【小説】異世界最強の魔法使いエルフは紙おむつが手放せません!? 第八話 オムツァーの冒険者ですが世界平和のためにボスをガチ討伐したいと思います(後編)【完結】
Added 2025-05-07 14:04:11 +0000 UTC翌朝、ポーションを飲むだけの簡単な朝食を済ませた俺たちは、家の前に荷物を並べていた。 空には雲一つ無く、大魔王だか中魔王だかの脅威が迫っているとはとても思えない穏やかな朝だ。俺はエーテル入りの小瓶を詰めた革袋を石畳の上に置きながら 「いつもは歩きで行くっていうのに、今回は空を飛んでいくのか。魔力消費は大丈夫なのか?」 とピノに聞くと、 「今回はかなり遠くまで行くから、歩いて行ったら何日かかるか分からないわ。領主様直々の依頼だからね、早く移動したいのよ」 と答えた。すると、 「えっ。そ、空を飛んでいくんですか?!」 と、みなみんが驚いた表情を見せた。 「ええ、そういえばみなみんは飛んで移動するのは初めてだったわね。大丈夫、すぐに慣れるわ」 「それはそうでしょうけど……でも……」 どうやら彼女は高い所が苦手なようだ。 「ま、怖くて漏らしちゃってもおむつしてるから平気でしょ」 「か、からかわないでください!」 みなみんが頬を膨らませる。異様に高い戦闘力を除けば、彼女も年齢相応の女の子なのだ。 それよりも、俺も皆に見せたいものがあった。 「なぁ、ちょっと俺の新技も見てくれないか?」 俺は杖を取り出しながら皆に呼びかけた。真っ先に反応したのはベルだ。 「そういえば……ケンは毎朝早くから外に行っていたわね。あれ、魔法の練習だったのね」 「まあね、ベルの研究熱心さには敵わないけど」 俺は人のいない方へ向き、杖を構えた。集中力を高め、杖を振る。 すると、杖の先端から勢い良く火の玉が飛び出し、少し離れたところでバンと音を立てて爆発した。 「どう? これくらい爆発すれば結構効くんじゃない?」 するとピノが驚きの表情を見せる。 「やるわねケン、師匠として褒めてつかわす! これならようやく実戦でも使えるわ」 そう、俺も日々の冒険の合間を見ては新たな魔法の習得に励んでいたのであった。ようやく会得したその魔法は火の玉を出すだけでなく、それを爆発させるものだ。実戦でどの程度通用するかは未知数だが、これまでよりも戦力にはなれるだろう。 「ケンの新技も見られたし、そろそろ出発するわよ、良い?」 ピノが問いかけに応じ、俺たちは各々の荷物を担ぎ、ピノの回りに集まった。 「あの……私はまだ心の準備が……」 みなみんが不安そうな表情を見せるが 「大丈夫って言ってるでしょ。怖くて漏らしてもおむつが守ってくれるわよ」 と意に介さず、杖を構える。 「じゃあ飛ぶわよ……スイング!」 ピノが魔法を唱えたと同時に俺達は空高く飛び上がった。 その後俺達は、ピノがエーテルを飲むために一度か地面に降り立った以外、結局朝から夕方まで空を飛び続けた。 徒歩で移動したならば一体何日かかるかも分からない距離をたった一日で移動し、ついに目指す古城が見えた頃には、太陽は地面に沈みかけていた。 「見えてきたわ、あそこが目的地よ」 遠くの崖の上に黒く朽ち果てたような城が聳えていた。城壁のあちこちは崩れ、塔のてっぺんは傾いている。空は晴れているはずなのに、城の周りだけは黒い雲に覆われており、その不気味な存在感は圧倒的だった。俺達の真下から城の間に街の痕跡は無く、寒々しい森と荒地が広がっているだけだ。 「あのお城は元々は領地の境界を見張るための要塞だったの。だから攻めにくい場所にあるし、中も複雑よ。でもここから先は徒歩ね。さすがに空中から近づいたら狙い撃ちにされそう」 ピノがそう言い、俺たちは地面に降り立った。 「今日はこの辺りで休みましょう。それにしてもやっぱりおむつって便利ね。これが無かったらこんなに長い時間飛べないもの、ねえベル」 「そうね。今まで魔力と尿意のバランスを気にしてたのが可笑しくなっちゃうくらい」 と言うことは、二人は当然のようにおむつに漏らしているということか。慣れとはなんとも恐ろしい。 かく言う自分もおむつの中は一日中のおしっこでぐっしょりなのだが。 「ピノとベルの言うことは確かにそうなんですが、私はそれも溢れそうです……っ」 そういうみなみんの方を振り返ると、明らかに股の部分が膨らんでいる。