作:時遊人 優
イラスト:ひゅー
「ククククッ♪」
咽喉を鳴らして笑う声。敵の強烈な破壊力に戦慄するランの内耳に転がり込み、漆黒のバイザーは慌てて声の主を見た。
下層民を睥睨するように、風格を見せつけるような佇まい。一度は圧倒され、逃げ帰るという屈辱を舐めた憎き敵、ゲキイエローを子ども扱いできる。それほどの強さを取り戻したという事実が、蟻の怪人を真の『女王』に押し上げてしまった。
このままでは、嬲り殺しにされてしまう。どうにか立ち上がろうと両手に力を籠めるランを見下ろしながら、リアは言葉を継ぐ。
「ゲキスーツとは、其方が纏っている黄色くて脆い玩具と薄膜かや?その程度の装備を頼みにしておるとは、ゲキイエローとやらも底が知れておるわ。
もう暫く寝ておれ。その暇に更なる数の娘どもを街で攫い、妾が真の力を見せてくれようぞ」
「んなッ!ぜ、絶対に、そんなコトは…」
させないッ!例え、この身が滅びようとも、激獣チーター拳の使い手として、目の前の蟻怪人を止めなければならない。
激痛に軋む身体を叱咤し、どうにか立ち上がるラン。文字通り挑発に乗った格好だが、そうでなくても戦わない訳にはいかない。これ以上、若い女性たちが喰われることのないように。
「そうか、未だ頑張るか。それでこそ、ゲキイエローを宣う小娘よ。で?今度は、ど~んな玩具が出てくるのか、楽しみじゃのぉ」
クツクツと嘲笑いながら、ランから奪ったゲキトンファーを地面に投げ捨てる蟻の怪人。両手を掲げ、挑発するように胸板を無防備に開く。
「くうぅ…馬鹿にして…ゲキハンマーッッ!!」
岩窟の中とは言え、ここの広さがあれば、十分なパワーを発揮できる。ゲキトンファーが通用しない今、ランが繰り出せる技は、これしかない。
左の黄色いグローブで緑の持ち手をギュッと握り、右手でチェーンを繰り、漆黒の鉄球を猛然と降る。そして…
『ゲキワザ……弾弾丸(だんだんがん)ッッ!!』
この技なら、あの硬い胸甲を破壊できる筈。そんな強い思いで、ゲキイエローは鉄球を発射した。
轟々と空気を貫きながら、蟻の胸板に迫る漆黒の鉄球。それを平然と見るリアは…
「ふんッ♪」
鼻で笑った?そして、避けようともしない。
ガンッ☆!
「くッ…」
鉄球を易々と受けとめ、握り締めてしまう。更に腕力に物を言わせてキュッと引き…
「あッ!?」
チェーンデスマッチの如く、ゲキイエローの方が一気に引っ張り込まれてしまった。小柄な肢体は弾丸の如く飛び、女王蟻の面前に迫っていく。
だが、ランとて心の準備は出来ていた。なにせゲキトンファーの攻撃が全く通用せず、あまりのスピードで動きが見られなかったのだから。加えて右足首を噛まれ、プロテクターもシューズも破損しているランは、自分の脚力ではもう敵に勝負を挑めない。
そう…リアがチェーンを引くことまで読み、女王蟻が誇るパワーを利用しようと考えていたのだッ!
『ゲキワザッ……打打弾(だだだん)ッッ!!』
真の勝負は、ここから。そんな渾身の力を籠め、黄色のグローブを一気に繰り出す。
「はぁあアア゛ッ!」
残像を見せるほどの、猛スピードのパンチ。撃ってこいとばかりに立っているリアの顔面に、黄色の拳を次々に叩き込む。
ガンガンと鳴り響く、パンチの打撃音。だが女王蟻の怪人は…
パシイィ…
「そん、なッ…」
…避ける必要すらないとばかりに、黙ってパンチを撃たせていた。そして最後は、易々と拳を掴み止めた。ゲキイエローの必殺技は、スピードとパワーの両面において、全く通用しなかったのだ。
両の拳が、ミシミシと軋む。黄色の特殊グローブに女王蟻の指が食い込み、そこから伸びる鋭い爪がゲキチェンジャーが構成する手甲のプロテクターにピキピキと亀裂を走らせていく。
ここまでくれば、攻撃が通用しないなどという生易しい話ではないと悟る。何せ握られただけで頼みのゲキスーツが、硬質なプロテクターもろとも破壊されつつあるという、絶望的なシチュエーションなのだ。
「んぅ゛ッ・ぅ゛ぁァ゛・ぁ゛~~~ッ」
弱々しいランの呻きが、艶やかな黄色のマスクから漏れる。パワーの差がありすぎ、更に右足を負傷して踏ん張れない彼女は、捕まれた手を振り解く術がない。
「ふむ、色々な技があるのぉ。流石はゲキイエローと言っておいてやろうかなの。もっとも、妾から見れば全て児戯みたいなものじゃが。んで…」
言葉を切り、女王蟻は右手を、つまりランの左手を、己の面前に引き寄せた。左足を踏ん張り、腰を引いて逃れようと試みるゲキイエローを、嘲笑うように。
マジマジと見つめるのは、艶やかな黄色のスーツが守る前腕に、手首から手甲を守る硬質なプロテクター。ランの拳を握ったまま至近距離で観察し、口を開く。
「ゲキスーツと言うたか?布切れの方は脆すぎて笑うしかなかったが、こっちはソコソコ硬かったように覚えておるぞ」
「うぅぅ゛ッ…やめッ…私のゲキスーツは玩具じゃ…」
遊ばれている。そう痛感せざるを得ない。そんな、怯えすら見せ始めたランの面前で、リアは牙を紫色に輝かせ…
「せっかく新たな技を見せてくれたのじゃ。妾も技を出さねば失礼よのぉ。と言っても、其方のように種類は無いから、同じもので我慢してくりゃれ」
「や、や、やめッ…」
黄色いグローブを守るように装備している硬質なプロテクターを、リアの牙が甘噛みするように咥えた。刹那にピキッと高い音が鳴り、亀裂が走る。
漆黒のバイザーに、黄色いマスク。表情など一切分からぬ激獣チーター拳の使い手だが、瞳を恐怖に潤ませ、口をパクつかせていることは容易に想像できる。何せフルフェイスのヘルメットがヒクヒクと痙攣し、口元の黄色いフィルターからハフハフと荒い呼吸だけが聞こえてくるのだから。
「くふふッ♪ゲキスーツとやらでコーティングした手…実に美味そうじゃ。ど~れ?」
「ひゃめッ☆!」
『リンギ……顎穿断(がくせんだん)』
落ち着いた、低めの声。それが耳に届くのと、左手のプロテクターに食い込んだ牙がパアッと紫の輝きを広げるのは同時。そして…
「ひゃぎぃあア゛ッ☆!ひゃめへえ゛ッ!てぇッ・へぇ・があア゛~~~ッッ☆☆!!」
