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【限定小説】続・縮小保護観察処分(最終話)~出戻りの末の終焉~

終わりは、突然訪れた。 「「え……明日で終わり…?何で……」」 8月の真っ只中、俺がいつものように、お風呂上りの美結様の太ももに乗せられて、自慰を強要されている最中だった。珍しく美結様のスマホに電話がかかってきたかと思ったら、その電話に出た美結様の顔が一気に曇っていき。 「「わ、分かりました……明日、持っていき、いや、連れていきます……」」 ピッ…… 明らかに動揺している様子の美結様は、太ももに乗せていた俺の身体を丁寧に摘まむと、ローテーブルの上に優しく乗せた。最近そんな丁寧な移動をされていなかった俺は、明らかな美結様の心情の変化を感じ取った。 「「えっと……今、国の人から連絡が来て……」」 さっきまで高圧的な声色で俺に話しかけていたのに、急に落ち込んだような、動揺した声色に変わって。 「「保釈金が支払われて、明日で保護観察は終わりだって……」」 ……。 終わり? この保護観察が? 「あ、え……?」 もうこの生活が自分の人生なのだと思い込んでいた俺は、突然の通告に全く頭がついていかなかった。保釈金。俺の仲間だった誰かが、支払ったのだろうか。保釈。美結様の意思とは関係なく、明日で終わり…? 完全な灰色だった自分の世界に、色が戻ってくるのを感じた。 「「明日のお昼、留置所に一回連れていくので、そこで体を元に戻して終わり……だ、そうです……」」 敬語。美結様、いや、この、女子大生が、中原美結が、元々俺にこういう態度だったことを思いだす。引っ込み思案で、気弱で、俺みたいな人間と対等に話せるような女ではなかったことを。 「あ、あははははっ!!」 「「っ…!!」」ビクッ…… 自然にこみ上げる笑い。なんだ。こんなあっけなく終わるなんて。今までこの女に散々虐められてきたが、それも今日で終わりなのだ。 「……おい」 「「ひ……な、なに……でしょう…?」」 中原美結の態度は、180度完全にひっくり返っていた。それもそのはず。今まで体格差を活かして虐めてきた対象が、明日急に成人の男の体格に戻ってしまうのだ。当然その後対面するタイミングは設けられないと思うが、散々虐めてきた人間がこの日本のどこかで自由になって放たれるのだ。それが恐ろしいわけがない。 「覚えておけよ、お前」 「「う……や、だって……ごめん、なさい……」」 怯えながら謝る中原美結。冴えない女子大生でしかないこの女に、何故俺は今までビビッて従っていたのか。いや、体格差があるから仕方が無かったのだ。本来、こんな弱い女子に従わせられるようなことなんてありえないのに。 これまでの日々が、突然バカらしく思えてくる。 「「じゃ、じゃあ…もう寝ます、から……」」 そういって話を切り上げた中原美結。今まで特に寝床を与えられなかった俺は、ベッドの上でこの巨体と一緒に強制的に寝かされていた。むちむちの巨体が寝返ってくる恐怖と戦いながら、ほとんどまともな睡眠を取れていなかったのだ。 しかし今日は違った。完全にビビり倒している中原美結は、保護観察処分が始まった最初の時期のように、机の引き出しの中にハンカチで寝床を作って、丁重に俺を寝かしたのだった。 (…本当に、なんでこんな女に……) あまりに気弱で冴えない女子大生の姿。何故俺は心からこの女を恐怖して、この巨体に性的な興奮を覚えてしまっていたのだろうか。思い出すほど、屈辱心がふつふつと湧き上がってくる。 巨大なハンカチの香りに包まれながら考える。…俺はこの女が通う大学を知っている。この家が具体的にどこにあるかは分からないが、名前も住んでいるだいたいの地域も分かるのだ。少し調べれば、容易に特定できるだろう。 (散々、舐めたことをしやがって……) 分からせてやる。特定して、脅迫して、泣き叫んでも絶対に許してやらない。