あれは恐らく容量オーバーだ。座ったら吸収しきれずに溢れたおしっこが魔物を呼び寄せるかもしれないから早く取り替えないと。 俺がそんな心配をしていると、 「みなみんはまだ『出し方』の経験値が足りないようね」 とベルがしたり顔をしながらみなみんへ話しかける。 「いい、私の研究の結果、ケンが持ってきたおむつは極めて優れた……もはや魔道具と言っても良いレベルの性能を持っているけれど、完璧ではないの。まず第一に、吸収量には限界があるわ。そして次に……これが重要なのだけど……同じ箇所に何度も出し続けると、吸収する部分を使い切る前に溢れてくるの。だから身体を傾けて前側と後ろ側に均等に吸わせるのが上手く使うコツね」 コイツ、いつの間にかオムツァーとしての才能を開花してやがるぞ。俺は何も教えてないのに。 「ベル、講釈はそれくらいでいいから。あとみなみんも早くおむつを履き替えてきなさい。溢れさせたら魔物が来るわよ」 みなみんが少しガニ股になりながらテントの中に入っていった。そして、俺達もそれぞれの濡れたおむつを履き替えて休むことにした。 ****** そして夜が明けた。薄暗い森を抜け、廃城の門をくぐると、ひやりとした空気が肌を撫でる。 「気を抜かないで、ここから先は、すべて幻術士の領域。幻術士を倒す方法はただ一つ、強い魔力をやつの身体の一点に集中することよ」 ピノの声が、いつもより少し硬い。俺も気を引き締めて、剣を握り直した。 どのようにして据え付けたか分からぬほど大きな観音開きの大戸を開け、中へ入る。城の中もまた、声が何度も反響しそうなほど大きい。床には白と黒の市松模様のタイルが敷き詰められており、部屋の端ではそれらが混じって灰色に見えるほどだ。 魔物に襲いかかられると思ったが無駄に大きなその空間に動くものはなかった。 「あれ……何も出ないんですね……なんだか拍子抜けです」 みなみんが手に持った針を鞘へ収める。 辺りを警戒し奥へ進むも、さっきまでそこにいたであろう気配はするのに一向に魔物に遭遇しない。長い廊下を抜け、大きな部屋を通り抜け、また長い廊下。俺たちは音の無い空間をただ歩いているだけだ。 「なぁ、簡単すぎないか、これ……?」 俺は思わず呟いた。 「ええ、逆に気味が悪いわね。魔法で集中力を高めるわ、そのためにエーテルも沢山持ってきたのだから」 ピノは腰に下げた小瓶を手に取りぐいと飲み干し、俺には聞き取れない呪文を唱える。恐らく敵を感知するか何か、そういう魔法なのだろう。 そうして俺たちは城の探索を進めた。ピノか今使っている魔法は魔力消費が多いのであろう、もう数本のエーテルを空けている。しかし、相変わらず幻術士どころか魔物の一体すら出てこない。それよりも奇妙なのは、いつまで経っても城の最深部に辿り着かないことだ。大きな城と言えどもこんなに沢山の部屋はないはずだ。まるで同じ場所を何度も回っているような……。 「ピノ、おかしいわよこれ。この部屋、さっきも通ったわ!」 ベルの言葉で俺はハッと気づいた。 「おい、これって……幻術士の仕業じゃないのか?!」 「……やられた!」 その瞬間、視界の上から下へとまるでベールが落ちるように視界が一変した。今までいた、いや見ていた部屋の面影はなく、そこは玉座の間であった。 高い天井のその部屋の奥まった壇上にはギラギラと金色に飾りつけられた玉座があり、そこには黒いローブを着て、魔法使いが用いる杖を持ち、顔の半分を仮面で覆った男がいた。俺達の周りには無数の魔物がおり、完全に包囲されている。 「お前が……幻術士!」 「元々は人間の魔法使いだったがね、今はそう呼ばれているな。さて、君たちが舞台に上がってくれることを……心待ちにしていた」 その声が終わるより早く、ピノの杖先から鋭い炎の矢が放たれた。しかし幻術士はそれを簡単にかわす。 「ピノの魔法は相変わらず強力だな。だが、それが弱点にもなるというもの。……まずは、役者交代から始めようか」 幻術士が杖を一振りすると、視界が真っ白に染まった。 ……気がつくと、目線が低い。身体が軽い。そして胸元に、わずかだが見覚えのない膨らみが――。 「え、うそ……まさか……」 「これ、私の体じゃない!?」 