仰け反り、腰を引き、黄色のシューズを左足だけズルズルと滑らせ、チーター調のフルフェイスマスクをブンブンを左右に振って絶叫する。その左手では硬質のプロテクターが激しくスパークし、同時にバリバリと不快な破壊音を奏で、破片を散らしていく。ばかりか黄色いグローブ革もビキビキと裂け、残骸が舞い散る。
頼みのゲキスーツが、硬質なプロテクター共々まるで役に立たない。女王蟻の牙を前にすれば、全てが脆い玩具。それを思い知らされ、手首の骨を砕かれ、激痛とショックで変身したまま泣き叫ぶ。
バンッ・バンッと、左手のゲキチェンジャーが断続的に火花を散らし続ける。最初は叫びながら逃げようと必死だったランも疲弊し、徐々に動きが鈍ってくる。
「ふ~む、ゲキスーツとやらは硬いプロテクターでも、この程度か。激獣拳の小娘よ、こんな玩具を頼りに、其方はゲキイエローなどと宣って妾に歯向かうなどという罪を犯したのかや?」
バキバキに割れ、原形を留めなくなった左手のゲキチェンジャーと装甲。ランの左手を守っていた、ボロボロに裂けた黄色いグローブとスーツ。シュウシュウと煙を立ち昇らせる無残な様子をマジマジと眺めながら、静かに語るリア。
その視線が上向き、漆黒のバイザーを愛でるなり、ランは『ひッ☆!』と悲鳴を上げて首を振る。掠れ切った涙声で、しきにり『やめて・許して』と呟く。そんな彼女の頬へ手を伸ばし、女王蟻は言葉を継いだ。
「ほう、許してほしいかや?健気なものじゃのう、ゲキイエローとやら。漸く其方が犯した深き罪を、理解したか」
あらゆる必殺技が通用せず、頼みのゲキスーツは力任せに掴まれるだけで軋み壊れる。噛まれたら最後、中に入っているランの肢体とて無事には済まない。
もはや戦意などない。無様に怯え震え、助けを乞うばかり。そんな彼女の黄色いヘルメットが守る頬を両手で押し撫で、抱き寄せるように凶悪な顔を迫らせ、女王蟻はジックリとゲキイエローの表情(と言っても無表情な黄色いマスク)を、眺め回す。
「そうか、そうか。妾が恐ろしくて、もう動けぬか。このような仮面で素顔を隠し、ゲキイエローなどと頑張っても、やはり小娘よのぉ。
どれどれ、このチーターみたいなマスクは、もう不要じゃろう?そろそろ其方の、哀れな泣き顔を見せてもらおうかのぉ」
棒立ちのゲキイエローなど、変身ヒロインのコスプレをした小柄で華奢な乙女に過ぎない。今のランはゲキイエローに変身していようとも、耳を模した頭部の突起や額の模様、口元をゾリゾリと撫でられても、怯え震えていることしか出来ない。
ゾロリと生えそろった紫色の牙が、漆黒のバイザーに映り込む。口を開いたリアがランの左目付近を噛むなり、ピキピキッと悲痛な音が響き、黄色や黒の破片がパラパラと舞い落ちる。
今度は顔を噛まれる。そう覚ったとて、赤子のように硬直したまま動けぬラン。今さら必殺技も無かろうが、敢えて、きっとゲキイエローとなっている美乙女に恐怖を与えるため、女王蟻は耳元で囁く。
『リンギ……顎穿断(がくせんだん)』
バキイィッ☆!バキバキッ☆!ズバンッ☆!
装備の中で最も頑丈と思われる、フルフェイスマスクが破壊されたとて、もう驚かない。遂にここを壊された。そう思うばかり。
漆黒のバイザーを通していた視界に、鋭い牙が直に入り込んだ。頼みのフィルターにビキビキと亀裂が入り、並び立つ眩い蝋燭の光がダイレクトに差し込み、瞳を眩く照らす。
バチバチと火花が散り、バキバキと砕け飛ぶ黒色のフィルターと黄色の硬質なマスク。銃弾をも跳ね返す艶やかなヘルメットを甘い砂糖菓子のように噛み砕き、バリバリと味わいながら嚥下する異形の女王蟻怪人。あっという間に、ゲキイエローとなっているランの、左目付近が覗けるようになってしまった。
「ほほッ♪出てきおったな、激獣拳の小娘。ゲキイエローなどと宣っておる其方の、怯えた顔がよ~く見えるぞよ」
左半分が砕け散り、瞳回りが露わになったことで、リアはランの素顔を覗き込んでいる。涙で潤んだ瞳や、蒼ざめた美貌を。
シュウシュウと吐き出す荒い呼気が、口元を覆う黄色のマスクを濡らす。女王蟻の手から脱出しようという力すら出ず、激獣チーター拳の乙女は呆然と、目の前の怪物を、己の目を守るバイザーすら失った状態で直視させられる。
「なかなか良い感じに仕上がったのぉ、ゲキイエロー。小生意気な其方をタダの娘に堕とす…狙い通りじゃわい」
「なッ…ね、狙い、どお、り…ひッ☆!?」
肢体をクルリと回され、背中から抱き着かれた。黄色いフルフェイスマスクの上部にある突起を掴む形で頭を横に傾げさせられ、右の首筋を大きく開かされる。
黄色いアウターと、硬質な黄色のマスクを繋ぐ、白い特殊繊維で守る首筋。そこを鋭い爪でツイッと撫でられるや、ランは全身の血液が凍り付くほどの恐怖を味わってしまう。
「ゲキスーツと言うたかのぅ、この薄い布切れは?妾から見れば、娘の柔らかな首の皮膚と、さして変わらぬ風に感じるがのぉ」
「ひゃ、ひゃめ…許ひへッ…」
「ほほッ♪健気な女児じゃ。ゲキイエローなどと宣う娘の、実に美味そうな身体…もっと怯えよ、もっと恐れよ…心の底から慄き震える其方の、若さと恐怖の交じり合った生気こそが、最高の馳走なのじゃからのぉ」
腋の下から通された右手が、ランの右胸をギュッと握った。ゲキスーツなど単なる服と変わらぬと言わんばかりに黄色の強化繊維を撓ませ、爪を深く食い込ませ、優美な胸の膨らみをグニグニと揉み潰してくる。
同時にリアは、左手の爪をバイザーの割れ目に引っ掛ける。頭部をスッポリ包む黄色いヘルメットを頂部から握り、眉の上に広がる黒焦げた破損部を爪で掴み押さえ、更に1本を内部まで潜らせる。
「くくッ♪自慢のゲキスーツとやらも、こうなってしまえばリンシーからすら己を守れんぞ、小娘?ほれ、綺麗な顔が…」
ゾリッ…
「ふひッ!」
鼻筋を、バイザーが隠していた素の鼻梁を、指の爪で直に撫でられた。ゾッと蒼ざめて甲高い悲鳴を響かせるランを笑いながら、今度は眉毛を、そして瞼から目尻を弄る。
バイザーを破壊されたから、部分的とは言え素顔が剥き出し。いくらゲキイエローに変身していても、女王蟻の言う通り、ここを狙われればリンシーの攻撃ですら致命傷になってしまう。