力づくで犯してやろうか。そうだ、それがいい。今まで受けた凌辱を全て返してやる。 そう心に決めた俺は、もはや快適と感じるハンカチのベッドの中で、眠りについた。 ------ そして、俺はとんとん拍子で釈放に至った。 中原美結に連れられて元居た留置所に来た俺は、すぐに縮小解除装置によって元の身体に戻された。…何年振りかも分からない。ずっと自分の身体が小さいのが普通で、巨人の存在感にプレッシャーを与えられ続けるのが普通で、そんな世界ががらりと変わる。自分より圧倒的に大きな人間なんて存在しない世界に。 最高の充実感を覚えた俺は、釈放されたその足で、あの憎き女子大生が通う大学のエリアへと足を運んだのだった。 ------ そして、約3週間後。 「……ここか………」 俺はあるアパートの入り口が見える場所で、身を隠していた。大学周辺のエリアで、名前だけを頼りに住所を特定するのは意外と骨が折れた。が、元々悪さをしていた頃の情報網を使って、3週間で中原美結の下宿先を特定したのだった。 今はまだ大学の夏休み期間。どうせあの根暗な女は、友達と遊びに行くこともせず、家で引きこもっているんだろう。 ウィーン…… すると、アパートの入り口の自動ドアが音を立てて開いた。 「「………」」 「っっ…!!」 そこから外に出てきたのは、紛れもなくあの中原美結だった。私服姿で、どこか浮かない顔をしながら、カバンを持っていた。 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……!! 「っっ…はあ、はあっ……」 急に鼓動が早くなり、絶対に見つかってはならないと必死になって塀の影に隠れる。コンクリートの道を踏みしめる彼女の足音が恐ろしく、何倍にも増幅して耳に届いてくる。 (……い、いや…今は違うんだ) 反射的に彼女の姿に恐怖と身の危険を感じてしまった。が、今は違う。絶望的な体格差があるわけではない。男である俺の方が、圧倒的に力が強いのだ。こんなひ弱な女に感じる恐怖など何一つない。 (くそ……落ち着け) 勝手に早まり出した鼓動を何とか諫め、歩道を歩いていく中原美結の後ろ姿を確認し、それを尾行し始める。…あの女に何とかして報復を行うのだ。裏路地にでも入ったら、捕まえて脅してやろうか。 とぼとぼと歩いていく女子大生の10メートルほど後を、何気なくついていく。 その行先は、 「図書館…?」 市立の入場無料の図書館に入っていく中原美結。大学の夏休みの課題でもやるのだろうか。…こんな所に一度も入ったことが無い俺は、挙動不審ながらもその後をついていき、図書館の中に入る。 平日の図書館はガラガラで、ちらほらと同じような目的の大学生が机に座ってノートやPCを広げている。その間を歩いて抜けていった中原美結は、机が衝立で仕切られている自習ブースのような所へ入っていき、部屋の中腹くらいの位置で席に腰かけた。 …俺はバレないように、その隣の席に腰かける。衝立があるので、座っている状態では互いの顔は見えない。が、その距離僅か50センチほど。何年も主人と奴隷のような関係だった2人が、同じ体格となって至近距離まで迫っている。 カタカタッ…… 中原美結はPCでレポートでも書いているようで、キーボードの音が隣からずっと響いていた。華の大学生の夏休みの過ごし方としては、いささか地味だった。この女に関しては、今日がたまたま課題を片付ける日なのではなくて、いつもこうなのだろう。 隣にこっそり座ったはいいものの、やることもない俺は、スマホを取り出してぼーっと弄り始める。 そんな気の抜けた瞬間に、違和感のある音が耳に飛び込んできた。 ちゅ……ちゅぷ…… 小さな音。静かな図書館でなければ恐らく聞こえないくらいの、いや、この隣の席でないと聞こえないくらいの微かな音。リップ音のような音が、中原美結の席から聞こえてくるのだ。 「……くすっ…」 そして、中原美結の微かな笑い声。