目の前には、自分の顔がある。俺とピノ――完全に、入れ替わっていた。 「うそ、うそ、うそ!なんであんたが私の身体なのよっ!」 「こっちが聞きたいわ!」 混乱の中、幻術士が話す。 「どうだ、ケンとかいう冒険者よ。それが師匠の身体だぞ、エーテルを大量に摂取した……な」 確かに、なんだか身体から魔力が止めどなく溢れ出てくるような感覚がある……が、それを押しのけるより大きな感覚が俺を襲った。尿意だ。 幻術士が続ける。 「いかに優秀な魔法使いといえども生理現象から逃れることはできないのだ。哀れな魔法使いピノ、我慢を解放すればすぐに楽になれるぞ」 「ケン! ここで漏らしたら許さないからね!!」 ピノはそう言いながら、俺の身体を使って魔法を唱えている。しかしその威力は低く、まるで効いていない。意識と尿意は入れ替わっても、魔力は入れ替わらないらしい。 「そ、そういわれても……」 ピノが普段耐えている尿意はこんなに強いものだったのか……。思わず内股になり、杖に身体を預けてしまう。魔法を唱えることはおろか、一歩動くこと、いや立っていることすら困難だ。一秒経つごとにその波は強くなり、もうそれに抗う力は俺には残っていなかった。じゅっと出てしまったのが最後、俺はなすすべなくおもらししてしまった。何しろ身体の構造が違うのだ。止めようにもどう力を入れていいかも分からない。そうしているうちに大量のおしっこがおむつにぐんぐん吸収されていく。 もうおむつからもおしっこが溢れそうかというところでようやく止まってくれた。もはや吸収体に余力はなく、お腹からお尻側までぐっしょりしているが、かろうじておむつの中で留まっている。幻術士がその事に気づいていないのが不幸中の幸いだ。 その間にも、みなみんとベルは見事な連携プレーで魔物を数体倒すも多勢に無勢。何しろこのパーティの戦力はピノの魔法にかかっているのだから。 結局俺達は全員捕らえられ、幻術士の前にひざまずかされた。 「ふふ、他愛もないものよ。魔物は正面から挑んでくる、そういう思い込みがお前達の弱点なのだ」 幻術士の側に控えていた手下の魔物達が俺達の事を蔑んだ目で見ている。そして捕らえた俺達をどうするか話し始めた。 「この冒険者共はどういたしますか?」 「うむ、こいつらにはまだ利用価値がある。一先ず牢屋にでも入れておけ」 ……気がついた時、俺――いや、「俺の心が入ったピノの体」は、どこかで寝かされていた。 「ん……っ、く……な、に、これ……?」 目を開けると、そこはどこかの薄暗い部屋だった。湿った石畳の上に粗末なムシロが敷かれており、後ろには鉄格子。横には仲間の三人もいる。杖や剣などの武器は見当たらない、恐らく幻術士に奪われてしまったのだろう。 「ケン、気がついたのね」 と、目の前のケン……つまりピノの心が入った俺が言った。 「ここは……?」 「お城の中にある牢屋よ。私達四人、仲良く閉じ込められたってワケ。その鉄格子には結界が張ってあるわ。いつもだったら破れるけどケンの身体じゃ無理ね……ケンも試してみて」 ピノに言われた通りの魔法を鉄格子に唱えてみるも、何も起こらない。 「はぁ〜構えも詠唱も全っ然なってないわ!」 ピノの指摘はもっともだが、そうストレートに言われると地味に傷つく。みなみんが 「じゃあどうやって脱出しましょう……?」 と聞くと、ベルが意外な事を言った。 「私の予想だけれど……待っていれば多分出られるわ。それで、作戦があるのだけど……」 彼女が考える作戦とはどのようなものだろうか? 「まず、なぜ幻術士が私達にトドメを刺さなかったのか。恐らく私達の酷い姿を色々な人に見せて恐怖心を持たせること、もしくは何かの実験に使うこと。細かいところは分からないけれど、生きたまま閉じ込めていく必要があるということよ。そしていつかは牢屋から出してまた別の場所に移動することになると思うわ」 「確かに……さっきの状況なら生け捕りにする必要はなかったよね」 「そう、だからここで待っていれば幻術士の手下がドアを開けに来るわ。そこが脱出の唯一のチャンスね。相手もその事は分かっているからもしかしたら幻術士本人が来るかもしれない。