「ふふッ♪可愛いものじゃのう、ゲキイエロー。こうやって抱き締めれてみれば、偉そうにゲキスーツなんぞを纏ったところで、街中の娘と変わらぬではないか。
其方も、そう思うわぬか?この胸の弾力…掴み易い小さな頭…そして、柔らかそうな首筋…のぉ?」
「うぅゥ゛…こ、こん…なッ…」
女王蟻はヘルメットの割れ目が軋むほど強く爪を掴み、頭部を更に大きく傾けさせた。そして白銀のスーツ生地を煌かせた、細い首筋を露わにする。
怯え震えるゲキイエローは、強化繊維ごと首を脈打たせる。白銀の生地が波打つ様子に食欲をそそられたか、リアは牙を剥き出し、生温い吐息を吹きかけながら涎を啜る。
「くふぅ~、見れば見るほど、美味そうな首じゃ。この白いゲキスーツとやらは、ど~んな味がするかのぅ?」
「やめッ…ゲキスーツは食べ物じゃ…」
身じろぎしようとするラン。だが黄色いヘルメットは痙攣するばかりで、敵の手中で完璧に抑えられ続ける。硬質な顎は斜め上に反り、生地の張った白い右の首筋へ、リアの口がピタリと当てがわれる。
ゲキイエローに変身しているのに、竦み切って動けない。情けないが恐怖に硬直し、そして痛感する。ゲキスーツを頼みにゲキイエローなどと叫んでも、女王蟻を前にすれば強化スーツともども柔らかな乙女の首筋と変わらないと。
ジワリと力の籠る、リアの顎。鋭い牙がズズッと白銀のスーツ生地に食い込み…
「ん~にゃ、食べ物じゃよ。ど~れ、ゆるりと味わうかの。ゲキイエローとやらの、若く瑞々しい、恐怖に染まった生気を」
「ひゃめッ☆!」
ガブウゥゥ…
「んくッ…くぅッ…いやッ…あッ・ぁッ・ぁァ゛…」
(熱いッ!この牙…私の首を…)
プスリと、鈍い音が刹那に響いたのは、白銀の強化繊維が裂けたから。そして、静かに食い込んだ女王蟻の牙が、首筋の皮膚に焼け付くような痛みを流し込む。
恐怖に竦んだまま、痙攣し始めるラン。ゲキイエローに変身したまま乙女のように背後から抱きしめられ、首を噛まれ、生気を吸われている。露わになっている瞳は涙で滲み、視界を霞ませてしまう。
助けを求めるように伸ばされる、黄色いグローブで固めた手。硬質なフルフェイスマスクの中でパクパク開閉する、乙女の口。そして首筋の柔らかな皮膚を貫いた牙は、いよいよ深々と、埋まり込んでいく。
「んひぅゥ゛~~ッ…ぅ・ぁ・ァ゛…ひゃめ、へッ…」
(力が抜けて…もう、ダメ…)
生気を吸われる=生命力を失う。ゲキイエローに変身するほどの強い力を持つから辛うじて生きているが、並みの女性がリンシー化するのも、当然。それを、自らの体験として思い知る。そして自分も、ゲキイエローの姿をしているが、女王蟻の餌でしかないと痛感する。
啜られ続ける、若乙女の生気。みるみる弛んでいく、全身の力。やがて柔らかな乙女の首を噛むように味わっていた女王蟻の牙が離れ、白い生地に刻まれた黒焦げた痕からスウッと煙が立ち昇った時、ゲキイエローは重力に引かれるまま地面に崩れ落ちていた。
「んおぉ~~~ッ!素晴らしい…素晴らしい生気…ダテにゲキイエローなどと宣ったおらぬな、小娘」
頭上から、悦に入ったリアの声が響いてくる。それを聞きながらハフハフと息を吐き、ランは右手で首筋を撫でる。
真っ白な特殊繊維にポッカリ空いた、複数の穴。リアの言葉通り若乙女の柔肌と変わらぬ扱いで、ゲキスーツに牙の痕が残り、黄色のグローブで固めた指がポコポコと凹凸を感じる。
背後では、女王蟻の怪人が禍々しいオーラを滲み出している。よりにもよって激獣チーター拳の使い手たるゲキイエローの生気という、極上の餌を与えてしまったことで、リアは信じ難いほどのエナジーを帯びてしまった。
力が萎え、膝をペタッと折った『女の子座り』の姿勢で震えているラン。ここまで気力を喪失してゲキイエローのままでいられることが、不思議なほどである。
「だ、だ、ダメッ…こ、こんな、のッ…た、た、助けッ…」
プライドも何もあったものではない。手も足も出ず、一方的に嬲られるという恐怖だけではない。ここに留まればゲキイエローとして残している生気を全て吸い尽くされ、リアを更に強大な怪人へ押し上げてしまう。そうなれば、自分が命を落とすだけでは済まない。
形振りなど構っていられない。手を伸ばし、右の黄色いグローブで、地面に転がっているロングバトンを掴む。それを杖にして立ち上がり、破壊された右脚を引きずって逃げる。
その背を、静かに見つめる女王蟻。直ぐに捕まえようとはせず、足を引きずるゲキイエローを、哀れむように口を開く。
「くくくッ♪無様なものよのぉ、ゲキイエロー。妾に畏れを為して、背を向けて、逃げるのか?正義の激獣使いが、聞いて呆れるわ。じゃが…」
言葉を切るなり、女王蟻は牙を擦り合わせ始めた。けたたましい不協和音を岩の広間内に響かせ、周囲に控えるリンシーたちに力を与えていく。
1体、また1体と兵隊蟻が作り出される。そして10体の全てが強化戦闘員となった後に、リアは言葉を発した。
「新たに生まれし兵隊蟻どもよ。其方らを守れなかったゲキイエローなる小娘は、怖気づいて逃げだしたわ。
あの程度の小娘…今の其方らならば容易かろう。兵隊の習いとして、狩りの練習に使うが良い。ジックリ追い詰め、囲み、ゲキスーツなどという玩具が其方らにすら通用せぬことを思い知らせ、妾の下まで引きずって参れッ!」
敢えてゲキイエローに、逃げる時間を与えた。新しい兵隊蟻たちに、狩猟を学ばせるため。
そして動き出す、新生強化戦闘員たち。1体また1体と、急ぐことなく広間を歩み出し、岩窟の外へと向かって行った。
7.ゲキイエロー狩り
金属がキンッ・キンッと高い打撃音を鳴らすのは、杖代わりに使っているゲキトンファー・ロングバトンが岩の地面を撃っているから。続けて響くザザッ・ザザッという鈍い音は、プロテクターとシューズ革を纏めて食い破られた右足を、引きずって歩いているから。
もう走ることも叶わない。とにかく逃げなければ。その一心で、ランは前に進む。そんな最中…
KYUIiiiiiッッ☆☆!!