明らかに一人で、誰かと電話で喋っているわけでもなく、一人で笑いを漏らしている。その様子に、俺は強烈なデジャブを感じ取っていた。 この女が、日常生活で笑いをこぼすことなんて、それは…… ガタッ…… 俺は静かに席を立ち、バレないように、座っている中原美結の背後から、机の上で何が行われているか覗き込んだ。 そこでは。 (なっ………) 女子大生の手元に、小さな小さな人形が一体。人の形をした、肌色の物体。それが何なのか、一度経験のある俺はすぐに分かってしまう。 (また…保護観察の犯罪者を……?) それは明らかだった。2cmサイズの裸の人間が、中原美結の手のひらの上で微かに動いている。中原美結は時折、手のひらの上の人間に向かって顔を伏せ、微かなリップ音を響かせていたのだ。自分の唇を小さな犯罪者に押し当て、愛でている。 これが、この女の本質なのだと悟った。小さな人間を支配して、愛して、自分の生活の空虚を埋める。絶対に逆らえない存在を手にしたくて、それはペットではなくて、同じ種族である人間を支配することで得られる優越感。 「…ちゅぷ……んん……」 微かな喘ぎ声を上げる中原美結は、まさかその声が真後ろの人間に聞かれているとは思っていないのだろう。小さくもいやらしい声は妖艶で、造形は整っているその顔が小人に向かって伏せられる度、今まで俺が何回も大音量で聞かされていたリップ音を上げるのだ。 色んな映像がフラッシュバックする。絶望的に大きな女性の顔が降ってきて、視界が唇の色だけで埋まり、その1秒後には女子大生の唾液でぐちゃぐちゃに揉みしだかれている。あの感触、あの匂い、あの圧倒的な重量感。あの地獄が、あの天国が、今まさにこの自習ブースの机の上で行われているのだ。 (っ…!?なんで……っ) それに対して、自分の股間がいきり立っていることに今気づいたのだった。 (く……そ………) 俺は気づけば、図書館のトイレの個室に駆け込んでいた。 「はあ、はあっ……」 脳裏から離れない、巨大な女子大生の乱暴な愛撫。圧倒的な太ももの感触、素足の重量感、豊満で山のような胸…。地獄だったはずの日々が、今あの女のリップ音を聞かされたことで次々に脳裏に現れ、何故か甘美な記憶となって精神をゆがめようとする。 あれは、そんな思い出ではないのに。しょうもない女に支配され続けた、最悪の記憶のはずなのに。 …個室の中で一人果てた俺は、猛烈な虚無感に襲われたのだった。 異常な形で膨れ上がった性欲を、俺は裏の世界で色んな女を抱くことで解消しようとした。 …その機会には困らなかった。保釈金を払ってくれた仲間は今でもいて、その繋がりで様々な女をこの手で犯すことができた。元々、俺はモテる方なのだ。あの中原美結とは違って、自分の性欲を歪んだ形で放出させる必要なんて無い。この世界は、俺の自由なままに遊び倒すことができる。 そうやって乱暴に性欲を解放し続け、 3か月ほどが経ち。 ……。 俺は、何故かまた、中原美結を尾行した末に、図書館にたどり着いていた。 どれだけ女とヤッても、自分の欲が完全には満たされていないことには気づいていた。自分の本能が恐ろしく歪み、性癖が歪み、それに目を背け続けていたが、結局我慢できずにこんな行動を取っていることに嫌気が差した。 ずっと、脳裏から離れないのだ。 ちゅ、ちゅぷっ…… 「んふっ……」 今も隣の席から微かに聞こえてくる、犯罪者への愛撫の音。それを聞くだけで、ここ最近色んな女と行った行為よりも、遥かに強い興奮を覚える自分がいるのだ。隣で虐められている犯罪者が、いまどんな景色を見ているのか、どんな地獄に漬け込まれているのか、それを想像するだけで、股間が痛いほど膨れ上がった。5分もすれば、もうトイレに駆け込んでいた。 俺は、あの女に支配されたいのか。そんなわけがない。あんな社会的存在感の低い女に、そんなわけが。こういう性癖があるのなら、他の女に頼めばよい。俺のことを好いている女に頼めば、こういうプレイくらいやらせることは造作もない。 …いや、出来ないのだ。縮小装置は一般普及しておらず、この国で使われているのは唯一、縮小保護観察処分となった犯罪者を縮小させるという用途のみ。それ以外は、装置を手に入れようが無いのだ。 …わざとまた捕まるのか。いや、そんなこと…。しかし、軽い犯罪なら半年くらいで戻ってこれるだろう。それなら。 (…………) そういうことではないのだ。…仮にわざと縮小保護観察処分になったとしても、観察者となった普通サイズの人間は、犯罪者をあんな風に性的に弄んだりしない。正常な人間なら、普通に犯罪者を半年間世話して、それで終わり。見ず知らずの犯罪者に対して、性的な行為などするわけがない。 そこまで思考して、一つの事実につきあたり、俺は絶望した。 この歪んだ性癖を解消してくれる存在は、この世でただ一人。 中原美結しか知らないのだ。 ------ それから俺は、縮小保護観察について出来る限りのことを調べた。 まず、縮小の段階。犯した罪の重さによって、軽度、中度、重度と縮小率が分けられることは知っていた。軽度なら5cm。中度なら2cm。ここまでは自分自身も経験した縮小率だ。…重度の罪を犯した場合の縮小率は、公には公表されておらず、今まで知らなかった。しかし色んなルートを探って調べる内に、その縮小率についてのうわさが流れてきていた。 実に、5ミリ。 あの絶望的だった2cmという体格から、さらに1/4の身長にまで縮められるという。 それは想像だに出来ない縮小率だった。指先の太さにも満たない矮小な人間が、果たしてまともに生きていることがそもそもできるのか。普通の人間と会話できるとは到底想像できず、ちょっとした吐息にすら吹き飛ばされて絶命してしまうのではないか。 考えるだけで恐ろしく、 想像すればするほど、精神が深みにはまっていく。 5ミリという身体から、あの女子大生の姿はどう見えるのか。 そして、調べたことがもう一つ。観察者として誰が割り当てられるかは、犯罪者が罪を犯した場所によって決まるという。そのエリアで観察者登録をしている人間の元へ、小さくなった犯罪者が送り込まれるのだ。…同じエリア内でどの観察者に割り当てられるかは、運だという。 あの地域で犯罪を行ったとしても、中原美結が観察者となるとは限らない。 そんな当たり前のリスクさえまともに考慮できないほどに、俺は性癖に頭を浮かされておかしくなっていた。 そして、とある秋の日。 俺は重度犯罪と位置付けられている、麻薬の密売を行い、わざと逮捕されたのだった。 ------ とてつもなく広い箱の中。暗闇に閉ざされているが、箱の隙間から外界の光が漏れ入ってきている。自分の今の大きさがどれくらいか、想像すらできない。比較対象が無いが、しかし普通に手で持てるサイズのはずの箱が体育館、いやそれ以上に広く感じるということは、そういうことなのだろう。 5ミリ。もはや、普通サイズの人間から見たら、生きているかどうかすらよく分からないかもしれない。この箱は既に観察者の家に届けられており、恐らく部屋の机などに置かれている状態。今から観察者が部屋に入ってきて、この箱を開けるのだろう。 重度の犯罪を犯した俺は、この時点で10年の縮小保護観察処分となることが決まっていた。前回中原美結に閉じ込められていた期間を軽く超えた、未来の見えない期間。絶望的に長い期間。 それでも、歪みに歪んだ自分の性癖の衝動に、俺は耐えられなかったのだ。 その時。 ドンッ!!!ドンッ!!! グラグラグラァッ……!!! 「っっ!!!???ああああっっ!!!!!」 世界が壊れたのかと思った。今までの人生で聞いたことが無いような大音量、大震動。一発で5メートルも上空まで突き上げられ、そのまま地面に叩き落とされる。そして息つく間もなく、もう一度爆音が響き、身体が跳ね上がる。 天変地異のような状況が、一人の人間によって起こされているものだとは、すぐに気づけなかったのだ。 ドンッ!!!ドンッ!!! ………。 