ヒトペット広場のカートから
Added 2024-11-14 13:02:42 +0000 UTC本当に満たされるのだろうか、と溜息。期待半分、不安半分だった。 私は元々むっつりの自覚があって、それも拗らせてしまったのかあまり普通でないものに興味を持ってしまっていた。具体的にはいわゆるSMプレイに興味を惹かれる傾向にあったんだけど……そこからが私の面倒くさいところだった。 SMというか、主従関係のようなものには憧れるのに、厳しくされるのはあまり唆らない。恥ずかしいのは好きなのに、痛いのは少し苦手。……自分でも好き嫌いがひどいと思う。 だけど、何も自分がそうだからといって、プレイ相手以外の付き合いまでぴったり趣味が合う必要はない。SNSで知り合った何人かの仲間たちとはそれぞれ少しずつ趣味が違いつつも、お互い妄想やら猥談やらを時折楽しんでいた。 風向きが変わったのは、ミスト・スランバーが郊外に『プロジェクト・ヒューマンファーム』を設立してからだ。人間を家畜として飼育して遊びつつ、それを見世物にもしてテーマパークとして成立させるというもの。最初に聞いたときには上手くいくと思えなかったものだけど、いい具合に軌道に乗っているというのだから驚きだった。 それ以来、そういう家畜プレイ……馬や牛なんかの扱いが好きな人たちは、だいぶ様子が変わった。一部は本格的にそこで家畜として過ごしているようで、仕事扱いとなるらしいそれの休日以外にはそもそも来なくなった。そうでない人でも、時々アルバイトとして家畜になったり、客として何度も見に行ったりしていてその話をよくするように。 だけど……私は話を聞いたり姿を見て楽しむことはできても、自分がそうなりたいとは微妙に思えていなかった。少しだけ、違うのだ。私がなりたいのは家畜ではない。 そう思っていた人は、もしかすると多かったのかもしれない、ヒューマンファームが開園してから半年ほど、新たな風が吹くことが判明した。 私はヒューマンファームの敷地内、“牧場”の隣にあったエリアを訪れていた。ミスト・スランバーが告知した『新プロジェクト』の舞台がここなのだ。 これのプレオープンが行われると聞いて、私は迷わずチケットを取った。もしかしたら、ここが期待通りの場所だったら、私の趣味も満たされるかもしれない。その期待が強くある。 プレオープンは通常通りのオープンに備えて、不備があっても気にしない人向けに仮開園を行う期間なのだけど……ここではそれに加えて、グランドオープンに向けてまだ“足りない”ものを募集する場でもあった。それは前提情報さえ知っていれば、どんなものを求めているのかはすぐにわかる。 「……よし、行こう」 この区画……『ヒトペット広場』にはいろいろと区域と用途があるけど、大きく分けると二種類の楽しみ方がある。ひとつはペットと戯れること、そしてもうひとつはペットになることだ。 戯れるほうは比較的想像しやすい。一緒に遊んだり、散歩したり、お世話をしてやったり、躾をしたりする。その対象がヒトペット、つまりそれを望んだ人間であるところだけは特異的だけど、その上で楽しみたい人は求められることは本物の犬猫に対する扱いと同じだ。 こちらの想定客層はたぶん、自分と同じ人間が自分より明確に不自由な下の立場に置かれているのを見て、それを操ることができて楽しめるサディストたち。一応着ぐるみの用意もあってえっちなことを前提にしない、動物アレルギーの人が本物のペットとのような戯れを疑似体験する使い方もできるようだけど……そういう人たちはきっと、ここの情報を聞きつけてここまで来ることが難しいと思う。 そしてペットになるほうは……訪れた客こそが、ペットになって楽しめる。いくつもの種類から選んで、一般人が揃えるには骨が折れるような器具もある環境下で、思う存分非日常的な遊びに耽ることができるのだ。 私は今日、こっちを試しに来ていた。 「ヒトペット広場へようこそ。飼い主プランとペットプランがございますが、どちらのプランをご希望ですか?」 「……ペットプラン、で」 「かしこまりました。プレオープン中はご指名はできませんので、ご了承ください。……では詳細をお伺いしますので、3番のお部屋へどうぞ」 少なくとも多くの一般客にとって牧場エリアはただテーマパークとして楽しむほうがメインだけど、こちらは基本的には一対一での接客となって風俗店のような形態を取る。