もしそうなら……脱出どころか倒すチャンスかもしれない」 「手下も大勢引き連れてくるだろ? そんなチャンスあるようには思えないけど……」 ベルがふふんと笑った。そして小声で続けた。 「幻術士には想定していないことがあるわ。それが、別の世界からケンが持ってきた、それ」 「え?」 「城に入る前ピノが言った通り、強い魔力を一点に集中すれば幻術士を倒せるはずよ。そして魔法使い、特にレベルの高い魔法使いのおしっこは魔物を引き寄せる……つまり魔力が多く宿っているの。それを沢山吸収させたもの、あるじゃない。それを幻術士にぶつけるの」 「つまりそれって……」 俺が言葉に詰まっているとピノが宣言するように言った。 「ケン、あるだけのエーテルを飲んで、全部漏らしなさい」 ****** 幸い、牢屋には俺達の荷物も一緒に投げ込まれていた。中を確認すると、エーテルの瓶は全て無事だし、チートアイテムであるおむつも、幻術士に気づかれた様子は無かった。 「ケンさん、私としてはなんか複雑ですが頑張って飲んでどんどんその……おもらししてくださいね……!」 みなみんが俺を応援してくれる。そして、まさか使いうまいと思っていたオムツァー専用の超大容量テープおむつを上手くベルにあててもらい、俺は一本目のエーテルに手を伸ばした。 今回のクエストのためにベルが大量に作った新しいエーテルの効き目はそれはそれはすごいもので、飲んでしばらくすれば強い尿意に襲われる代物だ。 俺は半ばヤケになってエーテルの瓶を次々に空け、それをそのままおもらしとしておむつに吸収させていき、お知らせサインほ黄色から青に変わっていった。数時間後には持ってきたおむつのすべてが魔力たっぷりのおもらしで満たされた。 全てのぐっしょりおむつは革袋に詰め、すぐに持ち出せるようにしておいた。オムツァーとしては興奮を隠せない状況だが、効果不幸か今の自分に立つべきものはない。 ちょうど全ての作業が終わった時、誰かが近づいてくる足音がした。 「来たわよ、みんな」 ベルの呼びかけに、 「これは……一人ではありませんね」 とみなみんが答える。 ほどなくして現れたのは、ベルが予想した通り幻術士と、その手下達だ。 「今からお前達は私の実験台になってもらう。おっと……変な気は起こすなよ。まぁ、そのエルフの中身がヘナチョコな人間の冒険者では何も出来んだろうがな」 幻術士はそう言うと鉄格子にかかっている結界を解除し、手下に命じて扉を開けさせた。別の手下は俺達が変な動きをしないか目を光らせている。 まずはベルが扉から出て、みなみんが続く。俺は俺は使用済みのおむつが入った革袋を背負い、みなみんの次に扉を出た。扉を出た次の瞬間、幻術士が革袋に気づく。 「待て、お前の背負っているものは何だ。床に置け」 俺の前を歩くベルがみなみんへ「今よ」と小さく囁く。次の瞬間、俺の前からみなみんの姿が消え、幻術士の手下達が床に崩れ落ちる。同時に、俺は背負っていた革袋を渾身の力を込め幻術士へ投げつけた。俺の身体に入ったピノが爆発魔法を放った。杖を使わずに放った炎の玉は、少し不安定ではあるもののしかし、革袋が幻術士の身体にぶつかると同時に着弾し、爆発した。俺の、いやピノの大量おもらしで満たされたおむつはその爆発に呼応するように連鎖的に爆発し、幻術士の身体を焼き尽くした。 「ば、ばかな……どこからそんな魔力を……!!こんなところで……倒される訳には……っ」 そう言い残すと幻術士は灰となり、消え去った。 ****** 城を出た俺たちは、徒歩で途中の村まで行き、そこでエーテルを受け取りながら、街まで一気に空中を移動して戻ってきた。領主の書状を見せれば行く先々で援助を受けられるのはなんとも頼もしい。 見慣れた街の地面に足をついた瞬間、俺達は無言で顔を見合わせ、そして誰ともなく笑った。 「帰ってきたな」 俺が言うと、ピノが小さくうなずいた。 「うん。……ちゃんと、戻ってこられたわね。幻術士の倒し方は……ちょっと言いづらいけど……」 「なんでもいいじゃない、やることはやったのだし」 「そうですよ、色々ありましたが任務はやりとげました!」 その一言に、全員の肩からふっと力が抜けたようだった。 領主の城は、いつもと変わらず丘の上に佇んでいた。 「おお、戻ったか!本当に戻ってきたとは!」 