「ひッ☆!こ、これ…いやッ!」
耳をつんざくような、強烈な不協和音。女王蟻の怪人が牙を擦り鳴らしている、あの不快音波である。
完全装備のゲキスーツがあっても、この異音には耐えられなかった。両耳を塞ぎ、悶え震えるばかりであった。
今や破損した特殊スーツが、音波の毒を易々と体内に侵入させてしまう。それを言えばフルフェイスマスクは部分損壊し、瞳が露出しているのだから、岩壁や天井から反響した音の攻撃をモロに受けてしまう。
骨肉を直に揺るがす、異様な高周波。激しい頭痛に襲われ、吐き気すら催す。それでも今は耳を塞ぐのではなく、岩窟の外へ向かって必死に足を踏み出す。
(あの怪人は、危険すぎる。絶対に、皆で立ち向かわないと…一人で戦ったら、殺されるだけじゃ済まないッ!)
一思いに殺されるならば、これほど恐怖しなかったであろう。だが女王蟻は、ゲキイエローに変身できる若乙女を恐怖のドン底に堕とし入れ、そこから滲み出す極上の生気を啜ることに重きを置いている。殺すのではなく、ギリギリ活かす。そして味わう。
その結果、リアに無用な力を与えてしまう。それが仲間の、そして人々の絶望に繋がってしまう。
逃げるしか、路は残されていない。そんな思いで歩みを進めるランの耳に…
ズザッ・ザザッ…
(追ってきたッ!)
岩窟を飛び出し、森に入って間もなく、聞こえてきた。自分を捕らえようと迫る、敵の足音が。
牙を擦り鳴らす不協和音は、リンシーを強化して、兵隊蟻に変える技。あの広間で若い女性を噛み、生気を吸ってリンシー化していた。つまり、ランが助けられなかった女性たちが兵隊蟻と化し、自分を追ってきている。
「こんなッ…こんなの、ってッ…」
元を辿れば、自分が助け損ねた街の女性たち。だが強化戦闘員となった今は、そして負傷したゲキイエローでは、荷が重すぎる相手。
背後から迫る足音に、右から迫る足音が加わってきた。敵の位置を推測しながらジワリと、軍勢が腕を伸ばすように隊列を広げ始めた。
聞こえる足音を頼りに、逃げ場を左へ求める。敵が自分の位置を捕捉しきる前に射程圏から逃れようと、動かぬ脚を叱咤激励して進み続ける。
「はぁ、はぁ、はぁ…あと少しで、森を…」
鬱蒼と茂る森の木々を縫うように歩み逃げる視界の先に、やや明るい場所が広がってきた。岩窟の辺りは深く落ち窪んだ場所であったことを考えれば、きっと森の入り口に近付いてきたのだろう。
兵隊蟻たちの足音に耳を澄ませながら、どうにか見つからないように進み続ける。遠くから聞こえるザクッ・ザクッと腐葉土を踏む音は、ターゲットを捕らえ損ねているのか広がり気味で、右腕を大きく曲げ伸ばして、すくい取るような動きをしている。
(これなら、逃げ切れるかもッ!)
淡い期待を抱きつつ、木々の密度が一気に下がる、明るい場所へ飛び出すッ!
「ッ☆!?」
破損したバイザーから覗ける左の瞳がギョッと見開かれ、哀れなほどに泳ぎ始めた。ロングバトンに縋って立ち尽くすゲキイエローは、負傷した右脚を浮かせたまま動けなくなってしまった。
木々の密度がグッと下がった、明るい場所。だがそこは森の入り口に近いエリアではなく、深い森の中で切り株が広がる、意図的に作られた明るい場所であった。
そしてスウッと木々の狭間から歩み出す、漆黒の躯体。音もなく腐葉土を滑るように歩み、広間を囲むように前方と斜め左右、そして左横に姿を現す。
ザザッ・ザザッ…
背後と右から聞こえてきた足音。ランは、今になって思い知った。兵隊蟻たちは、足音など立てない。腐葉土を踏む音を鳴らしていたのは、無様に逃亡するゲキイエローを、この地に誘導するため。
キリキリキリッ♪
牙を鳴らしているのは、嘲っているのか?それとも連中が…いや、この囲みは無音で作っていたのだから、蟻たちが連絡を取っている訳ではあるまい。
兵隊らしい、見事な連携で追い込まれてしまった。肉食獣である、リンシーたちを狩る側であったチーター拳の変身ヒロインが、蟻たちに狩られる餌として囲まれてしまった。
「ぐうぅぅ…こ、こんな、ところで…」
(…負ける訳には、いかない)
兵隊蟻たちで十分ということか?それとも女王蟻たるものは巣で餌を待つという意味か?ここにリアは立っていない。
囲みの一端さえ突破すれば、脱出できるかもしれない。少なくとも岩窟から、相応の距離は逃げてきたのだから。
右足は使えない。左足を前に出して地面を踏み締め、右の踵を浮かせてロングバトンを構える。それも左手はグローブもろとも破損して使い物にならないから、右手一本で。
全力のジャンプで、囲みの隙間を飛び抜ける。邪魔しようとすれば、ゲキトンファーで殴り飛ばす。そうすれば、活路を見出せる筈。
「行くわよッ!」
どうせ動きでバレるのだから、気合の声を迸らせる。肉食獣らしい咆哮を、正面の敵にブチ当てる。
左の黄色いシューズは、爪先の親指辺りに全力を乗せる。破損したバイザーが睨んでいる正面の兵隊蟻ではなく、その僅か右横へ飛ぶために、力を籠める。そして…
「やあ゛ッ!」
ガブウゥ…
「ッ!?…あぶッ…」
何が起きたのか?全く理解できなかった。全力でジャンプしようと左のシューズ革に深い皺が刻まれ、踵が浮いた瞬間、何者かが親指の根本を鋭く挟み込んだのだ。
無防備なまま、シューズの革が撓み潰れるほどのパワーで挟まれた。正にジャンプしようとしていた瞬間の、想像すらしなかった事態に、左の黄色い爪先は地面から離れることなく、肢体がドサリと前のめりに倒れる。
キリキリキリッ♪
「なッ…地面、から…」
迂闊だった。岩窟の広間に、何体の兵隊蟻が作られていた?今ここで、ランを囲む兵隊蟻は何体いる?