かなり性質が違うこともあってエリアの入口はゲートで一応仕切られていて、二つのプランのうちどちらを選ぶか、あるいはそもそもヒトペット広場に入ることに間違いはないか、まずは受付の人が応対する形になっていた。 ただ、ここはあくまでゲートだから本格的にサービス内容を決める場所ではない。どちらのプランで入場するかだけを決めて、具体的なことはそれぞれ個室対応になる。……まあ、相当恥ずかしい内容も飛び交うものだから、閉じた空間で話ができるのはとてもありがたい。 「改めまして、お客様を担当させていただきます津島と申します。よろしくお願いいたします」 「よ、よろしくお願いします」 「さっそくですが、お客様のことをお呼びする際のお名前などがありましたら、ぜひお教えください」 「……ペットとして、ということです、よね?」 「はい。……とはいえ、人間としてのお客様のこともそうお呼びすることもできますが」 「じゃあ……ペットのときだけ、サチと」 「かしこまりました」 個室で迎えてくれたのは優しそうなお姉さんだった。思っていたよりも普通の服装、というか受付さんと同じ制服だけど、資料ではいろいろな衣装があったはず。それも客に合わせて着替えるのだろうか。 まずはサービス、というかプレイの内容を擦り合わせるところからなんだけど……いきなり奥の方にぞくりとくる思いだった。私の心の準備が足りないだけかもしれないけど、あくまでコース選択だけだった受付と違って、私がこれからペットになることを前提とした会話だから。「人間としてのお客様」のあたりで、こう、思い知らされてしまった。 とはいえ、これは用意してきていた。本名の一部を切り取って捻ったものを伝えて、そのまま進めていく。 「まずは、どのコースをご希望になるかを決めていきましょう。こちらに一覧がございますので、ごゆっくりお選びくださいませ」 当然といえば当然なんだけど、なれる、または触れるペットにはいくつも種類がある。それ自体は事前情報で知っていた。津島さんは最初にそれらの一覧、つまりメニュー表を渡してくれた。 さまざまな動物の名前が、牧場よりもライトに楽しめることを強調するためかひらがなで書いてある。横には参考になるような写真も添えてあって想像しやすい。 たとえば、定番といえば定番の「いぬさん」と「ねこさん」。ミスト・スランバーの動画会員なら見覚えのある「うさぎさん」に「へびさん」もあるけど、訓練が必要ということなのか「いるかさん」は用意されていない。 牧場にも家畜体験は存在するのだけど、もっと軽く、または格好だけでも試すことができるらしい「うまさん」「うしさん」「とりさん」「ぶたさん」。それ以外にも、ミスト・スランバーを見ていても初めて見るものもいくつもあった。「かんがるーさん」とか「ぺんぎんさん」とか、凄い発想だ。写真を見てもよくわからないのに、興味は惹かれてしまう。 「……正直どれも興味あるんですけど、完全に初体験なので……『いぬさん』にします」 「かしこまりました。『いぬさんコース』ですと、こちらの場所でお楽しみいただけますが……」 「とりあえず、『ペットホテル』でお願いします」 「ペットホテルですね。時間内であれば途中変更が可能ですので、いつでもお申し付けください」 ヒトペット広場にはペットプレイが最大限楽しめるよう、けっこうたくさんの区域が存在する。シンプルに個室で担当の“飼い主さん”と二人きりになれる「ペットホテル」はもちろん、他のペットや飼い主プランの人とも戯れることができる「ふれあい広場」、檻の中に入ってただ見られることができる「動物園」、特殊な環境と格好で運動できる「ペットラン」などなど。 たぶんスタンダードなプレイは経験がある人やチャレンジャーな人はいろいろな組み合わせで遊ぶのだろうけど、私は初めてな上に正直ビビりだから一番普通なものにしてしまった。……他のものも、興味はすごくあるんだけど。 「移動はいかがいたしましょう?」 「……せっかくなので、ペットカートで」 「ペットカートですね。……ではさっそくですが、この場でペットに変身なさってしまいましょうか」 「はい、よろしくお願いしますっ」 ここでは先にペットになってから移動することも、人のまま目的地に向かってから違う姿になることもできる。