ……ぁ、クリ、すごい……っ』 「んぅ、ぁ……おしり、きもち……ぉっ!?」 『んへ、へ……Aさん、かわい……ひぁ!?』 「すご、すぎっ……けど、ほしかったん、でしょ……っ」 『はい……っ、ぶるぶる、いい……っ』 後から恥ずかしくなるくらい、お互いにわからないところの実況までしながら楽しみ合っていたところで、不意に私の膣内のバイブまで震え出した。二穴同時に犯され始めた私はもう溺れるしかなくなるくらい気持ちよくなりかけたところで、反撃。 私の反応を楽しんでいたところに乳首責めを追加されて善がるBさん。だけど、欲しがったのはバレバレだ。私と対照的に突起責めで嬉しそうに喘ぎ散らして、私へ媚びるような様子にすらなってきた。……私も似たようなものだけど。 こうなればもう、止めるなんてそんな無粋なことはない。もう少しで絶頂できるとわかっていて、それが欲しいのに相手から取り上げたりなんてできないのだ。そうすれば確実に仕返しされるから。 だからそのまま、さすがにまだ怖くて三つ目は押せないまま続いて。 『も、いきます、っ……いく、いくっ……!』 「わたし、も……ン、! いっしょに、ぃっ……」 またしても小っ恥ずかしくなるくらいお互いに媚び合って、いくら力を込めても形なんて代わりもしない繋いだ手を握り合って、全く同時に情けないマゾ絶頂を交換したのだった。 ……目が覚めた。 どうやら眠ってしまっていたらしい。仮眠はしておいたとはいえ設置は深夜だったから、無理もないのだけれど。 昨晩は遊び終えた時点で玩具は切っておいたし、時計は互いの視界に見えるものがあることを確認済。大胆な姿勢で固定されたままの体を再確認しながら、ゆっくり目を開けると……。 「…………っ!」 ガラスレンズ越しの目に映ったのは、すっかり明るくなった空と……ケースの外から囲んで眺めてくる、たくさんの人間たちだった。 時刻は午前八時前、ちょうど人通りが多くなってくる時間帯だ。通勤や通学で通りかかる人々はその多くが、新しく設置されたオブジェを見ている。もちろん、ほとんどがその中身なんて知りもしないまま。 深夜に無人の広場で屋外を感じたときなんて比べ物にもならない。恥ずかしいことをしているという自覚がある中で向けられる目は、あまりにもそれまでと別物だった。 しかもその視線の中には、そうそう卑猥なものを見る目すら混じっていない。もはやこのオブジェは駅のシンボルでしかないから自然に受け入れられているし、あくまで美術品だからいやらしい見方をすること自体が恥ずかしいという認識なのだ。……私のように、これで変なところが目覚めてしまった思春期の男女は少なからずいるのだろうけど。 中でも一番響いたのが、こちらを見てすらこない背中だった。オブジェを守るガラスケースは開く面を除く三方はベンチで囲われているから、そこに座っている人たちは中からは背中しか見えないのだ。 実感させられる。私たちは美術品であると同時に、待ち合わせのための目印でしかないのだと。気を惹かれなければそもそも目に入れることすら目的とされないこともある、他の駅にある大時計やモニュメントと同等のものでしかないのだと。 『……あ、起きました……?』 「はい……っ、これ、すごい……」 『ほんとに、癖になっちゃいますね……気持ちよすぎ……』 私たちは互いに中にいるとわかっているけれど、当然ながら見掛けは外からは絶対にわからないようにできている。互いがどんな状態なのかも、目元からすらガラスレンズでわからないから、意思疎通には声を聞くしかない。 休むときはどちらからともなくマイクとスピーカーを切っていたから、起きたことは微かな接続音でわかったらしい。先に起きていたBさんと同じ興奮を共有して、中でも何が良いかまで一致したことを嬉しく感じる。 『真夜中の雰囲気もいいけど、朝方もすごく……なんにもできないのに、いつ休めばいいのかわかりません……』 「一週間しかない、んですもんね……。…………環境音、つけよ」 『あ、私も』 駅が動かない深夜の静寂も、活動的な時間の中も、どちらも独特な良さがあった。もちろんこんなことがわかるのなんてこれを経験した変態くらいのものなんだけど……一週間という完全拘束には長すぎるくらいのはずの期間が、惜しいほど短く感じる。 ただ、まだ味わい切っていない。まずは二人のスピーカーをつけただけで、環境音はオフのままなのだ。それを、つけてみる。Bさんも待っていてくれたようで、一緒に。 「あ、っ」 『やば、いく、っ……!!』 「…………っ、は。