ガサガサッ……!!! 周囲の音が何もかも大きすぎて、その音の大きさだけで全身が恐怖で震えてしまう。本能的にしゃがみ込み、この巨大な箱の空間の天井が今まさに開かれようとしていても、そちらを恐る恐る見上げるだけで精いっぱい。 そして、 ガサッ……!!! 「「「……………」」」 上空に現れた女神様の顔。 それを確認した俺は、 「ああ……あ…………」 嬉しさと恐怖が入り混じった強烈な感情に、心を圧し潰されそうだった。 「「「……これが重度犯罪者……こんなにちっちゃいんだ……」」」 ビリビリビリッ…!!! 囁くような声が、災害となって襲い掛かる。何年も聞いてきたはずのご主人様の妖艶な声が、さらにさらに巨大になって、もはや俺の身体は声だけで粉砕されてしまうレベル。箱の外の顔は大きすぎて、景色にしか思えない。そこに人間がいるなんて、具体的に想像できない。 しかしその景色は、紛れもなく中原美結の顔そのものだった。 「「「えっと、説明書……"重度犯罪者を運ぶ際は、湿らせた綿棒等を使って貼り付けて移動させてください。指で摘まもうとすると全身を挟み潰してしまう恐れがあります"……」」」 女神様の声が世界中に響き渡るも、声の振動があまりに激しすぎてその内容を聞き取ることはできなかった。気づけば次の瞬間には、 ズンッ……!!! 「っっっ!!!???」 白くふわふわした太い柱のようなものが、箱の中の床に突き立てられていたのだ。…そこから強烈に香る濃厚な匂いは、その強さが桁違いだったが、間違いなく今まで何度も嗅がされていたご主人様の唾液の匂いだった。 「「「そこに全身で引っ付いてね。持ち上げるから…」」」 女神様の命令が響き渡る。もはや命令ですらない。啓示だ。この声に従わなければ、そもそも生き物として生きていくことが出来ないのだから。 俺は大量の唾液が付着した柱に向かって、裸のまま全身で虫のように張り付いた。 「「「…じゃあ、上げるよ」」」 そこからはもう、超絶的な体験だった。 「ああああああああああああああっっっっ!!!?????」 自分を捕えた綿棒が、女神様の手によって軽々と上空へ上げられていく。周りの景色はあまりにスケールが大きすぎて、移り変わる景色をまともに捉えられない。明るい場所まで連れ出され、自分が今上空何メートルまで連れてこられているのか全く分からない。高さをリアルに感じられるスケールを遥かに超えてしまっている。…そんな中で、途方も無く巨大な女子大生、中原美結が、この世界を包み込むように存在しているということだけは理解できた。巨大な綿棒の柱を掴んでいるこの肌色の超巨大な物体が手のひらであることは、認識できた。 「「「…ちっちゃ……」」」 視界を埋め尽くす瞳がギロリと動く。瞳が動くときの音すら聞こえてくる。まつ毛が触れ合う音が聞こえてくる。女神様の呼吸音は世界の音となって四方八方から襲い掛かってくる。 「「「ちょっと触ったら死んじゃいそうだな……」」」 そして、美結様は明らかに、俺に気づいていなかった。それもそのはず、5ミリサイズの人間の顔なんて認識できるはずがない。この体格差では人間として識別してもらえず、ただただ5ミリの犯罪者、というラベルでしか認識してもらえないのだ。 何という残酷な、立場の差なのだろうか。 この時点で俺は、ずっとずっと暴走していた性癖の蛇口が完全に崩壊していた。 「あっ、くっ、うっ……!!!!」 上空数百、数千メートルという状況で。女神様の圧倒的な瞳に犯されながら、俺は綿棒に張り付いたまま必死で自慰行為を行い始めたのだ。 「「「…え……うわ、…興奮してるの……?」」」 その行為は、女神様の目にも止まったようだった。 「「「なにこの子…可愛すぎるんだけど…♡」」」 はぁっ…♡♡ 女神様から放出される空気が、一気に粘り気の高いフェロモンに変わる。世界の空気が一変し、無意識に美結様から放たれた熱が気候を変えてしまう。 「「「…ねえねえ、こっち見てて…?