中でもペットになってからの移動法には種類次第とはいえいくつか種類があるんだけど……せっかくのヒトペット広場だから、そのくらいはしっかり楽しみたいと思った。ペットカートに乗せられて広場を横切ることができるから、それにしてみる。 ただ、そうするということは、ここでもうペットに、「いぬさん」になってしまうということ。私は一度深呼吸をして、アブノーマルなプレイに飛び込む覚悟をした。 まずは「飼い主さん」の服装を指定できるのもここの特色だ。制服のままということももちろんできるけど、他にも牧場でも見かける飼育員の作業服やSMチックなボンデージ衣装もある。 だけど、私はそこで普通の洋服をお願いした。あくまで普通のペットとして、普通の飼い主に飼われるようなことをしたいとずっと思っていたのだ。 普通のものだから着替えもすぐに終わる。季節に合わせた普通の、それこそ牧場エリアや飼い主プランの客に紛れるような服に着替えた飼い主さんは、胸元に小さな名札があったりはするものの遠目には見分けがつかない。 だからすぐに私の番になった。ペットになる以上、少なくとも人間の普通の服なんて着ていることはできない。まずは、脱がないと。 「…………脱げました」 「では、お洋服はこちらでお預かりしますね。人間にお戻りになる際にお返ししますので、ご安心ください」 そして……コースによって種類数にブレはあるけれど、ペットにも着るものや着けるものはいろいろ選べる。中でも「いぬさんコース」は選択肢が多い。 今回はここもシンプルに、裸に首輪と革のヒトイヌ拘束具にした。たくさんあるオプションからは、耳と尻尾は選択して……とりあえず、それだけ。そんな格好で広場を通るのに顔をそのまま出すのは少し勇気が必要だったけど、ここには趣味の近い人しかいないのだ。それに同行者以外の写真撮影は、許可マークのついている客に限られる。私はそれをつけるつもりはなかった。 「順にお付けしていきます。こちらに四つん這いになられて、なるべく力を抜いていただけると幸いです」 「はい……」 室内に用意されたマットの上に、裸のまま四つん這いになる。……お尻も突き出してしまっていてこれだけで恥ずかしいけれど、これはただの準備。それに、今日はとことん恥ずかしさを楽しみに来たのだ。 四肢をひとつずつヒトイヌ拘束具に畳んで固定してもらう。手と足も袋に入れられて、背中でクロスした形でベルトどうしを繋がれてしまったから余計な可動域もない。……慣れた手つきの津島さんの手で、たった数分であっさりできてしまったけど、もう私は二本足で立つことすらほぼできない。ぎちぎちと鳴って固定してくる拘束具が、もう始まっているのだと伝えてくる。 「お尻も失礼いたします」 「ん……っ、は、ぁっ……!」 頭には犬耳のカチューシャを装着されて、丸出しのお尻のほうへ回られる。恥ずかしいところも全部見えているだろうから暴れ出したくなってしまうけど、これも自分で選んだオプションだ。 希望すれば腸内洗浄までサービスしてくれるそうだけど、私はちゃんと来る前に綺麗にしてきた。一人遊びだけど最低限触ったこともあったから、解せば初心者向けの細いプラグはあっさり入ってくる。 とはいえ、お尻にモノを入れたのは初めて。思っていた以上の異物感に身動ぎが止まらず、落ち着くのを待ってもらうことになってしまった。 なんとか慣れ……てはいないけど受け止められるようになってきたから、尻尾もいったん完成。津島さんは正面に戻ってきて、貸し出し品の首輪を見せてくれる。ただし外側ではなく、首に触れる内側を。 「こちらを締めている間、お客様はいぬさんのサチちゃんとなります。また、セーフワード以外の言葉ではお止めいたしませんのでご注意ください。……セーフワードについては、ご希望があれば」 「いえ……特には」 「では、『ウェイト』とでもいたしましょうか。お覚えになっておいてくださいませ」 「わかりました…………っ、ん」 このタグ付きの首輪がペットの証で、人間のお客様であるかペットであるかを区別するものとなる。これを嵌められている間、私はペットとして扱われる。遠慮のない言い方をしてしまえば、人権も尊厳も一時的になくしてしまうことになる。 それを承知の上で、セーフワードを覚えてから私は首を差し出した。津島さんはそこにそっと首輪を巻き付けて……びったり密着するところで、装着して留めてくれる。 