街で戦闘していた時も、同じように襲われたではないか。地面に潜っていた兵隊蟻に隙を突かれ、そして…
「やめッ…」
ゾッと蒼ざめる。ランが倒れたのを合図に、兵隊蟻たちが一斉に歩み出し始めたのだから。どころか地面からも、新たな爪が伸び上がってきたのだから。
この森では、ゲキイエローなど兵隊蟻たちの獲物に過ぎない。それを思い知らされながらも、どうにか抵抗しようと右手に力を籠め…
「くッ…数が…こん、あア゛ッ!あ、足を…やめッ…ぎゃいんッ☆!」
負傷している右脚を、地面から出てきた兵隊蟻に攻撃された。と言っても、爪でズブリと刺されただけ。
兵隊蟻の爪くらいは、前ならばゲキスーツが守ってくれた。が今はプロテクターが砕け、黄色のシューズも裂けている。その黒焦げた破損部に鋭い爪を突き込まれれば、ランの足首に激痛が迸る。
背後から迫った蟻に、左手を捕らえられる。そして右足首と同じようにプロテクターやグローブが破損し、黒焦げている黄色のグローブに…
ガブウゥゥ…
ズブウゥゥ…
「ぎあア゛ッ☆!ひ、卑怯よッ…怪我してるトコばかり…ひッ☆!!そ、そ、そこ…」
掴み引き起こされながら、負傷部を狙われるラン。トドメとばかりに正面から歩み迫った蟻が胸元の裂け目に爪を刺し、強く抉った。
恐怖のあまり悲鳴を上げ、叫ぶラン。そんな彼女を嘲笑うように連中は…
ガリガリッ!バババンッ☆!
「いあア゛~~~ッッ☆☆!!」
右足首の黒焦げた特殊シューズ、左手の焼けた特殊グローブ、そして痛々しく裂けた左胸のゲキスーツ。その全てから火花が散り、ゲキイエローは絶叫し、仰け反り悶えた。
勝てない。全開の時でも苦戦する兵隊蟻を相手に、今のゲキイエローでは勝ち目がない。それを痛感するランは、更に息を呑む。露わになっている左の瞳を、恐怖で泳がせる。
スーツの破損部を狙う、兵隊蟻たちの攻撃。野生での戦いは、怪我をすれば強大な肉食獣でも獲物に堕ちる。それを示すように弱い部分を狙う連中は当然、ゲキイエローの弱い部分…中が弱い故に最も強固に守っている…だが破損した部分を狙ってきた。
キリキリキリッ♪!
蟻たちに囲まれ、棒立ち状態になっているゲキイエローの、背後に立つ1体。甲高い牙の鳴き声を耳元で響かせながら、黄色のヘルメットを撫でている。
スルリと引っ掻き滑ってきた指の爪は、左側頭部から漆黒のバイザーが守っていた筈の、今は剥き出しになっている左の瞳に向かってきた。反対側の手は同じく黄色のヘルメットを弄り、白い首筋に爪を突き立てている。
嘲笑われている。激獣チーター拳の使い手として、ゲキイエローに変身しているランが、強化されたとはいえ一介の戦闘員に過ぎない、兵隊蟻たちに。
だが動けない。手足を掴まれているからではない。ゲキスーツが部分破損してしまったせいで剥き出しになっている左の瞳を爪でロックオンされ、白い首筋に残った黒い噛み痕の穴に爪を押し当てられている今は。いくらゲキイエローと言っても、中に入っているのは生身の若乙女たる宇崎ランなのだから。
「ひぎッ☆!そ、そんッ…ゲキトンファーまで…」
動きが止まれば、握っている武器を奪うのも容易。兵隊蟻たちは黄色いグローブが守る右手の指を噛み、開かせた。もはやゲキトンファーを持つことすら許されず、あっさり奪い取られてしまう。
キリキリキリッ♪
楽し気に牙を鳴らす、ゲキトンファーを構えた兵隊蟻。捕らわれのゲキイエローに正対し、ロングバトンを握る持ち手に力が籠る。そして周囲の兵隊蟻がランを手放し…
「やめッ…」
解放された訳ではない。ゲキトンファー・ロングバトンの威力を試すため、攻撃し易いように周りが引いて、ゲキイエローという的を作り出した。
素早いジャンプなど、もう不可能。兵隊蟻たちの手が離れたのと、ロングバトンが振られたのは同時だったから。
ドコンッ!
「ギャインッ☆!」
鈍い打撃音と短い絶叫。道着調の黄色いアウターは裾がハラりと舞い上がり、ロングバトンの先端がタイツ調の黄色いスーツに食い込み、クレヴァスを見事に捉えていると教えてくれる。
瞳をギョッと剥き出し、悶絶するゲキイエロー。撃ち込まれた股間では激しい火花を散らし、哀れなほどに力を失って膝が砕ける。だが背後に立つ兵隊蟻が素早く彼女の頭頂部を掴み、倒れることを許さなかった。
「や、やめ…こんッ…卑怯よ…」
抵抗する力すら出ない。チーターを模した艶やかな黄色いヘルメットの上部を鷲掴まれ、棒立ちにさせられても。
正面でロングバトンを構え直す兵隊蟻。背後で黄色のヘルメットを掴み支える兵隊蟻。狙いを悟り、慌てて右手で防御しようとしたランだが…
ズゴンッ!