♡」」」 美結様は、俺が貼りつけられた綿棒の隣に、もう一本別の綿棒を持ち上げた。その上には、俺の4倍くらいのサイズの裸の女が、やはり同じように唾液で貼りつけられていた。明らかにそれは、中度の犯罪を犯した縮小者だった。 「「「んはぁぁー…♡♡」」」 むわあぁぁぁっっ……♡♡ 「っっっ!?!???………ああっ…♡♡」 衝撃的な光景だった。2cmサイズの人間に、超至近距離で蒸れ蒸れの吐息が吐きかけられたのだ。一瞬で湿度100%の熱波に襲われたその犯罪者の女の身体に、凝集した大量の唾液がねとぉ…♡と付着していた。 もはやそれは、人の姿ではなかった。唇の厚みにすら満たない虫のような存在が、口から分泌される体液で尊厳も無くびちょびちょに濡らされているのだ。非人道的な扱い。残酷な光景のはずなのに、その姿を、俺は、 羨ましいと感じたのだ。 「「「あー…」」」 女神様の美しい唇が、2cmの犯罪者を包み込んでいく。なんて甘美な光景なのだろうか。灼熱の口内環境に包み込まれ、生きている一人の人間の姿が見えなくなって。 「「「んむぅ…♡♡」」」 むにゅっ…♡と、唇が閉じる音が響き渡る。キャンディーを口の中に入れるかのように、綿棒の先端部分を巨大なお口で包み込んでしまう美結様。そのなかに人間が入っているなんて、外から見ても全く分からない。 そして、 「「「じゅぶっ、ちゅぷっ、じゅぶぶぶっ…♡♡」」」 「な…………」 もの凄い勢いと爆音で、とてつもなくエッチで卑猥なリップ音が響き渡り始めたのだった。 え……今、人が入って……? 「「「ちゅぷっ、じゅぶっ…♡♡」」」 状況が理解できなかった。閉じられた巨大な口の中に、間違いなく生きた人間がいて。それを口の中に入れたまま、美結様は激しく綿棒に吸い付き、唾液の音を響かせ、舌がその中にうねる卑猥な音が聞こえてくる。 絶望的な体格差でこんな吸い付き方をされれば、2cmサイズの人間など、一瞬で壊れてしまう。同じサイズで長年美結様の支配の中生きてきた俺は、それが分かっていた。自分の体重を遥かに超える舌の重量に圧し潰されたら、そんなの。手加減してくれれば話は別だが、美結様の思うがままに犯されれば、すぐに骨が折れ、内臓が潰れ、身体の原型なんて簡単に無くなってしまう。 「「「じゅぶぶぶぶっっ♡♡」」」 それが、目の前で行われているのだ。 「「「んぅー……ちゅぷっ…♡♡」」」 唇から綿棒が引き抜かれる。 大量の唾液の糸が、可愛らしくすぼめられた唇の表面と綿棒の先を繋いでいる。透明で粘性のある、妖艶なよだれ。 綿棒の先には、既に人の姿は無かった。 「「「ん………ごくっ……♡」」」 「……………」 悲鳴すらでない。巨大な景色の中で、美結様の喉にあたる部位が、ゆっくりと嚥下の動きを見せたのが分かった。その奥で、食道を下に降りて行っている存在が、何なのか、想像したくなかった。 人が、死んだ。 「ああああああああっっっっ……!!!????」 「「「……ん?もしかして怖がってる?…さっきは興奮してたのに…♡」」」 どれだけ支配されようが、蹂躙されようが、命を取られることだけは無かった。当然、そんなことはたとえ犯罪者に対してであっても国から許されないからだ。…なのに、なんで。美結様は、この女子大生は、女神様は、人を"飲んだ"のだ。 「「「ちなみに言うとね、今の子は"処理対象"だったんだよ。元々中度の犯罪者だったけど、重度犯罪を前に犯してたことが分かって、君の大きさになることを飛び越えて処理対象になったの」」」 「「「…分かりやすい言葉で言えば、"死刑"ってこと♡」」」 死刑…?それが、なんで、美結様の手で…… 「「「最近、死刑を実行する人件費がかさんでるらしくてね。やりたい人もいないし……それなら、縮小保護観察者がちっちゃな犯罪者をさくっと処分しちゃう方が、コスト的にも精神的にも楽だってことに気づいたらしいよ」」」 にちちっ…♡と、巨大な唇が目の前で開け放たれる。 