「……サチ、苦しくない?」 「ん……わん、っ」 「よかった」 途端、津島さん……ご主人様の雰囲気ががらりと変わった。さっきまではどうしても丁寧さが先行するスタッフさんだったけど、今はプライベートな愛犬に対する飼い主の女性だ。 首輪の外から首筋を撫でながら具合を聞いてくれる。私は最初から心の中で決めていた通りに、人間の言葉を使わずに答えた。それが伝わったのだろう、ご主人様は優しく頭を撫でてくれた。 「じゃあ、ペットホテルに行こうね。このカートに乗って行けるから、安心して」 「わ……わんっ!」 「おお、乗り気だね。これ、楽しみ?」 「わふっ」 ペットカートは本物とよく似ているベビーカーに似たもので、大型犬用とばかりに人間でも乗れる大きさ。どうやら乗せやすくする補助具はあるようだけど、今は取り外されていた。 腋の下に手を差し込まれて、抱え上げられて載せられる。私は女の中でも軽い方だとは思うけど……それでもこんな持ち上げ方をするほどではない、と思っていたんだけど。何かコツとかあるのかもしれない。 ふかふかのシートに座って、意外と広い中でくつろいでみる。シートは撥水性のようだから、びしょびしょになった股を触れさせても大丈夫そうだ。 「……わ、ぁ」 「なかなか独特な景色でしょ。このまま運んでいくから、大人しくしててね」 前方以外はひさしで覆われていて、外を認識できるのは前だけ。その前もこんな格好で足が地についていない上でけっこう高くて、自分が行動の自由から離れていることを実感させられる。まさにカートの上という感じで、車椅子のような人が乗る前提のものとはあまりに違う。 しかも柵のような扉を閉じられたから、もう飛び降りることすらできない。そのまま動き始めると、私は運ばれているんだ、という実感が強まってきた。……これ、癖になりそうだ。 私物を下段に載せてもらって、ペットカートを押されて外へ出る。さっき人間として歩いてきた廊下をこんな格好で進んでいるというだけで、なんだかクラクラしそうだ。 後ろからは足音と、息を飲むような気配。他の客が通りかかっているようで、しばらく同じ方向へ歩いていた。私そのもののことは見えないにしても、ペットカートに乗っている客がそこにいることくらいはわかっただろう。 途中で脇の扉が開閉する音がして足音はひとつになったけど、お互いに顔も声もわからなかったその人はここでどんなプレイをするのだろう。想像してもわかるはずはないけど、向こうは向こうで楽しめたらいいな、とも思う。 「あ、っ……」 「こんな場所でも、人のいるお外で恥ずかしい格好するのはやっぱり違うでしょ。でも大丈夫、ここではこれが普通だからね。心置きなくみじめになろうね?」 「ぅ……! わ、わん……っ」 やがて建物の外に出て、一気に視界が開けた。薄いひさしが太陽に照らされて、裏側からも明るくなったのがわかる。……外から中は見えない透明なドームの中とはいえ、頭も体もここは外だと感じてしまう。 しかも、前方には広場があって、そこには人もたくさんいるのだ。それどころか、私と同じかもっと恥ずかしい姿をしたペットたちも。ペットカートも、悩んでやめた他の運搬手段もちらほら見える。本当にここは、これが当たり前なのだ。 もじ、と腰を揺らしてしまったのは、ご主人様に伝わるのだろうか。でも、我慢できなかった。あまりの背徳感にうずうずしてしまって、割れ目とシートの間ですら明らかな水音がしているくらいだから。 しかもそよ風まで裸体に感じて、ぴんと硬くなった乳首を自覚させてくる。人工の風らしいけど、これがまた本当の屋外のように感じる原因のようで。 「こんにちは。そちらは……」 「ああ、こんにちは。うちのペットで、サチといいます。……ほら、ご挨拶は?」 「わ、わんっ……!」 実はこの移動中にも選択できる要素がある。共有スペースにいる間、他の客やスタッフが声をかけていいか、というものだ。 私は可の表示をペットカートにつけているから、通りかかった他の客らしき人が話しかけてくれた。……ペットとしての痴態をミスト・スランバーのチェックを受けている似た趣味の男性客に見られるのが嫌なら、カートの前方も閉じるようにお願いしている。どうせ今の私はペットだ。 「可愛い子ですね。今日はどちらへ?」 「初めての子なので、このままペットホテルに」 「なるほど。