「ッ☆!?」
激痛と衝撃が強すぎて、悲鳴すら上がらなかった。銀色の先端はバイザーの破損部から猛然と潜り入り、左眼付近の頬骨を突いたのだ。
瞳を潰さなかったのは、わざとか?敢えて狙いやすい瞳ではなく、瞳の僅か脇を攻撃したとしか、思えない。しかも、本気になれば殺すことも可能であったろうに、敢えて意識がギリギリ抜けないレベルに加減がされていた。
もう、今のゲキイエローでは兵隊蟻と戦う力も残っていない。ダメージが深すぎて全身が痙攣し、手を上げることも叶わない。
首に、銀色のチェーンが巻かれる。勿論これも、ゲキイエローが武器として使っていた、ゲキハンマーの鎖。
キリキリキリッ♪
出発の合図か?ゲキイエローの首を鎖で絞めた兵隊蟻が、牙を鳴らしながら歩き始める。他の兵隊蟻たちが、それに続く。
首に巻かれたチェーンだけで引っ張られる、ゲキイエローに変身しているラン。手足はグッタリ伸び、黄色いシューズが腐葉土の上でズルズルと滑る。
街で攫われ、生気を奪われることでリンシーに転じた女性たち。リアの力で兵隊蟻となった彼女たちは、自分を救えなかった無力な変身ヒロイン=ゲキイエローを、あっさり狩り取ったのだった。
8.供物と化すゲキイエロー
陽の光が届かぬ岩窟の奥に広がる、祭祀場のような空間。でありながら、その広間は昼のように明るい。壁に沿って煌々と輝いている蝋燭の炎が、まるで太陽のように部屋を照らしているから。
おそらく祭壇であろう台は、石造りの大きな物。寝台調の艶やかな黒石はヒト型で、生贄を捧げる場を彷彿とさせる。
いや、現実に生贄を捧げる祭祀場なのだろう。なにせ祭壇の上には人が……いや、若き女性が黄色い特殊スーツを装備したまま、漢字の『大』を描くようにして倒れているのだから。
それにしても痛々しい。勇壮に戦闘員を蹴散らし、怪人を撃退していたのは、ほんの数日前。それが今やピクリとも動かず、倒れている。
艶やかだった黄色の特殊スーツは方々が煤汚れ、黒ずんでいる。胸や太腿には痛々しく黒焦げた裂傷が走り、右足首はシューズを守るように固めたプロテクターが破壊されている。左手の手甲も、オレンジと銀の硬質なプロテクターに穴が穿たれ、恐らくグローブもろとも手が破壊されている。
そして左の瞳。瞼が痙攣しているさますら見えるのは、素顔を隠す筈のバイザーが半壊しているから。
激獣チーター拳の使い手。その名に相応しい、肉食獣の如き雄々しきゲキスーツは、今やボロボロ。そして彼女は、仮に目を覚ましたとしても動けない。何故なら…
「ゲキイエローとやらも、この程度か。とまぁ、そろそろ起きてくれぬと、儀式が出来なくて困るよのぉ…」
静かに語りながら、女王蟻の怪人は破損して黒焦げている、黄色いシューズの裂け目を擦った。そして右手を横に差し出し、脇に立つ兵隊蟻を見る。
女王蟻と兵隊蟻の関係は、言葉など不要か?立っていた漆黒の躯体は己の右手首を掴み、ブシュリと音を立てて毟り取ってしまった。
献上されたのは、真ん中の長い爪と、左右の短い爪を備えた、三叉の槍を思わせる兵隊蟻の右手。それを受け取った女王蟻は、槍の穂先を思わせる長い爪を、黄色いシューズの破損部に押し当てた。
「いい加減に目を覚ませ、ゲキイエロー?」
ズブウゥゥ…
「ぎあんッ☆!!」
ガシャンッ♪
長い爪は右のシューズを貫通し、石の祭壇に突き刺さった。要は硬い蟻の爪を使って、ゲキイエローの右足をベッドに縫い留めたのだ。
このような暴虐を受ければ、嫌でも目が覚める。激痛に悲鳴を上げ、全身を暴れさせようとしたゲキイエローはだが、何かに首を絞められて後頭部のヘルメットを岩の祭壇に打ち付けた。
「こ、これ…これ、はッ…」
首を絞めているのは、銀色のチェーン。それが祭壇上部、ランの頭上に立っている棒に括り付けられている。
右手で首のチェーンを掴み、引き剥がそうとするゲキイエロー。だが白いスーツ生地にガッシリと食い込んだ鎖は、ビクともしない。それも当然。使われているチェーンは、ゲキイエロー自慢のゲキハンマーなのだから。
「漸くお目覚めかな、激獣拳の小娘よ」
「り、リアッ!?あ、アナタ…わ、私に、何をッ…」
少しずつ、事態が呑み込めてきた。逃亡しようとしたが森で兵隊蟻に捕らえられ、岩窟の広間に連れ戻された。そして祭壇の上で、仰向けに倒されている。
自分の首を縛っているのは、ゲキハンマーの鎖。強固な怪人すら破壊できる自慢のチェーンは、哀しいことにゲキイエローの力を持ってしても引きちぎれない。ましてや負傷し、力が出ない今は言わずもがなである。
激痛は、右のシューズもろとも兵隊蟻の爪で石の祭壇に縫い留められたから。そしてゲキイエローが暴れようとするや、兵隊蟻たちが残った手足を掴み、祭壇に押さえつけてしまう。
「こ、こ、殺すなら…さ、さっと、やりなさいよッ!」
もはや自分は助からない。それは疑うべくもない。それならば長く苦しむより、早々に殺された方がマシ。
そう考えるランは、だが女王蟻の嘲笑に迎えられた。クツクツと喉を鳴らし、返事代わりにゲキイエローの右手を掴む兵隊蟻を見る。そして口を開く。
「日々是精進、心を磨くゲキイエローであろう?その修行を、妾が手助けしてやっておるのじゃ。のぉ…」