「「「私は常に立候補してるから……処理対象の子たちが、いっぱいウチに来てくれるんだー♪」」」 既に俺の顔は青ざめ、全身震え。今までこんなありえない体格差で接されていたにも関わらず、何故か命の危険を感じていなかった。それがおかしかったのだ。冷静に考えれば、この女神様が何気なく綿棒をしゃぶるだけで、1秒後には絶命してしまうほど危険な状況。 「「「…君も、重度犯罪者ではなくて……"処理対象"の子なんだよ?♡」」」 むあぁぁっ…♡♡ 「……………」ビクッ、ビクビクッ……ガクガクっ…… 叫ぼうとして、喉が閉まって何の声も出せない。身体が震えすぎて、歯がカチカチと鳴り続けている。 「「「あーっ……♡♡」」」 ゴゴゴゴゴッ……!!! ぬちゃぁぁっ…♡♡ 真っ赤な洞窟。ピンク色のざらざらした、巨大な大蛇のような化け物。自分の身長の何倍もある歯は唾液に濡れて怪しく光り、上あごからは唾液の糸がたらーっ…♡といやらしく垂れ流れている。 スローモーションのように迫りくる美結様の口内の景色を見ながら、走馬灯が駆け巡る。これまでの記憶。想い出。 しかし、脳裏に浮かぶ光景は、全て巨大な美結様のものだった。もはや、普通サイズの人間だったころの記憶は脳から抜け落ちていた。自分という人間のアイデンティティは、巨大な女子大生に対する矮小な小人という形で完全に塗り替えられてしまっていた。 過去も未来も、俺の人生は全て美結様に支配されてしまったのだ。 「「「あーー………んむっ……」」」 気づけば、外からの光は全て失われていた。 ゴーーーッ……スーーーーッ…… ぬちゃっ……ねちょっ…… 女神様の呼吸音が口内で圧倒的に響き、その合間に、舌に染み込んだ唾液が音を立てて爆ぜる。綿棒にくっついていたはずの俺はいつの間にか放り出されていて、熱を持った柔らかい絨毯のような巨大な舌の上で、味蕾のつぶつぶに身体を打ち付けて転がっていた。 そこからはもう、認識すらできなかった。 美結様の舌が動いたかどうかすら分からない。0.5秒後には空中に放り出されていて、上あごと思われるピンク色の天井と舌の表面で圧し潰されていて。上あごに貼りついた俺の身体は器用に舌で剥がされ、おっきな歯の裏側に転がされて頭をひどく打ち付ける。一歩間違えば歯と歯の間に捕らわれていた、その恐怖で泣き叫びながら走り出すと、すぐに唾液の海に足を取られて転倒する。美結様の唾液をしこたま飲み、その重さで動けなくなり、倒れ、瀕死の身体を巨大な舌で強制的に剥がし起こされる。 極限の状態の中で、自分の身体と精神が分離していく。恐らく、もう骨はめちゃくちゃに折れていた。自分の手足があるという感覚が既に失われている。しかし痛みは感じず、意識が真っ白に閉じていく感覚がむしろ気持ち良くもある。 これが、終わりということなのだろう。 じゅぱっ…♡♡!!ぐちゅっ…♡♡!!くちゅっ…♡♡!! 最期はもうめちゃくちゃだった。女神様の容赦のないお口くちゅくちゅに、矮小な犯罪者は身体を簡単に引き裂かれる。 今、自分の身体がどこまで残っているのか。 分からない。が、しかし、一つだけ分かっていることがあった。 圧倒的で巨大な、自分を包み込んでくれる女子大生である美結様。自分の人生の全てである美結様と、最期に一つになれるということ。虐められ、蹂躙されて、美結様の匂いや熱、その全てを感じながら終われるということが。 俺は幸せを感じていた。 「「「ぐちゅっ……くちゅっ……ん……んぅ…ごくんっ…♡♡」」」 人が嚥下する音を、その音の中で聞くのは人生で初めてだった。 美結様と一つになって、人が絶対に行くはずのない場所へ向かっていく。 願わくば、 美結様の栄養に少しでもなれたら。 それが、俺の思考の最後だった。 ---終わり---

【限定小説】続・縮小保護観察処分(最終話)~出戻りの末の終焉~

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