……たくさん楽しんでね、サチちゃん」 「わん……っ」 「んぐ、ぅ……」 よく見ると手には足元へ繋がるリードを持っている、男子大学生くらいの人。優しそうというか、なんだか慣れた感じの態度だった。おすわりのような状態の私にも目を合わせて、恥ずかしがりもジロジロ見たりもしないでくれたから、ぐっと頭を差し出してみる。……優しく、まさに犬にするように撫でてくれた。 足元にいるのはどんなペットなんだろう。高さがないということはうまさんやうしさんではないだろうけど、それ以上は猿轡をつけているらしいことしかわからない。だけど向こうからも、鳴き声で犬とはわかるにしても私のことは見えないのだ。 お互いにペットだからこそ情報が得られない。そんな細かなところで「飼い主と違う存在なんだ」と突きつけられている。それが深く刻み込まれただけで、こうしてペットカートを使ってよかったと思えた。 それからもたくさんの人にカートを見られて、何人かには声をかけられて、カートの中まで見られたりもしながらゆっくりと広場を横切った。私が癖になっていることを見抜いてくれたのか、わざとらしくゆっくり、遠回りの散歩道に沿って練り歩いてくれたのだ。 次があったら絶対、もっと見てもらえるようなものにしようと心に決めて。やっとペットホテルに着いた頃には、愛液の垂らしすぎで水をねだってしまうほどだった。だけど断られてしまう。 「部屋に着いたらあげるから、いぬさんらしくできるようにちょっとだけ我慢しようね」 「……? あ、わんっ!」 「いい子」 すぐに意図がわかって、勢いよく返事をしてしまう。がっつきすぎかとも思ったけど、ご主人様はたくさん頭と頬を撫でてくれた。道中で私が撫でられるのが好きらしいと気づいてくれたらしい。 そういうことなら、わたしも“いぬさんらしく”したい。だから部屋の中に着くまで待つことにして、ペットホテルのロビー。 「いぬさん用を一部屋お願いします」 「はい。206号室へどうぞ」 ペットホテルといっても飼い主と一緒に入るものだし、そもそもそのペットもヒトペットだ。ある程度ペット向けに内装などを用意されている一方で、大枠の作りは普通のホテルのよう。……生々しいことを言うようだけど、これだけなんでもあるのに今回の私のコースだと性風俗にしてはやたら安い。原則本番なしとはいえ、それで回るのなら私たち客にとってはありがたいことこの上ない。 待機スペースで戯れるペットたちを横目にロビーを抜けてエレベーターホールに。……なんとそこにはオブジェとして設置されている子がいたんだけど、これ、どうやら特殊コースの客らしい。見とれているうちに目が合ってしまって、そのまま見つめあってしまった。 ペットカートは階段を上れないから、二階でもエレベーターを使う。居合わせたこれまた他の客、開脚拘束でぴょんぴょん跳ねる“うさぎさん”と一緒にエレベーターに乗り込んで、二階で私たちだけが降りた。 そこからはさすがに静かだ。部屋は防音になっているから、使われている部屋でも漏れ聞こえてきたりはしていない。そのまま206号室に入ると、土足禁止の室内への玄関部分でペットカートが止まる。私は靴を脱いだご主人様の手で上がり框の上に降ろされた。 「こっちだよ。ここからは自分で歩こうね」 「はふ……わんっ」 カートの中を拭き終えたご主人様にリードを握られると、思っていた以上に高さに差があるのを感じる。縦に伸びているリードの分、これが飼い主とペットの差なのだと思うと、どうしてもぞくりときてしまう。 慣れない四足歩行でそこから歩くのも、想像なんかとは比べ物にならないほど屈辱的。それがまた興奮を誘って、もっとされたくなるのだ。どうしても遅くなってしまうのを、ご主人様はじっくり待ってくれるから余計に。 「ラストスパートだよ。ここまで来れたら、ご褒美」 「わぅ……っ! わふ、くぅん……!」 部屋は普通のラブホテルにある程度似ていて、ところどころがペット向けになったようなもの。そんな部屋の入口に私を置いてリードから手を離したご主人様は、棚から餌皿を、冷蔵庫から水を取り出して注いだ。それを床に置いて、その奥に座って腕を広げる。 つまり、あそこまで自力で歩けば、いぬさんらしく皿から水を飲むことができるのだ。欲しくてたまらなくなってしまった私は、間抜けさなんてお構いなしに恥を晒して歩き始めた。だって、それが一番気持ちいいんだから。