触ってもないのにイったの、初めてかも」 二人の反応は同じだった。……ただつけて聴いただけで、脳イキした。 なんてことのない環境音、ただの駅前の喧騒だ。だけど、だからこそ。ここの周りの音だとわかったからこそ、だめだった。 見るだけではあくまでどこか隔絶されていたというか、別世界のような感覚と安全さがあったけれど。音までしっかり聞いてしまったらわかるのだ、私たちは本当にこんな普通のところで晒されていると。 非日常にとらわれるのも気持ちよかった。だけど、日常の中に人間でないものとして溶け込むのはまた別だった。そんな異常な状態にはもう、考えることすらできずに絶頂するほどだった。 ……本当は、すぐに玩具をつけてみることも提案するつもりだったけど。少しだけ感覚を空けよう。でないとおかしくなりそうだ。 だけど、何もしないでいるわけにもいかない。オブジェとしての楽しみもまだ味わい切れていないし、きっと飽きることもないけれど……やらなければいけないことがある。 「えっ、と……これ、咥えれば、いいんだよね……」 『確かそのはずで……んっ』 私たちは深夜にオブジェの中に入って、もう朝になっている。一応来る前に軽く食べては来ているけれど、それでももうもたない。 食餌の準備はできている通知は来ていた。試しに口元にある短い管を、唇を前に伸ばして咥えてみると……それを検知して管が伸びてきて、流動食が流れてきた。程よい塩気で思っていたより美味しく食べやすい……というか、カレー味だ。 どうやらそこまで快適に作られているようで、朝カレーと洒落こんだ私たちだけれど……これもまた罠というか。完全拘束で流動食を流し込まれるという管理されている実感は、私たちのようなタイプのマゾにはよく効く。会員サイトではもっぱらアナさんの動画が好きだったのもあって、似たことができているのは夢のようだ。 それを、駅前の往来の中央でやっている。行き交う人々、見ている人々の誰も、私たちが像の中で惨めに餌を啜っているなんて知りもしないだろう。……同じ経験のある仲間を除いて。それがまた、背徳感になる。 「……食餌まで、こんなに……」 『んく……もう私たち、ずっと興奮しっぱなしなんじゃ……っ、ぐ!?』 「え、っ……い、いま、きちゃ、っ……!」 食べ、というより飲み終えると一度口を離して、戻っていったチューブを再び咥える。今度は水が出てきて、いつでも飲めるのも聞いていた通りだった。 それで口を整えて、落ち着いたかと思いきや……プラグに犯されっぱなしのお尻に、人肌くらいの液体が流れ込んできた。確かに腸内洗浄を含めて排泄は管理されると聞いていたけれど、食餌の興奮から戻ってくる前にされるなんて。 『ふ、ン、ぐ……ちょっと、くるし……』 「はっ、はっ……ちょっ、と……?」 『ぁっ……そ、その。私、自分でやってる、から……』 「…………かわいい、っぐ!? きもちいの、ぜったいわかって、やってるっ……!」 プラグは普段は閉じているようで出せないから、注がれた分だけ腸内に溜まっていく。しかも金属像に完全にぴったり包まれているから、お腹を膨らませることもできなくて苦しい。おそらく結腸より奥までどんどん流れ込んできているのを堪えていると、Bさんが私の感覚と異なることを言った。 普段から浣腸オナニーをしているから、慣れていて耐えられている、と。……かわいいと思ってしまった。こんなプレイに応募している時点で手遅れとはいえ、可愛らしい顔と声と様子をしているのに、私よりも変態だなんて。素直に尊敬してしまう。 ……その間も、浣腸液の注入は止まらない。マゾでないと音を上げそうな量を注がれてしまって、これでも興奮してしまう変態であることを見透かされているようで恥ずかしい。 実際はそう大した量ではないのだろうけど、閉じた空間でのそれはかなり多く感じて……数分後、プラグが開いたことで勢いよく出してしまった。薬液はしっかり浸透したようで、全てするりと抜けていったような感覚に襲われる。 …………空気ではなく像を介しているはずだから、この排泄音は自分のものだけであるはずだ。そう思いたい。 それからは、ひとまずゆっくりできる時間があった。たとえば、浣腸はおそらく一日に三回あるだろうと二人で予想をつけたりとか。こまめに出させないと排泄物が溜まって、隙間のないオブジェの中ではどんどん苦しくなるだろうから、と。 そうとわからないとはいえ公衆の面前で食餌も排泄も晒された余韻に溺れ、それが落ち着いてきてもそもそもオブジェ姿を晒されていることへの興奮は収まらず、気付けば9時も回って人の数は減ってきていた。