破損したバイザーから覗き込み、クツクツと笑うリア。その手にある鋭い爪が黄色のヘルメットを引っ掻き、次いでスーツを引っ掻く。優しく、擽るように上腕から肘、前腕と進み、左手を弄る。手甲のプロテクターこそ破壊されて痛々しいが、まだ辛うじて感覚の残っている左手首のプロテクターをカリカリと引っ掻き、次いで黄色のグローブに守られる指を摘み弄ぶ。
パワーが段違いなのだから、黄色のグローブ革が守る指を開かせるなど、女王蟻には朝飯前。兵隊蟻の力など不要で、己自身で押さえつけ、そして兵隊蟻の手から新たな三叉の槍を毟り取る。そして…
『リンギ…臨鋼爪(りんこうし)』
低い、落ち着いた声で臨気を籠めるなり、三叉の爪は淡い紫色に輝き始めた。そして同時に、左右の短い爪がスウッと伸びる。
「な、何を、する、つも、り…」
もはや恐怖以外の何物でもない。淡い紫に輝く、兵隊蟻から取り出した爪を見せつけられる中では。
「何をするかじゃと?日々の精進がいかほどのものか、自慢のゲキスーツとやらに聞いてやろうと思うてのぉ」
「な、なッ…げ、ゲキスーツに聞く、って…」
これまでの行動で、女王蟻が何をしようとしているか?それが分かってしまった。そして分かってしまったが故に、更なる恐怖に襲われる。
ゆっくり、左手の指をグローブ越しに撫でるリア。祭壇にグッと押し付け、次いで紫色に輝かせた爪をピタリと当てる。
「や、や、やめ、てッ…」
怯え震えた声で哀願するラン。だが彼女が見つめる前で、鋭い爪が手甲の破損部に、手首のプロテクターに、グググッと食い込む。
「そんなに怯えることは無かろう。自慢のゲキスーツ、それも頑丈そうな装甲と手袋ではないか。これなら…」
と言う傍から、黒とオレンジの装甲がピキッと悲鳴を上げた。手甲の破損部は既にグローブへ爪が到達し、黄色い革がミシッと軋む。
「…と期待したが、思ったほどでは無かったの」
ズズズウゥゥゥ…
「ぎいい゛ッ☆!ひゃめッ…」
爪は既に、グローブ革を貫いた。今やランの手そのものが、爪の餌食になっている。そして…
ザクンッ!バチバチバチイィィィッッ☆☆!!
「ぎあア゛~~~ッッ!て、て、手がア゛~~~ッッ!!」
激しくスパークする、ゲキチェンジャーの装甲。爪はバリバリと破壊しながら埋まり、中に装着している黄色のグローブすらも貫いてしまう。
貫通してしまった。手首と手甲はプロテクターもグローブも役に立たず、あっさり岩の祭壇に縫い留められてしまった。
そして右手も同様に縫い留め、改めて観察するように悶え泣くゲキイエローを見下ろす。
「ほほほッ♪何じゃ、ゲキスーツとは、この程度かや?日々の精進が足りぬのぉ、ゲキイエロー」
異形の見かけに合わぬ、貴族然とした笑いを奏でるリア。その視線は既に、黄色い左脚を見ている。
四肢の中で、唯一無事な左脚。タイツ調のスーツ生地を撫で、足首のプロテクターを弄る。そして兵隊蟻から三叉の爪を受け取り、紫色に輝かせる。
部分破損したフルフェイスマスクの中で、シュウシュウと息を吐くラン。もはや哀願の言葉を紡ぐことすら、彼女は出来ない。
「残ったのは、ここだけじゃのう。チータと雖も、肢を負傷すれば獲物。となれば、激獣チーター拳の小娘も、ここを守るべく、最も頑丈に作っておろう?」
ニタリと笑いながら、女王蟻は黄色いマスクを見る。必死に首を左右に振るゲキイエローの、割れたバイザーから見える乙女の瞳を見つめる。
そして突き立てられる、紫色に輝かせた三叉の爪。足首のプロテクターを中心に、黄色いシューズの甲と脛のスーツ生地。それぞれの強度を試すように当てられた3つの爪が、ジワリと沈む。
「ほれ、どうした激獣拳の小娘?せめて1本くらいは自慢の激気を集中させて、守って見せぬか?そうせぬと、こんなゲキスーツなんぞ黒焦げになってしまうぞ」
バチバチと火花を散らしながら、プロテクターが焼け焦げ、爪に抉られていく。リアの方も仕上げだからという訳か臨気の力が凄まじく、周囲の黄色い革まで焦がしていってしまう。
遊んでいる。ゲキイエローという餌を長く楽しむべく、弄んでいる。ランがどれほど頑張ってゲキスーツを保とうとしても、易々と破壊されてしまう。そして…
ズブウウウゥゥゥ…
「☆※〇◆▽〇※★☆ッッ!!」
活舌を失った、獣の叫び。三叉の爪は易々と、3種類の装備…シューズ革と硬質なプロテクター、そしてスーツ生地を貫いてしまった。
「ふ~む、日々是精進という名乗りは、改めた方が良さそうじゃのう。ゲキスーツなぞ、妾が率いる駒の爪にすら耐えられぬではないか」
左足を岩の祭壇に縫い留めたリアは、自身が祭壇に乗り出し、大きく開いた黄色い股の間に進んでいった。
タイツ調の黄色い生地を爪で引っ掻き、パチッ・パチッと火花を散らしながら裂け目を作っていく。膝の横から内股と黄色の特殊生地を掻き破って遊びながら、黄色いアウターの裾を摘み、ハラりと捲り上げる。
スカートを捲って、タイツの根本を覗く。そういう行為を彷彿とさせる動きで、大の字に開いた下半身の、秘部に顔を迫らせた。
口をパクつかせ、誰にも聴き取れぬ声で『やめて』を連呼するラン。その微かな声を快適なBGMかのように聞き流し、恥部の中央、クレヴァスが走るエリアを爪で摘まみ、引っ張る。
「ゲキスーツ…ゲキスーツ…ほら、日々の精進が成果を見せよ。妾は、ここだけを爪で破る。リンギなど使わず、爪の力だけでのぉ。であれば其方も、激気を最大まで高めれば、どうにかゲキスーツとやらの一点を丈夫にして、守れるかも知れぬぞよ」
股間で作られる、黄色い特殊繊維のピラミッド。次の瞬間…
バチンッ!