待っていたのは、今回の依頼を出した領主だった。彼は、俺達の姿を見るなり、広間に響くような声で出迎えた。 「幻術士が倒れたというのは、間違いないのだな?」 「はい。直接この目で確認しました。城にかけられていた幻術も、今はすっかり消えています」 ベルの報告に、領主は深くうなずいた。 「よくぞやってくれた。これまで何組もの冒険者が向かい、戻らなかったのだ。君たちに託して本当に正解だったよ」 その場に控えていた執事が、いくつかの箱を運んできた。蓋を開けると、中には金貨と、装飾の施された魔道具の数々。 「これは報酬の一部だ。お主たちには、街で最も信頼される冒険者として、これからも期待している」 「ありがとうございます!」 礼を言いながらも、俺たちの目はお宝よりも、その先の可能性に向いていた。 その夜、自宅の広間で、俺たちはささやかな打ち上げをした。 いつものようにベルが料理を振る舞い、みなみんは自分の分のケーキをちびちびと味わっていた。 「ケン、今回の冒険……すごかったですね!」 「うん。まさか、あんな魔法で身体を入れ替えられるとは思わなかったけどな……。それにあの最後のベルの作戦。あんなに上手くいくとは思わなかった」 「それ、私もよ……。ケンの体、なんか、動かしづらかったし。あと自分が漏らしてる姿を自分で見るのは……まあよく言うと新鮮な体験だったわ」 ピノがくすっと笑った。 「でも……みんな無事で、本当によかった」 「次はどこに行くんですか?私はもっと強い敵と戦ってみたいです!」 そう言ってはしゃぐみなみんに、ベルが微笑みながら紅茶を差し出した。 「明日の朝になったら、ギルドに新しい依頼が出るかもね。今夜はゆっくり休みましょ。それよりみなみん、あんまり紅茶を飲むと明日の朝大変なことになるわよ?」 「それは言ってはいけないことですよ?!」 窓の外では、星が静かにまたたき、夜が優しく流れていった。 ***** その夜、深い眠りに落ちた俺は、気がつくとどこまでも続く白い空間に立っていた。ふわふわと空中を浮いている不思議な感覚だ。いつもはそうと気づかないのに、今日はこれが夢の中であると認識できる。 「ケン……聞こえますか……?」 誰かに話しかけられている。これは……前にもこんなことがあった気がする。 空も地面も曖昧なまま、柔らかな光だけが漂っている。重力の感覚もない。まるで浮かんでいるような不思議な感覚。 「……ケン」 静かな声が響く。 「私は、全知全能の神。この世界とあなたのいた世界を見守る存在。あなたの選択によって、新たな道が拓かれるのです」 「選択……?」 静かに、そしてはっきりとした言葉がケンの心に届く。 「あなたはこの世界で新たな居場所を見つけました。ここに残り、仲間たちと共に生きるか。元の世界に戻り、元の人生を歩むか。それとも、これまでと同じくどちらの世界も行き来できるようになることを望むか、どれを望みますか?」 少しの沈黙の後、俺は答えた。 「俺は……どっちも、選びたいです。この世界も、元の世界も、どちらも大切なんだ。できるなら、これからも行き来できるようにしてほしい。戻れないと、冒険に使えるアレ、買えないですし」 女神はその答えを受け、目を細めて微笑んだ。そう感じられた。 「……それが、あなたの選択ですね。ならば、その願い、聞き届けましょう。呪文も、そのまま使えるようにしておきますね」 まぶしい光に包まれたかと思うと、次の瞬間、俺は布団の中で目を覚ました。 見慣れた天井。静かな空気。窓から差し込む朝日。そこは、間違いなく――日本の、自分の部屋だった。 「……帰ってきた?」 起き上がり、机の上のスマホを手に取る。表示された日付は、最後に異世界に行った時から変わっていなかった。 不思議な夢だったが、どうやらこれからもあの世界に行くことはできるらしい。あそこにはまだ探索していない場所がたくさんある。例えばそうだ、俺がこの世界に来るときに出てきた封印の洞窟と呼ばれていた場所、あの奥はどうなっているのだろう。最初に想像したドラゴンとの対決は?俺にはあの世界で出来ていないことがまだまだ沢山ある。 よし、そうとなればまずは冒険の準備だ。 「……まずは行くか、ドラッグストア…!」 新しい朝の光が、部屋を照らしていた。 (おしまい)