この駅はすぐ近くに大学があるから、そんな時間になっても安心できないし……むしろ知り合いを見つけてしまったり同士に見られたりする可能性が上がるのだけれど。 お互いに知り合いを目にしてしまってそれぞれ意識させられたり、気のせいでなければ直営店で見覚えのある少女にじっくり鑑賞されたりして午前中が過ぎ去る。……たぶんさっきの子、直営店で看板犬をやっていたコムギさんだよね? 朝が少し遅かったからか、やがて遅めの2時頃に食餌の準備ができる。6時間は空くようになっているのだろう、と当たりをつけつつ飲んで……予想通りまた腸内洗浄されて。やはり時間割のばらつきでなかなか絶えない大学生たちに絶え間なく見られながら、私たちは昼寝へ落ちていった。動けなくてやることもないし、糖分が体に入ったし、ゆうべは設置であまり寝ていなかったから。 とはいえこんな刺激的で恵まれた環境で、何時間もぐっすり昼寝できるわけもなく。そろそろ夕方という頃に目が覚めた私たちは……。 「……あんなに、発散したのに」 『仕方ない、ですよ。ずっと煽られ続けてるし……』 昼間でもなくならない人通りの中、すっかり発情してしまっていた。深夜に、朝方に、あれだけイって発散したのに、半日でこのざま。性欲がぜんぜん収まらない。 だけど、確かに仕方ないのだ。そもそも恥ずかしくて興奮を誘う仕打ちの中に常に囚われ続けている上に、それを駅前広場という特に人通りの多い場所に設置されて見られ続けている。こんな環境、興奮するなという方が無理があった。 『…………つけて、もらえませんか……?』 「ん……私にも、ください。一緒に……ひぁ」 ただ、だんだん分かってきてしまっている。そんな中ですら、一番恥ずかしいのはお互いに玩具をねだることだった。同じ趣味で興奮がわかるからこそ、わかる相手に欲しがるのがいやに生々しい。ねだる側ももちろん、ねだられる側もどのくらい溜まっているのかが容易に想像できて。 だけど、わかる分だけ自分の方は好きなだけねだってほしいという気持ちにもなる。逆だと恥ずかしすぎて我慢したくなるのだから、やはり本当に性格が悪い仕掛けだった。 それでも我慢できなくて、切り出してくれたのをいいことに私も欲しがって……待ち切れないとばかりにクリのローターをつけてくれる。私も負けじと膣のバイブをつけて、そのまま私はアナルプラグ、Bさんは乳首ローターを追加してきた。ちょうど深夜の真逆となる形だ。 我慢なんてきくはずもなく、喘ぎ声を交換しながら貪り合って、相手の性感帯を直に弄ってあげているのと似たような錯覚を感じながら気持ちだけでも繋いでいる右手をまた握って。だけど、そうして登っている最中に、つけっぱなしにしている環境音から聞こえてきた。 『あ、今日から変わってるのね』 『すごいポーズだね……そんなに見られたいんだ、二人とも仲良くなれそう』 『今回の可愛くて好き。中の子もかわいいんだろうなぁ』 『採寸のとき見ましたけど、かわいかったですよ』 『へっ、』 「も、もしかして、動画のっ」 聞き覚えのある声たちだ。ひとつを除いて、会員動画によく出ている三人のマゾの子。中でも憧れのアナさんから仲良くなれそうなんて言われてしまっている。 そのくらい大胆なポーズだと実感させられる。……私ので感覚が麻痺しているけれど、膝立ちのBさんも股の開き具合はなかなかなのだ。 そんな三人だけでも、それこそ推しに見られたような感覚なのに。それで見られたのがこの金属像姿な時点で、常人は一生味わうことのない感覚に曝され続けているのに。 やはり最後の一人、さっきも見てきていた少女は看板犬のコムギさんだった。彼女になら採寸を見られているから間違いない。……あのときは向こうがヒトイヌで、恥ずかしさは逆だったのだけど。 だから、中身まで完全に認識されている。その恥ずかしさは、ちょっと他の比にならなかった。 『……じゃあ、そのまま存分に楽しんでね』 『あたしもまたやりたいなぁ、これ』 『私も。頼んだらまた出してくれないかしら』 『よかったらまた来てくださいねっ。サービスしますから』 『……だ、め、いく、いっちゃう、いく、いくいくいく』 「ぁっ、……ぁ、うぁぁぁ……!」 さすがに、だめだった。最後の最後で舐めていたのだ。完全に覆い隠された彫像の中で、中身まで見透かされて見られるのは。あまりにも、恥ずかしすぎる。 そして私たちは、それが大好物だったから。深く深く絶頂して、それでも収まらずに玩具を止めないまま貪り続け合ったまま……また明日も見に来てくれないかと、本気で願ってしまっていた。