火花が飛び散り、裂けてしまった。実にあっさりと、女王蟻の爪で黄色のスーツは破かれてしまった。
「なんじゃ、街の娘が穿くタイツと、大して変わらぬではないか。こんな物をゲキスーツと呼んで、頼りにしておったのかや?」
「ひッ☆!おねひゃいッ…許ひへッ!わひゃひはッ…わるひゃっはッ…」
必死に哀願の言葉を、どうにか通じるように紡ぐラン。ゲキイエローに変身したまま大事な処まで暴かれた今、もう無意識のまま助けを乞うまでに堕ちてしまった。
そんな激獣拳の美乙女を、女王蟻は笑う。そして股間に作られたスーツの裂け目を指で広げ、陰唇を覗きながら口を開く。
「正義の心で戦う激獣拳…脆いものよのぉ。恐怖、そして絶望…良いぞ、もっと負の心を磨いて、極上の味を作り出せ。ゲキイエローなんぞに変身できる其方の生気が煮詰まれば、この世に二つとない最高の味わいとなって、妾の身体を隅々まで満たしてくれるわ」
言葉を切るや、リアの口がゲキイエローの陰唇にジュブリと貪りついた。そして今まで一度たりとも見せたことのない舌が伸び、ディープキスをするように聖なる洞窟へ潜り込んで来る。
「ひゃひッ☆!ひゃめッ…おひゃひふッ☆!ひゃひっへッ…ひょひゃひへエ゛~~~ッッ!!」
暴れようにも、手足は三叉の爪で岩の祭壇に留められた。アウターの裾は捲られ、両の太腿はリアに掴まれている。
逃げ場などない。逃げようにも、手足の何れも動かせない。
ジュブジュブと潜ってくる、リアの舌。まるでイソギンチャクかのように分かたれ、鋭敏な膣壁や膣低、更には子宮や卵巣へと入り込んでくる。
「美味い…美味いぞ激獣拳の小娘…ダテにゲキイエローなどと宣っておらぬ、磨き抜かれた最高の生気…もっと吸わせよ」
ジュブジュブと愛液が鳴り、ブシュッ・ブシュッと蜜が跳ね飛ぶ。リアの口は湧き出した聖なる蜜を啜り、更に舌を動かす。そして…
「いきゅ…ひきゅ…ひっひゃふッ☆!」
ブシャアアアアアアアッッッ!!!
激しく噴き出した、愛蜜のシャワー。ゲキイエローに変身したまま大切な処を暴かれ、イかされてしまうという、あってはならぬ悲劇的なシチュエーション。
そして、この瞬間、ヒューズが飛んだかのように、ランは意識を手放していた。
9.エピローグ
岩窟の広間が、俄かに活気づいている。あたかも戦争を始める兵士たちが準備を勤しむかのように、忙しなく人々…ではない怪物たちが行き交っている。
いや、現実に戦争の準備かもしれない。広間の入り口…少し前にメレが呪封を解いた場所には、女王蟻が立ち、その後ろに兵隊蟻が整列。その様相は、まさしく軍団の隊列。
そしてリアの後ろに立つ兵隊蟻は、旗手だろう。もっとも、掲げているものは、旗ではないが。
片手で軽々と掴み上げているのは、銀色に輝くロングトンファーの先端。長く勇壮なトンファーを頭上に掲げ持ち、逆サイドを岩の天井に迫らせている。
その武器に沿う形で下がっているのが、黄色い戦闘スーツを纏った美乙女。頼みのゲキスーツが何か所も破壊され、手足が機能不全になった状態で、ロングバトンとゲキハンマーの鎖を使い、白い特殊繊維の首を縛る形で吊るされている。あたかも、黄色い旗印として掲げられているかのように。
破損したバイザーから覗ける左の瞼は、ピクピクと痙攣している。スーツの断裂面が痛々しい胸も微かに上下し、方々に穴の開いた手足も少しだけ震えている。
死んでいるのではない。意識を失い、旗として掲げられながら、辛うじて命脈を保っている。
「三拳魔の気配は感じられない。妾の力を恐れて徒党を組み、呪封なんぞしおった癖に、あの者どもが先に滅んだか。という事は・・・」
自身へ言い聞かせるように、静かな口調で語った女王蟻が、おもむろに振り返った。そして自軍の旗として掲げたゲキイエローを見つめ、その後ろに居並ぶ兵隊蟻たちに向かって、改めて口を開く。
「激獣拳の小娘が偉そうにゲキイエローなどと宣っていられる程度の世界…妾に抗える者など皆無であろう。ならば、真の恐怖というものを、今の世に示してくれようぞ。これより、臨獣殿へ向かうッ!」
伝説は語ってくれない。三拳魔は、温情でリアを見逃したのではない。自分たちを遥かに凌ぐ力を持つリアを恐れ、謀略を尽くして岩窟へ追い込み、呪封という手段で抑えるのが精一杯だったという、連中が恥を隠すために書き換えた、古(いにしえ)の真実を。
そして誰も知らぬが故に、封印が解かれてしまった。そして遂に、動き出してしまった。最凶の女王たる臨獣拳士と、彼女が率いる最強の戦闘員軍団が。
まずは臨獣殿。これを止められる者は、例え三拳魔が復活しても存在し得ない。真の恐怖が、今の時代に蘇ったのだった。
(終)
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ご覧いただきありがとうございました( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )
まさしく完膚なきまでに叩きのめされ、愛用のロングバトンとハンマーによって敗北の御旗として掲げられたゲキイエローの哀れな姿、ご堪能頂けましたら嬉しいです!
時遊人先生の容赦なくもエチエチなアイデアの数々、挿絵制作していてとても楽しかったです(*,,oωo,,*)
挿絵SSは新モデルのお披露目等に合わせてこういった形式でゆるりと続けていけたらなと考えておりますので、今後ともよろしくお願い致します〜!
※本作はすべてがCG制作によるフィクションであり、実在の人物・団体等とは一切関係ございません
のぞみドリーム
2025-06-07 16:37:13 +0000 UTCひゅー
2025-06-07 12:51:22 +0000 UTCひゅー
2025-06-07 12:47:51 +0000 UTCひゅー
2025-06-07 12:45:45 +0000 UTCひゅー
2025-06-07 12:42:08 +0000 UTCあいこ
2025-06-06 17:49:09 +0000 UTCしん
2025-06-05 21:07:16 +0000 UTCのぞみドリーム
2025-06-05 15:48:31 +0000 UTC明日香 月影
2025-06-05 14:54:38 +0000 UTC